(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167033
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】蒸発ガス処理システム
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
F17C13/00 302A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077856
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】浦部 治貴
(72)【発明者】
【氏名】土居 真
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB04
3E172BA06
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD05
3E172EB03
3E172EB10
3E172FA09
3E172FA26
3E172GA03
3E172HA05
3E172JA08
(57)【要約】
【課題】単位吸着材量あたりの吸着量を増やして、効率的に蒸発ガスを処理できる蒸発ガス処理システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る蒸発ガス処理システム1は、低温液体3が貯留された貯槽5から発生する蒸発ガスを処理するものであって、蒸発ガスを吸着する吸着材が収容された吸着容器7と、吸着容器7内を冷却する冷却機構9と、貯槽5から発生する蒸発ガスを抜き出して吸着容器7に直接又は他のラインを介して導入する蒸発ガス抜き出しライン11と、蒸発ガス抜き出しライン11に設けられて蒸発ガス抜き出しライン11に抜き出された蒸発ガスを加圧する加圧装置17と、貯槽5から低温液体3を送出する送出ポンプ23と、送出ポンプ23によって送出された低温液体3及び低温液体3が気化したガスが流れる低温液体・ガス送出ライン13と、低温液体・ガス送出ライン13に設けられて低温液体3を気化する気化器27と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液体が貯留された貯槽から発生する蒸発ガスを処理する蒸発ガス処理システムであって、
前記蒸発ガスを吸着する吸着材が収容された吸着容器と、
該吸着容器内を冷却する冷却機構と、
前記貯槽から発生する蒸発ガスを抜き出して前記吸着容器に直接又は他のラインを介して導入する蒸発ガス抜き出しラインと、
該蒸発ガス抜き出しラインに設けられて該蒸発ガス抜き出しラインに抜き出された前記蒸発ガスを加圧する加圧装置と、
前記貯槽から低温液体を送出する送出ポンプと、
該送出ポンプによって送出された低温液体及び該低温液体が気化したガスが流れる低温液体・ガス送出ラインと、
該低温液体・ガス送出ラインに設けられて前記低温液体を気化する気化器と、を備えたことを特徴とする蒸発ガス処理システム。
【請求項2】
前記蒸発ガス抜き出しラインは、前記加圧装置が設けられたラインに加えて、該加圧装置をバイパスして前記蒸発ガスを前記吸着容器に直接又は他のラインを介して導入するバイパスラインを備えていることを特徴とする請求項1に記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項3】
前記冷却機構は、
前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の上流側に設けられて前記低温液体の冷熱を利用して熱交換する熱交換器と、前記吸着容器に導入された前記蒸発ガスを前記吸着容器と前記熱交換器との間で循環させる循環ラインを備えて構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項4】
前記蒸発ガス抜き出しラインは、前記蒸発ガスを前記循環ラインに供給し、該循環ラインを介して前記吸着容器に導入することを特徴とする請求項3に記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項5】
前記吸着材に吸着された蒸発ガスを脱着するための熱源として、前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の下流側のガスを前記吸着容器に供給するガス供給ラインを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項6】
前記吸着材から脱着した脱着ガスを前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の下流側に供給する第1脱着ガス供給ラインを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項7】
前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の上流側に設けられた気液混合器と、前記吸着材から脱着した脱着ガスを前記気液混合器に供給する第2脱着ガス供給ラインと、を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項8】
前記吸着材から脱着した脱着ガスを前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の下流側に供給する第1脱着ガス供給ラインと、
前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の上流側に設けられた気液混合器と、前記吸着材から脱着した脱着ガスを前記気液混合器に供給する第2脱着ガス供給ラインと、を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項9】
前記第1脱着ガス供給ラインによって前記低温液体・ガス送出ラインに脱着ガスを戻す位置よりも上流側に低温液体・ガス送出ラインを流れるガスの圧力を調整する圧調弁を設けたことを特徴とする請求項6記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項10】
前記第1脱着ガス供給ラインに、脱着ガスの圧力を昇圧するための昇圧装置を設けたことを特徴とする請求項6記載の蒸発ガス処理システム。
【請求項11】
前記吸着容器が複数設けられ、
前記循環ラインが前記複数の吸着容器の少なくとも一つに選択的に接続可能に構成されており、
前記蒸発ガスを前記複数の吸着容器に順に導入して前記貯槽から連続的に蒸発ガスを抜き出せるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の蒸発ガス処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガスをはじめとする低温液体が貯留された貯槽内で発生する蒸発ガスを処理する蒸発ガス処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市ガス製造の原料である天然ガス(NG)は、日本国内においては液化天然ガス(LNG)として輸入、貯蔵される。LNGをはじめとする低温液体の貯蔵には断熱材等で断熱されたタンクが用いられるが、タンクへの入熱により低温液体の一部が蒸発し、タンク内に蒸発ガスが発生する。この蒸発ガスによってタンクの内圧が上昇すると、タンクの破損、及び、それに伴うガス漏れや爆発事故の危険性がある。これを防ぐため、蒸発ガスを何らかの方法によりタンク内から除去する必要がある。
