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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166882
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/46 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
H02P5/46 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077723
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】高木 正志
【テーマコード(参考)】
5H572
【Fターム(参考)】
5H572AA01
5H572BB07
5H572DD03
5H572EE03
5H572GG02
5H572GG04
5H572HB07
5H572HC08
5H572JJ04
5H572JJ23
5H572JJ26
5H572LL22
5H572MM02
5H572MM03
(57)【要約】
【課題】誘導機の車輪軸の空転あるいは滑走の発生を検知する。
【解決手段】制御装置1は、電圧指令vを増幅して、複数の誘導機101,102,103,104それぞれに電力を供給する電力変換器2と、総和電流iと、電圧指令vとに基づき、誘導機磁束φを演算する磁束演算器4と、誘導機磁束φと、総和電流iとに基づき、誘導機速度ωmを演算する速度演算器5と、総和電流iと、誘導機速度ωmと、磁束指令φCと、トルク指令τCとに基づき、電圧指令vを生成するトルク制御部6と、誘導機磁束φを2乗した誘導機磁束2乗値φvol2を演算する磁束2乗演算器7と、誘導機磁束2乗値φvol2と、所定の検知閾値dφXを入力し、複数の誘導機101,102,103,104の内のうちの少なくとも一部における車輪軸の空転または滑走の有無を示す検知信号Kを出力する磁束低下検出部8と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘導機のトルクを制御する制御装置であって、
電圧指令を増幅して、前記複数の誘導機それぞれに電力を供給する電力変換器と、
前記複数の誘導機それぞれに流れる電流の総和である総和電流と、前記電圧指令とに基づき、誘導機磁束を演算する磁束演算器と、
前記誘導機磁束と、前記総和電流とに基づき、誘導機速度を演算する速度演算器と、
前記総和電流と、前記誘導機速度と、前記複数の誘導機の磁束を指示する磁束指令と、前記複数の誘導機のトータルトルクを指示するトルク指令とに基づき、前記複数の誘導機のトルクを一括制御するための前記電圧指令を生成するトルク制御部と、
前記誘導機磁束を2乗した誘導機磁束2乗値を演算する磁束2乗演算器と、
前記誘導機磁束2乗値と、所定の検知閾値を入力し、前記複数の誘導機のうち、少なくとも一部の誘導機の車輪軸の空転または滑走の有無を示す検知信号を出力する磁束低下検出部と、を備える制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記磁束低下検出部は、
前記誘導機磁束2乗値の変化量を示す磁束変化量を演算する変化量演算器と、
前記磁束変化量を前記誘導機磁束2乗値で割り算した磁束変化率を演算する割り算器と、
前記磁束変化率が前記検知閾値以下であれば、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号を出力し、前記磁束変化率が前記検知閾値以上であれば、前記車輪軸の空転または滑走が発生していないことを示す検知信号を出力する比較器と、を備える制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置において、
前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力されると、前記トルク指令を低下させ、前記トルク指令の低下後、前記車輪軸の空転または滑走が発生していないことを示す検知信号が出力されると、前記トルク指令を所定値に戻す、制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の制御装置において、
前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力されると、前記トルク指令を低下させ、前記トルク指令の低下後、前記誘導機磁束2乗値が所定の磁束2乗限界値より大きくなると、前記トルク指令を所定値に戻す、制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の制御装置において、
