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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166910
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】インバータシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20231115BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20231115BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231115BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P27/06
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077767
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 賢
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE08
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL39
5H505LL41
5H505LL55
5H505MM13
5H770AA05
5H770BA01
5H770DA05
5H770DA21
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】多相電動機の機械的要因によるトルクリプルを抑制することができるインバータシステムを提供する。
【解決手段】インバータシステムは、多相電動機の複数の相にそれぞれ接続され、前記多相電動機の複数の相のそれぞれに交流電圧を印加する複数の単相インバータと、前記多相電動機の機械角の検出値に基づいて前記多相電動機の機械的要因によるトルクリプルと減相運転時のトルクリプルの推定値を演算し、当該トルクリプルの推定値に対応した補正値に基づいて前記複数の単相インバータをそれぞれ制御する複数の単相制御装置と、を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相電動機の複数の相にそれぞれ接続され、前記多相電動機の複数の相のそれぞれに交流電圧を印加する複数の単相インバータと、
前記多相電動機の機械角の検出値に基づいて前記多相電動機の機械的要因によるトルクリプルと減相運転時のトルクリプルの推定値を演算し、当該トルクリプルの推定値に対応した補正値に基づいて前記複数の単相インバータをそれぞれ制御する複数の単相制御装置と、
を備えたインバータシステム。
【請求項2】
前記複数の単相制御装置は、前記多相電動機の角速度に応じて前記多相電動機の機械的要因によるトルクリプルの推定値をそれぞれ演算する請求項1に記載のインバータシステム。
【請求項3】
前記複数の単相インバータのいずれかが故障した場合に、残りの故障していない単相インバータに対する電気角指令値の信号を出力するインバータ指令装置、
を備え、
前記残りの故障していない単相インバータにそれぞれ対応した複数の単相制御装置は、前記多相電動機の複数の相のうちの前記残りの故障していない単相インバータにそれぞれ対応した複数の相のコイルの配置に応じて前記複数の単相インバータのいずれかが故障したことにより生じるトルクリプルの推定値をそれぞれ演算する請求項1または請求項2に記載のインバータシステム。
【請求項4】
前記残りの故障していない単相インバータにそれぞれ対応した複数の単相制御装置は、d軸電流指令値に応じて前記複数の単相インバータのいずれかが故障したことにより生じるトルクリプルの推定値をそれぞれ演算する請求項3に記載のインバータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この本開示は、インバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、インバータシステムを開示する。当該インバータシステムによれば、ある任意の相の単相インバータ装置が故障して減相運転となった場合でも、多相負荷に対して平衡交流出力を供給することで多相電動機の振動を抑制し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-25720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のインバータシステムにおいては、多相電動機の機械的要因によるトルクリプルや減相運転時の磁界分布によるトルクリプルが考慮されていない。このため、多相電動機の機械的要因による振動を抑制することができない。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされた。この発明の目的は、多相電動機の機械的要因や減相運転によるトルクリプルを抑制することができるインバータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るインバータシステムは、多相電動機の複数の相にそれぞれ接続され、前記多相電動機の複数の相のそれぞれに交流電圧を印加する複数の単相インバータと、前記多相電動機の機械角の検出値に基づいて前記多相電動機の機械的要因によるトルクリプルと減相運転時のトルクリプルの推定値を演算し、当該トルクリプルの推定値に対応した補正値に基づいて前記複数の単相インバータをそれぞれ制御する複数の単相制御装置と、を備えた。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複数の単相制御装置は、多相電動機の機械角の検出値に基づいて多相電動機の機械的要因によるトルクリプルと減相運転時のトルクリプルの推定値を演算する。複数の単相制御装置は、当該トルクリプルの推定値に対応した補正値に基づいて複数の単相インバータをそれぞれ制御する。このため、多相電動機の機械的要因や減相運転によるトルクリプルを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1におけるインバータシステムが適用される電力システムの構成図である。
図2】実施の形態1におけるインバータシステムの単相制御装置の要部とインバータ指令装置の要部とのブロック図である。
図3】実施の形態1におけるインバータシステムのリプルデータテーブル部のブロック図である。
図4】実施の形態1におけるインバータシステムのインバータ指令装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図5】実施の形態1におけるインバータシステムのインバータ指令装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図6】機械角とトルクリプルの関係を示した図である。
図7】4相4極電動機を減相運転で発電機として使用したときの機械角と出力の関係を示した図である。
図8】実施の形態1におけるインバータシステムのインバータ指令装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略される。
【0010】
実施の形態1.
