(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166917
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】グラフェン同士を重ね合わせ、該重ね合わせたグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合してグラフェン接合体を作成し、該グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/194 20170101AFI20231115BHJP
C01B 32/19 20170101ALI20231115BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20231115BHJP
【FI】
C01B32/194
C01B32/19
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077776
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB05
4G146AB07
4G146AC26B
4G146AC30B
4G146AD17
4G146AD20
4G146AD22
4G146BA02
4G146BC18
4G146CB03
4G146CB16
4G146CB19
4G146CB32
4G146CB34
4G146CB35
4G146DA48
(57)【要約】 (修正有)
【課題】グラフェン同士を直接接合し、グラフェン接合体を形成する方法、および該グラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に圧接させる方法を提供する。
【解決手段】1-ブタノール中で、黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造する。次に、1-ブタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離する。さらに、グラフェンの集まりの一部を、1-ブタノールとともに新たな容器に移し、該容器の底面にグラフェン同士を重ね合わせる。この後、グラフェンの集まりの表面全体を圧縮し、グラフェン同士を摩擦圧接し、グラフェン接合体を作成する。さらに、グラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に配置し、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン同士を重ね合わせ、該重ね合わせたグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合してグラフェン接合体を作成し、該グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法は、
2枚の平行平板電極からなる一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に引き詰め、該一方の平行平板電極を、容器に充填した1-ブタノール中に浸漬させ、他方の平行平板電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記2枚の平行平板電極からなる電極板対を前記1-ブタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、該電極板対を前記1-ブタノール中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記1-ブタノール中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出す、
さらに、該容器内の前記1-ブタノール中でホモジナイザー装置を稼働させ、該1-ブタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記1-ブタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記容器から前記ホモジナイザー装置を取り出す、
さらに、前記容器内の前記1-ブタノール中に分散された前記グラフェンの集まりの一部を前記1-ブタノールとともに取り出し、基材ないしは部品の表面に接合させるグラフェン接合体の形状を底面の形状として有する新たな容器に充填する、この後、該新たな容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加え、前記1-ブタノールを介して前記グラフェン同士を重ね合わせ、該重なり合った前記グラフェンの集まりを、前記新たな容器の底面に該底面の形状として形成する、
さらに、前記新たな容器を前記1-ブタノールの沸点に昇温し、該新たな容器から前記1-ブタノールを気化させ、この後、該新たな容器の底面に形成された前記重なり合ったグラフェンの集まりの表面と重なり合う板材を、該グラフェンの集まりの表面に重ね合わせ、さらに、該板材の表面の全体を均等に圧縮し、前記重なり合ったグラフェン同士を摩擦圧接し、該摩擦圧接で接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体を、前記新たな容器の底面に、該底面の形状として形成する、
さらに、前記新たな容器の底面と側面とに衝撃加速度を加え、該新たな容器の底面に形成された前記グラフェン接合体を、該新たな容器の底面から引き剥がす、
この後、前記新たな容器から、前記グラフェン接合体を取り出し、該グラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に接合する位置に配置させ、さらに、該グラフェン接合体の表面と重なり合う新たな板材を、該グラフェン接合体の表面に重ね合わせ、該新たな板材の表面の全体を均等に圧縮し、該グラフェン接合体を前記基材ないしは前記部品の表面に摩擦圧接させ、この後、前記新たな板材の側面に衝撃加速度を加え、該板材を前記グラフェン接合体から分離させる、
これによって、前記基材ないしは前記部品の表面に、前記グラフェン接合体が摩擦圧接される、グラフェン同士を重ね合わせ、該重ね合わせたグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合してグラフェン接合体を作成し、該グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法。
【請求項2】
請求項1に記載したグラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法において、請求項1に記載した新たな容器の底面に形成されたグラフェンの集まりの表面と重なり合う板材と、請求項1に記載したグラフェン接合体の表面と重なり合う新たな板材との双方の板材の材質が、また、請求項1に記載した新たな容器の材質が、窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素であることを特徴とする、請求項1に記載したグラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最初に、1-ブタノール中で、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てを破壊し、黒鉛結晶からなる基底面の集まり、すなわち、グラフェンの集まりを1-ブタノール中に析出させる。次に、グラフェン接合体の形状を底面の形状として有する容器に、前記グラフェンの集まりの一部を1-ブタノールとともに充填する。この後、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加え、1-ブタノールを介してグラフェン同士を重ね合わせ、該重なり合ったグラフェンの集まりを、容器の底面に該底面の形状として形成する。さらに、容器を1-ブタノールの沸点に昇温し、該容器から1-ブタノールを気化させる。この後、重なり合ったグラフェンの集まりの表面と重なり合う面を持つ板材を、該グラフェンの集まりの表面に重ね合わせ、前記板材の表面全体を均等に圧縮し、重なり合ったグラフェンの面同士を摩擦圧接し、グラフェン同士が接合したグラフェン接合体を、容器の底面に、該底面の形状として形成する。この後、該グラフェン接合体を、容器の底面から引き剥がす。さらに、グラフェン接合体を容器から取り出し、該グラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に接合する位置に配置させ、該グラフェン接合体の表面と重なり合う面を持つ新たな板材を、該グラフェン接合体の表面に重ね合わせ、該新たな板材の表面全体を均等に圧縮し、該グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接する。
本発明は、先に出願した特願2019-239995(令和1年12月28日出願)の改良出願である。
