(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166845
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】金属調加飾フィルム、金属調加飾シート、金属調製品、金属調加飾フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20231115BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B32B15/08 H
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077668
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 千裕
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD02
3E086AD09
3E086BA13
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA25
3E086BA33
3E086BB21
3E086BB35
3E086BB61
3E086CA11
3E086CA40
3E086DA02
3E086DA08
4F100AB01C
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK25D
4F100AT00A
4F100AT00E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CB00D
4F100CB05D
4F100EH46B
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4F100EJ373
4F100EJ54B
4F100EJ65B
4F100GB16
4F100GB31
4F100GB48
4F100JB14B
4F100JL01
4F100JN21
4F100JN24
4F100JN24C
(57)【要約】
【課題】三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい、金属調加飾フィルム、金属調加飾シート、金属調製品、金属調加飾フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、アンカー層と、インジウム蒸着層と、接着層と、をこの順に有し、アンカー層は、紫外線硬化性樹脂を含み、一軸方向の延伸倍率が200%のときの延伸前後の光沢度変化率は、-53%以上である、金属調加飾フィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、アンカー層と、インジウム蒸着層と、接着層と、をこの順に有し、
前記アンカー層は、紫外線硬化性樹脂を含み、
一軸方向の延伸倍率が200%のときの延伸前後の光沢度変化率は、-53%以上である、金属調加飾フィルム。
【請求項2】
前記延伸倍率をxとし、60°における光沢度Gs60°の延伸前後の前記光沢度変化率をyとしたとき、以下の式(1)を満たす、請求項1記載の金属調加飾フィルム。
y≧0.0026x2-1.3069x+104.72 式(1)
【請求項3】
請求項1または2記載の金属調加飾フィルムの前記接着層上に、バッキングシートを有する、金属調加飾シート。
【請求項4】
請求項1または2記載の金属調加飾フィルムを用いた、金属調製品。
【請求項5】
前記金属調製品は、容器、筐体、金属調看板または車両用内外装部材である、請求項4記載の金属調製品。
【請求項6】
基材を準備する準備工程と、
前記基材上に紫外線硬化性樹脂を含むアンカー層を形成するアンカー層形成工程と、
前記アンカー層に紫外線を照射して、前記アンカー層を硬化させる紫外線硬化工程と、
前記アンカー層上にインジウムを含むインジウム蒸着層を真空蒸着法により形成する、インジウム蒸着層形成工程と、
前記インジウム蒸着層上に接着層を形成する接着層形成工程と、を有し、
前記紫外線硬化工程における、紫外線照射量積算値は、200mJ/cm2以上である、金属調加飾フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属調加飾フィルム、金属調加飾シート、金属調製品、金属調加飾フィルムの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい、金属調加飾フィルム、金属調加飾シート、金属調製品、金属調加飾フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属調を有する加飾シートが開発されている(特許文献1)。