(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166880
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】耐熱性シリコーン組成物、耐熱性シリコーンシート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20231115BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231115BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/013
C08K9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077717
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 克之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002CP04W
4J002CP12X
4J002DA017
4J002DA027
4J002DE077
4J002DE107
4J002DE147
4J002DF017
4J002DJ017
4J002DK007
4J002DL007
4J002FA042
4J002FA107
4J002FB097
4J002FD012
4J002FD017
4J002FD096
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】有機系耐熱向上剤を使用し、耐熱性の高いシリコーン組成物、耐熱性シリコーンシート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコーンポリマーと耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン組成物であって、前記耐熱性向上剤は、クチナシ色素である。前記耐熱性シリコーン組成物は、グリース状、パテ状、ゲル状、ゴム状から選ばれる少なくとも一つの状態であり、シート成形及びプレス成形から選ばれる少なくとも一つの成形方法によりシート成形し、硬化されていてもよい。クチナシ色素は、クチナシ赤、クチナシ黄、クチナシ青、クチナシ緑などがある。熱伝導シート11a,11bは、電子部品13の熱を放熱する放熱部材として使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンポリマーと耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン組成物であって、
前記耐熱性向上剤は、クチナシ色素であることを特徴とする耐熱性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記クチナシ色素は、シリコーンポリマー100質量部に対して0.00001~10質量部含有されている請求項1に記載の耐熱性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記クチナシ色素は、シリコーンオイルに希釈され添加されている請求項1又は2に記載の耐熱性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記耐熱性シリコーン組成物は、グリース状、パテ状、ゲル状、ゴム状から選ばれる少なくとも一つの状態である請求項1又は2に記載の耐熱性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記耐熱性シリコーン組成物には、さらに無機充填剤及び有機充填剤から選ばれる少なくとも一つの充填剤が含有されている請求項1~4のいずれか1項に記載の耐熱性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記充填剤は、シリコーンポリマー100質量部に対して1~7000質量部含有されている請求項5に記載の耐熱性シリコーン組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性充填剤は、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素及びシリカから選ばれる少なくとも一つの無機粒子である請求項5に記載の耐熱性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記充填剤は無機充填剤であり、少なくとも一部がRaSi(OR’)3-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物のシランカップリング剤で表面処理されている請求項5に記載の耐熱性シリコーン組成物。
【請求項9】
前記無機充填剤100質量部に対し、前記シランカップリング剤は0.01~10質量部付与されている請求項8に記載の耐熱性シリコーン組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の耐熱性シリコーン組成物は、シート成形及びプレス成形から選ばれる少なくとも一つの成形方法によりシートに成形し、硬化されていることを特徴とする耐熱性シリコーンシート。
【請求項11】
請求項10に記載の耐熱性シリコーンシートの製造方法であって、請求項1~9のいずれか1項に記載のシリコーン組成物を混合し、シート成形及びプレス成形から選ばれる少なくとも一つの成形方法により成形し、硬化することを特徴とする耐熱性シリコーンシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性の高いシリコーン組成物、耐熱性シリコーンシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱体との密着性を改善する為に熱伝導性シリコーンシートが使われている。機器の小型化、高性能化、高集積化に伴い熱伝導性シリコーンシートには柔らかさ、高熱伝導性が求められている。特許文献1にはフタロシアニン化合物を含むシリコーン熱伝導性材料が提案されている。特許文献2にはフタロシアニン化合物を含む熱安定性が改善されたゲル材料が提案されている。特許文献3にはSi-O-Ce、Si-O-Ti結合を導入し耐熱性を向上させたシリコーン樹脂が提案されている。特許文献4には有機官能基を有する円盤状多環芳香族を添加した熱伝導材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014-503680号公報
