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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167071
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】密封部材及びハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20231116BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077952
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩水
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA12
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC16
3J216CC34
3J216CC35
3J216CC41
3J216CC48
3J216CC56
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA12
3J216EA03
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA72
3J701BA73
3J701FA13
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】磁性流体シールによる密封性能の向上を図れる、密封部材を実現する。
【解決手段】外側密封部材5を構成する磁性流体シール20を、内周面にS極とN極とが円周方向に交互に配置され、かつ、円環形状を有する多極磁石24と、未着磁の磁性ゴムからなり、かつ、円環形状を有するターゲットリング25と、多極磁石24とターゲットリング25との間の環状隙間27に保持された磁性流体26とから構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に配置された外方部材と内方部材との間に取り付けられ、前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の開口部を塞ぐ、磁性流体シールを備えた密封部材であって、
前記磁性流体シールは、
周面にS極とN極とが円周方向に交互に配置され、かつ、円環形状を有する多極磁石と、未着磁の磁性材からなり、かつ、円環形状を有するターゲットリングと、前記多極磁石と前記ターゲットリングとの間の環状隙間に保持された磁性流体とから構成される、
密封部材。
【請求項2】
前記磁性流体シールよりも外部空間側に、相手面に対して摺接する又は相手面との間にラビリンスシールを形成する、弾性材製のシールリップを備える、請求項1に記載した密封部材。
【請求項3】
内周面に複列の外輪軌道を有する外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体と、
前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の開口部を塞ぐ、密封部材と、を備え、
前記密封部材が、請求項1又は請求項2に記載した密封部材である、
ハブユニット軸受。
【請求項4】
前記多極磁石は、前記外方部材と前記内方部材とのうち、使用時にも回転しない部材に支持されており、
前記ターゲットリングは、前記外方部材と前記内方部材とのうち、使用時に回転する部材に支持されている、
請求項3に記載したハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封部材及びハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
玉軸受やハブユニット軸受などの軸受装置においては、転動体が配置された内部空間に異物が侵入することを防止するために、内部空間の開口部を密封部材により塞ぐことが行われている。また、軸受装置の回転トルクを低く抑えるために、密封部材として、シールトルクを低く抑えられる磁性流体シールを利用することが考えられている。
【0003】
図10は、特開2018-91358号公報(特許文献1)に記載された、従来構造の密封部材104を備えた転がり軸受100を示している。
【0004】
転がり軸受100は、外輪101と、内輪102と、複数個の玉103と、1対の密封部材104とを備えている。
【0005】
外輪101は、円環形状を有し、内周面に外輪軌道105を有している。内輪102は、磁性金属製で、円環形状を有しており、外輪101の径方向内側に外輪101と同軸に配置されている。内輪102は、外周面に内輪軌道106を有している。玉103は、外輪軌道105と内輪軌道106との間に転動自在に配置されている。
【0006】
1対の密封部材104のそれぞれは、外輪101の内周面に支持されており、外輪101の内周面と内輪102の外周面との間に存在する内部空間107の開口部を塞いでいる。
【0007】
密封部材104は、磁性流体シール108と、弾性材製のシールリップ109とを備えている。
【0008】
磁性流体シール108は、磁石110と、内側極板111と、磁性流体112とを有する。
【0009】
磁石110は、中空円板形状を有しており、全周にわたり軸方向に関して同じ向きに磁化、すなわち単極着磁されている。このため、磁石110の軸方向両側部には、全周にわたり互いに異なる極性の磁極が配置されている。図示の例では、磁石110の内部空間107側にはN極が配置され、磁石110の外部空間113側にはS極が配置されている。
【0010】
内側極板111は、磁性金属製で、中空円板形状を有している。内側極板111は、磁石110の内部空間107側の側面に固定されている。内側極板111の内径は、内輪102の外周面のうち、内輪軌道106から軸方向に外れた部分の外径よりも少しだけ大きい。内側極板111と内輪102との間には、円環形状を有する環状隙間114が形成されている。
【0011】
磁性流体112は、磁性微粒子をベースオイルなどの溶媒に混合して構成されている。
【0012】
従来構造の密封部材104は、磁石110の磁力によって、環状隙間114に磁性流体112を全周にわたり保持することで、磁性流体シール108を構成している。
