(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166883
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】カムクラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
F16D41/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077724
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】中川 栄一
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 翼
(72)【発明者】
【氏名】榑松 勇二
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡単な構成で、高精度の制御を不要とするとともに、小さな駆動力で動作可能であり、カム面や内外輪軌道面を傷めることが少ないカムクラッチを提供すること。
【解決手段】内輪110と外輪120の間にケージ部材150に支持され周方向に配置されている複数のカム140と、カム140の姿勢を変更可能なセレクタとを備えたカムクラッチであって、セレクタは、ケージ部材150が固定された内輪110又は外輪120と相対的な回転角の制御が可能な被駆動部171と、弾性機構により被駆動部171と周方向に弾性的に変位可能なセレクタ本体部175とを備え、セレクタ本体部175は、カム140と接触してカム140の姿勢を変更可能なカム姿勢制御凸部を有する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪の間に周方向に配置されている複数のカムと、前記内輪又は前記外輪と回転方向に固定され複数のカムを支持するケージ部材と、前記カムの姿勢を変更可能なセレクタとを備えたカムクラッチであって、
前記セレクタは、前記ケージ部材が回転方向に固定された前記内輪又は前記外輪との相対的な回転角の制御が可能な被駆動部と、弾性機構により前記被駆動部と周方向に弾性的に変位可能なセレクタ本体部とを備え、
前記セレクタ本体部は、前記カムと接触して前記カムの姿勢を変更可能なカム姿勢制御凸部を有することを特徴とするカムクラッチ。
【請求項2】
前記弾性機構は、前記セレクタ本体部と前記被駆動部の一方に設けられた弾性部材収容部と、他方に設けられ前記弾性部材収容部に挿入される圧縮ピンを有することを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【請求項3】
前記セレクタ本体部と前記被駆動部の一方には周方向の長穴を有し、他方には前記長穴と嵌合して前記セレクタ本体部と前記被駆動部との変位角度を規制する位置決めピンを有することを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【請求項4】
前記カム姿勢制御凸部は、前記カムの前記内輪又は前記外輪と接触するカム面と回転軸方向に異なる位置で前記カムと接触可能に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【請求項5】
前記内輪、外輪、複数のカム及びケージ部材が、前記セレクタを挟んで回転軸方向に複数組設けられ、
前記セレクタが、回転軸方向の両側のカムに対してそれぞれセレクタ本体部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のカムクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外輪及び内輪の相対的な回転動作を許容するフリー状態と、外輪及び内輪の相対的な回転動作を禁止するロック状態とを切り換え可能に構成されたカムクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
回転力の伝達と遮断を制御するクラッチとして、内輪及び外輪の相対的な回転動作を禁止(回転力を伝達)するロック状態と、内輪及び外輪の相対的な回転動作を許容(回転力を遮断)するフリー状態との切り換えを、カム又はスプラグの姿勢を強制的に変更して行うカムクラッチが公知である。
【0003】
例えば、特許文献1には、内輪と外輪の間の周方向に設けられた複数のカムを強制的に傾倒させる手段として複数のピン部材を備えたカム姿勢変更部を有し、ピン部材が相対的に周方向に移動してカムの側面を周方向に押圧することで、カムの姿勢を強制的に変更するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのカムクラッチにおいては、ロック状態からフリー状態に切り替える際に、カムによるトルク伝達がされている状態ではカムの姿勢変更に大きな駆動力を必要とし、トルク伝達中に切り替えを行うと駆動源に大きな負担をかけてしまう虞があった。
また、カムの姿勢を変化させるための機構やアクチュエータも駆動力に応じて大型化する必要があり、カム面や内外輪軌道面を傷めるおそれもあった。