【0003】
蒸発ガスをタンク内から除去する方法としてもっとも簡単な方法はタンク外への放出であるが、天然ガスのように蒸発ガスが可燃性や有毒性を有する場合、大気中に放出することは好ましくない。また、蒸発ガスが可燃性を有する場合にはフレアパージという手段もあるが、これも原料の有効利用や大気汚染の観点から好ましくない。
そのため、蒸発ガスを有効利用する処理方法として、タンクから回収した蒸発ガスをガスコンプレッサーにより昇圧してガス送出パイプラインへ導入する、あるいは、都市ガス製造工場内を流れるLNG中に導入して再液化させるといった処理が一般的に行われている。
【0004】
特許文献1には、蒸発ガスを効率よく処理する方法として、タンク内の液化ガスの一部を別のタンク内(以下、「冷却タンク」という)に補給し、その冷却タンク内に吸着材を充填した容器(以下、「吸着容器」という)を沈めることで吸着材を冷却し、その冷却された吸着材に蒸発ガスを吸着させた後、吸着容器を加熱して蒸発ガスを脱離・昇圧してガス送出パイプラインへ導入する、という技術が開示されている。
特許文献1の方法は、吸着材が低温になるほどガス吸着量が増大するという性質を利用したものであり、低温状態で蒸発ガスを吸着させた後に吸着容器を加熱して、蒸発ガスを脱離させると共に容器内の圧力を上昇させ、ガスコンプレッサー等で昇圧することなく蒸発ガスをガス送出パイプラインへ送出できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、吸着材には低温になるほど吸着量が増大するという性質があるが、それに加えて吸着対象のガスが高圧になるほど吸着量が増大するという圧力依存性も有している。吸着材の圧力依存性は、例えば
図7に示すような吸着等温線で表される。
【0007】
吸着等温線は、一定温度下で圧力を変化させたときの吸着量の変化を示すものであり、その形は吸着材の細孔分布等によって異なる。国際純正・応用化学連合(IUPAC)ではこれを
図7に示す6種類の型に分類している。
例えばI型は細孔径2nm以下のマイクロポアが多く存在する吸着材の吸着等温線である。また、II型やIII型は細孔径50nm以上のマクロポアが存在する吸着材、IV型やV型は細孔径2-50nmのメソポアが存在する吸着材、VI型は細孔が極めて少ない吸着材の吸着等温線である。以降、この吸着等温線の違いを吸着特性と呼称する。I型の吸着特性を示す吸着材は比較的低圧において吸着量がほぼ飽和し、そこから更に圧力を上げても吸着量はほぼ変わらないが、II型やIII型の吸着特性を示す吸着材は圧力の上昇に応じて吸着量が増加していき、一方IV型やV型の吸着特性を示す吸着材は低圧で少量吸着した後、更に圧力を加えるとある圧力値で急激に吸着量が増大する。このように吸着材の吸着特性によって吸着量の圧力依存性は大きく異なっている。
【0008】
前述した特許文献1は吸着量の圧力依存性を考慮していないので、蒸発ガスが低圧であるときの吸着量が不十分であった。吸着量が不十分であると、脱着してガス送出パイプラインへ送出するガス量も少なくなるので、蒸発ガスの処理効率が低下する。そのため、単位吸着材量あたりの吸着量を増やして処理効率を向上させたいという要望があった。
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、単位吸着材量あたりの吸着量を増やして、効率的に蒸発ガスを処理できる蒸発ガス処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る蒸発ガス処理システムは、低温液体が貯留された貯槽から発生する蒸発ガスを処理するものであって、前記蒸発ガスを吸着する吸着材が収容された吸着容器と、該吸着容器内を冷却する冷却機構と、前記貯槽から発生する蒸発ガスを抜き出して前記吸着容器に直接又は他のラインを介して導入する蒸発ガス抜き出しラインと、該蒸発ガス抜き出しラインに設けられて該蒸発ガス抜き出しラインに抜き出された前記蒸発ガスを加圧する加圧装置と、前記貯槽から低温液体を送出する送出ポンプと、該送出ポンプによって送出された低温液体及び該低温液体が気化したガスが流れる低温液体・ガス送出ラインと、該低温液体・ガス送出ラインに設けられて前記低温液体を気化する気化器と、を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記蒸発ガス抜き出しラインは、前記加圧装置が設けられたラインに加えて、該加圧装置をバイパスして前記蒸発ガスを前記吸着容器に直接又は他のラインを介して導入するバイパスラインを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記冷却機構は、前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の上流側に設けられて前記低温液体の冷熱を利用して熱交換する熱交換器と、前記吸着容器に導入された前記蒸発ガスを前記吸着容器と前記熱交換器との間で循環させる循環ラインを備えて構成されることを特徴とするものである。
【0013】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記蒸発ガス抜き出しラインは、前記蒸発ガスを前記循環ラインに供給し、該循環ラインを介して前記吸着容器に導入することを特徴とするものである。
【0014】
(5)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記吸着材に吸着された蒸発ガスを脱着するための熱源として、前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の下流側のガスを前記吸着容器に供給するガス供給ラインを設けたことを特徴とするものである。
【0015】
(6)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記吸着材から脱着した脱着ガスを前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の下流側に供給する第1脱着ガス供給ラインを設けたことを特徴とするものである。
【0016】
(7)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の上流側に設けられた気液混合器と、前記吸着材から脱着した脱着ガスを前記気液混合器に供給する第2脱着ガス供給ラインと、を設けたことを特徴とするものである。
【0017】
(8)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記吸着材から脱着した脱着ガスを前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の下流側に供給する第1脱着ガス供給ラインと、前記低温液体・ガス送出ラインにおける前記気化器の上流側に設けられた気液混合器と、前記吸着材から脱着した脱着ガスを前記気液混合器に供給する第2脱着ガス供給ラインと、を設けたことを特徴とするものである。
