(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167060
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】3Dプリンタ
(51)【国際特許分類】
B29C 64/393 20170101AFI20231116BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20231116BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20231116BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231116BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20231116BHJP
【FI】
B29C64/393
B29C64/118
B29C64/321
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077933
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】小林 丈郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 将
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC02
4F213AP06
4F213AQ03
4F213AR08
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL32
4F213WL74
4F213WL85
(57)【要約】
【課題】安定的にフィラメント(樹脂材料)を樹脂吐出部に供給することにより、造形不良を抑制可能な3Dプリンタを提供する。
【解決手段】フィラメント2として供給される樹脂材料を加熱溶融させて積層することにより立体的な造形物3を形成する3Dプリンタ1であって、フィラメント2が巻回された保持部10と、保持部10からフィラメント2を送り出す第1送り部20と、加熱溶融させた樹脂材料を吐出する樹脂吐出部45と、第1送り部20に対して下流側に設けられ、フィラメント2を樹脂吐出部45に供給する第2送り部50と、第1送り部20及び第2送り部50の間に設けられ、フィラメント2の通過位置を検知可能な通過位置検知部35と、通過位置検知部35において検知されたフィラメントの通過位置に基づいて、第1送り部20及び第2送り部50の間におけるフィラメント2の送り量を制御する制御部60と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントとして供給される樹脂材料を加熱溶融させて積層することにより立体的な造形物を形成する3Dプリンタであって、
前記フィラメントが多数回巻回された保持部と、
前記保持部から前記フィラメントを送り出す第1送り部と、
加熱溶融させた前記樹脂材料を吐出することにより、前記造形物を造形する樹脂吐出部と、
前記第1送り部に対して下流側に設けられ、前記フィラメントを前記樹脂吐出部に供給する第2送り部と、
前記第1送り部及び前記第2送り部の間に設けられ、前記フィラメントの通過位置を検知可能な通過位置検知部と、
前記通過位置検知部において検知された前記フィラメントの通過位置に基づいて、前記第1送り部及び前記第2送り部の間における前記フィラメントの送り量を制御する制御部と、
を備えること、を特徴とする3Dプリンタ。
【請求項2】
前記通過位置検知部は、前記フィラメントの送り方向中間位置において、前記フィラメントの送り方向に対して交差する方向における前記フィラメントの通過位置を検知するものであること、を特徴とする請求項1に記載の3Dプリンタ。
【請求項3】
前記通過位置検知部に対して前記フィラメントの送り方向上流側に、前記フィラメントの巻き癖を緩和する巻き癖緩和部を備えること、を特徴とする請求項1又は2に記載の3Dプリンタ。
【請求項4】
