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特開2023-166857骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具
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  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図1
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図2
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図3
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  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図5
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  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図7
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  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図9
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図10
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図11
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図12
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図13
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図14
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図15
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図16
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図17
  • 特開-骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具 図18
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166857
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/86 20060101AFI20231115BHJP
   A61B 17/80 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
A61B17/86
A61B17/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077682
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】592118103
【氏名又は名称】メイラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003111
【氏名又は名称】あいそう弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宇野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕康
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL24
4C160LL26
4C160LL27
4C160LL28
4C160LL35
4C160LL44
4C160LL56
4C160LL57
(57)【要約】
【課題】頭部が骨用プレートの下方に突出した際の骨との干渉を軽減できる骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具を提供する。
【解決手段】内面にねじ溝を有する雌ねじ部53を備えた貫通孔52を有する骨用プレート50に対して複数の角度で、貫通孔52の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじ10であって、骨用ねじ10は、軸部11と、外面に骨用プレート50の雌ねじ部53と螺合可能かつ螺合による固定角度と異なる角度にてかみ込みによる固定が可能なねじ山を有する雄ねじ部12を備える頭部13とを備え、頭部13(テーパ部14)に複数の凹部15(起立面16およびエッジ部17を含む)が形成されており、頭部13の先端側部分において、エッジ部17と、起立面16と、逃がし部18とにより形成された骨を切削するための切り刃部19、または骨を切削可能なエッジ部17を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートに対して複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじであって、
前記骨用ねじは、前記骨用プレートの前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に前記骨用プレートの前記貫通孔の雌ねじ部と螺合可能かつ前記螺合による固定角度と異なる角度にてかみ込みによる固定が可能なねじ山を有する雄ねじ部を備える頭部とを備え、
前記頭部の略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部となっており、前記テーパ部に前記雄ねじ部および複数の凹部が形成されており、
前記頭部は、前記凹部の内面であって前記雄ねじ部の回転方向後方側に形成される起立面と、前記起立面の外縁部に位置するエッジ部とを備え、
前記骨用ねじの軸方向において、前記凹部および前記エッジ部の基端は前記雄ねじ部の基端と先端との間に位置し、かつ前記凹部および前記エッジ部の先端は前記雄ねじ部の先端よりも先端側に位置し、
さらに、前記頭部は、先端側部分であって前記エッジ部の前記回転方向後方側に形成された逃がし部を備え、前記頭部は、前記エッジ部の少なくとも先端側部分の一部において、前記エッジ部と、前記起立面と、前記逃がし部とにより形成された骨を切削するための切り刃部を備えることを特徴とする骨用ねじ。
【請求項2】
前記逃がし部は、前記エッジ部の回転方向後方側に形成された前記骨用ねじの軸方向に延びる溝部である請求項1に記載の骨用ねじ。
【請求項3】
前記骨用ねじの軸方向において、前記雄ねじ部の先端が、前記切り刃部の基端と先端との間に位置している請求項1に記載の骨用ねじ。
【請求項4】
前記テーパ部は、前記テーパ部の基端側部分に形成された第1テーパ部と、前記第1テーパ部の先端から延び、前記第1テーパ部よりもテーパ角度が大きい第2テーパ部とを備え、
前記雄ねじ部は、基端が前記第1テーパ部の基端側部分に位置し、先端が前記第2テーパ部まで延びており、
前記切り刃部は、基端が前記第2テーパ部に位置し、先端が前記雄ねじ部の先端よりも先端側に位置している請求項1に記載の骨用ねじ。
【請求項5】
内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートに対して複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじであって、
前記骨用ねじは、前記骨用プレートの前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に前記骨用プレートの前記貫通孔の雌ねじ部と螺合可能かつ前記螺合による固定角度と異なる角度にてかみ込みによる固定が可能なねじ山を有する雄ねじ部を備える頭部とを備え、
前記頭部の略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部となっており、前記テーパ部に前記雄ねじ部および複数の凹部が形成されており、
前記頭部は、前記凹部の内面であって前記雄ねじ部の回転方向後方側に形成される起立面と、前記起立面の外縁部に位置するエッジ部とを備え、
前記骨用ねじの軸方向において、前記凹部および前記エッジ部の基端は前記雄ねじ部の基端と先端との間に位置し、かつ前記凹部および前記エッジ部の先端は前記雄ねじ部の先端よりも先端側に位置し、
さらに、前記テーパ部は、前記テーパ部の基端側部分に形成された第1テーパ部と、前記第1テーパ部の先端から延び、前記第1テーパ部よりもテーパ角度が大きい第2テーパ部とを備え、
