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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166919
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】積層巻コイル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/04 20060101AFI20231115BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20231115BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20231115BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
H01F5/04 C
H01F27/28 128
H01F27/28 K
H01F5/00 D
H01F5/00 F
H01F41/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077782
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000132574
【氏名又は名称】株式会社セルコ
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖知
【テーマコード(参考)】
5E043
【Fターム(参考)】
5E043AB01
5E043BA01
5E043EA05
5E043EA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】整列巻きにて巻回した積層巻コイルの実装時において、付加的な作業を行うことなく的確に、隙間のない安定した設置を行うことのできる積層巻コイル及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】絶縁被覆が施された電線が積層状態に巻回され、電線の巻き始めの端部10a及び巻き終わりの端部10bがそれぞれ積層の一方の外側面と他方の外側面から引出し線として引き出された積層巻コイル10において、巻き始めの端部10aが引き出される側の外側面11に設けられ、電線の厚さとほぼ同じ深さを有する凹部であって、外側面11を電線の巻き幅方向に横切る引出し線逃がし凹部18を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆が施された電線が積層状態に巻回され、前記電線の巻き始めの端部及び巻き終わりの端部がそれぞれ積層の一方の外側面と他方の外側面から引出し線として引き出された積層巻コイルにおいて、
前記巻き始めの端部が引き出された側の外側面に設けられ、前記電線の厚さとほぼ同じ深さを有する凹部であって、前記外側面を前記電線の巻き幅方向に横切る引出し線逃がし凹部を備え、
前記引き出された巻き始めの端部は、前記引出し線逃がし凹部を通されて引き出されたことを特徴とする積層巻コイル。
【請求項2】
前記引出し線逃がし凹部は、前記外側面の前記巻き始め側の端部の引出し線の引き出される部分からその引出し方向に伸長するように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の積層巻コイル。
【請求項3】
前記電線の巻回の平面形状が、角部が略円弧状に曲げられた略四角形状とされ、
前記引出し線逃がし凹部は、略四角形状の直線状に伸長する部分に形成されたことを特徴とする請求項2に記載の積層巻きコイル。
【請求項4】
前記電線の巻回の平面形状が、角部が略円弧状に曲げられた略四角形状とされ、前記引出し線逃がし凹部は、略四角形状の角部を含む領域に形成されたことを特徴とする請求項2に記載の積層巻きコイル。
【請求項5】
前記引き出された巻き始めの端部は、前記引出し線逃がし凹部の表面に貼着されたことを特徴とする請求項2に記載の積層巻コイル。
【請求項6】
請求項1から5に記載の積層巻コイルを形成する積層巻コイルの製造方法において、
絶縁被覆が施された電線を積層状態に巻回して原形積層巻コイルを形成する原形積層巻コイル形成工程と、
前記形成された原形積層巻コイルの前記巻き始めの端部である引出し線が位置する側の外側面の前記引出し線逃がし凹部の形成位置に、前記引出し線逃がし凹部の形状に対して面対称の凸形状を有する凸部を表面に備える押圧具を押圧して前記引出し線逃がし凹部を作成する押圧工程と、
を有することを特徴とする積層巻コイルの製造方法。
【請求項7】
