(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167099
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】真贋判定装置、プログラムおよびスキャナ
(51)【国際特許分類】
G06T 7/60 20170101AFI20231116BHJP
B42D 25/23 20140101ALI20231116BHJP
【FI】
G06T7/60 300
B42D25/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078006
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】椎名 祐登
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝次
【テーマコード(参考)】
2C005
5L096
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HB03
2C005JB40
5L096AA02
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA04
5L096EA16
5L096EA35
5L096FA33
5L096FA35
5L096FA52
5L096FA64
5L096FA67
5L096FA69
5L096GA08
5L096GA10
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】本人確認証の真贋判定を好適に行うことのできる真贋判定装置等を提供する。
【解決手段】真贋判定装置3は、IDカードの真贋判定を行うものである。真贋判定装置3は、IDカードを、当該IDカードの両側に設けた光源を片側ずつ点灯させて撮影した一対の撮影画像を取得する取得手段301と、一対の撮影画像のそれぞれから得たIDカードの画像の輝度の差分をとった差分画像に基づき、IDカードが変造の行われた偽のIDカードか否かを判定する真贋判定手段302と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本人確認証の真贋判定を行う真贋判定装置であって、
前記本人確認証を、当該本人確認証の両側に設けた光源を片側ずつ点灯させて撮影した一対の撮影画像を取得する取得手段と、
前記一対の撮影画像のそれぞれから得た前記本人確認証の画像の輝度の差分をとった差分画像に基づき、前記本人確認証が変造の行われた偽の本人確認証か否かを判定する真贋判定手段と、
を有することを特徴とする真贋判定装置。
【請求項2】
前記真贋判定手段は、前記差分の絶対値を輝度として示す前記差分画像において、輝度を所定の閾値と比較することで輝度の大きな輝点を検出し、前記輝点の数を第1の判定値と比較することで、偽の本人確認証か否かの判定を行うことを特徴とする請求項1記載の真贋判定装置。
【請求項3】
前記真贋判定手段は、前記本人確認証の角折れ部分が、前記差分画像における輝点とならないようにマスク処理を行うことを特徴とする請求項2記載の真贋判定装置。
【請求項4】
前記真贋判定手段は、前記本人確認証の予め定められた部分が、前記差分画像における輝点とならないようにマスク処理を行うことを特徴とする請求項2記載の真贋判定装置。
【請求項5】
前記真贋判定手段は、前記差分画像中の所定の領域を所定方向に沿って見たときに、前記輝点の存在する前記所定方向の位置が連続する連続範囲を抽出し、前記連続範囲内の輝点の総数を第2の判定値と比較することで、偽の本人確認証か否かの判定を行うことを特徴とする請求項2に記載の真贋判定装置。
【請求項6】
前記真贋判定手段は、前記連続範囲内の輝点の前記所定方向の位置のばらつきに基づき、前記偽の本人確認証について、貼付痕を有するか削り跡を有するかを判別することを特徴とする請求項5記載の真贋判定装置。
【請求項7】
前記真贋判定手段は、前記取得手段で取得した前記一対の撮影画像のそれぞれについて、撮影時に点灯された前記光源による輝度変化の成分を除去するための輝度補正を行うことを特徴とする請求項1記載の真贋判定装置。
【請求項8】
本人確認証の真贋判定を行う真贋判定装置を、
前記本人確認証を、当該本人確認証の両側に設けた光源を片側ずつ点灯させて撮影した一対の撮影画像を取得する取得手段と、
前記一対の撮影画像のそれぞれから得た前記本人確認証の画像の輝度の差分をとった差分画像に基づき、前記本人確認証が変造の行われた偽の本人確認証か否かを判定する真贋判定手段と、
を有する真贋判定装置として機能させるためのプログラム。