【特許文献2】特表2014-534292号公報
【特許文献3】特開2019-167473号公報
【特許文献4】再表2017-131007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の熱伝導性シリコーンシートは、耐熱性は比較的高いものの、さらに高い耐熱性が要求されていた。具体的には、シリコーンシート高熱伝導化には、充填剤材の充填量増加や高熱伝導充填剤の使用により高温時に硬くなってしまう問題があり、改善が必要であった。同様に、封止剤、断熱剤、電磁波吸収剤などにおいても耐熱性は重要である。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、有機系耐熱向上剤を使用し、耐熱性の高いシリコーン組成物、耐熱性シリコーンシート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シリコーンポリマーと耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン組成物であって、前記耐熱性向上剤は、クチナシ色素であることを特徴とする。
【0007】
本発明の耐熱性シリコーンシートは、シート成形及びプレス成形から選ばれる少なくとも一つの成形方法によりシートに成形し、硬化されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の耐熱性シリコーンシートの製造方法は、前記のシリコーン組成物を混合し、シート成形及びプレス成形から選ばれる少なくとも一つの成形方法により成形し、硬化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、シリコーンポリマーと耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン組成物であって、前記耐熱性向上剤は、クチナシ色素であることにより、耐熱性の高いシリコーン組成物及びシリコーンシートを提供できる。具体的には、高温時にも硬くなりにくい耐熱性シリコーン組成物及び耐熱性シリコーンシートを提供でき、半導体を含む発熱部品にとって大きな利点となる。また、クチナシ色素は食用顔料として知られており、安全性は高く、環境汚染物質を含まず、硬化阻害のおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートの使用方法を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2A-Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、シリコーンポリマーと耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン組成物である。耐熱性向上剤は、クチナシ(Gardenia)色素である。クチナシ色素は、クチナシ赤、クチナシ黄、クチナシ青、クチナシ緑などがあり、いずれも食品添加物として市販されている。これらの色素化合物を加えると耐熱性が向上するメカニズムについては定かではないが、高温で発生する熱ラジカル等の熱分解の原因となる物質をこれらの色素化合物が吸収したり、抑えたりすることによると思われる。
【0012】
一般的な顔料は、金属(銅、硫黄、コバルトなど)を含み、環境関連物質の対象となるものが多く、かつ金属イオンにより半導体などの電子部品に悪影響を与えるものもある。また、硫黄はシリコーンの硬化阻害要因となり避けるべきである。
これに対してクチナシ色素は、食用顔料として知られており、環境汚染することはなく、金属イオンによる電子部品への悪影響はなく、かつシリコーンの硬化阻害の問題もない。
クチナシ色素(黄)の一例として、下記化学式(化1)で示されるクロシン(crocin)が知られている。
【化1】
【0013】
前記クチナシ色素は、シリコーンポリマー100質量部に対して0.00001~10質量部含有されているのが好ましく、より好ましくは0.0001~5質量部であり、さらに好ましくは0.001~5質量部であり、とくに好ましくは0.01~5質量部である。前記の範囲であれば耐熱性が向上する。前記耐熱性向上剤は、シリコーンオイルに希釈され添加されているのが好ましい。これにより均一な組成物とすることができる。他に、温水に希釈することもできる。またクチナシ色素は、シリコーンポリマーとマスターバッチ化して使用しても良い。シリコーンポリマーは、硬化性シリコーンポリマーでも反応基のないシリコーンポリマーでも良く、またその両方を使用したものでも良い。
【0014】
前記耐熱性シリコーン組成物は、グリース状、パテ状、ゲル状、ゴム状が好ましい。グリース状及びパテ状は液状であることから、ディスペンサーに充填して使用するのが好ましい。ゲル状又はゴム状組成物は、シート成形及びプレス成形から選ばれる少なくとも一つの成形方法によりシートに成形し、硬化されているのが好ましい。プレス成形は、それぞれの成形品が異形状にプレス成形されていてもよい。プレス成形は型締め成形ともいわれる。
【0015】
本発明の耐熱性シリコーン組成物には無機充填剤及び有機充填剤から選ばれる少なくとも一つの充填剤が含有されているのが好ましい。充填剤は、耐熱性シリコーンポリマー100質量部に対して1~7000質量部含有されているのが好ましく、より好ましくは10~6000質量部であり、さらに好ましくは50~5000質量部である。
【0016】
