(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166971
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】中間体及び中間体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20231115BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20231115BHJP
C08L 1/16 20060101ALI20231115BHJP
C08L 57/10 20060101ALI20231115BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20231115BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20231115BHJP
C08L 13/00 20060101ALI20231115BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20231115BHJP
C08J 3/21 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08L21/00
C08L1/16
C08L57/10
C08L33/02
C08L7/00
C08L13/00
C08K5/09
C08J3/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033631
(22)【出願日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2022077721
(32)【優先日】2022-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(72)【発明者】
【氏名】岩本 理恵
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紅
(72)【発明者】
【氏名】山中 実央
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA05
4F070AB01
4F070AB03
4F070AC12
4F070AC20
4F070AC56
4F070AC72
4F070AD02
4F070AE08
4F070AE28
4F070BB05
4F070FA05
4F070FA17
4F070FB07
4F070FC03
4F070FC09
4J002AB022
4J002AC011
4J002AC101
4J002BG013
4J002DD076
4J002DF036
4J002DG046
4J002EG027
4J002FD143
4J002FD146
4J002FD147
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】本発明は、セルロースナノファイバーの凝集塊を減少させ、ゴム製品に適用しやすいセルロースナノファイバーを含む中間体及び中間体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る中間体は、ゴム成分と、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーと、3価以上の陽イオンと、を含む。また、本発明の他の実施形態に係る中間体は、ゴム成分と、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーと、1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び/または1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーと、
3価以上の陽イオンと、
を含む、中間体。
【請求項2】
前記3価以上の陽イオンは、アルミニウムイオン及び/又は鉄イオンである、請求項1に記載の中間体。
【請求項3】
ゴム成分と、
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーと、
1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び/または1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体と、
を含む、中間体。
【請求項4】
前記不飽和カルボン酸塩は、アクリル酸ナトリウム及び/またはメタクリル酸ナトリウムである、請求項3に記載の中間体。
【請求項5】
前記ゴム成分は、天然ゴム、カルボキシ変性ニトリルゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴムである、請求項1~4のいずれか一項に記載の中間体。
【請求項6】
前記1価の金属イオンは、ナトリウムイオンである、請求項3又は請求項4に記載の中間体。
【請求項7】
前記ゴム成分100質量部と、
前記セルロースナノファイバー10質量部以上100質量部未満と、
前記セルロースナノファイバーに含まれるリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基に対して0.40倍当量以上4.00倍当量未満の、前記3価以上の陽イオン、または、前記1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び前記1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種と、
を含み、
前記セルロースナノファイバーの平均繊維幅は100nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の中間体。
【請求項8】
ゴム成分を含むゴムラテックスと、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーを含有するセルロースナノファイバー水分散液と、3価以上の陽イオンを含む無機酸多価金属塩、1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩、及び1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種と、を混合して混合液を得る工程(S10)と、
前記混合液を混練する工程(S20)と、
前記混練する工程後に、混合液を乾燥し、混合物を得る工程(S30)と、
前記混合物を混練し、中間体を得る工程(S40)と、
を含む、中間体の製造方法。
【請求項9】
前記混合液を得る工程において、ゴム成分100質量部に対し、前記セルロースナノファイバーが10質量部以上100質量部未満であり、
前記セルロースナノファイバーの平均繊維幅は100nm以下であり、
前記ゴム成分は、天然ゴム、カルボキシ変性ニトリルゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴムであり、
前記混合液は、前記セルロースナノファイバーに含まれるリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基に対して0.40倍当量以上4.00倍当量未満の、前記3価以上の陽イオン、または、前記1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び前記1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種を含む、請求項8に記載の中間体の製造方法。
【請求項10】
前記混合物を得る工程において、前記混合物の水分率が5%以下である、請求項8又は請求項9に記載の中間体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む中間体及び中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs(持続可能な開発目標)における環境負荷の少ない植物由来のセルロースナノファイバーが注目されている。こうした中、セルロースナノファイバーを繊維補強材として利用したゴム複合材料も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セルロースナノファイバーは一般に水分散液として市場に提供されるため、ゴム成分の分散液(ラテックス)と混合した後に乾燥して固形物のゴム複合材料を得なければならない。そして、この乾燥工程の間にセルロースナノファイバー同士が結合して凝集しまうため、ゴム複合材料には多数の凝集塊が残りやすい。これらの凝集塊は、ゴム製品における引張強さや切断時伸びといった基礎物性に影響を及ぼすことがわかっている。
【0005】
そこで、本発明は、セルロースナノファイバーの凝集塊を減少させ、ゴム製品に適用しやすいセルロースナノファイバーを含む中間体及び中間体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0007】
[1]本発明に係る中間体の一態様は、
ゴム成分と、
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーと、
3価以上の陽イオンと、
を含むことを特徴とする、中間体。
【0008】