【0018】
(9)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記第1脱着ガス供給ラインによって前記低温液体・ガス送出ラインに脱着ガスを戻す位置よりも上流側に低温液体・ガス送出ラインを流れるガスの圧力を調整する圧調弁を設けたことを特徴とするものである。
【0019】
(10)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記第1脱着ガス供給ラインに、脱着ガスの圧力を昇圧するための昇圧装置を設けたことを特徴とするものである。
【0020】
(11)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記吸着容器が複数設けられ、前記循環ラインが前記複数の吸着容器の少なくとも一つに選択的に接続可能に構成されており、前記蒸発ガスを前記複数の吸着容器に順に導入して前記貯槽から連続的に蒸発ガスを抜き出せるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、貯槽から発生する蒸発ガスを抜き出して吸着容器に導入する蒸発ガス抜き出しラインに蒸発ガスを加圧する加圧装置を設けたことにより、単位吸着材量あたりの吸着可能量を増大することができる。これにより、吸着材を増量することなく蒸発ガスの処理量を増やすことができ、蒸発ガスの処理効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る蒸発ガス処理システムの説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態2に係る蒸発ガス処理システムの説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態3に係る蒸発ガス処理システムの説明図である。
【
図4】本発明の実施の形態4に係る蒸発ガス処理システムの説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態5に係る蒸発ガス処理システムの説明図である。
【
図6】実施例に係るある吸着材を用いた場合の蒸発ガスの処理サイクルを説明する説明図であり、
図6(a)は従来例、
図6(b)は発明例である。
【
図7】吸脱着等温線のIUPAC分類を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態1]
本実施の形態に係る蒸発ガス処理システム1は、LNG等の低温液体3が貯留された貯槽5から発生する蒸発ガスを処理するものであって、
図1に示すように、蒸発ガスを吸着する吸着材が収容された吸着容器7と、吸着容器7内を冷却する冷却機構9と、貯槽5から発生する蒸発ガスを抜き出して吸着容器7に導入する蒸発ガス抜き出しライン11と、貯槽5から送出された低温液体3及び低温液体3が気化したガスが流れる低温液体・ガス送出ライン13と、吸着材から脱着した脱着ガスを低温液体・ガス送出ライン13に供給する第1脱着ガス供給ライン15を備えている。各構成について、以下、詳細に説明する。
【0024】
<吸着容器>
吸着容器7は、蒸発ガス抜き出しライン11から抜き出された蒸発ガスを吸着するための吸着材が収容された容器である。
吸着容器7に収容される吸着材(例えば活性炭など)の吸着能力は、吸着材が低温であるほど高くなる。また、前述したように吸着材による吸着量は蒸発ガスの圧力に依存するので(
図7参照)、蒸発ガスが高圧であるほど吸着量も多くなる。吸着材が大量の蒸発ガスを吸着した状態で吸着容器7内の温度を上昇させると、温度の上昇に伴って吸着材の吸着能力が低下する性質により、吸着材に吸着されていた蒸発ガスが脱着する。以降、吸着材から脱着した蒸発ガスを脱着ガスという。
【0025】
なお、吸着容器7内の温度を上昇させる方法は特に限定しないが、例えば海水などを用いて外部から加熱し、吸着容器7内の温度を上昇させるようにしてもよい。また、吸着容器7内の温度を上昇させるための熱源として、低温液体・ガス送出ライン13に流れる低温液体3を気化させたガスを用いても良い。この方法については、後述の実施の形態2で詳しく説明する。
【0026】
吸着材を加熱して蒸発ガスを脱着させると、脱着の進行に伴って吸着容器7の内圧が上昇する。吸着容器7の内圧が所定の圧力まで上がったところで吸着容器7から脱着ガスを排出すれば、昇圧装置を用いることなく高圧の脱着ガスを送出することができる。
【0027】
<冷却機構>
冷却機構9は、吸着容器7内を冷却するための機構である。その態様は特に限定されないが、例えば、シェルアンドチューブのように吸着容器7内に設置された配管(群)内に冷媒を通流させて冷却する方法を用いることができる。
また、吸着容器7の外側に張り巡らされた配管内に冷媒を通流させて冷却してもよいし、吸着容器7を二重殻構造にして外殻内に冷媒を通流させて冷却してもよい。また、吸着容器7に冷凍機を挿入して冷却してもよい。
【0028】
なお、吸着容器7内を冷却するための冷熱源として、低温液体・ガス送出ライン13に流れる低温液体3を用いることもできる。この方法については、後述の実施の形態2で詳しく説明する。
【0029】
<蒸発ガス抜き出しライン>
蒸発ガス抜き出しライン11は、貯槽5に貯留された低温液体3が蒸発して発生する蒸発ガス(「ボイルオフガス」、「BOG」ともいう)を、貯槽5から抜き出して吸着容器7に導入するラインである。
【0030】
蒸発ガス抜き出しライン11は、蒸発ガス抜き出しライン11に抜き出された蒸発ガスを加圧して吸着容器7に導入する加圧ライン11aと、加圧ライン11aに設けられた加圧装置17をバイパスして蒸発ガスを吸着容器7に導入するバイパスライン11bとを備えている。
加圧ライン11aに設けられた第1開閉弁19又はバイパスライン11bに設けられた第2開閉弁21のどちらか一方を開、他方を閉とすることで、加圧ライン11a又はバイパスライン11bのどちらか一方を介して蒸発ガスを吸着容器7に導入できるようになっている。
【0031】
<低温液体・ガス送出ライン>
低温液体・ガス送出ライン13は、貯槽5から送出される低温液体3を気化してガス幹線へ送出するラインであり、貯槽5から低温液体3を送出する送出ポンプ23と、送出された低温液体3を昇圧する昇圧ポンプ25と、昇圧された低温液体3を気化する気化器27が設けられている。
送出ポンプ23によって貯槽5から払い出された低温液体3は、昇圧ポンプ25によって昇圧された後、気化器27によって加熱気化され、ガス幹線に送出される。気化器27の熱源としては、例えば海水などがあげられる。
なお、送出ポンプ23で低温液体を昇圧する場合には昇圧ポンプ25を設けなくてもよい。
【0032】
<第1脱着ガス供給ライン>
第1脱着ガス供給ライン15は、吸着容器7から払い出された脱着ガスを低温液体・ガス送出ライン13における気化器27の下流側に供給するラインである。第1脱着ガス供給ライン15に設けられた第3開閉弁29を開放して吸着容器7内の脱着ガスを気化器27の下流側に導入する。
気化器27の下流側には低温液体3が気化したガス(以降、気化ガスという)が流れている。気化ガスはガス幹線に要求される高い圧力を有しているが、本実施の形態では前述したように吸着容器7内で脱着ガスを昇圧しているので、昇圧装置等を介することなく脱着ガスを気化ガスに導入することができる。