前記雄ねじ部は、基端が前記第1テーパ部の基端側部分に位置し、先端が前記第2テーパ部まで延びており、
前記骨用ねじの軸方向において、前記雄ねじ部の先端が、前記エッジ部の基端と先端との間に位置し、前記エッジ部の少なくとも先端側部分において骨を切削可能となっていることを特徴とする骨用ねじ。
【請求項6】
前記凹部の基端から先端までの軸方向長さは、前記頭部の基端から前記凹部の先端までの軸方向長さの1/3以下である請求項1ないし5のいずれかに記載の骨用ねじ。
【請求項7】
前記骨用ねじを先端側から見た場合の前記エッジ部の先端と基端を結ぶ仮想線は、前記仮想線と平行かつ前記骨用ねじの中心軸を通る仮想線に対して、前記雄ねじ部の回転方向後方側に位置している請求項1ないし5のいずれかに記載の骨用ねじ。
【請求項8】
前記骨用ねじを先端側から見た場合の前記エッジ部の先端と基端を結ぶ仮想線は、前記骨用ねじの中心軸を通るものである請求項1ないし5のいずれかに記載の骨用ねじ。
【請求項9】
前記凹部の前記起立面は、前記凹部の底面に対して垂直または前記回転方向に前傾もしくは後傾している請求項1ないし5に記載の骨用ねじ。
【請求項10】
前記頭部の前記雄ねじ部は、複数条のねじ山を有し、前記頭部の前記雄ねじ部のねじ山の条数と、前記複数の凹部の個数とが同一である請求項1ないし5のいずれかに記載の骨用ねじ。
【請求項11】
前記第1テーパ部のテーパ角度は30~40°であり、前記第2テーパ部のテーパ角度は80~100°である請求項4または5に記載の骨用ねじ。
【請求項12】
内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートと、請求項1ないし5のいずれかに記載の骨用ねじとを備える骨治療用具であって、
前記骨用ねじを、前記骨用プレートに対して複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能であることを特徴とする骨治療用具。
【請求項13】
前記骨用プレートは、基板部と、前記基板部を貫通する前記貫通孔と、前記貫通孔内に形成されたプレート側ねじ部とを備え、
前記プレート側ねじ部は、前記貫通孔の内面に形成され、一の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延びる第1ねじ溝と、前記貫通孔の内面に形成され、前記一の回転方向とは逆の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延び、前記第1ねじ溝と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝と、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部を備え、
前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝は、前記骨用ねじに形成された前記雄ねじ部と螺合可能であり、
前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成された前記ねじ山分断部は、前記骨用ねじに形成された前記雄ねじ部に圧接ないしは係合可能であり、前記骨用ねじに形成された前記雄ねじ部の前記ねじ山分断部への圧接ないしは係合により、前記骨用ねじを、複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能である請求項12に記載の骨治療用具。
【請求項14】
内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートと、請求項1ないし5のいずれかに記載の骨用ねじとを備え、橈骨遠位端における骨折の治療に用いられる橈骨遠位端用骨治療用具であって、
前記骨用プレートは、基板部と、前記基板部を貫通する前記貫通孔とを備え、
前記基板部は、ヘッド部とプレート本体部を備え、前記ヘッド部と前記プレート本体部とは傾斜して連接されており、前記ヘッド部に前記貫通孔が設けられていることを特徴とする橈骨遠位端用骨治療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートに対して複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
骨の端部(遠位端部および近位端部)もしくはその近傍における骨折は、再接合を必要とする多くの骨折片を生じることがある。そのような骨折部の治療においては、骨折片の位置や姿勢を修復した後、骨折片と骨本体とを固定するため、骨折片と骨本体とに架橋的に取り付けられる骨用プレートが用いられる。
この骨用プレートには、骨用ねじを固定するための開口を有するものがある。そして、特表2012-502687(特許文献1)、特開2006-130317(特許文献2)のように、骨用プレートとして、ねじ固定用の開口の内面に雌ねじ部を備えるものがあり、このような骨用プレートには、上記雌ねじ部と螺合可能な雄ねじ部を頭部に備えた骨用ねじ(特許文献1の図29、特許文献2の図5参照)が用いられる。骨用ねじとしては、上記のような雄ねじ部を有するものの方が、骨用プレートへの固定効果は高い。
【0003】
上述のような骨用ねじは、骨用ねじの長手軸を骨用プレートの開口の軸と合わせて、骨用プレートに対して固定できるが、この角度(骨用プレートと骨用ねじの相対角度)が最適ではない可能性がある。例えば、適用部位における骨の形状、骨が受ける力、その他目的とする固定状態等に応じて、当初の設定とは異なる角度が望まれることがある。
そのため、近年、骨用プレートに対して骨用ねじを刺入方向に自由度を持たせつつ固定できる角度可変固定機構(ポリアクシャルロッキング機構とも言われる)が求められている。当該機構を採用した場合、骨用ねじを複数の角度に挿入ないし固定することが可能であり、骨片を所望の位置に固定することが可能となる。そして、例えば、特表2016-512711(特許文献3)や特表2019-526375(特許文献4)には、骨ねじを骨用プレートに対して角度可変に固定するための構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012-502687
【特許文献2】特開2006-130317
【特許文献3】特表2016-512711
【特許文献4】特表2019-526375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3および特許文献4に記載の構成では、プレート側の孔に形成されたねじ部(ねじ山)を、当該孔の軸方向に延びる少なくとも1つの凹部によって分断し、分断されたねじ部と骨用ねじの頭部に形成されたねじ部とを係合(かみ込み)させることにより、骨用ねじを骨用プレートに対して複数の角度で固定するようになっている。
しかしながら、このような構成を採用する場合、骨用プレートに対して骨用ねじを単一の刺入方向において固定する機構(モノアクシャルロッキング機構とも言われる)に比べて、骨用ねじと骨用プレートとの係合が不安定(意図した箇所で確実に係合させることは難しい)となる。それにより、特許文献3の図3C図3D図3Fや、特許文献4の図7図8等に示されるように、骨用ねじの頭部や当該頭部に形成された雄ねじ部が、意図せずに骨用プレートの下方に突出してしまうことがある。そして、そのような場合、骨用プレートの下方に突出した骨用ねじの一部(頭部や当該頭部に形成された雄ねじ部)が骨と干渉してしまい、骨用プレートが骨表面から浮いてしまう等の問題が生じ得ることを、本発明者らは知見した。
そこで、本発明の目的は、内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートに対して複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具であって、頭部が骨用プレートの下方に突出した際の骨との干渉を軽減できる骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1) 内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートに対して複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじであって、
前記骨用ねじは、前記骨用プレートの前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に前記骨用プレートの前記貫通孔の雌ねじ部と螺合可能かつ前記螺合による固定角度と異なる角度にてかみ込みによる固定が可能なねじ山を有する雄ねじ部を備える頭部とを備え、
前記頭部の略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部となっており、前記テーパ部に前記雄ねじ部および複数の凹部が形成されており、
前記頭部は、前記凹部の内面であって前記雄ねじ部の回転方向後方側に形成される起立面と、前記起立面の外縁部に位置するエッジ部とを備え、