【0006】
特許文献1で公知のカムクラッチは、応答性が高く、所期のトルク容量を確保できるものであり、ピン部材がピンの傾動中心から離れた位置にあることでカムの姿勢変更のためにある程度大きな駆動力を発生することが可能であるが、各ピンの相対的な位置を高精度に確保する必要があり、また、カムの姿勢変更時にカム姿勢変更部の回転角度を高精度に制御する必要があった。
【0007】
本発明は、これらの問題点を解決するものであって、簡単な構成で、高精度の制御を不要とするとともに、小さな駆動力で動作可能であり、カム面や内外輪軌道面を傷めることが少ないカムクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪の間に周方向に配置されている複数のカムと、前記内輪又は前記外輪と回転方向に固定され複数のカムを支持するケージ部材と、前記カムの姿勢を変更可能なセレクタとを備えたカムクラッチであって、前記セレクタは、前記ケージ部材が回転方向に固定された前記内輪又は前記外輪と相対的な回転角の制御が可能な被駆動部と、前記被駆動部と周方向に弾性的に変位可能なセレクタ本体部とを備え、前記セレクタ本体部は、前記カムと接触して前記カムの姿勢を変更可能なカム姿勢凸部を有することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本請求項1に係る発明によれば、セレクタが、ケージ部材が回転方向に固定された内輪又は外輪との相対的な回転角の制御が可能な被駆動部と、被駆動部と周方向に弾性的に変位可能なセレクタ本体部とを備えることにより、被駆動部の回転角の高精度の制御が不要となる。
また、クラッチの残留トルクがある場合、弾性によって残留トルクが低下し所定のトルク値以下でカムの姿勢を制御することができ、小さな駆動力でよく、カム面や内外輪軌道面を傷めることが少ない。
【0010】
本請求項2に係る構成によれば、周方向の弾性的な変位を簡単な構造で実現することができる。
本請求項3に係る構成発明によれば、セレクタ本体部と被駆動部の一方には周方向の長穴を有し、他方には長穴と嵌合してセレクタ本体部と被駆動部との変位角度を規制する位置決めピンを有することにより、弾性部材の変形量を所定範囲に規制することができ、弾性部材の変形過多による撓みや捻じれ防止され、セレクタの耐久性が向上する。
【0011】
本請求項4に係る構成によれば、カム姿勢制御凸部は、カムの内輪又は外輪と接触するカム面と回転軸方向に異なる位置でカムと接触可能に配置されていることにより、セレクタの切り替え角を高精度に制御することなく大きくとることができ、各寸法公差、制御誤差に左右されずに確実な動作が可能となる。
本請求項5に係る構成によれば、内輪、外輪、複数のカム及びケージ部材が、セレクタを挟んで回転軸方向に複数組設けられ、セレクタが、回転軸方向の両側のカムに対してそれぞれセレクタ本体部を有することにより、1つのセレクタを駆動してその回動位置で両側のカムクラッチの動作をそれぞれ制御でき、簡単な構成で複数の状態の切替可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るカムクラッチの斜視図。
【
図2】
図1に示すカムクラッチのケースを外した斜視図。
【
図3】
図2に示すカムクラッチの内輪及び外輪を外した斜視図。
【
図4】
図3に示すカムクラッチのケージ及びアクチュエータを外した斜視図。
【
図5】
図1に示すカムクラッチのセレクタの斜視図。
【
図7】本発明の第1実施形態に係るカムクラッチのセレクタ本体部の別方向からの斜視図。
【
図8】本発明の第1実施形態に係るカムクラッチの断面斜視図。
【
図10】本発明の第2実施形態に係るカムクラッチの断面斜視図。
【
図11】本発明の第3実施形態に係るカムクラッチの断面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施例を
図1~
図11を参照して説明する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例0014】
本発明の第1実施形態に係るカムクラッチ100は、
図1~
図8に示すように、同一軸上に相対回転可能に設けられる内輪110及び外輪120と、内輪110と外輪120との間で動力の伝達及び遮断を行う複数のカム140と、外輪120と回転方向に固定され複数のカム140を支持するケージ部材150と、外輪120と相対的な回転角の制御が可能でカム140のカム面と接触するとともにカム140の姿勢を変更可能なカム姿勢制御凸部176を有するセレクタ170を備えている。
さらに、内輪110と外輪120の間に、間隔保持部材として内輪110の外周面及び外輪120の内周面と転動するよう配置されている複数のローラ149を有し、ケージ部材150によって、複数のカム140及び複数のローラ149が各々を同一円周上において周方向に所定の間隔を空けて支持される。
【0015】
また、複数のカム140及び複数のローラ149は、付勢手段130によって、内輪110側に付勢されている。
