IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ステアリング装置 図1
  • 特開-ステアリング装置 図2
  • 特開-ステアリング装置 図3
  • 特開-ステアリング装置 図4
  • 特開-ステアリング装置 図5
  • 特開-ステアリング装置 図6
  • 特開-ステアリング装置 図7
  • 特開-ステアリング装置 図8
  • 特開-ステアリング装置 図9
  • 特開-ステアリング装置 図10
  • 特開-ステアリング装置 図11
  • 特開-ステアリング装置 図12
  • 特開-ステアリング装置 図13
  • 特開-ステアリング装置 図14
  • 特開-ステアリング装置 図15
  • 特開-ステアリング装置 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166885
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/19 20060101AFI20231115BHJP
   B62D 1/185 20060101ALI20231115BHJP
   B62D 1/184 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B62D1/19
B62D1/185
B62D1/184
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077731
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】垣田 宏
(72)【発明者】
【氏名】三井 玲
(72)【発明者】
【氏名】小板橋 拓人
(72)【発明者】
【氏名】真中 佑大
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DD18
3D030DD25
3D030DD26
3D030DD65
3D030DD74
3D030DD79
3D030DE05
3D030DE09
3D030DE22
(57)【要約】
【課題】衝撃吸収部材を用いることなく、アッパコラムがロアコラムに対して前方に変位できる量を切り換えることが可能なステアリング装置を提供する。
【解決手段】ロアコラム10およびアッパコラム11を有するステアリングコラム2と、ロック状態とロック解除状態とを切り換え可能な切り換えレバー3と、アッパコラム11に設けられた規制用長孔20に対する進入および抜け出しが可能な規制用係合子4と、規制用係合子4に、規制用長孔20から遠ざかる方向の弾力を付与する規制解除用予圧ばね5と、切り換えレバー3とともに回動する規制用カム部材6とを備える。規制用カム部材6は、規制用係合子4を規制用長孔20に近づける方向に押す規制用カム面42を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロアコラム、該ロアコラムに対して軸方向の変位を可能に組み合わされたアッパコラム、および、前記アッパコラムに直接または他の部材を介して設けられ、該アッパコラムの軸方向に伸長する規制用長孔を有する、ステアリングコラムと、
前記ロアコラムに対し、幅方向の回動中心軸を中心とする回動を可能に支持され、かつ、前記回動中心軸を中心とする回動位置を変化させることに基づいて、ステアリングホイールの前後位置の調節を不能とするロック状態と該調節を可能とするロック解除状態とを切り換え可能な切り換えレバーと、
前記ロアコラムに対し、前記規制用長孔に対する遠近動を可能に支持され、かつ、前記規制用長孔に対して近づくことに基づいて該規制用長孔内に進入し、前記規制用長孔に対して遠ざかることに基づいて該規制用長孔から抜け出すことが可能な規制用係合子と、
前記規制用係合子に、前記規制用長孔から遠ざかる方向の弾力を付与する規制解除用予圧ばねと、
前記回動中心軸を中心として前記切り換えレバーとともに回動する規制用カム部材と、を備え、
前記規制用カム部材は、前記規制用係合子を前記規制用長孔に近づける方向に押す規制用カム面を有し、
前記規制用カム面は、前記回動中心軸の周方向に沿って、前記規制用長孔と前記規制用係合子との遠近方向に関する位置が変化する傾斜面であって、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置にあるときに前記規制用係合子を押す部分が、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置にあるときに前記規制用係合子を押す部分よりも、前記規制用長孔に近い位置に存在しており、
前記規制用係合子は、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置から前記ロック解除状態の回動位置まで回動することに伴い、前記規制用カム面により押されて前記規制用長孔内に進入する位置まで移動し、かつ、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置から前記ロック状態の回動位置まで回動することに伴い、前記規制解除用予圧ばねの弾力により押されて前記規制用長孔から抜け出す位置まで移動する、
ステアリング装置。
【請求項2】
前記アッパコラムに直接または他の部材を介して設けられた軸方向に伸長する固定側ギヤと、
前記ロアコラムに対し、前記固定側ギヤに対する遠近動を可能に支持され、かつ、前記固定側ギヤに対して近づくことに基づいて該固定側ギヤと噛み合い、前記固定側ギヤに対して遠ざかることに基づいて該固定側ギヤとの噛み合いが解除される可動側ギヤを有するロック用係合子と、を備え、
前記ロック用係合子は、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置から前記ロック解除状態の回動位置まで回動することに伴い、前記固定側ギヤと前記可動側ギヤとの噛み合いが解除される位置まで遠ざかり、かつ、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置から前記ロック状態の回動位置まで回動することに伴い、前記固定側ギヤと前記可動側ギヤとが噛み合う位置まで近づく、
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記ロック用係合子に、前記固定側ギヤから遠ざかる方向の弾力を付与するロック解除用予圧ばねと、
前記回動中心軸を中心として前記切り換えレバーとともに回動するロック用カム部材と、を備え、
前記ロック用カム部材は、前記ロック用係合子を前記固定側ギヤに近づける方向に押すロック用カム面を有し、
前記ロック用カム面は、前記回動中心軸の周方向に沿って、前記固定側ギヤと前記ロック用係合子との遠近方向に関する位置が変化する傾斜面であって、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置にあるときに前記ロック用係合子を押す部分が、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置にあるときに前記ロック用係合子を押す部分よりも、前記固定側ギヤに近い位置に存在しており、