すなわち、先願では、メタノール中で作成したグラフェンの集まりを、新たな容器に移すため、メタノールの粘度の20倍を超える粘度のメタノール溶解液を介して、グラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを作成する。この後、グラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを新たな容器に移し、改めて、該容器の底面にグラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを形成する。この後、該グラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりを、基材ないしは部品の表面に配置させ、有機化合物を気化させたのち、グラフェンの集まりを圧縮し、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に圧着させる。
これに対し、本発明は、基材ないしは部品の表面に圧着させるグラフェン接合体を、個々のグラフェン接合体として、容器の底面に該底面の形状として作成する。さらに、該グラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に摩擦圧接させる。このため、先願よりグラフェン接合体の作成方法が容易であり、また、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に圧着させる方法も容易になる。なお、1-ブタノール中でグラフェンの集まりを作成した理由は、1-ブタノールを気化する際に、天然黒鉛粒子を精製する際に、黒鉛粒子に付着していた水分を気化させるためである。
【背景技術】
【0002】
2004年に英国マンチェスター大学の物理学者が、セロハンテープを使用して、グラファイトから1枚の結晶子、すなわち、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する基底面を引きはがし、炭素原子の大きさを厚みとする平面状の物質を取り出すことに初めて成功した。この新たな物質をグラフェンと呼んだ。この研究成果に対して、2010年のノーベル物理学書が授与されている。
【0003】
グラフェンは、厚みが炭素原子の大きさに相当する極めて薄い物質で、かつ、質量をほとんど持たない全く新しい炭素材料である。このため、従来の物質とは大きくかけ離れた物性を持ち、幅広い用途に応用できる材料として注目されている。
例えば、厚みが0.332nmで、最も薄い材料である。また、単位質量当たりの表面積が3000m2/gで、最も広い表面積を持つ。さらに、ヤング率が1020GPaで、最も伸長でき、折り曲げができる。また、せん断弾性率が440GPaで、最も強靭な物質である。さらに、熱伝導率は1950W/m・Kで、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する。また、電流密度は銅の1000倍を超える。さらに、銅の比抵抗の23倍に過ぎない電気導電性を持つ。また、電子移動度が15000cm2/ボルト・秒であり、シリコーンの移動度の1400cm2/ボルト・秒より一桁高い値を持つ。さらに、融点が3000℃を超える単結晶材料で、耐熱性が極めて高い。
【0004】
いっぽう、グラフェンは様々な方法で製造される。例えば、前記したマンチェンスター大学の教授は、人の手でグラファイトからグラフェンを物理的に引きはがした。この方法は、大量のグラフェンを短時間に引き剥がすことは困難で、また、剥がされたものが黒鉛結晶の単一層、つまり、グラフェンになるとは限らない。
また、特許文献1に、炭化ケイ素の単結晶を熱分解することでグラフェンを製造する方法が記載されている。つまり、炭化ケイ素を不活性雰囲気で加熱し、表面を熱分解させる。この際、昇華温度が相対的に低いケイ素が優先的に昇華され、残存した炭素によってグラフェンが生成される。しかし、炭化ケイ素の単結晶が非常に高価な材料である。さらに、1600℃を超える高温で、かつ、真空度が高い雰囲気でケイ素を昇華させるが、ケイ素が僅かでも残存した場合は、熱分解後の残渣物としてグラフェンが生成されない。このため、炭化ケイの単結晶の生成と、単結晶の熱分解処理に係わる費用は非常に高価になる。また、大量のグラフェンを製造するには、さらに高価な費用が掛かる。
さらに、特許文献2に、シート状の単結晶のグラファイト化金属触媒に、炭素系物質を接触させ、還元性雰囲気で熱処理することで、グラフェンを製造する方法が記載されている。しかしながら、この製造方法も、安価な製造方法とは言えず、かつ、量産性に優れた製造方法ではない。第一に、単結晶のグラファイト化金属触媒を製造する製造コストは、炭化ケイ素の単結晶よりさらに高い。第二に、単結晶のグラファイト化金属触媒を炭素系物質に接触させる方法は量産性に劣る。第三に、水素ガスを含む窒素ガスがリッチな雰囲気で、1000℃を超える高温度で、グラファイト化金属触媒を還元処理する方法は、熱処理費用が高価になる。大量のグラフェンを製造するには、さらに高価な費用が掛かる。
【0005】
現在までのグラフェンの製造方法はいずれも、第一に、安価な製造方法で大量のグラフェンを同時に製造する方法ではない。第二に、製造したグラフェンが必ずしもグラフェンでない。つまり、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する炭素原子の集まりからなる単結晶材料であり、不純物が全くない雰囲気で、炭素原子の結晶成長ができなければ、グラフェンが生成されない。さらに、生成したグラフェンの厚みが極薄く、極軽量であるため、グラフェンであることを確認する方法が困難を極める。
このため、本発明者は、製造したグラフェンが全て完全なグラフェンで、かつ、極めて簡単な方法で大量のグラフェンを瞬時に製造する方法を見出した(特許文献3)。すなわち、黒鉛の単結晶のみで構成され、黒鉛の結晶化が100%進み、さらに、最も安価な炭素材料である、天然の黒鉛結晶の塊を破砕し、該破砕した黒鉛結晶から黒鉛粒子の集まりのみを精製して選別した、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、2枚の平行平板電極の間隙に引き詰め、該2枚の平行平板電極に電界を印加し、該電界の印加によって、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てを同時に破壊し、基底面、すなわち、グラフェンを大量に製造する方法である。この方法に依れば、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の僅か1gから、1.62×1013個に及ぶグラフェンの集まりが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-110485号公報
【特許文献2】特開2009-143799号公報
【特許文献3】特許第6166860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3段落で説明したように、グラフェンが従来の素材とは全くかけ離れた驚異的な物性を持つため、グラフェンを用いた様々な部品やデバイの研究開発が行われている。いっぽう、安価な製造方法でグラフェンを製造し、さらに、グラフェン同士を重ね合わせ、該重なり合ったグラフェン同士を直接接合し、グラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が製造できれば、面積と厚みと形状との制約がないグラフェン接合体が製造できる。このグラフェン接合体は、グラフェン同士を直接接合したため、グラフェンの性質に近い性質を持つ。さらに、グラフェン接合体を基材や部品に直接接合できれば、基材や部品にグラフェンに近い性質が付与できるとともに、グラフェン接合体の面積と厚みと形状との制約がないため、グラフェン接合体を接合する基材ないしは部品の制約が少ない。
いっぽう、特許文献3による製造方法で大量のグラフェンを瞬時に製造できるが、このグラフェンの集まりから、グラフェン同士を直接接合したグラフェン接合体を製造する方法は見出されていない。また、特許文献3における電界の印加によって、黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる基底面を同時に破壊して製造したグラフェンは、製造時と製造後において、容易に飛散する。さらに、グラフェンは、厚みが極めて薄く、厚みに対する基底面の大きさの比率であるアスペクト比が極めて大きい扁平面である。このため、特許文献3によってグラフェンの集まりを製造する際に、グラフェンン同士が重なり合う。さらに、重なり合ったグラフェンの枚数は一定でない。また、グラフェンン同士で重なり合ったか否かを識別することは容易でなく、電子顕微鏡の観察に依る。さらに、重なり合ったグラフェン同士の接合力が微弱であるため、重なり合った部位で容易に分離する。このため、グラフェン同士を強固に接合しなければ、グラフェン接合体にならない。
【0008】