前記押圧工程は、前記原形積層巻コイルを加熱した状態で行われることを特徴とする請求項6に記載の積層巻コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層巻コイル及びその製造方法、特に、被覆電線を積層状態に巻回してなり、積層の両外側面から電線の端部である引出し線が引き出される積層巻コイル及びその積層巻コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層巻コイルは、例えば、リニアモータ用などの電磁回路を構成するのに必須のデバイスとして用いられている。積層巻コイルは、例えば、銅線に絶縁被覆を施した電線を型枠に沿って積層させつつ多層巻きにし、巻き終わった後に型枠を取り除いて形成され、巻き始めの端部と巻き終わりの端部が引出し線として延出している。電磁回路を構成する場合には、この引出し線が電源や他の回路部品などに接続される。外形サイズとしては、数センチのものから数十センチメートルまで多種存在する。
【0003】
積層巻きコイルの製造方法として、通常、型枠(巻き治具)に沿って整列に巻く整列巻きがある。
【0004】
図6(a)及び(b)は、この整列巻きについて示したものである。型枠に沿って巻き始め、巻き終わった積層巻コイル10の平面図及び断面図であり、図示のように、巻き始めの端部10aは、内径側から引き出され、第1層目を構成する。巻き終わりの端部10bは、外径側のから引き出され、最終の第n層目を構成している。本例では、積層巻コイル10の平面形状は略四角形であり、角部は略円弧状に曲げられている。
【0005】
その他の従来の巻き方として、巻き始めの端部を巻き治具の伸長方向に沿わせて引き延ばし、この巻き始めの端部であるリード線の上から電線を巻いて行く方法が有る。すなわち、巻き始め端部を下にして押し潰しながら巻き、最終的に積層コイルに巻き始めの端部を埋め込む方法である。そして、この巻回方法によれば、電線の巻き始めと巻き終わりの端部は、積層巻きコイルの同じ外側面側から引き出される。しかし、この方法では、巻き始めの端部が下に存在しているので、正確な整列巻きとすることはできず、完成した積層コイルの特性は劣化し、寸法精度も悪くなる。
【0006】
更にこの巻き方の場合、下に位置する巻き始めの端部であるリード線に巻回される電線が次々と当接されて行くことからそのリード線の部分の電線の被膜を損傷させるおそれが有る。
【0007】
更に、α巻きと称される巻回方法があり、この方法は電線の一端側から巻いて行くのではなく、電線の長さ方向の途中位置から巻き治具に巻いて行くものである。この方法の場合、巻回が完了した状態で、巻き始めの端部及び巻き終わりの端部の両方の端部は、コイルの外側から引き出されて存在するのでリード線の接続に関しては問題はない。しかしながら、電線の長さ方向の途中位置から巻くという方法であるためその巻回作業のためには、特殊設備を導入することが必要となり、すなわち設備投資が必要であり、最終的にコイルのコスト高を招来するおそれが有る。
【0008】
なお、特許文献1には、様々の断面形状(例えば、台形状など)の高密度コイルの製造方法が開示されている。この方法によれば、多層巻きにした積層巻コイルに対して、プレス加工機で複数の方向から順次プレス加工を施している。高密度コイルであっても、巻き始めの端部は図6に示した形態と同じであり、内径側の第1層目から引き出されている。
【0009】
この巻回方法では、上記巻き始め端部を下にしてその上に巻いて行く方法のような特性の劣化などは生じることはなく、また、α巻きの場合のような特殊な巻線機も不要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6706123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
積層巻コイルを基板などの実装する場合には、巻き始めの端部10a及び巻き終わりの端部10bを必要な長さ引き出す必要がある。上記図6に示した整列巻きの場合、巻き終わりの端部10bは、外径側にあるので積層巻コイル10の外側面に重なることなく引き出され、他の部品等と接続することが可能である。
【0012】
一方、巻き始めの端部10aは、第1層目の内径側から延出する状態にあるので、他の部品等と接続する際には、その引き出し部分が積層巻コイル10の外側面と重なる状態が不可避となる。したがって、例えば、実装時、積層巻コイル10の設置場所において、設置される外側面と接する領域に引出し線を逃がすためのクリアランスが無い場合、引き出されている巻き始めの端部10aの電線1本分が積層巻コイルの外側面と設置される部分との間に介在する状態となる。したがって、実装される面において、その電線の厚さ分の隙間が生じるが、この隙間を解消するには、設置される対象である基板の表面を電線1本分の厚さだけ削る等の作業が必要となる。このような作業の付加により作業の円滑化が阻害され積層巻コイルを含む製品の製造コストにも悪影響が生じるという問題があった。
【0013】
更に、電線1本分のクリアランスが確保できず、積層巻コイル10の下側に巻き始めの端部10aが敷かれ、隙間も存在している状況では、被覆材料が損傷を受けたり、その損傷を起因とする短絡や断線などの種々の弊害を生起させるおそれもある。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、整列巻きにて巻回した積層巻コイルの実装時において、付加的な作業を行うことなく的確に、隙間のない安定した設置を行うことのできる積層巻コイル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の積層巻コイルは、