前記ロック用係合子は、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置から前記ロック解除状態の回動位置まで回動することに伴い、前記ロック解除用予圧ばねの弾力により押されて前記固定側ギヤと前記可動側ギヤとの噛み合いが解除される位置まで移動し、かつ、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置から前記ロック状態の回動位置まで回動することに伴い、前記ロック用カム面により押されて前記固定側ギヤと前記可動側ギヤとが噛み合う位置まで移動する、
請求項2に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールの前後位置を調節することができるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図16は、自動車用のステアリング装置の1例を示している。ステアリング装置100において、運転者により操作されるステアリングホイール101は、ステアリングシャフト102の後側端部に取り付けられている。ステアリングシャフト102は、車体に支持されたステアリングコラム103の内側に回転自在に支持されている。ステアリングホイール101の回転運動は、ステアリングシャフト102、自在継手104a、中間シャフト105、および別の自在継手104bを介して、ステアリングギヤユニット106を構成するピニオン軸107に伝達される。ピニオン軸107の回転運動は、ステアリングギヤユニット106を構成する図示しないラック軸の直線運動に変換される。これにより、1対のタイロッド108が押し引きされ、左右の操舵輪に、ステアリングホイール101の操作量に応じた舵角が付与される。
【0003】
ステアリング装置は、通常、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイールの前後位置を調節するためのテレスコピック調節機能、および、二次衝突の際に、運転者の身体に加わる衝撃荷重を緩和するための衝撃吸収機能を備える。
【0004】
具体的には、テレスコピック調節機能を確保するために、ステアリングシャフトは、軸方向の相対変位およびトルク伝達を可能に組み合わされた、後側に配置されるアッパシャフトおよび前側に配置されるロアシャフトを備え、アッパシャフトとロアシャフトとを軸方向に相対変位させることにより、全長を伸縮可能に構成されている。ステアリングコラムは、軸方向の相対変位を可能に組み合わされた、後側に配置されるアッパコラムおよび前側に配置されるロアコラムを備え、アッパコラムとロアコラムとを軸方向に相対変位させることにより、全長を伸縮可能に構成されている。ロアコラムの内側にロアシャフトが、回転のみを可能に支持されている。アッパコラムの内側にアッパシャフトが、回転のみを可能に支持されている。ステアリングホイールは、アッパシャフトの後側端部に取り付けられている。ステアリングホイールの前後位置を調節する際には、ステアリングホイール、アッパシャフト、およびアッパコラムを、ロアシャフトおよびロアコラムに対して軸方向、すなわち前後方向に変位させる。
【0005】
衝撃吸収機能を確保するために、ステアリング装置は、たとえば、ロアコラムとアッパコラムとの間に、衝撃吸収構造を備える。衝突事故の際に、自動車が他の自動車などに衝突する一次衝突に続いて、運転者の身体がステアリングホイールに衝突する二次衝突が発生し、ステアリングホイール、アッパシャフト、およびアッパコラムに前方に向いた強い衝撃荷重が加わると、アッパコラムがロアコラムに対して前方に変位しながら、衝撃吸収構造によって衝撃荷重が吸収される。これにより、ステアリングホイールに衝突した運転者の身体に加わる衝撃が緩和される。
【0006】
二次衝突の発生時には、通常時、すなわちステアリングホイールの前後位置の調節時に比べて、アッパコラムがロアコラムに対して前方に変位できる量を、より多くする必要がある。
【0007】
アッパコラムがロアコラムに対して前方に変位できる量を切り換えるための構造が、たとえば特許第6661447号公報に記載されている。
【0008】
特許第6661447号公報に記載された構造は、切り換えレバーと、規制用長孔と、衝撃吸収用板ばねと、規制用係合子とを備える。切り換えレバーは、ロアコラムに対し、幅方向の回動中心軸を中心とする回動を可能に支持され、かつ、回動中心軸を中心とする回動位置を変化させることに基づいて、ステアリングホイールの前後位置の調節を不能とするロック状態と該調節を可能とするロック解除状態とを切り換え可能である。規制用長孔は、アッパコラムに設けられ、該アッパコラムの軸方向に伸長している。衝撃吸収用板ばねは、切り換えレバーの回動に伴って揺動する。規制用係合子は、衝撃吸収用板ばねの先端部に固定されており、切り換えレバーの回動に伴う衝撃吸収用板ばねの揺動に伴い、規制用長孔に対して遠近動する。
【0009】
規制用係合子は、切り換えレバーがロック状態の回動位置からロック解除状態の回動位置まで回動することに伴い、規制用長孔内に進入する。この状態、すなわちステアリングホイールの前後位置の調節が可能となるロック解除状態では、規制用係合子が規制用長孔の内側で軸方向に移動できる範囲に限り、アッパコラムをロアコラムに対して軸方向に変位させることができる。
【0010】
規制用係合子は、切り換えレバーがロック解除状態の回動位置からロック状態の回動位置まで回動することに伴い、規制用長孔から抜け出す。したがって、この状態、すなわちステアリングホイールの前後位置の調節が不能となるロック状態では、二次衝突が発生した際に、アッパコラムがロアコラムに対して前方に変位できる量を、より多く確保することができる。さらに、この構造では、二次衝突の発生時に、衝撃吸収用板ばねの基端部とアッパコラムの一部との間に摩擦荷重が発生し、該摩擦荷重により衝撃荷重が吸収される。なお、特許第6661447号公報の内容は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6661447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許第6661447号公報に記載された構造では、規制用係合子が、衝撃吸収用板ばねの先端部に固定されている。このため、ロック解除状態において、ステアリングホイールの前後位置を調節する際に、規制用長孔の前端部または後端部が規制用係合子に勢い良くぶつかると、衝撃吸収用板ばねが変形する可能性がある。そして、衝撃吸収用板ばねが変形した場合には、二次衝突時に、衝撃吸収性能が不安定になる可能性がある。
【0013】
本発明は、衝撃吸収部材を用いることなく、アッパコラムがロアコラムに対して前方に変位できる量を切り換えることが可能なステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様のステアリング装置は、ステアリングコラムと、切り換えレバーと、規制用係合子と、規制解除用予圧ばねと、規制用カム部材とを備える。