【請求項9】
本人確認証の真贋判定を行う真贋判定装置と通信可能に接続されたスキャナであって、
前記本人確認証を、当該本人確認証の両側に設けた光源を片側ずつ点灯させて撮影し、
撮影を行って得た一対の撮影画像を、前記一対の撮影画像のそれぞれから得た前記本人確認証の画像の輝度の差分をとった差分画像に基づき、前記本人確認証が変造の行われた偽の本人確認証か否かを判定する前記真贋判定装置に送信することを特徴とするスキャナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真贋判定装置とそのプログラム、およびスキャナ等に関する。
【背景技術】
【0002】
金融機関では口座開設時に運転免許証等のIDカード(本人確認証)による本人確認が必要であるが、特殊詐欺などの犯罪目的から別人になりすまして口座開設を行うために、IDカードを変造等するケースが増えつつある。
【0003】
通常の金融機関では、ユーザが金融機関に出向いてIDカードを提出し、金融機関側は提出されたIDカードを用いて対面により本人確認するのが一般的である。また特許文献1、2にはIDカードの券面をスキャナ等で読取って得た画像からIDカードの真贋を判定する真贋判定装置が記載されており、提出されたIDカードをスキャナ等で読取ることでIDカードの真贋判定を行うことも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-34535号公報
【特許文献2】特開2019-117549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、IDカードを変造する手法には、偽の券面情報を印刷した紙片等を正規のIDカードに貼り付ける、正規のIDカードの券面情報を削り取った後に偽の券面情報を書き込むといった例があり、本人確認の厳格化の観点からさらに確実に真贋判定を行い、これらの変造を検出できる技術が望まれていた。
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、本人確認証の真贋判定を好適に行うことのできる真贋判定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するための第1の発明は、本人確認証の真贋判定を行う真贋判定装置であって、前記本人確認証を、当該本人確認証の両側に設けた光源を片側ずつ点灯させて撮影した一対の撮影画像を取得する取得手段と、前記一対の撮影画像のそれぞれから得た前記本人確認証の画像の輝度の差分をとった差分画像に基づき、前記本人確認証が変造の行われた偽の本人確認証か否かを判定する真贋判定手段と、を有することを特徴とする真贋判定装置である。
【0008】
本発明では、本人確認証に偽の券面情報を印刷した紙片等を貼り付ける、本人確認証の券面情報を削り取った後に偽の券面情報を書き込むといった変造が行われた場合、本人確認証に貼付痕や削り跡による段差が生じ、その段差が、本人確認証の片側に位置する光源を点灯させて本人確認証の撮影を行った場合に明部や暗部として現れることを利用して本人確認証の真贋判定を行うことができる。また、本人確認証の両側の光源を片側ずつ点灯させて撮影を行った一対の撮影画像のそれぞれから本人確認証の画像を得て、これらの画像の差分をとることで、上記の段差が生じた部分のみを差分画像として抽出し、真贋判定を好適に行うことができる。
【0009】
前記真贋判定手段は、前記差分の絶対値を輝度として示す前記差分画像において、輝度を所定の閾値と比較することで輝度の大きな輝点を検出し、前記輝点の数を第1の判定値と比較することで、偽の本人確認証か否かの判定を行うことが望ましい。
貼付痕や削り跡による段差は、一方の画像では明部として、他方の画像では暗部として現れる。結果、上記の差分画像では、段差の生じた部分が輝度の大きな画素(輝点)として検出されるので、その数を判定値と比較することで、偽の本人確認証か否かの判定が可能である。
【0010】
前記真贋判定手段は、前記本人確認証の角折れ部分が、前記差分画像における輝点として検出されないようにマスク処理を行うことが望ましい。
本人確認証に角折れがある場合、一方の画像では明部として、他方の画像では暗部として現れる。これは本人確認証の真贋とは関係が無いので、マスク処理により差分画像の輝点として検出されないようにする。
【0011】
前記真贋判定手段は、前記本人確認証の予め定められた部分が、前記差分画像における輝点として検出されないようにマスク処理を行うことも望ましい。
