(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166872
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】断熱構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20231115BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
E04B1/76 500B
E04B5/43 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077705
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】504411720
【氏名又は名称】株式会社リビングコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】山下 智裕
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001EA01
2E001FA11
2E001FA73
2E001GA11
2E001HA01
2E001HF11
(57)【要約】
【課題】高さが10m以内の4階建ての建築物において、天井高さへの影響を抑えつつ、断熱性能を向上する。
【解決手段】断熱構造1は、高さが10m以内の4階建ての建築物100に適用され、外部と内部とを仕切る外壁120の内面120aから所定範囲のスラブ110に、その他の範囲より天端のレベルが低くなるように形成された欠き込み10に、断熱材20が配置されている。このように、外部と内部とを仕切る外壁120の内面120aから所定範囲に断熱材20を配置することで、熱橋現象を防止可能となり、断熱性能を向上できる。そして、断熱材20を、所定範囲外より天端のレベルが低くなるように形成された欠き込み10に配置することで、断熱材20の厚みにより、天井高さが低くなってしまうのを防止できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さが10m以内の4階建ての建築物に適用される断熱構造であって、
外部と内部とを仕切る壁の内面から所定範囲のスラブに、その他の範囲より天端のレベルが低くなるように形成された欠き込みに、断熱材が配置されていることを特徴とする断熱構造。
【請求項2】
前記スラブは、構造体として規定された所定のスラブに、フカシ部分が加えられており、
前記断熱材が配置される前記欠き込みは、前記フカシ部分に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の断熱構造。
【請求項3】
前記断熱材が配置される前記欠き込みは、前記所定範囲のスラブに、前記その他の範囲より天端のレベルが低くなる段差スラブにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の断熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高さが10m以内の4階建ての建築物に適用される断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物は、建設する地域等によっては高さが10mを超えると、様々な規制にかかることになり(例えば、日影規制の適用除外を定める建築基準法56条の2等)、近隣にも迷惑がかかることになっていた。一般的には、10m以下の多層建築物を建てる場合には、居住性を損なわない階高を確保し、高さを10m以下に収めるために、3階建てとしていた。
【0003】
しかしながら、敷地面積が同じであれば、4階建てとすることで、3階建てに比べて、居住スペースをより広くすることが可能となる。そこで、出願人は、高さが10m以内の4階建ての建築物を提案している(特許文献1参照)。
【0004】
近年、建築物における断熱性能の向上が求められている。詳細には、建築物において、外部と内部を仕切る外壁の内面側に断熱材を配置する場合、外壁のスラブが連なる部分には断熱材を配置できないため、この部分から熱が逃げる熱橋現象が生ずる。このため、熱橋現象を防止するために、スラブにおいて、外壁から所定範囲内に断熱材を配置することが求められる。
【0005】
例えば、特許文献2には、床スラブの上面に断熱ボードを配置して、断熱ボードより高い位置までセルフレベリング材を流し込むことで、断熱ボードを床スラブに位置固定する建築構造物の断熱補強構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3890075号公報
【特許文献2】特開2004-360278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の断熱補強構造では、スラブの上に断熱ボードを敷設し、更にその上からセルフレベリング材を流し込むので、床の仕上厚さが厚くなる。このため、床仕上面から天井までの高さである天井高さが、断熱ボード及びセルフレベリング材で厚くなった分だけ小さくなってしまうという問題がある。
【0008】
高さが10m以内の4階建ての建築物においては、居住性を損なわない天井高さを確保するために、床仕上材の厚さを抑えたいという要望があり、特許文献2の断熱補強構造を採用することはできない。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、高さが10m以内の4階建ての建築物において、天井高さへの影響を抑えつつ、断熱性能を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 高さが10m以内の4階建ての建築物に適用される断熱構造であって、
外部と内部とを仕切る壁の内面から所定範囲のスラブに、その他の範囲より天端のレベルが低くなるように形成された欠き込みに、断熱材が配置されていることを特徴とする断熱構造。