絶縁被覆が施された電線が積層状態に巻回され、前記電線の巻き始めの端部及び巻き終わりの端部がそれぞれ積層の一方の外側面と他方の外側面から引出し線として引き出された積層巻コイルにおいて、
前記巻き始めの端部が引き出される側の外側面に設けられ、前記電線の厚さとほぼ同じ深さを有する凹部であって、前記外側面を前記電線の巻き幅方向に横切る引出し線逃がし凹部を備えることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、積層巻コイルの内径側から延在する巻き始めの端部が存在する側の積層巻コイルの外側面には、引き出される電線の1本の厚さ分の深さを有する引出し線逃がし凹部が設けられており、したがって、その凹部で積層巻コイルの外側面の表面を通る引出し線部分の厚さを収容することができる。すなわち、引出し線逃がし凹部は外側面上をコイルの巻き幅方向に横切る様に設けられているので、内径側から引き出された引出し線はその引出し線逃がし凹部を通って積層巻コイルの外側に引き出される。
【0017】
これにより、積層巻コイルは何れの外側面においても引出し線が表面から突出する状況が生じないので、実装される平面に対して隙間なく安定的に設置される。
【0018】
請求項2に記載の積層巻コイルは、請求項1に係る積層巻コイルにおいて、
前記引出し線逃がし凹部は、前記外側面の前記巻き始め側の端部の引出し線の引き出される部分からその引出し方向に伸長するように形成されたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、巻き始めの端部側である引出し線がコイルの内径側から引き出されている状態で、その引き出し部分から引出し線逃がし凹部が存在し、引き出し方向に伸長しているので、巻き始めの端部側である引出し線は引き出された部分から簡単に引出し線逃がし凹部に導かれ、外側面表面から突出することなく確実、且つ容易にコイル外部まで導かれる。
【0020】
請求項3に記載の積層巻コイルは、請求項2に係る積層巻きコイルにおいて、
前記電線の巻回の平面形状が、角部が略円弧状に曲げられた略四角形状とされ、前記引出し線逃がし凹部は、略四角形状の直線状に伸長する部分に形成されたことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、略四角形状に巻かれたコイルの直線状に伸長する部分で、その幅方向に引出し線逃がし凹部が形成されるので、最も短い距離で簡単に引出し線逃がし凹部の形成が可能となる。凹部を形成することによる積層巻コイルへの影響も小さいものとなる。
【0022】
請求項4に係る積層巻きコイルは、請求項2に係る積層巻きコイルにおいて、
前記電線の巻回の平面形状が、角部が略円弧状に曲げられた略四角形状とされ、前記引出し線逃がし凹部は、略四角形状の角部を含む領域に形成されたことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、略四角形状に巻かれたコイルの角部分方向からの引出し線の導きが可能となり、設置状況に応じた様々な方向への引き出し線の引き出しが可能となる。
【0024】
請求項5に係る積層巻きコイルは、請求項2に係る積層巻きコイルにおいて、
前記引き出された巻き始めの端部は、前記引出し線逃がし凹部の表面に貼着されたことを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、積層巻きコイルが設置された後、引出し線逃がし凹部内に収容されている状態にある引き出された巻き始めの端部(引出し線)が凹部内で動くことを防止することができ引出し線の部分の被覆の損傷などを防止することが可能となる。
【0026】
上記目的を達成するため、請求項6に記載の積層巻コイルの製造方法は、
請求項1から5に記載の積層巻コイルを形成する積層巻コイルの製造方法において、
絶縁被覆が施された電線を積層状態に巻回して原形積層巻コイルを形成する原形積層巻コイル形成工程と、
前記形成された原形積層巻コイルの前記巻き始めの端部である引出し線が位置する側の外側面の前記引出し線逃がし凹部の形成位置に、前記引出し線逃がし凹部の形状に対して面対称の凸形状を有する凸部を表面に備える押圧具を押圧して前記引出し線逃がし凹部を作成する押圧工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
これにより、積層巻きコイルに引出し線逃がし凹部を、積層巻コイルを構成する被覆電線に傷をつけることなく、押圧具による簡単な押圧動作によって形成することができる。なお、特許文献1においても示されているように、積層コイルに押圧力を印加して高密度コイルとしても、電線に被覆された絶縁被覆は破壊されず、特性上の問題はないこととが実証されており、本件発明においても押圧具によるコイルの変形はコイルの性能を劣化させることはなく、むしろ、放熱特性や電流密度が上がることからモータ等の効率の向上が報告されている。