【0013】
シールリップ109は、磁性流体シール108よりも外部空間113側に配置されている。シールリップ109は、磁石110の外部空間113側の側面に支持されている。シールリップ109の先端部は、内輪102の外周面に全周にわたり摺接している。
【0014】
従来構造の密封部材104は、磁性流体シール108及びシールリップ109のそれぞれにより、内部空間107に異物が侵入することを防止できる。また、磁性流体シール108は、接触式のシールリップに比べて、シールトルクを低く抑えられる。したがって、密封部材104によれば、密封性能を確保できるとともに、回転トルクを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2018-91358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特開2018-91358号公報に記載された従来構造の密封部材104は、磁性流体シール108による密封性能の向上を図る面で改良の余地がある。
【0017】
すなわち、従来構造の密封部材104は、軸方向に関して同じ向きに着磁した磁石110の側面に内側極板111を固定しているため、内側極板111の内周縁部は、N極又はS極しか持たない単極となる。
【0018】
このため、内側極板111の内周縁部と内輪102の外周面との間の環状隙間114の径方向幅が、内側極板111の製造上不可避な寸法誤差やラジアル荷重を支承することによる外輪101と内輪102との間の偏心などによって、円周方向に関して不均一になると、環状隙間114のうちで径方向幅の小さい位相(円周方向部分)において、磁束が集中的に流れるようになる。これにより、環状隙間114における磁束密度も円周方向に関して不均一になり、磁性流体112の軸方向の厚さが円周方向に関して不均一になりやすくなる。この結果、磁性流体112の軸方向の厚さの小さい部分で、磁性流体シール108の密封性が低下しやすくなる。
【0019】
自動車の車輪を回転自在に支持するためのハブユニット軸受は、自動車の旋回走行時などに支承するモーメント荷重によって、外輪とハブとの間に相対傾きを生じる。このため、従来構造の密封部材104をハブユニット軸受に適用した場合、環状隙間114の径方向幅が円周方向に関して不均一になる度合いがさらに大きくなりやすい。この結果、磁性流体シール108の密封性を確保することが難しくなり、ハブユニット軸受の内部空間に異物が侵入しやすくなる。
【0020】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、磁性流体シールによる密封性能の向上を図れる、密封部材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様にかかる密封部材は、互いに同軸に配置された外方部材と内方部材との間に取り付けられ、前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の開口部を塞ぐものであり、磁性流体シールを備える。
本発明の一態様にかかる密封部材は、前記磁性流体シールを、周面にS極とN極とが円周方向に交互に配置され、かつ、円環形状を有する多極磁石と、未着磁の磁性材(磁性ゴム、磁性プラスチックなど)からなり、かつ、円環形状を有するターゲットリングと、前記多極磁石と前記ターゲットリングとの間の環状隙間に保持された磁性流体とから構成している。
【0022】
本発明の一態様にかかる密封部材は、前記磁性流体シールよりも外部空間側に、相手面に対して摺接する又は相手面との間にラビリンスシールを形成する、弾性材製のシールリップを少なくとも1本以上備える。
本発明の一態様にかかる密封部材は、前記多極磁石として、周面にS極とN極とが円周方向に交互に配置された磁気トラックを、1列だけ備えたものを使用することもできるし、複列(他列)備えたものを使用することもできる。
【0023】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体と、前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の開口部を塞ぐ、密封部材と、を備え、このうちの密封部材を、本発明の一態様にかかる密封部材としている。
【0024】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受は、前記多極磁石を、前記外方部材と前記内方部材とのうち、使用時にも回転しない部材に支持し、前記ターゲットリングを、前記外方部材と前記内方部材とのうち、使用時に回転する部材に支持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様にかかる密封部材によれば、磁性流体シールによる密封性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受を示す、半部断面図である。
図2図2は、図1の部分拡大図である。
図3図3は、実施の形態の第1例に使用する多極磁石の内周面の一部を径方向内側から見た模式図である。
図4図4は、実施の形態の第1例に関して、環状隙間を流れる磁束を説明するために示す模式図である。
図5図5は、比較例の2例を示す、図4に相当する図である。
図6図6は、実施の形態の第2例を示す、図3に相当する図である。
図7図7は、実施の形態の第3例を示す、図1に相当する図である。
図8図8は、図7の部分拡大図である。
図9図9は、実施の形態の第4例を示す、図8に相当する図である。
図10図10は、従来構造の密封装置を備えた転がり軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図5を用いて説明する。
【0028】
〔ハブユニット軸受の構造〕
ハブユニット軸受1は、内輪回転型で、かつ、従動輪用のいわゆる第3世代のハブユニット軸受である。ハブユニット軸受1は、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ3と、複数の転動体4a、4bと、外側密封部材5を備える。本例では、外側密封部材5が、特許請求の範囲に記載した密封部材に相当する。
【0029】