前記骨用ねじの軸方向において、前記凹部および前記エッジ部の基端は前記雄ねじ部の基端と先端との間に位置し、かつ前記凹部および前記エッジ部の先端は前記雄ねじ部の先端よりも先端側に位置し、
さらに、前記頭部は、先端側部分であって前記エッジ部の前記回転方向後方側に形成された逃がし部を備え、前記頭部は、前記エッジ部の少なくとも先端側部分の一部において、前記エッジ部と、前記起立面と、前記逃がし部とにより形成された骨を切削するための切り刃部を備える骨用ねじ。
【0007】
(2) 前記逃がし部は、前記エッジ部の回転方向後方側に形成された前記骨用ねじの軸方向に延びる溝部である上記(1)に記載の骨用ねじ。
(3) 前記骨用ねじの軸方向において、前記雄ねじ部の先端が、前記切り刃部の基端と先端との間に位置している上記(1)または(2)に記載の骨用ねじ。
(4) 前記テーパ部は、前記テーパ部の基端側部分に形成された第1テーパ部と、前記第1テーパ部の先端から延び、前記第1テーパ部よりもテーパ角度が大きい第2テーパ部とを備え、
前記雄ねじ部は、基端が前記第1テーパ部の基端側部分に位置し、先端が前記第2テーパ部まで延びており、
前記切り刃部は、基端が前記第2テーパ部に位置し、先端が前記雄ねじ部の先端よりも先端側に位置している上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の骨用ねじ。
【0008】
また、上記目的を達成するものは、以下のものである。
(5) 内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートに対して複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじであって、
前記骨用ねじは、前記骨用プレートの前記貫通孔を貫通可能な軸部と、前記軸部の基端に設けられ、外面に前記骨用プレートの前記貫通孔の雌ねじ部と螺合可能かつ前記螺合による固定角度と異なる角度にてかみ込みによる固定が可能なねじ山を有する雄ねじ部を備える頭部とを備え、
前記頭部の略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部となっており、前記テーパ部に前記雄ねじ部および複数の凹部が形成されており、
前記頭部は、前記凹部の内面であって前記雄ねじ部の回転方向後方側に形成される起立面と、前記起立面の外縁部に位置するエッジ部とを備え、
前記骨用ねじの軸方向において、前記凹部および前記エッジ部の基端は前記雄ねじ部の基端と先端との間に位置し、かつ前記凹部および前記エッジ部の先端は前記雄ねじ部の先端よりも先端側に位置し、
さらに、前記テーパ部は、前記テーパ部の基端側部分に形成された第1テーパ部と、前記第1テーパ部の先端から延び、前記第1テーパ部よりもテーパ角度が大きい第2テーパ部とを備え、
前記雄ねじ部は、基端が前記第1テーパ部の基端側部分に位置し、先端が前記第2テーパ部まで延びており、
前記骨用ねじの軸方向において、前記雄ねじ部の先端が、前記エッジ部の基端と先端との間に位置し、前記エッジ部の少なくとも先端側部分において骨を切削可能となっている骨用ねじ。
【0009】
(6) 前記凹部の基端から先端までの軸方向長さは、前記頭部の基端から前記凹部の先端までの軸方向長さの1/3以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の骨用ねじ。
(7) 前記骨用ねじを先端側から見た場合の前記エッジ部の先端と基端を結ぶ仮想線は、前記仮想線と平行かつ前記骨用ねじの中心軸を通る仮想線に対して、前記雄ねじ部の回転方向後方側に位置している上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の骨用ねじ。
(8) 前記骨用ねじを先端側から見た場合の前記エッジ部の先端と基端を結ぶ仮想線は、前記骨用ねじの中心軸を通るものである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の骨用ねじ。
(9) 前記凹部の前記起立面は、前記凹部の底面に対して垂直または前記回転方向に前傾もしくは後傾している上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の骨用ねじ。
(10) 前記頭部の前記雄ねじ部は、複数条のねじ山を有し、前記頭部の前記雄ねじ部のねじ山の条数と、前記複数の凹部の個数とが同一である上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の骨用ねじ。
(11) 前記第1テーパ部のテーパ角度は30~40°であり、前記第2テーパ部のテーパ角度は80~100°である上記(4)または(5)に記載の骨用ねじ。
【0010】
また、上記目的を達成するものは、以下のものである。
(12) 内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートと、上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の骨用ねじとを備える骨治療用具であって、
前記骨用ねじを、前記骨用プレートに対して複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能である骨治療用具。
【0011】
(13) 前記骨用プレートは、基板部と、前記基板部を貫通する前記貫通孔と、前記貫通孔内に形成されたプレート側ねじ部とを備え、
前記プレート側ねじ部は、前記貫通孔の内面に形成され、一の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延びる第1ねじ溝と、前記貫通孔の内面に形成され、前記一の回転方向とは逆の回転方向において、前記貫通孔の軸方向に延び、前記第1ねじ溝と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝と、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成されたねじ山分断部を備え、
前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝は、前記骨用ねじに形成された前記雄ねじ部と螺合可能であり、
前記プレート側ねじ部の前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝とが交差することにより形成された前記ねじ山分断部は、前記骨用ねじに形成された前記雄ねじ部に圧接ないしは係合可能であり、前記骨用ねじに形成された前記雄ねじ部の前記ねじ山分断部への圧接ないしは係合により、前記骨用ねじを、複数の角度で、前記貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能である上記(12)に記載の骨治療用具。
【0012】
また、上記目的を達成するものは、以下のものである。
(14) 内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートと、上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の骨用ねじとを備え、橈骨遠位端における骨折の治療に用いられる橈骨遠位端用骨治療用具であって、
前記骨用プレートは、基板部と、前記基板部を貫通する前記貫通孔とを備え、
前記基板部は、ヘッド部とプレート本体部を備え、前記ヘッド部と前記プレート本体部とは傾斜して連接されており、前記ヘッド部に前記貫通孔が設けられている橈骨遠位端用骨治療用具。
【発明の効果】
【0013】
本発明の骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具は、骨用ねじの頭部(テーパ部)の適切な位置に複数の凹部(起立面およびエッジ部を含む)が形成されているとともに、頭部の先端側部分において、エッジ部と、起立面と、逃がし部とにより形成された骨を切削するための切り刃部、または骨を切削可能なエッジ部を備えている。これにより、骨用ねじを骨用プレートに対して固定する際に、骨用ねじの一部(頭部や当該頭部に形成された雄ねじ部)が意図せずに骨用プレートの下方に突出した場合であっても、当該骨用ねじの一部と骨との干渉を回避または軽減できる。また、このような骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具においては、骨用ねじの一部(頭部や当該頭部に形成された雄ねじ部)が骨用プレートの下方に若干突出することを許容して、骨用ねじを固定するための骨用プレートをできるだけ薄く設計することもできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の骨用ねじの実施例を示す正面図である。
図2図2は、図1に示す骨用ねじの頭部拡大説明図である。