特許文献1には、基材層とプライマー層と金属薄膜層とがこの順に積層され、プライマー層が所定のガラス転移点を有する熱可塑性樹脂の硬化物を含む加飾シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の加飾シートは、成形体の表面に積層する際に三次元成形されると、金属光沢が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい、金属調加飾フィルム、金属調加飾シート、金属調製品、金属調加飾フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、基材とアンカー層とインジウム蒸着層と接着層とをこの順に有する金属調加飾フィルムにおいて、アンカー層に紫外線硬化性樹脂を配合することにより、延伸前後の光沢度変化率が所定値以上である場合に、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の金属調加飾フィルム、金属調加飾シート、金属調製品、金属調加飾フィルムの製造方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)基材と、アンカー層と、インジウム蒸着層と、接着層と、をこの順に有し、前記アンカー層は、紫外線硬化性樹脂を含み、一軸方向の延伸倍率が200%のときの延伸前後の光沢度変化率は、-53%以上である、金属調加飾フィルム。
【0008】
このような構成によれば、金属調加飾フィルムは、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい。
【0009】
(2)前記延伸倍率をxとし、60°における光沢度Gs60°の延伸前後の前記光沢度変化率をyとしたとき、以下の式(1)を満たす、(1)記載の金属調加飾フィルム。
y≧0.0026x2-1.3069x+104.72 式(1)
【0010】
このような構成によれば、金属調加飾フィルムは、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢がより低下しにくい。
【0011】
(3)(1)または(2)記載の金属調加飾フィルムの前記接着層上に、バッキングシートを有する、金属調加飾シート。
【0012】
このような構成によれば、金属調加飾シートは、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい。
【0013】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の金属調加飾フィルムを用いた、金属調製品。
【0014】
このような構成によれば、金属調製品は、元々の金属調加飾フィルムが有していた金属光沢から、さほど低下することなく維持されており、優れた金属光沢を有する。
【0015】
(5)前記金属調製品は、容器、筐体、金属調看板または車両用内外装部材である、(4)記載の金属調製品。
【0016】
このような構成によれば、金属調製品は、元々の金属調加飾フィルムが有していた金属光沢から、さほど低下することなく維持されており、容器、筐体、金属調看板または車両用内外装部材の分野において、優れた金属光沢を有する。
【0017】
(6)基材を準備する準備工程と、前記基材上に紫外線硬化性樹脂を含むアンカー層を形成するアンカー層形成工程と、前記アンカー層に紫外線を照射して、前記アンカー層を硬化させる紫外線硬化工程と、前記アンカー層上にインジウムを含むインジウム蒸着層を真空蒸着法により形成する、インジウム蒸着層形成工程と、前記インジウム蒸着層上に接着層を形成する接着層形成工程と、を有し、前記紫外線硬化工程における、紫外線照射量積算値は、200mJ/cm2以上である、金属調加飾フィルムの製造方法。
【0018】
このような構成によれば、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい金属調加飾フィルムが製造され得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい、金属調加飾フィルム、金属調加飾シート、金属調製品、金属調加飾フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の金属調加飾フィルム(後述する実施例4)の延伸後の状態を示すSEM写真(20,000倍)である。
【
図2】
図2は、従来の金属調加飾フィルム(後述する比較例1)の延伸後の状態を示すSEM写真(20,000倍)である。
【
図3】
図3は、実施例および比較例の金属調加飾フィルムの光沢度Gs60°の延伸前後の変化率と、延伸倍率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<金属調加飾フィルム>
本発明の一実施形態の金属調加飾フィルムは、基材と、アンカー層と、インジウム蒸着層と、接着層と、をこの順に有する。アンカー層は、紫外線硬化性樹脂を含む。一軸方向の延伸倍率が200%のときの延伸前後の光沢度変化率は、-53%以上である。以下、それぞれについて説明する。