なお、ハブユニット軸受1に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図1及び図2の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図1及び図2の右側である。また、軸方向、径方向、及び、円周方向とは、特に断らない限り、ハブ3に関する各方向をいう。
【0030】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属製で、略円筒形状を有する。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有しており、外周面の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有している。静止フランジ7は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。外輪2は、支持孔8へ挿通したボルトにより、車体側部材である懸架装置に対し支持固定され、使用時にも回転しない。
【0031】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置されている。ハブ3には、車輪を構成するホイール及び制動用回転体が固定され、使用時に回転する。ハブ3は、中炭素鋼などの硬質金属製のハブ輪9と、高炭素クロム鋼などの硬質金属製の内輪10とを組み合わせてなる。ハブ3は、外周面のうち、複列の外輪軌道6a、6bと対向する部分に、複列の内輪軌道11a、11bを有している。
【0032】
ハブ輪9は、内輪10を外嵌保持する軸部材であり、軸部12と、回転フランジ13と、パイロット部14とを有している。本例では、ハブユニット軸受1を、従動輪用としているため、ハブ輪9は、中実状に構成されている。
【0033】
軸部12は、ハブ輪9の軸方向内側部から軸方向中間部にわたる範囲に備えられている。軸部12は、軸方向内側部に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さい、内輪10が外嵌される小径部15を有しており、軸方向中間部の外周面に、外側列の内輪軌道11aを有している。軸部12は、軸方向内側の端部に、内輪10の軸方向内側の端面を押え付けるかしめ部16を有する。本発明を実施する場合には、軸部の軸方向内側の端部の外周面に雄ねじ部を形成し、該雄ねじ部にナット螺合することにより、ハブ輪に対して内輪を固定しても良い。
【0034】
回転フランジ13は、ハブ輪9のうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられており、略円輪形状を有している。回転フランジ13は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔36を有する。取付孔36のそれぞれには、スタッド37が圧入されている。スタッド37の先端部には、図示しないナットが螺合される。これにより、車輪を構成するホイール及び制動用回転体を、回転フランジ13の軸方向外側に固定する。本発明を実施する場合には、回転フランジに雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔にハブボルトを直接螺合することにより、ホイール及び制動用回転体を、回転フランジの軸方向外側に固定しても良い。
【0035】
パイロット部14は、ホイール及び制動用回転体をがたつきのない隙間嵌めで外嵌するためのもので、ハブ輪9の軸方向外側の端部に備えられており、略円筒形状を有している。
【0036】
内輪10は、円環形状を有しており、外周面の軸方向中間部に内側列の内輪軌道11bを有している。内輪10は、軸部12に備えられた小径部15に締り嵌めで外嵌されている。
【0037】
外輪2の内周面とハブ3の外周面との間には、円環形状を有する内部空間17が備えられている。内部空間17には、転動体4a、4bが配置されており、潤滑剤(グリース)が封入されている。
【0038】
転動体4a、4bは、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道11a、11bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、保持器38a、38bにより保持された状態で転動自在に配置されている。本例では、それぞれの転動体4a、4bとして、玉(鋼球)を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。また、軸方向外側の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側の転動体4bのピッチ円直径とを、互いに同じとしているが、軸方向外側の転動体のピッチ円直径と、軸方向内側の転動体のピッチ円直径とを、互いに異ならせることもできる。
【0039】
本例のハブユニット軸受1は、内部空間17に水分や埃などの異物が侵入したり、内部空間17に封入したグリースが外部空間19に漏洩したりすることを防止するために、内部空間17の軸方向外側の開口部を外側密封部材5により塞いでいる。また、内部空間17の軸方向内側の開口部を内側密封部材18により塞いでいる。つまり、外側密封部材5及び内側密封部材18のそれぞれは、内部空間17を外部空間19から密封している。なお、外部空間19とは、ハブユニット軸受1の周囲に存在する空間をいう。
【0040】
〈外側密封部材〉
図2に示すように、外側密封部材5は、磁性流体シール20と、弾性材製の1本のシールリップ21とを備えている。このため、外側密封部材5は、2段階の密封構造を有している。なお、本発明を実施する場合には、弾性材製のシールリップ21は、省略することもできる。
【0041】
本例の外側密封部材5は、磁性流体シール20を構成する後述の多極磁石24及びシールリップ21を外輪2に対して支持するために、外径側支持部材である外径側芯金22をさらに備えている。
【0042】
外径側芯金22は、フェライト系ステンレス鋼板又は防錆処理が施された冷間圧延鋼板などの、磁性を有する金属板にプレス加工を施して造られており、略Z字形の断面形状を有し、全体が円環状である。外径側芯金22は、外径側筒部22aと、円すい筒部22bと、円輪部22cと、内径側筒部22dとを有する。
【0043】