【0033】
上記のように構成された本実施の形態の蒸発ガス処理システム1の動作について、以下具体的に説明する。
【0034】
<吸着工程>
吸着材による吸着量は、吸着材の温度と吸着質(蒸発ガス)の圧力に応じて増減する。具体的には、吸着材が低温であるほど、また、蒸発ガスが高圧であるほど吸着量が増える。
そこで、まずは冷却機構9によって吸着容器7内を冷却し、吸着材の温度を低下させる。吸着材が所定の温度まで冷却されたら、第1開閉弁19を閉、第2開閉弁21を開として貯槽5内の蒸発ガスを蒸発ガス抜き出しライン11から抜き出し、バイパスライン11bを介して吸着容器7に導入する。吸着容器7に導入された蒸発ガスは、当該温度下における吸着限度まで吸着材に吸着される。
【0035】
蒸発ガスの吸着量が吸着限度に近づくと吸着効率が低下するので、次に第1開閉弁19を開、第2開閉弁21を閉とし、加圧ライン11aを介して吸着容器7に蒸発ガスを導入する。
貯槽5から抜き出された蒸発ガスは貯槽5の内圧相当の圧力であるが、加圧ライン11aを介することで加圧ライン11aに設けられた加圧装置17(圧縮機など)によって加圧され、吸着容器7に導入される。
【0036】
蒸発ガスを昇圧することで吸着容器7の内圧が上昇し、吸着材は蒸発ガスをさらに吸着可能となり、吸着が再び進行する。吸着量が所定の値に達したら、第1開閉弁19及び第2開閉弁21を共に閉として蒸発ガスの導入を停止し、吸着工程を終了する。
【0037】
<脱着工程>
吸着工程終了後、任意のタイミング(工場の需給バランス等による)で吸着容器7内の温度を上昇させて吸着材を加熱する。加熱により吸着材に吸着されていた蒸発ガスが脱着するので、脱着を進行させて吸着容器7の内圧を上昇させ、脱着ガスを昇圧する。
脱着ガスの昇圧は、必要に応じて任意の圧力に調整可能であるが、本例では低温液体・ガス送出ライン13における気化器27の下流側の気化ガスに導入するので、気化ガスの圧力(ガス幹線の要求圧力)以上の圧力まで昇圧するとよい。
【0038】
脱着ガスの圧力が所定の圧力まで上昇したら、第1脱着ガス供給ライン15の第3開閉弁29を開放して、低温液体・ガス送出ライン13における気化器27の下流側を流れる気化ガスに脱着ガスを導入する。脱着ガスは気化ガスの圧力に応じた圧力に昇圧されているので、圧縮機等を介することなく気化ガスに導入することができる。
【0039】
脱着ガスが一定量払い出されると、やがて吸着容器7の内圧が低下し、脱着ガスの圧力が低下する。脱着ガスが気化ガスより低圧になると、気化ガスに脱着ガスが導入されなくなるので、第3開閉弁29を閉止して脱着ガスの払い出しを停止し、脱着工程を終了する。
蒸発ガスの処理を継続する場合には、脱着工程終了後の任意のタイミング(工場の需給バランス等による)で前述した吸着工程を実施する。
【0040】
上述したように本実施の形態においては、蒸発ガスを昇圧して吸着容器7に導入することにより、一度の吸着工程で吸着できる蒸発ガスの量を従来よりも増量できる。これにより、吸着工程と脱着工程の1サイクルで処理できる蒸発ガスの量が従来よりも多くなり、処理効率が向上する。
【0041】
なお、本発明においてバイパスライン11bは必須ではないが、バイパスライン11bを設けることで蒸発ガスの処理効率がより向上するので好ましい。この点について以下に説明する。
前述したように、蒸発ガスを加圧することで一度の吸着工程で吸着できる蒸発ガスの量を増量できるが、加圧された蒸発ガスは加圧前よりも温度が上昇するので、吸着工程の始めから加圧した蒸発ガスを吸着させると、吸着材の冷却効果が低減する。また、そもそもガスを加圧する工程は加圧装置の消費動力が非常に大きい。
そこで、本実施の形態のように、非加圧の状態で吸着が進行する間はバイパスライン11bを介して非加圧の蒸発ガスを吸着させ、吸着効率が低下したところで加圧した蒸発ガスを吸着させるようにすることで、蒸発ガスの加圧を最小限にできる。これにより、吸着材の冷却効果を最大限活用できて、加圧装置17の消費動力も低減でき、効率的である。
【0042】
また、
図1の例は、吸着容器7から払い出した脱着ガスを低温液体・ガス送出ライン13に導入して処理する例であるが、脱着ガスの処理方法はこの限りではなく、別の系に脱着ガスを送出するようにしてもよい。例えば、本発明では高圧の脱着ガスを得ることができるので、高圧ガスが要求されるガスエンジンなどで脱着ガスを利用することもできる。
【0043】
[実施の形態2]
本実施の形態では、吸着工程における吸着材の冷却、及び、脱着工程における吸着材の加熱をより効率的にできるようにした例を説明する。
本実施の形態の蒸発ガス処理システム31は、
図2に示すように、実施の形態1の蒸発ガス処理システム1の冷却機構9(
図1参照)と態様が異なる冷却機構33が設けられている。
また、一端が低温液体・ガス送出ライン13における気化器27の下流側、他端が吸着容器7に接続されたガス供給ライン35が設けられている。
さらに、低温液体・ガス送出ライン13には、第1脱着ガス供給ライン15によって脱着ガスを戻す位置よりも上流側に圧調弁37が設けられている。
図2において
図1と同一部分には同一の符号を付して説明を省略し、実施の形態1と異なる部分について以下詳細に説明する。
【0044】
<冷却機構>
冷却機構33は、吸着容器7内を冷却するための機構であり、低温液体・ガス送出ライン13における気化器27の上流側に設けられた熱交換器39と、吸着容器7に導入された蒸発ガスを吸着容器7と熱交換器39との間で循環させる循環ライン41とを備えて構成されている。
【0045】
≪熱交換器≫
熱交換器39は、低温液体3の冷熱を利用して熱交換するものである。熱交換器39には循環ライン41が接続されており、低温液体3の冷熱によって循環ライン41を循環する蒸発ガスを冷却する。
【0046】
≪循環ライン≫
循環ライン41は、蒸発ガス抜き出しライン11の加圧ライン11a又はバイパスライン11bから導入される蒸発ガスを、吸着容器7と熱交換器39との間で循環させるラインであり、循環ブロワ43と、第4開閉弁45と、第5開閉弁47が設けられている。
貯槽5から抜き出された蒸発ガスは、加圧ライン11a又はバイパスライン11bを介して循環ライン41の循環ブロワ43の上流に導入され、循環ブロワ43によって熱交換器39へ供給される。熱交換器39に供給された蒸発ガスは低温液体・ガス送出ライン13を流れる低温液体3の冷熱によって冷却されてから吸着容器7に導入される。
【0047】
吸着容器7に導入された蒸発ガスは、吸着容器7に収容された吸着材に吸着される。蒸発ガスは吸着容器7に導入される前に熱交換器39によって冷却されているので、蒸発ガスの冷熱によって吸着材が冷却され、蒸発ガスの吸着が促進される。
【0048】
実施の形態1では説明を省略したが、吸着材が蒸発ガスを吸着する際には吸着熱が発生する。吸着熱とは、空間中を飛び回っていた気体の分子が吸着材表面に固定化される際に、気体の持っていた運動エネルギーが熱となって発現されるものである。吸着が進むと、この吸着熱によって吸着容器7内の温度が上昇し、吸着効率が低下する場合がある。
【0049】