シリコーン組成物の硬さや粘度は特に規定されるものではない。非反応性のシリコーンオイルやガムに耐熱添加剤を加えた耐熱性シリコーン組成物の場合、その粘度は0.65mPa・secから100万mPa/secであり、さらに好ましくは50mPa・secから10万mPa/secである。充填剤を含まないシリコーンゲル硬化物として使用するにあたり、硬化後の針入度が20以上であることが好ましく、さらに好ましくは40以上であればシリコーンゲルとしての針入度(柔らかさ)は十分である。充填剤を含んだ柔軟性を持つシート状硬化物として使用するにあたっては、硬化後のアスカーC硬度が70以下であるのが好ましく、さらに好ましくは50以下である。アスカーC硬度が70以下であれば、硬度(軟らかさ)は十分である。さらにシート状硬化物として使用するにあたり、シートが柔らかく部材に挟んで使用する際に、屈曲性が維持できることが重要である。屈曲性としては、軽い力で自在に屈曲できる90°以上に屈曲できることが好ましく、特に熱劣化にともなってシートの屈曲性が落ちない事が好ましい。屈曲性の程度については、30°、さらに好ましくは45°の角度に屈曲できる事が好ましい。さらに、成形加工したシリコーンゴム材料として使用する場合はゴム状を示すことが好ましく、硬さとしてデュロメーターAで20~90であることが好ましく、さらに好ましくは30~80である。シリコーンポリマーを硬化架橋させてシリコーンシート状硬化物を得る場合、その硬化架橋方法は限定されるものではない。アルケニル基とSiH基を付加反応させる方法、過酸化物によりアルケニル基やアルキル基を架橋させる方法、シラノールやアルコキシ基を縮合させる方法、さらにそれらを組み合わせて架橋硬化を行う方法などがある。この中でも白金等の触媒を用いてアルケニル基とSiH基を付加反応させて硬化させる方法が、反応に伴う副生成物が生成せず、反応速度がコントロールでき、成形物の深部までスムーズに硬化反応が進行するなどの点から好ましい。
【0017】
本発明の耐熱性シリコーン組成物はシートに成形されているのが好ましい。シート成形されていると電子部品等へ実装するのに好適である。前記熱伝導性充填剤を含むシート状の耐熱性シリコーンシートの厚みは0.2~10mmの範囲が好ましい。また、熱伝導性シートの熱伝導率は0.8W/m・K以上が好ましく、さらに好ましくは1.0W/m・K以上である。熱伝導率0.8W/m・K以上であれば、発熱部からの熱を放熱体に熱伝導するのに適している。このような耐熱性かつ熱伝導性シリコーンシートはTIM(Thermal Interface Material)用途に好適である。
【0018】
以下、耐熱性シリコーン組成物について一例を説明する。耐熱性シリコーン組成物について、オイル状、ガム状のものについては、下記(E)、(H)成分からなり、(H)成分100質量部に対して、(E)成分が0.001~10質量部含まれる。またゲル状、ラバー状の耐熱性シリコーン組成物又は耐熱性シリコーンシートは(A)~(C)、(E)成分を含み、及び任意成分として(F)(G)(H)成分等を混合し、シート成形し、硬化することが好ましい。また耐熱性かつ熱伝導性シリコーンシートは下記(A)~(E)成分を含み、及び任意成分として(F)(G)(H)成分等を混合し、シート成形し、硬化することが好ましい。
(A)ベースポリマー成分:1分子中にアルケニル基が結合したケイ素原子を平均1個以上含有するオルガノポリシロキサン
(B)架橋成分:1分子中に水素原子が結合したケイ素原子を平均1個以上含有するオルガノポリシロキサンが、前記A成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、0.01~3モル
(C)触媒成分:白金族系金属触媒であり、A成分に対して金属原子重量単位で0.01~1000ppmの量
(D)無機又は有機充填剤:付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対して1~7000質量部
(E)耐熱性向上剤:付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対して0.001~10質量部
(F)シランカップリング剤:付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対してさらに0.1~10質量部添加しても良い。
(G)無機粒子顔料:付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対してさらに0.5~10質量部添加しても良い。
(H)付加硬化反応基を持たないオルガノポリシロキサン:付加硬化型シリコーンポリマー(A成分+B成分)100質量部に対してさらに0.5~50質量部添加しても良い。
【0019】
以下、各成分について説明する。
(1)ベースポリマー成分(A成分)
ベースポリマー成分は、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を1個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、アルケニル基を2個含有するオルガノポリシロキサンは本発明の耐熱性シリコーン組成物および耐熱性シリコーンシートにおける主剤(ベースポリマー成分)である。このオルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有する。粘度は25℃で10~100,000mPa・s、特に100~10,000mPa・sであることが作業性、硬化性などから望ましい。
【0020】
ベースポリマーの例として、下記化学式(化2)で表される1分子中に平均1個以上かつ分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用する。その他の置換基はアルキル基もしくはフェニル基で封鎖された直鎖状または分岐状のオルガノポリシロキサンである。25℃における粘度は10~100,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、このオルガノポリシロキサンは分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよいし、側鎖にアルケニル基を有していても良い。