図3図3は、図1に示す骨用ねじの拡大底面図である。
図4図4は、図1に示す骨用ねじの製造工程を説明するための説明図である。
図5図5は、図1に示す骨用ねじの製造工程を説明するための説明図である。
図6図6は、図1に示す骨用ねじを骨用プレートに固定した状態を説明するための概略説明図である。
図7図7は、本発明の骨用ねじの他の実施例を示す正面図である。
図8図8は、図7に示す骨用ねじの頭部拡大説明図である。
図9図9は、図7のA-A断面説明図である。
図10図10は、本発明の骨用ねじの別の実施例を示す正面図である。
図11図11は、図10に示す骨用ねじの頭部拡大説明図である。
図12図12は、本発明の骨治療用具における骨用プレートの実施例を示す平面図である。
図13図13は、図12に示した骨用プレートを含む骨治療用具の実施例を示す側面図である。
図14図14は、図12に示した骨用プレートの貫通孔部分を拡大して示す平面説明図である。
図15図15は、図14のB-B断面説明図である。
図16図16は、図14のC-C断面説明図である。
図17図17は、図12に示した骨用プレートにおける雌ねじ部(プレート側ねじ部)の形成過程を説明するための、図16に対応する断面説明図である。
図18図18は、図12に示した骨用プレートにおける雌ねじ部(プレート側ねじ部)の形成過程を説明するための、図16に対応する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の骨用ねじを図面に示した実施例を用いて説明する。なお、本明細書では、図1の上側を基端側とし、下側を先端側として説明する。
本発明の骨用ねじ10は、内面にねじ溝を有する雌ねじ部(以下、プレート側ねじ部とも言う)を備えた貫通孔を有する骨用プレートに対して複数の角度で、貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじである。骨用ねじ10は、骨用プレートの貫通孔を貫通可能な軸部11と、軸部11の基端に設けられ、外面に骨用プレートの貫通孔の雌ねじ部と螺合可能かつ当該螺合による固定角度と異なる角度にてかみ込みによる固定が可能なねじ山を有する雄ねじ部(以下、骨用ねじ側ねじ部とも言う)12を備える頭部13とを備える。頭部13の略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部14となっており、テーパ部14に雄ねじ部12および複数(ここでは、3個)の凹部15が形成されている。頭部13は、凹部15の内面であって雄ねじ部12の回転方向後方側に形成される起立面16と、起立面16の外縁部に位置するエッジ部17とを備える。骨用ねじ10の軸方向において、凹部15およびエッジ部17の基端は雄ねじ部12の基端と先端との間に位置し、かつ凹部15およびエッジ部17の先端は雄ねじ部12の先端よりも先端側に位置している。さらに、頭部13は、先端側部分であってエッジ部17の回転方向後方側に形成された逃がし部18(この実施例では、軸方向に延びる溝部)を備え、頭部13は、エッジ部17の少なくとも先端側部分の一部において、エッジ部17と、起立面16と、逃がし部18とにより形成された骨を切削するための切り刃部19を備える。
【0016】
より具体的には、図1ないし図6に示されるように、本実施例の骨用ねじ10は、軸部11と頭部13を有している。軸部11は、その表面が滑らかにされており、骨用プレートの貫通孔を貫通可能とされている。なお、後述する骨用ねじ10aのように、軸部11にはスクリュー部20が形成されていてもよい(図7参照)。また、軸部11は、骨内(対象となる骨に形成された下孔)に進入可能となっており、その外径は、治療対象となる部位により相違するが、2.0mm~7.5mmが好ましく、特に、2.5~4.0mmが好ましい。
【0017】
本実施例の骨用ねじ10の頭部13は、軸部11の基端に連設され、略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部14となっている。本実施例では、図2に示すように、頭部13の基端部分(周辺部分を傷付けないため等の目的で湾曲形状等が設けられた部分)を除く略全体がテーパ部14となっている。これにより、骨用ねじ10は、骨用プレートに対して複数の角度で、骨用プレートの貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定し易くなっている。なお、図6に示すように、骨用ねじ10は、骨用プレート(31)に対して、複数の角度(θ)として、貫通孔(32)の軸方向(Q)を基準に0°~15°の角度で固定可能であることが好ましい。なお、頭部13の基端面には、図6に示すように、回動治具(例えば、ドライバ)接続用の治具用凹部21が形成されている。治具用凹部21は、回動治具の先端形状に対応した形状に形成されている。
【0018】
本実施例では、テーパ部14は、テーパ部14の基端側部分に形成された第1テーパ部22と、第1テーパ部22の先端から延び、第1テーパ部22よりもテーパ角度が大きい第2テーパ部23とを備える。具体的には、図4に示すように、第2テーパ部23(第2テーパ部形成部25)のテーパ角度(θ2)は、第1テーパ部22(第1テーパ部形成部24)のテーパ角度(θ1)よりも大きく設定されている。なお、第1テーパ部22(第1テーパ部形成部24)のテーパ角度(θ1)は30~40°(ここでは、35°)の範囲で設定されることが好ましく、第2テーパ部23(第2テーパ部形成部25)のテーパ角度(θ2)は80~100°(ここでは、90°)の範囲で設定されることが好ましい。また、第2テーパ部23(第2テーパ部形成部25)の軸方向長さ(L2)は、第1テーパ部22(第1テーパ部形成部24)の軸方向長さ(L1)よりも短く設定されていることが好ましく、第2テーパ部23(第2テーパ部形成部25)の軸方向長さ(L2)は、第1テーパ部22(第1テーパ部形成部24)の軸方向長さ(L1)の3/9~4/9の範囲で設定されることがより好ましい。
【0019】
本実施例の骨用ねじ10の頭部13は、外面に雄ねじ部(骨用ねじ側ねじ部)12を備える。本実施例では、雄ねじ部12は、頭部13のテーパ部14に形成されている。より具体的には、雄ねじ部12は、基端が第1テーパ部22の基端側部分に位置し、先端が第2テーパ部23まで延びている。言い換えれば、雄ねじ部12は、骨用ねじ10の頭部13のテーパ部14において、第1テーパ部22の略全体に(特に、第1テーパ部22の先端部分において途切れることなく)形成されるとともに、その先端(終端)が第2テーパ部23まで延びている。これにより、雄ねじ部(骨用ねじ側ねじ部)12は、第1テーパ部22の略全体において、骨用プレートの貫通孔の雌ねじ部(プレート側ねじ部)と螺合またはかみ込み(例えば、圧接ないしは係合)可能となり、骨用ねじ10を骨用プレートに対して固定し易くなる。また、雄ねじ部12の先端は頭部13の先端まで延びていないことが好ましい。言い換えれば、頭部13は先端に雄ねじ部非形成部を備えることが好ましい。
【0020】
雄ねじ部12は、平面視(骨用ねじ10の軸方向において頭部13の側(基端側)から見た場合)において右回転で軸方向に進行する、所謂右ねじを構成する螺旋状の山部(ねじ山)を有する。雄ねじ部12は、骨用ねじ10の頭部13に形成された先端側に向かって小径となるテーパ部14(第1テーパ部22および第2テーパ部23)に形成されたテーパねじ部とされている。また、雄ねじ部12は、骨用プレートの雌ねじ部と螺合またはかみ込み(例えば、圧接ないしは係合)可能である。
【0021】
より具体的には、図2に示されるように、雄ねじ部12は、骨用プレートの貫通孔の雌ねじ部と螺合可能かつ当該螺合による固定角度と異なる角度にてかみ込みによる固定が可能な複数条(ここでは、3条)のねじ山26,27,28を有する。そのため、雄ねじ部12においては、リード(ねじが1回転したときに進む距離)が、ピッチ(軸方向において隣り合うねじ山(ねじ溝)間の距離)の3倍となっている。雄ねじ部12における条数は、骨用ねじ10が固定される骨用プレートの雌ねじ部の条数(ねじ溝の数)と同一であることが好ましく、1~4が好ましく、特に、2または3が好ましい。
【0022】
なお、雄ねじ部12構成する3つのねじ山26,27,28の断面形状は同一とされており、例えば、三角形形状や、台形形状、矩形形状とされていてもよいが、三角形形状や台形形状とされていることが好ましい。また、雄ねじ部12を構成する3つのねじ山26,27,28の断面形状は、骨用ねじ10が固定される骨用プレートの雌ねじ部(ねじ溝)の溝断面形状に対応する形状とされていることが好ましい。
【0023】
