(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166943
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】二次電池繰返パルス放電器
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
H02J7/00 302A
H02J7/00 301E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022086428
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】507036337
【氏名又は名称】榎 光一
(72)【発明者】
【氏名】榎 光一
【テーマコード(参考)】
5G503
【Fターム(参考)】
5G503BB01
5G503CC02
5G503DA02
5G503FA01
5G503GA01
5G503GD03
(57)【要約】
【課題】FETを用いたコンパレータによる定電流回路においてコンパレータ出力をオンオフして負荷電流波形を矩形かつ休止を繰返すパルス波形にしたい。FETからの放熱は従来の軸流ファンとヒートシンクの組み合わせだと,風がヒートシンクの周囲に拡散され空冷効果が芳しくない。
【解決手段】コンパレータとFETのゲート抵抗間に半導体アナログスイッチを介在させ,マイクロコントローラモジュールによりSW1とSW2を排他的にオンオフすれば,ゲートに滞留した電荷が速やかに排出され負荷電流波形が鈍らない。アルミ製角パイプをヒートシンクとし,シロッコファンを用いてアルミ製角パイプの一端から送風して他端から排出すれば風量が拡散せず冷却効果が増す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロコントローラモジュール(13)が内蔵するADCの最大参照電圧を超える電圧を測定するために測定電圧を分圧し,分圧抵抗R2(14)に誘起するノイズをバイパスさせるコンデンサ(21)を併設する二次電池繰返パルス放電器。
【請求項2】
前項分圧回路と二次電池電圧を直接ADCに入力する場合を切換えるための切換スイッチを具備する二次電池繰返パルス放電器。
【請求項3】
コンパレータ出力をFETゲートの電圧源とする定電流回路において,ゲート電圧をマイクロコントローラモジュール(13)により半導体アナログスイッチ(15)をオンオフしてパルス幅を制御する二次電池繰返パルス放電器。
【請求項4】
定電流をオフの際,別接点SW2をインバータ(20)によりSW1とは排他的にオンにしてゲート電荷をGNDに放電する二次電池繰返パルス放電器。
【請求項5】
ゲート駆動電圧にリンギングが生じないように,ゲート抵抗(19)を4.7kΩ以上とする二次電池繰返パルス放電器。
【請求項6】
アルミ製角パイプ(38)をFETのヒートシンクとする二次電池繰返パルス放電器。
【請求項7】
シロッコファンにより角パイプ内を送風し,FETを角パイプに固定するネジ長をパイプ厚みの半分以上としてフィン効果を得る二次電池パルス負荷耐久試験器。
【請求項8】
チェック端子TP2にクリップ付きリード線により電源電圧を給電してFETをオンさせて,マイクロコントローラモジュール(13)に依存しない定電流負荷装置として機能する二次電池繰返パルス放電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロコントローラモジュールにより制御されたFETを用いて繰返パルス電流負荷を印加し,二次電池の電圧低下をADCにより測定する。測定結果をPCに通信し,二次電池の繰返パルス負荷寿命を試験する。主たる用途はワイヤレスモジュール用二次電池および研究試作二次電池セルの繰返パルス負荷加速及び耐久試験である。
【背景技術】
【0002】
FETを負荷源とする直流放電器が市販されている。
【0003】
最高電源電圧18Vの半導体アナログスイッチが流通している。
【0004】
流通している電子機器用空冷ファンの駆動電圧はDC12Vが多い。
【0005】
msecオーダのオンオフ制御はマイクロコントローラモジュールにより可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
()内は図中の参照番号である。フィールド用ワイヤレスセンサは電池寿命を長くするため,待機状態において消費電流がuAオーダであるものの,発報の際は0.1Aを消費する状態を繰り返す。
【0007】
JISによる二次電池の容量表示は連続定電流であり,パルス負荷を積算した電力量と実際のフィールド試験寿命とでは大きな隔たりがある。繰返パルス負荷寿命が公開されていない二次蓄電池を使用する場合,電池寿命の推定が困難である。さらにパルス負荷を可能とする市販電子負荷装置は極めて高価である。