[2]前記中間体の一態様において、
前記3価以上の陽イオンは、アルミニウムイオン及び/または鉄イオンであることができる。
【0009】
[3]本発明に係る中間体の一態様は、
ゴム成分と、
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーと、
1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び/または1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体と、
を含むことを特徴とする。
【0010】
[4]前記中間体の一態様において、
前記不飽和カルボン酸塩は、アクリル酸ナトリウム及び/またはメタクリル酸ナトリウムであることができる。
【0011】
[5]前記中間体の一態様において、
前記ゴム成分は、天然ゴム、カルボキシ変性ニトリルゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴムであることができる。
【0012】
[6]前記中間体の一態様において、
前記1価の金属イオンは、ナトリウムイオンであることができる。
【0013】
[7]前記中間体の一態様において、
前記ゴム成分100質量部と、
前記セルロースナノファイバー10質量部以上100質量部未満と、
前記セルロースナノファイバーに含まれるリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基に対して0.40倍当量以上4.00倍当量未満の、前記3価以上の陽イオン、または、前記1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び前記1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種と、
を含み、
前記セルロースナノファイバーの平均繊維幅は100nm以下であることができる。
【0014】
[8]本発明に係る中間体の製造方法の一態様は、
ゴム成分を含むゴムラテックスと、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーを含有するセルロースナノファイバー水分散液と、3価以上の陽イオンを含む無機酸多価金属塩、1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩、及び1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種と、を混合して混合液を得る工程(S10)と、
前記混合液を混練する工程(S20)と、
前記混練する工程後に、混合液を乾燥し、混合物を得る工程(S30)と、
前記混合物を混練し、中間体を得る工程(S40)と、
を含むことを特徴とする。
【0015】
[9]本発明に係る中間体の製造方法の一態様において、
前記混合液を得る工程において、ゴム成分100質量部に対し、前記セルロースナノファイバーが10質量部以上100質量部未満であり、
前記セルロースナノファイバーの平均繊維幅は100nm以下であり、
前記ゴム成分は、天然ゴム、カルボキシ変性ニトリルゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴムであり、
前記混合液は、前記セルロースナノファイバーに含まれるリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基に対して0.40倍当量以上4.00倍当量未満の、前記3価以上の陽イオン、または、前記1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び前記1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種を含むことができる。
【0016】
[10]本発明に係る中間体の製造方法の一態様において、
前記混合物を得る工程において、前記混合物の水分率が5%以下であることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る中間体の一態様によれば、セルロースナノファイバーの凝集塊が少ないので補強性に優れ、かつ、ゴム製品のマスターバッチとして用いることでセルロースナノファイバーをゴム製品に適用しやすい。また、本発明に係る中間体の製造方法の一態様によれば、セルロースナノファイバーの凝集塊が少ない中間体を製造することができ、かつ、中間体をゴム製品のマスターバッチとして用いることでセルロースナノファイバーをゴム製品に適用しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】リンオキソ酸基を有するセルロースナノファイバー含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【
図2】一実施形態に係る中間体の製造方法のフローチャートである。
【
図3】実施例1-2の架橋体サンプルの引張破断面のSEM画像である。
【
図4】実施例1-4の架橋体サンプルの引張破断面のSEM画像である。
【
図5】比較例1-4の架橋体サンプルの引張破断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。なお、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0020】
A.中間体
第1実施形態に係る中間体は、ゴム成分と、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーと、3価以上の陽イオンと、を含む。
【0021】
第2実施形態に係る中間体は、ゴム成分と、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーと、1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び/または1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体と、を含む。
【0022】
第1実施形態及び第2実施形態に係る中間体は、ゴム製品にセルロースナノファイバーを配合するためのマスターバッチとして用いてもよい。中間体は、後述する乾燥工程により水分がないかまたは水分が少ない状態にあるため、通常であればセルロースナノファイバー同士が水素結合により凝集しやすいが、ゴム成分と3価以上の陽イオン及び/または不飽和カルボン酸塩とにより当該凝集が抑制される。そのため、中間体には少なくとも目視(走査型電子顕微鏡の画像における目視観察)で確認できるようなセルロースの凝集塊が存在しない。目視で確認できるセルロースの凝集塊としては、凝集塊が10μm以上の最大幅を有するものであれば判別できる場合が多く、凝集塊が50μm以上の最大幅を有するものであれば確実に判別できる。
【0023】
また、中間体のセルロースナノファイバーは、中間体をマスターバッチとしてマトリックス材料に混合した際に、ゴム成分と無機酸多価金属塩由来の3価以上の陽イオン及び/または不飽和カルボン酸塩由来の1価以上の金属イオンとにより解繊及び分散が容易である。そのため、中間体によれば、セルロースナノファイバーの凝集塊が少ないのでゴム製品の補強性に優れ、かつ、ゴム製品のマスターバッチとして用いてゴム成分で希釈するだけでセルロースナノファイバーをゴム製品に適用しやすい。中間体の良否判断は少なくとも目視観察において凝集塊が確認されないことであるが、中間体の一部を目視観察して凝集塊を確認するだけでは全体の状態を判断できないため十分とは言えない。そのため、中間体の物性検査によりセルロースナノファイバーの解繊と分散を判断することが好ましい。中間体の物性としては、セルロースナノファイバーの配合により引張試験による50%
モジュラス(σ50)が大きく向上することを判断基準とすることができ、引張強さ(TS)の向上も併せて中間体の判断基準として用いることができる。切断時伸び(Eb)の向上も重要な要素であるが、セルロースナノファイバーの含有量が多くなると切断時伸び(Eb)が低下してしまうため、50%モジュラスの増大率に合わせて判断基準を変更することが好ましい。なお、中間体をマスターバッチとして用いて希釈したゴム製品は、中間体のときよりも切断時伸び(Eb)が向上するためゴム製品の使用時において問題はない。中間体の良否判断の基準としては、後述する実施例の総合判定の基準を用いることができる。
【0024】
中間体をマスターバッチとして用いるためには中間体におけるセルロースナノファイバーの含有量が多いことが取り扱い上望ましいが、セルロースナノファイバーの含有量が多くなると中間体の製造が難しくなる。そのため、中間体におけるセルロースナノファイバーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上100質量部未満であり、例えば10質量部~50質量部であることができる。実際のゴム製品ではセルロースナノファイバーが10質量部未満となることが予想されるため、セルロースナノファイバーの含有量が10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であれば少量の中間体でゴム製品を製造することができるため有利である。また、セルロースナノファイバーの含有量が100質量部以上になると加工がほとんど不可能であり、100質量部未満であれば加工可能となり、50質量部以下であればより加工が容易となる。