前記第1送り部及び前記通過位置検知部の間に設けられ、前記フィラメントの供給方向と交差する方向から前記フィラメントに対して加圧することで前記フィラメントの巻き癖を緩和する巻き癖緩和部を備えること、を特徴とする請求項1又は2に記載の3Dプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタに関する。さらに詳しくは、樹脂材料を加熱溶融させて積層することにより立体的な造形物を形成する3Dプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料を加熱溶融させて積層することで立体的な造形物を形成する溶融積層方式(FDM方式とも称する)の3Dプリンタが知られている。上述した3Dプリンタは、リールに複数回巻回されたフィラメント(樹脂材料)を前記リールから繰り出すと共に、前記フィラメントを溶融させて順次積層することにより立体的な造形物を造形するものとされている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1に記載の3Dプリンタは、リールから供給されるフィラメントをガイドチューブ内に通し、当該フィラメントを樹脂吐出部まで案内している。
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の3Dプリンタは、装置を大型化したい場合、フィラメントの供給経路が長くなり、フィラメントとチューブ内壁との接触抵抗が大きくなる懸念がある。その結果、フィラメントが撚れたり、折損したりして造形不良が発生する問題がある。また、上記接触抵抗に打ち勝つために、大きな搬送力を有する高価なモータが必要となるなどコストが高く付く問題がある。特にフィラメントの供給経路が長くなることに伴い、フィラメントの供給経路に曲部が多く生じるため、上記接触抵抗が、より一層大きくなる懸念がある。また、上述した3Dプリンタでは、リールに巻回されたフィラメントが供給されるので、フィラメントに巻き癖が生じ、上記接触抵抗がより一層大きくなる懸念がある。
【0006】
そこで、本発明は、安定的にフィラメント(樹脂材料)を樹脂吐出部に供給することにより、造形不良を抑制可能な3Dプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明の3Dプリンタは、フィラメントとして供給される樹脂材料を加熱溶融させて積層することにより立体的な造形物を形成する3Dプリンタであって、前記フィラメントが多数回巻回された保持部と、前記保持部から前記フィラメントを送り出す第1送り部と、加熱溶融させた前記樹脂材料を吐出することにより、前記造形物を造形する樹脂吐出部と、前記第1送り部に対して下流側に設けられ、前記フィラメントを前記樹脂吐出部に供給する第2送り部と、前記第1送り部及び前記第2送り部の間に設けられ、前記フィラメントの通過位置を検知可能な通過位置検知部と、前記通過位置検知部において検知された前記フィラメントの通過位置に基づいて、前記第1送り部及び前記第2送り部の間における前記フィラメントの送り量を制御する制御部と、を備えること、を特徴とするものである。
【0008】
上述した3Dプリンタは、通過位置検知部において検知されたフィラメントの通過位置に基づいて、第1送り部及び第2送り部の間におけるフィラメントの送り量が制御される。従って、上述した3Dプリンタは、フィラメントを適正に樹脂吐出部まで案内できるので、ガイドチューブを用いる必要がない。これにより、上述した3Dプリンタは、フィラメントに掛かる接触抵抗を排することができるので、フィラメントの撚れや折損等を抑制できる。また、上述した3Dプリンタは、大型のモータ等の駆動源を設けることなく、フィラメントを適正に樹脂吐出部まで案内できるので、コストの低減が期待できる。また、上述した3Dプリンタは、フィラメントの送り量が適正に制御されるので、フィラメントが過大に弛んだり、過大に引っ張られたりすることを抑制しつつ安定的にフィラメントを供給できる。
【0009】
(2)上述した本発明の3Dプリンタは、前記通過位置検知部が、前記フィラメントの送り方向中間位置において、前記フィラメントの送り方向に対して交差する方向における前記フィラメントの通過位置を検知するものであるとよい。
【0010】
上述した3Dプリンタは、かかる構成とすることにより、フィラメントの通過位置を正確、かつ容易に検知することができる。これにより、上述した3Dプリンタは、コストを掛けずに簡素に構成することができるので、フィラメントの供給安定性向上が期待できる。
【0011】
ここで、本発明の3Dプリンタは、上述したように通過位置検知部における通過位置に基づいてフィラメントの送り量を変動させるものであるため、フィラメントに付与された巻き癖の強さ如何でフィラメントの通過位置が変動するのを抑制できる構成であると、フィラメントの送り量をより一層適正なものとすることができる。
【0012】
(3)かかる知見に基づけば、上述した本発明の3Dプリンタは、前記通過位置検知部に対して前記フィラメントの送り方向上流側に、前記フィラメントの巻き癖を緩和する巻き癖緩和部を備えること、を特徴とするものであるとよい。