前記変化量演算器は、前記誘導機磁束2乗値を微分した値に演算周期dtを乗じて値を、前記磁束変化量として出力する、制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の制御装置において、
前記誘導機磁束の大きさである誘導機磁束大きさをφVとし、前記磁束指令をφCとし、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力される場合の前記誘導機磁束大きさφVの前記演算周期dt間の減少量をΔφXとした場合、前記検知閾値は、-2*ΔφX/φCである、制御装置。
【請求項7】
請求項2に記載の制御装置において、
前記変化量演算器は、前記誘導機磁束2乗値と、前記誘導機磁束2乗値の一次遅れとの差を、前記磁束変化量として出力する、制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の制御装置において、
前記誘導機磁束の大きさである誘導機磁束大きさをφVとし、前記一次遅れの時定数をTとし、前記磁束指令をφCとし、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力される場合の前記誘導機磁束大きさφVの前記時定数T間の減少量をΔφYとすると、前記検知閾値は、-2*ΔφY/φCである、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の誘導機のトルク制御を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車(車両)を駆動する誘導機を制御する制御装置の一例として、演算により誘導機の回転速度を求めて、誘導機のトルク制御を行う制御装置が特許文献1に開示されている。このような制御装置によれば、速度センサを用いずに、トルク指令に従って誘導機の制御を行うことができる。
【0003】
図5は、上述したような従来の制御装置1Aの構成例を示す図である。図5に示す制御装置1Aは、複数の誘導機101,102,103,104のトルクを一括して制御するものである。なお、以下では、4つの誘導機101,102,103,104のトルクを制御する例を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、一括制御される誘導機の台数は、2台であってもよいし、3台であってもよいし、5台以上であってもよい。
【0004】
図5に示すように、制御装置1Aは、電力変換器2と、電流検出器3と、磁束演算器4と、速度演算器5と、トルク制御部6とを備える。
【0005】
電力変換器2は、後述するトルク制御部6から出力された電圧指令vを増幅して、負荷である複数の誘導機101,102,103,104それぞれに電力を供給する。
【0006】
電流検出器3は、電力変換器2につながる誘導機101,102,103,104それぞれに流れる電流の相ごとの総和である総和電流iを検出する。電流検出器3は、総和電流の検出結果を、磁束演算器4、速度演算器5およびトルク制御部6に出力する。
【0007】
磁束演算器4は、電流検出器3により検出された総和電流iと、電圧指令vとに基づき、以下の式(2)により、誘導機磁束φを演算する。
【0008】
【数1】
【0009】
式(1)において、R1は誘導機101,102,103,104の一次抵抗合成値であり、L2は誘導機101,102,103,104の二次自己インダクタンス合成値であり、Mは誘導機101,102,103,104の相互インダクタンス合成値であり、Lekは誘導機101,102,103,104の漏れインダクタンス合成値である。漏れインダクタンス合成値Lekは、以下の式(2)で与えられる。
【0010】
【数2】
【0011】
式(2)において、L1は誘導機101,102,103,104の一次自己インダクタンス合成値である。
【0012】
磁束演算器4は、誘導機磁束φの演算結果を速度演算器5に出力する。
【0013】
速度演算器5は、磁束演算器4により演算された誘導機磁束φと、電流検出器3により検出された総和電流iとに基づき、以下の式(3)~式(5)により誘導機速度ωmを演算する。
【0014】
【数3】
【0015】
式(3)~式(5)において、R2は誘導機101,102,103,104の二次抵抗合成値であり、FAおよびFBは誘導機磁束φの成分である。
【0016】
式(5)により演算される誘導機速度ωmは、誘導機101,102,103,104それぞれの速度の平均値であり、以下の式(6)で示される値である。