【0025】
中間体は、セルロースナノファイバーに含まれるリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基に対して0.40倍当量以上4.00倍当量未満の、3価以上の陽イオン、または、1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種を含むことができる。
【0026】
以上により記載された第1実施形態及び第2実施形態に係る中間体は、本実施形態に係る架橋体及び/又はゴム製品の中間体として有用に使用することができる。
【0027】
B.原料
次に、第1実施形態及び第2実施形態に係る中間体の製造に用いる各原料について説明する。
【0028】
B-1.セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーは、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有する。セルロースナノファイバーがリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有することにより、セルロース原料から解繊する工程においてアニオン性基であるリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基同士の反発作用によって解繊しやすい。
【0029】
セルロースナノファイバーを得るための原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセ
ルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時のセルロースナノファイバーの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維のセルロースナノファイバーが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維のセルロースナノファイバーを用いると高粘度が得られる傾向がある。
【0030】
セルロースナノファイバーの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、たとえば100nm以下である。セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、たとえば2nm以上100nm以下であることが好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上20nm以下であることが一層好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。セルロースナノファイバーの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制しやすくなる。なお、セルロースナノファイバーは、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0031】
セルロースナノファイバーの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下のセルロースナノファイバーの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0032】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0033】
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0034】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。セルロースナノファイバーの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0035】
セルロースナノファイバーの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、セルロースナノファイバーの結晶領域の破壊を抑制できる。また、セルロースナノファイバーのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、セルロースナノファイバーの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0036】
セルロースナノファイバーはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、セルロースナノファイバーがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したC
uKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0037】
セルロースナノファイバーに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上である。
【0038】
セルロースナノファイバーが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0039】
セルロースナノファイバーは、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)を有する。リンオキソ酸基を有することにより、例えば、アルカリ性条件下や酸性条件下においても、セルロースナノファイバーの分散性をより高めることができる。
【0040】
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、例えば下記式(1)で表される置換基である。各セルロースナノファイバーには、下記式(1)で表される置換基が複数種導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(1)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
【化1】
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。n個あるαおよびα’のうち少なくとも1つはO-であり、残りはR又はORである。なお、各αおよびα’の全てがO-であっても構わない。n個あるαは全て同じでも、それぞれ異なっていてもよい。βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0042】
Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
【0043】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3
-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0044】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、カルボキシレート基(-COO-)、ヒドロキシ基、アミノ基及びアンモニウム基などの官能基から選択される少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、セルロースナノファイバーの収率を高めることもできる。なお、式(1)中にRが複数個存在する場合やセルロースナノファイバーに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、式(1)中にβb+が複数個存在する場合やセルロースナノファイバーに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0046】
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基としては、より具体的には、リン酸基(-PO3H2)、リン酸基の塩、亜リン酸基(ホスホン酸基)(-PO2H2)、亜リン酸基(ホスホン酸基)の塩が挙げられる。また、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(例えば、ピロリン酸基)、ホスホン酸が縮合した基(例えば、ポリホスホン酸基)、リン酸エステル基(例えば、モノメチルリン酸基、ポリオキシエチレンアルキルリン酸基)、アルキルホスホン酸基(例えば、メチルホスホン酸基)などであってもよい。
【0047】
<リンオキソ酸基導入工程>
リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)をセルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られる。
【0048】
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0049】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態