【0013】
上述した本発明の3Dプリンタは、かかる構成とすることにより、フィラメントに付いている巻き癖の強さの影響により、フィラメントが通過位置検知部を通過する位置に変動が生じるのを軽減できる。これにより、本発明の3Dプリンタは、フィラメントの送り量をより一層適正なものとすることができる。
【0014】
(4)上述した本発明の3Dプリンタは、前記第1送り部及び前記通過位置検知部の間に設けられ、前記フィラメントの供給方向と交差する方向から前記フィラメントに対して加圧することで前記フィラメントの巻き癖を緩和する巻き癖緩和部を備えるとよい。
【0015】
上述した3Dプリンタは、かかる構成とすることにより、例えば、フィラメントの供給リールやフィラメントの送り経路上で発生したフィラメントの巻き癖を効果的に緩和することができる。これにより、上述した3Dプリンタは、フィラメントをより一層安定的に樹脂吐出部に供給できるので、当該フィラメントの折損等をより一層効果的に抑制できる。
【0016】
(5)上述した本発明の3Dプリンタにおける制御部は、前記第1送り部及び前記第2送り部の間において、前記フィラメントが所定の弛みを形成するように前記第1送り部及び前記第2送り部の間における前記フィラメントの送り量を制御するとよい。
【0017】
上述した3Dプリンタは、かかる構成とすることにより、第1送り部及び第2送り部の間において、フィラメントに適正な弛みを形成できる。そのため、上述した3Dプリンタは、フィラメントに過大な張力が掛かることを抑制できる。これにより、上述した3Dプリンタは、フィラメントをより一層安定的に樹脂吐出部に供給できるので、当該フィラメントの折損等をより一層効果的に抑制できる。
【0018】
(6)上述した本発明の3Dプリンタは、前記巻き癖緩和部及び前記通過位置検知部の間に設けられ、前記通過位置検知部における所定の方向に向けて前記フィラメントを案内する一対のガイドローラを備えるとよい。
【0019】
上述した3Dプリンタは、かかる構成とすることにより、通過位置検知部を通過するフィラメントの位置を安定させることができる。これにより、上述した3Dプリンタは、通過位置検知部での検知精度を向上させることができるので、より一層フィラメントの供給を安定させることができる。ここで、前記一対のガイドローラは、フィラメントを通過させるローラ面が互いに離間するように曲面状に形成されているとよい。これにより、フィラメントに無理な負荷が掛かることを抑制できるので、フィラメントが折損等することを抑制できる。
【0020】
(7)上述した本発明の3Dプリンタにおける制御部は、前記通過位置検知部が、前記フィラメントの所定の通過位置に対して、前記フィラメントの張力が緩和される側に変位したことを検知した場合において、前記第1送り部及び前記第2送り部の間における前記フィラメントの送り量を減じる制御を行うものであり、前記通過位置検知部が、前記フィラメントの所定の通過経路に対して、前記フィラメントの張力が増大する側に変位したことを検知した場合において、前記第1送り部及び前記第2送り部の間における前記フィラメントの送り量を増加させる制御を行うものであるとよい。
【0021】
上述した3Dプリンタは、かかる構成とすることにより、容易な構成でフィラメントの通過位置を検知できるので、3Dプリンタを簡素に構成できる。また、上述した3Dプリンタは、通過位置検知部でのフィラメント通過位置に応じて、適正な送り量でフィラメントを供給することができるので、フィラメントに無理な負荷が掛かることを抑制できる。これにより、上述した3Dプリンタは、より一層フィラメントの供給を安定させることができる。ここで、フィラメントの送り量は、第1送り部及び第2送り部の間においてフィラメントに所定の弛みが形成される送り量とすればよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、安定的にフィラメント(樹脂材料)を樹脂吐出部に供給することにより、造形不良を抑制可能な3Dプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る3Dプリンタの概略全体図である。
【
図2】(a)は、
図1のA-A方向矢視側面図であり、(b)は
図1のB-B方向矢視側面図である。
【
図3】本発明の3Dプリンタを構成する通過位置検知部の説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る3Dプリンタの動作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る3Dプリンタ1について、