【0028】
請求項7に係る積層巻コイルの製造方法は、請求項6に係る積層巻コイルの製造方法において、
前記押圧工程は、前記原形積層巻コイルを加熱した状態で行われることを特徴とする。
【0029】
これにより、積層巻コイルが熱により柔らかくなった状態で押圧具による引出し線逃がし凹部の形成が可能となり、押圧作業の容易性が向上する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の積層巻コイル及びその製造方法はよれば、引出し線逃がし凹部の存在により、積層巻コイルの巻き始め側の端部の引出し線が存在するコイルの外側面において、引出し線の突出が解消される。これにより、実装時に積層巻コイルの設置箇所にクリアランスが無い場合においても、設置面への安定した実装が可能となり、設置部分に隙間が存在することによる様々な問題を解消することができ、積層巻コイルの設置の際の付加作業の解消による円滑性と設置状態の安定性の向上が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の積層巻コイルの実施の形態を示す概略斜視図である。
図2】引出し線逃がし凹部の説明図である。
図3】本発明の積層巻コイルの他の実施の形態を示す概略斜視図である。
図4】本発明の積層巻コイルの製造方法の実施の形態を説明する概念図である。
図5】本発明の積層巻コイルの製造方法の他の実施の形態を説明する概念図である。
図6】従来の積層巻コイルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の積層巻コイル実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。本発明の特徴的な事項は、積層巻コイルの外側面に押圧を加え、引き出し線逃がし凹部を形成した点にある。
【0033】
図1は、本発明の積層巻コイルの実施の形態を示す概略斜視図である。本実施の形態に係る積層巻きコイル10は、通常と同様に巻き始めの端部10aは、内径側から引き出され、第1層目を構成する。巻き終わりの端部10bは、外径側から引き出され、最終の第n層目を構成している。本実施の形態では、原形の積層巻コイルの平面形状は略四角形であり、角部は略円弧状に曲げられている。
【0034】
引出し線逃がし凹部18は、原形積層巻きコイルの略四角形状の直線状に伸長する部分で、その幅方向に形成されている。これにより、最も短い距離で簡単に引出し線逃がし凹部18が形成される。
【0035】
図2は、積層巻コイル10に形成された引出し線逃がし凹部18の説明図である。引出し線逃がし部18は、積層巻きコイル10の略四角形状の直線状に伸長する部分に形成されており、引き出される電線の1本の厚さ分の深さを有している。すなわち、例えば電線の断面が円形の場合、その外径のサイズの深さを有している。したがって、その引出し線逃がし凹部18を通る引出し線は、積層巻コイル10の外側面11の表面を通る引出し線部分の厚さを収容することができる。
【0036】
図1では、引出し線逃がし凹部18は外側面11上を積層巻コイル10の巻き幅方向で横切る様に設けられているので、内径側から引き出された引出し線である巻き始めの端部10aは、その近傍から始まる引出し線逃がし凹部18に簡単に導かれ、これを通って積層巻コイル10の外側に引き出される。
【0037】
これにより、積層巻コイル10の巻き幅の長さだけの短い長さの引出し線逃がし凹部18を形成することで、積層巻コイル10の外側面11の表面からから引出し線である巻き始めの端部10aが突出する状況が解消されている。したがって、巻き始めの端部10aが横切っている外側面11の表面は全体が平らな状態となり、実装される平面に対して隙間なく安定的に設置することができる。
【0038】
また、巻き始めの端部10aを引出し線逃がし凹部の表面に例えば接着材により貼着することも好適であり、これによって積層巻きコイルが設置された後、引出し線逃がし凹部内で動くことが防止され、巻き始めの端部10aである引出し線の部分の被覆の損傷することが的確に防止される。
【0039】
図3は、本発明の積層巻コイルの他の実施の形態を示す概略斜視図である。積層巻きコイル10は、図1と同じであるが、引出し線逃がし凹部18は、積層巻きコイル10の直線状の部分ではなく、角部に形成されている。
【0040】
これにより、略四角形状に巻かれた積層巻コイル10の角部分方向からの引出し線10aの導きが可能となり、巻き始めの端部10aの引き出し方向のバリエーションが広がっている。この様に引出し線逃がし凹部18の施工箇所は、直線状の部分だけではなく、種々の箇所に設定することが可能であり、設置状況に応じた様々な方向への引き出し線の引き出し対応が可能となる。
【0041】