ωm=(ωm1+ωm2+ωm3+ωm4)/4 式(6)
【0017】
式(6)において、ωm1は誘導機101の速度であり、ωm2は誘導機102の速度であり、ωm3は誘導機103の速度であり、ωm4は誘導機104の速度である。
【0018】
速度演算器5は、誘導機速度ωmの演算結果をトルク制御部6に出力する。
【0019】
トルク制御部6は、電流検出器2により検出された総和電流iと、速度演算器5により演算された誘導機速度ωmと、誘導機101,102,103,104のトータルトルクを指示するトルク指令τCと、誘導機101,102,103,104の磁束を指示する磁束指令φCとに基づき、誘導機101,102,103,104のトルクを一括制御するための電圧指令vを生成する。具体的には、トルク制御部6は、誘導機101,102,103,104の磁束およびトータルトルクがそれぞれ、磁束指令φCおよびトルク指令τCと一致するような電圧指令vを生成する。トルク制御部6は、生成した電圧指令vを、電力変換器2および磁束演算器4に出力する。
【0020】
従来の制御装置1Aによれば、上述した構成により、複数の誘導機101,102,103,104のトータルトルクをトルク指令τCに追従させることができる。
【0021】
車両においては、台車制御、1車両制御が一般的であるため、図5に示すような制御装置1Aによる複数の誘導機のトルクの一括制御が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平成11-069895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
車両において、一括制御されている誘導機の一部の車輪軸が空転し、例えば、誘導機103の速度ωm3が、誘導機101の速度ωm1、誘導機102の速度ωm2および誘導機104の速度ωm4に比べて大きくなることがある。この場合、式(6)によれば、誘導機101の速度ωm1、誘導機102の速度ωm2、誘導機103の速度ωm3および誘導機104の速度ωm4に対する誘導機速度ωmの演算誤差が発生する。誘導機103の空転が大きく、誘導機速度ωmの演算誤差が大きくなると、誘導機103が脱調状態となる。誘導機103の空転がさらに大きくなれば、誘導機103だけでなく、誘導機101,102,104も脱調状態となってしまう。また、一部の誘導機の車輪軸の滑走が大きくなった場合にも、空転時と同じく、誘導機が脱調状態になる可能性がある。
【0024】
誘導機が脱調状態になると、トルク制御が不能となり、最悪の場合、過電流あるいは過電圧により、誘導機の破壊あるいは電力変換器2を構成する素子の破壊につながる。
【0025】
そのため、複数の誘導機のトルクを一括制御する場合に、誘導機の車輪軸の空転あるいは滑走の発生を検知する技術が求められている。
【0026】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、複数の誘導機のトルクを一括制御する場合に、誘導機の車輪軸の空転あるいは滑走の発生を検知することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するため、本発明に係る制御装置は、複数の誘導機のトルクを制御する制御装置であって、電圧指令を増幅して、前記複数の誘導機それぞれに電力を供給する電力変換器と、前記複数の誘導機それぞれに流れる電流の総和である総和電流と、前記電圧指令とに基づき、誘導機磁束を演算する磁束演算器と、前記誘導機磁束と、前記総和電流とに基づき、誘導機速度を演算する速度演算器と、前記総和電流と、前記誘導機速度と、前記複数の誘導機の磁束を指示する磁束指令と、前記複数の誘導機のトータルトルクを指示するトルク指令とに基づき、前記複数の誘導機のトルクを一括制御するための前記電圧指令を生成するトルク制御部と、前記誘導機磁束を2乗した誘導機磁束2乗値を演算する磁束2乗演算器と、前記誘導機磁束2乗値と、所定の検知閾値を入力し、前記複数の誘導機のうち、少なくとも一部の誘導機の車輪軸の空転または滑走の有無を示す検知信号を出力する磁束低下検出部と、を備える。
【0028】
また、本発明に係る制御装置において、前記磁束低下検出部は、前記誘導機磁束2乗値の変化量を示す磁束変化量を演算する変化量演算器と、前記磁束変化量を前記誘導機磁束2乗値で割り算した磁束変化率を演算する割り算器と、前記磁束変化率が前記検知閾値以下であれば、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号を出力し、前記磁束変化率が前記検知閾値以上であれば、前記車輪軸の空転または滑走が発生していないことを示す検知信号を出力する比較器と、を備える。