この点、本実施の形態では、吸着材に吸着されなかった蒸発ガスは再度循環ライン41に払い出され、加圧ライン11a又はバイパスライン11bから導入される蒸発ガスと共に熱交換器39で再冷却される。熱交換器39で再冷却された蒸発ガスが吸着容器7に導入されると、再冷却された蒸発ガスの冷熱により吸着材が冷却されるので吸着が促進される。
【0050】
このように本実施の形態の冷却機構33においては、循環ライン41を循環する蒸発ガスの冷熱によって吸着容器7内を冷却し続けることができる。
また、本例では吸着容器7に導入する蒸発ガスを冷媒として用いているので、吸着材との直接接触により熱輸送が行われて温度変化の応答性が良い。したがって、吸着容器7の内外に設置された配管に冷媒を通流させる冷却方法と比べて吸着工程の処理時間を短縮できて効率的である。
【0051】
なお、実施の形態1のように、吸着容器7に直接蒸発ガスを導入してから循環ライン41に循環させるようにしても良いが、本実施の形態のように蒸発ガスを循環ライン41に導入し、循環ライン41を介して吸着容器7に導入するようにすると冷却効率がよくなって好ましい。例えば、加圧ライン11aを介して導入される蒸発ガスは加圧時に温度が上昇しているので、直接吸着容器7に導入すると吸着容器7内の温度が上昇する。この点、循環ライン41を介して吸着容器7に導入するようにすれば、加圧によって温度が上昇した蒸発ガスも冷却してから吸着容器7に導入できるので冷却効率がよい。
【0052】
<ガス供給ライン>
ガス供給ライン35は、吸着材に吸着された蒸発ガスを脱着するための熱源として、低温液体・ガス送出ライン13における気化器27の下流側のガス(気化ガス)を吸着容器7に供給するラインである。ガス供給ライン35に設けられた第6開閉弁49を開放すると、気化器27の下流側の気化ガスが吸着容器7に供給される。
【0053】
気化器27の下流側の気化ガスは温度が高くなっているので、ガス供給ライン35から気化ガスが吸着容器7に導入されると吸着容器7内の温度が上昇し、吸着材に吸着された蒸発ガスが脱着する。脱着が進行すると、吸着容器7内の脱着ガスの圧力は、気化ガスと同程度の圧力まで上昇する。
本例では熱源である気化ガスを吸着容器7内に直接導入しているので、気化ガスが吸着材と直接接触して熱輸送が行われ、温度変化の応答性が良い。したがって、吸着容器7の外側から加熱する加熱方法と比べて脱着工程の処理時間を短縮できて効率的である。
【0054】
<圧調弁>
圧調弁37は、低温液体・ガス送出ライン13を流れるガス(気化ガス)の圧力を調整するものである。
上述したように、吸着容器7に気化ガスを導入して吸着材を加熱した場合、気化ガスにと同程度まで脱着ガスを昇圧することができるが、第1脱着ガス供給ライン15を介して気化ガスに導入する際に吸着容器7や配管によって圧力損失が生じて、脱着ガスの圧力が気化ガスよりも低圧になる場合がある。脱着ガスが気化ガスよりも低圧であると脱着ガスを低温液体・ガス送出ライン13に導入しにくくなるので、本実施の形態では圧調弁37を用いて低温液体・ガス送出ライン13の気化ガスを減圧できるようにしている。
【0055】
また、上記圧調弁37に代えて、脱着ガスの圧力を昇圧するための昇圧装置(図示なし)を第1脱着ガス供給ライン15に設けるようにしてもよい。
気化ガスを減圧する、又は脱着ガスを昇圧することにより、低温液体・ガス送出ライン13を流れる気化ガスに脱着ガスを導入しやすくなる。
【0056】
上記のように構成された本実施の形態の蒸発ガス処理システム31の動作について、以下具体的に説明する。なお、下記の説明における、温度及び圧力は一例を示すものであり、実際の運用時にはこの限りではない。
【0057】
<吸着工程>
貯槽5内のLNG等の低温液体3(例えば-163℃)は、送出ポンプ23によって例えば1MPa程度の圧力で低温液体・ガス送出ライン13に送出されたのち、昇圧ポンプ25で4MPa~7MPa程度に昇圧されて熱交換器39に導入されている。
ここで、第1開閉弁19を閉、第2開閉弁21を開として貯槽5内の蒸発ガス(-120℃~-150℃)を蒸発ガス抜き出しライン11から抜き出し、バイパスライン21を介して循環ライン41に導入する。循環ライン41に導入された蒸発ガスは、循環ブロワ43によって熱交換器39に送出され、低温液体3と熱交換して、例えば-150℃に冷却される。
蒸発ガスと熱交換した低温液体3は、気化器27によって気化されてガスとなり、ガス幹線に送出される。
【0058】
熱交換器39で冷却された蒸発ガスは、吸着容器7に導入され(この時、第4開閉弁45を開とする)、吸着容器7に収容された吸着材と直接接触することで吸着材を冷却し、吸着材に吸着される。冷却によって吸着材の吸着能力は向上するが、一定量吸着が進むと吸着熱によって吸着容器7内の温度が上昇し、冷却効率が低下する。
吸着材が吸着しきれなかった蒸発ガスは、第5開閉弁47を開放することで、再度循環ライン41に送出され、バイパスライン11bから導入される蒸発ガスと合流して再び熱交換器39で冷却される。冷却された蒸発ガスは再度吸着容器7に導入され、吸着材を冷却して吸着を促進する。
【0059】
上記のように、発生した吸着熱を熱交換器39で除去しながら吸着材を冷却し続けることにより、吸着容器7内の温度を低温に保持する。吸着量が当該温度下における吸着限度に近づくと蒸発ガスの吸着効率が低下するので、次に第1開閉弁19を開、第2開閉弁21を閉とし、加圧ライン11aを介して蒸発ガスを循環ライン41に導入する。
貯槽5から抜き出された蒸発ガスは貯槽5の内圧相当の圧力であるので、加圧ライン11aに設けられた圧縮機等の加圧装置17によってこれを加圧し、加圧した蒸発ガスを循環ライン41に導入する。
【0060】
加圧ライン11aを介して導入された蒸発ガスは、前述したように熱交換器39で冷却されて吸着容器7に導入される。蒸発ガスを昇圧したことにより、吸着材は蒸発ガスをさらに吸着可能となるので、当該環境下における吸着限度まで吸着が進行する。吸着量が所定の値に達したら、第1開閉弁19及び第2開閉弁21を閉にして蒸発ガスの導入を停止する。なお、吸着材による吸着量は、吸着容器7内の圧力及び温度の初期状態からの変化量、又は、吸着容器7の導入側及び払出側に設けた積算流量計値の差から計算することができる。
蒸発ガスの導入を停止した後は、循環ブロワ43をすぐに停止してもよいし、しばらく循環させることで吸着容器7内の温度を更に低下させてから停止してもよい。
循環ブロワ43を停止した後、第4開閉弁45、第5開閉弁47を閉止して吸着工程を終了する。
【0061】
<脱着工程>
吸着工程終了後、任意のタイミング(工場の需給バランス等による)で第6開閉弁49を開放し、ガス供給ライン35より、気化ガス(およそ0~5℃程度、4MPa~7MPa)を吸着容器7に導入する。温度が高い気化ガスを導入することで、蒸発ガスを吸着した吸着材と気化ガスが直接接触して吸着材が加熱される。加熱によって、吸着材に吸着されていた蒸発ガスが脱着し、脱着の進行に伴って吸着容器7内の脱着ガスが昇圧される。脱着ガスの昇圧は、必要に応じて任意の値に調整可能であるが、気化ガスと同程度(4MPa~7MPa程度)まで昇圧することができる。
【0062】