【0015】
前記ステアリングコラムは、ロアコラム、該ロアコラムに対して軸方向の変位を可能に組み合わされたアッパコラム、および、前記アッパコラムに直接または他の部材を介して設けられ、該アッパコラムの軸方向に伸長する規制用長孔を有する。
【0016】
前記切り換えレバーは、前記ロアコラムに対し、幅方向の回動中心軸を中心とする回動を可能に支持され、かつ、前記回動中心軸を中心とする回動位置を変化させることに基づいて、ステアリングホイールの前後位置の調節を不能とするロック状態と該調節を可能とするロック解除状態とを切り換え可能である。
【0017】
前記規制用係合子は、前記ロアコラムに対し、前記規制用長孔に対する遠近動を可能に支持され、かつ、前記規制用長孔に対して近づくことに基づいて該規制用長孔内に進入し、前記規制用長孔に対して遠ざかることに基づいて該規制用長孔から抜け出すことが可能である。
【0018】
前記規制解除用予圧ばねは、前記規制用係合子に、前記規制用長孔から遠ざかる方向の弾力を付与する。
【0019】
前記規制用カム部材は、前記回動中心軸を中心として前記切り換えレバーとともに回動する。前記規制用カム部材は、前記規制用係合子を前記規制用長孔に近づける方向に押す規制用カム面を有する。前記規制用カム面は、前記回動中心軸の周方向に沿って、前記規制用長孔と前記規制用係合子との遠近方向に関する位置が変化する傾斜面である。具体的には、前記規制用カム面においては、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置にあるときに前記規制用係合子を押す部分が、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置にあるときに前記規制用係合子を押す部分よりも、前記規制用長孔に近い位置に存在している。
【0020】
前記規制用係合子は、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置から前記ロック解除状態の回動位置まで回動することに伴い、前記規制用カム面により押されて前記規制用長孔内に進入する位置まで移動し、かつ、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置から前記ロック状態の回動位置まで回動することに伴い、前記規制解除用予圧ばねの弾力により押されて前記規制用長孔から抜け出す位置まで移動する。
【0021】
本発明の一態様のステアリング装置は、前記アッパコラムに直接または他の部材を介して設けられた軸方向に伸長する固定側ギヤと、前記ロアコラムに対し、前記固定側ギヤに対する遠近動を可能に支持され、かつ、前記固定側ギヤに対して近づくことに基づいて該固定側ギヤと噛み合い、前記固定側ギヤに対して遠ざかることに基づいて該固定側ギヤとの噛み合いが解除される可動側ギヤを有するロック用係合子とを備える。前記ロック用係合子は、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置から前記ロック解除状態の回動位置まで回動することに伴い、前記固定側ギヤと前記可動側ギヤとの噛み合いが解除される位置まで遠ざかり、かつ、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置から前記ロック状態の回動位置まで回動することに伴い、前記固定側ギヤと前記可動側ギヤとが噛み合う位置まで近づく。
【0022】
本発明の一態様のステアリング装置は、前記ロック用係合子に、前記固定側ギヤから遠ざかる方向の弾力を付与するロック解除用予圧ばねと、前記回動中心軸を中心として前記切り換えレバーとともに回動するロック用カム部材とを備える。前記ロック用カム部材は、前記ロック用係合子を前記固定側ギヤに近づける方向に押すロック用カム面を有する。前記ロック用カム面は、前記回動中心軸の周方向に沿って、前記固定側ギヤと前記ロック用係合子との遠近方向に関する位置が変化する傾斜面である。具体的には、前記ロック用カム面においては、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置にあるときに前記ロック用係合子を押す部分が、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置にあるときに前記ロック用係合子を押す部分よりも、前記固定側ギヤに近い位置に存在している。前記ロック用係合子は、前記切り換えレバーが前記ロック状態の回動位置から前記ロック解除状態の回動位置まで回動することに伴い、前記ロック解除用予圧ばねの弾力により押されて前記固定側ギヤと前記可動側ギヤとの噛み合いが解除される位置まで移動し、かつ、前記切り換えレバーが前記ロック解除状態の回動位置から前記ロック状態の回動位置まで回動することに伴い、前記ロック用カム面により押されて前記固定側ギヤと前記可動側ギヤとが噛み合う位置まで移動する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様のステアリング装置によれば、衝撃吸収部材を用いることなく、アッパコラムがロアコラムに対して前方に変位できる量を切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施の形態の1例のステアリング装置を、ステアリングホイールの前後位置の調節を不能とするロック状態で示す、側面図である。
図2図2は、図1の上方から見た図である。
図3図3は、図1の下方から見た図である。
図4図4は、図1の右方から見た図である。
図5図5は、図1の左右方向中間部の拡大図である。
図6図6は、図3の左右方向中間部の拡大図(図5の下方から見た図)である。
図7図7は、図5のA-A断面図である。
図8図8は、図5の反対側から見た図である。
図9図9は、該ステアリング装置を、ステアリングホイールの前後位置の調節を可能とするロック解除状態で示す、図5に相当する図である。
図10図10は、図9の下方から見た図である。
図11図11は、図9のB-B断面図である。
図12図12は、図9の反対側から見た図である。
図13図13は、該ステアリング装置の一部を、後方かつ左上方から見た分解斜視図である。
図14図14は、該ステアリング装置の一部を、後方かつ右上方から見た分解斜視図である。
図15図15(a)は、該ステアリング装置を構成するロアコラムを、後方かつ左上方から見た斜視図であり、図15(b)は、該ロアコラムを、後方かつ右上方から見た斜視図である。
図16図16は、ステアリング装置の従来構造の1例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態の1例について、図1図15を用いて説明する。
【0026】
本例のステアリング装置1は、ステアリングコラム2と、切り換えレバー3と、規制用係合子4と、規制解除用予圧ばね5と、規制用カム部材6とを備える。