図1~
図3を参照しつつ説明する。本実施形態では、3Dプリンタ1が、フィラメント2として供給される樹脂材料を加熱溶融させて積層することにより立体的な造形物3を形成する溶融積層方式(FDM方式とも称する)である場合について説明する。
【0025】
図1に示すように、3Dプリンタ1は、フィラメント2が多数回巻回されたリール10(保持部10とも称する)と、リール10からフィラメント2を送り出す第1モータ20(第1送り部20とも称する)と、を備えている。また、3Dプリンタ1は、巻き癖緩和部25と、フィラメント2を所定方向に案内する一対のガイドローラ30,30と、通過位置検知部35と、ガイド部材40と、樹脂吐出部45と、を備えている。また、3Dプリンタ1は、前記の他、フィラメント2を樹脂吐出部45に供給する第2送り部50と、エクストルーダ55と、テーブル部56と、制御部60等を備えている。
【0026】
本発明のフィラメント2には、加熱により軟化する熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂は、押し出し可能な材質であればよく、適宜の材質のものが選択できる。例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート、ナイロン等を用いることができる。また、熱可塑性樹脂は、適宜、添加剤や着色剤等を混合することができる。また、フィラメント2には、適宜、被覆剤等で被覆されたものを用いることもできる。
【0027】
図2(a)に示すように、リール10には、フィラメント2が多数回巻回されている。リール10は、軸12に支持されており、軸12と一体的に回転することができる。また、リール10は、天井部4から垂下された一対の支持枠11,11に、軸12を介して回転可能に支持されている。リール10の軸12には、第1送り部20としての第1モータ20が接続されている。従って、リール10は、第1モータ20を回転駆動することにより、支持枠11,11に対して回転可能である。また、リール10の回転駆動に伴って、リール10からフィラメント2が送り出される。第1モータ20は、後述する制御部60と接続されており、制御部60によって回転速度が制御される。
【0028】
図1に示すように、巻き癖緩和部25は、第1モータ20、及び後述する通過位置検知部35の間に設けられている。巻き癖緩和部25は、折返部材26と、折返部材26に対向して配された加圧部材27等を備えている。
【0029】
折返部材26は、フィラメント2を巻き癖とは反対側方向(巻き癖を解消する方向)に湾曲させて折り返すものである。折返部材26は、直方体状、錐状、先細り状の形状のもの等、適宜の形状や構造を有するものとすることができるが、本実施形態ではクサビ状の形状を有するものとされている。折返部材26は、鋭角形成された先端側がフィラメント2の供給方向と交差する方向に向けて配されている。フィラメント2は、折返部材26の外周に沿って供給され、折返部材26の先端側で後方側(フィラメント2の巻き癖を解消する方向)に湾曲された後、下方側に案内される。なお、折返部材26の先端側は、フィラメント2が接触してもフィラメント2が損傷を受けないように平坦又は曲面状に形成されている。
【0030】
加圧部材27は、平坦面を有する板材として形成されている。加圧部材27は、フィラメント2を介して折返部材26の先端側と対向するように配されている。また、加圧部材27は、例えば、蝶ネジ等のネジ部材の締め込みにより、折返部材26に対して接近させることが可能である。これにより、加圧部材27は、フィラメント2を折返部材26に押し付けて加圧することができる。すなわち、巻き癖緩和部25は、フィラメント2の巻き癖を解消する方向に向けて、フィラメント2を加圧することができる。これにより、フィラメント2の巻き癖が緩和される。なお、加圧部材27は、手動で折返部材26との間隔を調整するものや、制御部60の制御により自動的に折返部材26との間隔を調整するものなど各種の形態のものが利用できる。巻き癖緩和部25は、必要に応じて設ければよく、巻き癖緩和部25を設けない構成とすることもできる。
【0031】
一対のガイドローラ30,30は、巻き癖緩和部25に対して下流側に配されている。ガイドローラ30,30は、樹脂やゴム等を素材として形成されている。ガイドローラ30,30は、通過位置検知部35における所定の方向に向けてフィラメント2を案内することができる。また、ガイドローラ30,30は、