吸着容器7内の脱着ガスの圧力が所定の圧力(例えばガス幹線の要求圧力)まで上昇したら、第1脱着ガス供給ライン15の第3開閉弁29を開放して、脱着ガスを低温液体・ガス送出ライン13における気化器27の下流側へ導入する。脱着ガスは吸着容器7内で昇圧されているが、吸着容器や配管の圧力損失により低温液体・ガス送出ライン13を通流する気化ガスの圧力(4MPa~7MPa)より低圧になる場合がある。この場合、低温液体・ガス送出ライン13に設けられた圧調弁37によって気化ガスを減圧し、減圧した気化ガスに脱着ガスを導入するようにする。
【0063】
もっとも、ガス幹線には所定の要求圧力があるので、それを下回るような減圧を行うことは難しい。そこで、上記圧力損失を考慮して、ガス幹線の要求圧力より高めに低温液体3を昇圧ポンプ25で昇圧し、圧調弁37で気化ガスを減圧してもガス幹線の要求圧力を満たせるようにするとよい。そのような一例を下記に示す。
例えば、ガス幹線の要求圧力が5.0MPaの場合、昇圧ポンプ25で低温液体3を5.1MPaまで昇圧する。
5.1MPaの低温液体3を気化させると5.1MPaの気化ガスとなるので、その一部を吸着容器7に導入する。5.1MPaの気化ガスによって吸着容器7内の脱着ガスは5.1MPaまで昇圧されるが、その後の圧力損失によって脱着ガスの圧力は5.0MPaまで低下する。そこで、低温液体・ガス送出ライン13の気化ガスを圧調弁37で5.0MPaに減圧し、減圧した気化ガスに5.0MPaの脱着ガスを導入する。これにより、要求圧力を満たすガスをガス幹線に送ることができる。
【0064】
脱着ガスが一定量払い出されると、やがて吸着容器7の内圧が低下し、脱着ガスの圧力が低下する。脱着ガスが気化ガスより低圧になると、気化ガスに脱着ガスが導入されなくなるので、第6開閉弁49を閉止して気化ガスの導入を停止する。その後ライン内あるいは吸着容器7内の圧が減圧したら、第3開閉弁29を閉止して脱着ガスの払い出しを停止し、脱着工程を終了する。脱着ガスの脱着量は、吸着容器7内の圧力及び温度の脱着操作開始時からの変化量、又は、吸着容器7の気化ガス導入側(ガス供給ライン35)及び脱着ガス払出側(第1脱着ガス供給ライン15)に設けた積算流量計値の差から計算することができる。
実施の形態1と同様に、蒸発ガスの処理を継続して行う場合は、脱着工程終了後の任意のタイミング(工場の需給バランス等による)で前述した吸着工程を実施する。
【0065】
上述したように本実施の形態においては、実施の形態1と同様に、一度の吸着工程で吸着できる蒸発ガスの量を従来よりも増量できる。これにより、吸着工程と脱着工程の1サイクルで処理できる蒸発ガスの量が多くなり、処理効率が向上する。
また、蒸発ガス自体が吸着材を冷却するための冷媒となるので、直接接触によって短時間で吸着材を冷却でき、吸着工程に要する時間を短縮できる。さらに、蒸発ガスは循環ライン41を循環しながら常に冷却されているので、吸着熱によって吸着容器7内の温度が上がるのを抑制できて冷却効率がよい。
【0066】
また、ガス幹線に送出する気化ガスの一部を吸着容器7に導入して吸着材を加熱することで、直接接触によって吸着材を加熱でき、脱着工程に要する時間を短縮できる。また、吸着材を加熱する熱源として用いた気化ガスは、脱着ガスとともに低温液体・ガス送出ライン13に戻されてガス幹線に送出されるので資源を有効に活用できる。
【0067】
[実施の形態3]
実施の形態2では、吸着材から脱着した脱着ガスを気化ガスに混合させて処理する例を説明したが、本実施の形態では、貯槽5から払い出された低温液体3に気液混合して処理する例を説明する。
【0068】
本実施の形態の蒸発ガス処理システム51は、
図3に示すように、実施の形態2の蒸発ガス処理システム31の第1脱着ガス供給ライン15(
図2参照)に代えて、第2脱着ガス供給ライン53を設けている。
また、低温液体・ガス送出ライン13には、気化器27の上流側(具体的には送出ポンプ23と昇圧ポンプ25の間)に気液混合器55が設けられており、第2脱着ガス供給ライン53が接続されている。
図3において
図2と同一部分には同一の符号を付して説明を省略し、実施の形態2と異なる部分について、以下詳細に説明する。
【0069】
<第2脱着ガス供給ライン>
第2脱着ガス供給ライン53は、吸着材から脱着した脱着ガスを低温液体・ガス送出ライン13に設けられた気液混合器55に供給するものであり、一端が吸着容器7、他端が気液混合器に接続されている。第2脱着ガス供給ライン53に設けられた第7開閉弁57を開放することで、吸着容器7内の脱着ガスを気液混合器55に導入することができる。
【0070】
<気液混合器>
気液混合器55は、第2脱着ガス供給ライン53から供給される脱着ガスを貯槽5から払い出された低温液体3に混合するものである。低温液体3に混合された脱着ガスは再液化して昇圧ポンプ25に導入され、最終的にガス幹線に送出される。
【0071】
上記のように構成された本実施の形態の蒸発ガス処理システム51の動作について、以下具体的に説明する。なお、吸着工程については実施の形態2と同様であるので、説明を省略し、脱着工程についてのみ説明する。
【0072】
<脱着工程>
吸着工程終了後、任意のタイミング(工場の需給バランス等による)で第6開閉弁49を開放し、ガス供給ライン35より、気化ガス(およそ0~5℃程度、4MPa~7MPa)を吸着容器7に導入する。前述したように、温度が高い気化ガスを導入することで吸着材から蒸発ガスが脱着し、脱着の進行に伴って吸着容器7内の脱着ガスが昇圧される。
【0073】
吸着容器7内の脱着ガスの圧力が所定の圧力まで上昇したら、第2脱着ガス供給ライン53の第7開閉弁57を開放して、脱着ガスを低温液体・ガス送出ライン13に設けられた気液混合器55に導入する。脱着ガスは、気液混合器55を通流する低温液体3の圧力(1MPa)より高い圧力まで加圧されているので、圧縮機等を必要とすることなく低温液体3に気液混合して再液化することができる。
【0074】
脱着ガスが一定量払い出されると、やがて吸着容器7の内圧が低下し、脱着ガスの圧力が低下する。脱着ガスが低温液体3より低圧になると、低温液体3に脱着ガスを気液混合できなくなるので、脱着ガスの量(脱着量)が所定の値に達したら、第6開閉弁49を閉止して気化ガスの導入を停止する。その後ライン内あるいは吸着容器7内の圧が減圧したら、第7開閉弁57を閉止して脱着ガスの払い出しを停止し、脱着工程を終了する。脱着量は、吸着容器7内の圧力及び温度の脱着操作開始時からの変化量、又は、吸着容器7の気化ガス導入側(ガス供給ライン35)及び脱着ガス払出側(第2脱着ガス供給ライン53)に設けた積算流量計値の差から計算することができる。
実施の形態1、2と同様に、蒸発ガスの処理を継続する場合は、脱着工程終了後の任意のタイミング(工場の需給バランス等による)で吸着工程を実施する。
【0075】
本実施の形態は、脱着ガスの圧力が低温液体3(例えば1MPa)より低圧になるまで脱着ガスを低温液体3に導入して処理することができるので、実施の形態1、2のように脱着ガスを気化ガス(例えば7MPa)に導入する場合と比べてより多くの脱着ガスを吸着容器7から払い出すことができ、蒸発ガスの処理効率が向上する。
【0076】
[実施の形態4]
上述したように実施の形態3は、一度の脱着工程で払い出せる脱着ガスの量が実施の形態1、2よりも多いので蒸発ガスの処理効率がよいものである。しかし、昇圧ポンプ25に導入される低温液体3の流量が増加するので、昇圧ポンプ25の消費電力は大きくなる。