図1は実施の形態1におけるインバータシステムが適用される電力システムの構成図である。
【0011】
図1において、多相電動機1は、複数の相を備える電動機である。例えば、多相電動機1は、4つの相を備える。例えば、多相電動機1は、同期電動機である。多相電動機1の回転子の種類は、問われない。例えば、多相電動機1の回転子は、巻線型の回転子である。例えば、多相電動機1の回転子は、永久磁石型の回転子である。
【0012】
機械角検出装置2は、多相電動機1に隣接する。機械角検出装置2は、多相電動機1の機械角を検出したうえで当該機械角の検出値の信号を出力する。
【0013】
インバータシステムは、複数の単相インバータ3と複数の電流検出器4と複数の単相制御装置5とインバータ指令装置6とを備える。
【0014】
複数の単相インバータ3は、多相電動機1の複数の相にそれぞれ対応する。複数の単相インバータ3は、多相電動機1の複数の相にそれぞれ交流電圧を印加する。
【0015】
複数の電流検出器4は、多相電動機1の複数の相に流れる電流をそれぞれ検出したうえで当該電流の検出値の信号を出力する。
【0016】
複数の単相制御装置5は、複数の単相インバータ3にそれぞれ対応する。複数の単相制御装置5の各々は、電流指令値演算部5aと誘起電圧リプルデータ部5bと第1変換部5cとd軸電流制御部5dとq軸電流制御部5eと第2変換部5fとPWM制御部5gとを備える。ここでd軸電流とは、単相インバータの出力電流において各々の単相インバータの出力電圧と直交する位相の電流成分であり、q軸電流とは各々の単相インバータの出力電圧と同相の位相の電流成分を意味する。
【0017】
電流指令値演算部5aは、外部から電流振幅指令値の信号の入力を受け付ける。電流指令値演算部5aは、電流振幅指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とを演算する。
【0018】
誘起電圧リプルデータ部5bは、機械角検出装置2から機械角の検出値の信号の入力を受け付ける。誘起電圧リプルデータ部5bは、機械角の検出値に基づいてd軸電流補正値とq軸電流補正値とを演算する。
【0019】
第1変換部5cは、外部から電気角指令値の信号の入力を受け付ける。第1変換部5cは、電流検出器4から電流の検出値の信号を受け付ける。第1変換部5cは、電気角指令値に基づいて電流の検出値をd軸実電流検出値とq軸実電流検出値とに変換する。
【0020】
減算器51dは、d軸電流指令値とd軸電流補正値との差分である補正されたd軸電流指令値を出力する。減算器51qは、q軸電流指令値とq軸電流補正値との差分である補正されたq軸電流指令値を出力する。
【0021】
減算器52dにより、d軸電流制御部5dは、補正されたd軸電流指令値からd軸実電流検出値を差し引いた値の信号の入力を受け付ける。d軸電流制御部5dは、補正されたd軸電流指令値にd軸実電流検出値が追従するように、d軸電圧指令値を演算する。
【0022】
減算器52qにより、q軸電流制御部5eは、補正されたq軸電流指令値からq軸実電流検出値を差し引いた値の信号の入力を受け付ける。q軸電流制御部5eは、補正されたq軸電流指令値にq軸実電流検出値が追従するように、q軸電圧指令値を演算する。
【0023】
第2変換部5fは、d軸電流制御部5dからd軸電圧指令値の信号の入力を受け付ける。第2変換部5fは、q軸電流制御部5eからq軸電圧指令値の信号の入力を受け付ける。第2変換部5fは、電気角演算部6dから各々の単相インバータに対応した電気角指令値を受け付ける。第2変換部5fは、d軸電圧指令値とq軸電圧指令値と電気角指令値とに基づいて電圧振幅指令値を演算する。
【0024】
PWM制御部5gは、第2変換部5fから電圧振幅指令値の信号の入力を受け付ける。PWM制御部5gは、電圧振幅指令値に基づいて所定のキャリア周波数でPWM制御により単相インバータ3を制御する。
【0025】
インバータ指令装置6は、第1角速度演算部6aとPI制御部6bとインバータ運転信号発生部6cと電気角演算部6dとを備える。
【0026】
第1角速度演算部6aは、機械角検出装置2から機械角の検出値の信号の入力を受け付ける。第1角速度演算部6aは、機械角の検出値を時間微分することで多相電動機1の角速度の検出値を演算する。
