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特開2023-166904細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する能力を指標とした、メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166904
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する能力を指標とした、メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20231115BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20231115BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20231115BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20231115BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20231115BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231115BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20231115BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/50 P ZNA
G01N33/15 Z
C12Q1/06
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6837 Z
G01N33/53 Y
G01N33/53 D
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077759
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】東條 も絵
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 健太朗
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CB01
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB02
2G045FB03
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する能力を指標とする、メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法であって、細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する候補物質の能力を指標として用い、該能力を有する候補物質をメラニン量を制御するための物質として特定することを特徴とする、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法であって、細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する候補物質の能力を指標として用い、該能力を有する候補物質をメラニン量を制御するための物質として特定することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記細胞がメラノサイトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記指標が、セマフォリン4a遺伝子の発現を促進または阻害する能力である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記指標が、セマフォリン4aタンパク質の細胞外分泌を促進または阻害する能力である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
細胞に由来するセマフォリン4aの機能促進剤を含んでなる、被験体の皮膚におけるメラニン量を減少させるための組成物。
【請求項7】
細胞に由来するセマフォリン4aの機能阻害剤を含んでなる、被験体の皮膚におけるメラニン量を増加させるための組成物。
【請求項8】
前記細胞がメラノサイトである、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
前記細胞がヒト細胞である、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項10】
被験体におけるメラニンの産生量を評価する方法であって、
(a)前記被験体の細胞に由来するセマフォリン4aの機能を測定する工程、および
(b)工程(a)で得られた測定結果に基づいて、前記被験体におけるメラニンの産生量を予測する工程
を含んでなる、方法。
【請求項11】
工程(a)が、