本発明に先立って、特願2019-239995(令和1年12月28日出願)として、グラフェン同士を直接接合させたグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に直接接合する発明を出願している。
すなわち、先願では、メタノール中で作成したグラフェンの集まりを、新たな容器に移すため、メタノールの粘度の20倍を超える粘度のメタノール溶解液を介して、グラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを作成する。さらに、グラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを新たな容器に移し、改めて、該容器の底面にグラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを形成する。この後、該グラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりを、基材ないしは部品の表面に配置させ、有機化合物を気化させたのち、グラフェンの集まりを圧縮し、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に圧着させる。
つまり、グラフェン同士を直接接合させたグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に直接接合するには、グラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりを、基材ないしは部品の表面に配置しなければならない。しかし、グラフェンは、極めて僅かな質量で、厚みが極めて薄く、アスペクト比が極めて大きい扁平粉である。このため、粘度の高い液体を介してグラフェン同士を重ね合わせれば、粘度に応じた吸着力で液体がグラフェンに吸着するため、グラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりを容器から取り出すことができる。さらに、グラフェン同士が粘度の高い液体を介して重なり合った状態を壊わすことなく、基材ないしは部品の表面に、グラフェンの集まりを配置させることができる。この考えに基づき、先願に至った。
しかし、黒鉛粒子の大きさが1-300μmの分布を持つ粒子であるため、黒鉛粒子の層間結合を破壊して作成したグラフェンの集まりは、グラフェンの大きさのばらつきが極めて大きい。このため、一定の粘度を持つ液体中で、全てのグラフェンを動かし、全てのグラフェンを、グラフェン同士で重ね合わせることが容易でない。また、グラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを新たな容器に移し、改めて、該容器の底面にグラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを形成する必要がある。このため、グラフェン接合体を形成させる処理が複雑になる。
従って、先願より簡単な方法で、基材ないしは部品の表面にグラフェン接合体を圧着させるには、次の4つの課題がある。
第一の課題は、粘度と密度との双方が低い液体中で、グラフェンの集まりを処理し、全てのグラフェンについて、グラフェン同士を重ね合わせる方法を見出すことにある。
第二の課題は、粘度と密度との双方が低い液体中で、グラフェン同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを、基材ないしは部品の表面に形成するグラフェン接合体の形状として形成する方法を見出すことである。
第三の課題は、前記したグラフェンの集まりについて、グラフェン同士を直接接合し、グラフェン接合体を形成する方法を見出すことである。
第四の課題は、前記したグラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に圧着させる方法を見出すことである。
なお、グラフェンは、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持つ強靭な素材である。従って、この特徴を活かすことによって、グラフェンン同士が接合したグラフェン接合体を、基材ないしは部品に接合できる。
また、上記した4つの課題を解決する手段が、何れも極めて簡単な処理であれば、安価な黒鉛粒子の集まりを用いて、安価な方法でグラフェンの集まりを製造し、安価な方法でグラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に接合できる。この結果、グラフェンの性質に近いグラフェン接合体の性質が、基材ないしは部品に付与でき、グラフェンを用いた新たな製品が実現される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明におけるグラフェン同士を重ね合わせ、該重ね合わせたグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合してグラフェン接合体を作成し、該グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法は、
2枚の平行平板電極からなる一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に引き詰め、該一方の平行平板電極を、容器に充填した1-ブタノール中に浸漬させ、他方の平行平板電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記2枚の平行平板電極からなる電極板対を前記1-ブタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、該電極板対を前記1-ブタノール中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記1-ブタノール中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出す、
さらに、該容器内の前記1-ブタノール中でホモジナイザー装置を稼働させ、該1-ブタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記1-ブタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記容器から前記ホモジナイザー装置を取り出す、
さらに、前記容器内の前記1-ブタノール中に分散された前記グラフェンの集まりの一部を前記1-ブタノールとともに取り出し、基材ないしは部品の表面に接合させるグラフェン接合体の形状を底面の形状として有する新たな容器に充填する、この後、該新たな容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加え、前記1-ブタノールを介して前記グラフェン同士を重ね合わせ、該重なり合った前記グラフェンの集まりを、前記新たな容器の底面に該底面の形状として形成する、
さらに、前記新たな容器を前記1-ブタノールの沸点に昇温し、該新たな容器から前記1-ブタノールを気化させ、この後、該新たな容器の底面に形成された前記重なり合ったグラフェンの集まりの表面と重なり合う板材を、該グラフェンの集まりの表面に重ね合わせ、さらに、該板材の表面の全体を均等に圧縮し、前記重なり合ったグラフェン同士を摩擦圧接し、該摩擦圧接で接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体を、前記新たな容器の底面に、該底面の形状として形成する、
さらに、前記新たな容器の底面と側面とに衝撃加速度を加え、該新たな容器の底面に形成された前記グラフェン接合体を、該新たな容器の底面から引き剥がす、
この後、前記新たな容器から、前記グラフェン接合体を取り出し、該グラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に接合する位置に配置させ、さらに、該グラフェン接合体の表面と重なり合う新たな板材を、該グラフェン接合体の表面に重ね合わせ、該新たな板材の表面の全体を均等に圧縮し、該グラフェン接合体を前記基材ないしは前記部品の表面に摩擦圧接させ、この後、前記新たな板材の側面に衝撃加速度を加え、該板材を前記グラフェン接合体から分離させる、
これによって、前記基材ないしは前記部品の表面に、前記グラフェン接合体が摩擦圧接される、グラフェン同士を重ね合わせ、該重ね合わせたグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合してグラフェン接合体を作成し、該グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法である。
【0010】
本発明は、先に出願した特願2019-239995(令和1年12月28日出願)に対して、以下の4つの点が異なり、4つの異なる点は以下の作用効果をもたらす。