、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0050】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩または亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、または亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0051】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、セルロースナノファイバーの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0052】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0053】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下で
あることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0055】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0056】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0057】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高いセルロースナノファイバーを得ることが可能となる。
【0058】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0059】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。
【0060】
リンオキソ酸基導入工程におけるリンオキソ酸基の導入量は、たとえばセルロースナノ
ファイバー1g(質量)あたり0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.40mmol/g以上であることが一層好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、リンオキソ酸基導入工程におけるリンオキソ酸基の導入量は、たとえばセルロースナノファイバー1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、セルロースナノファイバーの安定性を高めることができ、分散性に優れたセルロースナノファイバーが得られやすくなる。
【0061】
セルロースナノファイバーに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られたセルロースナノファイバーを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0062】
図1は、リンオキソ酸基を有するセルロースナノファイバー含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。セルロースナノファイバーに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
【0063】
まず、セルロースナノファイバーを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
【0064】
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、
図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。
図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、
図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロースナノファイバーの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロースナノファイバーの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロースナノファイバーの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(又はリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
【0065】
なお、
図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が
極大となる点は一つとなる。
【0066】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型のセルロースナノファイバーの質量を示すことから、酸型のセルロースナノファイバーが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときのセルロースナノファイバーの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンであるセルロースナノファイバーが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:セルロースナノファイバーが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0067】
<洗浄工程>
本実施形態におけるセルロースナノファイバーの製造方法においては、必要に応じてリンオキソ酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりリンオキソ酸基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0068】
<アルカリ処理>
セルロースナノファイバーを製造する場合、リンオキソ酸基導入工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リンオキソ酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0069】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0070】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。アルカリ処理工程におけるリンオキソ酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。また、アルカリ処理では、リンオキソ酸基の中和処理及び/又はイオン交換処理が行われてもよい。この場合、アルカリ溶液の温度は室温であることが好ましい。
【0071】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、リンオキソ酸基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、リンオキソ酸基導入繊維を水や有機溶媒により
洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったリンオキソ酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0072】
<酸処理>
セルロースナノファイバーを製造する場合、リンオキソ酸基導入工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。たとえば、リンオキソ酸基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0073】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば、酸を含有する酸性液中に、繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は特に限定されないが、たとえば10質量%以下が好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば、無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば、硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえば、ギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、酸としては塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
【0074】
酸処理工程における酸溶液の温度は特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理工程における酸溶液への浸漬時間は特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
<解繊処理>
リンオキソ酸基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、セルロースナノファイバーが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置としては、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0076】