また、実施の形態3は、低温液体・ガス送出ライン13を流れる低温液体3の流量が脱着ガスに対して相対的に少ない場合、低温液体3が沸騰しないように混合する脱着ガスの量を制限する必要がある。この点、実施の形態1、2は気化ガスに脱着ガスを混合するので、低温液体3の流量に起因する問題は生じない。
そこで、本実施の形態では、脱着ガスの払い出し先を気化ガスから低温液体3に切替可能とした例を説明する。
【0077】
本実施の形態に係る蒸発ガス処理システム59は、
図4に示すように、第1脱着ガス供給ライン15から分岐させて第2脱着ガス供給ライン53を設けており、低温液体・ガス送出ライン13には、前述した圧調弁37及び気液混合器55が設けられている。
図4における各構成は実施の形態2、3で説明したものと同様であるので、
図2、
図3と同一部分には同一の符号を付し、各構成の説明を省略する。
【0078】
上記のように構成された本実施の形態の蒸発ガス処理システム59の動作について、以下具体的に説明する。なお、吸着工程については実施の形態2、3と同様であるので、説明を省略し、脱着工程についてのみ説明する。
【0079】
<脱着工程>
吸着工程終了後、任意のタイミング(工場の需給バランス等による)で第6開閉弁49を開放し、ガス供給ライン35より、気化ガス(およそ0~5℃程度、4MPa~7MPa)を吸着容器7に導入する。気化ガスを導入し、脱着を進行させることで吸着容器7内の脱着ガスは気化ガスと同程度まで昇圧される。
【0080】
吸着容器7内の脱着ガスの圧力が所定の圧力(例えばガス幹線の要求圧力)まで上昇したら、第1脱着ガス供給ライン15の第3開閉弁29を開放して、脱着ガスを低温液体・ガス送出ライン13における気化器27の下流側へ導入する。脱着ガスは吸着容器7や配管の圧力損失によって気化ガスの圧力より低圧になる場合があるので、低温液体・ガス送出ライン13に設けられた圧調弁37によって気化ガスをガス幹線の要求圧力の範囲で減圧し、減圧した気化ガスに脱着ガスを導入する。
【0081】
脱着ガスが一定量払い出されると、やがて吸着容器7の内圧が低下し、脱着ガスの圧力が低下する。脱着ガスが気化ガスより低圧になると気化ガスに脱着ガスが導入されなくなるので、脱着量が所定の値(例えば脱着ガスの圧力がガス幹線の要求圧力に肉薄したと判断される値)に達したら、第3開閉弁29を閉、第7開閉弁57を開にして、脱着ガスを気液混合器55へ導入する。この時、脱着ガスの圧力は気化ガスの圧力より低圧であるが、気液混合器55を通流する低温液体3の圧力よりは高圧であるので、低温液体3に気液混合することができる。
【0082】
脱着ガスの圧力がさらに低下して低温液体3よりも低圧になると、低温液体3に脱着ガスを気液混合できなくなるので、脱着量が所定の値(例えば脱着ガスの圧力が低温液体3の圧力以下になると判断される値)に達したら、第6開閉弁49を閉止して気化ガスの導入を停止する。その後ライン内あるいは吸着容器7内の圧が減圧したら、第7開閉弁57を閉止して脱着ガスの払い出しを停止し、脱着工程を終了する。
実施の形態1~3と同様に、蒸発ガスの処理を継続して行う場合は、脱着工程終了後の任意のタイミング(工場の需給バランス等による)で前述した吸着工程を実施する。
【0083】
本実施の形態においては、脱着ガスの払い出し先を気化ガスから低温液体3に切替可能としたことにより、脱着ガスの圧力が低下して気化ガスの圧力より低圧になったあとも引き続き低温液体3に気液混合させて処理することができるので、実施の形態3と同様に効率よく蒸発ガスを処理できる。
また、脱着ガスが高圧のうちは気化ガスに脱着ガスを導入するので、低温液体3に導入する脱着ガスの量が実施の形態3よりも少なくなり、低温液体3の沸騰が生じにくく、昇圧ポンプ25の消費電力も低減できる。
【0084】
[実施の形態5]
実施の形態1~4で説明した吸着工程及び脱着工程はバッチ式であり、吸着工程中は脱着処理(吸着材の加熱及び脱着ガスの払い出し)を停止し、脱着工程中は吸着処理(吸着材の冷却及び蒸発ガスの導入)を停止するものである。また、
図1~
図4に示した蒸発ガス処理システム1、31、51、59は吸着容器を1つしか有していないため、脱着工程中は貯槽5から蒸発ガスを抜き出すことができない。
そこで、本実施の形態では、吸着容器を2つ備えることで貯槽5で常時発生する蒸発ガスを連続的に処理可能とする例を説明する。その一例として、
図4に示した実施の形態4の蒸発ガス処理システム59における吸着容器7が2個の吸着容器7a、7bから構成されるものを
図5に示す。
図5において
図4と同一部分には同一の符号を付して説明を省略し、実施の形態4と異なる部分について、以下詳細に説明する。
【0085】
本実施の形態に係る蒸発ガス処理システム61は、
図5に示すように、第1吸着容器7aと第2吸着容器7bの2個からなる吸着容器7を備えている。第1吸着容器7a及び第2吸着容器7bは実施の形態1~4で説明した吸着容器7と同様のものであり、内部にそれぞれ吸着材が収容されている。
【0086】
また、
図5に示すように蒸発ガスを循環させる循環ライン33が分岐して、第1吸着容器7aと第2吸着容器7bにそれぞれ接続されている。第1吸着容器7a側に接続している循環ライン41には第4開閉弁45a、第5開閉弁47aが設けられており、第2吸着容器7b側に接続している循環ライン41には第4開閉弁45b、第5開閉弁47bが設けられている。第4開閉弁45a、45b及び第5開閉弁47a、47bは実施の形態2で説明した第4開閉弁45及び第5開閉弁47と同様のものである。
【0087】
第4開閉弁45a及び第5開閉弁47aを開放すると共に第4開閉弁45b及び第5開閉弁47bを閉止することで、循環ライン41を第1吸着容器7aに接続し、加圧ライン11a又はバイパスライン11bから導入される蒸発ガスを、第1吸着容器7aと熱交換器39との間で循環させることができる。
また、第4開閉弁45b及び第4開閉弁47bを開放すると共に第4開閉弁45a及び第5開閉弁47aを閉止することで、循環ライン41を第2吸着容器7bに接続し、加圧ライン11a又はバイパスライン11bから導入される蒸発ガスを、第2吸着容器7bと熱交換器39との間で循環させることができる。
上記のように、本実施の形態においては、循環ライン41を第1吸着容器7aと第2吸着容器7bに選択的に接続可能となっている。
【0088】
同様に、気化ガスを供給するガス供給ライン35及び脱着ガスを払い出す第1脱着ガス供給ライン15も分岐して、第1吸着容器7aと第2吸着容器7bにそれぞれ接続されている。第1吸着容器7a側に接続しているガス供給ライン35、第1脱着ガス供給ライン15には第8開閉弁63a、第9開閉弁65aが設けられており、第2吸着容器7b側に接続しているガス供給ライン35、第1脱着ガス供給ライン15には第8開閉弁63b、第9開閉弁65bが設けられている。
【0089】
第8開閉弁63a及び第9開閉弁65aを開放すると共に第8開閉弁63b及び第9開閉弁65bを閉止することで、ガス供給ライン35及び第1脱着ガス供給ライン15を第1吸着容器7aに接続し、第1吸着容器7aで脱着処理を行うことができる。