外径側筒部22aは、円筒形状を有しており、外径側芯金22の径方向外側の端部に備えられている。円すい筒部22bは、円すい筒形状を有しており、外径側芯金22の径方向外側部に備えられている。円すい筒部22bは、径方向外側の端部が外径側筒部22aの軸方向内側の端部に接続されており、径方向内側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に傾斜している。円輪部22cは、中空円板形状を有しており、外径側芯金22の径方向内側部に備えられている。円輪部22cは、径方向外側の端部が円すい筒部22bの径方向内側の端部に接続されている。内径側筒部22dは、円筒形状を有しており、外径側芯金22の径方向内側の端部に備えられている。内径側筒部22dは、外径側筒部22aと略同軸に配置されており、軸方向外側の端部が円輪部22cの径方向内側の端部に接続されている。
【0044】
外径側芯金22は、外径側筒部22aを外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌することで、外輪2に対して内嵌支持されている。本例の外径側芯金22は、磁性金属板製であるため、多極磁石24のバックヨークとしての機能も兼ね備える。
【0045】
本例の外側密封部材5は、磁性流体シール20を構成する後述のターゲットリング25をハブ3に対して支持するために、内径側支持部材である内径側芯金23をさらに備えている。
【0046】
内径側芯金23は、フェライト系ステンレス鋼板又は防錆処理が施された冷間圧延鋼板などの、磁性を有する金属板にプレス加工を施して造られており、略L字形の断面形状を有し、全体が円環状である。内径側芯金23は、支持筒部23aと、フランジ部23bとを有する。なお、内径側芯金23は、外径側芯金22とは異なり、バックヨークとしての役割を果たさないため、本発明を実施する場合に、内径側芯金23を、非磁性の材料製とすることもできる。また、内径側芯金23は、ターゲットリング25をそれ自体でハブ3に支持することが可能であれば、省略することもできる。
【0047】
支持筒部23aは、円筒形状を有しており、外径側芯金22を構成する内径側筒部22dの内径よりも小さい外径を有している。支持筒部23aの軸方向寸法は、外径側芯金22を構成する内径側筒部22dの軸方向寸法とほぼ同じである。フランジ部23bは、支持筒部23aの軸方向内側の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がり、径方向外側に向けて伸長している。フランジ部23bの外径は、外径側芯金22を構成する内径側筒部22dの内径よりも少しだけ小さい。
【0048】
内径側芯金23は、支持筒部23aをハブ輪9に締り嵌めで外嵌することで、ハブ輪9に対して外嵌支持されている。具体的には、内径側芯金23は、ハブ輪9の外周面のうちで、外側列の内輪軌道11aの軸方向外側に隣接した部分(肩部)に支持されている。
【0049】
本例では、外径側芯金22を外輪2に対して支持し、かつ、内径側芯金23をハブ3に対して支持した状態で、外径側芯金22を構成する内径側筒部22dと、内径側芯金23を構成する支持筒部23aとの軸方向位置を一致させている。別の言い方をすれば、内径側筒部22dと支持筒部23aとを、径方向に重なるように配置している。
【0050】
《磁性流体シール》
本例の磁性流体シール20は、多極磁石24と、ターゲットリング25と、磁性流体26とから構成されている。なお、図2には、磁性流体26を、梨子地模様を付して示している。
【0051】
多極磁石24は、外径側芯金22を介して、使用時にも回転しない外輪2の軸方向外側の端部に支持されている。具体的には、多極磁石24は、外径側芯金22を構成する内径側筒部22dに対して支持されている。
【0052】
多極磁石24は、円環形状を有している。特に本例では、多極磁石24は、径方向寸法よりも軸方向寸法が大きい円筒形状を有しており、内径側筒部22dを全周にわたり覆っている。これにより、内径側筒部22dは、多極磁石24によって径方向両周面及び軸方向両側面のそれぞれが覆われており、外部に露出していない。
【0053】
多極磁石24は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム中に、フェライトなどの磁性粉末を分散させてなる磁性ゴム(ゴム磁石)からなり、内周面が多極に着磁されている。このため、図3に示すように、多極磁石24の内周面には、複数のS極とN極とが円周方向に交互にかつ等間隔に配置されている。本例の多極磁石24は、S極とN極とが円周方向に交互にかつ等間隔に配置された、単列の磁気トラックを有している。多極磁石24は、加硫成形型を用いて、内径側筒部22dに加硫接着成形されている。
【0054】
ターゲットリング25は、内径側芯金23を介して、使用時に回転するハブ3の軸方向中間部に支持されている。具体的には、ターゲットリング25は、内径側芯金23を構成する支持筒部23aの外周面に支持されている。ターゲットリング25は、円環形状を有している。特に本例では、ターゲットリング25は、径方向寸法よりも軸方向寸法が大きい円筒形状を有しており、支持筒部23aの外周面を全周にわたり覆っている。ターゲットリング25の軸方向内側の端面は、内径側芯金23を構成するフランジ部23bの軸方向外側面に突き当てられている。
【0055】
ターゲットリング25は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム中に、フェライトなどの磁性粉末を分散させてなる磁性ゴムからなるが、いずれの方向にも着磁されていない。つまり、ターゲットリング25は、未着磁の磁性ゴムであり、いわゆる半磁性体である。ターゲットリング25は、加硫成形型を用いて、内径側芯金23に加硫接着成形されている。
【0056】
多極磁石24を、外径側芯金22を介して外輪2に支持し、かつ、ターゲットリング25を、内径側芯金23を介してハブ3に支持した状態で、多極磁石24の内周面とターゲットリング25の外周面との間には、円環形状を有する環状隙間27が形成されている。
【0057】