【0027】
PI制御部6bは、外部から速度指令値の信号の入力を受け付ける。PI制御部6bは、第1角速度演算部6aから角速度の検出値の信号の入力を受け付ける。PI制御部6bは、速度指令値から角速度の検出値を差し引いた値に基づいて、角速度の検出値が速度指令値に追従するように電流振幅指令値を演算する。PI制御部6bは、電流振幅指令値を複数の単相制御装置5に向けて出力する。
【0028】
インバータ運転信号発生部6cは、図示されない異常検出部から複数の単相インバータ3の異常検出信号および、図示されない上位装置からの運転信号を受け付けた際に運転する単相インバータ3を決定する。インバータ運転信号発生部6cは、複数の単相インバータ3の異常信号および上位装置からの運転信号に基づいて複数の単相制御装置5に向けてDEB/GB指令信号を出力する。尚、図1ではDEB/GB信号の図示は省略される。各々の単相制御装置5は受信した各々のDEB/GB指令信号により、各々の単相インバータ3をデブロック或いはゲートブロックする。インバータ運転信号発生部6cは、複数の単相インバータ3の異常信号に基づき電気角演算部に複数の運転可能インバータ信号を出力する。運転可能インバータ信号とは複数の単相インバータ3の内、運転可能な単相インバータ3を表す信号である。
【0029】
電気角演算部6dは、機械角検出装置2から機械角の検出値の信号の入力を受け付ける。電気角演算部6dは、インバータ運転信号発生部6cから各単相インバータ3に対する複数の運転可能インバータ信号(例えば、運転可能インバータ信号1~4)の入力を受け付ける。以降、本明細書では各単相インバータ3に対する複数の各運転可能インバータ信号を総称する時は「複数の運転可能インバータ信号」と記す。電気角演算部6dは、機械角の検出値と複数の運転可能インバータ信号とに基づいて複数の単相制御装置5に向けて電気角指令値の信号を出力する。
【0030】
次に、図2を用いて、単相制御装置5の要部とインバータ指令装置6の要部とを説明する。
【0031】
図2は実施の形態1におけるインバータシステムの単相制御装置の要部とインバータ指令装置の要部とのブロック図である。
【0032】
図2に示されるように、誘起電圧リプルデータ部5bは、リプルデータテーブル部7とd軸ゲイン部8とq軸ゲイン部9とを備える。
【0033】
リプルデータテーブル部7は、インバータ運転信号発生部6cから複数の運転可能インバータ信号の入力を受け付ける。リプルデータテーブル部7は、機械角検出装置2から機械角の検出値の信号の入力を受け付ける。リプルデータテーブル部7は、複数の運転可能インバータ信号と機械角の検出値とに基づいて多相電動機1のトルクリプルの推定値のd軸成分とq軸成分を演算する。
【0034】
d軸ゲイン部8は、リプルデータテーブル部7からトルクリプルの推定値のd軸成分の信号の入力を受け付ける。d軸ゲイン部8は、トルクリプルの推定値のd軸成分に基づいてd軸電流補正値を演算する。d軸ゲイン部8は、d軸電流補正値の信号を出力する。
【0035】
q軸ゲイン部9は、リプルデータテーブル部7からトルクリプルの推定値のq軸成分の信号の入力を受け付ける。q軸ゲイン部9は、トルクリプルの推定値のq軸成分に基づいてq軸電流補正値を演算する。q軸ゲイン部9は、q軸電流補正値の信号を出力する。
【0036】
図2に示されるように、電気角演算部6dは、電気角変換部10と運転台数判定部11と電流位相間隔演算部12と電気角位相割振部13とを備える。
【0037】
電気角変換部10は、外部から機械角の検出値の信号の入力を受け付ける。電気角変換部10は、下式(1)の様に入力された機械角θmの検出値の信号に、多相電動機1の極数pを乗算し、2で除算した値を演算することで、機械角の検出値を電気角θeの検出値に変換する。
【0038】
θe=θm×p/2 ・・・・・・(1)
【0039】
運転台数判定部11は、外部から複数の運転可能インバータ信号の入力を受け付ける。運転台数判定部11は、複数の運転可能インバータ信号に基づいて運転可能な単相インバータ3を判定する。
【0040】
電流位相間隔演算部12は、運転台数判定部11から運転可能な単相インバータ3の信号の入力を受け付ける。電流位相間隔演算部12は、360°/運転可能な単相インバータ3の台数を演算することで、運転可能な単相インバータ3の電流位相の間隔を演算する。