本実施例の骨用ねじ10の頭部13(テーパ部14)の先端側部分には、複数(ここでは、3個)の凹部15および後述する切り刃部19が形成されている。なお、凹部15の先端は頭部13の先端ないしは先端近傍まで延びていることが好ましい。図3に示すように、3つの凹部15は、周方向に等間隔な位置(骨用ねじ10の中心軸に対して等角度な配置)、具体的には、120°間隔で配置されている。凹部15の個数は、1~4が好ましく、特に、2または3が好ましい。また、本実施例のように、骨用ねじ10の頭部13の雄ねじ部12が複数条のねじ山(26,27,28)を有する場合、頭部13の雄ねじ部12のねじ山の条数(ここでは、3)と、複数の凹部15の個数(ここでは、3)とが同一であることが好ましい。
【0024】
また、図2に示すように、凹部15の基端から先端までの軸方向長さ(H2)は、頭部13の基端から凹部15の先端までの軸方向長さ(H1)の1/3以下であることが好ましい。これにより、頭部13(テーパ部14)において、完全雄ねじ部(全周に亘って雄ねじ部12が有効な部分、言い換えれば、凹部15によって雄ねじ部12が分断されていない部分)の軸方向長さを確保でき、骨用ねじ10を骨用プレートに対して固定し易くなる。
【0025】
凹部15の内面(表面)であって、雄ねじ部12の回転方向後方側の面は、起立面16となっている。なお、ここでは、骨用ねじ10(雄ねじ部12)を軸方向に進行させる際の回転方向に従って、回転方向前方および回転方向後方を規定することとし、図3(骨用ねじ10を先端側から見た場合)において、反時計回り方向を回転方向前方といい、時計回り方向を回転方向後方という。この実施例では、凹部15は、底面と、底面の回転方向基端部より起立した上記起立面16を備えている。起立面16は、図示する実施例のように、凹部15の底面に対して垂直となった起立面であることが好ましいが、回転方向に、若干、前傾もしくは後傾しているものであってもよい。
【0026】
本実施例では、起立面16は、軸方向に延びる平面部となっている。なお、起立面は、湾曲面部であってもよい。また、本実施例では、図3に示すように、骨用ねじ10を先端側から見た場合のエッジ部17の先端と基端を結ぶ仮想線Xは、当該仮想線Xと平行かつ骨用ねじ10の中心軸Pを通る仮想線Yに対して、雄ねじ部12の回転方向後方側(図3における右側)に位置している。言い換えれば、仮想線Xが仮想線Yに対して、回転方向後方側にオフセット(d)している。さらに言い換えれば、図3に示すように、起立面16は、骨用ねじ10の直径(中心軸Pを通る直線)に対して角度θ3で傾いている。これにより、後述する切り刃部19における骨の切削性を適切に設定するとともに、切り刃部19の破損を防ぐことができる。なお、オフセット量(d)は0.2mm以下であることが好ましい。なお、後述する骨用ねじ10aのように、骨用ねじ10においてオフセット(d)が設けられていなくてもよい(図9参照)。
【0027】
起立面16の外縁部(骨用ねじ10の外形に沿った部分)は軸方向に延びるエッジ部17となっている。エッジ部17には、R形状や面取り形状が形成されていないことが好ましく、骨用ねじ10は、エッジ部17において骨を切削可能となっていてもよい。本実施例では、図2に示すように、骨用ねじ10の軸方向において、凹部15およびエッジ部17の基端は雄ねじ部12の基端と先端との間に位置し、かつ凹部15およびエッジ部17の先端は雄ねじ部12の先端よりも先端側に位置している。
【0028】
本実施例の骨用ねじ10は、頭部13の先端側部分であって起立面16の回転方向後方側の部分に逃がし部18(軸方向に延びる溝部)が形成されている。逃がし部18は、骨用ねじ10(ここでは、第2テーパ部23)の外形(外面)が切削されること等によって形成される。すなわち、逃がし部18においては、骨用ねじ10の中心軸に直交する面における断面において、骨用ねじ10の中心からの距離が、エッジ部17を含む骨用ねじ10(ここでは、第2テーパ部23)の逃がし部非形成部(特に、エッジ部17)よりも小さくなっている。本実施例では、図3に示すように、逃がし部18は、周方向において凹部15形成部を除く全周に亘って設けられている。
【0029】
本実施例の骨用ねじ10では、頭部13が、エッジ部17の少なくとも先端側部分の一部において、エッジ部17と、起立面16と、逃がし部18とにより形成された切り刃部19を備える。言い換えれば、切り刃部19は、起立面16と逃がし部18との間に存在するエッジ部17の一部であって、骨の切削性が向上された部分を指す。エッジ部17の回転方向の幅(厚さ)は、0.3mm以下であることが好ましく、特に、0.1mm以下であることが好ましい。また、エッジ部17の軸方向長は、0.45~0.75mmが好ましく、特に、0.5~0.65mmが好ましい。
【0030】
本実施例の骨用ねじ10では、図2に示すように、骨用ねじ10の軸方向において、雄ねじ部12の先端が、切り刃部19の基端と先端との間に位置している。より具体的には、切り刃部19は、基端が第2テーパ部23かつ雄ねじ部12の先端よりも基端側に位置し、先端が雄ねじ部12の先端よりも先端側に位置している。これにより、骨用プレートの下方に骨用ねじ10の一部(頭部13に形成された雄ねじ部12)が突出した場合であっても、切り刃部19によって骨を切削(除去)できる可能性が高くなり、当該骨用ねじ10の一部と骨との干渉を回避または軽減できる可能性が高くなる。
【0031】
骨用ねじ10の形成材料としては、チタン合金(具体的には、JIST7401-2のTi-6Al-4V、ASTM F-136 Ti-6Al-4V ELI)、純チタン(具体的には、JIST7401-1)、ステンレス鋼(具体的には、JISG4303のSUS304、SUS316)などが好ましい。
【0032】
骨用ねじ10は、頭部13の略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部14(第1テーパ部22および第2テーパ部23)となっており、骨用プレートに対して複数の角度で、骨用プレートの貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定し易くなっている。その一方、骨用ねじ10は、骨用プレートに対して骨用ねじを単一の角度で固定する機構(モノアクシャルロッキング機構)に比べて、骨用ねじ10と骨用プレートとの係合が不安定(意図した箇所で確実に係合させることは難しい)となり易い。
これに対し、本実施例の骨用ねじ10は、頭部13(テーパ部14)の適切な位置に複数の凹部15(起立面16およびエッジ部17を含む)が形成されているとともに、頭部13の先端側部分において、エッジ部17と、起立面16と、逃がし部18とにより形成された骨を切削するための切り刃部19を備えている。
これにより、骨用ねじ10を骨用プレートに対して固定する際に、骨用ねじ10の一部(頭部13や当該頭部13に形成された雄ねじ部12)が意図せずに骨用プレートの下方に突出した場合であっても、当該骨用ねじ10の一部と骨との干渉を回避または軽減できる。また、このような骨用ねじ10を用いることにより、骨用ねじ10の一部(頭部13や当該頭部13に形成された雄ねじ部12)が骨用プレートの下方に若干突出することを許容して、骨用ねじ10を固定するための骨用プレートをできるだけ薄く設計することもできるようになる。
【0033】
ここで、本実施例の骨用ねじ10を製造する工程を、図2図4および図5に示す例によって、簡単に説明する。
まず、図4に示すように、骨用ねじの外形(1次中間体41)を形成する。ここでは、1次中間体41の頭部形成部42は、テーパ部形成部43(第1テーパ部形成部24および第2テーパ部形成部25)を備えている。
次いで、1次中間体41の頭部形成部42(テーパ部形成部43(第1テーパ部形成部24および第2テーパ部形成部25))に、図5に示すように、複数の凹部15(起立面16およびエッジ部17を含む)を形成する(2次中間体44)。その後、逃がし部18(切り刃部19)を形成する。
そして、最後に、逃がし部18(切り刃部19)が形成された2次中間体44の頭部形成部42(テーパ部形成部43(第1テーパ部形成部24および第2テーパ部形成部25))に雄ねじ部12を形成することで、図2に示すような頭部13を備える本実施例の骨用ねじ10を製造することができる。
【0034】
なお、本発明の骨用ねじは、図7ないし図9に示す骨用ねじ10aのように、軸部11にはスクリュー部20が形成されていてもよい。また、骨用ねじ10aの軸部11(スクリュー部20)の先端部分にはセルフタップ部29が設けられている。
また、図9に示すように、骨用ねじ10aにおいては、骨用ねじ10aを先端側から見た場合のエッジ部17の先端と基端を結ぶ仮想線Xは、骨用ねじ10aの中心軸Pを通る。言い換えれば、仮想線Xは、骨用ねじ10aの中心軸Pに対してオフセットしていない。これにより、骨用ねじ10a(雄ねじ部12)を雌ねじ部に固定し易くなる。なお、前述した骨用ねじ10のように、骨用ねじ10aにおいてオフセット(d)を設けてもよい(図3参照)。
【0035】
図10および図11には、本発明の骨用ねじの別の実施形態が示されている。骨用ねじ10bにおいては、上述した骨用ねじ10に対して、頭部の形態が異なっている。なお、骨用ねじ10bは、特に記載のない限り、上述した骨用ねじ10と略同様の構成を備え、そのような構成については、同一の名称および符号(末尾にbを付すことがある)を用い、詳細な説明を省略する。