第一の点は、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を1-ブタノール中で破壊し、グラフェンの集まりを1-ブタノール中に析出させる。1-ブタノールは、メタノールと同様に絶縁体である。従って、1-ブタノール中で、2枚の平行平板電極対の間隙に直流の電位差を印加すると、電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が発生する。このため、メタノール中と同様に、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を1-ブタノール中で破壊することができる。なお、1-ブタノールの沸点は117℃で、メタノールの沸点より52℃高い。
第二の点は、1-ブタノール中で、ホモジナイザー装置を稼働させ、1-ブタノールを介してグラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、グラフェンの集まりを、1-ブタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる。1-ブタノールの粘度が、メタノールの粘度の5.1倍であるが、20℃で3.0mPa・秒と低い粘度である。また、1-ブタノールの密度は、0.81g/cm3で、メタノールの密度の0.79g/cm3に近い。従って、1-ブタノール中でホモジナイザー装置を稼働させると、メタノール中でホモジナイザー装置を稼働させる場合に比べ、ホモジナイザー装置が発生する衝撃波が、1-ブタノールを励起させる際に消費される割合が幾分多くなるが、1-ブタノールが低粘度で低密度の液体であるため、1-ブタノールを介して、グラフェンの集まりに衝撃波が繰り返し加わる。いっぽう、グラフェンが殆ど質量を持たないため、グラフェンに衝撃波が繰り返し加わると、重なり合ったグラフェンの部位が乖離し、1枚1枚のグラフェンに分離される。この結果、1枚1枚のグラフェンを1-ブタノールが覆うともに、1枚1枚のグラフェンが1-ブタノール中に分散する。
第三の点は、1-ブタノール中に分散したグラフェンの集まりの一部を用いてグラフェン接合体を形成させる。つまり、1-ブタノール中に分散したグラフェンの集まりを用い、グラフェン接合体を形成させることは容易である。このため、個々のグラフェン接合体を容器の底面に該底面の形状として形成し、このグラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に圧着させることにした。すなわち、1-ブタノール中に分散したグラフェンの集まりの一部を容器に充填し、容器に3方向の振動加速度を繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加え、1-ブタノールを介してグラフェン同士を重ね合わせ、該重なり合ったグラフェンの集まりを、容器の底面に該底面の形状として形成する。この後、容器を昇温して1-ブタノールを気化させ、さらに、重なり合ったグラフェンの集まりの表面の全体を圧縮し、重なり合ったグラフェン同士を摩擦圧接し、容器の底面に、該底面の形状としてグラフェン接合体を形成する。従って、先願のように、メタノールの粘度の20倍を超える液体中で、グラフェン同士を重ね合わせるより、メタノールの粘度の5倍である1-ブタノールを介してグラフェン同士を重ね合わせるほうが、低粘度の1-ブタノールが、グラフェンの集まりを伴って、振動加速度の方向に移動しやすい。このため、グラフェン同士が1-ブタノール中で再配列して重なり合う現象が容易に進む。この結果、1-ブタノールを介して重なり合ったグラフェンの集まりが、容器の底面の全体に広がって形成される。また、先願のように、2度にわたって重なり合ったグラフェンの集まりを、異なる容器の底面に該底面の形状として形成する必要がない。なお、容器に加える振動加速度の大きさは、容器の大きさに応じて、0.2-0.6Gからなる振動加速度を加える。
第四の点は、グラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に直接配置させ、グラフェン接合体の表面を圧縮し、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接させる。これに対し、先願では、高粘度の液体を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりを容器から取り出し、該グラフェンの集まりを、基材ないしは部品の表面に配置させ、さらに、基材ないしは部品を、有機化合物の沸点に昇温するとともに、前記グラフェンの集まりを圧縮することで、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に圧着させる。このため、高粘度の液体を介してグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりを容器から取り出し、該グラフェンの集まりを、基材ないしは部品の表面に配置させる処理が複雑になる。
以上に説明したように、本発明のほうが先願より、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に圧着させる方法が簡単で、かつ、容易である。
【0011】
本発明は次の7つの処理からなる。
第一の処理は、1-ブタノール中で黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造する。すなわち、2枚の平行平板電極対の間隙に引き詰められた鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、絶縁体である1-ブタノール中に浸漬させ、2枚の平行平板電極対に直流の電位差を印加させる。これによって、電位差を2枚の平行平板電極対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生する。この電界は、前記した黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与える。これによって、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。つまり、π電子に作用するクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に与えられると、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子が、π軌道上に存在しなくなり、黒鉛粒子の全てについて、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。この結果、2枚の平行平板電極対の間隙に、黒鉛結晶からなる基底面の集まり、すなわち、グラフェンの集まりが瞬時に製造される。2枚の平行平板電極対が1-ブタノール中に浸漬しているため、2枚の平行平板電極対の間隙に析出したグラフェンの集まりは飛散しない。
なお、1-ブタノールは、導電率が9.12×10-7S/mで、比誘電率が17.5からなる絶縁体である。このため、1-ブタノール中に浸漬した2枚の平行平板電極間に、電位差を印加させると、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する。
第二の処理は、グラフェンの集まりを、2枚の平行平板電極の間隙から1-ブタノール中に移動させる。このため、2枚の平行平板電極の間隙を、1-ブタノール中で拡大させ、さらに、1-ブタノール中で傾斜させ、この後、1-ブタノールが充填された容器に3方向の振動加速度を繰り返し加える。これによって、グラフェンの集まりが、2枚の平行平板電極の間隙から1-ブタノール中に移動する。この後、2枚の平行平板電極を容器から取り出す。なお、容器に加える振動加速度の大きさは、容器の大きさに応じて、0.2-0.4Gからなる振動加速度を加える。
第三の処理は、容器内の1-ブタノール中でホモジナイザー装置を稼働させ、1-ブタノールを介してグラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、1-ブタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、容器からホモジナイザー装置を取り出す。つまり、2枚の平行平板電極対の狭い間隙にグラフェンが析出した際に、一部のグラフェンがグラフェン同士で重なり合うため、1-ブタノール中で、1個1個のグラフェンに分離する。このため、ホモジナイザー装置を1-ブタノール中で稼働させ、1-ブタノールを介してグラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加える。いっぽう、グラフェン同士の接合は、単純にグラフェン同士が重なり合っているだけで、グラフェン同士の接合力は極めて小さい。また、グラフェンは殆ど質量を持たない。いっぽう、1-ブタノールに加えられた衝撃波の一部が、1-ブタノールの分子振動に消費されるが、1-ブタノールが低粘度で低密度であるため、1-ブタノールの分子振動に消費される割合は少なく、多くの衝撃波のエネルギーがグラフェンの集まりに加わる。この衝撃波が、グラフェン同士が重なり合った部位に加わり、重なり合ったグラフェンが容易に分離し、分離したグラフェンの間隙に1-ブタノールが入り込む。この結果、グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加えると、1-ブタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離され、分離されたグラフェンは1-ブタノールと接触する。なお、1枚1枚のグラフェンに分離できたか否かは、1-ブタノール中から複数の試料を取り出し、電子顕微鏡で試料を観察し、1枚1枚のグラフェンに分離できたか否かを判断する。この結果から、ホモジナイザー装置の稼働条件と稼働時間とを予め求める。