(a1)前記被験体の皮膚へのテープの貼付および剥離により得られた前記被験体に由来する細胞を用意する工程、および
(a2)工程(a1)で得られた細胞に由来するセマフォリン4aの機能を測定する工程
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞がメラノサイトである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞がヒト細胞である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する能力を指標とした、メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、メラニンとは、チロシンから生合成されるフェノール類の酵素的および非酵素的酸化、脱炭酸、カップリング反応によって生合成された褐色ないし黒色の色素を指し、体表をはじめ動植物中に広く分布し、過剰の光を吸収する役割を果たしていると考えられている。
【0003】
メラニンは、生体内の様々な場所において、メラニン細胞(メラノサイト)といわれる色素産生細胞により産生される。メラニンは過剰産生された場合、例えば、皮膚において沈着されしみやそばかす等が形成される一方、異常に産生が抑制された場合、またはメラノサイト自体が欠乏した場合には尋常性白斑、遺伝性対側性色素異常症、白皮症等の疾患が引き起こされる。したがって、皮膚を健康的で美しく保つために、メラニンの産生量を適切に制御することが重要であると考えられている。
【0004】
皮膚に存在する神経は、体性神経(運動神経および感覚神経)と自律神経(交感神経および副交感神経)である。体性神経について、感覚神経の細胞が線維芽細胞のコラーゲン産生を促進することが知られている(特許文献1)。また、自律神経について、交感神経は、通常、ストレスの多い状況下での活動において活性化され、心身をそのような活動に適した状態にし、副交感神経は、通常、安静時、リラックス時において活性化され、心身を回復及び休息に適した状態にする。ストレスが恒常的に続く、不規則な生活が続く等の理由により、この交感神経と副交感神経の神経系のバランスが崩れると様々な体調不良、疾患等に繋がるといわれており、特にこのような自律神経の乱れは肌荒れ等の皮膚のトラブルにつながることがよく知られている。したがって、神経と皮膚の間には何らかの関連があると考えられている。
【0005】
神経と皮膚の間の関連を示唆するものとして具体的には、例えば、肌のシミ濃度に基づき、神経線維量を推定する方法が知られている(特許文献2)。一方で、神経とメラノサイトの相互作用がメラニンの産生量に与える影響についてはいまだ不明な点が多く存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2021/028996号公報
【特許文献2】特開2021-110720号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、神経とメラノサイトの相互作用がメラニンの産生量に与える影響の解明に鋭意取り組んだ結果、影響を与える因子として、神経経路に関連する遺伝子の1つであるセマフォリン4aを同定するとともに、神経細胞がセマフォリン4aの減少を阻害すること、UVBがメラノサイトのセマフォリン4aを減少させることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
よって、本発明は、被験体におけるメラニンの産生量を前記被験体の細胞に由来するセマフォリン4aの機能を指標として評価する方法、および細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する能力を指標として、メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法であって、細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する候補物質の能力を指標として用い、該能力を有する候補物質をメラニン量を制御するための物質として特定することを特徴とする、方法。
(2)前記細胞がメラノサイトである、(1)に記載の方法。
(3)前記細胞がヒト細胞である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記指標が、セマフォリン4a遺伝子の発現を促進または阻害する能力である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記指標が、セマフォリン4aタンパク質の細胞外分泌を促進または阻害する能力である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)細胞に由来するセマフォリン4aの機能促進剤を含んでなる、被験体の皮膚におけるメラニン量を減少させるための組成物。
(7)細胞に由来するセマフォリン4aの機能阻害剤を含んでなる、被験体の皮膚におけるメラニン量を増加させるための組成物。
(8)前記細胞がメラノサイトである、(6)または(7)に記載の組成物。