【0008】
FETゲート電圧を制御する専用ドライバICは高価であり,入手も困難である。
【0009】
マイクロコントローラモジュールの動作電圧は5Vが主であり,ADCの参照電圧も上限は電源電圧である。しかしながら,ホビー用RCの二次電池は組電池であり5Vを超える。かような組電池対応するためにADC入力電圧を抵抗分割すれば良い。しかし入力抵抗による消費電流を抑えるには高インピーダンスが必要になり,その場合ノイズ電圧を誘起し測定バラツキが生じる。
【0010】
FETを意図的に電力消費させると,素子の発熱は避けられなくヒートシンクを強制空冷する必要がある。しかしヒートシンクは電子部品としては,かさが大きく輸送費が高くなり入手コストが高い。また,軸流ファンにより同程度径のヒートシンクに送風しても,送風が拡散して冷却効果を減じてしまう。
【0011】
FETによる定電流回路は電流検知用抵抗による電圧降下をOPアンプの反転入力に入力する一方,可変抵抗による定電圧を参照電圧とし非反転入力に接続して両入力を比較し,その出力をゲートに入力すれば良い。しかし負荷電流を零にするため参照電圧を接地しても,10mA程度のブリード電流が発生し完全な電流オフとならない。
【0012】
OPアンプ出力をカットオフすればFETのドレインソース電流を遮断できるが,機械的リレ式スイッチによる遮断は応答速度が遅く不向きである。
【0013】
OPアンプの出力をFETゲートに直接印加すると,ゲートの静電容量が大きいためゲート電圧にリンギングが発生する。その結果,負荷電流もリンギングが生じ電流波形が矩形とならない。さらに微小ながら逆方向に電流が流れた。一方ゲート抵抗(19)を4.7kΩとすると,リンギングがなく負荷電流波形も歪まななかった。
【0014】
半導体アナログスイッチのオフ時の絶縁抵抗は大きく,単にFETゲートを開放しただけではゲート電荷が滞留し,電流波形が鈍る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
FETのゲート駆動波形のリンギングは一種の発振と見なせ,ダンピング処理を施せば良い。従ってゲートとOPアンプ出力との間にゲート抵抗を介在させれば,CR結合のダンパとなる。
【0016】
半導体アナログスイッチは,msecオーダの応答性を十分満足する。FETゲートオフ時に複数接点を有する半導体アナログスイッチの別接点によりゲート抵抗をGNDに短絡すれば,速やかにゲート電荷が放電される。
【0017】
5Vを超える入力の場合,切換スイッチにより分圧抵抗R2(14)の出力をADCの入力とする。分圧抵抗に誘起されたノイズをコンデンサ(21)を併設してGNDにバイパスする。
【0018】
熱伝導率の高いアルミ製角パイプをヒートシンクとすれば,FETの放熱部との密着性が得られる。シロッコファンを用いて角パイプ内に送風すれば,風も周囲に拡散しない。
【発明の効果】
【0019】
OPアンプをLM358,負荷FETを2SK1290とし,負荷電流0.6A 入力電圧が1Vの場合,ゲート抵抗100,470Ωにおいてリンギングが発生した。また入力電圧3Vの場合,ゲート抵抗1kΩにおいてリンギングが生じたが,4.7kΩの場合リンギングは生じなかった。
【0020】
入力電圧測定のための分割抵抗470kΩの両端に0.1,1,10uFのいづれかを併設しても誘起されたピークツーピーク0.2Vppのノイズ電圧が0.04Vppに抑制された。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【実施例0022】
パワー半導体用FETのゲート電圧の耐圧は一般に20V程度ある。その閾値ブレークポイントは5V以下であるものの,ゲート静電容量の大きいFETを急峻応答させるには裕度を見込みゲート印加電圧は高い方が望ましい。
【0023】
FETのオン抵抗による負荷電力は熱となり放熱が必要となる。空冷のためのファンは12V駆動が主流である。そこでOPアンプ,ゲート駆動回路及び空冷ファンの駆動電圧を12Vに統一すれば電源部が簡単になる。
【0024】
ワイヤレスモジュールは待機中,殆ど電力を消費しないが発報に際して,0.1sの間大電流を消費する。ms単位のパルス幅生成はArduino Nanoのようなマイクロコントローラモジュール(11)なら正確かつ簡単に実現できる。Arduino NanoはArduino SRL社(イタリア)の登録商標である。
【0025】
マイクロコントローラモジュール(11)は5V出力のレギュレータ(18)を備えており,12V給電が可能である。
【0026】