解繊処理の際には、たとえばリンオキソ酸基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、及び極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶剤としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、またはt-ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエ
チルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としては、たとえばジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0077】
解繊処理時のセルロースナノファイバーの固形分濃度は適宜設定できる。また、リンオキソ酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、たとえば水素結合性のある尿素などのリンオキソ酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0078】
本発明では、セルロースナノファイバーを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、セルロースナノファイバーを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮したセルロースナノファイバーをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0079】
セルロースナノファイバーを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。また、処理条件も好ましい重合度が得られる条件であれば特に限定されない。
【0080】
本発明においては、セルロースナノファイバーの原料や製造条件をそれぞれ適切に選択することによりセルロースナノファイバーの平均重合度を好ましい範囲内に制御することが可能となる。このような製造条件としては、特に限定されないが、たとえば解繊処理工程における圧力条件や処理回数を調整したり、製造装置の種類を選択することなどが挙げられる。たとえば、湿式微粒化装置を用いて245MPaの圧力にて解繊処理を行う場合、処理回数を1回以上8回以下とすることでセルロースナノファイバーの平均重合度を好ましい範囲内に制御してもよい。
【0081】
上述した方法で得られたリンオキソ酸基を有するセルロースナノファイバーは、スラリー状であってもよく、所望の濃度となるように、水で希釈して用いてもよい。
【0082】
セルロースナノファイバー水分散液は、セルロースナノファイバーの固形分が0.01質量%~5質量%であることができ、好ましくは0.1質量%~2質量%であることができる。水分散液におけるセルロースナノファイバー固形分が0.01質量%未満であると後述する乾燥工程に時間を要することになり、5質量%を超えると後述する無機酸多価金属塩及び不飽和カルボン酸塩を均一に処理できずセルロースナノファイバーの凝集塊が生じやすい。
【0083】
B-2.ゴム成分
中間体のゴム成分は、ゴム成分を含むゴムラテックスが原料として提供される。ゴム成分は、天然ゴム(NR)、カルボキシ変性ニトリルゴム(X-NBR)またはカルボキシスチレンブタジエンゴム(X-SBR)が好ましい。ゴム成分の重量平均分子量は、50,000~3,000,000であることが好ましく、100,000~2,000,000であることがより好ましい。なお、本発明において、「重量平均分子量」とは、テト
ラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。
【0084】
カルボキシ変性ニトリルゴム(カルボキシ変性アクリロニトリルブタジエンゴム)またはカルボキシ変性スチレンブタジエンゴムは、カルボキシ基によって官能化されたカルボキシ基を有する変性ジエン系ゴムである。カルボキシ変性ニトリルゴムまたはカルボキシ変性スチレンブタジエンゴムは、カルボキシ基を有することでリンオキソ酸基を有するセルロースナノファイバーとの親和性を高めることができるため、混練の際にカルボキシ基がセルロースナノファイバーと結合することによって解繊能力を高めるという機能を発揮する。また、天然ゴムは、素練りにより生成されるフリーラジカルとセルロースナノファイバーとの相互作用により解繊能力が高まると考えられる。
【0085】
また、中間体は、ゴム組成物に配合される公知の充填材が配合されてもよい。充填材としては、たとえば、カーボンブラック、シリカ、クレイ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム、レシチン等を例示することができる。これらの充填材は、単数または複数を組み合わせて配合することができるが、中間体はマトリックス材料に配合するためのマスターバッチとして利用されるため、マトリックス材料と中間体との混合時に充填材を配合してもよい。また、中間体は、架橋剤が含まれていてもよい。中間体に架橋剤が含まれていると本実施形態の架橋体及び/又はゴム製品が好適に得られる。
【0086】
B-3.無機酸多価金属塩
3価以上の陽イオンを含む無機酸多価金属塩は、中間体の製造に用いられる。そのため、無機酸多価金属塩は水溶性である。無機酸多価金属塩は、20℃における水100mlに対する溶解度が10g/100ml以上であることができる。水溶性の無機酸多価金属塩をセルロースナノファイバー水分散液及びラテックスと混合することにより、3価以上の陽イオンがセルロースナノファイバーのリンオキソ酸基と反応することにより、無機酸多価金属塩はセルロースナノファイバー同士の擬似的な架橋として働く。多価金属としては、3価以上の陽イオンが好ましい。たとえば、鉄及びアルミニウム等の3価以上の金属から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。このような多価金属を含むことにより、セルロースナノファイバー同士の擬似的な架橋という機能を有する。無機酸としては、例えば、硝酸、硫酸、塩化水素(塩酸)から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0087】
無機酸多価金属塩としては、たとえば、塩化アルミニウム、塩化鉄、硝酸アルミニウム、硝酸鉄(III)、硫酸アルミニウム、硫酸鉄(III)、硫酸アルミニウムカリウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0088】
水溶性の無機酸多価金属塩の配合量は、塩種や配合目的に応じて適宜調整でき、中間体における3価以上の陽イオンがセルロースナノファイバーのリンオキソ酸基に対して0.40倍当量~4.00倍当量となるように配合することができる。無機酸多価金属塩の含有量は、「C.中間体の製造方法」で説明する。
【0089】
第1実施形態に係る中間体は、3価以上の陽イオンを含有する。3価以上の陽イオンは、無機酸多価金属塩に由来することができる。3価以上の陽イオンは、アルミニウムイオン及び/または鉄イオンであることが好ましい。中間体における無機酸は、洗浄によって除去されてもよい。
【0090】
B-4.不飽和カルボン酸塩
1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩は、中間体の製造に用いられる。そのため、不飽和カルボン酸塩は水溶性である。不飽和カルボン酸塩としては、(メタ)アクリル
酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、クロトン酸及びこれらの塩等を示すことができる。水溶性の1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩をセルロースナノファイバー水分散液及びラテックスと混合することにより、カルボキシ基およびカルボニル基がセルロースナノファイバーのリンオキソ酸基と配位結合することにより、セルロースナノファイバー同士の擬似的な架橋という働きをする。これらの塩を形成する金属としては、たとえば、ナトリウム、カリウム、リチウム等の1価の金属を示すことができる。これは、無機酸多価金属塩とは異なり1価の金属でもリンオキソ酸基が配位結合するためと考えられる。ここで、「(メタ)アクリル酸」は、メタクリル酸およびアクリル酸の総称である。不飽和カルボン酸塩は、アクリル酸ナトリウム及び/またはメタクリル酸ナトリウムであることができる。また、不飽和カルボン酸塩の化合物を形成するにあたり、上記金属の中で、1種の金属を用いて金属塩化合物を形成してもよいし2種以上を用いてもよい。不飽和カルボン酸塩の含有量は、「C.中間体の製造方法」で説明する。
【0091】
B-5.不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体