(9)前記細胞がヒト細胞である、(6)~(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)被験体におけるメラニンの産生量を評価する方法であって、
(a)前記被験体の細胞に由来するセマフォリン4aの機能を測定する工程、および
(b)工程(a)で得られた測定結果に基づいて、前記被験体におけるメラニンの産生量を予測する工程
を含んでなる、方法。
(11)工程(a)が、
(a1)前記被験体の皮膚へのテープの貼付および剥離により得られた前記被験体に由来する細胞を用意する工程、および
(a2)工程(a1)で得られた細胞に由来するセマフォリン4aの機能を測定する工程
を含む、(10)に記載の方法。
(12)前記細胞がメラノサイトである、(10)または(11)に記載の方法。
(13)前記細胞がヒト細胞である、(10)~(12)のいずれかに記載の方法。
(14)皮膚におけるメラニン量の減少に関連する疾患を治療するための薬剤の製造における、細胞に由来するセマフォリン4aの機能促進剤の使用。
(15)皮膚におけるメラニン量の増加に関連する疾患を治療するための薬剤の製造における、細胞に由来するセマフォリン4aの機能阻害剤の使用。
(16)前記細胞がメラノサイトである、(14)または(15)に記載の使用。
(17)前記細胞がヒト細胞である、(14)~(16)のいずれかに記載の使用。
【0010】
本発明によれば、メラニン量を制御するための物質のスクリーニング方法が提供される。また、本発明によれば、被験体におけるメラニンの産生量を評価する方法を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、調製した各皮膚片の基底層におけるメラニン量を比較した結果を表す。
図2図2は、調製した各皮膚片におけるセマフォリン4aタンパク質の発現量を比較した結果を表す。
図3図3は、調製した各皮膚片におけるプレキシンB1タンパク質の発現量を比較した結果を表す。
図4図4は、調製した各皮膚片におけるセマフォリン3Cタンパク質の発現量を比較した結果を表す。
図5図5は、調製した各皮膚片におけるムコリピン3タンパク質の発現量を比較した結果を表す。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明によれば、メラニン量を制御するための物質をスクリーニングする方法が提供され、該方法は、細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する候補物質の能力を指標として用い、該能力を有する候補物質をメラニン量を制御するための物質として特定することを含む。
【0013】
一般に、メラニンの産生は、メラノサイト中のメラノソームにある銅イオン依存性のチロシナーゼによりチロシンが酸化され、ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)が生成され、さらにDOPA-オキシダーゼによってドーパキノンとなり、その後はメラノサイトで非酵素的にドーパクロム、インドールキノンへと重合されることにより行われる。このように産生されるメラニンを、ユーメラニン(真性メラニン)といい、黒褐色である。この真性メラニンの他に、ドーパキノンとシステインからジヒドロベンゾチアジンを経て生合成される橙赤色のフェオメラニン(亜メラニン)、トリコクロム等もメラニンとして知られている。
【0014】
本発明におけるメラニンは、限定されるわけではないが、好ましくは真性メラニンである。
【0015】
本発明における物質とは、対象に対して目的の生理的作用を単独で呈することができるものであって、該物質を含有する組成物がその目的の生理的作用を呈することを期待して該組成物中に含有されるものを意味する。また、本発明において物質は単独で目的の生理的作用を呈しうるものの、他のものと併用されることによってその目的の生理的作用が相加的にまたは相乗的に増強されてもよい。本発明の物質としては、限定されるわけではないが、例えば、小分子、低分子化合物、高分子化合物、核酸分子、タンパク質、ペプチド(環状ペプチド)等が挙げられる。
【0016】
セマフォリン(Sema)は神経軸索の伸長などの細胞移動を制御するガイダンス因子として同定され、免疫応答や器官形成、骨代謝制御、がんの進展等の様々な生体機能や病態に関与する分子群であることが知られている。セマフォリンファミリータンパク質はドメイン構造の違いからセマフォリン1~7のクラスに分類され、さらにサブクラスに分類される。セマフォリン4aは、これらのセマフォリンファミリータンパク質の一種である。ヒトのセマフォリン4a遺伝子の情報は、そのゲノム配列、mRNA配列およびこれによりコードされるアミノ酸配列を含め、NCBIデータベースにGene ID:64218として登録されている。ここに登録されているmRNA(cDNA)の配列を配列番号1に、コードされるアミノ酸配列を配列番号2に示す。なお、本発明におけるセマフォリン4aには、その機能を損なわない範囲において、アミノ酸配列の一部に欠失、置換、挿入等の変異を有するものも含まれる。
【0017】