【0022】
(基材)
基材は特に限定されない。一例を挙げると、基材は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等からなる。
【0023】
基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、基材の厚みは、1.0~200μmであることが好ましい。基材の厚みが上記範囲内であることにより、金属調加飾フィルムは、加工時のハンドリング性、屈曲性等が優れる。
【0024】
基材は、所望の表面加工が施されたものが使用されてもよい。表面加工は特に限定されない。一例を挙げると、表面加工は、マット加工、サテン加工、エンボス加工、ヘアライン加工等である。また、基材の表面(アンカー層が形成される面とは反対の面)に、各種コーティング(フッ素加工、ハードコート加工等)、転写等の表面加工が施されてもよい。これにより、基材の表面には、各種意匠性や機能性が付与され得る。
【0025】
(アンカー層)
アンカー層は、基材とインジウム蒸着層との密着性を向上させ、かつ、アンカー層によって基材表面の凹凸を穴埋めすることでインジウム蒸着層面も平滑となり、外観をより良好にさせるために設けられる。
【0026】
アンカー層は、紫外線硬化性樹脂を含む。紫外線硬化性樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、紫外線硬化性樹脂は、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、熱硬化型アクリル樹脂等の紫外線硬化型モノマーまたはこれらのプレポリマーと、光ラジカル重合開始剤とからなる紫外線ラジカル硬化型の樹脂組成物や、樹脂成分として紫外線硬化型エポキシ樹脂と、光重合開始剤としてカチオン性紫外線重合開始剤と、必要によりカチオン重合性ビニル単量体、希釈剤、他のエポキシ樹脂、増感剤、架橋剤等を含むカチオン硬化型の樹脂組成物である。
【0027】
アンカー層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、アンカー層の厚みは、0.1~3μmが好ましい。アンカー層の厚みが上記範囲内であることにより、金属調加飾フィルムは、基材とインジウム蒸着層との密着性が優れる。
【0028】
アンカー層は、着色剤や金属顔料が付与されることにより、意匠性が付与されてもよい。たとえば、着色剤としてイエロー顔料が配合されることにより、金属調加飾フィルムは、金色の外観を表現し得る。着色剤の種類や含有量は、所望する金属調の外観に応じて適宜調整され得る。また、アンカー層は、帯電防止剤等が配合されることにより、帯電防止効果などの機能性が付与されてもよい。
【0029】
(インジウム蒸着層)
インジウム蒸着層は、インジウムを含む。インジウムは、酸化物、窒化物として含まれてもよい。インジウム蒸着層がインジウムを含むことにより、得られる金属調加飾フィルムは、成形加工時に白化等の外観不良を生じにくく、成形加工性が優れる。その結果、金属調加飾フィルムは、種々の三次元形状に加工されやすい。
【0030】
また、インジウム蒸着層は、インジウムの他、各種非金属、金属、金属酸化物および金属窒化物を含んでもよい。非金属、金属等は特に限定されない。一例を挙げると、非金属は、アモルファスカーボン(DLC)およびその複合体、金属等は、金、銀、白金、スズ、クロム、ケイ素、チタン、亜鉛、アルミニウムおよびマグネシウム等の金属、その酸化物、その窒化物である。
【0031】
インジウム蒸着層におけるインジウムの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、インジウムの含有量は、インジウム蒸着層中、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。インジウムの含有量は、100質量%であってもよい。インジウム蒸着層は、本実施形態の効果を奏する限り、目的に応じて適宜、インジウム以外のその他の成分を含んでもよい。また、インジウム蒸着層を形成する際に不可避的に含まれる不純物を含んでもよい。
【0032】
インジウム蒸着層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、インジウム蒸着層の厚みは、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。また、インジウム蒸着層の厚みは、80nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。インジウム蒸着層の厚みが上記範囲内であることにより、インジウム蒸着層は、金属光沢と成形性とを両立させやすい。なお、本実施形態において、インジウム蒸着層の厚みは、島構造であるインジウム蒸着層の断面積(略扇形断面の面積)と、同横幅で、かつ、同面積となる長方形を想定した場合の高さと考えてもよい。なお、本実施形態のインジウム蒸着層の厚みは、蛍光X線分析法(XRF)を用いて、定量分析により求めた値である。