本人確認証には、ホログラム部分など、一方の画像と他方の画像で異なる輝度となるものの、本人確認証の真贋とは関係が無い部分が存在する場合もある。本発明では、そのような部分についても、マスク処理により差分画像の輝点として検出されないようにする。
【0012】
前記真贋判定手段は、前記差分画像中の所定の領域を所定方向に沿って見たときに、前記輝点の存在する前記所定方向の位置が連続する連続範囲を抽出し、前記連続範囲内の輝点の総数を第2の判定値と比較することで、偽の本人確認証か否かの判定を行うことが望ましい。
差分画像に輝点が生じている場合でも、それがある程度まとまって存在していない場合には、ノイズである可能性が高い。そこで、ノイズによる誤判定を避けるため、上記のように輝点のまとまりを考慮した真贋判定を行うことができる。
【0013】
前記真贋判定手段は、前記連続範囲内の輝点の前記所定方向の位置のばらつきに基づき、前記偽の本人確認証について、貼付痕を有するか削り跡を有するかを判別することが望ましい。
本人確認証に紙片等を貼り付けた場合は、輝点が紙片等の輪郭部分に集中するのに対し、本人確認証の券面情報を削り取った場合は、輝点の位置にばらつきが生じることから、連続範囲における輝点の位置のばらつきに基づき、本人確認証の変造の方法を判別することも可能である。
【0014】
前記真贋判定手段は、前記取得手段で取得した前記一対の撮影画像のそれぞれについて、撮影時に点灯された前記光源による輝度変化の成分を除去するための輝度補正を行うことが望ましい。
これにより、光源の位置に応じた輝度変化の成分を撮影画像から除去し、真贋判定の精度を向上させることができる。
【0015】
第2の発明は、本人確認証の真贋判定を行う真贋判定装置を、前記本人確認証を、当該本人確認証の両側に設けた光源を片側ずつ点灯させて撮影した一対の撮影画像を取得する取得手段と、前記一対の撮影画像のそれぞれから得た前記本人確認証の画像の輝度の差分をとった差分画像に基づき、前記本人確認証が変造の行われた偽の本人確認証か否かを判定する真贋判定手段と、を有する真贋判定装置として機能させるためのプログラムである。
第2の発明は、第1の発明の真贋判定装置のプログラムである。
【0016】
第3の発明は、本人確認証の真贋判定を行う真贋判定装置と通信可能に接続されたスキャナであって、前記本人確認証を、当該本人確認証の両側に設けた光源を片側ずつ点灯させて撮影し、撮影を行って得た一対の撮影画像を、前記一対の撮影画像のそれぞれから得た前記本人確認証の画像の輝度の差分をとった差分画像に基づき、前記本人確認証が変造の行われた偽の本人確認証か否かを判定する前記真贋判定装置に送信することを特徴とするスキャナである。
第3の発明は、第1の発明の真贋判定装置での真贋判定に用いる撮影画像の撮影を行うスキャナであり、本人確認証を、当該本人確認証の両側に設けた光源を片側ずつ点灯させて撮影を行うものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、本人確認証の真贋判定を好適に行うことのできる真贋判定装置等を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】スキャナ2内のカメラ21と光源22を示す図。
【
図3】真贋判定装置3のハードウェア構成を示す図。
【
図8】IDカード10上の紙片101と削り跡104を示す図。
【
図9】IDカード10の段差を利用した真贋判定の手順を示すフローチャート。
【
図10】IDカード10の撮影画像100、基準画像110、および輝度補正後の撮影画像120を示す図。
【
図12】角折れ部分のマスク処理について説明する図。
【
図13】差分画像140の作成について説明する図。
【
図15】削り跡104がある場合の差分画像140の例。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
(1.真贋判定システム1)
図1は、本発明の実施形態に係る真贋判定装置3を有する真贋判定システム1を示す図である。
図1に示すように、真贋判定システム1は、スキャナ2と真贋判定装置3とを有線または無線により通信可能に接続して構成される。真贋判定システム1では、IDカード10の撮影画像をスキャナ2から真贋判定装置3に送信し、真贋判定装置3にて当該撮影画像からIDカード10の真贋判定を行う。
【0021】
スキャナ2は、IDカード10を撮影するものである。
図2に示すように、スキャナ2の内部には、カメラ21と光源22が設けられる。スキャナ2では、所定位置にセットされたIDカード10を直上に設けたカメラ21で撮影する。光源22は、IDカード10の両側の斜め上方に設けられる。
【0022】