なお、超音波方式のホモジナイザー装置を用いると、グラフェンよりさらに1桁以上小さい極微細で莫大な数からなる気泡の発生と該気泡の消滅とが、超音波の振動周波数の振動周期に応じて、メタノール中で連続的に繰り返され(この現象をキャビテーションという)、莫大な数からなる気泡がはじける際の衝撃波が、1-ブタノールを介してグラフェンの集まりの全体に連続的に繰り返し加わる。グラフェン同士が重なり合った部位に衝撃波が加わると、重なり合ったグラフェンが分離し、分離したグラフェンの間隙に1-ブタノールが入り込み、短時間で1枚1枚のグラフェンに分離される。なお、超音波の振動周波数が低いほど、超音波の振動エネルギーは大きい。このため、20kHzの振動周波数を用いるとよい。
第四の処理は、前記容器から、グラフェンの集まりの一部を、1-ブタノールとともに取り出し、基材ないしは部品の表面に接合させるグラフェン接合体の形状を底面の形状として有する新たな容器に充填する。この後、新たな容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加える。これによって、1-ブタノールを介してグラフェン同士を重ね合わせ、該重なり合ったグラフェンの集まりを、新たな容器の底面に該底面の形状として形成する。つまり、ホモジナイザー装置に依る処理で、全てのグラフェンは、低粘度で低密度の1-ブタノールで覆われ、1-ブタノール中に分散している。1-ブタノールに分散しているグラフェンの集まりが充填されている容器に、3方向の振動加速度を加えると、低粘度で低密度の1-ブタノールが、殆ど質量を持たないグラフェンを伴って振動加速度の方向に繰り返し移動する。この際、グラフェンはアスペクト比が極めて大きいため、面を上にして、1-ブタノールと共に、振動加速度の方向に繰り返し移動する。また、面を上にしてグラフェンが再配列して重なり合う現象が、1-ブタノール中で進む。この結果、グラフェン同士が1-ブタノールを介して重なり合ったグラフェンの集まりが、容器の底面の全体に広がる。最後に上下方向の振動加速度を加え、容器への加振を停止する。これによって、グラフェン同士が1-ブタノールを介して重なり合ったグラフェンの集まりが、容器の底面の全体に広がって容器の底面の形状として形成される。この結果、8段落に記載した第一の課題が解決された。なお、容器に加える振動加速度の大きさは、容器の大きさに応じて、0.3-0.8Gからなる振動加速度を加える。
第五の処理は、新たな容器を1-ブタノールの沸点に昇温し、新たな容器から1-ブタノールを気化させる。この後、新たな容器の底面に形成された重なり合ったグラフェンの集まりの表面と重なり合う板材を、グラフェンの集まりの表面に重ね合わせ、さらに、板材の表面の全体を均等に圧縮し、グラフェン同士が重なり合って接合したグラフェン接合体を、新たな容器の底面に、該底面の形状として形成する。つまり、基材ないしは部品の表面に接合させるグラフェン接合体は、様々な形状からなる。このため、第四の処理において、グラフェン接合体の形状を、底面の形状として有する新たな容器に、グラフェンの集まりの一部を1-ブタノールとともに充填した。従って、基材ないしは部品の表面に接合させる個々のグラフェン接合体に応じて、新たな容器を用意し、新たな容器の底面に、該底面の形状としてグラフェン接合体を形成する。この結果、8段落に記載した第二の課題と第三の課題が解決された。
なお、新たな容器と板材とは、圧縮強度に優れ、熱伝導度に優れた材質を用いるとよい。つまり、圧縮強度に優れた新たな容器と板材とは、グラフェン同士を接合する際に、大きな圧縮応力を加えても破壊しない。また、熱伝導度に優れた新たな容器と板材とは、グラフェン同士を接合する際に、グラフェンの集まりと新たな容器ないしは板材が接触する際に発生する摩擦熱が、新たな容器ないしは板材を介して、外部に逃げるため、熱伝導度に劣る材質に比べ、グラフェンが新たな容器ないしは板材に摩擦熱で相対的に圧接しにくくなる。このような材質からなる板材をグラフェンの集まりの上に載せ、さらに、複数個の重りを、均等な距離で離間させて、板材の上に載せる。あるいは、板材の表面を圧縮機で均等に圧縮してもよい。なお、グラフェンの集まりから、1-ブタノールを気化させる際に、1-ブタノールの沸点が117℃であるため、天然黒鉛粒子を精製する際に残留した黒鉛粒子に付着した水分が気化する。さらに、グラフェンの集まりの全体に圧縮応力が均等に作用し、重なり合ったグラフェンの面同士が接触し、接触部に摩擦熱が発生する。この摩擦熱で、接触部表面のグラフェン以外の異物が蒸発し、接触部が清浄化される。この直後に、重なり合ったグラフェンの面同士が摩擦圧接し、グラフェン同士が接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が、新たな容器の底面に、該底面の形状として形成される。
なお、水分と1-ブタノールとが気化する際は、グラフェンの集まりが、外界に比べて陽圧になるため、グラフェンの集まりに、不純物になる気体が外界から侵入することはできない。従って、グラフェンの集まりは、清浄化された状態を保つ。また、グラフェンは、破断強度が42N/mで、鋼の100倍を超える強度を持つ強靭な素材であり、グラフェン同士を接合する際に、鉄板を破断させるような大きな圧縮荷重を加えても、グラフェンは破壊しない。このため、グラフェンの集まりを圧縮する際に、圧縮荷重によって容器の底面が破壊しなければ、容器の形状の制約はない。また、気化した1-ブタノールは回収機で回収し、再利用する。
第六の処理は、前記新たな容器の底面と側面とに衝撃加速度を加え、新たな容器の底面に形成されたグラフェン接合体を、容器の底面から引き剥がす。なお、容器に加える振動加速度の大きさは、容器の大きさに応じて、0.5-1.0Gの大きさからなる衝撃加速度を加える。従って、新たな容器の材質は、圧縮強度に優れ、熱伝導度に優れた性質に加え、曲げ強度に優れた性質を持つとよい。つまり、新たな容器の底面と側面とに衝撃加速度を加える際に、曲げ強度に優れた新たな容器は破断しない。
第七の処理は、グラフェン接合体を新たな容器から取り出し、該グラフェン接合体を、基材ないしは部品の接合する位置に配置させる。さらに、グラフェン接合体の表面と重なり合う新たな板材を、該グラフェン接合体の表面に重ね合わせ、該新たな板材の表面の全体を均等に圧縮し、該グラフェン接合体を前記基材ないしは前記部品の表面に摩擦圧接させる。この後、新たな板材の側面に衝撃加速度を加え、該板材を前記グラフェン接合体から分離させる。つまり、グラフェン接合体を構成するグラフェンは、完全な平面に近い平坦度を有する。これに対し、基材ないしは部品の表面は、固有の凹凸を有する。従って、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接させる際に、グラフェン接合体の表面が、基材ないしは部品の表面の無数の凹凸の凸部と接触し、僅かな接触面積からなる接触部に摩擦熱が発生する。この摩擦熱によって、無数の接触部の表面に化学吸着していた不純物が蒸発し、接触部の表面が清浄化される。この直後に、清浄化された接触部同士が摩擦圧接する。なお、新たな板材は、第五の処理で用いた板材の性質に加え、曲げ強度に優れた板材を用いるとよい。つまり、新たな板材の側面に衝撃加速度を加える際に、衝撃加速度によって、曲げ強度に優れた新たな板材が破断されない。この結果、8段落に記載した第四の課題が解決された。これによって、全ての課題が解決された。なお、新たな板材に加える衝撃加速度の大きさは、板材の大きさに応じて、0.4-0.8Gの大きさからなる衝撃加速度を加える。
これら7つの処理を連続して実施することで、基材ないしは部品の表面に、グラフェン接合体が摩擦圧接される。7つの処理は、いずれも極めて簡単な処理である。また、1-ブタノールは、汎用的な工業用の有機溶剤である。また、黒鉛粒子も安価な工業用素材である。従って、本方法は、安価な黒鉛粒子と1-ブタノールを用い、極めて簡単な7つの処理を連続して実施すると、グラフェン同士が重なり合ったグラフェン接合体が、基材ないしは部品の表面に形成される。
【0012】
以上に説明した製造方法で製造したグラフェン接合体は、次の作用効果をもたらす。
第一に、基材や部品にグラフェンに近い性質が付与できる。つまり、グラフェンは、厚みが炭素原子の大きさに相当する0.332nmで、極めて軽量で、ほとんど質量を持たない。また、厚みが極めて薄いため、グラフェンの存在は、目視では確認できない。さらに、黒鉛粒子から製造したグラフェンの面積は小さい。このため、グラフェンを基材や部品に直接接合することは困難である。本発明によって、基材ないしは部品の表面に、一定の面積を持つグラフェン接合体が接合できる。このグラフェン接合体は、グラフェンのみから構成され、グラフェンの性質に近い。この結果、基材や部品にグラフェンに近い性質が付与できる。