FETを定電流制御するためOPアンプを使用する。FETのソースとGNDとの間に電流検出抵抗(17)を入れる。抵抗値が0.1Ωの場合,1A流れると0.1Vの電圧降下が生じる。これをOPアンプの反転入力端子に接続する。非反転入力端子には設定電流に相当する電圧をトリマにより調整して印加する。OPアンプはコンパレータとして機能し,その出力がFETのゲート電圧となる。
【0027】
東芝製アナログスイッチTC4066は18Vまでの電源電圧に耐える。一方,Arduino NanoのDO電圧は5Vであるから,バイポーラトランジスタ,FETもしくはトランジスタアレイによりプルアップする。多数の二次電池を試験するにはトランジスタアレイが省スペースとなる。
【0028】
半導体アナログスイッチのオフ抵抗およびFETのゲートGND間の絶縁は大きく,単にSW1をオフにしてもゲート電圧が閾値以下に下がるまで時間を要し,カットオフ電流波形が鈍る。FETをオフにする際,SW1とは排他的にインバータ(20)によりSW2をオンにするとゲート電荷がGNDに流れゲート電圧は速やかに閾値以下になる。インバータ(20)はトランジスタもしくはFETをプルアップしても得られる。
【0029】
インバータ(20)を省くとプログラミングの際,SW1とSW2が同時オンになる対策をしなければならない。マイクロコントローラモジュール(13)がなくともインバータ(20)があれば,定電流負荷装置として機能する利点がある。
【0030】
FETのドレインに接続される保護抵抗(11)はFETの負荷軽減も兼ねる。1Wクラスのアキシャル形状酸化金属抵抗はリード線が太く二次電池電極とミノ虫クリップリード線を用いて接続する場合,接続が確実になる。
【0031】
二次電池の電圧が5Vを超えるような組電池の場合,抵抗分割により分圧を測定する。分圧抵抗R2(14)に印加する電圧が5Vを超えないように分割比を定める。分圧回路に流れるブリード電流による消費電力を減じるため高抵抗を採用する。ADCのサンプルホールドには電流が必要になり,入力抵抗が大きいと電圧降下が大きくなり測定誤差が発生する。その対策としてADCの前段にOPアンプによるボルテージフォロアを入れる。
【0032】
SW3はタクトスイッチでスタートストップ用である。負荷電流により電流検出抵抗(17)に電圧降下が発生し,チェックピンTP1の電圧をDSOによりモニタすれば電流波形がわかる。
【0033】
Arduino社は無償のプログラミングツールとライブラリを提供している。ユーザはライブラリをダウンロードしてプログラミングできる。用意されているシリアルモニタはUSBを介してPCに測定結果を送信できる。
【0034】
繰返パルス負荷試験を加速するためにパルス休止時間を短縮し大電流を流すと,FETの放熱が必要になる。アルミ製角パイプ(38)に基板A(41),ベース(31)及びFET固定用のメネジをタップ加工する。アルミ製角パイプ(38)にFET(44)をスプリングワッシャを介して黄銅ネジ(45)を締結してヒートシンクとする。FETはPCBの裏面に実装する。基板A(41)を鋼より熱伝導性が低いステンレス製ワッシャ及び絶縁スペーサ(43)を介して角パイプ(38)に固定する。
【0035】
FET近傍と角パイプ端部とでは温度勾配が生じ,角パイプの内外で空気の自然対流が発生する。空気浮力効果を阻害しないよう角パイプの長手方向を垂直方向に保持する。従って強制空冷用シロッコファンを下方に配置する。角パイプ下方の開口部から空気を送り込み冷却する。
【0036】
厚み6mmのMDF材をベース(31)とし隅金(32),金折(35)及びシロッコファン(34)を固定するためにM3インサート金具を打ち込む。ワッシャ(36)は金折の不要なザグリ面との接触を避けるためである。
【0037】
ベース(31)に角パイプ(38)と基板D(42)を固定するための通し穴を開け,M2.5ネジとM3ネジを絶縁スペーサと金属スペーサを介して固定する。基板D(42)にマイクロモジュールコントローラ(13)を実装する。基板D(42)の代わりにArduino UNOを取り付けても良いし,基板A(41)にArduino Nano を実装しても良い。この場合,基板D(42)が不要となり配線が簡単になる。Arduino UNOはArduino社の登録商標である。
【0038】
シロッコファン(34)の吹出口と角パイプ(38)の隙間を木片及び不織布を挟んで埋める。ベース(31)をA4サイズ以下にすれば,隅金(32),金折(35)および角パイプ(38)を取り外すと幅7cmのA4ファイルボックスに収納できる。
【0039】
トグルスイッチもしくはスライドスイッチSW4によりファンをオンオフする。サーモスタットを角パイプ(38)に取付け,ファンを自動的にオンオフしても良い。