【0033】
本実施形態のインジウム蒸着層は、海島構造(いわゆる不連続構造)を有する。これにより、インジウム蒸着層は、たとえば、アルミニウム蒸着層等の他の一般的な金属蒸着層と比較して、成形加工等により、三次元的に延伸されても優れた金属光沢を得ることができる。海島構造において、島の部分はインジウムが存在する領域であり、海の部分はインジウムが存在しない領域である。
【0034】
また、インジウム蒸着層の厚みは、その断面において、上記海島構造による凹凸プロファイルにおける平均厚みと考えてもよい。
【0035】
(接着層)
接着層は、被着体に、金属調加飾フィルムを貼り合わせるために設けられる。
【0036】
接着層は特に限定されない。一例を挙げると、接着層は、各種接着剤、粘着剤、感圧粘着剤(PSA:Pressure Sensitive Adhesive)等からなる。接着剤は特に限定されない。一例を挙げると、接着剤は、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、ウレタン変性ポリエステル樹脂系、ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)系、ビニル樹脂系(塩ビ、酢ビ、塩ビ-酢ビ共重合樹脂)、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体樹脂系、ポリビニルアルコール樹脂系、ポリアクリルアミド樹脂系、ポリアクリルアミド樹脂系、イソブチレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、SBR、NBR、シリコーンゴム等の樹脂からなる。これらの樹脂は、適宜、溶剤に溶解されて使用されてもよく、無溶剤で使用されてもよい。
【0037】
接着層は、着色剤を含んでいてもよい。一般にインジウム蒸着層の厚みが比較的薄い場合(インジウム蒸着層の厚みが10nm以上35nm以下程度の場合)、インジウム蒸着層を設けた金属調加飾フィルムは、裏面から、光源の光を透過させると、茶褐色の透過光となり、色目が劣りやすい。一方、接着層に着色剤を配合することにより、光源からの光の透過光の色味が調整され得る。その結果、金属調加飾フィルムは、所望の色味(たとえば青色系の色味など)の透過光を透過できるよう調整され得る。
【0038】
着色剤は特に限定されない。着色剤は、所望する透過光の色味を考慮して、適宜選択されればよい。一例を挙げると、着色剤は、青みがかった色味が所望される場合には、ブルー顔料またはマゼンタ顔料のうち、少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。これにより、着色剤によって、光源からの光の透過光は、青色系の色味に調整され得る。
【0039】
ブルー顔料およびマゼンタ顔料の種類は特に限定されない。ブルー顔料およびマゼンタ顔料の種類は、所望する透過光の色味に応じて適宜選択されればよい。
【0040】
ブルー顔料およびマゼンタ顔料の含有量は特に限定されない。ブルー顔料およびマゼンタ顔料の含有量は、所望する透過光の色味に応じて適宜選択されればよい。一例を挙げると、ブルー顔料およびマゼンタ顔料の含有量は、接着層を構成する樹脂溶液中、0質量%を超え、8質量%以下であることが好ましい。これにより、透過光の色味は、適度に青色系の色味が付与され得る。
【0041】
接着層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、接着層は、ロールコーター等を用いて、適宜溶剤に溶解した接着層を構成する樹脂溶液を、後述するセパレータに塗布し、その後、接着層の形成されたセパレータを、インジウム蒸着層に貼り合わせてもよく、インジウム蒸着層上に直接、上記樹脂溶液を塗布して接着層を形成してもよい。また、接着層は、セパレータに接着層が設けられた既製品が使用されてもよい。接着層の形成方法は、使用する接着剤や粘着剤の特性に応じて適宜選択され得る。
【0042】
接着層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、接着層の厚みは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、接着層の厚みは、60μm以下であることが好ましく、55μm以下であることがより好ましい。接着層の厚みが上記範囲内であることにより、得られる金属調加飾フィルムは、接着時の外観および接着性がさらに優れる。
【0043】