【0011】
(1)の発明では、高さが10m以内の4階建ての建築物に適用される断熱構造は、外部と内部とを仕切る壁の内面から所定範囲のスラブに、その他の範囲より天端のレベルが低くなるように形成された欠き込みに、断熱材が配置されている。
【0012】
このように、外部と内部とを仕切る壁の内面から所定範囲に断熱材を配置することで、熱橋現象を防止可能となり、断熱性能を向上できる。そして、断熱材を、所定範囲外より天端のレベルが低くなるように形成された欠き込みに配置することで、断熱材の厚みにより、天井高さが低くなってしまうのを防止できる。
したがって、高さが10m以内の4階建ての建築物において、天井高さへの影響を抑えつつ、断熱性能を向上することができる。
【0013】
(2) 前記スラブは、構造体として規定された所定のスラブに、フカシ部分が加えられており、
前記断熱材が配置される前記欠き込みは、前記フカシ部分に形成されていることを特徴とする(1)に記載の断熱構造。
【0014】
ここで、構造体として規定された所定のスラブの厚さを小さくすることはできない(欠き込みを形成することができない)。
(2)の発明によれば、構造体として規定された所定のスラブの上に加えられたフカシ部分に欠き込みを形成し、このフカシ部分の欠き込みに断熱材を配置できる。これにより、構造体に影響を与えることなく、かつ、天井高さへの影響を抑えつつ、断熱材を配置することができる。
【0015】
(3) 前記断熱材が配置される前記欠き込みは、前記所定範囲のスラブに、前記その他の範囲より天端のレベルが低くなる段差スラブにより形成されていることを特徴とする(1)に記載の断熱構造。
【0016】
(3)の発明によれば、所定範囲のスラブに、その他の範囲より天端のレベルが低くなる段差スラブにより欠き込みを形成し、このフカシ部分の欠き込みに断熱材を配置できる。これにより、段差スラブを、断熱材を配置する欠き込みとして利用できるので、断熱材を配置するためだけの欠き込みを別に形成する工程を削減できる。よって、より簡易に、天井高さへの影響を抑えつつ、断熱材を配置することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高さが10m以内の4階建ての建築物において、天井高さへの影響を抑えつつ、断熱性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る断熱構造が適用された建築物の概要を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る断熱構造が適用された建築物の居室の断面を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る断熱構造が適用された建築物の居室以外の空間の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。以降の図においては、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号または符号を付している。
【0020】
(高さが10m以内の4階建ての建築物)
図1は、本発明の実施形態に係る断熱構造が適用された建築物の概要を示す図である。
図1において、左側は居住者がより多くの時間を過ごす居室の断面を示すものであり、右側は居住者が一時的に使用する空間である玄関の断面を示すものである。
【0021】
高さが10m以内の4階建ての建築物100は、鉄筋コンクリート造であり、階高(ある階のFLから次の上階のFLまでの高さ)が、2500mm(10m/4)以下となる。また、この規模における建築物100の構造体として規定された所定のスラブ110の厚さは、150mm以上とする必要がある。
【0022】
また、建築物100の居室は、居住者がより多くの時間を過ごすので、居室の天井高(床仕上面から天井仕上面までの高さ)は、低くなるほど、居室での圧迫感がより大きくなるので、より高く(例えば、2300mm以上)し、居住性を向上したいとの要望がある。一方、玄関、廊下、水回り等の居室以外の空間は、居住者が一時的に使用する空間であるため、居室ほどの天井高を確保しなくとも、居住性が低下しない。
【0023】
このような建築物100において、熱橋現象を防止し、断熱性能を向上するには、外部と内部とを仕切る壁の一例である外壁120と、外壁120の内面120aから所定範囲(例えば、内面120aから450mm以上の範囲)のスラブ110の上面及び下面に断熱処理を行う必要がある。
【0024】
また、外壁120の内面120aから所定範囲のスラブ110に断熱処理を行う場合、少なくとも居室におけるスラブ110の上面側は、床となるため、断熱材を配置した上で、段差ができないようにフラットにする必要がある。
【0025】
(断熱構造)
断熱構造1は、外部と内部とを仕切る壁である外壁120の内面120aから所定範囲のスラブ110に、その他の範囲より天端のレベルが低くなるように形成された欠き込み10,10Aに、断熱材20が配置されている。
【0026】
断熱材20は、例えば、断熱モルタルであるが、これに限らず、コンクリートより断熱性能が高く、床仕上材(例えば、木質系床材やタイル等)の下地として用いることができる材料であれば、任意の材料を用いることができる。
【0027】
(居室の断熱構造)
図2は、本発明の実施形態に係る断熱構造が適用された建築物の居室の断面を示す図である。
居室におけるスラブ110は、構造体スラブ111(例えば、厚さ150mm)の上にフカシ部分112(例えば、厚さ20mm)が加えられている。
【0028】
居室におけるスラブ110には、外壁120の内面120aから所定範囲において、フカシ部分112が設けられないことにより、欠き込み10が形成されている。そして、この欠き込み10には、断熱材20が配置される。例えば、断熱材20の厚さを15mmとし、その上に不陸調整材を5mmの厚さで配置することで、スラブ110の欠き込み10が形成された部分以外の部分と面一になり、床仕上材130の下地となる。