【0029】
また、本発明に係る制御装置において、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力されると、前記トルク指令を低下させ、前記トルク指令の低下後、前記車輪軸の空転または滑走が発生していないことを示す検知信号が出力されると、前記トルク指令を所定値に戻す。
【0030】
また、本発明に係る制御装置において、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力されると、前記トルク指令を低下させ、前記トルク指令の低下後、前記誘導機磁束2乗値が所定の磁束2乗限界値より大きくなると、前記トルク指令を所定値に戻す。
【0031】
また、本発明に係る制御装置において、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力されると、前記トルク指令を低下させ、前記トルク指令の低下後、前記誘導機磁束2乗値が所定の磁束2乗限界値より大きくなると、前記トルク指令を所定値に戻す。
【0032】
また、本発明に係る制御装置において、前記変化量演算器は、前記誘導機磁束2乗値を微分した値に演算周期dtを乗じて値を、前記磁束変化量として出力する。
【0033】
また、本発明に係る制御装置において、前記誘導機磁束の大きさである誘導機磁束大きさをφVとし、前記磁束指令をφCとし、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力される場合の前記誘導機磁束大きさφVの前記演算周期dt間の減少量をΔφXとした場合、前記検知閾値は、-2*ΔφX/φCである。
【0034】
また、本発明に係る制御装置において、前記変化量演算器は、前記誘導機磁束2乗値と、前記誘導機磁束2乗値の一次遅れとの差を、前記磁束変化量として出力する。
【0035】
また、本発明に係る制御装置において、前記誘導機磁束の大きさである誘導機磁束大きさをφVとし、前記一次遅れの時定数をTとし、前記磁束指令をφCとし、前記車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号が出力される場合の前記誘導機磁束大きさφVの前記時定数T間の減少量をΔφYとすると、前記検知閾値は、-2*ΔφY/φCである。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る制御装置によれば、複数の誘導機のトルクを一括制御する場合に、誘導機の車輪軸の空転あるいは滑走の発生を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置の構成例を示す図である。
図2図1に示す磁束低下検出部の構成例を示す図である。
図3図2に示す変化量演算器の構成例を示す図である。
図4図2に示す変化量演算器の別の構成例を示す図である。
図5】従来の制御装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置1の構成例を示す図である。本実施形態に係る制御装置1は、複数の誘導機101,102,103,104のトルクを一括して制御するものである。なお、以下では、4台の誘導機101,102,103,104のトルクを制御する例を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、制御装置1は、2台、3台あるいは5台以上の誘導機のトルクを一括制御してもよい。図1において、図5と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0040】
図1に示すように、本実施形態に係る制御装置1は、電力変換器2と、電流検出器3と、磁束演算器4と、速度演算器5と、トルク制御部6と、磁束2乗演算器7と、磁束低下検出部8とを備える。図1に示す制御装置1は、図5に示す制御装置1Aと比較して、磁束2乗演算器7および磁束低下検出部8を追加した点が異なる。
【0041】
磁束2乗演算器7は、磁束演算器4による誘導機磁束φの演算結果が入力される。磁束2乗演算器7は、以下の式(7)により、誘導機磁束φを2乗した誘導機磁束2乗値φvol2を演算する。
【0042】
【数4】
【0043】
磁束2乗演算器7は、誘導機磁束2乗値φvol2の演算結果を磁束低下検出部8に出力する。
【0044】
磁束低下検出部8は、磁束2乗演算器7により演算された誘導機磁束φvol2と、所定の検知閾値dφXとを入力し、検知信号Kを出力する。検知信号Kは、制御装置1がトルクを制御する複数の誘導機101,102,103,104の内の少なくとも一部における車輪軸の空転または滑走の有無を示す信号である。