図2(b)に示すように、フィラメント2を通過させるローラ面31,31が互いに離間するように曲面状に形成されている。これにより、フィラメント2に無理な負荷が掛かることを抑制できるので、フィラメント2が折損等することを抑制できる。
【0032】
このように、ガイドローラ30,30は、通過位置検知部35を通過するフィラメント2の位置を安定させることができる。これにより、ガイドローラ30、30は、後述する通過位置検知部35での検知精度を向上させることができるので、より一層フィラメント2の供給を安定させることができる。
【0033】
通過位置検知部35は、第1モータ20及び第2モータ50の間に配されている。通過位置検知部35は、フィラメント2の送り方向中間位置において、フィラメント2の送り方向に対して交差する方向におけるフィラメント2の通過位置を検知するものとされている。
【0034】
通過位置検知部35は、本実施形態では、例えば、リング形状の通過型センサ(以下、通過型センサ35とも称する)が用いられている。通過型センサ35は、
図1に示すように、内側に開口36を有する矩形状のリングとして形成されている。通過型センサ35は、開口36にフィラメント2が通過している。通過型センサ35は、開口36周りに設けられた誘導コイル(図示せず)に生じる誘導電流の変化により、開口36に対するフィラメント2の通過位置(位置変化)を検知することができる。通過型センサ35によって検知されたフィラメント2の通過位置情報は、後述する制御部60に送られる。なお、通過型センサ35は、誘導電流を利用するものに代えて、位置変化の検知が可能な各種のセンサを利用することができる。通過位置検知部35には、例えば、光学的にフィラメント2の位置変化を検出するものなどが利用できる。通過位置検知部35における検知状態の変化の詳細は、後述する。
【0035】
ガイド部材40は、例えば、筒状に形成されており、内部にフィラメント2が通過している。ガイド部材40は、当該ガイド部材40に対して下流側に配された一対のピンチローラ51,51に向けてフィラメント2を案内するものとされている。
【0036】
ピンチローラ51,51は、樹脂やゴム等を素材として形成されている。ピンチローラ51,51は、フィラメント2を挟持することができる。ピンチローラ51,51には、第2送り部50としての第2モータ(第2モータ50とも称する)が接続されている。ピンチローラ51,51は、第2モータ50の駆動力により回転し、フィラメント2をエクストルーダ55に向けて送り出すことができる。
【0037】
第2モータ50は、第1モータ20に対してフィラメント2の供給方向下流側に配されている。第2モータ50は、後述する制御部60と接続されており、制御部60によって回転速度が制御される。詳細は後述するが、第2モータ50は、第1モータ20との送り速度の差により所定の送り量で、フィラメント2を供給することができる。
【0038】
エクストルーダ55は、フィラメント2を案内すると共に、フィラメント2を加熱溶融するものとされている。エクストルーダ55は、加熱溶融させたフィラメント2を樹脂吐出部45に供給することができる。エクストルーダ55の温度制御は、制御部60によって行われる。
【0039】
樹脂吐出部45は、内部にヒーター(図示せず)を備えており、供給されるフィラメント2を加熱溶融させることができる。樹脂吐出部45は、先端がノズル状に形成されており、加熱溶融させたフィラメント2を先端から吐出させることができる。ここで、樹脂吐出部45の吐出口の開口径(ノズル径とも称する)は、例えば、0.2~1mmであり、開口径に応じて、吐出幅を変更することができる。また、樹脂吐出部45は、適宜の駆動源(図示せず)により、水平方向の移動と、上下方向の移動とが可能である。また、樹脂吐出部45は、後述する制御部60による制御により、フィラメント2を順次積層させて立体的な造形物3を形成することが可能である。
【0040】
テーブル部56は、樹脂吐出部45から吐出されたフィラメント2を支持するものであり、例えば、矩形状に形成されている。また、本実施形態では、テーブル部56が機台(図示せず)上に固定されており、樹脂吐出部45の移動によって、造形が行われるものとされている。テーブル部56は、内部にヒーター(図示せず)を備えており、積層されるフィラメント2を加熱することができる。前記ヒーターは、例えば、シート状に形成されたものや、棒状に形成されたものを複数配置したものなど各種のものを用いることが可能である。テーブル部56の温度は、後述する制御部60により、制御が可能である。テーブル部56は、積層されたフィラメント2が溶融しない程度の温度に制御される。なお、テーブル部56は、樹脂吐出部45に対して相対的に移動可能としてもよく、樹脂吐出部45及びテーブル部56のいずれか一方又は双方が造形に応じて移動するようにしてもよい。