【0036】
本実施例の骨用ねじ10bは、内面にねじ溝を有する雌ねじ部(プレート側ねじ部)を備えた貫通孔を有する骨用プレートに対して複数の角度で、貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能な骨用ねじである。
骨用ねじ10bは、骨用プレートの貫通孔を貫通可能な軸部11と、軸部11の基端に設けられ、外面に骨用プレートの貫通孔の雌ねじ部(プレート側ねじ部)と螺合可能かつ螺合による固定角度と異なる角度にてかみ込みによる固定が可能なねじ山(26,27,28)を有する雄ねじ部12bを備える頭部13bとを備える。
頭部13bの略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部14bとなっており、テーパ部14bに雄ねじ部12bおよび複数(ここでは、3個)の凹部15bが形成されている。頭部13bは、凹部15bの内面であって雄ねじ部12bの回転方向後方側に形成される起立面16bと、起立面16bの外縁部に位置するエッジ部17bとを備える。骨用ねじ10b軸方向において、凹部15bおよびエッジ部17bの基端は雄ねじ部12bの基端と先端との間に位置し、かつ凹部15bおよびエッジ部17bの先端は雄ねじ部12bの先端よりも先端側に位置している。
さらに、テーパ部14bは、テーパ部14bの基端側部分に形成された第1テーパ部22bと、第1テーパ部22bの先端から延び、第1テーパ部22bよりもテーパ角度が大きい第2テーパ部23bとを備え、雄ねじ部12bは、基端が第1テーパ部22bの基端側部分に位置し、先端が第2テーパ部23bまで延びており、骨用ねじ10bの軸方向において、雄ねじ部12bの先端が、エッジ部17bの基端と先端との間に位置し、エッジ部17bの少なくとも先端側部分において骨を切削可能となっている。
【0037】
本実施例の骨用ねじ10bは、頭部13bの略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部14b(第1テーパ部22bおよび第2テーパ部23b)となっており、骨用プレートに対して複数の角度で、骨用プレートの貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定し易くなっている。その一方、骨用ねじ10bは、骨用プレートに対して骨用ねじを単一の角度で固定する機構(モノアクシャルロッキング機構)に比べて、骨用ねじ10bと骨用プレートとの係合が不安定(意図した箇所で確実に係合させることは難しい)となり易い。
これに対し、本実施例の骨用ねじ10bは、頭部13b(テーパ部14b)の適切な位置に複数の凹部15b(起立面16bおよびエッジ部17bを含む)が形成されており、雄ねじ部12bの先端が、エッジ部17bの基端と先端との間に位置し、エッジ部17bの少なくとも先端側部分において骨を切削可能となっている。
これにより、骨用ねじ10bを骨用プレートに対して固定する際に、骨用ねじ10bの一部(頭部13bや当該頭部13bに形成された雄ねじ部12b)が意図せずに骨用プレートの下方に突出した場合であっても、当該骨用ねじ10bの一部と骨との干渉を回避または軽減できる。また、このような骨用ねじ10bを用いることにより、骨用ねじ10bの一部(頭部13bや当該頭部13bに形成された雄ねじ部12b)が骨用プレートの下方に若干突出することを許容して、骨用ねじ10bを固定するための骨用プレートをできるだけ薄く設計することもできるようになる。
【0038】
本発明の骨用ねじは、内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートとともに骨治療用具としても用いられる。すなわち、本発明の骨治療用具は、内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートと、上述のような骨用ねじとを備える骨治療用具であって、骨用ねじを、骨用プレートに対して複数の角度で、貫通孔の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能である。
【0039】
また、本発明の骨治療用具は、内面にねじ溝を有する雌ねじ部を備えた貫通孔を有する骨用プレートと、上述のような骨用ねじとを備え、橈骨遠位端における骨折の治療に用いられる橈骨遠位端用骨治療用具であってもよい。橈骨遠位端用骨治療用具の骨用プレートは、基板部と、基板部を貫通する貫通孔とを備え、基板部は、ヘッド部とプレート本体部を備え、ヘッド部とプレート本体部とは傾斜して連接されており、ヘッド部に貫通孔が設けられていることが好ましい。
【0040】
本発明の骨治療用具(橈骨遠位端用骨治療用具)において用いられ得る骨用プレートを、図12ないし図18に示す例によって説明する。
本実施例の骨用プレート50は、基板部51と、基板部51を貫通する貫通孔52と、貫通孔52内に形成されたプレート側ねじ部(雌ねじ部)53とを備える。プレート側ねじ部53は、貫通孔52の内面に形成され、一の回転方向において、貫通孔52の軸方向に延びる第1ねじ溝54と、貫通孔52の内面に形成され、一の回転方向とは逆の回転方向において、貫通孔52の軸方向に延び、第1ねじ溝54と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝55と、第1ねじ溝54と第2ねじ溝55とが交差することにより形成されたねじ山分断部56を備える。プレート側ねじ部53の第1ねじ溝54は、上述したような骨用ねじに形成された雄ねじ部(骨用ねじ側ねじ部)と螺合可能であり、プレート側ねじ部53の第1ねじ溝54と第2ねじ溝55とが交差することにより形成されたねじ山分断部56は、骨用ねじに形成された雄ねじ部に圧接ないしは係合可能であり、骨用ねじに形成された雄ねじ部のねじ山分断部56への圧接ないしは係合(かみ込み)により、骨用ねじを、複数の角度で、貫通孔52の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定可能である。
【0041】
具体的には、骨用プレート50は、図12および図13に示すように、基板部51が、平面視において「T」字形状の薄板状に形成されている。基板部51は、ヘッド部57とプレート本体部58を備える。ヘッド部57とプレート本体部58とは、傾斜して連接されており、基板部51は、ヘッド部57とプレート本体部58の境界部において折れ曲がっている。このような骨用プレート50は、例えば、橈骨遠位端における骨折の治療に用いられる。
【0042】
骨用プレート50のプレート本体部58には、平面視において角丸長方形状の固定用孔59が設けられている。固定用孔59は、内面に雌ねじ部を持たないものとなっている。通常の手技では、この固定用孔59と骨ねじ(頭部にねじ部(雄ねじ部)を持たないもの)を用いて骨用プレート50の対象部位に対する初期固定が行われる。
【0043】
プレート本体部58の固定用孔59の長手方向両側には、骨用ねじを固定するための複数(ここでは、2つ)のねじ孔60が設けられている。ねじ孔60の内面には、雌ねじ部(ここでは、後述するプレート側ねじ部(雌ねじ部53)と同様の構造である。なお、プレート側ねじ部(雌ねじ部53)と異なる雌ねじ部であってもよい。)が設けられている。雌ねじ部は、ねじ孔60の軸方向に沿って平行に形成されている。雌ねじ部は、図示しない骨用ねじ(本発明の骨用ねじとは異なる骨用ねじ)の頭部に設けられた雄ねじ部と螺合可能である。骨用ねじは雌ねじ部に螺合されることにより、骨用プレート50(プレート本体部58)へ取付固定される。
【0044】
骨用プレート50のヘッド部57には、複数(ここでは、7つ)の貫通孔52が設けられている。図14ないし図16に示されるように、これらの貫通孔52は、いずれも、軸方向において一定の内径とされ、その軸心が相互に傾斜した角度に形成されている。また、貫通孔52の上側と下側には、それぞれ、上方に向かって拡がる上側凹部61と下方に向かって拡がる下側凹部62が形成されている。上側凹部61や下側凹部62は、上述した実施例の骨用ねじ10(10a,10b)の頭部13の全体もしくは一部を収納可能とされている。
なお、貫通孔52は、骨用プレート50のプレート本体部58に設けられていてもよい。
【0045】
なお、上述した骨用ねじ10の頭部13は、その略全体が先端側に向かって小径となるテーパ部14となっている。これに対応して、図17に示すように、下部凹部62の開き角度θ5は、上部凹部61の開き角度θ4よりも小さく設定されていることが好ましい。また、下部凹部62の開き角度θ5は20~30°の範囲で設定される(ここでは、30°)ことが好ましく、上部凹部61の開き角度θ4は35~55°の範囲で設定される(ここでは、55°)ことが好ましい。