【0045】
例えば、複数の誘導機101,102,103,104の内、誘導機103の車輪軸が空転し、誘導機101,102,104の速度ωm1,ωm2,ωm4に対して、誘導機103の速度ωm3が大きくなったとする。この場合、速度演算誤差は、ωm>ωm1、ωm>ωm2、ωm>ωm4、ωm<ωm3となる。その結果、トルク指令τCおよび磁束指令φCから予定されるすべり指令ωsに対して、誘導機101,102,104の実すべりは大きくなり、誘導機103の実すべりは小さくなる。
【0046】
この状態で、総和電圧iが一定となるようにトルク制御部6がトルク制御を行うと、トータルトルクはトルク指令τCに一致するが、誘導機101,102,103,104それぞれの磁束大きさは磁束指令φCと異なる。具体的には、誘導機101,102,104の磁束大きさは、磁束指令φCより小さくなる。また、誘導機103の磁束大きさは、空転の度合いによるが、空転が大きければ、磁束指令φCより小さくなる。その結果、誘導機磁束φの大きさである誘導機磁束大きさφVが磁束指令φCより小さくなる。磁束低下検出部8は、上述した誘導機磁束大きさφVが磁束指令φCよりも小さくなることを利用し、検知信号Kを生成する。ここでは空転を例としたが、滑走の場合も同様である。
【0047】
なお、磁束低下検出部8は、以下の式(8)により、誘導機磁束大きさφVを演算する。
【0048】
【数5】
【0049】
図2は、磁束低下検出部8の構成例を示す図である。
【0050】
図2に示すように、磁束低下検出部8は、変化量演算器81と、割り算器82と、比較器83とを備える。
【0051】
変化量演算器81は、磁束2乗演算器7により演算された誘導機磁束2乗値φvol2が入力される。変化量演算器81は、入力された誘導機磁束2乗値φvol2に基づき、以下の式(9)により、誘導機磁束2乗値φvol2の変化量を示す磁束変化量dφ2を演算する。
【0052】
【数6】
【0053】
式(9)において、d(φvol2)は誘導機磁束2乗値φvol2の変化量を示し、d(φvol2)を磁束変化量dφ2とする。また、d(φV)をΔφとすると、式(9)は以下の式(10)で表される。なお、式(10)において、Δφは誘導機磁束大きさφVの変化量である。
【0054】
【数7】
【0055】
変化量演算器81は、磁束変化量dφ2の演算結果を割り算器82に出力する。
【0056】
割り算器82は、磁束2乗演算器7により演算された誘導機磁束2乗値φvol2と、変化量演算器81により演算された磁束変化量dφ2とが入力される。割り算器82は、以下の式(11)により、磁束変化率dφを演算する。
【0057】
【数8】
【0058】
すなわち、割り算器82は、磁束変化量dφ2を誘導機磁束2乗値φvol2で割り算した磁束変化率dφを演算する。
【0059】
式(11)を変形すると、以下の式(12)で表される。
【0060】
【数9】
【0061】
式(12)は、磁束変化率dφを、誘導機磁束大きさφVと、誘導機磁束大きさφVの変化量Δφとで表したものである。
【0062】
割り算器82は、磁束変化率dφの演算結果を比較器83に出力する。
【0063】
比較器83は、割り算器82により演算された磁束変化率dφと、検知閾値dφXとが入力される。比較器83は、磁束変化率dφが検知閾値dφX以下であれば、車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号Kを出力する(検知信号KをONとする)。また、比較器83は、磁束変化率dφが検知閾値dφX以上であれば、車輪軸の空転または滑走が発生していないことを示す検知信号Kを出力する(検知信号KをOFFとする)。なお、検知閾値dφXとしてはマイナス値が設定される。
【0064】
電圧飽和領域の弱励磁運転において、誘導機磁束大きさφVは変化するが、誘導機磁束大きさφVの変化量Δφは、0または微小値(加速時は微小マイナス値、減速時は微小プラス値)である。検知閾値dφXを弱励磁運転時の誘導機磁束大きさφVの変化量Δφを鑑みて設定すれば、検知信号KはOFFのままである。検知閾値dφXは、検知したい空転あるいは滑走の度合いと、弱励磁運転時の誘導機磁束大きさφVの変化量Δφとの兼ね合いで決定すればよい。
【0065】