【0041】
電気角位相割振部13は、電気角変換部10から電気角の検出値の信号の入力を受け付ける。電気角位相割振部13は、運転台数判定部11から運転可能な単相インバータ3の信号の入力を受け付ける。電気角位相割振部13は、電流位相間隔演算部12から運転可能な単相インバータ3の電流位相の間隔の信号の入力を受け付ける。電気角位相割振部13は、電気角の検出値と運転可能な単相インバータ3の電流位相の間隔とに基づいて運転可能な各々の単相インバータ3に対して各々の電気角指令値の信号(電気角指令値1~4)を出力する。
【0042】
次に、図3を用いて、リプルデータテーブル部7を説明する。
【0043】
図3は実施の形態1におけるインバータシステムのリプルデータテーブル部のブロック図である。
【0044】
図3に示されるように、第2角速度演算部14と第1リプルデータ部15と第2リプルデータ部16と合成部17とを備える。
【0045】
第2角速度演算部14は、外部から機械角の検出値の信号の入力を受け付ける。第2角速度演算部14は、機械角の検出値を時間微分することで角速度の検出値を演算する。
【0046】
第1リプルデータ部15は、多相電動機1の機械的要因によるトルクリプルの第1基準値の情報を記憶する。トルクリプルの第1基準値は、工場での試験等において多相電動機1を外部の動力で一定の回転速度で機械的に回転させた際の多相電動機1の複数の相の誘起電圧から演算される。トルクリプルの第1基準値は、機械角2π分のデータとなる。
【0047】
トルクリプルの第1基準値は、例えば多相電動機1の各交流入力端子に抵抗負荷をして電圧、あるいは出力電力を測定できるようにし、外部の動力で一定の回転速度で機械的に回転、すなわち発電機として運転させ、機械角1回転分の誘起電圧あるいは出力電力を測定する。そして、基準となる誘起電圧あるいは基準となる出力電力との差異をもとめることができる。即ち、各相の機械角に対する正弦波とのずれを、d軸、q軸に変換し、図6に示す様に、機械角に対するトルクリプル関数として得ることができる。一般にこのトルクリプルは機械角の周波数より高次である。なおここで機械的に回転させたとき一回転中の角速度を一定に保てるようにすることが望まれる。
【0048】
第1リプルデータ部15は、外部から機械角の検出値の信号の入力を受け付ける。第1リプルデータ部15は、第2角速度演算部14から角速度の検出値の信号の入力を受け付ける。第1リプルデータ部15は、機械角の検出値と角速度の検出値と、に基づいて多相電動機1の機械的要因によるトルクリプルの第1推定値を演算する。この際、第1リプルデータ部15は、トルクリプルの第1基準値を基準にして多相電動機1の機械的要因によるトルクリプルの第1推定値を演算する。
【0049】
第2リプルデータ部16は、故障した単相インバータ3に接続されたコイルの電流が0になることにより生じるトルクリプルの第2基準値の情報を記憶する。トルクリプルの第2基準値は、故障したインバータに対応するコイルの磁極配置に基づいて予め演算される。コイルの磁極配置による減相運転時のトルクリプルの演算は複雑であるので、あるいは、トルクリプルの第2基準値は、工場での試験等によりもとめてもよい。トルクリプルの第2基準値は、機械角2π分のデータとなる。尚、機械角2π分のデータは、電気角2π分のデータを、極数を2で除した値で繰り返すことにより作成してもよい。即ち極数をpとした場合、電気角2π分をp/2回繰り返し、機械角2π分のデータとしてもよい。
【0050】
第2リプルデータ部16は、外部から機械角の検出値の信号の入力を受け付ける。第2リプルデータ部16は、外部から複数の運転可能インバータ信号の入力を受け付ける。第2リプルデータ部16は、外部からq軸電流指令値の信号の入力を受け付ける。第2リプルデータ部16は、機械角の検出値と複数の運転可能インバータ信号とq軸電流指令値とに基づいて故障した単相インバータ3に接続されたコイルの電流が0になることにより生じるトルクリプルの第2推定値を演算する。この際、第2リプルデータ部16は、トルクリプルの第2基準値を基準にして故障した単相インバータ3に接続されたコイルの電流が0になることにより生じるトルクリプルの第2推定値を演算する。