【0027】
ステアリング装置1に関して、前後方向、幅方向、および上下方向は、ステアリング装置1が組み付けられる車体の前後方向、幅方向、および上下方向である。前側は、図1図3図5図6図9図10の左側、および、図8図12の右側である。後側は、図1図3図5図6図9図10の右側、および、図8図12の左側である。
【0028】
本例のステアリング装置1は、運転者により操作される図示しないステアリングホイールの前後位置および高さ位置の調節を不能とするロック状態と該調節を可能とするロック解除状態とを切り換えるための切り換え機構7を備える。切り換えレバー3は、切り換え機構7の一部を構成する。図1図8は、ロック状態でのステアリング装置1を示している。図9図12は、ロック解除状態でのステアリング装置1を示している。
【0029】
本例のステアリング装置1において、ステアリングコラム2の内側には、ステアリングシャフト8が回転自在に支持されている。ステアリングコラム2の軸方向中間部は、支持ブラケット9を用いて、車体に支持されている。ステアリングホイールは、ステアリングコラム2の後端部よりも後方に突出した、ステアリングシャフト8の後端部に取り付けられる。
【0030】
ステアリングコラム2は、前側に配置されるロアコラム10と、後側に配置されるアッパコラム11とを、軸方向の相対変位を可能に組み合わせてなる。本例では、ロアコラム10を、径方向外側に配置されるアウタコラムとし、アッパコラム11を、径方向内側に配置されるインナコラムとしている。ただし、本発明を実施する場合には、ロアコラムをインナコラムとし、アッパコラムをアウタコラムとすることもできる。
【0031】
本例では、ロアコラム10は、鋼、アルミニウム合金などの金属により略円筒状に構成されている。ロアコラム10は、図13図15(b)に示すように、周方向一部分である上端部に、軸方向の中間部から後端部にわたるスリット12を有する。ロアコラム10の内径は、スリット12の幅を弾性的に拡縮することに基づいて、拡縮可能である。ロアコラム10は、後端部において、スリット12を幅方向両側から挟む2箇所に、径方向外側(上側)に向けて突出するフランジ部13をそれぞれ有する。フランジ部13のそれぞれは、幅方向に関して互いに整合する箇所に、幅方向に貫通する通孔14を有する。
【0032】
ロアコラム10は、軸方向の中間部から後端部にわたる部分の内周面の周方向一部分である幅方向一方側(図4図7図11の左側)の端部に、径方向外側に向けて凹入し、かつ、軸方向に伸長する凹部15を有する。ロアコラム10は、軸方向後側部の幅方向一方側の端部に、幅方向に貫通し、かつ、幅方向内側の端部が凹部15に開口する一方側通孔16を有する。一方側通孔16は、非円形孔であり、内周面の周方向一部が平坦面により構成されており、内周面の周方向残部が円筒面により構成されている。ロアコラム10は、軸方向後側部の幅方向他方側(図4図7図11の右側)の端部に、幅方向に貫通する他方側通孔17を有する。他方側通孔17は、円孔である。図示の例では、一方側通孔16および他方側通孔17は、ロアコラム10の軸方向に関して通孔14よりも前側、かつ、幅方向に関して互いに整合する位置に配置されている。
【0033】
ロアコラム10は、前端部の上部に、幅方向の挿通孔18を有する。挿通孔18には、車体に支持された幅方向のチルト軸19(図1参照)が挿通される。これにより、ロアコラム10は、通常時だけでなく、二次衝突時にも、車体に対して前方へ変位しないように、かつ、車体に対してチルト軸19を中心とする揺動変位を可能に支持される。
【0034】
本例では、アッパコラム11は、鋼、アルミニウム合金などの金属により円筒状に構成されている。アッパコラム11の前側部は、ロアコラム10の後側部に、軸方向の相対変位を可能に内嵌されている。
【0035】
アッパコラム11は、図14に示すように、軸方向に伸長する規制用長孔20を有する。本例では、規制用長孔20は、アッパコラム11の軸方向前側部の周方向一部分である幅方向他方側の端部に備えられた、軸方向に伸長する貫通孔により構成されている。アッパコラム11の前側部をロアコラム10の後側部に内嵌した状態で、規制用長孔20の伸長方向の一部は、ロアコラム10の他方側通孔17と幅方向に対向する。本発明を実施する場合には、規制用長孔を、径方向外側にのみ開口し、かつ、軸方向に伸長する有底孔により構成することもできる。また、本例では、規制用長孔20を、アッパコラム11に直接設けているが、本発明を実施する場合には、規制用長孔を、アッパコラムに他の部材を介して設けること、すなわち、アッパコラムに固定した他の部材に規制用長孔を設けることもできる。
【0036】
ステアリングシャフト8は、前側に配置されるロアシャフト21と、後側に配置されるアッパシャフト22とを備える。ロアシャフト21とアッパシャフト22とは、トルク伝達を可能に、かつ、軸方向の相対変位を可能にスプライン嵌合している。
【0037】
ロアシャフト21は、ロアコラム10に対し、ロアコラム10の前端部に内嵌された図示しない転がり軸受により、回転のみを可能に支持されている。ロアコラム10の前端部よりも前方に突出したロアシャフト21の前端部は、図示しない中間シャフトの後端部に対し、図示しない自在継手を介して接続される。
【0038】
アッパシャフト22は、アッパコラム11に対し、アッパコラム11の後側端部に内嵌保持された転がり軸受23(図4参照)により、回転のみを可能に支持されている。アッパコラム11の後端部よりも後方に突出したアッパシャフト22の後端部に、ステアリングホイールが取り付けられる。
【0039】
支持ブラケット9は、鋼などの金属製で、取付板部24と、2つの支持板部25a、25bとを備える。取付板部24は、支持ブラケット9の上側部を構成しており、幅方向に配置されている。取付板部24は、車体に支持される。2つの支持板部25a、25bは、ロアコラム10の後側部を幅方向両側から挟む位置に、互いに略平行に配置されている。支持板部25a、25bのそれぞれは、上端部が取付板部24の幅方向中間部に結合固定されている。支持板部25a、25bのそれぞれは、幅方向に関して互いに整合し、かつ、フランジ部13の通孔14と整合する箇所に、上下方向に伸長するチルト長孔26を有する。チルト長孔26のそれぞれは、チルト軸19を中心とする円弧形状を有する。
【0040】
切り換えレバー3は、切り換え機構7(図5および図7参照)の一部を構成する。切り換え機構7は、切り換えレバー3のほか、切り換えロッド27と、ナット28と、カム装置29と、スラスト軸受30とを備える。
【0041】
切り換えロッド27は、チルト長孔26および通孔14のそれぞれを幅方向に挿通している。切り換えロッド27は、基端部(図4および図7の左端部)に頭部31を有し、先端部(図4および図7の右端部)に雄ねじ部32を有する。
【0042】
ナット28は、雄ねじ部32に螺合している。
【0043】