複数の誘導機101,102,103,104の内の一部において車輪軸の空転あるいは滑走が発生している場合、誘導機磁束大きさφVが減少する。そのため、誘導機磁束大きさφVの変化量Δφはマイナス値となる。空転あるいは滑走の度合いによって、誘導機磁束大きさφVの変化量Δφの大きさは異なる。空転あるいは滑走の度合いが大きいほど、誘導機磁束大きさφVの変化量Δφの大きさは大きくなる。検知閾値dφXを検知したい空転あるいは滑走の度合いに合わせて設定することで、所望の空転あるいは滑走の度合いとなった時点で検知信号KがONとなる。
【0066】
誘導機の運転OFFのために磁束指令φCを絞る運転を実施し、誘導機磁束φが二次時定数L2/R2の一次遅れで減少した場合、誘導機磁束φの絞りはじめは、誘導機磁束大きさφVの変化量Δφは一旦マイナスとなるが、すぐに誘導機磁束大きさφVの変化量Δφは0に向かう。誘導機磁束φの絞りはじめの誘導機磁束大きさφVの変化量Δφの大きさを考慮して検知閾値dφXを設定することで、検知信号KはOFFのままとなる。さらに、図2に示す磁束低下検出部8の最終段(比較器83の後段)に時素を挿入すれば、検知閾値dφXの大きさを小さくすることができる。検知閾値dφXは、検知したい空転あるいは滑走の度合いと、誘導機の運転OFFのために磁束指令φCを絞る運転を実施する際の誘導機磁束大きさφVの変化量Δφとの兼ね合いで設定すればよい。
【0067】
図1,2を参照して説明したように、本実施形態に係る制御装置1においては、複数の誘導機101,102,103,104の内の一部において車輪軸の空転あるいは滑走が発生した場合、検知信号KがONとなり、誘導機101,102,103,104いずれにおいても車輪軸の空転あるいは滑走が発生してない場合、検知信号KがOFFとなる。また、検知閾値dφXを適切に設定することにより、電圧飽和時の弱励磁運転、あるいは、運転OFFのために磁束指令φCを絞る運転を実施する際に、複数の誘導機101,102,103,104の内の一部における車輪軸の空転あるいは滑走の誤検知を防ぐことができる。
【0068】
誘導機101,102,103,104の全てあるいはいずれかにかかわらず、車輪軸の空転あるいは滑走は、車輪トルクが路面摩擦力に対して大きすぎることにより発生する。そのため、空転あるいは滑走を治めるためには車輪トルクを下げる必要がある。
【0069】
そこで、本実施形態に係る制御装置1においては、検知信号KがONになると、トルク指令τCを低下させる。トルク指令τCを減らす方法は、ステップ、ジャーク、一次遅れなど種々の方法が考えられる。路面摩擦力が上がると、空転あるいは滑走の度合いが小さくなり、検知信号KはOFFになる。本実施形態に係る制御装置1においては、検知信号がOFFになると、トルク指令τCを所定値(例えば、誘導機の加減速特性を元に設計されたトルク指令値)まで復帰させる。トルク指令τCの復帰方法は、ステップ、ジャーク、一次遅れなど種々の方法が考えられる。
【0070】
このように本実施形態に係る制御装置1においては、車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号Kが出力されると(検知信号KがONになると)、トルク指令τCを低下させる。また、本実施形態に係る制御装置1においては、トルク指令τCの低下後、車輪軸の空転または滑走が発生していないことを示す検知信号Kが出力されると(検知信号KがOFFになると)、トルク指令τCを所定値に戻す。検知信号KがONになると、トルク指令τCを低下させることで、空転あるいは滑走を治めることができる。また、トルク指令τCの低下後、検知信号KがOFFになると、トルク指令τCを所定値に戻すことで、誘導機101,102,103,104が脱調状態となることを防ぎ、過電流あるいは過電圧の発生を防ぐことができる。
【0071】
また、本実施形態に係る制御装置1においては、トルク指令τCを低下させることで、路面摩擦力が上がり、誘導機磁束2乗値φvol2が所定の磁束2乗限界値より大きくなると、トルク指令τCを所定値まで復帰させてもよい。ここで、磁束2乗限界値は、例えば、速度演算器5の演算精度に応じて設定される値である。こうすることによっても、誘導機101,102,103,104が脱調状態となることを防ぎ、過電流あるいは過電圧の発生を防ぐことができる。磁束2乗限界値は、例えば、速度演算器5の演算精度によって決めればよい。
【0072】
図3は、変化量演算器81の構成例を示す図である。
【0073】
図3に示す変化量演算器81は、微分演算器811と、乗算器812とを備える。
【0074】
微分演算器811は、磁束2乗演算器7により演算された誘導機磁束2乗値φvol2が入力される。微分演算器811は、上述した式(9)に示される演算を行い、演算結果を乗算器812に出力する。すなわち、微分演算器811は、誘導機磁束2乗値φvol2を微分して、乗算器812に出力する。
【0075】