磁性流体26は、フェライトなどの磁性粉末を溶媒に混合することで構成されている。磁性流体26は、多極磁石24の磁力によって、環状隙間27に全周にわたり保持されている。具体的には、磁性流体26は、多極磁石24の内周面とターゲットリング25の外周面との間を流れる磁束により、環状隙間27に保持される。なお、本発明を実施する場合には、磁性流体26を構成する溶媒として、水系(水ベース、水性)の溶媒を使用することができる。また、溶媒に混合する磁性粉末としては、たとえば、マグネタイトコロイド、マンガンフェライト、コバルトフェライト、バリウムフェライトなどの、従来から知られた各種の磁性粉末を使用することができる。
【0058】
本例の外側密封部材5は、多極磁石24の磁力によって、環状隙間27に磁性流体26を全周にわたり保持することで、磁性流体シール20を構成している。また、本例の磁性流体シール20は、多極磁石24を外径側芯金22を介して外輪2に支持し、かつ、ターゲットリング25を内径側芯金23を介してハブ3に支持しているため、自動車の走行時に、ターゲットリング25が多極磁石24に対して相対回転する。
【0059】
本例の外側密封部材5は、多極磁石24として、内周面にS極とN極とが円周方向に交互に配置されたものを使用し、かつ、ターゲットリング25として、未着磁の磁性ゴムを使用しているため、環状隙間27には、図4に示すような磁束が流れる。
【0060】
先ず、多極磁石24のN極から、該N極の円周方向に隣接して配置された多極磁石24のS極へと、磁束αが扇状(円弧状)に広がって流れる。また、ターゲットリング25を構成する磁性ゴム中の磁性紛末のうちで、多極磁石24のN極の周方向中央部分と径方向に対向する部分に存在し、かつ、該N極の磁場よって一時的に磁化された磁性粉末に、多極磁石24のN極の周方向中央部分から磁束βが直線的に流れる。さらに、ターゲットリング25を構成する磁性ゴム中の磁性紛末のうちで、多極磁石24のS極の周方向中央部分と径方向に対向する部分に存在し、かつ、該S極の磁場によって一時的に磁化された磁性粉末から、多極磁石24のS極の周方向中央部分へ戻るように磁束γが直線的に流れる。
【0061】
このように本例では、環状隙間27のうちで、多極磁石24のN極の周方向中央部分とS極の周方向中央部分との間部分と位相が一致する部分に、扇状に磁束αを流すことができる。また、環状隙間27のうちで、多極磁石24のN極の周方向中央部分と位相が一致する部分、及び、多極磁石24のS極の周方向中央部分と位相が一致する部分のそれぞれに、直線状に磁束β、γを流すことができる。このため、環状隙間27の磁束を円周方向に一様にすることができる。
【0062】
また、本例では、ターゲットリング25を未着磁の磁性ゴムから構成しているため、多極磁石24とターゲットリング25とが相対回転する際に、ターゲットリング25を構成する磁性ゴム中の磁性粉末の磁化方向を、径方向に対向する多極磁石24によって変化させることができる。このため、多極磁石24とターゲットリング25との相対回転にかかわらず、環状隙間27に、上述したような磁束を流すことができる。
【0063】
シールリップ21は、磁性流体シール20よりも外部空間19側に配置されている。本例のシールリップ21は、外径側芯金22の軸方向外側面に支持されている。
【0064】
シールリップ21は、外径側芯金22のうちの径方向外側部の軸方向外側面を覆った弾性材28に備えられている。弾性材28は、たとえばニトリルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレン系ゴム、水素化ニトリルゴムなどのゴム製(シールゴム)である。弾性材28は、円環形状を有しており、外径側筒部22aの内周面、円すい筒部22bの軸方向外側面及び円輪部22cの径方向外側部の軸方向外側面を、それぞれ覆っている。
【0065】
シールリップ21は、弾性材28の径方向内側部に備えられている。シールリップ21は、円すい筒形状を有しており、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長している。
【0066】
本例では、シールリップ21の先端部は、相手面である回転フランジ13の軸方向内側面の径方向内側部に対して、全周にわたり近接対向している。これにより、シールリップ21の先端部と回転フランジ13の軸方向内側面との間に、ラビリンスシールを形成している。本例のシールリップ21は、内部空間17に異物が侵入することを防止するだけでなく、内部空間17側に配置された磁性流体シール20を構成する磁性流体26が外部空間19に流出することを防止することもできる。なお、本発明を実施する場合には、シールリップ21の先端部を、回転フランジ13の軸方向内側面に対して締め代を持って摺接させることもできる。
【0067】
〈内側密封部材〉
内側密封部材18は、有底円筒状の金属製のカバーにより構成されている。内側密封部材18は、固定筒部29と、底板部30とを有する。
【0068】
固定筒部29は、円筒形状を有しており、外輪2の軸方向内側部に締り嵌めで内嵌されている。底板部30は、円板形状を有している。底板部30の径方向外側の端部は、固定筒部29の軸方向内側の端部につながっている。このため、底板部30は、固定筒部29の軸方向内側の端部開口を塞いでいる。底板部30の外周縁部には、折り返し部により構成される突き当て部31を有する。
【0069】
内側密封部材18は、固定筒部29を外輪2の軸方向内側部に締り嵌めで内嵌することにより、外輪2に装着されている。本例では、このような内側密封部材18により、内部空間17の軸方向内側の開口部を塞いでいる。内側密封部材18は、外輪2の軸方向内側の端面に突き当て部31を突き当てることで、外輪2に対する軸方向の位置決めが図られている。
【0070】
以上のような本例のハブユニット軸受1に組み込まれた外側密封部材5によれば、磁性流体シール20の密封性能の向上を図ることができる。このため、ハブユニット軸受1の回転トルクを上昇させることなく、ハブユニット軸受1の内部空間17に異物が侵入することを有効に防止できる。
【0071】
すなわち、本例では、外側密封部材5の磁性流体シール20を、内周面にS極とN極とが円周方向に交互に配置された多極磁石24と、未着磁の磁性ゴムからなるターゲットリング25と、多極磁石24とターゲットリング25との間の環状隙間27に保持された磁性流体26とから構成している。これにより、前記図4に示したように、環状隙間27に円周方向にばらつきなく磁束を流すことが可能になるため、製造上不可避な寸法誤差や、ラジアル荷重を支承することによる外輪2とハブ3との間の偏心、さらには、モーメント荷重を支承することによる外輪2とハブ3との間の相対傾きによって、環状隙間27の径方向幅が円周方向に関して不均一になった場合にも、環状隙間27の径方向幅の小さい部分に、磁束が集中的に流れることを抑制できる。そして、環状隙間27の円周方向における磁束密度のばらつきを抑えることができる。このため、磁性流体26の軸方向の厚さのばらつきを抑制することができ、磁性流体26の軸方向の厚さを環状隙間27の全周にわたり確保することができる。したがって、本例の外側密封部材5によれば、磁性流体シール20の密封性能の向上を図れる。