【0051】
トルクリプルの第2基準値は、工場試験等で意図的に単相インバータ2を運転不能として事前計測してもよい。あるいは、トルクリプルの第2基準値は、例えば多相電動機1の故障相として想定した以外の相の各交流入力端子に抵抗負荷を接続し、電圧または電流を測定できるようにし、さらに、故障相として想定した相の交流入力端子は外部の動力で一定の回転速度で機械的に回転させ(発電機として動作させる)、機械角1回転分の各々の相の出力電力を測定する。図7は前述の場合の各相の出力電力の合計を模式的に示したものである
【0052】
図7は多相電動機1が4相4極電動機の場合の例である。縦軸はトルクであり、発電機として出力した場合の電力に相当する。破線aは単相インバータ3が健全な場合のトルクであり、実線bは単相インバータの第1相が故障した場合のトルクに相当する。横軸は角度であり、機械角と電気角を併記している。4極電動機を想定しているので機械角の2πが電気角の4πとなっている。
【0053】
全相健全な場合の出力電力と、特定相が欠相(端子開放)させた場合の出力電力の差がトルクリプルに相当する。したがって破線aと実線bとの差がトルクリプルに相当する電力リプルである。トルクリプル第2基準は、多相電動機1を発電機として抵抗を負荷として動作させ、全端子に抵抗を接続したときの実測値と、故障を発生したと想定した相に抵抗を接続したときの出力電力の実測値の差から、トルクリプル相当電力を角度(電気角または機械角)の関数として得ることが出来る。このリプル成分を補償する様にトルクリプルの第2基準を生成する。
【0054】
4極の場合は、電気角4πが機械角2πに相当する。しかし、機械角0~πまでと機械角π~2πまでの値は原理的には等しいので、トルクリプルの第2基準のデータは電気角0~2πまでのデータとし、機械角π~2πのデータは電気角0~2πまでのデータを自動的に生成する様にしてもよい。すなわちn相p極の多相電動機1の場合、機械角0から4π/pまでのデータ(すなわち電気角0~2π)までのデータを作成し、機械角4π/p~2πまでのデータは、機械角0から4π/pまでのデータ(すなわち電気角0~2π)をm回繰り返して利用するようにしてもよい。ここで繰り返し回数mは下式(2)となる。
【0055】
m=p/2-1 ・・・・・・(2)
【0056】
さらに、全体のn相の多相電動機1に於いて、第k相の単相インバータ3の1台が故障した場合のトルクリプルは、第1相の単相インバータ3の1台が故障した場合のトルクリプルに対し、下式(3)で計算される電気角位相αだけ遅延したものと原理的には同様である。
【0057】
α=(k-1)×2π/n ・・・・・・(3)
【0058】
したがって、単相インバータ3の1台のみの、故障を想定した場合は、第1相のみの故障を想定したトルクリプル第2基準データを生成し、他の相の故障の場合は電気角位相α遅延させて使用するようにしてもよい。
【0059】
複数台の単相インバータ3の故障を想定した場合は、前述の1相のみのトルクリプルデータを使用し、それぞれの故障相のみの1相故障を想定した位相とトルクの関係を示すトルクリプルデータを計算し、重ねの理により、加算してトルクリプル第2基準データとして使用する様にしてもよい。
【0060】
なお、電動機の構造の相違等により、複数相の故障を想定した場合は、磁界分布の影響で、必ずしも重ねの理にて必要な精度のトルクリプルが得られない場合がある。例えば2つの相の単相インバータ3の故障の場合である。この場合は第1の故障相と第2の故障相の位相差が同一のトルクリプルデータを1種類のみ取得し、故障相の位相にあわせて、遅延あるいは進める、ことでトルクリプル第2基準データを生成してもよい。すなわち、例えば、単相インバータ3の第1相と第n1相の故障の場合を想定したトルクリプルデータは、第n2相と第n2+n1相の故障を想定した場合にも流用可能である。即ち、第1相と第n2相の位相差分だけ遅延させれば、第n2相と第n2+n1-1相の故障の場合の第2基準データを生成して使用する様にしてもよい。ここでn1、n2は整数である。
【0061】