乗算器812は、微分演算器811の出力に対して演算周期dtを乗算し、磁束変化量dφ2として出力する。
【0076】
このように、図3に示す変化量演算器81は、誘導機磁束2乗値φvol2を微分した値に演算周期dtを乗じた値を、磁束変化量dφ2として出力する。
【0077】
図3に示す変化量演算器81により得られる磁束変化量dφ2は、演算周期dt間の誘導機磁束2乗値φvol2の変化量を表す。検知信号KをONとする空転あるいは滑走の度合いを決定し、その場合における誘導機磁束大きさφVの演算周期dt間の減少量をΔφXとすると、検知閾値dφXは、磁束指令φCを用いて、以下の式(13)により演算することができる。
【0078】
【数10】
【0079】
すなわち、変化量演算器81が図3に示す構成である場合、誘導機磁束大きさをφVとし、磁束指令をφCとし、車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号Kが出力される場合の誘導機磁束大きさφVの演算周期dt間の減少量をΔφX(正値)とすると、検知閾値dφXは、-2*ΔφX/φCと決定する。
【0080】
検知閾値dφXを式(13)に基づき決定することで、検知したい空転あるいは滑走の度合いで検知信号KをONとすることができる。なお、式(13)において、磁束指令φCの代わりに、検知信号KがOFF時の誘導機磁束大きさφVを用いてもよい。この場合、検知信号KがONとなった時の検知閾値dφXが保持され、その後、検知信号がOFF時に式(13)の値は誘導機磁束大きさφVに依存する。
【0081】
図4は、変化量演算器81の別の構成例を示す図である。
【0082】
図4に示す変化量演算器81は、一次遅れ演算器813と、減算器814とを備える。
【0083】
一次遅れ演算器813は、磁束2乗演算器7により演算された誘導機磁束2乗値φvol2が入力される。一次遅れ演算器813は、誘導機磁束2乗値φvol2に時定数Tの一次遅れを与えて、減算器814に出力する。
【0084】
減算器814は、磁束2乗演算器7により演算された誘導機磁束2乗値φvol2から、一次遅れ演算器813の出力値を減じて、磁束変化量dφ2として出力する。
【0085】
このように、図4に示す変化量演算器81は、誘導機磁束2乗値φvol2と、誘導機磁束2乗値φvol2の一次遅れとの差を、磁束変化量dφ2として出力する。
【0086】
図4に示す変化量演算器81により得られる磁束変化量dφ2は、時間T間の誘導機磁束2乗値φvol2の変化量を表す。検知信号KをONとする空転あるいは滑走の度合いを決定し、その場合における誘導機磁束大きさφVの時間T間の減少量をΔφY(正値)とすると、検知閾値dφXは、磁束指令φCを用いて、以下の式(14)により演算することができる。
【0087】
【数10】
【0088】
すなわち、変化量演算器81が図4に示す構成である場合、誘導機磁束大きさをφVとし、一次遅れの時定数をTとし、磁束指令をφCとし、車輪軸の空転または滑走が発生したことを示す検知信号Kが出力される場合の誘導機磁束大きさφVの時定数T間の減少量をΔφYとすると、検知閾値dφXは、-2*ΔφY/φCと決定する。
【0089】
検知閾値dφXを式(14)に基づき決定することで、検知したい空転あるいは滑走の度合いで検知信号KをONとすることができる。なお、式(14)において、磁束指令φCの代わりに、検知信号KがOFF時の誘導機磁束大きさφVを用いてもよい。この場合、検知信号KがONとなった時の検知閾値dφXが保持され、その後、検知信号がOFF時に式(14)の値は誘導機磁束大きさφVに依存する。また、演算周期dt<時定数Tである場合、図4図3とで演算周期dtが同じであれば、図4に示す変化量演算器81の方が、図3に示す変化量演算器81よりも誤検知を少なくすることができる。
【0090】
本発明は、トルクの一括制御の対象である複数の誘導機101,102,103,104の内の一部における車輪軸の空転あるいは滑走により速度演算誤差が生じた場合だけでなく、トルクの一括制御の対象である複数の誘導機101,102,103,104における軸速度に差が生じた場合にも、適用可能である。
【0091】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1,1A 制御装置
2 電力変換器
3 電流検出器
4 磁束演算器
5 速度演算器
6 トルク制御部
7 磁束2乗演算器
8 磁束低下検出部
81 変化量演算器
82 割り算器
83 比較器
811 微分演算器
812 乗算器
813 一次遅れ演算器
814 減算器
101,102,103,104 誘導機
図1
図2
図3
図4
図5