【0029】
これにより、居室における床に段差が発生することなく、外壁120の内面120aから所定範囲のスラブ110の上面側を断熱処理できる。
【0030】
このような欠き込み10は、以下のように形成される。
ある階を立ち上げるコンクリート打設時に、欠き込み10の深さ(例えば、20mm等)と同じ厚さの板材を、硬化前のコンクリートに配置し、この板材の上面と硬化前のコンクリートの天端(
図2に示すFL:当該階の基準面となる高さ)とを合わせて、コンクリートを硬化させる。そして、型枠解体時に、当該板材を撤去することで、欠き込み10が形成される。
【0031】
ここで、階高が2500mm(10m/4)以下に制限される場合、床仕上に置き床(二重床)を採用すると、床仕上の必要寸法が嵩み、天井高を圧迫する。このため、本実施形態における床仕上は、床仕上材130(例えば、木質系床材等)を直張りとすることが望ましい。
【0032】
本実施形態の断熱構造1によれば、上記のような構成とすることで、高さが10m以内の4階建ての建築物100において、階高が2500mmしか取れない状況において、構造体スラブ111の厚さ150mm、フカシ部分112(断熱材20)の厚さ20mm、床仕上材130(例えば、木質系床材等)の厚さ15mm、上階スラブ110の下面に天井仕上材140(例えば、ビニールクロス等)を直張りすることで、少なくとも外壁120の内面120aから所定範囲外において、天井高を2315mmとすることができる。
これにより、熱橋現象を防止し、断熱性能を向上しつつ、床に断熱材20を配置したことによる段差が形成されることなく、天井が低いことに起因する圧迫感を低減し、居室における居住性が低下してしまうのを防止できる。
【0033】
(居室以外の空間の断熱構造)
図3は、本発明の実施形態に係る断熱構造が適用された建築物の居室以外の空間の断面を示す図である。
【0034】
居室以外の空間におけるスラブ110には、外壁120の内面120aから所定範囲において、その他の範囲より天端のレベルが低くなる段差スラブにより、欠き込み10Aが形成されている。そして、この欠き込み10Aには、断熱材20が配置される。欠き込み10Aに配置された断熱材20は、その上に配置される床仕上材130Aの下地となる。
【0035】
ここで、一般的に、住宅において玄関の床は、居室や居室に連なる廊下の床より、1段低く仕上られたり、居室や居室に連なる廊下の床の仕上材(例えば、木質系床材等)より、高さ寸法がより大きくなる仕上材(例えば、磁器質タイル等)で仕上られたりする。居室や居室に連なる廊下の床を置き床としていた場合には、スラブの天端が居室部分と玄関部分とで同じ高さであっても、玄関を置き床にしないことで、居室や居室に連なる廊下の床と玄関の床との境界に段差ができるので、玄関を1段低く仕上たり、玄関により高さ寸法がより大きくなる仕上材で仕上ることができる。
【0036】
しかしながら、本実施形態のように、居室や居室に連なる廊下の床を直張りで仕上る仕様において、玄関を1段低く仕上たい場合、スラブ110に段差スラブを形成して、玄関のスラブ110を1段低く仕上ることとなる。また、玄関に、居室の床仕上材130(例えば、高さ寸法が15mm必要な木質系床材等)より大きい高さ寸法が必要となる床仕上材130A(例えば、高さ寸法が45mm必要な磁器質タイル等)を配置したい場合、スラブの天端を居室部分と玄関部分とで同じ高さに形成すると、玄関の床仕上材130Aの仕上面が、居室や居室に連なる廊下の床の仕上面より出っ張ってしまうため、スラブ110に段差スラブを形成して、玄関のスラブ110を1段低く仕上ることとなる。すなわち、居室や居室に連なる廊下の床を直張りで仕上る仕様においては、断熱材20の有無にかかわらず、スラブ110において、居室や居室に連なる廊下と玄関の境界に段差を設ける段差スラブを形成する必要がある。
【0037】
欠き込み10Aは、このようなスラブ110の段差スラブにより形成され、断熱材20が配置される。このように、断熱材20の有無にかかわらず形成する段差スラブを、断熱材20を配置する欠き込み10Aとして利用できるので、断熱材20を配置するためだけの欠き込み10Aを別に形成する工程を削減できる。よって、より簡易に、天井高さへの影響を抑えつつ、断熱材を配置することができる。
【0038】
また、スラブ110の段差スラブの段差の高さ寸法は、例えば、玄関の床仕上材130Aを磁器質タイルとした場合45mmであり、これに断熱材20の厚さを15mmを加えると60mmとなる。
【0039】
上記のとおり、居室におけるスラブ110は、構造体スラブ111(厚さ150mm)の上にフカシ部分112(厚さ20mm)が加えられている。一方、玄関のスラブ110では、フカシ部分112(厚さ20mm)を省略することで、構造体スラブ111の段差の高さ寸法(スラブ110の下面より下階側に突出する高さ寸法)を40mm(60mm-20mm)に抑えることができる。これにより、段差スラブを形成した場合に、断熱処理をしつつ、下階の天井裏のスペースが圧迫されるのを防止できる。
【0040】
スラブ110の下面側には、外壁120の内面120aから所定範囲(例えば、内面120aから450mm以上の範囲)に断熱材21(例えば、合成樹脂発泡材等)を配置するのが望ましい。このような断熱材21は、例えば、外壁120の内面120a側に合成樹脂発泡材を吹き付けるときに、スラブ110の下面側の上記所定範囲まで吹き付けることで、断熱材21が配置される。断熱材21は、石膏ボードにクロスを貼付する天井仕上材により覆うことが望ましい。
【0041】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0042】
1 断熱構造
10,10A 欠き込み
20,21 断熱材
100 建築物
110 スラブ
111 構造体スラブ
112 フカシ部分
120 外壁
130,130A 床仕上材
140 天井仕上材