【0041】
制御部60は、マイコン等で形成され、3Dプリンタ1における各種の制御を行うことができる。また、制御部60は、適宜、組み込まれたスライス用プログラムにより、樹脂吐出部45等の制御を行うことができる。なお、制御部60は、単一のものだけではなく、例えば、制御機器毎に複数設けられていてもよい。
【0042】
制御部60は、通過位置検知部35において検知されたフィラメント2の通過位置に基づいて、第1モータ20及び第2送り部50の間におけるフィラメント2の送り量を制御することができる。フィラメント2の送り量に係る制御の詳細については、後述する。
【0043】
制御部60は、予め入力された3Dデータに基づいて、樹脂吐出部45における水平方向及び上下方向の移動や移動速度の制御を行うことができる。また、制御部60は、前記の他、樹脂吐出部45の加熱温度等の制御を行うことができる。また、制御部60は、樹脂吐出部45の移動制御と共に、樹脂吐出部45から吐出するフィラメント2の吐出量を制御することができる。これらにより、3Dプリンタ1は、当該3Dデータに基づいた造形物3を形成することができる。
【0044】
制御部60は、テーブル部56の制御を行うことができる。制御部60は、テーブル部56に設けられたヒーター(図示せず)を制御して、テーブル部56の温度を調節することができる。また、制御部60は、樹脂吐出部45を加熱する温度やフィラメント2の吐出量を制御することができる。
【0045】
次に、制御部60におけるフィラメント2の送り量の制御について
図3を参照しながら以下に詳説する。なお、
図3は、図示左側をフィラメント2の弛みが負(マイナス)側、図示右側をフィラメント2の弛みが正(プラス)側として説明する。
【0046】
図3(a)は、通過型センサ35を通過するフィラメント2の通過位置が定常位置にある場合(定常状態)を表したものである。定常状態では、第1モータ20及び第2モータ50(本実施形態では、ガイドローラ30,30及びガイド部材40)の間において、フィラメント2に所定の弛み(適正弛み量による弛み)が形成されている。なお、適正弛み量による弛みは、第1モータ20及び第2モータ50の送り速度の差が所定の速度となるように制御することにより形成することができる。言い換えると、適正弛み量による弛みは、第1モータ20及び第2モータ50の間におけるフィラメント2の送り量を制御することにより形成することができる。
【0047】
図3(b)は、通過型センサ35を通過するフィラメント2の通過位置が負(マイナス)側に位置した状態(弛み過小状態)を表したものである。弛み過小状態では、フィラメント2が張力により引っ張られて、フィラメント2の通過位置が、開口36における図示左側に寄った状態となる。このとき、制御部60は、第1モータ20の送り速度を速める制御を行う。すなわち、制御部60は、第1モータ20及び第2モータ50の間におけるフィラメント2の送り量が増大する制御を行う。これにより、フィラメント2に掛かる負荷が軽減される。
【0048】
図3(c)は、通過型センサ35を通過するフィラメント2の通過位置が正(プラス)側に位置した状態(弛み過大状態)を表したものである。弛み過大状態では、フィラメント2が弛み過ぎて、フィラメント2の通過位置が、開口36における図示右側に寄った状態(張力が過小な状態)となる。このとき、制御部60は、第1モータ20の送り速度を低下させる制御を行う。すなわち、制御部60は、第1モータ20及び第2モータ50の間におけるフィラメント2の送り量が低下する制御を行う。これにより、フィラメント2の弛みが適正な状態に近づけられる。
【0049】
このように、上述した3Dプリンタ1は、通過型センサ35(通過位置検知部35)において検知されたフィラメント2の通過位置に基づいて、第1モータ20(第1送り部20)及び第2モータ50(第2送り部50)の間におけるフィラメント2の送り量が制御される。従って、上述した3Dプリンタ1は、フィラメント2を適正に樹脂吐出部45まで案内できるので、ガイドチューブを用いる必要がない。これにより、上述した3Dプリンタ1は、フィラメント2に掛かる接触抵抗を排することができるので、フィラメント2の撚れや折損等を抑制できる。また、上述した3Dプリンタ1は、大型のモータ等の駆動源を設けることなく、フィラメント2を適正に樹脂吐出部45まで案内できるので、コストの低減が期待できる。また、上述した3Dプリンタ1は、フィラメント2の送り量が適正に制御されるので、フィラメント2が過大に弛んだり、過大に引っ張られたりすることを抑制しつつ安定的にフィラメント2を供給できる。