【化2】
式中、R
1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R
2はアルケニル基であり、kは0又は正の整数である。ここで、R
1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。R
2のアルケニル基としては、例えば炭素原子数2~8、特に2~6のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。前記化学式(化2)において、kは、一般的には0≦k≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦k≦2000、より好ましくは10≦k≦1200を満足する正の整数である。
A成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に例えばビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6のケイ素原子に結合したアルケニル基を3個以上、通常、3~30個、好ましくは、3~20個程度有するオルガノポリシロキサンを併用しても良い。分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10~100,000mPa・s、特に100~10,000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0021】
アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記化学式(化3)で表される分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1~3個のアルケニル基を有し(但し、この分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で3個未満である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を、(例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基として)、少なくとも1個有する直鎖状オルガノポリシロキサンであって)、上記でも述べた通り25℃における粘度が10~100,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【化3】
【0022】
式中、R3は互いに同一又は異種の非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基である。R4は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R5はアルケニル基であり、l,mは0又は正の整数である。ここで、R3の一価炭化水素基としては、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
また、R4の一価炭化水素基としても、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、上記R1の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。R5のアルケニル基としては、例えば炭素数2~8、特に炭素数2~6のものが好ましく、具体的には前記化学式(化2)のR2と同じものが例示され、好ましくはビニル基である。
【0023】
l,mは、一般的には0<l+m≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2000、より好ましくは10≦l+m≦1200で、かつ0<l/(l+m)≦0.2、好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0024】
(2)架橋成分(B成分)
本発明のB成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用するものであり、この成分中のSiH基とA成分中のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであればいずれのものでもよく、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は2~1000、特に2~300程度のものを使用することができる。
【0025】
水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも側鎖でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記化学式(化2)のR1と同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0026】
B成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記化学式(化4)が例示できる。
【0027】
【0028】
上記の式中、R6は互いに同一又は異種のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基、水素原子であり、少なくとも1つは水素原子である。Lは0~1,000の整数、特には0~300の整数であり、Mは1~200の整数である。
【0029】
(3)触媒成分(C成分)
C成分の触媒成分は、本組成物の硬化を促進させる成分である。C成分としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金酸、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族系金属触媒が挙げられる。C成分の配合量は、硬化に必要な量であればよく、所望の硬化速度などに応じて適宜調整することができる。A成分に対して金属原子重量として0.01~1000ppm添加するのが好ましい。
