(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166945
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】外れ難い義歯の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/225 20060101AFI20231115BHJP
A61C 13/007 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
A61C13/225
A61C13/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022086430
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】504230246
【氏名又は名称】鈴木 計芳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 計芳
(57)【要約】
【課題】 義歯が合わない問題を解決することは容易ではないが、せっかく作った義歯が長く患者に合うようにしたい。
【解決手段】 コンピュータを用いて、口腔内での歯茎の非破壊検査から将来的に沈み込む部位の3Dマッピングを行い(工程S4)、印象採得から咬合採得を経て義歯を作り(工程S1)、義歯を口腔外でスキャンした3Dデータに非破壊検査から得た3Dデータを加味して義歯設計を行い(工程S2)、3Dプリンタで3D造形を行って外れ難い全部床義歯1を得る(工程S3)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯茎の非破壊検査を行って将来的に沈み込む部位の3Dマッピングを行い、このデータを義歯製造に反映させて、将来的に沈み込んだ状態の歯茎に適合する義歯を得ることを特徴とする、外れ難い義歯の製造方法。
【請求項2】
前記義歯製造がデジタルデンチャーに係るものである請求項1に記載の外れ難い義歯の製造方法。
【請求項3】
前記義歯製造がデジタルコピーデンチャーに係るものである請求項1に記載の外れ難い義歯の製造方法。
【請求項4】
前記義歯製造に3Dプリンタを用いる請求項2または請求項3に記載の外れ難い義歯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯茎の非破壊検査データを加味することによって外れに難くなるようにした、全く新しい義歯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯補綴の分野に於いて義歯殊に全部床義歯を作るために、いわゆる個人トレー・咬合床法や動的機能印象法と言った、既製のトレーで既形の印象を取り既形の石膏模型を作ることから始める標準的な義歯製造方法が長年に亘って行われて来た。これに対して近年、デジタルデンチャー(Digital Denture)や3Dデンチャー(3 Dimensional Denture)などと呼ばれる義歯製造方法が新たに登場して来た。これは印象採得と咬合採得を経て得られる義歯を口腔外でスキャンして得た3Dデータをコンピュータで解析し、これに基づいて義歯設計を行い、3Dプリンタでの3D印刷や、レーザー積層造形での3D造形を行って完成品の義歯を製造すると言うものである。この製造方法の特長は、印象採得・咬合採得と装着・調整の2回の診療で済むために患者の負担が小さいことである。また歯科医師側にはデジタル技術の活用による正確・省力の恩恵がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
確かにデジタルデンチャーなどの新技術によれば、義歯の製造から患者への当初装着までは実に円滑に治療を進めることが出来る。しかしながら上述のような全部床義歯と言うものは新しく作ってもらったばかりの頃は良くフィットするものの、使っている内に次第にフィットしなくなるものである。モノを噛むとその加力によって、生身の歯茎や時には顎の骨までもが変形するからである。これにより義歯が合わないと言う悩みが直に生じて来る。すなわち義歯が次第にフィットしなくなったり外れ易くなると言う問題を解決することは依然として容易でないのである。
【0004】
しかしながらそうとばかりは言っておれない。現実に義歯が合わないと悩んでいる患者が大勢いるのである。従ってこのような問題を解決して、せっかく作った義歯が少しでも長く患者の口にフィットして外れ難いようにすることは出来ないだろうか、と言うのがこの発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決の先立ち当発明者は、当初装着後の歯茎の変形が少なくなるようにすれば良い、そうすれば当初装着の状態のまま長くフィットし続けるに違いないと思考した。なおこのことは下顎用の義歯に付いても同様である。
【0006】
上記課題を解決すべく当発明者は、患者の歯茎の非破壊検査を行って将来的に沈み込む部位の3Dマッピングを行い、このデータを義歯製造に反映させて、将来的に沈み込んだ状態の歯茎に適合する義歯を得ることを特徴とする、義歯の製造方法を編み出した。
【0007】
非破壊検査と言えば元来は、配管内部の腐食の有無や、建造物の内部に潜むクラックやボイドなどの有害な傷を、打音、X線などの放射線や超音波の照射、等々により非破壊で検査することである。
【0008】
近年では果実に近赤外光を照射して果実を傷付けることなく熟度測定を行うことが可能になっている。またトモグラフ像の撮影によって果肉の状態を可視化したり果肉の全周をトモグラフィー(tomography)で数値化したりすることが出来る。特許第3062071号の発明はレーザードップラー法に係る。ちなみにこれ等とは対照的に、果実の硬度を測るマグネス・テイラー硬度計は破壊検査に分類し得る。
【0009】
このような技術を踏まえて当発明者は、例えば桃果を指で押すと果皮が沈むが、これは上述した義歯装着後の歯茎の変形に類似していることに思い至った。すなわち人体に無害な振動である超音波や近赤外光などを照射することにより歯茎全体の非破壊検査を行い、歯肉の沈み込む範囲を、データ化したり、可視化したりすれば、これを義歯製造に反映させることが出来ることに想到したのである。