【0050】
また、本実施形態における3Dプリンタ1は、通過位置検知部35が、フィラメント2の送り方向中間位置において、フィラメント2の送り方向に対して交差する方向におけるフィラメント2の通過位置を検知するものとされている。従って、上述した3Dプリンタ1は、フィラメント2の通過位置を正確、かつ容易に検知することができる。これにより、上述した3Dプリンタ1は、コストを掛けずに簡素に構成することができるので、フィラメント2の供給安定性向上が期待できる。
【0051】
また、上述した3Dプリンタ1は、フィラメント2の巻き癖を緩和する巻き癖緩和部25を備えているので、リール10やフィラメント2の送り経路上で発生したフィラメント2の巻き癖を効果的に緩和することができる。これにより、上述した3Dプリンタ1は、フィラメント2をより一層安定的に樹脂吐出部45に供給できるので、当該フィラメント2の折損等をより一層効果的に抑制できる。
【0052】
また、本実施形態の3Dプリンタ1は、第1モータ20及び第2モータ50の間において、フィラメント2に適正な弛みを形成するものとされている。そのため、上述した3Dプリンタ1は、フィラメント2に過大な張力が掛かることを抑制できる。これにより、上述した3Dプリンタ1は、フィラメント2をより一層安定的に樹脂吐出部45に供給できるので、当該フィラメント2の折損等をより一層効果的に抑制できる。なお、第1モータ20及び第2モータ50の間におけるフィラメント2の弛みは、必要に応じて形成すればよく、当該弛みを形成しないものとすることもできる。また、当該弛みの量は、フィラメント2の径や素材等に応じて適宜変更すればよい。
【0053】
また、上述した3Dプリンタ1は、通過位置検知部35が、フィラメント2の所定の通過位置に対して、フィラメント2の張力が緩和される側に変位したことを検知した場合において、第1モータ20及び第2モータ50の間におけるフィラメント2の送り量を減じる制御を行うものとされている。また、上述した3Dプリンタ1は、通過位置検知部35が、フィラメント2の所定の通過経路に対して、フィラメント2の張力が増大する側に変位したことを検知した場合において、第1モータ20及び第2モータ50の間におけるフィラメント2の送り量を増加させる制御を行うものとされている。
【0054】
従って、上述した3Dプリンタ1は、容易な構成でフィラメント2の通過位置を検知できるので、3Dプリンタ1を簡素に構成できる。また、上述した3Dプリンタ1は、通過位置検知部35でのフィラメント2の通過位置に応じて、適正な送り量でフィラメント2を供給することができるので、フィラメント2に無理な負荷が掛かることを抑制できる。これにより、上述した3Dプリンタ1は、より一層フィラメント2の供給を安定させることができる。
【0055】
以上が、本発明の3Dプリンタ1の構成及び作用効果であり、次に3Dプリンタ1の動作フローについて、
図4を参照しながら以下に詳説する。
【0056】
3Dプリンタ1による造形物3の形成処理が開始されると、まず、制御部60による第1モータ20及び第2モータ50の速度制御が開始される(ステップS1)。また、ステップS1の処理に続いて、エクストルーダ55でのフィラメント2の送り速度(第2モータ50の回転速度)と、リール10でのフィラメント2の送り速度(第1モータ20の回転速度)と、が同期される(ステップS2)。
【0057】
続いて、制御部60は、通過位置検知部35において検知したフィラメント2の通過位置に基づいて、フィラメント2の弛みを検知したか否かの判定を行う(ステップS3)。
【0058】
ステップS3において、フィラメント2の弛みが検知されなかった場合は、処理を終了させて、ステップS1に処理が戻される。また、ステップS3において、フィラメント2の弛みが検知された場合は、制御部60において、弛み検知方向の判定が行われる(ステップS4)。
【0059】
ステップS4において、弛み検知方向が正(プラス)側であると判定された場合は、第1モータ20の回転速度を低下させて、フィラメント2の送り量を低減させる制御を行う(ステップS5)。ステップS5における処理が完了すると第1モータ20及び第2モータ50における速度制御を終了する(ステップS7)。
【0060】