即ち、減相運転時のトルクリプルデータはすべての故障した単相インバータ3についての組み合わせのデータを用意する必要はなく、単相インバータ3が1相のみの故障を想定する場合として1種類、単相インバータ3が複数相の故障を想定する場合は、故障相間の位相差の種類の数のみ用意し、故障位相により、トルクリプルデータの位相を必要により進めたり、遅延させたりして使用することができる。
【0062】
尚、トルクリプルの第1基準値やトルクリプルの第2基準値を作成するためのデータを試験によって得る場合、必ずしも個々の多相電動機1について行う必要がなく、同一型式について1台実施し、同じ型式のものについては、それを流用してもよい。この理由は、トルクリプルは電動機の構造に依存するので、同一型式であればトルクリプルはほぼ等しいからである。
【0063】
合成部17は、トルクリプル抑制モードの時、第1リプルデータ部15からトルクリプルの第1推定値の信号の入力を受け付ける。合成部17は、減相モードの時、第2リプルデータ部16からトルクリプルの第2推定値の信号の入力を受け付ける。合成部17は、トルクリプルの第1推定値と第2推定値とに基づいてトルクリプルの推定値のd軸成分とq軸成分とを演算する。トルクリプル抑制モードの指示は、図示されない上位からの指令信号あるいは所定の速度指令値によって設定されインバータ指令装置6から単相制御装置5内の合成部17に伝達される。減相モードの指示はインバータ指令装置6の運転台数判定部11から複数の単相インバータの何れかに故障があるとき、単相制御装置5内の合成部17に伝達される。
【0064】
次に、図4図5とを用いて、インバータ指令装置6の動作を説明する。
【0065】
図4図5とは実施の形態1におけるインバータシステムのインバータ指令装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【0066】
ステップS1では、インバータ指令装置6は、外部からの運転指令の信号が入力されているか否かを判定する。
【0067】
ステップS1で外部からの運転指令の信号が入力されていない場合、インバータ指令装置6は、ステップS2の動作を行う。ステップS2では、インバータ指令装置6は、全ての単相インバータ3の運転を停止させる。
【0068】
ステップS1で外部からの運転指令の信号が入力されている場合、インバータ指令装置6は、ステップS3の動作を行う。ステップS3では、インバータ指令装置6は、故障している単相インバータ3があるか否かを判定する。
【0069】
ステップS3で故障している単相インバータ3がない場合、インバータ指令装置6は、ステップS4の動作を行う。ステップS4では、インバータ指令装置6は、トルクリプルの抑制が必要であるか否かを判定する。
【0070】
ステップS4でトルクリプルの抑制が必要である場合、インバータ指令装置6は、ステップS5の動作を行う。ステップS5では、インバータ指令装置6は、トルクリプル抑制モード指令を出力する。そしてステップS6に移行する。
【0071】
ステップS6では、単相制御装置5の誘起電圧リプルデータ部5bは、トルクリプル抑制モードの指令を受けて、トルクリプルの第1推定値を演算し、その値に基づきd軸電流補正値およびq軸電流補正値を生成する。すべての各単相インバータ3は各々のd軸電流指令値とd軸電流補正値に基いた、補正されたd軸電流指令値にd軸実電流検出値が追従するように運転される。また、すべての各単相インバータ3は各々のq軸電流指令値とq軸電流補正値に基いた、補正されたq軸電流指令値にq軸実電流検出値が追従するように運転される。
【0072】
ステップS4でトルクリプルの抑制が必要でない場合、インバータ指令装置6は、ステップS7の動作を行う。ステップS7では、インバータ指令装置6は、トルクリプル抑制モードでないモードで全ての各単相インバータ3を運転させる。
【0073】
ステップS3で故障している単相インバータ3がある場合、インバータ指令装置6は、ステップS8の動作を行う。ステップS8では、インバータ指令装置6は、故障している単相インバータ3の台数が許容数よりも少ないか否かを判定する。また、許容数以内であっても、故障している単相インバータ3の位相が近接しており、想定される減相運転時のトルクリプルが許容値以内か判定する。
【0074】