本発明のスクリーニング方法では、細胞に由来するセマフォリン4aの機能を促進または阻害する候補物質の能力が指標として用いられる。セマフォリン4aの機能の促進または阻害は、セマフォリン4a遺伝子の発現の促進または阻害、またはセマフォリン4aタンパク質の機能の促進または阻害のいずれであってもよい。
【0018】
本発明の一つの実施態様によれば、上記の物質は、セマフォリン4a遺伝子の発現を促進または阻害する能力を指標としてスクリーニングされてもよい。このような能力としては、限定されるわけではないが、例えば、セマフォリン4a遺伝子のmRNAの転写開始を促進または阻害する能力、セマフォリン4a遺伝子のmRNAの発現を促進または阻害する能力、セマフォリン4a遺伝子のmRNAの分解を促進または阻害する能力、該mRNAからタンパク質への翻訳を促進または阻害する能力等が挙げられる。
【0019】
本発明の一つの実施態様によれば、上記の物質は、セマフォリン4aタンパク質の機能を促進または阻害する能力を指標としてスクリーニングされてもよい。このような能力としては、限定されるわけではないが、例えば、セマフォリン4aタンパク質の細胞外分泌を促進または阻害する能力、シグナル伝達機能を促進または阻害する能力等が挙げられる。
【0020】
本発明の一つの実施態様によれば、上記のセマフォリン4aの起源となる細胞は、菌類を含め、いかなる動植物に由来する細胞であってもよく、限定されるわけではないが、好ましくは動物細胞であり、好ましくはヒト細胞である。
【0021】
本発明の一つの実施態様によれば、上記のセマフォリン4aの起源となる細胞は、限定されるわけではないが、好ましくはメラノサイトである。上記のセマフォリン4aの起源となる細胞は1種であってもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の他の態様によれば、細胞に由来するセマフォリン4aの機能促進剤を含んでなる、被験体の皮膚におけるメラニン量を減少させるための組成物が提供される。また、本発明によれば、治療上有効な量の細胞に由来するセマフォリン4aの機能促進剤を、それを必要とする被験体に投与することを含んでなる、皮膚におけるメラニン量の減少に関連する疾患を治療または予防する方法が提供される。さらに、本発明によれば、皮膚におけるメラニン量の減少に関連する疾患を治療するための薬剤の製造における、細胞に由来するセマフォリン4aの機能促進剤の使用が提供される。また、本発明によれば、皮膚におけるメラニン量の減少に関連する疾患を治療するための、細胞に由来するセマフォリン4aの機能促進剤が提供される。
【0023】
また、本発明の他の態様によれば、細胞に由来するセマフォリン4aの機能阻害剤を含んでなる、被験体の皮膚におけるメラニン量を増加させるための組成物が提供される。また、本発明によれば、治療上有効な量の細胞に由来するセマフォリン4aの機能阻害剤を、それを必要とする被験体に投与することを含んでなる、皮膚におけるメラニン量の増加に関連する疾患を治療または予防する方法が提供される。さらに、本発明によれば、皮膚におけるメラニン量の増加に関連する疾患を治療するための薬剤の製造における、細胞に由来するセマフォリン4aの機能阻害剤の使用が提供される。また、本発明によれば、皮膚におけるメラニン量の増加に関連する疾患を治療するための、細胞に由来するセマフォリン4aの機能阻害剤が提供される。本発明における、細胞に由来するセマフォリン4aの機能阻害剤としては、限定されるわけではないが、例えば、中和抗体等を挙げることができる。
【0024】
本発明における、細胞に由来するセマフォリン4aの機能促進剤または機能阻害剤としては、限定されるわけではないが、例えば、小分子、低分子化合物、高分子化合物、核酸分子、タンパク質、ペプチド(環状ペプチドを含む)等を用いることができる。
【0025】
また、本発明の他の態様によれば、被験体におけるメラニンの産生量を評価する方法が提供され、該方法は、(a)前記被験体の細胞に由来するセマフォリン4aの機能を測定する工程、および(b)工程(a)で得られた測定結果に基づいて、前記被験体におけるメラニンの産生量を予測する工程、を含んでなる。
【0026】
本発明における被験体は、いかなる動物であってもよく、限定されるわけではないが、好ましくは哺乳動物、例えば、ヒト、チンパンジーなどの霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類等の哺乳動物とされ、より好ましくはヒトとされる。
【0027】
本発明の一つの実施態様によれば、上記の工程(a)は、(a1)前記被験体の皮膚へのテープの貼付および剥離により得られた前記被験体に由来する細胞を用意する工程、および(a2)工程(a1)で得られた細胞に由来するセマフォリン4aの機能を測定する工程、を含んでいてもよい。本発明による工程(a1)においては、皮膚へのテープの貼付および剥離は、被験体の身体上の同一の場所または異なる場所のいずれで行ってもよく、また、貼付および剥離は1回または1回以上行ってもよい。
【0028】