【0030】
(4)無機又は有機充填剤(D成分)
無機充填剤は、熱伝導性無機充填剤、電磁波吸収性無機充填剤、断熱性向上無機充填剤、及び強度向上用無機充填剤から選ばれる少なくとも一つの無機充填剤が好ましい。熱伝導性無機充填剤としては、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、シリカなどがある。これらは単独でもよいし、組み合わせて添加してもよい。電磁波吸収性無機充填剤は、軟磁性金属粉又は酸化物磁性粉(フェライト粉)があり、軟磁性金属粉としては、Fe-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Si-Al合金(センダスト)、Fe-Si-Cr合金、Fe-Ni合金(パーマロイ)、Fe-Ni-Co合金(ミューメタル)、Fe-Ni-Mo合金(スーパーマロイ)、Fe-Co合金、Fe-Si-Al-Cr合金、Fe-Si-B合金、Fe-Si-Co-B合金等の鉄系の合金粉、あるいはカルボニル鉄粉等があり、フェライト粉としては、Mn-Znフェライト、Mn-Mg-Znフェライト、Mg-Cu-Znフェライト、Ni-Znフェライト、Ni-Cu-Znフェライト、Cu-Znフェライト等のスピネル系フェライト、W型、Y型、Z型、M型等の六方晶フェライトがあるが、カルボニル鉄粉を使用するのが好ましい。これらはいずれも磁性粉である。
【0031】
断熱性向上無機充填剤としては、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、カーボンバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーンなどが用いられるが、ガラスバルーンが望ましい。これらはいずれも断熱効果を向上させるものである。前記断熱性向上無機充填剤に代えて、あるいは併用して断熱性向上有機充填剤も使用できる。断熱性向上有機充填剤としては、フェノールバルーン、アクリロニトリルバルーン、塩化ビニリデンバルーンなどがある。
【0032】
強度向上用充填剤としては、シリカ、ガラスファイバー、炭素繊維、セルロースナノファイバー、グラファイト、グラフェン、などがあげられるが、シリカを用いるのが望ましい。これらのはいずれもシリコーン組成物又は硬化シートの強度を向上させる充填材である。
本明細書において、無機充填剤は無機粒子ともいう。
【0033】
熱伝導性充填剤の場合は、付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対して、1~7000質量部、好ましくは100~4000質量部添加するのが好ましい。これにより耐熱性熱伝導性組成物及び耐熱性熱伝導性シートの熱伝導率を0.8W/m・K以上とすることができる。熱伝導充填剤としては、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、及びシリカから選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。形状は球状,鱗片状,多面体状等様々なものを使用できる。熱伝導性充填剤の比表面積は0.06~15m2/gの範囲が好ましい。比表面積はBET比表面積であり、測定方法はJIS R1626にしたがう。平均粒子径を用いる場合は、0.1~100μmの範囲が好ましい。粒子径の測定はレーザー回折光散乱法により、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)を測定する。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。
【0034】
無機充填剤は平均粒子径が異なる少なくとも2つの粒子を併用してもよい。このようにすると大きな粒子径の間に小さな粒子径の粒子が埋まり、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性や断熱性、電磁波吸収性、材料強度などの特性が高くなるからである。
【0035】
前記無機充填剤は、一部または全部がシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。シランカップリング剤は予め無機充填剤と混合し、熱処理して前処理しておいてもよく(前処理法)、ベースポリマーと硬化触媒と無機粒子を混合する際に添加してもよい(インテグラルブレンド法)。前処理法及びインテグラルブレンド法の場合には、無機充填剤100質量部に対し、シランカップリング剤を0.01~10質量部添加するのが好ましい。表面処理することでベースポリマーに充填しやすくなるとともに、無機充填剤へ硬化触媒が吸着されるのを防ぎ、硬化阻害を防止する効果がある。これは保存安定性に有用である。
【0036】
シランカップリング剤は、RaSi(OR’)4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物が好ましい。前記のアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、一例としてメチルトリメトキシラン,エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン,ブチルトリメトキシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサデシルトリメトキシシラン,ヘキサデシルトリエトキシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。表面処理剤として、アルコキシシランと片末端シラノールシロキサンや片末端トリメトキシシリルポリシロキサンを併用してもよい。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。
【0037】
(5)耐熱性向上剤(E成分)