カメラ21は、光学レンズ、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の撮像素子、A/D(Analog/Digital)変換部等から構成されるエリアカメラである。光源22は例えばLED(Light Emitting Diode)を用いたライン光源であるが、これに限らない。
【0023】
図3は真贋判定装置3のハードウェア構成を示す図である。真贋判定装置3は、制御部31、記憶部32、通信部33、表示部34等をバス等で接続して構成されたコンピュータにより実現できる。ただしこれに限ることは無く、適宜様々な構成をとることができる。
【0024】
制御部31はCPU、ROM、RAMなどから構成される。CPUは、記憶部32、ROMなどの記憶媒体に格納された真贋判定装置3の処理に係るプログラムをRAM上のワークエリアに呼び出して実行する。ROMは不揮発性メモリであり、ブートプログラムやBIOSなどのプログラム、データなどを恒久的に保持している。RAMは揮発性メモリであり、記憶部32、ROMなどからロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部31が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0025】
記憶部32はハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリ等であり、後述する処理に際し真贋判定装置3が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OSなどが格納される。
【0026】
通信部33はスキャナ2との間の通信を媒介する通信インタフェースである。表示部34は液晶ディスプレイ等であり、本実施形態の真贋判定処理に係る各種の情報を表示する。
【0027】
(2.IDカード10)
IDカード10は、本実施形態において真贋判定の対象となる本人確認証である。本人確認証は、各種の行政機関、金融機関や携帯電話キャリア等で行政手続や本人確認に用いられる媒体であり、本実施形態では特に、運転免許証とする。ただし、IDカード10はこれに限らず、マイナンバーカード、在留カード、特別永住カードであってもよい。
【0028】
図4はIDカード10(運転免許証)の概略を示す図であり、IDカード10の券面を一部省略して模式的に示したものである。
【0029】
IDカード10では、長方形の基材上に様々な券面情報が印刷等により形成される。例えば運転免許証については、本人の氏名12、生年月日13および住所14、運転免許証の交付年月日15、番号16および有効期限17等の文字情報がそれぞれ所定の位置に形成される。また本人の顔画像18などの画像情報も所定の位置に形成される。
【0030】
(3.真贋判定装置3の機能)
図5は真贋判定装置3の機能を示すブロック図である。真贋判定装置3は、取得手段301、真贋判定手段302等を有する。
【0031】
取得手段301は、真贋判定装置3の制御部31が、通信部33を介してスキャナ2からIDカード10の撮影画像を受信し、取得するものである。
【0032】
真贋判定手段302は、真贋判定装置3の制御部31が、スキャナ2から取得したIDカード10の撮影画像を用い、IDカード10の真贋判定を行うものである。この真贋判定の詳細については後述する。
【0033】
(4.真贋判定方法)
図6は、真贋判定システム1で実行される真贋判定方法の概略を示すフローチャートである。
図6のS1~S2はスキャナ2の制御部(不図示)がスキャナ2の各部を制御して実行する処理であり、S3~S5は真贋判定装置3の制御部31が真贋判定装置3の各部を制御して実行する処理である。
【0034】
本実施形態では、まずユーザがIDカード10をスキャナ2の所定位置にセットし、スキャナ2は、ユーザの操作に応じてカメラ21によりIDカード10を撮影する(S1)。
【0035】
本実施形態では特に、IDカード10の撮影時、スキャナ2が、
図7に示すように一方の光源22のみを点灯させてIDカード10の撮影を行った後、他方の光源22のみを点灯させてIDカード10の撮影を行う。こうしてIDカード10の両側に位置する光源22を片側ずつ点灯させて撮影を行い、一対の撮影画像を得る。
【0036】
スキャナ2は、IDカード10を撮影して得た一対の撮影画像を真贋判定装置3に送信する(S2)。真贋判定装置3は、IDカード10の撮影画像を受信する(S3)と、撮影画像を用いてIDカード10の真贋判定を行う(S4)。S4の真贋判定の詳細については後述する。
【0037】