第二に、グラフェン接合体の面積と厚みと形状との制約がない。つまり、前記した第五の処理において、新たな容器の底面に形成したグラフェン同士が重なり合ったグラフェンの集まりを均等に圧縮し、新たな容器の底面の形状としてグラフェン接合体を形成する。新たな容器の底面の形状に制約がないため、グラフェン接合体の面積と形状の制約がない。また、前記した第一の処理において、1-ブタノール中に析出させるグラフェンの量の制約がない。さらに、前記した第四の処理において、新たな容器に充填する1-ブタノールに分散したグラフェンの量の制約がない。このため、グラフェン接合体の面積と厚みの制約はない。
第三に、グラフェン接合体を接合させる基材ないしは部品の材質と形状との制約は少ない。つまり、第七の処理において、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接させる際に、グラフェン接合体の表面が、基材ないしは部品の表面の無数の凹凸の凸部と接触し、わずかな接触面積からなる接触部に摩擦熱が発生する。この摩擦熱によって、無数の接触部の表面に化学吸着していた不純物が蒸発し、接触部の表面が清浄化され、この直後に、接触部同士が摩擦圧接する。従って、基材ないしは部品が圧縮荷重に耐えられれば、基材ないしは部品の材質と形状との制約はない。
第四に、グラフェン同士が強固に接合し、また、グラフェン接合体が基材ないしは部品に強固に接合する。つまり、前記した第五の処理において、重なり合ったグラフェンの面の接触部に摩擦熱が発生し、この摩擦熱で、接触部表面のグラフェン以外の異物が瞬間的に蒸発し、重なり合ったグラフェンの接触部が清浄化され、この直後に接触部同士が摩擦圧接する。グラフェンが完全な平面に近い平坦度を有するため、重なり合ったグラフェンの面の多くの面積が互いに接触する。このため、グラフェンの面同士が摩擦圧接で強固に接合する。つまり、グラフェンは黒鉛結晶の基底面からなり、凹凸のない完全な平面に近い平坦度を有する。こうしたグラフェンの集まりを重なり合わせ、重なり合ったグラフェンの集まりを圧縮すると、重なり合ったグラフェンンの面の多くの部分が接触し、接触部に摩擦熱が発生する。これによって、接触部の表面からグラフェン以外の異物が瞬間的に蒸発し、接触部が清浄化される。この直後に、接触部同士が摩擦圧接する。この結果、重なり合ったグラフェンの面の多くの部分が、摩擦圧接によって強固に接合する。
また、前記した第七の処理において、基材ないしは部品の表面の無数の凹凸の凸部と、グラフェン接合体との表面が接触し、接触部に摩擦熱が発生し、この摩擦熱で双方の接触部の表面から、化学吸着していた不純物が瞬間的に蒸発し、接触部が清浄化される。この直後に、清浄になった接触部同士が摩擦圧接する。基材ないしは部品の表面と、グラフェン接合体の表面との間に、無数に近い接触部が形成されるため、グラフェン接合体が強固に基材ないしは部品に摩擦圧接する。また、基材ないしは部品とグラフェン接合体の接合部は、サブミクロン程度の微小な間隙が無数に形成されるため、この間隙に全ての液体は、液体が持つ表面張力で侵入できない。
第五に、基材ないしは部品に接合したグラフェン接合体は、経時変化しにくい。つまり、グラフェン接合体は、融点が3000℃を超えるグラフェンのみで構成され、優れた耐熱性を持つ。また、グラフェンは、酸やアルカリにも侵食されない極めて安定した物質である。さらに、グラフェン接合体と基材ないしは部品との接合部に、全ての液体は侵入できない。また、グラフェン接合体は、基材ないしは部品との無数の接触部で、強固に摩擦圧接する。このため、基材ないしは部品の表面に圧着させたグラフェン接合体は、経時変化しにくい。
第六に、グラフェン接合体の表面は、撥水性と撥油性と防汚性とを持つ。つまり、グラフェン接合体の表面の凹凸は、グラフェンの厚みの0.332nmに過ぎず、完全な平面に近い。このため、グラフェン接合体の表面は、接触角が180度に近い超撥水性を示し、表面に撥水性と撥油性と防汚性とがもたらされる。
第七に、グラフェン接合体の表面は、優れた潤滑性を持つ。つまり、グラフェン接合体の表面は、完全な平面に近い平坦度を有する。このため、グラフェン接合体の表面と摺接する相手は、表面の凹凸の凸部において、僅かな接触面積によって、グラフェン接合体の表面と摺接する。このため、摺接時の摩擦係数は小さい。従って、グラフェン接合体の表面は優れた潤滑性を持つ。また、グラフェン接合体は、油潤滑が適用できない高荷重や高温、極低温、超真空、超高圧下などの過酷な環境でも潤滑被膜として使用できる。さらに、グラフェンの破断強度が42N/mで、鋼の100倍を超える強度を持つ強靭な素材であるため、グラフェン接合体の表面の摩耗速度が極めて遅い。このため、摺接摩擦する相手の摺接面の摩耗も少なくなる。
なお、グラフェンは、銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導性と、銅の比抵抗の23倍に過ぎない電気導電性を兼備する。このため、グラフェン接合体は、面積が小さい電極や接点、細長い配線パターン、面積が広い熱伝導シートとして用いることができる。また、グラフェン接合体は、帯電防止機能と電磁波遮蔽機能と放熱機能とを兼備するため、基材や部品に、これらの機能が付与できる。また、面積が広い電磁波遮蔽シートや放熱シートとして用いられる。さらに、グラフェン接合体が耐食性と耐熱性とに優れるため、基材ないしは部品を、耐食性と耐熱性とに優れた被膜で覆うことになる。また、グラフェンは、せん断弾性率が440GPaで、最も強靭な物質であるため、基材ないしは部品に、耐摩耗性や非破壊性が付与できる。さらに、グラフェン接合体の表面は、優れた潤滑性を持つため、基材ないしは部品の表面に、優れた潤滑性がもたらされる。いっぽう、グラフェンが比較的新しい素材であるため、本発明で製造したグラフェン接合体の性質を利用する製品は、上記の用途に限られず、全く新たな分野の用途の実用化が期待できる。
【0013】
ここで、第一の処理において、2枚の平行平板電極対の間隙に印加した電界によって、2枚の平行平板電極対の間隙に引き詰められた黒鉛粒子において、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが、同時に破壊される現象を説明する。
黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる基底面を形成する炭素原子は4つの価電子を持つ。このうちの3つの価電子は、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンを形成するσ電子である。このσ電子は、基底面上で隣り合う3つの炭素原子が持つσ電子と互いに120度の角度をなして共有結合し、六角形の強固な網目構造を2次元的に形成する。残り一つの価電子はπ電子であり、基底面に垂直な方向に伸びるπ軌道上に存在する。このπ電子は、基底面に垂直な上下方向で隣り合う炭素原子が持つπ電子と弱い結合力で結合し、この弱い結合力に基づいて基底面同士が層状に積層される。つまり、基底面、すなわち、グラフェンは、弱い結合力であるπ軌道の相互作用によって互いに層状に結合されている。このため、黒鉛粒子は、黒鉛結晶からなる基底面で剥がれ易い性質、すなわち、機械的な異方性を持つ。この機械的な異方性は、黒鉛粒子の潤滑性として知られている。
こうした黒鉛粒子に電界を印加させると、全てのπ電子に電界によるクーロン力が作用する。π電子に作用するクーロン力が、π電子に作用しているπ軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子はπ軌道上の拘束から解放される。この結果、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。これによって、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子がπ軌道上にいなくなるため、全ての基底面の層間結合は同時に破壊される。すなわち、π電子がクーロン力Fによって黒鉛結晶の層間距離bの距離を動く際に、π電子は仕事W(W=b・F)を行う。この仕事Wが、π電子に作用する1原子当たりのπ軌道の相互作用の大きさである35ミリエレクトロンボルト (エレクトロンボルトは電子が持つエネルギーの大きさを表す単位で、1エレクトロンボルトは1.62×10-19ジュールに相当する)を超えると、π電子はπ軌道の相互作用の拘束から解放されて自由電子になる。例えば、2枚の平行平板電極対の間隙を100μmで離間させ、この電極間に10.6キロボルト以上の直流の電位差を印加させると、黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合が瞬時に破壊される。このように、安価な黒鉛粒子の集まりに電界を印加するという極めて簡単な手段によって、大量のグラフェンが安価に製造できる。また、全ての基底面の層間結合が同時に破壊するため、得られる微細な物質は、確実に黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンである。