接着層は、上記着色剤のほか、金属顔料が付与されることにより、意匠性が付与されてもよい。また、接着層は、帯電防止剤等が配合されることにより、帯電防止効果などの機能性が付与されてもよい。これにより、接着層は、貼り合わせ適性が向上し得る。
【0044】
金属調加飾フィルム全体の説明に戻り、本実施形態の金属調加飾フィルムは、一軸方向の延伸倍率が200%のときの延伸前後の光沢度変化率が-53%以上である。光沢度変化率は、-53%以上であればよい。光沢度が-53%未満である場合、金属調加飾フィルムは、三次元成形時に延伸された場合、金属光沢が低下しやすい。なお、光沢度変化率の算出根拠は、実施例において後述する。
【0045】
なお、本実施形態において、延伸倍率(%)および光沢度変化率は、以下の通り定義される。
延伸倍率(%)={(延伸後の長さ)/(延伸前の長さ:5mm)}×100
光沢度変化率(%)=[{(Gs60°(延伸後)-Gs60°(延伸前)}/Gs60°(延伸前)]×100
【0046】
また、本実施形態の金属調加飾フィルムは、上記のとおり測定される延伸倍率をxとし、60°における光沢度Gs60°の延伸前後の光沢度変化率をyとしたとき、以下の式(1)を満たすことが好ましい。なお、式(1)の算出方法は、実施例において後述する。
y≧0.0026x2-1.3069x+104.72 式(1)
【0047】
金属調加飾フィルムは、上記式(1)を満たすことにより、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢がより低下しにくい。
【0048】
図1は、本実施形態の金属調加飾フィルム(後述する実施例4)の延伸後の状態を示すSEM写真(20,000倍)である。
図2は、従来の金属調加飾フィルム(後述する比較例1)の延伸後の状態を示すSEM写真(20,000倍)である。
図2において、○で囲った部分は、インジウム粒子がめくれあがっている箇所を示す。
【0049】
図1に示されるように、本実施形態の金属調加飾フィルムは、延伸によって均等に伸びており、インジウム蒸着層がめくれあがっていない。これは、本実施形態の金属調加飾フィルムでは、アンカー層が紫外線硬化性樹脂を有していることにより、架橋密度が高くなり、成形時に均一に延伸され、金属光沢が低下することを抑制する効果が発現したと考えられる。一方、
図2に示されるように、従来の金属調加飾フィルム(アンカー層に熱硬化型樹脂を配合)の場合、紫外線硬化性樹脂よりも架橋密度が低くなり、延伸が不均一となり、延伸時にアンカー層が歪むことにより、インジウム蒸着層のインジウム粒子がゆらいだため、反射光が乱反射し、金属光沢が失われたと考えられる。
【0050】
以上、本実施形態の金属調加飾フィルムは、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい。
【0051】
<金属調加飾フィルムおよび金属調製品の製造方法>
本発明の一実施形態の金属調加飾フィルムの製造方法は、基材を準備する準備工程と、基材上に紫外線硬化性樹脂を含むアンカー層を形成するアンカー層形成工程と、アンカー層に紫外線を照射して、アンカー層を硬化させる紫外線硬化工程と、アンカー層上にインジウムを含むインジウム蒸着層を真空蒸着法により形成する、インジウム蒸着層形成工程と、インジウム蒸着層上に接着層を形成する接着層形成工程とを有する。紫外線硬化工程における、紫外線照射量積算値は、200mJ/cm2以上である。以下、それぞれについて説明する。
【0052】
(準備工程およびアンカー層形成工程)
まず、準備された基材に対して、アンカー層が形成される。アンカー層の形成方法は特に限定されない。一例を挙げると、アンカー層は、ロールコーター等を用いて、適宜溶剤に溶解したアンカー層を構成する紫外線硬化性樹脂を含む樹脂溶液を、基材上に塗布することにより形成し得る。
【0053】
(紫外線硬化工程)
紫外線硬化工程は、アンカー層に紫外線を照射して、アンカー層を硬化させる工程である。紫外線硬化工程における、紫外線照射量積算値は、200mJ/cm2以上であればよく、400mJ/cm2以上であることが好ましい。紫外線を照射する方法は特に限定されない。一例を挙げると、紫外線は、紫外線照射装置(ECS-4011GX(高圧水銀ランプを使用)、アイグラフィックス(株)製)を用いて照射し得る。
【0054】
(インジウム蒸着層形成工程)
インジウム蒸着層形成工程は、アンカー層上にインジウムを含むインジウム蒸着層を真空蒸着法により形成する工程である。蒸着条件は、所望するインジウム蒸着層の厚みに基づいて、従来公知の条件が適宜採用され得る。なお、金属材料(蒸着源としてのターゲット材料)は、不純物が少なく、純度が99質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以上であることがより好ましく、99.9質量%以上であることがさらに好ましい。また、金属材料は、粒状、ロッド状、タブレット状、ワイヤー状あるいは使用するルツボ形状に加工したものであることが好ましい。金属材料を蒸発させるための加熱方法は、ルツボ中に金属材料を入れて抵抗加熱あるいは高周波加熱を行う方式や、電子ビーム加熱を行う方法、窒化硼素などのセラミック製のボードに金属材料を入れ直接抵抗加熱を行う方法など、周知の方法を用いることができる。真空蒸着に用いるルツボは、カーボン製であることが望ましく、アルミナやマグネシア、チタニア、ベリリア製のルツボであってもよい。