本発明の工程(a)における測定は公知の方法を用いて行ってもよく、限定されるわけではないが、例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競争的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Competitive RT-PCR)、実時間逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA;RNase protection assay)、ノーザンブロット法(Northern blotting)、DNAチップ、プロテインチップ分析、免疫測定法、リガンド結合法、MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、SELDI-TOF(Sulface Enhanced Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、放射線免疫分析、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組職免疫染色、補体結合分析法、2次元電気泳動分析、液相クロマトグラフィー質量分析(liquid chromatography-Mass Spectrometry、LC-MS)、LC-MS/MS(liquid chromatography-Mass Spectrometry/Mass Spectrometry)、ウエスタンブロット法及びELISA(enzyme linked immunosorbentassay)等を用いて行ってもよい。これらから得られた測定結果に基づいて、前記被験体におけるメラニンの産生量を予測し、前記被験体におけるメラニンの産生量を評価する。また、本発明の一つの実施態様によれば、本発明の方法はin vitroで実施してもよい。
【実施例0029】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。含有量は特記しない限り、質量%で示す。
【0030】
皮膚片の調製
ヒトの腹部における皮膚を通常の美容整形または形成外科を行った健常被験者(21、54、54歳女性:合計3名)から皮膚を取得し、インフォームドコンセントおよび倫理承認(Muenster大学)を得た後に皮膚片として用いた。
【0031】
神経細胞の培養
iPS細胞由来神経幹細胞(ax0015、Axol Bioscience社製)を製造元の説明書の記載にしたがって培養した。具体的には、これらの細胞を12ウェルプレートに播種し、KSR(インビトロジェン社製)を10%になるように、組換えヒトFGF basic(ペプロテック社製)を8ng/mlになるように、ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを1x濃度になるように、それぞれ添加したDMEM/F12培地(インビトロジェン社製)にて7日間培養した。
【0032】
神経細胞と皮膚片の共培養
iPS細胞由来神経幹細胞の播種7日後、皮膚片をのせ、インスリン(Sigma-Aldrich社製)を5μg/mLになるように、ヒドロコルチゾン(Sigma-Aldrich社製)を10ng/mLになるように、ペニシリン/ストレプトマイシンを1x濃度になるように、NGF(Sigma-Aldrich社製)を25ng/mLになるように、それぞれ添加したDMEM培地およびDMEM/F12培地を1:1の割合で含む培地にて10日間培養し、Opsytec Dr. Grobel BS-02を使用して100mJのUVBを照射し、2日後に皮膚片を回収し、回収した皮膚片をAX15+UVBサンプルとした。皮膚片を、神経細胞を加えず、同条件で単独培養したものをSA+UVBサンプルとし、それぞれのUVB非照射群をAX15サンプル、SAサンプルとし、UVB照射群に対する対照群とした。
【0033】
皮膚片の基底層におけるメラニン量の定量
Cryomatrix(登録商標)(エプレディア社製)で凍結した皮膚片を、厚さ7μmの偏光スライドで切片化した。染色前に、スライドを4%PFAに入れて皮膚片を固定した。TBSおよび水でそれぞれ5分間洗浄した後、アンモニウムベースの5%硝酸銀溶液を用いて、メラニンの染色を暗所において56℃、40分間行った。染色した切片を蒸留水でそれぞれ5分間3回洗浄し、コントラストを上げるために5%チオ硫酸ナトリウムで1分間処理した。スライドをヘマトキシリンで素早く対比染色し、カバースリップする前に水道水で洗浄した。洗浄後、基底層におけるメラニン量を、フォンタナ・マッソン染色を用いて定量した。SAサンプルおよびAX15サンプルは、N=14セクションあたり1実験群、平均3~4イメージあたり1セクション、1切片のパンチアウトあたり1ドナー、3ドナーからプール、とし、SA+UVBサンプルおよびAX15+UVBサンプルは、N=56~57イメージあたり1実験群(4~6セクションに由来するもの)、1切片のパンチアウトあたり1ドナー、3ドナーからプール、とした。グラフパッドプリズム6を用いて統計解析を行い、一元配置分散分析、多重比較による検定(P<0.01の場合##と記載)、および対応のないt検定による検定(P<0.05の場合*、P<0.01の場合**とそれぞれ記載)を行った。