ステップS8で故障している単相インバータ3の台数が許容数よりも少ない場合、さらに想定される減相運転時のトルクリプルが許容値以内の場合、インバータ指令装置6は、ステップS9の動作を行う。ステップS9では、インバータ指令装置6は、減相運転モードの指令を出力する。
【0075】
その後、インバータ指令装置6は、ステップS10の動作を行う。ステップS10では、インバータ指令装置6は、電気角指令値の位相を演算する。その後、インバータ指令装置6は、ステップS11の動作を行う。ステップS11では、インバータ指令装置6は、トルクリプルの抑制が必要であるか否かを判定する。
【0076】
ステップS11でトルクリプルの抑制が必要である場合、インバータ指令装置6は、ステップS12の動作を行う。ステップS12では、インバータ指令装置6は、トルクリプル抑制モード指令を出力する。そしてステップS13に移行する。
【0077】
ステップS13では、故障していない各単相制御装置5の誘起電圧リプルデータ部5bは、トルクリプル抑制モードの指令を受けて、トルクリプルの第1推定値を演算し、さらに、減相運転モードの指令を受けて、故障している単相インバータ3があることを反映させてトルクリプルの第2推定値を演算し、トルクリプルの第1推定値とトルクリプルの第2推定値を合成し、その値に基づきd軸電流補正値およびq軸電流補正値を生成する。故障していない各単相インバータ3は各々のd軸電流指令値とd軸電流補正値に基いた、補正されたd軸電流指令値にd軸実電流検出値が追従するように運転される。また、すべての各単相インバータ3は各々のq軸電流指令値とq軸電流補正値に基いた、補正されたq軸電流指令値にq軸実電流検出値が追従するように運転される。
【0078】
ステップS11でトルクリプルの抑制が必要でない場合、ステップS13では、故障していない各単相制御装置5の誘起電圧リプルデータ部5bは、減相運転モードの指令を受けて、故障している単相インバータ3があることを反映させてトルクリプルの第2推定値を演算し、その値に基づきd軸電流補正値およびq軸電流補正値を生成する。故障していない各単相インバータ3は各々のd軸電流指令値とd軸電流補正値に基いた、補正されたd軸電流指令値にd軸実電流検出値が追従するように運転される。また、すべての各単相インバータ3は各々のq軸電流指令値とq軸電流補正値に基いた、補正されたq軸電流指令値にq軸実電流検出値が追従するように運転される。
【0079】
ステップS8で故障している単相インバータ3の台数が許容数よりも少なくない場合、あるいは想定される減相運転時のトルクリプルが許容値より大きい場合、インバータ指令装置6は、ステップS15の動作を行う。ステップS15では、インバータ指令装置6は、全ての単相インバータ3の運転を停止させる。さらに図示されていない上位装置やオペレータに対して警報を出力してもよい。
【0080】
以上で説明した実施の形態1によれば、複数の単相制御装置5は、多相電動機1の機械角の検出値に基づいて多相電動機1の機械的要因によるトルクリプルの推定値を演算する。複数の単相制御装置5は、当該トルクリプルの推定値に対応した補正値に基づいて複数の単相インバータ3をそれぞれ制御する。このため、多相電動機1の機械的要因によるトルクリプルを抑制することができる。
【0081】
また、複数の単相制御装置5は、多相電動機1の角速度に応じて多相電動機1の機械的要因によるトルクリプルの推定値を演算する。このため、多相電動機1の機械的要因によるトルクリプルをより確実に抑制することができる。
【0082】
また、複数の単相インバータ3のいずれかが故障した場合、インバータ指令装置6は、残りの故障していない単相インバータ3に対する電気角指令値の信号を出力する。この際、残りの故障していない単相インバータ3に対し、対応した単相制御装置5は、残りの故障していない単相インバータ3にそれぞれ対応した複数の相のコイルの配置に応じて複数の単相インバータ3のいずれかが故障したことにより生じるトルクリプルの推定値をそれぞれ演算する。このため、多相電動機1の減相運転によるトルクリプルを抑制することができる。
【0083】
また、対応した単相制御装置5は、d軸電流指令値に応じて複数の単相インバータ3のいずれかが故障したことにより生じるトルクリプルの推定値をそれぞれ演算する。このため、多相電動機1の減相運転によるトルクリプルをより確実に抑制することができる。