カム装置29は、頭部31と一方(図4および図7の左方)の支持板部25aとの間に配置されている。カム装置29は、幅方向外側に位置する駆動カム33と、幅方向内側に位置する被駆動カム34とを有する。被駆動カム34は、一方の支持板部25aのチルト長孔26に対し、相対回転不能に係合している。被駆動カム34は、切り換えロッド27に対し、回転および軸方向変位を可能に外嵌している。駆動カム33は、切り換えロッド27に対し、回転および軸方向変位を不能に外嵌している。
【0044】
切り換えレバー3は、ロアコラム10に対し、幅方向の回動中心軸を中心とする回動を可能に支持されている。本例では、切り換えレバー3の基端部は、駆動カム33に固定されている。すなわち、切り換えレバー3は、切り換えロッド27の基端部に、駆動カム33を介して、切り換えロッド27の中心軸を中心とする回動を可能に支持されている。本例では、切り換えロッドの27の中心軸が、幅方向の回動中心軸に相当する。
【0045】
切り換えレバー3は、切り換えロッド27の中心軸を中心とする回動位置を変化させることに基づいて、ステアリングホイールの前後位置および高さ位置の調節を不能とするロック状態と該調節を可能とするロック解除状態とを切り換えるための部材である。
【0046】
本例では、切り換えロッド27の中心軸を中心として、切り換えレバー3、駆動カム33、および切り換えロッド27を同期して回動させることにより、駆動カム33と被駆動カム34とを相対回転させると、駆動カム33と被駆動カム34との互いに対向する側面(カム面)同士の押し付け合いに基づいて、カム装置29の軸方向寸法が拡縮する。本例では、切り換えレバー3を、図5に示すロック状態の回動位置から、図9に示すロック解除状態の回動位置まで、押し下げるように回動させた場合に、カム装置29の軸方向寸法が減少する。反対に、切り換えレバー3を、図9に示すロック解除状態の回動位置から、図5に示すロック状態の回動位置まで、引き上げるように回動させた場合に、カム装置29の軸方向寸法が増大する。
【0047】
スラスト軸受30は、ナット28と他方(図4および図7の右方)の支持板部25bとの間に配置されている。
【0048】
規制用係合子4は、ロアコラム10に対し、規制用長孔20に対する遠近動を可能に支持され、かつ、規制用長孔20に対して近づくことに基づいて規制用長孔20内に進入し、規制用長孔20に対して遠ざかることに基づいて規制用長孔20から抜け出すことが可能である。
【0049】
本発明を実施する場合、規制用係合子として、ロアコラムに直接または他の部材を介して設けられた規制用支持部に対し、規制用通孔に対する遠近動を可能に支持される規制用被支持部と、規制用長孔に対して進入および抜け出すことが可能な規制用係合部と、規制解除用予圧ばねにより規制用長孔から遠ざかる方向の弾力を付与される規制解除用弾力受部と、規制用カム面により直接または他の部材を介して規制用長孔に近づく方向に押される規制用カム力受部とを備えた構造を採用することができる。本発明を実施する場合には、これらの各部の形状として、任意の形状を採用することができる。本例では、規制用係合子4は、全体が段付円柱状に構成されている。すなわち、規制用係合子4は、基端寄り部分に径方向外側に突出した円輪状の鍔部35を有し、かつ、鍔部35の基端側(幅方向外側)に隣接する位置に円柱状の基端軸部36と、鍔部35の先端側(幅方向内側)に隣接する位置に円柱状の中間軸部37と、中間軸部37の先端側に隣接する位置に、中間軸部37よりも外径が小さい円柱状の先端軸部38とを有する。本例では、他方側通孔17が前記規制用支持部に相当し、中間軸部37が前記規制用被支持部に相当し、先端軸部38が前記規制用係合部に相当し、鍔部35が前記規制解除用弾力受部に相当し、基端軸部36が規制用カム力受部に相当する。
【0050】
規制用係合子4は、中間軸部37をロアコラム10の他方側通孔17に軸方向移動を可能に内嵌することにより、ロアコラム10に対し、規制用長孔20に対する幅方向の遠近動を可能に支持されている。本例では、規制用係合子4を規制用長孔20に対して幅方向に近づけることに基づいて先端軸部38を規制用長孔20内に進入させ、かつ、規制用係合子4を規制用長孔20に対して幅方向に遠ざけることに基づいて先端軸部38を規制用長孔20から抜き出すことが可能である。
【0051】
規制解除用予圧ばね5は、規制用係合子4に、規制用長孔20から遠ざかる方向の弾力を付与する。本発明を実施する場合には、規制解除用予圧ばねとして、ロアコラムまたはロアコラムに対して固定される部材と規制用係合子との間に配置されるばねを採用することができる。本例では、規制解除用予圧ばね5は、環状のコイルドウェーブスプリングにより構成されており、ロアコラム10の外周面のうち他方側通孔17の周囲部分と、規制用係合子4の鍔部35の先端側の側面との間に、弾性的に挟持されている。これにより、規制解除用予圧ばね5は、規制用係合子4に、規制用長孔20から幅方向に遠ざかる方向の弾力を付与する。本発明を実施する場合には、規制解除用予圧ばねとして、コイルドウェーブスプリングに限らず、コイルばね、板ばねなどの各種のばねを採用することができる。
【0052】
規制用カム部材6は、切り換えロッド27の中心軸を中心として切り換えレバー3とともに回動する。本例では、規制用カム部材6は、切り換えロッド27の先端寄り部分に、切り換えロッド27に対する相対回転が不能となるように非円形嵌合している。
【0053】
本例の規制用カム部材6は、金属板により全体を一体に造られており、切り換えロッド27の先端寄り部分に非円形嵌合し、かつ、スラスト軸受30とナット28との間に挟まれた基板部39と、基板部39の外周部の周方向一部分から幅方向外側に向けて略直角に折れ曲がった接続板部40と、接続板部40の幅方向外端部から基板部39と反対向きに略直角に折れ曲がったカム板部41とを備える。カム板部41のうち基端部を除く大部分は、切り換えロッド27の径方向外側に向かうにしたがって周方向幅が大きくなる略扇形状を有する(図8参照)。カム板部41の少なくとも一部は、切り換えレバー3の回動位置にかかわらず、規制用係合子4の幅方向外側に配置される。
【0054】
本例の規制用カム部材6は、カム板部41の幅方向内側面に、規制用係合子4を規制用長孔20に近づける方向、すなわち幅方向内側に押す規制用カム面42を有する。本例では、規制用カム面42は、規制用予備ばね43を介して、規制用係合子4を幅方向内側に押す。
【0055】
規制用カム面42は、切り換えロッド27の中心軸の周方向に沿って、規制用長孔20と規制用係合子4との遠近方向である幅方向に関する位置が変化する傾斜面である。規制用カム面42においては、切り換えレバー3がロック解除状態の回動位置にあるときに規制用係合子4を押す部分(図10および図11におけるα2部)が、切り換えレバー3がロック状態の回動位置にあるときに規制用係合子4を押す部分(図6および図7におけるα1部)よりも、規制用長孔20に近い幅方向位置(図6および図10における上側、図7および図11における左側)に存在している。本発明を実施する場合、規制用カム部材の全体形状については、規制用カム面(傾斜面)を有していれば、任意の形状を採用することができる。
【0056】