【0055】
(接着層形成工程)
接着層形成工程は、インジウム蒸着層上に接着層を形成する工程である。接着層は、本実施形態の金属調加飾フィルムを、被着体に適用して成形品(金属調製品)を作製するために設けられる。
【0056】
接着層を形成する方法は特に限定されない。上記のとおり、接着層は、接着層を構成する樹脂溶液をセパレータに塗布し、接着層の形成されたセパレータをインジウム蒸着層に貼り合わせてもよく、インジウム蒸着層に接着層を形成してもよい。また、接着層は、セパレータに接着層が設けられた既製品が使用されてもよい。
【0057】
接着層の設けられた金属調加飾フィルムは、バッキングシートが設けられることにより、金属調加飾シートが作製されてもよい。このような金属調加飾シートは、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくい。
【0058】
バッキングシートは、金属調製品を製造する際に、フィルムインサート工法が採用される場合に、好適に設けられる。バッキングシートは特に限定されない。一例を挙げると、バッキングシートは、熱成形が可能な重合体シートであればよく、ABSシート、ポリアクリル系シート、ポリプロピレンシート、ポリエチレンシート、ポリカーボネート系シート、A-PETシート、PET-Gシート、塩化ビニル系シート、ポリアミド系シート等であることが好ましい。
【0059】
バッキングシートの厚みは特に限定されない。一例を挙げると、バッキングシートの厚みは、圧縮成形等における成形性の観点から0.05~5mmであることが好ましく、0.3~3mmであることがより好ましい。
【0060】
バッキングシートは、所望の表面加工が施されたものが使用されてもよい。表面加工は特に限定されない。一例を挙げると、表面加工は、マット加工、サテン加工、エンボス加工、ヘアライン加工、各種パターン柄等である。
【0061】
得られた金属調加飾フィルムは、セパレータが設けられる。上記のとおり、金属調加飾フィルムは、あらかじめ接着層が設けられたセパレータが用いられてもよく、セパレータに接着層を形成し、その接着層がインジウム蒸着層と接するように貼り合わせられてもよい。
【0062】
セパレータは特に限定されない。一例を挙げると、セパレータは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等である。
【0063】
セパレータが剥離されると、接着層が露出する。露出された接着層は、成形加工前の被着体に対して貼り付けられる。
【0064】
その後、本実施形態の金属調加飾フィルムが貼り付けられた被着体は、適宜三次元形状に加工され、成形品(金属調製品)が作製される。金属調製品の成形方法は特に限定されない。一例を挙げると、成形方法は、真空成形、TOM(Three dimension Overlay Method)成形等によって成形される。TOM成形では、金属調加飾フィルムは、あらかじめ準備された被着体に付与され、熱により軟化されることにより、被着体に追随するよう一体成形される。一方、真空成形では、金属調加飾フィルムは、ヒーターによって加熱され、軟化される。次いで、加熱された金属調加飾フィルムは、所望の3次元形状の金型に対して、真空吸引しながら押し付けられ、三次元成形品の形状に追随するよう変形される。
【0065】
得られる金属調製品は、元々の金属調加飾フィルムが有していた金属光沢から、さほど低下することなく維持されており、優れた金属光沢を有する。
【0066】
特に、本実施形態の金属調製品は、種々の容器に適用されることにより、たとえば化粧品の容器、飲料の容器等の、グロス感や高級感のある外観が所望される容器において、優れた金属光沢を有する種々の容器が得られる。
【0067】
また、本実施形態の金属調製品は、種々の筐体に適用されることにより、たとえば携帯電話等の通信機器、家電製品の筐体等の、グロス感や高級感のある外観が所望される筐体において、優れた金属光沢を有する種々の筐体が得られる。
【0068】
また、本実施形態の金属調製品は、種々の金属調看板に適用されることにより、たとえばグロス感や高級感のある外観が所望される種々の金属調看板において、優れた金属光沢を有する種々の金属調看板が得られる。
【0069】
さらに、本実施形態の金属調製品は、種々の車両用内外装部材に適用されることにより、グロス感や高級感のある外観が所望される種々の車両用内外装部材において、優れた金属光沢を有する種々の車両用内外装部材が得られる。