ステップS4において、弛み検知方向が負(マイナス)側であると判定された場合は、第1モータ20の回転速度を上げて、フィラメント2の送り量を増大させる制御を行う(ステップS6)。ステップS6における処理が完了すると第1モータ20及び第2モータ50における速度制御を終了する(ステップS7)。
【0061】
ステップS7における処理が完了すると、ステップS1に処理が戻される。なお、3Dプリンタ1における造形を終了させる場合は、ステップS7の処理の実行後に、一連の処理を終了させればよい。
【0062】
以上が、本発明の3Dプリンタ1の動作フローであるが、本発明の3Dプリンタ1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形を行うことができる。
【0063】
本実施形態では、保持部10(リール10)が施設等の天井部4に支持されているが、保持部10が、例えば、3Dプリンタ1内に支持されていてもよい。また、本実施形態では、通過位置検知部35が、フィラメント2の送り方向に対して交差する方向におけるフィラメント2の通過位置を検知するものとしたが、これには限定されず、通過位置検知部35におけるフィラメント2の検知方向は、各種の方向に設定することができる。また、本実施形態では、通過位置検知部35がリング形状の通過型センサ35である場合を例示したが、これには限定されず、通過位置検知部35には、各種のセンサが利用できる。また、通過位置検知部35に用いるセンサは、誘導電流を検知するものだけではなく、光学的なものなど各種の形態のセンサを利用することができる。
【0064】
本実施形態では、3Dプリンタ1が、巻き癖緩和部25を備えているが、巻き癖緩和部25は、必要に応じて設ければよく、3Dプリンタ1が、複数の巻き癖緩和部25を備えるものや巻き癖緩和部25を有しない構成とすることも可能である。また、巻き癖緩和部25には、各種の形態のものが利用できる。また、巻き癖緩和部25は、各種の位置に配することが可能である。
【0065】
また、本実施形態では、第1送り部20及び第2送り部50の間において、フィラメント2が所定の弛みを形成するように第1送り部20及び第2送り部50の間におけるフィラメント2の送り量が制御されているが、前記弛みは、必要に応じて設ければよく、前記弛みを有しないものとすることもできる。また、本実施形態では、巻き癖緩和部25及び通過位置検知部35の間に一対のガイドローラ30,30が設けられているが、ガイドローラ30,30は、必要に応じて設ければよく、ガイドローラ30,30を有しない構成とすることもできる。また、本実施形態では、ガイドローラ30,30のローラ面31,31が、互いに離間するように曲面状に形成されたものを例示したが、ローラ面31の曲率は、適宜変更することが可能である。また、ガイドローラ30,30には、各種の形態のものが利用できる。例えば、ガイドローラ30,30がフィラメント2を挟持するものとしてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、第1モータ20の送り速度を制御することにより、第1モータ20及び第2モータ50の間におけるフィラメント2の送り量が制御されているが、第1モータ20及び第2モータ50の一方又は双方の送り速度を制御することにより、フィラメント2の送り量が制御されてもよい。すなわち、第1モータ20及び第2モータ50の相対的な送り速度を制御することにより、フィラメント2の送り量が制御されてもよい。また、フィラメント2の送り量は、3Dプリンタ1の形態に応じて、適宜変更することが可能である。
【0067】
以上が、本発明に係る3Dプリンタ1の実施形態や変形例であるが、本発明は上述した実施形態や変形例において例示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得ることは当業者に容易に理解できよう。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の3Dプリンタは、自動車部品等の各種の立体的な造形物の造形に利用することができる。また、本発明の3Dプリンタは、熱溶融フィラメントを用いる溶融積層方式の3Dプリンタに利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 :3Dプリンタ
2 :フィラメント
3 :造形物
10 :リール(保持部)
20 :第1モータ(第1送り部)
25 :巻き癖緩和部
30 :ガイドローラ
35 :通過位置検知部(通過型センサ)
45 :樹脂吐出部
50 :第2モータ(第2送り部)
51 :ピンチローラ
55 :エクストルーダ
60 :制御部