1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体は、中間体の製造に用いられる。そのため、不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体は水溶性である。不飽和カルボン酸塩としては、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、クロトン酸及びこれらの塩等を示すことができる。水溶性の1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体をセルロースナノファイバー水分散液及びラテックスと混合することにより、カルボキシ基およびカルボニル基がセルロースナノファイバーのリンオキソ酸基と配位結合することにより、セルロースナノファイバー同士の擬似的な架橋という働きをする。これらの塩を形成する金属としては、たとえば、ナトリウム、カリウム、リチウム等の1価の金属を示すことができる。当該重合体の繰り返し単位である不飽和カルボン酸塩は、アクリル酸ナトリウム及び/またはメタクリル酸ナトリウムであることができる。当該重合体は、不飽和カルボン酸塩以外の単量体に由来する繰り返し単位を含んでもよい。また、当該重合体を形成するにあたり、上記金属の中で、1種の金属を用いて金属塩化合物を形成してもよいし2種以上を用いてもよい。当該重合体の含有量は、「C.中間体の製造方法」で説明する。
【0092】
第2実施形態に係る中間体は、1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び/または1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体を含む。金属イオンとしては、たとえば、ナトリウム、カリウム、リチウム等の1価の金属イオンを示すことができる。
【0093】
C.中間体の製造方法
次に、中間体の製造方法について説明する。
図2は、一実施形態に係る中間体の製造方法のフローチャートである。中間体の製造方法は、上記Bの原料を用いることができる。中間体の製造方法は、上記Aで説明した第1実施形態または第2実施形態の中間体を得ることができる。
【0094】
図2に示すように、中間体の製造方法は、混合液を得る工程(S10)と、混合液を混練する工程(S20)と、混練後の混合液を乾燥し、混合物を得る工程(S30)と、中間体を得る工程(S40)と、を含む。
【0095】
S10:混合液を得る工程は、ゴム成分を含むゴムラテックスと、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を含有するセルロースナノファイバーを含有するセルロースナノファイバー分散液と、3価以上の陽イオンを含む無機酸多価金属塩、1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩、及び1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種と、を混合して混合液を
得る工程である。ゴムラテックス、セルロースナノファイバー水分散液、無機酸多価金属塩及び不飽和カルボン酸塩は、いずれも水系溶媒で提供され、公知の攪拌機を用いて混合することができる。攪拌機としては、たとえば、マグネチックスターラー、プロペラ式攪拌機等を用いることができる。
【0096】
混合液を得る工程において、ゴム成分100質量部に対し、セルロースナノファイバーが10質量部以上100質量部未満であることができる。混合液を得る工程におけるセルロースナノファイバーの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上であることにより、高濃度のセルロースナノファイバーを含むマスターバッチとして中間体を市場に提供することができ、15質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。また、100質量部未満であれば、作業時間がかかるものの攪拌や混練が可能であり、作業性を向上するために50質量部以下であることがより好ましい。ゴム成分は、ゴムラテックスとして使用可能であれば制限されないが、天然ゴム、カルボキシ変性ニトリルゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴムであることが好ましい。
【0097】
無機酸多価金属塩、不飽和カルボン酸塩及び不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体は、組み合わせて配合することができるが、それぞれ単独で配合することが好ましい。無機酸多価金属塩、不飽和カルボン酸塩及び不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体の配合量は、塩種や配合目的に応じて適宜調整できる。混合液は、セルロースナノファイバーに含まれるリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基に対して0.40倍当量以上4.00倍当量未満の、3価以上の陽イオン、または、1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩及び1価の金属イオンを含む不飽和カルボン酸塩に由来する繰返し単位を有する重合体から選択される少なくとも一種を含むように配合される。理論的には1倍当量が適正であるが、ラテックスの種類やゴム製品の要求特性によっては1倍当量より少ない配合とすることができ、また、添加剤の偏在や局部構造の不適合などから1倍当量より多く配合することができる。上記のように、0.40倍当量以上であれば擬似的な架橋構造の発達によってセルロースナノファイバーの凝集を抑制できるようになるため好ましく、4.00倍当量以下であれば余剰となった無機酸多価金属塩または不飽和カルボン酸塩の凝集がゴム製品に与える影響が比較的少ないため好ましい。また、金属イオンの量は、セルロースナノファイバーの凝集と余剰材の凝集の抑制の観点から、セルロースナノファイバーのリンオキソ酸基に対して2.00倍当量~3.00倍当量であることがより好ましい。
【0098】
ここで、金属イオンの量は、セルロースナノファイバーに含まれるリンオキソ酸基のモル量に応じて算出することができ、たとえば、S10に用いるセルロースナノファイバーのリンオキソ酸基に由来する総アニオン量が2.45mmol/gであれば、そのモル量に対して0.40倍当量~4.00倍当量となるように無機酸多価金属塩及び不飽和カルボン酸塩の量を算出することができる。
【0099】
たとえば、セルロースナノファイバーのリンオキソ酸基に由来する総アニオン量が2.45mmol/gであればセルロースナノファイバー20g(20質量部)で49.00mmolとなり、純度70%の水和物である硫酸鉄(III)であれば3価の鉄イオン由来の電荷を10.5mmol/gを含むので、2倍当量(49×2/10.5)で9.3gの硫酸鉄の水和物を配合して、前処理液中における硫酸鉄の濃度が7.2質量%となる。また、無機酸多価金属塩の含有量は、例えば、純度70%の硫酸鉄の水和物の場合、鉄イオンがセルロースナノファイバーのリンオキソ酸基に対して0.40倍当量~4.00倍当量なので、前処理液中に固形分換算で1.5質量%~13.5質量%であり、好ましくは7.2質量%~10.4質量%(2.00倍当量~3.00倍当量)である。
【0100】
S20:混合液を混練する工程は、S10で得た混合液を混練りする工程である。混合液を混錬する工程において、JIS Z8803(2011)に準拠して振動粘度計により測定した25℃の混合液の粘度が100mPa・s~1000mPa・sであることが好ましい。振動粘度計としては、例えば、音叉振動式レオメータを用いることができる。混合液の粘度が上記範囲内であれば、混合液の弾性による復元力を利用した混練を行うことができる。混合液が弾性を示す領域は、動的粘弾性試験により応力歪曲線を求め、弾性率が応力によらず一定の範囲であって、かつ、応力と歪みが比例する範囲である。このような弾性領域は、混合液の粘度からも推定することができる。混練は、ある程度のせん断力を混合液に与えることができる装置、たとえば、自公転攪拌機、3本ロール、2本ロール等により実行できる。S10は、混合液の粘度が非線形性を有する状態(非ニュートン流体のようになった状態)になるまで実行することができる。
【0101】
S30:混練後の混合液を乾燥し、混合物を得る工程は、S20の混練する工程後の混合液を乾燥して水分率が15%以下の混合物を得る工程である。乾燥後の混合物の水分率が15%以下であれば、S40の混練加工が可能である。また、乾燥後の混合物の水分率は、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。水分率は、加熱乾燥式水分計を用いて測定することができる。また、水分率は、乾燥前と乾燥後の質量を測定して配合量から算出してもよい。S30の乾燥は、混合液中の水系溶媒を効率よく除去できる方法であれば公知の方法を採用でき、たとえば、加熱しながら脱気する等してもよい。
【0102】
S40:混合物を混練し中間体を得る工程は、S30で得た混合物を混練して中間体を得る工程である。混合物は、S30の乾燥によってセルロースナノファイバーの集合した凝集塊を多数有している。混合物中のゴム成分と金属イオンや不飽和カルボン酸塩の存在によってセルロースナノファイバー同士の接合は抑制していることが推測される。この状態で混合物に高いせん断力を与えて混練することにより、セルロースナノファイバーのゴム成分中への分散状態がより良くなるため好ましい。S40の混練は、混合物を圧縮させた後にゴム成分の弾性による復元を用いてセルロースナノファイバーを大きく移動させることにより実行することができる。
【0103】
S40の中間体を得る工程は、特に限定されないが、たとえばオープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法を用いることができる。中でも、オープンロール法が好ましい。