また、第8開閉弁63b及び第9開閉弁65bを開放すると共に第8開閉弁63a及び第9開閉弁65aを閉止することで、ガス供給ライン35及び第1脱着ガス供給ライン15を第2吸着容器7bに接続し、第2吸着容器7bで脱着処理を行うことができる。
上記のように、本実施の形態においては、ガス供給ライン35及び第1脱着ガス供給ライン15を第1吸着容器7aと第2吸着容器7bに選択的に接続可能となっている。
【0090】
上記のように構成された本実施の形態の蒸発ガス処理システム61においては、第1吸着容器7aと第2吸着容器7bによって蒸発ガスの吸着と脱着を交互に行うことができるので、貯槽で常時発生する蒸発ガスを連続的に処理することができる。
なお、上記は吸着容器が2個設けられた例であったが、吸着容器の数は3個以上でもよい。吸着容器を3個以上設けた場合も
図5と同様に、循環ラインを少なくとも一つの吸着容器に選択的に接続可能に構成することで、蒸発ガスを複数の吸着容器に順次導入することができ、貯槽から連続的に蒸発ガスを抜き出すことができる。
【0091】
なお、吸着工程、脱着工程の実施に伴う各開閉弁の開閉操作を自動制御によって行ってもよい。各開閉弁を自動制御する場合には、吸着容器の温度、圧力及び各ラインにおける低温液体及びガスの温度、圧力及び流量を検知して制御演算装置に入力し、該入力値に基づいて、吸着量や脱着量等を算出し、算出した吸着量や脱着量及び各入力値に基づいて各開閉弁を自動制御するとよい。
【0092】
また、第3開閉弁29は、例えばガス幹線の要求圧力以上の圧力で開く逆止弁としてもよい。その場合、設定圧力を境に第3開閉弁29が自動開閉するため、開閉制御を不要とすることができる。
【実施例0093】
本発明の蒸発ガス処理システムによる作用効果について、
図6に示す具体例に基づいて以下説明する。
図6(a)、
図6(b)には、どちらも同じII型の吸着特性(
図7参照)を持つある吸着材の低温、中温、高温時における吸着等温線が示されている。そして、蒸発ガス処理の1サイクル(吸着工程と脱着工程の1セット)における吸着量の変化を図中星印で示している。
図6(a)は、従来例として吸着工程で蒸発ガスの加圧を行わない場合について示したもの、
図6(b)は、本発明例として吸着工程で蒸発ガスの加圧を行う場合について示したものである。
【0094】
まず、吸着工程で蒸発ガスの加圧を行わない場合の吸着量の変化について
図6(a)に基づいて説明する。
蒸発ガスが低圧のとき、図中の星印Aに示すように、冷却前の吸着材が吸着できる量は少ない。ここで吸着材を冷却すると、吸着材の吸着特性が中温の吸着等温線から低温の吸着等温線に変化し、星印Aから星印Bに向かう矢印に示すように吸着量が増大する。
星印Bに示す吸着量が本例に用いた吸着材における低温、低圧時の吸着限度であるので、吸着量が吸着限度に達したところで吸着工程を終了する。
【0095】
その後、吸着材を加熱すると、吸着材の吸着特性が低温の吸着等温線から中温の吸着等温線に変化し、脱着ガスが発生して、星印Bから星印Cに向かう矢印に示すように吸着容器の内圧が上昇する。吸着容器の内圧、即ち脱着ガスの圧力が所定の圧力(星印C)に達したら、吸着容器から脱着ガスを排気する。脱着ガスの排気が完了すると吸着量及び吸着容器の内圧が星印Aの状態に戻る。
【0096】
次に、吸着工程で蒸発ガスの加圧を行う場合の吸着量の変化について
図6(b)に基づいて説明する。
蒸発ガスが低圧の状態で吸着材を冷却すると、比較例と同様に低温、低圧時の吸着限度まで吸着量が増大する(星印B)。吸着材を冷却後に蒸発ガスを加圧すると、星印Bから星印B´に向かう矢印に示すように吸着量がさらに増大する。星印B´に示す吸着量が低温、蒸発ガス加圧時の吸着限度であるので、吸着量が吸着限度に達したところで吸着工程を終了する。
【0097】
その後、比較例と同様に吸着材を加熱して蒸発ガスを脱着させ、脱着ガスを昇圧し、所定の圧力(星印C)に達したところで吸着容器から脱着ガスを排気する。脱着ガスの排気が完了すると吸着量及び吸着容器の内圧が星印Aの状態に戻る。
【0098】
上述したように、蒸発ガスを加圧しない場合は吸着工程において処理できる蒸発ガスの量は
図6(a)の星印Bに示す量が限度であるが、蒸発ガスを加圧することで
図6(b)の星印B´に示す量まで吸着量を引き上げることができる。
一度の吸着工程における吸着量が増えると、続く脱着工程における脱着処理量も増えるので、1サイクルで処理できる蒸発ガスの量が増え、効率的である。
上記のように本実施例においては、本発明例が蒸発ガスを加圧しない比較例に比べて、効率的に蒸発ガスを処理できることが示された。
【0099】
なお上記では、吸着材の温度とガスの圧力に応じて吸着材による吸着量が増減することを説明したが、吸着材は種類によって吸着性能が異なるので、用いる吸着材の吸着性能によっても吸着量は異なる。即ち、温度と圧力が同じ条件であっても吸着性能の高い吸着材を用いた方が吸着工程時の吸着量が多くなる。
【0100】
吸着性能が高い吸着材を用いれば、単位吸着材量あたりの吸着量が多くなるので、必要とする吸着材の量が少なくなる。このメリットはシステムコストに大きく影響し、例えば蒸発ガス発生量が10t/hを超えるような大規模処理システムでは、吸着性能が低い吸着材Aと吸着性能が高い吸着材Bをそれぞれ用いた場合のコスト差は数億円にものぼる場合がある。したがって吸着性能が低い吸着材Aを使用することは採算の観点では好ましくない。
【0101】
また、吸着材の量が増えると吸着工程の処理時間にも悪影響がある。吸着材量が多いことはすなわち吸着容器の熱容量が大きくなることを意味するので、冷却にかかる時間が長くなる。
例えば、上述した吸着材Aと吸着材Bに関し、同量の蒸発ガスを処理するのに必要な量の吸着材A及び吸着材Bを常温から-120℃へ冷却する場合、冷却時間に7分程の差が生じる。吸着材による吸着量は低温ほど大きくなるため、冷却の進行が遅いと吸着効率も低下し、時間当たりの処理量がさらに低下する。したがって、吸着材Aを用いて蒸発ガスの全量を所定の時間で吸着するためには吸着材Aの量をさらに増やさざるを得なくなるが、吸着材量を増やすと、熱容量が増えて冷却効率及び吸着効率がさらに低下するという悪循環に陥り、必要吸着材量は膨大になる。
【0102】
また、吸着性能の低い吸着材Aを用いた場合は、脱着工程において吸着材を加熱するときも上記と同様に処理時間に遅延が生じる。
このような温調時間の遅延は、特に実施の形態5で説明したような連続処理システムで大きなデメリットとなる場合がある。この点、以下説明する。
連続処理は、バッチ操作で吸着容器を複数運用し、吸着工程及び脱着工程を交代で実施することで貯槽から蒸発ガスを常時抜き出せるようにしたものであり、これを成立させるためには、一方の吸着容器にて吸着工程を実施している間に、他方の吸着容器にて先の吸着工程で吸着した蒸発ガスを脱着させておく必要がある。
【0103】
しかし、一方の吸着容器の吸着工程時間内に他方の吸着容器の脱着工程が完了しない場合、連続処理を行うためには吸着容器を増設しなければならずシステムコストの増大につながる。
したがって、例えば大気圧での蒸発ガス発生量が13t/hであるような蒸発ガス処理ケースの場合には、-120℃における吸着量が400cm3/g以上の吸着材を用いるのが好ましい。上記のように適切な吸着材を用いることで、吸着容器を増設することなく連続処理サイクルを成立できるので、システムコストを下げることができる。