また、図17に示すように、上部凹部61の軸方向長さH3は0.6~1.0mmの範囲で設定されることが好ましく、雌ねじ部53の軸方向長さH4は0.6~1.2mmの範囲で設定されることが好ましく、下部凹部62の軸方向長さH5は0.1~0.4mmの範囲で設定されることが好ましい。なお、本実施例の骨用ねじ10(10a,10b)と組み合わせて用いる場合、骨用プレート50には下部凹部62が設けられていなくてもよいが、骨用ねじの軸部11と骨用プレート50の雌ねじ部53とが直接接触することを避けるため、および/または、骨と骨用プレート50の雌ねじ部53とが直接接触することを避けるために下部凹部62は設けられていることが好ましい。
また、下部凹部62の軸方向長さH5は、貫通孔52の軸方向長さ(H3+H4+H5)の1/25~1/3の範囲で設定されることが好ましい。これにより、骨用プレート50の全体の厚さを抑えつつ、下部凹部62を有効に設けることができる。
【0046】
骨用プレート50の貫通孔52内には、それぞれ、プレート側ねじ部(雌ねじ部)53が形成されている。プレート側ねじ部53においては、貫通孔52の内面に形成され、一の回転方向において、貫通孔52の軸方向に延びる第1ねじ溝54が形成されている。ここでは、第1ねじ溝54は、平面視において右回転で軸方向に進行する、所謂右ねじを構成する螺旋溝からなる。
【0047】
具体的には、図16に示されるように、第1ねじ溝54は、複数条の螺旋溝からなる。ここでは、第1ねじ溝54は、3つ(3条)のねじ溝(螺旋溝)63,64,65からなる。そのため、第1ねじ溝54においては、リード(ねじが1回転したときに進む距離)が、ピッチ(軸方向において隣り合うねじ溝(ねじ山)間の距離)の3倍となっている。第1ねじ溝54における螺旋溝の数は、上述した骨用ねじ10の雄ねじ部12の条数(ねじ山の数)と同一(ここでは、3)であることが好ましく、1~4が好ましく、特に、2または3が好ましい。
【0048】
プレート側ねじ部53においては、第1ねじ溝54を構成する3つのねじ溝63,64,65の溝断面形状は同一とされており、ここでは三角形形状とされている。なお、ねじ溝63,64,65の溝断面形状は、三角形形状に限られず、台形形状や矩形形状とされていてもよいが、後述する理由により三角形形状や台形形状とされていることが好ましい。また、第1ねじ溝54は所謂3条ねじを構成するものであり、第1ねじ溝54を構成するねじ溝63,64,65は、それぞれ、貫通孔52の上端部において、周方向に等間隔な位置(貫通孔の中心軸に対して等角度な配置)、具体的には、120°間隔で配置された始端を有する。(図14において、ねじ溝63,64,65の始端を、それぞれ、S1,S2,S3で示す。)
【0049】
そして、プレート側ねじ部53においては、貫通孔52の内面に形成され、上述した第1ねじ溝54の回転方向(右回転)とは逆の回転方向(左回転)において、貫通孔52の軸方向に延び、第1ねじ溝54と少なくとも一箇所において交差する第2ねじ溝55が形成されている。第2ねじ溝55は、平面視において左回転で軸方向に進行する、所謂左ねじを形成する螺旋溝からなる。本実施例では、上述した第1ねじ溝54(第1ねじ溝54の形成により貫通孔52内に形成される雌ねじ部)の中心軸と、第2ねじ溝55(第2ねじ溝55の形成により貫通孔52内に形成される雌ねじ部)の中心軸とは、一致している。
【0050】
具体的には、図16に示されるように、第2ねじ溝55は、複数条の螺旋溝からなる。ここでは、第2ねじ溝55は、3つ(3条)のねじ溝(螺旋溝)66,67,68からなる。そのため、第2ねじ溝55においては、リード(ねじが1回転したときに進む距離)が、ピッチ(軸方向において隣り合うねじ溝(ねじ山)間の距離)の3倍となっている。第2ねじ溝55における螺旋溝の数は、1~4が好ましく、特に、2または3が好ましい。
【0051】
プレート側ねじ部53においては、第2ねじ溝55を構成する3つのねじ溝66,67,68の溝断面形状は同一とされており、ここでは三角形形状とされている。なお、ねじ溝66,67,68の溝断面形状は、三角形形状に限られず、台形形状や矩形形状とされていてもよいが、後述する理由により三角形形状や台形形状とされていることが好ましい。また、第2ねじ溝55は所謂3条ねじを構成するものであり、第2ねじ溝55を構成するねじ溝66,67,68は、それぞれ、貫通孔52の上端部において、周方向に等間隔な位置(貫通孔の中心軸に対して等角度な配置)、具体的には、120°間隔で配置された始端S4,S5,S6を有する。(図14において、ねじ溝66,67,68の始端を、それぞれ、S4,S5,S6で示す。)この実施例では、ねじ溝63の始端S1とねじ溝66の始端S4、ねじ溝64の始端S2とねじ溝67の始端S5、ねじ溝65の始端S3とねじ溝68の始端S6が、それぞれ、同じ位置とされている。なお、ねじ溝63,64,65の始端S1,S2,S3に対するねじ溝66,67,68の始端S4,S5,S6の位置は、周方向においてずれていてもよい。
【0052】
そして、本実施例においては、第1ねじ溝54と第2ねじ溝55とが、互いに、回転方向が逆で、かつ条数、ピッチ、リード、および溝断面形状が同じものとされている。
【0053】
さらに、本実施例においては、骨用プレート50のプレート側ねじ部53は、上述のように、貫通孔52が軸方向において一定の内径とされており、かつ第1ねじ溝54および第2ねじ溝55が、それぞれ、同軸的かつ軸方向において一定の溝深さとされることにより、所謂平行ねじ部(ストレートねじ部)とされている。
【0054】
骨用プレート50においては、図15および図16に示されるように、貫通孔52内において、プレート側ねじ部53の第1ねじ溝54と第2ねじ溝55とが交差することにより、複数のねじ山分断部56が形成されている。すなわち、ねじ山分断部56は、貫通孔52の内面に第1ねじ溝54を形成することによって形成されるねじ山が、第2ねじ溝55によって分断されることにより形成される。言い換えれば、ねじ山分断部56は、貫通孔52の内面に第1ねじ溝54を形成することによって形成されるねじ山のうち、第2ねじ溝55が形成された後も残った部分と言うこともできる。本実施例では、第1ねじ溝54および第2ねじ溝55が三角形形状の溝断面形状とされているため、このようなねじ山分断部56は、その周方向(回転方向)の端部に向かって貫通孔52の軸方向における厚さ(肉厚)が薄く(強度が弱く)なっている。
【0055】
骨用プレート50の形成材料としては、チタン合金(具体的には、JIST7401-2のTi-6Al-4V、ASTM F-136 Ti-6Al-4V ELI)、純チタン(具体的には、JIST7401-1)、ステンレス鋼(具体的には、JISG4303のSUS304、SUS316)などが好ましい。
【0056】
より具体的に、ねじ山分断部56の態様について説明するために、図16ないし図18に示されるように、骨用プレート50にプレート側ねじ部53を形成する過程を説明する。
【0057】
まず、図17に示されるように、骨用プレート50の基板部51(ヘッド部57)に下孔としての円孔状の貫通孔52を形成する。次いで、図18に示されるように、貫通孔52の内面に第1ねじ溝54(ねじ溝63,64,65)を形成する。第1ねじ溝54の形成は、公知のタップを用いた切削加工にて行うことができる。
【0058】
第1ねじ溝54の形成に伴い、隣り合うねじ溝63,64,65の間にねじ山69,70,71が形成される。ねじ山69,70,71は、その断面形状が、貫通孔52の内周面を上底とするような台形形状とされている。この時点では、貫通孔52には、ねじ溝63,64,65と、ねじ山69,70,71を有する雌ねじ部が形成されているといえる。第1ねじ溝54(言い換えれば、第1ねじ溝54の形成により貫通孔52内に形成される雌ねじ部)は、上述した骨用ねじ10の雄ねじ部(骨用ねじ側ねじ部)12と螺合可能とされている。
【0059】
次いで、図16に示されるように、貫通孔52の内面に第2ねじ溝55(ねじ溝66,67,68)を形成する。第2ねじ溝55の形成も、公知のタップを用いた切削加工にて行うことができる。また、本実施例では、第1ねじ溝54および第2ねじ溝55が、ともに貫通孔52に対して同軸的に形成されている。そのため、第1ねじ溝54と第2ねじ溝55を形成する際に加工軸(切削加工用のタップの回転軸)を変更することが不要であり、加工が容易になる。なお、第1ねじ溝54と第2ねじ溝55を、同じ加工軸を用い、タップの回転を逆にすることにより形成してもよく、この場合も加工は容易である。
【0060】
貫通孔52内において、第2ねじ溝55は少なくとも一箇所で第1ねじ溝54と交差する。本実施例では、第1ねじ溝54と第2ねじ溝55とが複数箇所において交差することにより複数のねじ山分断部56が形成されている。言い換えれば、第2ねじ溝55のねじ溝66,67,68により、第1ねじ溝54(ねじ溝63,64,65)の形成に伴い形成されたねじ山69,70,71が分断され、ねじ山分断部56が形成される。ねじ山分断部56の端部は第1ねじ溝54と第2ねじ溝55との交差部に露出する。ねじ山分断部56は、第1ねじ溝54および第2ねじ溝55を形成した際に貫通孔52内に残った(ねじ溝が形成されなかった)部分ということもできる。