真贋判定装置3は、IDカード10の真贋判定の結果を表示部34に表示し(S5)、処理を終了する。担当者は、その表示内容に応じて適切な処理をとることができる。
【0038】
(5.IDカード10の段差に基づく真贋判定)
本実施形態では、IDカード10に偽の券面情報を印刷した紙片等を貼り付ける、IDカード10の券面情報を削り取った後に偽の券面情報を書き込むといった変造を行うと、IDカード10に貼付痕や削り跡による段差が生じることを利用してIDカード10の真贋判定を行う。
【0039】
例えば
図8(a)に示すように、IDカード10に紙片101が貼り付けられている場合、IDカード10の撮影時に一方の光源22を点灯して照明光221を照射すると、光源22に近い方の紙片101の端部102は、その段差から生じる照明光221の拡散反射により明るく写る。一方、光源22から遠い方の端部103では、段差により生じる陰の影響で端部103の近傍が暗く写る。従って、そのような明部あるいは暗部から、IDカード10に紙片101を貼り付けるような変造を検出できる。
【0040】
他方、
図8(b)に示すように、IDカード10に削り跡104が存在する場合、IDカード10の撮影時に一方の光源22を点灯して照明光221を照射すると、光源22に近い方の削り跡104の端部105では、段差により生じる陰の影響で端部105の近傍が暗く写る。一方、光源22から遠い方の端部106は、その段差から生じる照明光221の拡散反射により明るく写る。従って、そのような明部あるいは暗部から、IDカード10の券面情報を削り取るような変造を検出できる。
【0041】
以下、上記のようなIDカード10の段差を利用した真贋判定の手順について
図9等を参照して説明する。
図9は、S4における真贋判定の手順を示すフローチャートである。
【0042】
本実施形態では、S4において、まずS3で受信した一対の撮影画像の輝度補正を行う(S401)。
図10(a)はIDカード10の撮影画像100の例である。
図10(a)は
図2の左側の光源22を点灯させてIDカード10を撮影することで得た撮影画像100の例であり、左側が明るく、右側が暗く写っている。
【0043】
S401の輝度補正は、基準白色版をIDカード10と同様に撮影して得た基準画像を用いて行う。
図10(b)はこの基準画像110の例であり、左側の光源22を点灯させて基準白色版を撮影することで得たものである。S401では、基準画像110の輝度変化を光源22による輝度変化とし、撮影画像100から光源22による輝度変化の成分を除去する輝度補正を行うことができる。一例として、撮影画像100の各画素の輝度を基準画像110の同じ位置の画素の輝度で割った値に一定値(例えば次に述べる最大値未満の値とする)を掛けることにより、撮影画像100の輝度補正を行うことができる。
【0044】
図10(c)は輝度補正後の撮影画像120の例である。S401の輝度補正は、前記した段差による明部131(
図13(b)参照)が強調されるよう、明部131を除く部分の輝度が輝度補正によって最大値(例えば255段階の階調値によって輝度を表す場合、255)まで上昇しないようにすることが望ましい。
【0045】
以上は左側の光源22を点灯させて撮影を行った撮影画像100の輝度補正の例であるが、右側の光源22を点灯させてIDカード10の撮影を行った撮影画像100に関しても、上記と同様に、右側の光源22を点灯させて基準白色版を撮影することで得た基準画像110を用い、光源22による輝度変化の影響を除外した輝度補正後の撮影画像120を得ることができる。
【0046】
真贋判定装置3は、次に、一対の撮影画像120のそれぞれからIDカード10の範囲を抽出し、抽出した範囲を回転させて正しい向きとする(S402)。そして、当該範囲の内側近傍の部分を切り出してIDカード10の画像130とする(S403)。
【0047】
図11(a)は、撮影画像120からIDカード10の範囲を抽出して回転させたものであり、S403では、図中Aに示す部分を切り出すことで、
図11(b)に示す画像130を得ることができる。
【0048】
前記の撮影画像100では、
図8(a)で説明したものと同様の理由で、IDカード10の輪郭部分に明部または暗部ができることがある。S403においてIDカード10の輪郭部分を除外してIDカード10の画像130を作成することで、後述する処理においてIDカード10の輪郭部分の明部や暗部の影響を取り除くことができる。前記の部分Aは、一対の撮影画像120のそれぞれから抽出されるIDカード10の範囲内の同じ位置に定められる。
【0049】
なお本実施形態では、
図11(c)に示すように、IDカード10の画像130内で所定の領域aの位置が予め設定されている。この領域aは、例えば