【0010】
この反映させるとは、従来の義歯が未だ沈み込んではいない歯肉の外形に合わせて作られるのに対して、この発明の義歯では将来歯肉の沈み込む範囲を含めた外形を有するように設計することを言う。歯茎に於ける非破壊検査の目的は、歯茎の問題箇所を探ることにはなく、クッション性を有する歯肉の沈み込む部位や範囲を把握することにある。これにより将来歯肉の沈み込む範囲を、義歯の装着時に義歯によって沈み込ませ得るようにしてしまい、これ以上は沈み込み難いものとしたのである。
【0011】
次に、前記義歯製造がデジタルデンチャーに係るものとすることが出来る。上述のようにデジタルデンチャーは、口腔内をスキャンして得た3Dデータをコンピュータで解析して、あるいは印象体を口腔外でスキャンして得た3Dデータをコンピュータで解析して、これに基づいて義歯設計を行うものである。すなわちデジタルデンチャーは3Dデータを取り扱うものであるから、ここに歯茎を口腔内でスキャンして得られた、歯肉の沈み込む範囲の3Dデータを加味することは理に適っていると言うことが出来る。なおこれは比較の問題であるが、デジタルデンチャーを使用する場合の方が、歯肉の沈み込む範囲を可視化したものを加味して、歯科技工士が個人トレー・咬合床法により義歯を制作する場合よりは、手間や労力が掛からない。
【0012】
次に、前記義歯製造がデジタルコピーデンチャーに係るものとすることが出来る。デジタルコピーデンチャーは、患者が使用中の入れ歯の複製を作るためのものであるが、ここに歯茎を口腔内でスキャンして得られた歯肉の沈み込む範囲のデータを加味することで、より良く患者の口にフィットする義歯に作り変えてしまうのである。
【0013】
さて義歯製造がデジタルデンチャーであってもデジタルコピーデンチャーであっても、ここに3Dプリンタを用いるようにすることが出来る。義歯設計から製造までが一貫して行える利点がある。材料の一例として薬事承認済みの3Dプリンタ用のレジンを上げる。また例えばコバルトクロムモリブデン合金の粉末を材料として、これに高出力のレーザーを上述した3Dデータに基づいて照射して、薄い層として溶融凝固させ、これを積層して義歯を造形する、レーザー積層造形を利用するようにしても良い。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、患者の歯茎の非破壊検査を行って将来的に沈み込む部位の3Dマッピングを行い、このデータを義歯製造に反映させるようにした点に特徴を有する。歯茎に非破壊検査を適用したのはこの発明が初めてのことである。この技術の登場によって、当初装着後の歯茎の変形が少なくなり、当初装着の状態のまま長くフィットし続ける義歯を提供することが出来るようになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】 実施例1の上顎用の全部床義歯1を模式的に表した説明図である。
【
図3】 実施例2の上顎用の全部床義歯の製造方法の説明図である。
【
図4】 実施例3の上顎用の全部床義歯の制作方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では3種の実施例を説明するが、この発明はこれ等の実施例に限定されるものではない。また工程S1~S4と、工程S5~S7と、工程S8~S12とは、それぞれ異なる実施例に係る工程であって、連続するものではない。
【実施例0017】
図1及び
図2により上顎用の全部床義歯1を説明する。個人トレーを用いて型取りした患者の印象から模型を作り、模型からベースプレートを作ってワックスの蝋提を形成し、ここに人工歯排列を行って義歯を得る(工程S1)。ここまでは従来の義歯製造を踏襲しているが、このやり方に拘らなくとも良い。
【0018】
一方、近赤外光の発信側と受信側とを有する非破壊検査装置を用いて、患者の口腔内で歯茎に近赤外光を照射することによって歯茎全体の非破壊検査を行い、義歯装着で圧迫されることにより、歯茎が将来的に沈み込んで圧迫痕が付く部位の3Dマッピングを行う(工程S2)。桃果のように指で押して沈み込む柔らかい部位の全体像をマッピングする分けである。
【0019】
工程S1の義歯を口腔外でレーザスキャンして3Dデータを得たら、これに工程S2の3Dマッピングによる3Dデータを加味して、CAD/CAMコンピュータで義歯の設計を行う(工程S3)。
【0020】
この設計の成果は最終的に3Dプリンタに出力される。3Dプリンタでは薬事承認済みの3Dプリンタ用のレジンを用いて3D造形が為され、これに磨きを掛けるなどして
図1に表した全部床義歯1を得る。この全部床義歯1には義歯床10に人工歯排列11が形成されている。
【0021】
この全部床義歯1で特に重要なのは、工程S1に於けるベースプレートから得られた、従来の義歯制作での上顎に対する接触面12を鎖線で表すと、工程S2を経て工程S3で得られた上顎に対する実線で表した圧着面13が、接触面12よりも高い(厚い)位置にあることである。圧着面13と接触面12との差は、工程S4の非破壊検査で判明している所の、歯茎が将来的に沈み込むクッション性がある部位に相当している。
すなわちこの実施例はデジタルコピーデンチャーに係るものであり、先ず患者の口腔内で歯茎に近赤外光を照射することによって歯茎全体の非破壊検査を行い、義歯装着で圧迫されることにより、歯茎が将来的に更に沈み込んで圧迫痕が付く部位の3Dマッピングを行う(工程S5)。更にと言うのは、患者が義歯を所有しており、実際に上顎に装着もしているからである。
次に、この義歯を口腔外でレーザスキャンして3Dデータを得たら、これに工程S5の3Dマッピングによる3Dデータを加味して、CAD/CAMコンピュータで義歯の設計を行う(工程S6)。
この設計図の義歯が3Dプリンタに出力される。3Dプリンタでは薬事承認済みの3Dプリンタ用のレジンを用いて3D造形が為される。これによって、所有している義歯よりも性能の良い義歯を患者に提供することが出来る。