E成分は、粉末のまま添加しても良く、ポリマーとマスターバッチ化して使用しても良い。マスターバッチに使用するポリマーはシリコーンポリマーが好ましく、硬化性シリコーンポリマーでも反応基のないシリコーンポリマーでも良く、またその両方を使用したものでも良い。
【0038】
(6)その他添加剤
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタンなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機粒子顔料を添加しても良い。フィラー表面処理などの目的で添加する材料として、アルコキシ基含有シリコーンを添加しても良い。また、付加硬化反応基を持たないオルガノポリシロキサンを添加しても良い。25℃での粘度が10~100,000mPa・s、特に100~10,000mPa・sであることが作業性から望ましい。
【0039】
本発明の耐熱性シリコーンシートの製造方法は、前記(A)~(C)、(E)成分、及び必要に応じて任意成分を混合して組成物とし、シート成形し、硬化する。シート成形は、全組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに挟み、圧延してシート成形し、80~150℃で10~120分間で硬化させるのが好ましい。
【0040】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートを放熱構造体10に組み込んだ模式的断面図である。熱伝導性シート11bは、半導体素子等の電子部品13の発する熱を放熱するものであり、ヒートスプレッダ12の電子部品13と対峙する主面12aに固定され、電子部品13とヒートスプレッダ12との間に挟持される。また、熱伝導シート11aは、ヒートスプレッダ12とヒートシンク15との間に挟持される。そして、熱伝導シート11a,11bは、ヒートスプレッダ12とともに、電子部品13の熱を放熱する放熱部材を構成する。ヒートスプレッダ12は、例えば方形板状に形成され、電子部品13と対峙する主面12aと、主面12aの外周に沿って立設された側壁12bとを有する。ヒートスプレッダ12は、側壁12bに囲まれた主面12aに熱伝導シート11bが設けられ、また主面12aと反対側の他面12cに熱伝導シート11aを介してヒートシンク15が設けられる。電子部品13は、例えば、BGA等の半導体素子であり、配線基板14に実装されている。
【実施例0041】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記の方法で測定した。
<熱伝導率>
熱伝導性シリコーンシートの熱伝導率は、ホットディスク(ISO 22007-2準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は
図1Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、
図1Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【数1】
<硬度>
JIS K 7312に規定されているゴム硬度計を使用してアスカーC硬度を測定した。
【0042】
(実施例1)
1.原料成分
(1)ベースポリマー
硬化後シリコーンゲルとなる2液付加硬化型シリコーンポリマーを使用した。一方の液(A液)には、ベースポリマー成分(A成分)と白金族系金属触媒(C成分)が含まれており、他方の液(B液)には、ベースポリマー成分(A成分)と架橋剤成分(B成分)であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが含まれている。
(2)耐熱性向上剤
共立食品社製、クチナシ色素(赤)を、ベースポリマー100gに対して2g使用した。
(3)熱伝導性充填剤
熱伝導性充填剤は、球状アルミナ、平均粒子径35μmを、ベースポリマー100gに対して600g添加した。
2.混合及び硬化物成形
前記ベースポリマーと熱伝導性充填剤と前記耐熱性向上剤を均一に混合してコンパウンド(組成物)とした。
このコンパウンド(組成物)をポリエステル(PET)フィルムで挟み、ロールを通してシート成形し、その後、100℃、30分加熱し、シリコーン硬化シートを得た。得られた硬化シートの厚さは2mmであった。
硬化性評価は下記のように判断した。
A:形状保持し、PETフィルムをきれいに剥離できる。
B:粘度は上昇するが、形状保持しない。
C:コンパウンド組成物から粘度が変化しない。
(4)硬度の測定
前記2mmの厚さの硬化シートを5枚重ね合わせ、220℃に加熱したオーブンに投入した。オーブン投入前と100時間後の硬さを、アスカーC硬度計を使用して測定した。
【0043】
(実施例2)
共立食品社製、クチナシ色素(黄)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
【0044】
(実施例3)
共立食品社製、クチナシ色素(青)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
【0045】
(実施例4)
共立食品社製、クチナシ色素(緑)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
【0046】
(比較例1)
クチナシ色素を添加しない以外は実施例1と同様に実施した。
以上の条件と結果を表1~2にまとめて示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表1~2から明らかなとおり、実施例1~4は220℃耐熱試験、100時間後において、硬さ変化は少なく、耐熱性が高いことが確認できた。
これに対して、耐熱性添加剤を含まない比較例1は、硬さ変化が大きく、耐熱性は低くて好ましくなかった。
本発明の耐熱性シリコーン組成物及び耐熱性シリコーンシートは、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適である。とくに、金属原子を含まない耐熱向上剤を使用し、高温時にも硬くなりにくい耐熱性シリコーン組成物及び耐熱性シリコーンシートとすることは、電子・電気部品にとって大きな利点となる。