図4に示す氏名12および生年月日13の領域、住所14の領域、交付年月日15の領域、番号16の領域、有効期限17の領域、顔画像18の領域などである。
【0050】
真贋判定装置3は、一対の撮影画像100から得られた一対の画像130をそれぞれリサイズして縮小した後、各画像130のグレースケール変換を行う(S404)。これにより、以降の処理が高速化される。グレースケール変換の具体的な方法は特に問わない。
【0051】
次に、真贋判定装置3は、一対の画像130のそれぞれについて、角折れ部分のマスク処理を行う(S405)。これは、スキャナ2での撮影時にIDカード10が角折れしていると、角折れによる反りの影響で、
図12(a)の画像130に示すようにIDカード10の角折れ部分(画像130の右上の隅部参照)が明部や暗部として現れ、真贋判定の結果に影響を与える恐れがあるためである。
【0052】
図12(a)は一対の画像130のそれぞれについて角折れの影響を示したものであり、IDカード10の撮影時に点灯した光源22の違いにより、一方の画像130では角折れ部分が明部として現れ、他方の画像130では同じ角折れ部分が暗部として現れる。
【0053】
本実施形態では、
図12(b)に示すように、画像130の四隅の領域bについて、輝度が基準値以上の画素の数をカウントし、その数が所定値以上の場合、角折れがあると判定してマスク処理を実施する。領域bは、例えば縦20画素、横20画素の大きさとするが、これに限ることはない。また上記の基準値や所定値も適宜定めることができる。
【0054】
マスク処理は、
図12(c)に示すように、画像130の隅部の前記領域bを含み且つ前記領域bと同じ大きさの領域bを縦横に複数並べた範囲Bを対象として実施する。マスク処理は、輝度が基準値以上の画素の数が所定値以上である領域b内の全ての画素の輝度を0に変換することによって行う。一方、輝度が基準値以上の画素の数が所定値未満である領域bについては、輝度が基準値以上の画素のみ、その輝度を0に変換する。上記の基準値および所定値は、角折れの有無の判定時に用いた基準値および所定値と同じ値であるが、これに限らない。
【0055】
上記のマスク処理により、
図12(d)に示すように、角折れ部分が明部として現れる画像130について、その角折れ部分の輝度を0に変換してマスクすることができる。一方、角折れ部分が暗部として現れる画像130については、
図12(e)に示すように、上記マスクを行った部分と同じ部分の輝度を0に変換してマスクする。
【0056】
このように、角折れ部分のマスク処理を、角折れ部分が明部として現れる画像130を基準として行っているのは、仮に角折れ部分が暗部として現れる画像130についてマスク処理を行うと、券面上の低輝度の文字や枠線等がマスク処理に影響を与える可能性があるためである。なお、マスク部分の輝度は0に限らず、一対の画像130で同じ値であればよい。
【0057】
次に、真贋判定装置3は、一対の画像130の輝度の差分をとって差分画像を作成する(S406)。より具体的には、一対の画像130の対応する位置にある画素同士の輝度差を算出し、その絶対値を当該位置の画素の輝度として差分画像を作成する。
【0058】
図13(a)は紙片101を貼り付ける変造を行ったIDカード10の例であり、
図13(b)は当該IDカード10についてS405までの処理で得られる一対の画像130の例である。S406では、これらの画像130の輝度の差分をとることで、
図13(c)に示すように差分画像140が得られる。
【0059】
図13(a)の例では、
図4のIDカード10の氏名12、住所14、顔画像18の欄に紙片101が貼られ、
図13(b)に示す画像130では、紙片101の両側に貼付痕として明部131または暗部132が生じている。一方の画像130で明部131として現れる部分は、他方の画像130で暗部132として現れる。その結果、
図13(c)に示すように、差分画像140では、紙片101の両側の輝度が大きくなる。
【0060】
真贋判定装置3は、さらに、差分画像140において、IDカード10の予め定められた部分の輝度を0とすることで、当該部分のマスク処理を行う(S407)。S407で更にマスク処理を行うのは、ホログラムなどIDカード10の真贋に関係の無い要因により差分画像140の輝度が大きくなるケースがあるためであり、そのような要因が生じ得る部分に予めマスク処理を行うことで、当該要因の真贋判定への影響を防止する。例えばIDカード10にホログラムがあると、そのホログラム部分において、左右それぞれの光源22を点灯してIDカード10を撮影した撮影画像100の輝度に違いが生じ、差分画像140において輝度が大きくなる。なお、マスク部分の輝度は0に限らず、次に述べる閾値より低い値であればよい。