【0070】
他にも、本実施形態の金属調製品は、たとえば顧客や物品等の識別情報等を記憶させた会員証、商品タグ、診察券、学生証、キャッシュカード、クレジットカード、乗車券、マイレージカード、ポイントカード、磁気カード等のセキュリティや非模倣性が要求される物品の一部分または全体に好適に使用される。
【実施例0071】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0072】
<実施例1>
PMMAからなる基材(厚み50μm)を準備した。基材に対して、バーコーターを用いて、乾燥後1.4μmとなるように、紫外線硬化性樹脂を含む樹脂溶液を塗工し、UV照射装置(アイグラフィックス(株)製、4kWアイグランテージ(ECS-4011GX))により、紫外線照射量積算値が200mJ/cm2となるように紫外線を照射し、アンカー層を硬化させた。次いで、アンカー層に対して、真空蒸着法により、インジウムによるインジウム蒸着層の厚みが40nmとなるようにインジウム蒸着層を形成した。これとは別に、粘着層(アクリル系粘着剤、厚さ25μm)付きセパレータ(PETフィルム)を準備した。インジウム蒸着層と粘着層(接着層)とが接するように貼り合わせ、粘着層(接着層)をインジウム蒸着層に転写させた後、セパレータを剥離し、実施例1の金属調加飾フィルムを作製した。
【0073】
得られた金属調加飾フィルムを、4×10cmにカットし、試験片とした。試験片の下部に重り(300g)を付け、乾燥機(アズワン(株)製、OFW-450B)内(140℃)で試験片を、一軸方向に加熱延伸した(延伸倍率は表1を参照)。バッキングシート(黒色ABS)上に静置した試験片の延伸前後の光沢度(光沢度計(アピアランスアナライザー)、コニカミノルタ(株)製、Rhopoint IQ-S)にて数値化し、比較した。また、目視での外観評価を標準光源ブース(X-Rite社製、Judge QC D65光源)内にて実施した。
【0074】
<実施例2~5、比較例1~2>
表1に記載の材料、紫外線照射の条件、延伸倍率に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、金属調加飾フィルムを作製した。なお、比較例1において、アンカー層を形成する際の乾燥は、定温乾燥機(アズワン(株)製、OFW-450B)を使用し、90℃で30秒間乾燥した。
【0075】
<目視評価>
延伸前後の金属光沢性について、以下の評価基準にしたがって目視評価した。評価点が4以上であれば、使用可能であると判断し得る。
(評価基準)
6:良好な金属光沢が維持されていた。
5:やや白化したが、金属光沢が維持されていた。
4:白化したが、金属光沢が維持されていた。
3:白化し、金属光沢が低下した。
2:白化し、金属光沢が大幅に低下した。
1:白化し、金属光沢が大幅に低下し、クラックが発生した。
【0076】
<光沢度変化率>
それぞれの実施例、比較例において作製した金属調加飾フィルムの光沢度(20°、60°、85°)を測定した。なお、それぞれの光沢度は、以下の式にしたがって算出した。結果を表1に示す。
・光沢度(20°)
光沢度変化率(%)=[{(Gs20°(延伸後)-Gs20°(延伸前)}/Gs20°(延伸前)]×100=[ΔGs20°/Gs20°(延伸前)]×100
・光沢度(60°)
光沢度変化率(%)=[{(Gs60°(延伸後)-Gs60°(延伸前)}/Gs60°(延伸前)]×100=[ΔGs60°/Gs60°(延伸前)]×100
・光沢度(85°)
光沢度変化率(%)=[{(Gs85°(延伸後)-Gs85°(延伸前)}/Gs85°(延伸前)]×100=[ΔGs85°/Gs85°(延伸前)]×100
【0077】
【0078】
図3は、実施例および比較例の金属調加飾フィルムの光沢度Gs60°の延伸前後の変化率と、延伸倍率との関係を示すグラフである。
図3に示される実施例4の金属調加飾フィルムのデータから、近似曲線を算出したところ、以下の式に示す近似曲線が得られた。なお、以下の式において、xは延伸倍率、yは60°における光沢度Gs60°の延伸前後の光沢度変化率を表す。
y=0.0026x
2-1.3069x+104.72
【0079】
図3に示される近似曲線から導き出される、延伸倍率が200%である場合の光沢度変化率は、-52.66%であった。したがって、本発明は、延伸倍率が200%のときの延伸前後の光沢度変化率が-53%以上である場合に、延伸された場合であっても、金属光沢が低下しにくいことがわかった。
【0080】
また、上記式および表1、
図3によれば、yの値(光沢度Gs60°の延伸前後の光沢度変化率)が近似式の右辺以上である場合(すなわち下記不等式(1)を満たす場合)、金属調加飾フィルムは、三次元成形時に延伸された場合であっても、金属光沢がより低下しにくいことが分かった。
y≧0.0026x
2-1.3069x+104.72 式(1)