【0072】
また、本例の外側密封部材5の磁性流体シール20は、多極磁石24と、未着磁の磁性ゴムからなるターゲットリング25とを組み合わせて使用しているため、磁束密度のばらつきを効果的に抑えることができる。
【0073】
たとえば、図5の(A)に示す比較例の第1例のように、ターゲットリング25xを、磁性金属などの磁性体から構成した場合、すなわち、ターゲットリング25xの全体を磁性体により構成した場合、環状隙間27には、多極磁石24のN極の周方向中央部分から、ターゲットリング25xのうちで、該N極と径方向に対向する部分の周方向中央部分へと直線的に磁束が集中して流れるとともに、ターゲットリング25xのうち、多極磁石24のS極と径方向に対向する部分の周方向中央部分から、多極磁石24のS極の周方向中央部分へと直線的に磁束が集中して流れる。このため、環状隙間27のうちで、多極磁石24のN極の周方向中央部分とS極の周方向中央部分との間部分と位相が一致する部分(図5の(A)中の斜格子部分)を流れる磁束が少なくなる。つまり、ターゲットリング25xの全体を磁性体から構成した場合、ターゲットリング25xの透磁率が高くなり過ぎるため、多極磁石24から出入りする磁束が、ターゲットリング25xとの間で直線的に流れる磁束が優先的になる。したがって、比較例の第1例の構造では、環状隙間27の円周方向における磁束密度のばらつきが、本例の場合に比べて大きくなる。
【0074】
また、図5の(B)に示す比較例の第2例のように、ターゲットリング25yを、非磁性体から構成した場合、環状隙間27に流れる磁束は、多極磁石24のN極から、該N極の円周方向に隣接して配置された多極磁石24のS極へと扇状に広がって流れる磁束のみとなる。このため、環状隙間27のうちで、多極磁石24のN極及びS極のそれぞれの周方向中央部分と位相が一致する部分(図5の(B)中の斜格子部分)を流れる磁束が少なくなる。したがって、比較例の第2例の構造においても、環状隙間27の円周方向における磁束密度のばらつきが、本例の場合に比べて大きくなる。
【0075】
これに対して、本例の構造では、ターゲットリング25を、非磁性体であるゴムと磁性体である磁性粉末とからなる磁性ゴム、すなわち半磁性体により構成している。このため、環状隙間27に流れる磁束は、多極磁石24のN極及びS極の周方向中央部分とターゲットリング25との間を径方向に直線的に流れる磁束β、γと、多極磁石24のN極から、該N極の円周方向に隣接して配置された多極磁石24のS極へと扇状に広がって流れる磁束αとの、双方(3種類)となる。このため、環状隙間27における磁束密度のばらつきを効果的に抑えることができる。
【0076】
以上のように本例の外側密封部材5を構成する磁性流体シール20によれば、環状隙間27の円周方向における磁束密度のばらつきを小さく抑えることができる。これにより、磁性流体26に隙間が生じることを有効に防止できるので、磁性流体シール20の密封性能の向上を図れる。
【0077】
また、外側密封部材5を備えた本例のハブユニット軸受1によれば、回転トルクを上昇させることなく、内部空間17の軸方向外側の開口部を通じて、異物が内部空間17に侵入することを有効に防止できる。
【0078】
また、本例では、環状隙間27を、円筒形状を有する多極磁石24の内周面と円筒形状を有するターゲットリング25の外周面との間に形成しているため、環状隙間27の軸方向寸法を大きく確保できる。このため、環状隙間27に保持された磁性流体26の軸方向の厚さを十分に大きくできる。したがって、この面からも、磁性流体シール20の密封性能の向上を図れる。
【0079】
また、本例では、多極磁石24の磁極の径方向外側に、磁性金属製の外径側芯金22を構成する内径側筒部22dを配置しているため、内径側筒部22dをバックヨークとして機能させることができる。したがって、環状隙間27により多くの磁束を流すことができる。したがって、この面からも、磁性流体シール20の密封性能の向上を図れる。
【0080】
また、本例では、シールリップ21を、磁性流体シール20よりも外部空間19側に配置しており、シールリップ21と相手面である回転フランジ13の軸方向内側面との間にラビリンスシールを形成している。このため、環状隙間27に保持された磁性流体26が、外部空間19に流出することを抑制できる。また、磁性流体26を構成する溶媒が蒸発することも抑制できる。したがって、磁性流体シール20による密封性能を長期間にわたり発揮させることができる。
【0081】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図6を用いて説明する。
【0082】
本例では、磁性流体シール20を構成する多極磁石24aの構造のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0083】
すなわち、本例の多極磁石24aは、内周面に、複列(多列)の磁気トラックを有している。磁気トラックのそれぞれには、S極とN極とが円周方向に交互にかつ等間隔に配置されている。また、軸方向に隣り合う磁気トラック同士の間で、N極とS極との配置の位相を半ピッチ分だけずらしている。
【0084】
以上のような本例では、実施の形態の第1例の構造に比べて、多極磁石24aの内周面の極数を増やすことができるため、多極磁石24aの内周面とターゲットリング25(図2参照)の外周面との間の環状隙間27(図2参照)を流れる磁束を、円周方向にさらに一様にすることができる。このため、磁性流体シール20の密封性能のさらなる向上を図ることができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0085】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図7及び図8を用いて説明する。