なお、ここで言う黒鉛粒子の集まりとは、1gから100g程度の比較的少量の黒鉛粒子の集まりを言う。つまり、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子は、嵩密度が0.2-0.5g/cm3で、粒子の大きさが1-300ミクロンの分布を持つ微細な粒子である。従って、黒鉛粒子の集まりを2枚の平行平板電極対の間隙に引き詰めることは容易で、2枚の平行平板電極対に電位差を印加することも容易である。2枚の平行平板電極対の間隙に電位差を印加すると、黒鉛粒子が引きつめられた全ての領域に電界が発生する。この電界が、π軌道の相互作用より大きなクーロン力としてπ電子に作用し、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、自由電子になる。この結果、黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、2枚の平行平板電極対の間隙に、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンの集まりが製造される。
ここで、グラフェンの数を算術で求める。ここでは、全ての黒鉛粒子が、直径が25ミクロンの球から構成されると仮定し、黒鉛の真密度が2.25×103kg/m3であるから、黒鉛粒子の1個の重さは僅かに1.84×10-8gになる。また、黒鉛粒子の厚みの平均値が10ミクロンと仮定すると、層間距離が3.354オングストロームであるので、10ミクロンの厚みを持つ鱗片状黒鉛粒子には297,265個の基底面、すなわち、グラフェンが積層されている。従って、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を全て破壊することで、僅か1個の球状の黒鉛粒子から297,265個のグラフェンの集まりが得られる。このため、球状の黒鉛粒子の僅か1gの集まりについて、基底面の層間結合の全てを破壊した際に、1.62×1013個からなるグラフェンの集まりが得られる。従って、本製造方法によって、僅かな量の黒鉛粒子の集まりから、莫大な数からなるグラフェンの集まりが得られる。
【0014】
9段落に記載したグラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法において、9段落に記載した新たな容器の底面に形成されたグラフェンの集まりの表面と重なり合う板材と、9段落に記載したグラフェン接合体の表面と重なり合う新たな板材との双方の板材の材質が、また、9段落に記載した新たな容器の材質が、窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素であることを特徴とする、9段落に記載したグラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法。
【0015】
つまり、窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素は、熱伝導率が高いセラミックスである。熱伝導率は、窒化アルミニウムが160W/m・Kで、炭化ケイ素が150W/m・Kである。なお、よく知られたセラミックス材料であるアルミナの熱伝導率は、33W/m・Kと低い。また、窒化ホウ素の熱伝導率も、63W/m・Kと低い。このため、第五の処理において、新たな容器を窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素で構成すれば、グラフェン同士を接合する際に、グラフェンの集まりと新たな容器とが接触する際に発生する摩擦熱が、新たな容器を介して外部に逃げるため、熱伝導率が低い材質からなる新たな容器に比べ、相対的にグラフェンが新たな容器に摩擦熱で圧接しにくくなる。また、板材を窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素で構成すれば、グラフェンの集まりと板材とが接触する際に発生する摩擦熱が、板材を介して外部に逃げるため、熱伝導率が低い材質からなる板材に比べ、グラフェンが板材に摩擦熱で相対的に圧接しにくくなる。また、第七の処理において、新たな板材を窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素で構成すれば、基材ないしは部品の表面にグラフェン接合体を摩擦圧接させる際に、熱伝導率が低い材質からなる新たな板材に比べ、グラフェン接合体が新たな板材に摩擦熱で相対的に圧接しにくくなる。
また、窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素は、セラミックスであるため圧縮強度が高い。すなわち、圧縮強度は、窒化アルミニウムが3000MPaで、炭化ケイ素が2500MPaである。なお、アルミナの圧縮強度は2900MPaであり、窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素の圧縮強度は、アルミナの圧縮強度に近い。このため、第五の処理において、新たな容器と板材とを、窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素で構成すれば、グラフェン同士を接合する際に、大きな圧縮応力を加えても、新たな容器と板材とが破壊しない。また、第七の処理において、新たな板材を窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素で構成すれば、基材ないしは部品の表面にグラフェン接合体を摩擦圧接させる際に、大きな圧縮応力を加えても、新たな板材が破壊しない。
さらに、窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素は、曲げ強度が高い。すなわち、曲げ強度は、窒化アルミニウムが350MPaで、炭化ケイ素が500MPaである。なお、アルミナの圧縮強度は480MPaであり、窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素の曲げ強度は、アルミナの曲げ強度に近い。このため、第六の処理において、新たな容器を窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素で構成すれば、新たな容器の底面と側面に衝撃加速度を加える際に、衝撃加速度によって新たな容器が破壊されない。第七の処理において、新たな板材を窒化アルミニウムないしは炭化ケイ素で構成すれば、新たな板材の側面に衝撃加速度を加える際に、衝撃加速度によって新たな板材が破壊されない。
なお、金属の圧縮強度と曲げ強度とは、セラミックスの強度に比べると著しく低い。圧縮強度は、軟鋼で120-180MPaで、銅で40-54MPaである。また、曲げ強度は、軟鋼で120-180MPaで、銅で35-50MPaである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】重なり合った厚みが極めて薄い炭素原子のみからなる物質同士を摩擦接合した接合体の側面を、模式的に拡大して図示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例1
本実施例では、特許文献3に記載した製造方法でグラフェンの集まりを製造する。すなわち、鱗片状黒鉛粒子の集まりを、二枚の平行平板電極の間隙に引きつめ、該電極間に直流の電位差を与え、黒鉛粒子の集まりに電界を印加させることで、全ての黒鉛粒子の全ての層間結合を同時に破壊し、黒鉛結晶の基底面であるグラフェンの集まりを製造する。
つまり、二枚の平行平板電極の間隙に黒鉛粒子を引きつめ、この電極間に電位差、つまり直流電圧Vを印加すると、直流電圧Vの大きさを電極間隙の大きさdで割った値に相当する電界E(E=V/d)が電極間隙に発生し、この電界Eは電極間隙に存在する全ての黒鉛粒子に瞬時に印加され、黒鉛結晶の層間結合の担い手であるπ電子にクーロン力が作用する。このクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子がπ軌道から遊離し自由電子になる。この結果、黒鉛結晶の層間結合の担い手であるπ電子がπ軌道にいなくなったため、黒鉛結晶の層間結合の全てが同時に破壊され、黒鉛結晶の基底面であるグラフェンの集まりが瞬時に得られる。
例えば、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する電極の有効面積を1m×1mとし、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で組み合わせ、この電極間に鱗片状黒鉛粒子の集まりを満遍なく平らに引き詰めた場合、黒鉛粒子を粒径が25μmの球とし、黒鉛粒子の厚みの平均値が10μmとした場合、2枚の並行平板電極で作られる100μmの間隙に、黒鉛粒子が満遍なく一列に整列した場合は、6.4×107個の黒鉛粒子が存在する。これらの黒鉛粒子に、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すれば、全ての黒鉛粒子の層間結合は同時に破壊される。黒鉛粒子の形状と大きさを、前記した条件とした場合、1.9×1013個のグラフェンの集まりを得ることができる。このときに用いた鱗片状黒鉛粒子の集まりの重量はわずかに1.18gである。