【0034】
結果を図1に示す。皮膚片と神経細胞を共培養した場合、UVBを皮膚片に照射すると、AX15サンプルとAX15+UVBサンプルの比較から、皮膚片におけるメラニン量が増加することが示されている。一方で、皮膚片のみで培養した場合、UVBを皮膚片に照射すると、SAサンプルとSA+UVBサンプルの比較から、皮膚片におけるメラニン量が減少することが示されている。以上の結果から、神経が近傍にあると、人間の反応と同様に、UV照射でメラニン量が増えることが示された。このことから、神経細胞は、メラノサイトにおけるメラニン産生に影響を与える可能性が示唆された。
【0035】
蛍光免疫組織化学染色および定量的免疫組織形態計測
皮膚片を4mmの小片に切り分け、OCTに包埋し、液体窒素中で凍結させた。OCT包埋試料をLeica cryostatで切片にした。一次抗体染色として、凍結皮膚切片を4%パラホルムアルデヒドで固定し、5%ヤギ血清を加えた0.3%TritonX-100でプレインキュベートし、対応する一次抗体の溶液中、4℃で一晩インキュベートした。二次抗体の溶液中、室温で45分間インキュベートした。インキュベート後、DAPI(1μg/ml)を用いて核を染色した。
【0036】
セマフォリン4a発現量の評価においては、一次抗体として、抗GP100抗体(Monosan社製)、抗C―Kit抗体(DAKO社製)および抗セマフォリン4a抗体(Abcam社製)を用い、次いで二次抗体としてヤギ抗ウサギIgG(H+L)交差吸着済み二次抗体(Invitrogen社製)、ヤギ抗マウスIgG(H+L)高交差吸着済み二次抗体(Invitrogen社製)を、それぞれ使用した一次抗体に合わせて用いた。プレキシンB1(NCBIデータベースに登録されているmRNA(cDNA)配列を配列番号3に、コードされるアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ記載)、セマフォリン3C(NCBIデータベースに登録されているmRNA(cDNA)配列を配列番号5に、コードされるアミノ酸配列を配列番号6にそれぞれ記載)、およびムコリピン3(NCBIデータベースに登録されているmRNA(cDNA)配列を配列番号7に、コードされるアミノ酸配列を配列番号8にそれぞれ記載)、それぞれの発現量の評価においても、同様に対応する一次抗体(プレキシンB1:ウサギ抗プレキシンB1ポリクローナル抗体(アバカム社製)、セマフォリン3C:ラット抗セマフォリン3Cポリクローナル抗体(R&Dシステム社製)、ムコリピン3:ウサギ抗ムコリピン3ポリクローナル抗体(サーモフィッシャー社製))および二次抗体(プレキシンB1:ヤギ抗ウサギFITC標識済みIgG抗体(ジャクソン イムノ リサーチ社製)、セマフォリン3C:ロバ抗ラットローダミン標識済みIgG抗体(ジャクソン イムノ リサーチ社製)、ムコリピン3:ヤギ抗ウサギAlexa546標識済みIgG抗体(インビトロジェン社製))を用いた。核染色にはDAPI(Sigma-Aldrich社製)を用いた。
【0037】
染色強度を、明確に定義された参照領域においてアメリカ国立衛生研究所のNIH ImageJソフトウェアを用いて、定量的(免疫)組織形態計測31、32によりセマフリン4a、プレキシンB1、セマフォリン3C、およびムコリピン3それぞれの発現量を評価した。各サンプルは、N=13~14セクションあたり1実験群(37~147メラノサイトあたり1セクションに由来するもの)、1切片のパンチアウトあたり1ドナー、3ドナーからプール、とした。グラフパッドプリズム6を用いて統計解析を行った。各培養ごとに、1実験群あたりの1切片のパンチアウトの解析を行った。一元配置分散分析およびTukeyの多重比較による検定(P<0.05の場合#、P<0.0001の場合####とそれぞれ記載)、および対応のないt検定による検定(P<0.05の場合**、P<0.01の場合***とそれぞれ記載)を行った。
【0038】
結果を図2~5に示す(図2:セマフォリン4aの発現量、図3:プレキシンB1の発現量、図4:セマフォリン3Cの発現量、図5:ムコリピン3の発現量)。図2~5の結果から、評価した因子のうちセマフォリン4aのみが、神経細胞の添加やUVB照射により、その発現量が増減することが示された。以上の結果より、神経細胞は、メラノサイトにおけるメラニン産生に影響を与える可能性があり、これにはセマフォリン4aが関与している可能性があることが示された。ここで、セマフォリン4aは、神経細胞を遠ざけることが知られている(例えば、Int J Mol Med. 2005 Jul;16(1):115-8を参照)。このことと上記2つの実験結果から、UV照射によりセマフォリン4aの発現が低下すると、これにより神経がメラノサイトに近づき、メラニン産生が行われる可能性が示された。すなわち、セマフォリン4a発現量がメラニン産生量の指標になる可能性が示された。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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