本例では、規制用予備ばね43は、U字形の板ばねにより構成されている。規制用予備ばね43は、幅方向内側に位置する一方の端部に備えられた嵌合孔44を、規制用係合子4の基端軸部36に圧入外嵌し、かつ、幅方向外側に位置する他方の端部に備えられた幅方向外側に突出する凸部45を、規制用カム面42に当接させている。この状態で、規制用予備ばね43は、規制用係合子4の鍔部35の基端側の側面と規制用カム面42との間に、弾性的に挟持されている。規制用予備ばね43のばね定数は、規制解除用予圧ばね5のばね定数よりも大きい。このため、本例のステアリング装置1の組み立て状態で、規制解除用予圧ばね5の幅方向の圧縮量は、規制用予備ばね43の幅方向の圧縮量よりも大きくなっている。本発明を実施する場合には、規制用予備ばねとして、板ばねに限らず、皿ばねなどの各種のばねを採用することができる。
【0057】
本例のステアリング装置1は、切り換え機構7の追加要素として、固定側ギヤ46と、ロック用係合子47と、ロック解除用予圧ばね48と、ロック用カム部材49とを備える。
【0058】
本例では、固定側ギヤ46は、アッパコラム11に固定されたギヤプレート50に形成されている。ギヤプレート50は、鋼板などの金属板により、アスペクト比が大きい矩形平板状に構成されており、片側面に、自身の伸長方向に沿って形成された固定側ギヤ46を備える。固定側ギヤ46は、ギヤプレート50の伸長方向に複数の歯を等間隔に並べてなる。ギヤプレート50は、自身の伸長方向をアッパコラム11の軸方向に一致させ、かつ、固定側ギヤ46を幅方向外側に向けた状態で、アッパコラム11の軸方向前側部の周方向一部分である幅方向一方側の端部に固定されている。アッパコラム11の前側部をロアコラム10の後側部に内嵌した状態で、ギヤプレート50は、ロアコラム10の凹部15内に配置され、かつ、固定側ギヤ46の伸長方向の一部は、ロアコラム10の一方側通孔16と幅方向に対向する。本例では、固定側ギヤ46を、アッパコラム11に対して、他の部材であるギヤプレート50を介して設けているが、本発明を実施する場合には、固定側ギヤを、アッパコラムに直接設ける、すなわち直接形成することもできる。
【0059】
ロック用係合子47は、ロアコラム10に対し、固定側ギヤ46に対する遠近動を可能に支持されている。ロック用係合子47は、かつ、固定側ギヤ46に対して近づくことに基づいて固定側ギヤ46と噛み合い、固定側ギヤ46に対して遠ざかることに基づいて固定側ギヤ46との噛み合いが解除される可動側ギヤ51を有する。
【0060】
本発明を実施する場合、ロック用係合子として、ロアコラムに直接または他の部材を介して設けられたロック用支持部に対し、固定側ギヤに対する遠近動を可能に支持されるロック用被支持部と、可動側ギヤと、ロック解除用予圧ばねにより固定側ギヤから遠ざかる方向の弾力を付与されるロック解除用弾力受部と、ロック用カム面により直接または他の部材を介して固定側ギヤに近づく方向に押されるロック用カム力受部とを備えた構造を採用することができる。本発明を実施する場合には、これらの各部の形状として、任意の形状を採用することができる。本例では、ロック用係合子47は、全体を段付柱状に構成されている。すなわち、ロック用係合子47は、基端寄り部分に径方向外側に突出した鍔部52を有し、かつ、鍔部52の基端側(幅方向外側)に隣接する位置に基端軸部53と、鍔部52の先端側(幅方向内側)に隣接する位置に先端軸部54と、先端軸部54の先端面に可動側ギヤ51とを有する。可動側ギヤ51は、固定側ギヤ46の伸長方向に複数の歯を等間隔に並べてなる。先端軸部54の中間部および基端部は、ロアコラム10の一方側通孔16に対して回転不能に、かつ、一方側通孔16の軸方向移動を可能に非円形嵌合する断面形状、すなわち、一方側通孔16の断面形状に対して、僅かに小さい相似形の断面形状を有する。本例では、一方側通孔16が前記ロック用支持部に相当し、先端軸部54の中間部および基端部が前記ロック用被支持部に相当し、鍔部52が前記ロック解除用弾力受部に相当し、基端軸部53がロック用カム力受部に相当する。
【0061】
ロック用係合子47は、先端軸部54の中間部および基端部をロアコラム10の一方側通孔16に回転不能に、かつ、一方側通孔16の軸方向移動を可能に非円形嵌合させることにより、ロアコラム10に対し、固定側ギヤ46に対する幅方向の遠近動を可能に支持されている。本例では、ロック用係合子47を固定側ギヤ46に対して幅方向に近づけることに基づいて可動側ギヤ51を固定側ギヤ46と噛み合わせ、かつ、ロック用係合子47を固定側ギヤ46に対して幅方向に遠ざけることに基づいて可動側ギヤ51と固定側ギヤ46との噛み合いを解除することが可能である。
【0062】
ロック解除用予圧ばね48は、ロック用係合子47に、固定側ギヤ46から遠ざかる方向の弾力を付与する。本発明を実施する場合には、ロック解除用予圧ばねとして、ロアコラムまたはロアコラムに対して固定される部材とロック用係合子との間に配置されるばねを採用することができる。本例では、ロック解除用予圧ばね48は、環状のコイルドウェーブスプリングにより構成されており、ロアコラム10の外周面のうち一方側通孔16の周囲部分と、ロック用係合子47の鍔部52の先端側の側面との間に、弾性的に挟持されている。これにより、ロック解除用予圧ばね48は、ロック用係合子47に、固定側ギヤ46から幅方向に遠ざかる方向の弾力を付与する。本発明を実施する場合には、ロック解除用予圧ばねとして、コイルドウェーブスプリングに限らず、コイルばね、板ばねなどの各種のばねを採用することができる。
【0063】
ロック用カム部材49は、切り換えロッド27の中心軸を中心として切り換えレバー3とともに回動する。このために、本例では、ロック用カム部材49は、切り換えレバー3の基端部に一体的に接続されている。
【0064】
本例のロック用カム部材49は、切り換えレバー3を構成する金属板により、切り換えレバー3と一体的に造られている。ロック用カム部材49は、切り換えレバー3の基端部の外周部の周方向一部分から切り換えロッド27の径方向外側に伸長しており、かつ、径方向外側に向かうにしたがって周方向幅が大きくなる略扇形状を有する(図9参照)。ロック用カム部材49の少なくとも一部は、切り換えレバー3の回動位置にかかわらず、ロック用係合子47の幅方向外側に配置される。
【0065】
本例のロック用カム部材49は、幅方向内側面に、ロック用係合子47を固定側ギヤ46に近づける方向、すなわち幅方向内側に押すロック用カム面55を有する。本例では、ロック用カム面55は、ロック用予備ばね56を介して、ロック用係合子47を幅方向内側に押す。
【0066】
ロック用カム面55は、切り換えロッド27の中心軸の周方向に沿って、固定側ギヤ46とロック用係合子47との遠近方向である幅方向に関する位置が変化する傾斜面である。ロック用カム面55においては、切り換えレバー3がロック状態の回動位置にあるときにロック用係合子47を押す部分(図6および図7におけるβ1部)が、切り換えレバー3がロック解除状態の回動位置にあるときにロック用係合子47を押す部分(図10および図11におけるβ2部)よりも、固定側ギヤ46に近い幅方向位置(図6および図10における下側、図7および図11における右側)に存在している。本発明を実施する場合、ロック用カム部材の全体形状については、ロック用カム面(傾斜面)を有していれば、任意の形状を採用することができる。また、ロック用カム部材を、切り換えレバーと別体の部材として造り、切り換えレバーまたは切り換えロッドなどに固定することもできる。