最初に、2リットルの1-ブタノールを、1.2m×1.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。次に、電界が発生する電極の有効面積が1m×1mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子(例えば、伊藤黒鉛工業株式会社のXD100)の20gを重ねて引き詰めた。この平行平板電極を、1-ブタノールが充填された容器に浸漬し、さらに、もう一方の平行平板電極を前記の平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極の間隙を100μmに設定し、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極を1-ブタノール中で傾斜させ、0.3Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。さらに、容器内の1-ブタノールに、超音波ホモジナイザー装置(ヤマト科学株式会社の製品LUH300)によって20kHzの超音波振動を2分間加えた。この後、再度、0.3Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、1-ブタノール中にグラフェンの集まりを析出させた。
【0018】
実施例2
実施例1で作成したグラフェンの集まりの一部を、1-ブタノールとともに取り出し、10cm×10cm×0.5cm(深さ)の窒化アルミニウムからなる容器に充填した。この後、該容器に0.2Gからなる3方向の振動加速度を繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加えた。さらに、容器を120℃に昇温し、1-ブタノールを気化させた。この後、容器内のグラフェンの集まりに重なり合う、10cm×10cm×1cm(深さ)の窒化アルミニウムからなる板材をグラフェンの集まりに重ね合わせ、窒化アルミニウムの板材の上に、15kgからなる重り5個を等間隔に載せ、この後、重りを取り外した。さらに、容器の底面と側面とに、0.5Gからなる衝撃加速度を加え、グラフェンの集まりを容器から剥がした。取り出した試料の上に再度窒化アルミニウムの板材を載せ、さらに、10kgの重りを載せたが、試料の状態は変わらなかったので、試料は一定の機械的強度を持っている。こうした試料を6枚作製した。
次に、試料の平面と側面とを、電子顕微鏡を用いて観察と分析を行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。最初に、試料の平面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料の平面に、極めて厚みが薄い段差が確認できた。次に、試料の側面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。厚みが極めて薄い物質が、20層重なり合っていた。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、炭素原子のみ存在した。
図1に、厚みが極めて薄い炭素原子のみからなる物質が重なり合って接合した接合体の側面の一部を拡大して模式的に表した。1は厚みが極めて薄い炭素原子のみからなる物質である。
【0019】
実施例2で作成した試料を、直流抵抗計(例えば、鶴賀電気株式会社の直流抵抗計モデル356H)を用いて、試料の電気抵抗を測定した。試料の4か所に端子をかませ、試料に異なる方向に直流電流を流して、内側の2つの端子で電圧を2回測り、これら2つの電圧値の差を、外側の2つの端子で測った電流値で割った値から求めた抵抗値は、金属に近い体積固有抵抗を示した。
次に、試料を、株式会社三井化学分析センターの定常法熱流計法の装置を用いて熱伝導率を測定した。熱伝導率は800-1000W/m・Kであり、銀の熱伝導率の1.9-2.3倍の値を持った。
さらに、試料の複数の表面の摩擦係数を、測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS-Xからなる摩擦係数測定装置)によって、静止摩擦係数と動摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.08±0.01で、動摩擦係数が0.05±0.01であった。いずれの摩擦係数も小さい。
試料は、第一に、炭素原子のみからなる厚みが極めて薄い物質の接合体で、第二に、接合体が金属に近い導電性を持ち、第三に、接合体が銀より優れた熱伝導性を持ち、第四に、接合体の表面が極めて摩擦係数が小さい。このため、実施例2で作成した試料は、グラフェンの面同士が重なり合って接合体したグラフェン接合体である。従って、試料は、グラフェンの性質に基づく帯電防止機能と電磁波遮蔽機能と放熱機能とを兼備する。
【0020】
実施例3
実施例2で作成したグラフェン接合体を、10cm×10cm×0.5cm(厚さ)の合成樹脂の板の上に載せた。さらに、グラフェン接合体の上に、10cm×10cm×0.4cm(厚さ)からなる窒化アルミニウムの板を載せ、さらに、窒化アルミニウムの板の上に、10kgからなる重り5個を等間隔に載せた。この後、重りを取り外した。さらに、窒化アルミニウムの板の側面に、0.4Gの左右方向の衝撃加速度を加え、窒化アルミニウム板をグラフェン接合体から分離させた。この後、合成樹脂の板を、2mの高さから自然落下させたが、グラフェン接合体は、合成樹脂の板から剥がれなかったので、グラフェン接合体は、一定の結合力で、合成樹脂の板に接合されている。
【0021】
実施例4
実施例2で作成したグラフェン接合体を、10cm×10cm×0.5cm(厚さ)のゴムの板の上に載せ、さらに、グラフェン接合体の上に、10cm×10cm×0.4cm(厚さ)からなる窒化アルミニウムの板を載せ、さらに、窒化アルミニウムの板の上に、10kgからなる重り5個を等間隔に載せ、この後、重りを取り外した。さらに、窒化アルミニウムの板の側面に、0.4Gの左右方向の衝撃加速度を加え、窒化アルミニウム板をグラフェン接合体から分離させた。この後、ゴムの板を、2mの高さから自然落下させたが、グラフェン接合体は、ゴムの板から剥がれなかったので、グラフェン接合体は、一定の結合力で、ゴムの板に接合されている。
【0022】
実施例5
実施例2で作成したグラフェン接合体を、10cm×10cm×0.5cm(厚さ)のガラスの板の上に載せ、さらに、グラフェン接合体の上に、10cm×10cm×0.4cm(厚さ)からなる窒化アルミニウムの板を載せ、さらに、窒化アルミニウムの板の上に、10kgからなる重り5個を等間隔に載せ、この後、重りを取り外した。さらに、窒化アルミニウムの板の側面に、0.4Gの左右方向の衝撃加速度を加え、窒化アルミニウム板をグラフェン接合体から分離させた。この後、ガラスの板に、0.2Gからなる前後、左右の2方向の振動加速度を加えたが、グラフェン接合体は、ガラスの板から剥がれなかったので、グラフェン接合体は、一定の結合力で、ガラスの板に接合されている。
【0023】
実施例6
実施例2で作成したグラフェン接合体を、10cm×10cm×0.5cm(厚さ)の銅板の上に載せ、さらに、グラフェン接合体の上に、10cm×10cm×0.4cm(厚さ)からなる窒化アルミニウムの板を載せ、さらに、窒化アルミニウムの板の上に、10kgからなる重り5個を等間隔に載せ、この後、重りを取り外した。さらに、窒化アルミニウムの板の側面に、0.4Gの左右方向の衝撃加速度を加え、窒化アルミニウム板をグラフェン接合体から分離させた。この後、銅板を、2mの高さから自然落下させたが、グラフェン接合体は、銅板から剥がれなかったので、グラフェン接合体は、一定の結合力で、銅板に接合されている。
【0024】
4種類の材質からなる正方形の板材の上に、グラフェン接合体を摩擦圧接で接合した。グラフェン接合体を摩擦圧接する際に、板材が破断しなければ、板材の材質は制約されない。また、グラフェン接合体を摩擦圧接する部品が、曲面を有する部品であれば、グラフェンが自在に折り曲がるため、部品の曲面にグラフェン接合体を重ね合わせ、グラフェン接合体と重なり合う曲面を有する板材を、グラフェン接合体の表面に重ね合わせ、板材に圧縮荷重を均等に加えれば、グラフェン接合体が曲面からなる部品に摩擦圧接する。このように、グラフェン接合体を摩擦圧接させる基材ないしは部品の材質と形状の制約は少ない。この結果、本発明によって、様々な基材ないしは部品に、12段落に記載した様々な作用効果がもたらされる。
【符号の説明】
【0025】
1 炭素原子のみからなる厚みが極めて薄い物質