【0104】
オープンロール法により混練する場合、混合物を一方のロールに巻き付けて混練りを行い、ゴム成分の分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。このフリーラジカルがセルロースナノファイバーと結びつきやすいため、中間体の製造方法ではこの工程を含むことが好ましい。本発明における中間体の製造方法においては、この混練りを行った後に、さらに薄通しする工程を含んでいることが好ましい。
【0105】
薄通し工程におけるロール間隔は、0mmを超え、1mm以下であることが好ましく、0mmを超え、0.5mm以下であることがより好ましく、0.1mm以上0.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0106】
薄通し工程におけるロール表面温度は、0℃以上50℃以下であることが好ましく、5℃以上30℃以下であることがより好ましい。
【0107】
薄通し工程における処理回数は、1回以上10回以下であることが好ましく、1回以上5回以下であることがより好ましい。
【0108】
薄通し工程における二本のロールの表面速度比は、1.05以上3.00以下であることが好ましく、1.05以上2.00以下であることがより好ましく、1.05以上1.5以下であることがさらに好ましく、1.05以上1.20以下であることが特に好ましい。
【0109】
薄通し工程におけるロール間隔、ロール表面温度、処理回数、ロールの表面速度比を上記のようにすることにより、中間体自体の温度を0℃以上70℃以下、より好ましくは0℃以上50℃以下、さらに好ましくは5℃以上30℃以下と調整することができる。このような温度範囲に調整し、混練することにより、ゴム成分の弾性を利用してセルロースナノファイバーを解繊し、解繊されたセルロースナノファイバーを中間体中に分散することができる。
【0110】
以上により、S40の工程により、混合物から中間体が得られる。本明細書では、S40工程の後(混錬後)で得られるものを架橋体及び/又はゴム製品の中間体として説明したが、S40工程を経ないで得られる混合物を中間体としてもよい。
S40の中間体を得る工程により得られる中間体は、目視で確認できるセルロースナノファイバーの凝集塊を有しない。このような凝集塊は、最大幅が10μm以上である。中間体に凝集塊がないことにより、中間体をマスターバッチとして用いた架橋体及び/又はゴム製品にも破壊起点となりやすい凝集塊が存在しないため、機械的性質に優れる架橋体及び/又はゴム製品を製造することができる。
【0111】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる、1つまたはそれよりも多くの要素の列挙に関連する「A、B及びCの少なくとも一つ」又は「A、B及びCの一つ以上」は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びBの組、A及びCの組、B及びCの組、A、B及びCの組、などを含むものと意図される。
【0112】
本発明は、本願に記載の特徴や効果を有する範囲で一部の構成を省略したり、各実施形態や変形例を組み合わせたりしてもよい。
【0113】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【実施例0114】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0115】
(1)サンプルの作製
(1-1)実施例1-1~実施例1-5
表1に示すゴムラテックスと、0.7%に希釈したリン酸化セルロースナノファイバーの水分散液と、約30%に溶解した硫酸鉄(III)または硫酸アルミニウムの水溶液と、を自公転攪拌機(シンキー社製、自転公転ミキサー)で混練して混合液を得た。
次に、混合液をバットに流し込み、オーブンにて40~50℃、約24時間で乾燥して水系溶媒を除去し混合物を得た。得られた混合物の水分率は、全ての混合物において5%以下であった。
【0116】
次に、オープンロール(二本ロール、安田精機社製、191-TH テストミキシングロール)に混合物を巻き付けて混練した後、混合物を薄通し(ロール温度10℃~30℃
、ロール間隔0.3mm以下、ロール速度比1.1)して中間体を得た。
【0117】
さらに、中間体を架橋した架橋体サンプルの力学的性質(機械的性質)を評価するために、混合物をオープンロールに再び巻き付けて架橋剤を投入して混合し、分出したシートを165℃、30分間加圧成形して厚さ1mmのシート状の各実施例の架橋体サンプルを得た。この力学的性質は、中間体の良し悪しの指標となるものである。
【0118】
ここで、
「XNBR」:カルボキシ変性NBRラテックス、日本ゼオン社製、Nipol1571C2、固形分45質量%、
「P-CNF」:リン酸化セルロースナノファイバー、王子ホールディングス社製、アウロ・ヴィスコ、リン酸基量(強酸性基量)1.45mmol/g、弱酸性基量1.0mmol/g、総アニオン量2.45mmol/g、平均繊維幅約3nm、
「Fe2(SO4)3」:関東化学社製、硫酸鉄(III)n水和物、実施例1-1,1-3には1.84倍当量、実施例1-2には1.86倍当量、実施例1-5には0.45倍当量を配合、
「Al2(SO4)3」:富士フイルム和光純薬社製、硫酸アルミニウム(無水)、実施例1-4には3.59倍当量を配合、
また表に記載しないが各実施例に架橋剤としてパーオキサイド(日本油脂社製、パークミルD)を3.2phr配合した。
【0119】
(1-2)比較例1-1~比較例1-6
表2に示すゴムラテックスと、リン酸化セルロースナノファイバー2%濃度のセルロースナノファイバー(0.4%~0.7%に希釈してもよい)の水分散液と、硫酸鉄(III)、硫酸アルミニウムまたは硫酸亜鉛の水溶液と、を用いて、実施例1-1~実施例1-5と同様にして中間体及びシート状の各比較例の架橋体サンプルを得た。なお、比較例1-1はセルロースナノファイバーを含まない純ゴム配合であり、比較例1-3はセルロースナノファイバーを配合せず硫酸鉄を実施例1-3と同量配合した。比較例1-4,1-5は、硫酸鉄を1.84倍当量配合した。
【0120】
ここで、
「NBR」:NBRラテックス(非変性)、日本ゼオン社製、NipolLX513、固形分45質量%、
「ZnSO4」:和光純薬工業社製、硫酸亜鉛、比較例1-6には1.42倍当量を配合した。
【0121】
(1-3)凝集評価
各中間体から得られた各架橋体サンプルの引張試験後の破断面を走査型電子顕微鏡で目視観察して凝集塊の有無を確認した。凝集塊は、セルロースナノファイバーの解繊が不十分な部分であり、目視可能な凝集塊は10μm以上の最大幅を有する。評価基準は、架橋体サンプルの引張破断面を目視で観察して、凝集塊がなければ「〇」、それ以外を目視による凝集塊の大きさに応じて、最大幅が50μm以上のものを「×」、最大幅が10μm以上50μm未満のものを「△」と表1及び表2に記入した。また、
図3~
図5は、実施例1-2、実施例1-4及び比較例1-4の架橋体サンプルの引張破断面を撮影したSEM画像である。
図3及び
図4の実施例1-2及び実施例1-4のSEM画像には凝集塊が確認できない。
図5の比較例1-4のSEM画像には最大幅が50μm以上の凝集塊が確認できる。
【0122】
(1-4)引張試験
各シート状の架橋体サンプルについて、JIS K 6251:2017に記載のダン
ベル形状(ダンベル6号形)に打ち抜いた試験片を、引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAG-X)引張試験機を用いて、JIS K6251:2017に基づいて、23±2℃、標線間距離20mm、引張速度500mm/minで引張試験を行い、50%モジュラス(σ50(MPa))、引張強さ(TS(MPa))、切断時伸び(Eb(%))を測定した。また、50%モジュラス(σ50(MPa))、引張強さ(TS(MPa))、切断時伸び(Eb(%))のそれぞれについて、純ゴム配合である比較例1-1の測定結果と比較して増大率((A-B)×100/B(%))を計算した(ここでAは実施例の測定値、Bは比較例1-1の測定値)。測定結果及び計算結果を表1及び表2に示した。
【0123】
(1-5)総合判定
上記凝集評価と上記引張試験の結果を組み合わせて総合判定を行った。総合判定における「〇」は下記の(a)~(c)のいずれかの条件を満たす良品であり、それ以外は「×」の不良品である。
【0124】
(a)架橋体サンプルの凝集評価が「〇」であって、σ50増大率が50%以上300%未満であり、TS増大率が低下しない(マイナスにならない)こと、
(b)架橋体サンプルの凝集評価が「〇」であって、σ50増大率が300%以上900%未満であり、Eb増大率が-50%以上であること、
(c)架橋体サンプルの凝集評価が「〇」であって、σ50増大率が900%以上であり、Eb増大率が-70%以上であること、とした。
【0125】
【0126】
【0127】
実施例1-1~実施例1-5の架橋体サンプルは、10μm以上の凝集塊が目視で確認されなかった。また、実施例1-1~実施例1-5の架橋体サンプルは、比較例1-1の架橋体サンプルに比べて50%モジュラス(σ50)の増大率が100%以上であった。特に、実施例1-4,5の50%モジュラス(σ50)の増大率は300%以上であった。また、実施例1-1~実施例1-3の架橋体サンプルは、比較例1-1の架橋体サンプルに比べて引張強さ(TS)が増大し、切断時伸び(Eb)が低下しなかった。また、実施例1-4,5の架橋体サンプルは、比較例1-1の架橋体サンプルに比べて切断時伸び(Eb)の増大率が-50%以上だった。