【0067】
本例では、ロック用予備ばね56は、U字形の板ばねにより構成されている。ロック用予備ばね56は、幅方向内側に位置する一方の端部に備えられた嵌合孔57を、ロック用係合子47の基端軸部53に圧入外嵌し、かつ、幅方向外側に位置する他方の端部に備えられた幅方向外側に突出する凸部58を、ロック用カム面55に当接させている。この状態で、ロック用予備ばね56は、ロック用係合子47の鍔部52の基端側の側面とロック用カム面55との間に、弾性的に挟持されている。ロック用予備ばね56のばね定数は、ロック解除用予圧ばね48のばね定数よりも大きい。このため、本例のステアリング装置1の組み立て状態で、ロック解除用予圧ばね48の幅方向の圧縮量は、ロック用予備ばね56の幅方向の圧縮量よりも大きくなっている。本発明を実施する場合には、ロック用予備ばねとして、板ばねに限らず、皿ばねなどの各種のばねを採用することができる。
【0068】
本例の構造において、ステアリングホイールの前後位置および高さ位置を調節する際には、切り換えレバー3を、図5に示すロック状態の回動位置から、図9に示すロック解除状態の回動位置まで、押し下げるように回動させる。
【0069】
これにより、カム装置29の軸方向寸法を減少させることで、被駆動カム34とスラスト軸受30との間隔を拡げる。この結果、2つの支持板部25a、25bの幅方向内側面と2つのフランジ部13の幅方向外側面との間に作用する摩擦力が低下または喪失し、かつ、ロアコラム10の内径が自由状態まで拡がることで、ロアコラム10の内周面とアッパコラム11の外周面との間に作用する摩擦力が低下または喪失する。
【0070】
また、上述のように切り換えレバー3がロック状態の回動位置からロック解除状態の回動位置まで回動すると、ロック用カム面55のうち、ロック用係合子47を押す部分が、図6および図7に示すβ1部から、図10および図11におけるβ2部に変化する。すなわち、ロック用カム面55のうち、ロック用係合子47を押す部分の幅方向位置が、固定側ギヤ46から遠ざかる方向に変化する。その結果、図11に示すように、ロック用係合子47が、ロック解除用予圧ばね48の弾力により幅方向外側に押されて固定側ギヤ46と可動側ギヤ51との噛み合いが解除される位置まで移動する。
【0071】
さらに、上述のように切り換えレバー3がロック状態の回動位置からロック解除状態の回動位置まで回動すると、規制用カム面42のうち、規制用係合子4を押す部分が、図6および図7に示すα1部から、図10および図11に示すα2部に変化する。すなわち、規制用カム面42のうち、規制用係合子4を押す部分の幅方向位置が、規制用長孔20に近づく方向に変化する。その結果、図11に示すように、規制用係合子4が、規制用カム面42により幅方向内側に押されて、規制用係合子4の先端軸部38が規制用長孔20内に進入する位置まで移動する。
【0072】
この状態では、ステアリングコラム2を、チルト軸19を中心として、揺動させることにより、切り換えロッド27がチルト長孔26の内側で動ける範囲で、ステアリングホイールの高さ位置が調節可能となる。また、アッパコラム11をロアコラム10に対して軸方向に変位させることにより、規制用係合子4の先端軸部38が規制用長孔20の内側で動ける範囲で、ステアリングホイールの前後位置が調節可能となる。
【0073】
ステアリングホイールの前後位置および高さ位置の調節後は、切り換えレバー3を、図9に示すロック解除状態の回動位置から、図5に示すロック状態の回動位置まで、引き上げるように回動させる。
【0074】
これにより、カム装置29の軸方向寸法を増大させることで、被駆動カム34とスラスト軸受30との間隔を縮める。この結果、2つの支持板部25a、25bの幅方向内側面と2つのフランジ部13の幅方向外側面との間に作用する摩擦力が増大し、かつ、ロアコラム10の内径が弾性的に縮まることで、ロアコラム10の内周面とアッパコラム11の外周面との間に作用する摩擦力が増大する。
【0075】
また、上述のように切り換えレバー3がロック解除状態の回動位置からロック状態の回動位置まで回動すると、ロック用カム面55のうち、ロック用係合子47を押す部分が、図10および図11におけるβ2部から、図6および図7に示すβ1部に変化する。すなわち、ロック用カム面55のうち、ロック用係合子47を押す部分の幅方向位置が、固定側ギヤ46に近づく方向に変化する。その結果、図7に示すように、ロック用係合子47が、ロック用カム面55により幅方向内側に押されて固定側ギヤ46と可動側ギヤ51とが噛み合う位置まで移動する。
【0076】
さらに、上述のように切り換えレバー3がロック解除状態の回動位置からロック状態の回動位置まで回動すると、規制用カム面42のうち、規制用係合子4を押す部分が、図10および図11に示すα2部から、図6および図7に示すα1部に変化する。すなわち、規制用カム面42のうち、規制用係合子4を押す部分の幅方向位置が、規制用長孔20から遠ざかる方向に変化する。その結果、図7に示すように、規制用係合子4が、規制解除用予圧ばね5の弾力により幅方向外側に押されて、規制用係合子4の先端軸部38が規制用長孔20から抜け出す位置まで移動する。
【0077】
この状態では、2つの支持板部25a、25bの幅方向内側面と2つのフランジ部13の幅方向外側面との間に作用する摩擦力に基づいて、ステアリングコラム2をチルト軸19を中心として揺動させること、すなわち、ステアリングホイールの高さ位置の調節が不能となる。また、ロアコラム10の内周面とアッパコラム11の外周面との間に作用する摩擦力、および、固定側ギヤ46と可動側ギヤ51との噛み合い力に基づいて、アッパコラム11をロアコラム10に対して軸方向に変位させること、すなわち、ステアリングホイールの前後位置の調節が不能になる。これにより、ステアリングホイールが、調節後の前後位置および高さ位置に保持される。
【0078】
本例の構造では、規制用予備ばね43のばね定数は、規制解除用予圧ばね5のばね定数よりも大きく設定されており、ロック用予備ばね56のばね定数は、ロック解除用予圧ばね48のばね定数よりも大きく設定されている。このため、ロック状態とロック解除状態との切り換えの際に、規制用予備ばね43およびロック用予備ばね56の圧縮量の変化は小さく抑えられるが、規制解除用予圧ばね5およびロック解除用予圧ばね48の圧縮量は大きく変化する。すなわち、この際のばねの圧縮量の変化は、ほとんどが規制解除用予圧ばね5およびロック解除用予圧ばね48の圧縮量の変化となる。
【0079】