なお、間隔保持部材は、内輪110の外周面及び外輪120の内周面と摺動するよう配置されたブロック部材であってもよく、間隔保持部材がケージ部材150に固定され、あるいはケージ部材150と一体に形成されていてもよく、間隔保持部材を設けないものであってもよい。
また、本実施形態では、外輪120の外周側にケース101が設けられ、外輪120はケース101の回転固定用切り欠き102に係合してケース101に対して円周方向に固定されている。
また、ケージ部材150は外輪120と係合して外輪120に対して円周方向に固定されている。
【0016】
セレクタ170は、回転角の制御が可能な被駆動部171と、弾性機構により被駆動部171と周方向に弾性的に変位可能なセレクタ本体部175とを備えている。
セレクタ本体部175は、カム140と接触してカム140の姿勢を変更可能なカム姿勢制御凸部176を有している。
弾性機構は、被駆動部171に設けられた弾性部材収容部172と、弾性部材収容部172に収容されるバネ173と、セレクタ本体部175に設けられ弾性部材収容部172に挿入される圧縮ピン177からなる。
カム姿勢制御凸部176は、カム140の外輪120と接触するカム面と回転軸方向に異なる位置でカム140と接触可能に配置されている。
本実施形態では、カム140の外輪120側のカム面は、回転軸方向の大部分が外輪120の内周面と接触し、回転軸方向の一部がセレクタ本体部175のカム姿勢制御凸部176と接触するように構成されている。
セレクタ170の被駆動部171は、アクチュエータ190によって回転駆動され、外輪120との相対的な回転角を制御可能に構成されている。
【0017】
カム140は、内周側のカム面の全面が内輪110の外周面と対向し、外周側のカム面の一部がセレクタ本体部175のカム姿勢制御凸部176に接触可能で、外周側のカム面の大部分が外輪120の内周面に対向するように配置されている。
ケース101とセレクタ170の被駆動部171を回転駆動するアクチュエータ190は、図示しない固定部に固定されることで、外輪120及びケージ部材150とセレクタ170の被駆動部171との相対的な回転角がアクチュエータ190によって制御される。
また、セレクタ本体部175には周方向の長穴178を有し、被駆動部171には長穴178と嵌合してセレクタ本体部175と被駆動部171との変位角度を規制する位置決めピン174を有しており、セレクタ本体部175と被駆動部171との同軸上の回転を担保し、弾性部材収容部172に収容されるバネ173の変形による撓みや捻じれを抑制している。
【0018】
本実施形態に係るカムクラッチ100は、内輪110及び外輪120の両方向の相対的な回転動作が許容されるフリー状態と、内輪110及び外輪120の片方向の相対的な回転動作が禁止されるロック状態とが、セレクタ170の被駆動部171の回転角により切り替えられる。
ロック状態からフリー状態への切り替え時の動作について、
図9に基づき説明する。
ロック状態では、(a)に示すように、カム姿勢制御凸部176はカム140から離れた位置に待機している。
フリー状態への移行は、セレクタ170の被駆動部171がケージ部材150に対して相対的に回転することで弾性部材収容部172が図面左方向に移動し、バネ173を介して圧縮ピン177が左方向に移動することで、セレクタ170のセレクタ本体部175のカム姿勢制御凸部176がカム140の側面を左方向に押すことで達成される。
この移動中、カム140に伝達トルクが残っている状態では、(b)に示すように、バネ173が圧縮されることで被駆動部171の移動に支障を与えずに、カム姿勢制御凸部176がカム140の側面に接触してセレクタ本体部175の移動が停止する。
【0019】
カム140に伝達トルクが減少する、あるいは、バネの圧縮力が大きくなると、(c)に示すように、カム姿勢制御凸部176がカム140の側面を押してカムの係合が外れ、カム140は、内輪110の外周面と外輪120の内周面の間で噛み合わない姿勢に固定され、内輪110は外輪120に対して両方向の回転を拘束されないフリー状態となる。
さらに、(c)の状態から被駆動部171の移動が進んでも、(d)に示すように、バネ173が圧縮されることでカム姿勢制御凸部176がカム140の側面を押してカム140姿勢変化の限界を超えることはなく、被駆動部171の回転角を正確に制御して停止させる必要はない。
【0020】
なお、本実施形態では、被駆動部171の周方向に弾性部材収容部172が2箇所、位置決めピン174が4箇所、計6箇所をほぼ等角度間隔で配置したが、これらの数、配置は適宜設計してよい。
また、セレクタ本体部175のカム姿勢制御凸部176を、カム140の一部にのみ接触するよう中心に向かって突出する形態し、カム140の外輪120と接触するカム面と回転軸方向に異なる位置でカム140と接触可能に配置することで、セレクタ本体部175をカム姿勢制御凸部176と一体に形成でき製造が容易となるものであるが、セレクタ本体部175からカム140の軸方向全面に当たるようにピンを突出させる形態であっても良い。