図3に示す積層巻コイル10においても、何れの外側面(11及びその裏面側)からも引出し線が外側面の表面から突出する状況が生じないので、実装される平面に対して隙間なく安定的に設置することができる。
【0042】
図4は、本実施の形態に係る積層巻コイルの製造方法の説明図である。原形積層巻コイル22に引出し線逃がし凹部18を形成する動作を示すための概念図を示している。原形積層巻コイル22は、例えば、絶縁被覆された電線(銅線)を型枠に沿って、第1層から第n層まで巻回した後、型枠を外したものである(原形積層巻コイル形成工程)。原形積層巻コイル22に用いる電線の太さや、コイルの大きさは用途に応じて適宜選択される。
【0043】
この原形積層巻コイル22は、固定台12に設置される。この時、原形積層巻コイル22は、巻き始めの端部10aを含む面(外側面11)を上にして設置される。すなわち、巻き始めの端部10aを含む面(外側面11)に引出し線逃がし凹部18を形成するものである。
【0044】
なお、巻き始めの端部10aは、図示を省略しているが、以下の押圧工程で押圧の障害とならないようにコイルの内径側に逃がす等の処理が行われる。また、巻き終わりの端部10bについては、下側のコイル外側面と面一に引き出されるので、そのまま引き出している状態で押圧の障害となることはない。
【0045】
次に、原形積層巻コイル22の上部から、例えば、引出し線逃がし凹部18の形状に対して面対称の凸形状を有する凸部14が形成された押圧具13を、引出し線逃がし凹部18を形成する箇所に位置決めして押圧する(押圧工程)。押圧する部分は、本実施の形態では、原形積層巻コイル22を構成する四角形状の一辺(直線状に伸長する部分)である。押圧力は、原形積層巻コイル22の大きさなどにより適宜決定される。
【0046】
また、原形積層コイル22の角部分に引出し線逃がし凹部18を形成する場合は、押圧具13の凸部は、その角部形状に合わせた例えば扇状などに形成されて角部分を押圧する。
【0047】
これにより、原形積層巻コイル22に引出し線逃がし凹部18を、電線に傷つけることなく、またコイルの特性に影響を与えることなく形成することができる。上述のように、特許文献1に示されているように、積層コイルに押圧を印加して高密度コイルとしても(例えば、電線の占積率を通常の70%台から97%とした場合)、電線に被覆された絶縁被覆は破壊されず、特性上の問題はないこととが実証されている。むしろ、放熱特性や電流密度が上がることからモータ等の効率の向上が報告されている。
【0048】
図5は、本発明の積層巻コイルの製造方法の他の実施の形態を説明する概念図である。図4と異なる点は、原形積層巻コイル22の押圧時に、原形積層巻コイル22の電線の巻回状態が崩れないように、固定台12に積層巻コイル抑え部20-1、20-2、20-3を設置したものである。これにより、原形積層巻コイル22の押圧時、電線の巻回状態が崩れるのを防止することが可能である。また、図示したように、コイル10の内径側に芯体となる突起部16を形成することも可能であるが、その場合、押圧作業に先駆けて巻き始めの端部10aを内径側に逃がすために、突起部16には溝を形成したり、内部を空間とした壁構造とするなどの構造の修正が適宜行われる。
【0049】
また、押圧工程を、原形積層巻コイル22を加熱して行うことも好適で有り、これにより、原形積層巻コイル22が柔らかくなった状態で押圧動作を行うことができ、凹部18を容易に形成することができる。
【0050】
以上の様に、本実施の形態に係る積層巻コイルの製造方法によれば、絶縁被覆された電線を積層状に巻回して原形積層巻コイル22を得た後、電線の巻き始めの端部10aの存在する外則面11に簡単かつ短時間で引出し線逃がし凹部18が形成することができる。
【0051】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、積層コイルの平面形状は略四角形としたが、三角形、丸形、その他の異形の場合でも本発明を適用することが可能である。また、実装時に積層巻コイルの設置箇所にクリアランスが無い場合において詳述したが、本発明の技術を用いて、例えば、積層コイルをコアに貼り付ける様な形態に巻回した場合でも引出し線逃がし凹部を設けることで本発明の作用を奏することが可能である。
【0052】
更に、引出し線逃がし凹部18の幅や形状は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。この場合、押圧工程で用いられる押圧具の凸部が種々変形される。また、原形積層巻コイル22に用いる電線は様々な断面形状のものを用いることが可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
10 積層巻コイル
10a 巻き始めの端部
10b 巻き終わりの端部
12 固定具
13 押圧板
14 凸部
16 突起部
18 引出し線逃がし凹部
20-1、20-2、20-3 原形の積層巻コイル抑え部
22 原形積層巻コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6