本例の構造において、規制用予備ばね43の役割は、ロック状態からロック解除状態に切り換える際に、切り換えレバー3の回動の途中で規制解除用予圧ばね5の圧縮量が最大になった後でも、規制用予備ばね43の圧縮量を増やすことで、切り換えレバー3の回動を継続できるようにすることにある。このため、切り換えレバー3の回動の途中で規制解除用予圧ばね5の圧縮量が最大にならない設定を採用する場合には、規制用予備ばね43の設置を省略することができる。あるいは、切り換えレバー3の回動の途中で規制解除用予圧ばね5の圧縮量が最大になる設定を採用する場合でも、該圧縮量が最大となった後に、規制用カム部材6を撓ませることで、切り換えレバー3の回動を継続できるようにする場合には、規制用予備ばね43の設置を省略することができる。
【0080】
本例の構造において、ロック用予備ばね56の役割は、ロック解除状態からロック状態に切り換える際に、切り換えレバー3の回動の途中で、固定側ギヤ46の歯先面と可動側ギヤ51の歯先面とが当接して、それ以上ロック用係合子47が幅方向内側に移動しなくなった後でも、ロック用予備ばね56の圧縮量を増やすことで、切り換えレバー3の回動を継続できるようにすることにある。このため、切り換えレバー3の回動の途中で、ロック用係合子47が幅方向内側に移動しなくなった後に、ロック用カム部材49を撓ませることで、切り換えレバー3の回動を継続できるようにする場合には、ロック用予備ばね56の設置を省略することができる。
【0081】
ステアリングホイールが調節後の前後位置および高さ位置に保持された状態で、自動車が衝突事故を起こし、運転者の身体がステアリングホイールに衝突する二次衝突が発生すると、ステアリングホイールからアッパシャフト22を介して、アッパコラム11に前方に向いた衝撃荷重が加わる。そして、この衝撃荷重により、固定側ギヤ46と可動側ギヤ51との噛み合いが解除され、アッパコラム11がロアコラム10に対して前方へ変位する。
【0082】
この際に、アッパコラム11の外周面とロアコラム10の内周面とが軸方向に摺動することに基づいて、二次衝突時の衝撃荷重が吸収される。なお、本発明を実施する場合には、この際に塑性変形する衝撃吸収部材を設置しておき、該塑性変形に基づいて、二次衝突時の衝撃荷重をさらに吸収することもできる。
【0083】
特に、本例では、上述のようにアッパコラム11がロアコラム10に対して前方へ変位する際に、規制用係合子4の先端軸部38は、規制用長孔20から抜け出している。このため、ステアリングホイールの位置調節時に比べて、アッパコラム11がロアコラム10に対して前方に変位できる量を、より多くすることができ、運転者の保護を充実させることができる。
【0084】
さらに、本例では、規制用係合子4が、衝撃吸収部材に固定されていない。このため、ロック解除状態において、ステアリングホイールの前後位置を調節する際に、規制用長孔20の前端部または後端部が規制用係合子4の先端軸部38に勢い良くぶつかった場合でも、衝撃吸収部材が変形して衝撃吸収性能が不安定になるといった不都合が生じない。
【0085】
以上、本発明の実施の形態の1例について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0086】
本発明を実施する場合には、規制用長孔、規制用係合子、規制解除用予圧ばね、および規制用カム部材を含んで構成されるテレスコピック範囲規制要素と、固定側ギヤ、ロック用係合子、ロック解除用予圧ばね、およびロック用カム部材を含んで構成されるロック要素との、幅方向に関する設置場所を、上述した実施の形態の場合と逆にすることもできる。すなわち、前記テレスコピック範囲規制要素を、幅方向に関して切り換えレバーと同じ側に設置し、前記ロック要素を、幅方向に関して切り換えレバーと反対側に設置することもできる。この場合には、たとえば、規制用カム部材を切り換えレバーの基端部に一体的に接続したり、ロック用カム部材を、切り換えレバーとともに回転する切り換えロッドに回転不能に嵌合したりすることができる。
【0087】
本発明を実施する場合で、固定側ギヤ、および、可動側ギヤを有するロック用係合子を含むロック要素を設置する場合には、切り換えレバーの回動に伴う固定側ギヤと可動側ギヤとの係脱を、ロック解除用予圧ばねおよびロック用カム部材以外の、適宜の機構を用いて実現することもできる。
【0088】
本発明を実施する場合で、ステアリングホイールの前後位置の調節を不能とするロック状態と該調節を可能とするロック解除状態とを切り換えるための切り換え機構として、固定側ギヤ、および、可動側ギヤを有するロック用係合子を含むロック要素以外の機構(たとえば、上述した実施の形態のように、アウタコラムの内周面とインナコラムの外周面との間に作用する摩擦力を増減させる機構)を用いる場合には、該ロック要素を省略することもできる。
【0089】
本発明を実施する場合で、ステアリングホイールの前後位置の調節を不能とするロック状態と該調節を可能とするロック解除状態とを切り換えるための切り換え機構として、アウタコラムの内周面とインナコラムの外周面との間に作用する摩擦力を増減させる機構以外の機構(たとえば、前記ロック要素)を備えている場合には、該摩擦力を増減させる機構を省略することもできる。この場合には、ステアリングコラムと同等以上の幅方向寸法を有する切り換えロッドを省略し、切り換えレバーの回動中心となる軸として、より短い軸を採用することができる。
【0090】
本発明を実施する場合には、規制用長孔、および/または、固定側ギヤを、アッパコラムの幅方向端部から周方向に外れた部分に設置することもできる。
【符号の説明】
【0091】
1 ステアリング装置
2 ステアリングコラム
3 切り換えレバー
4 規制用係合子
5 規制解除用予圧ばね
6 規制用カム部材
7 切り換え機構
8 ステアリングシャフト
9 支持ブラケット
10 ロアコラム
11 アッパコラム
12 スリット
13 フランジ部
14 通孔
15 凹部
16 一方側通孔
17 他方側通孔
18 挿通孔
19 チルト軸
20 規制用長孔
21 ロアシャフト
22 アッパシャフト
23 転がり軸受
24 取付板部
25a、25b 支持板部
26 チルト長孔
27 切り換えロッド
28 ナット
29 カム装置
30 スラスト軸受
31 頭部
32 雄ねじ部
33 駆動カム
34 被駆動カム
35 鍔部
36 基端軸部
37 中間軸部
38 先端軸部
39 基板部
40 接続板部
41 カム板部
42 規制用カム面
43 規制用予備ばね
44 嵌合孔
45 凸部
46 固定側ギヤ
47 ロック用係合子
48 ロック解除用予圧ばね
49 ロック用カム部材
50 ギヤプレート
51 可動側ギヤ
52 鍔部
53 基端軸部
54 先端軸部
55 ロック用カム面
56 ロック用予備ばね
57 嵌合孔
58 凸部
100 ステアリング装置
101 ステアリングホイール
102 ステアリングシャフト
103 ステアリングコラム
104a、104b 自在継手
105 中間シャフト
106 ステアリングギヤユニット
107 ピニオン軸
108 タイロッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16