【0128】
比較例1-3の架橋体サンプルは、硫酸鉄を含むが、セルロースナノファイバーを含まないため50%モジュラス(σ50)及び引張強さ(TS)が低下した。また、比較例1-2の中間体サンプルは、最大幅が10μm以上50μm未満の凝集塊が確認され、比較例1-4~1-6の中間体サンプルは、最大幅が50μm以上の凝集塊が確認された。
【0129】
(2-1)実施例2-1~実施例2-7
表3に示すゴムラテックスと、リン酸化セルロースナノファイバー2%濃度のセルロースナノファイバー(0.4%~0.7%に希釈してもよい)の水分散液と、アクリル酸ナトリウム(AANa)の水溶液、アクリル酸ナトリウム(AANa)及び硫酸鉄(III)との混合液またはメタクリル酸ナトリウム(MANa)の水溶液と、を用いて、実施例1-1~実施例1-5と同様にして中間体及びシート状の架橋体のサンプルを得た。ここで、実施例2-1の「AANa」は2.10倍当量を配合し、実施例2-2の「AANa」は2.13倍当量を配合し、実施例2-3の「AANa」は1.06倍当量を配合し、実施例2-4の「AANa」は0.52倍当量を配合した。また、実施例2-5は「Fe2(SO4)3」が0.94倍当量と「AANa」が1.05倍当量を配合し、実施例2-6は「Fe2(SO4)3」が0.92倍当量と「AANa」が1.06倍当量を配合し、実施例2-7は「MANa」を2.12倍当量配合した。なお、「XNBR」、「P-CNF」、「Fe2(SO4)3」は、実施例1-1等と同じ材料を用いた。
【0130】
ここで、
「AANa」:浅田化学工業社製、アクリル酸ナトリウム、
「MANa」:浅田化学工業社製、メタクリル酸ナトリウム、CAS No.5536-61-8。
【0131】
(2-2)凝集評価及び引張試験
各架橋体サンプルを目視して凝集塊の有無を確認し、実施例1-1等と同様に評価した。また、各シート状の架橋体サンプルについて、実施例1-1等と同様に引張試験を行い、50%モジュラス(σ50(MPa))、引張強さ(TS(MPa))、切断時伸び(Eb(%))を測定した。なお、各増大率は、実施例2-1~2-7の各測定値をAとし、比較例1-1の測定値をBとして計算した。測定結果及び計算結果を表3及び表4に示した。
【0132】
(2-3)総合判定
総合判定の基準は、上記(1-5)と同じとした。
【0133】
【0134】
【0135】
実施例2-1~実施例2-7の架橋体サンプルは、10μm以上の凝集塊が目視で確認されなかった。また、実施例2-1~実施例2-7の架橋体サンプルは、比較例1-1の架橋体サンプルに比べて50%モジュラス(σ50)の増大率が500%以上であった。特に、実施例2-4のように、無機酸多価金属塩に比べて不飽和カルボン酸塩は少量でも50%モジュラス(σ50)の増大に大きく影響した。また、実施例2-1~5,7の架橋体サンプルは、比較例1-1の架橋体サンプルに比べて引張強さ(TS)の増大率が60%以上であり、切断時伸び(Eb)の増大率が-70%以上であった。実施例2-6の架橋体サンプルは、比較例1-1の架橋体サンプルに比べて引張強さ(TS)の増大率が20%以上であり、切断時伸び(Eb)の増大率が-50%以上であった。
【0136】
(3-1)実施例3-1~実施例3-5
表5に示すゴムラテックスと、リン酸化セルロースナノファイバー2%濃度のセルロースナノファイバー(0.4%~0.7%に希釈してもよい)の水分散液と、亜リン酸化セルロースナノファイバー2%濃度のセルロースナノファイバー(0.4%~0.7%に希釈してもよい)の水分散液と、硫酸鉄(III)、アクリル酸ナトリウム(AANa)、メタクリル酸ナトリウム(MANa)またはポリアクリル酸ナトリウム(PAANa)の水溶液と、を用いて、実施例1-1~実施例1-4と同様にして中間体及びシート状の架橋体のサンプルを得た。ここで、実施例3-1の「Fe2(SO4)3」は1.84倍当量を配合し、実施例3-2の「AANa」は2.13倍当量を配合し、実施例3-3の「MANa」は2.12倍当量を配合し、実施例3-4の「PAANa」は2.13倍当量を配合し、実施例3-5はセルロースナノファイバーとして「P’-CNF」を配合すると共に「AANa」は2.13倍当量を配合した。なお、「P-CNF」、「Fe2(SO4)3」は、実施例1-1等と同じ材料を用い、「AANa」、「MANa」は、実施例2-1等と同じ材料を用いた。
【0137】
ここで、
「NR」:レジテックス社製、天然ゴムラテックス、ULACOL、固形分61質量%、「PAANa」:東亞合成社製、ポリアクリル酸ナトリウム、アロンT50
「P’-CNF」:亜リン酸化セルロースナノファイバー、亜リン酸基量1.51mmol/g、平均繊維径約3~5nm。本セルロースナノファイバーは例えば特許第6680392号(特開2020-109147号)公報に記載の方法により製造し、亜リン酸基導入量は同公報の[0136]に記載の評価方法に準拠して測定した。
【0138】
(3-2)比較例3-1~比較例3-4
表6に示すゴムラテックスと、リン酸化セルロースナノファイバー2%濃度のセルロースナノファイバー(0.4%~0.7%に希釈してもよい)の水分散液と、硫酸鉄(III)またはアクリル酸ナトリウム(AANa)の水溶液と、を用いて、実施例3-1~実施例3-4と同様にして中間体及びシート状の各比較例のサンプルを得た。なお、比較例3-1はセルロースナノファイバーを含まない純ゴム配合であった。
【0139】
(3-3)凝集評価及び引張試験
各架橋体サンプルを目視して凝集塊の有無を確認し、実施例1-1等と同様に評価した。また、各シート状の架橋体サンプルについて、実施例1-1等と同様に引張試験を行い、50%モジュラス(σ50(MPa))、引張強さ(TS(MPa))、切断時伸び(Eb(%))を測定した。なお、各増大率は、実施例3-1~3-5及び比較例3-2~3-4の各測定値をAとし、比較例3-1の測定値をBとして計算した。測定結果及び計算結果を表5及び表6に示した。
【0140】
(3-4)総合判定
総合判定の基準は、上記(1-5)と同じとした。
【0141】
【0142】
【0143】
実施例3-1~実施例3-5の架橋体サンプルは、10μm以上の凝集塊が目視で確認されなかった。また、実施例3-1,2,4,5の架橋体サンプルは、比較例3-1の架橋体サンプルに比べて50%モジュラス(σ50)の増大率が400%以上であり、実施例3-3の架橋体サンプルは、比較例3-1の架橋体サンプルに比べてσ50の増大率が4800%以上であった。実施例3-1,2,4,5の架橋体サンプルは、比較例3-1の架橋体サンプルに比べて引張強さ(TS)の増大率が600%以上であり、切断時伸び(Eb)が減少しなかった。実施例3-3の架橋体サンプルは、比較例3-1の架橋体サンプルに比べて引張強さ(TS)の増大率が1800%以上であり、切断時伸び(Eb)の増大率が-60%以上であった。
【0144】
比較例3-2の架橋体サンプルは、10μm以上50μm未満の凝集塊が目視で多数確認された。
【0145】
(4-1)実施例4-1
表7に示すゴムラテックスと、リン酸化セルロースナノファイバー2%濃度のセルロースナノファイバー(0.4%~0.7%に希釈してもよい)の水分散液と、アクリル酸ナトリウム(AANa)の水溶液と、を用いて、実施例1-1~実施例1-4と同様にして中間体及びシート状の架橋体のサンプルを得た。ここで、実施例4-1の「AANa」は2.13倍当量を配合した。なお、「P-CNF」、「AANa」は、実施例2-1等と同じ材料を用いた。
【0146】
ここで、
「SBR」:JSR社製、カルボキシ変性SBRゴムラテックス、グレード:0548、固形分50.5%。
【0147】
(4-2)比較例4-1~比較例4-3
表7に示すゴムラテックスと、リン酸化セルロースナノファイバー2%濃度のセルロースナノファイバー(0.4%~0.7%に希釈してもよい)の水分散液と、硫酸鉄(II
I)の水溶液と、を用いて、実施例4-1と同様にして架橋体サンプル(ゴム組成物)及びシート状の各比較例のサンプルを得た。なお、比較例4-1はセルロースナノファイバーを含まない純ゴム配合であった。
【0148】
(4-3)凝集評価及び引張試験
各架橋体サンプルを目視して凝集塊の有無を確認し、実施例1-1等と同様に評価した。また、各シート状の架橋体サンプルについて、実施例1-1等と同様に引張試験を行い、50%モジュラス(σ50(MPa))、引張強さ(TS(MPa))、切断時伸び(Eb(%))を測定した。なお、各増大率は、実施例4-1及び比較例4-2,3の各測定値をAとし、比較例4-1の測定値をBとして計算した。測定結果及び計算結果を表7に示した。
【0149】
(4-4)総合判定
総合判定の基準は、上記(1-5)と同じとした。
【0150】
【0151】
実施例4-1の架橋体サンプルは、10μm以上の凝集塊が目視で確認されなかった。また、実施例4-1の架橋体サンプルは、比較例4-1の架橋体サンプルに比べて50%モジュラス(σ50)の増大率が400%以上であり、引張強さ(TS)の増大率が110%以上であり、切断時伸び(Eb)の増大率が-50%以上であった。
【0152】
比較例4-3の架橋体サンプルは、10μm以上50μm未満の凝集塊が目視で多数確認された。