【0061】
本実施例では、第1ねじ溝54および第2ねじ溝55が、その溝断面形状が三角形形状となるように形成されている。そのため、ねじ山分断部56においては、その周方向(回転方向)の端部に向かって貫通孔52の軸方向における厚さ(肉厚)が薄く(強度が弱く)なっている。言い換えれば、ねじ山分断部56は、第1ねじ溝54と第2ねじ溝55とが交差する部分に向かってその肉厚が薄くなっている。このような態様は、第1ねじ溝54および/または第2ねじ溝55の溝断面形状が三角形形状または台形形状である場合に実現可能であり、そのため、第1ねじ溝54および/または第2ねじ溝55の溝断面形状は三角形形状または台形形状であることが好ましい。
【0062】
なお、第1ねじ溝54および第2ねじ溝55の形成(加工)は、上述したような公知のタップを用いた切削加工に限られず、例えば、転造加工や旋削加工、または切削加工を含めたこれらの加工を組み合わせて形成してもよい。また、本実施例においては、ねじ山分断部56が形成される過程を分かりやすく説明するために、貫通孔52の内面に、先に第1ねじ溝54を形成し、後に第2ねじ溝55を形成することとしたが、第2ねじ溝55を先に形成してもよい。この場合であっても、先に第2ねじ溝55が形成された部分において、第1ねじ溝54の形成に伴い形成されるねじ山69,70,71が分断されることとなり、プレート側ねじ部53は、最終的にねじ山分断部56を含め同じ形状になる。
【0063】
次に、上記で例示した骨用ねじ10および骨用プレート50を備える骨治療用具において、骨用ねじ10を、骨用プレート50に対して固定する態様について簡単に説明する。
骨用ねじ10(雄ねじ部(骨用ねじ側ねじ部)12)の軸心(中心軸)と骨用プレート50の貫通孔52の軸心(中心軸)とを略一致させた状態で、骨用ねじ10を回転(ここでは、平面視で右回転)させることにより、雄ねじ部(骨用ねじ側ねじ部)12は、雌ねじ部(プレート側ねじ部)53の第1ねじ溝54内に進入ないし螺合する。本実施例では、雄ねじ部12がテーパねじ部とされているため、雄ねじ部12が第1ねじ溝54内を進入していくと、雄ねじ部12が第1ねじ溝54においてプレート側ねじ部53と係合(螺合)する。このように、雄ねじ部12とプレート側ねじ部53の第1ねじ溝54を螺合させることにより、骨用ねじ10を、骨用プレート50に対して貫通孔52の軸方向に沿った角度(貫通孔52の軸方向を基準に0°の角度)で、貫通孔52の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定することができる。
【0064】
また、骨用ねじ10を、骨用プレート50に対して複数の角度:θ(θは、貫通孔52の軸心:Qと骨用ねじ10の軸心:Pとのなす角度とする(図6参照))で挿入した場合、雄ねじ部12と、プレート側ねじ部53の第1ねじ溝54と第2ねじ溝55とが交差することにより形成されたねじ山分断部56とが圧接ないしは係合(雄ねじ部12と雌ねじ部53(ねじ山分断部56)とがかみ込み)することにより、骨用ねじ10を、骨用プレート50に対して複数の角度(雄ねじ部12と第1ねじ溝54との螺合による固定角度と異なる角度)で、貫通孔52の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定することができる。
【0065】
より具体的には、骨用プレート50の貫通孔52内では、第1ねじ溝54と第2ねじ溝55とが交差しており、またそれによりねじ山分断部56が形成されている。そのため、骨用ねじ10を、骨用プレート50に対して複数の角度で傾けて挿入した場合、骨用ねじ10は、頭部13(テーパ部14)の比較的小径な先端側部分において貫通孔52内に進入するとともに、あるところで雄ねじ部12(ねじ山26,27,28)が第1ねじ溝54と第2ねじ溝55との交差部分に進入し、雄ねじ部12(ねじ山26,27,28)は、ねじ山分断部56に対して、その端部側から圧接ないし係合(かみ込み)することとなる。
【0066】
ここで、本実施例においては、上述したように、ねじ山分断部56は、その周方向(回転方向)の端部に向かって貫通孔52の軸方向における厚さ(肉厚)が薄く(強度が弱く)なっている。そのため、雄ねじ部12(ねじ山26,27,28)が第1ねじ溝54と第2ねじ溝55との交差部分に進入し、ねじ山分断部56の端部と当接した際、抵抗力(雄ねじ部12がねじ山分断部56と当接することにより生じる反力)が最初は小さく、徐々に大きくなっていき、最終的に圧接ないしは係合(かみ込み)状態に至るようになっている。従って、雄ねじ部12とねじ山分断部56との当接時に、抵抗力によって骨用ねじ10の挿入角度がずれることがなく、より精密に骨用ねじ10の挿入角度を調整可能である。なお、雄ねじ部12とねじ山分断部56とが圧接ないしは係合する過程で、ねじ山分断部56の塑性変形(弾性変形を超えた領域での変形)を生じることもある。
【0067】
上述のような実施例の骨用ねじ10(10a,10b)および骨用プレート50を備える骨治療用具(橈骨遠位端用骨治療用具)においては、骨用ねじ10を骨用プレート50に対して複数の角度で、骨用プレート50の貫通孔52の軸方向に移動不可かつ回動不可に固定し易くなっている。その一方、骨用ねじ10を、骨用プレート50に対して傾けて(雄ねじ部12と第1ねじ溝54との螺合による固定角度と異なる角度で)挿入した場合、骨用ねじ10の雄ねじ部(骨用ねじ側ねじ部)12と骨用プレート50のねじ山分断部56とを圧接ないしは係合(かみ込み)させることとなり、骨用ねじ10と骨用プレート50との固定が不安定(意図した箇所で確実に固定することは難しい)となり易い。また、骨用ねじ10の軸心(中心軸)と骨用プレート50の貫通孔52の軸心(中心軸)とを略一致させた状態で、雄ねじ部12を、プレート側ねじ部(雌ねじ部)53の第1ねじ溝54内に進入ないし螺合する場合であっても、骨用ねじ10の一部(頭部13や当該頭部13に形成された雄ねじ部12)が骨用プレート50の下方に突出する可能性がある。これに対し、本実施例の骨用ねじ10(10a,10b)は、頭部13(テーパ部14)の適切な位置に複数の凹部15(起立面16およびエッジ部17を含む)が形成されており、頭部13の先端側部分において、骨を切削するための切り刃部19または骨を切削可能なエッジ部17を備えている。これにより、骨用ねじ10を骨用プレート50に対して固定する際に、骨用ねじ10の一部(頭部13や当該頭部13に形成された雄ねじ部12)が不可避的に骨用プレート50の下方に突出した場合であっても、当該骨用ねじ10の一部と骨との干渉を回避または軽減できる。
【0068】
また、上述の骨用プレート50では、複数の貫通孔52の軸心が相互に傾斜した角度に形成されている。そのため、貫通孔52の軸方向長さがそれぞれ異なり、かつ、同一の貫通孔52であってもその周方向部位によって軸方向長さが異なることがあり、骨用ねじ10の一部(頭部13や当該頭部13に形成された雄ねじ部12)が意図せずに骨用プレートの下方に突出する可能性が高くなっている。これに対し、本実施例の骨用ねじ10(10a,10b)は、頭部13(テーパ部14)の適切な位置に複数の凹部15(起立面16およびエッジ部17を含む)が形成されており、頭部13の先端側部分において、骨を切削するための切り刃部19または骨を切削可能なエッジ部17を備えている。これにより、骨用ねじ10を骨用プレート50に対して固定する際に、骨用ねじ10の一部(頭部13や当該頭部13に形成された雄ねじ部12)が不可避的に骨用プレート50の下方に突出した場合であっても、当該骨用ねじ10の一部と骨との干渉を回避または軽減できる。
【0069】
なお、本発明の骨治療用具および橈骨遠位端用骨治療用具は、例示した骨用プレート50を備えるものに限られるものではない。
【0070】
また、本発明の骨用ねじならびにそれを備える骨治療用具は、例示した橈骨遠位端の治療用に限られず、例えば、CHS(大腿骨近位部骨折)や脊椎、鎖骨、足関節、その他手足の指、歯の形成、人口関節等の治療(修復)用として、用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
10,10a,10b 骨用ねじ
11 軸部
12 雄ねじ部(骨用ねじ側ねじ部)
13 頭部
14 テーパ部
15 凹部
16 起立面
17 エッジ部
18 逃がし部
19 切り刃部
22 第1テーパ部
23 第2テーパ部
50 骨用プレート
51 基板部
52 貫通孔
53 雌ねじ部(骨用プレート側ねじ部)
54 第1ねじ溝
55 第2ねじ溝
56 ねじ山分断部
57 ヘッド部
58 プレート本体部
61 上側凹部
62 下側凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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