【0086】
本例のハブユニット軸受1aは、内輪回転型でかつ駆動輪用のハブユニット軸受であり、外輪2と、ハブ3aと、複数の転動体4a、4bと、外側密封部材5と、内側密封部材18aとを備える。本例では、外側密封部材5及び内側密封部材18aのそれぞれが、特許請求の範囲に記載した密封部材に相当する。なお、外側密封部材5の構造については、実施の形態の第1例の構造と同じである。
【0087】
本例のハブユニット軸受1aは、駆動輪用であるため、ハブ3aを構成するハブ輪9aは、等速ジョイントに接続される。このため、ハブ輪9aは、中心部に、軸方向に貫通したスプライン孔32を有する。スプライン孔32には、等速ジョイントを構成する駆動軸がスプライン係合される。駆動軸は、エンジンや電動モータなどの駆動源により直接回転駆動されるか、又は、トランスミッションを介して回転駆動される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ3aを回転駆動することで、ハブ3aの回転フランジ13に結合固定された車輪及び制動用回転体を回転駆動する。
【0088】
図8に示すように、本例の内側密封部材18aは、磁性流体シール20aと、弾性材製の1本のシールリップ21aとを備えている。
【0089】
内側密封部材18aは、磁性流体シール20aを構成する後述の多極磁石24a及びシールリップ21aを、外輪2に対して支持するための芯金33と、磁性流体シール20aを構成する後述のターゲットリング25aを、ハブ3aに対して支持するためのスリンガ34とをさらに有する。
【0090】
芯金33は、フェライト系ステンレス鋼板又は防錆処理が施された冷間圧延鋼板などの、磁性を有する金属板にプレス加工を施して造られており、横U字形の断面形状を有し、全体が円環状である。芯金33は、外径側筒部33aと、円輪部33bと、内径側筒部33cとを有する。
【0091】
外径側筒部33aは、円筒形状を有しており、芯金33の径方向外側の端部に備えられている。円輪部33bは、中空円板形状を有しており、径方向外側の端部が外径側筒部33aの軸方向外側の端部に接続されている。内径側筒部33cは、円筒形状を有しており、芯金33の径方向内側の端部に備えられている。内径側筒部33cは、外径側筒部33aと略同軸に配置されており、軸方向外側の端部が円輪部33bの径方向内側の端部に接続されている。
【0092】
芯金33は、外径側筒部33aを外輪2の軸方向内側の端部に締り嵌めで内嵌することで、外輪2に対して内嵌支持されている。本例の芯金33は、磁性金属板製であるため、多極磁石24aのバックヨークとしての機能も兼ね備える。
【0093】
スリンガ34は、フェライト系ステンレス鋼板又は防錆処理が施された冷間圧延鋼板などの、磁性を有する金属板にプレス加工を施して造られており、略L字形の断面形状を有し、全体が円環状である。スリンガ34は、支持筒部34aと、フランジ部34bとを有する。なお、スリンガ34は、芯金33とは異なり、バックヨークとしての役割を果たさないため、本発明を実施する場合に、スリンガ34を、非磁性の材料製とすることもできる。
【0094】
支持筒部34aは、円筒形状を有しており、芯金33を構成する内径側筒部33cの内径よりも小さい外径を有している。支持筒部34aの軸方向寸法は、芯金33を構成する内径側筒部33cの軸方向寸法よりも大きい。フランジ部34bは、支持筒部34aの軸方向内側の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がり、径方向外側に向けて伸長している。フランジ部34bの外径は、芯金33を構成する内径側筒部33cの外径よりも大きく、かつ、外径側筒部33aの内径よりも少しだけ小さい。
【0095】
スリンガ34は、支持筒部34aをハブ3aを構成する内輪10aに締り嵌めで外嵌することで、内輪10aに対して外嵌支持されている。具体的には、スリンガ34は、内輪10aの外周面のうちで、内輪軌道11bの軸方向内側に隣接した部分(肩部)に支持されている。
【0096】
本例では、芯金33を外輪2に対して支持し、かつ、スリンガ34をハブ3aに対して支持した状態で、芯金33を構成する内径側筒部33cと、スリンガ34を構成する支持筒部34aとを、径方向に重なるように配置している。図示の例では、内径側筒部33cの軸方向外側の端部と支持筒部34aの軸方向外側の端部との、軸方向位置を一致させている。
【0097】
本例の場合にも、磁性流体シール20aを、多極磁石24aと、ターゲットリング25aと、磁性流体26aとから構成している。
【0098】
多極磁石24aは、円筒形状を有しており、芯金33の内径側筒部33cを全周にわたり覆っている。これにより、多極磁石24aは、芯金33を介して、使用時にも回転しない外輪2の軸方向内側の端部に支持されている。
【0099】
多極磁石24aの内周面には、複数のS極とN極とが円周方向に交互にかつ等間隔に配置されている。
【0100】
ターゲットリング25aは、円筒形状を有しており、スリンガ34の支持筒部34aの外周面を全周にわたり覆っている。これにより、ターゲットリング25aは、スリンガ34を介して、使用時に回転するハブ3aの軸方向内側の端部に支持されている。
【0101】
ターゲットリング25aは、未着磁の磁性ゴムである。
【0102】
多極磁石24aを、芯金33を介して外輪2aに支持し、かつ、ターゲットリング25aを、スリンガ34を介してハブ3aに支持した状態で、多極磁石24aの内周面とターゲットリング25aの外周面との間には、円環形状を有する環状隙間27aが形成されている。
【0103】
磁性流体26aは、フェライトなどの磁性粉末を溶媒に混合することで構成されている。磁性流体26aは、多極磁石24aの磁力によって、環状隙間27aに全周にわたり保持されている。
【0104】
このため、本例の内側密封部材18aの場合にも、多極磁石24aの磁力によって、環状隙間27aに磁性流体26aを全周にわたり保持することで、磁性流体シール20aを構成している。
【0105】
また、シールリップ21aは、磁性流体シール20aよりも外部空間19側に配置されている。本例のシールリップ21aは、芯金33の軸方向内側面に支持されている。
【0106】
シールリップ21aは、芯金33のうちの径方向外側部の軸方向内側面を覆った弾性材35に備えられている。弾性材35は、円環形状を有しており、外径側筒部33aの内周面及び円輪部33bの径方向外側部の軸方向内側面を、それぞれ覆っている。