【0084】
なお、4相以上の相を備えた多相電動機1に対し、実施の形態1のインバータシステムを適用してもよい。この場合、多相電動機1の相の数と同じ数の単相インバータ3と単相制御装置5とを用いて多相電動機1を制御すればよい。
【0085】
次に、図8を用いて、インバータ指令装置6の例を説明する。
【0086】
図8は実施の形態1におけるインバータシステムのインバータ指令装置のハードウェア構成図である。
【0087】
インバータ指令装置6の各機能は、処理回路により実現し得る。例えば、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。例えば、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える。
【0088】
処理回路が少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える場合、インバータ指令装置6の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、少なくとも1つのメモリ100bに格納される。少なくとも1つのプロセッサ100aは、少なくとも1つのメモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、インバータ指令装置6の各機能を実現する。少なくとも1つのプロセッサ100aは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。例えば、少なくとも1つのメモリ100bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等である。
【0089】
処理回路が少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。例えば、インバータ指令装置6の各機能は、それぞれ処理回路で実現される。例えば、インバータ指令装置6の各機能は、まとめて処理回路で実現される。
【0090】
インバータ指令装置6の各機能について、一部を専用のハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、インバータ運転信号発生部6cの機能については専用のハードウェア200としての処理回路で実現し、インバータ運転信号発生部6cの機能以外の機能については少なくとも1つのプロセッサ100aが少なくとも1つのメモリ100bに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。
【0091】
このように、処理回路は、ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせでインバータ指令装置6の各機能を実現する。
【0092】
図示されないが、単相制御装置5の各機能も、インバータ指令装置6の各機能を実現する処理回路と同等の処理回路で実現される。
【0093】
本開示によれば、多相電動機の機械的要因や減相運転によるトルクリプルを抑制することができるインバータシステムを提供することが出来る。
【符号の説明】
【0094】
1 多相電動機、 2 機械角検出装置、 3 単相インバータ、 4 電流検出器、 5 単相制御装置、 5a 電流指令値演算部、 5b 誘起電圧リプルデータ部、 5c 第1変換部、 5d d軸電流制御部、 5e q軸電流制御部、 5f 第2変換部、 5g PWM制御部、 6 インバータ指令装置、 6a 第1角速度演算部、 6b PI制御部、 6c インバータ運転信号発生部、 6d 電気角演算部、 7 リプルデータテーブル部、 8 d軸ゲイン部、 9 q軸ゲイン部、 10 電気角変換部、 11 運転台数判定部、 12 電流位相間隔演算部、 13 電気角位相割振部、 14 第2角速度演算部、 15 第1リプルデータ部、 16 第2リプルデータ部、 17 合成部、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 ハードウェア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8