【0107】
シールリップ21aは、弾性材35の径方向内側部に備えられている。シールリップ21aは、円すい筒形状を有しており、軸方向内側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長している。
【0108】
シールリップ21aの先端部は、相手面であるスリンガ34のフランジ部34bの軸方向外側面に対して、全周にわたり締め代を持って摺接している。なお、本発明を実施する場合には、シールリップ21aの先端部を、フランジ部34bの軸方向外側面に対して、摺接させずに近接対向させて、全周にわたりラビリンスシールを形成することもできる。
【0109】
以上のような本例の場合にも、内側密封部材18aを構成する磁性流体シール20aに関して、環状隙間27aの円周方向における磁束密度のばらつきを小さく抑えることができるため、磁性流体シール20aの密封性能の向上を図れる。
【0110】
なお、本例の内側密封部材18aは、図7に示したような、駆動輪用の第3世代のハブユニット軸受1aに限らず、第1世代及び第2世代のハブユニット軸受の内部空間の軸方向内側の開口部を塞ぐ密封部材として、好ましく使用できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0111】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、図9を用いて説明する。
【0112】
本例は、外輪回転型のハブユニット軸受の内部空間17の軸方向内側の開口部を塞ぐ内側密封部材18bに、本発明を適用した場合を示している。
【0113】
本例の内側密封部材18bは、実施の形態の第3例の内側密封部材18aと同様の構成を有し、非磁性金属製または磁性金属板製の芯金33及びスリンガ34を備えている。ただし、芯金33を構成する内径側筒部33cに、ターゲットリング25bを支持しており、スリンガ34を構成する支持筒部34aに、多極磁石24bを支持している。つまり、本例では、多極磁石24bを、スリンガ34を介して、使用時にも回転しない内輪10bの軸方向内側の端部に支持し、ターゲットリング25bを、芯金33を介して、使用時に回転する外輪2aの軸方向内側の端部に支持している。
【0114】
多極磁石24bの外周面には、複数のS極とN極とが円周方向に交互にかつ等間隔に配置されている。
【0115】
多極磁石24bを、磁性金属板製のスリンガ34を介して内輪10bに支持し、かつ、ターゲットリング25bを、芯金33を介して外輪2aに支持した状態で、多極磁石24bの外周面とターゲットリング25bの内周面との間には、円環形状を有する環状隙間27bが形成されている。
【0116】
本例では、磁性流体26bを、多極磁石24bの磁力によって、環状隙間27bに全周にわたり保持している。
【0117】
このため、本例の内側密封部材18bの場合にも、多極磁石24bの磁力によって、環状隙間27bに磁性流体26bを全周にわたり保持することで、磁性流体シール20bを構成している。
【0118】
以上のような本例の場合にも、内側密封部材18bを構成する磁性流体シール20bに関して、環状隙間27bの円周方向における磁束密度のばらつきを小さく抑えることができるため、磁性流体シール20bの密封性能の向上を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第3例と同じである。
【0119】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0120】
実施の形態の各例では、多極磁石を、使用時に回転しない部材にして支持部材を介して支持し、かつ、ターゲットリングを、使用時に回転する部材に対して支持部材を介して支持する構造について説明したが、本発明を実施する場合には、多極磁石を使用時に回転しない部材に対して直接支持することもできるし、ターゲットリングを使用時に回転しない部材に対して直接支持することもできる。
【0121】
密封部材にシールリップを設ける場合には、シールリップの数及び形状は、実施の形態の各例で示した構造に限定されず、適宜変更することができる。
【0122】
本発明の密封装置は、第3世代のハブユニット軸受に限らず、たとえば、第1世代のハブユニット軸受、第2世代のハブユニット軸受などの、他の世代のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本発明の密封装置は、ハブユニット軸受に限らず、各種機械装置に組み込まれる単列又は複列の転がり軸受に適用することができる。
【符号の説明】
【0123】
1、1a ハブユニット軸受
2、2a 外輪
3、3a ハブ
4a、4b 転動体
5 外側密封部材
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9、9a ハブ輪
10、10a、10b 内輪
11a、11b 内輪軌道
12 軸部
13 回転フランジ
14 パイロット部
15 小径部
16 かしめ部
17 内部空間
18、18a、18b 内側密封部材
19 外部空間
20、20a 磁性流体シール
21、21a シールリップ
22 外径側芯金
22a 外径側筒部
22b 円すい筒部
22c 円輪部
22d 内径側筒部
23 内径側芯金
23a 支持筒部
23b フランジ部
24、24a、24b 多極磁石
25、25a、25b、25x、25y ターゲットリング
26、26a 磁性流体
27、27a、27b 環状隙間
28 弾性材
29 固定筒部
30 底板部
31 突き当て部
32 スプライン孔
33 芯金
33a 外径側筒部
33b 円輪部
33c 内径側筒部
34 スリンガ
34a 支持筒部
34b フランジ部
35 弾性材
36 取付孔
37 スタッド
38a、38b 保持器
100 転がり軸受
101 外輪
102 内輪
103 玉
104 密封部材
105 外輪軌道
106 内輪軌道
107 内部空間
108 磁性流体シール
109 シールリップ
110 磁石
111 内側極板
112 磁性流体
113 外部空間
114 環状隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10