【0061】
その後、真贋判定装置3は、差分画像140の各画素を所定の閾値と比較し、閾値よりも輝度の大きな画素を輝点として検出する(S408)。S405でマスク処理を行った部分は、一対の画像130で同じ輝度となるので、差分画像140において輝度が大きくなることはなく、当該部分が輝点として検出されることはない。これはS407でマスク処理を行った部分についても同様である。
【0062】
真贋判定装置3は、輝点の数をカウントし、その数が判定値(第1の判定値)以下の場合(S409;YES)、IDカード10が真である(S410)として処理を終了する。
【0063】
一方、輝点の数が判定値を超える場合(S409;NO)、真贋判定装置3は、差分画像140から
図11(c)の各領域aを切り出し、各領域aの所定方向の位置ごとに、当該位置にある輝点の数を示したヒストグラムを作成する(S411)。
【0064】
図14(a)は、差分画像140からIDカード10の氏名12および生年月日13の領域aを切り出したものと、上記の所定方向をIDカード10の長辺方向とし、当該領域aについて作成したヒストグラムの例であり、IDカード10の短辺方向に輝点が並んでいる箇所(輝線)で輝点の数が多くなる。
【0065】
真贋判定装置3は、各領域aのヒストグラムにおいて、輝点の存在する位置が連続する連続範囲Cを抽出する(S412)。
図14(b)は
図14(a)の左側の連続範囲Cを拡大して示す図である。当該連続範囲Cの中には、輝点が存在する位置c1、c2の間に輝点の数が0となる部分があるが、ここでは、輝点が存在する位置c1、c2同士が離れていても、その離隔が基準長以下であれば、それらの位置c1、c2同士を連続するものとみなして連続範囲Cとする。上記の基準長は適宜定めることができる。
【0066】
真贋判定装置3は、各領域aから抽出された全ての連続範囲Cについて、各連続範囲C内の輝点の総数を判定値(第2の判定値)と比較する。そして、全ての連続範囲Cについて、連続範囲C内の輝点の総数が判定値以下である場合(S413;YES)、IDカード10を真とし(S410)、処理を終了する。
【0067】
これは、差分画像140に輝点が存在する場合であっても、それがある程度まとまって存在していない場合には、IDカード10の真贋に関係の無いノイズである可能性が高いためである。例えば
図14(c)のヒストグラムの右側の連続範囲Cはノイズによるものであり、連続範囲C内の輝点の総数が少ない。従って、全ての連続範囲Cがそのようなノイズによるものと考えられる場合は、IDカード10を真とする。
【0068】
なお、上記の判定値は領域aごとに定められ、それぞれの領域aの高さ(縦方向の画素数)に所定の係数を掛けたものとし、領域aの高さに応じた値とする。係数の値は適宜定めることができ、例えば1.2とする。
【0069】
真贋判定装置3は、いずれかの連続範囲Cで輝点の総数が判定値を超える場合(S413;NO)、IDカード10を偽とし(S414)、処理を終了する。
【0070】
本実施形態では、以上のようにしてIDカード10の真贋判定処理を行うことができる。上記の例ではIDカード10の貼付痕に由来する輝点を元にIDカード10を偽としたが、IDカード10に削り跡104が存在する場合にも、上記と同様に差分画像140に輝点が生じるので、IDカード10を偽として検出することができる。
【0071】
IDカード10を偽と判定した場合には、IDカード10が貼付痕を有するか削り跡104を有するかを判別することも可能である。例えば、ノイズでない連続範囲C内の各輝点に対し、下記の式(1)により重み付き平均Aveを算出する。式(1)において、pnは輝点の階調値、Xは当該輝点の所定方向(本実施形態ではIDカード10の長辺方向)の位置、Thは輝点を検出する際の閾値である。
Avg=Σ[(pn-Th)*X]/Σ[(pn-Th)]…(1)
【0072】
そして、下記の式(2)により、評価値StDevを算出する。評価値StDevは、各輝点の位置のばらつきに基づく値であり、そのばらつきを各輝点の輝度を勘案して評価したものである。
StDev=√{Σ[(pn-Th)*(X-Avg)2]/Σ[(pn-Th)]}…(2)
【0073】
真贋判定装置3は、上記のようにして求めた評価値StDevを判別値と比較し、評価値StDevが判別値以下であれば、連続範囲Cの輝点の位置のばらつきが小さいため貼替痕とし、評価値StDevが判別値を超えていれば、連続範囲Cの輝点の位置のばらつきが大きいため削り跡104とする。IDカード10に削り跡104が存在する場合には、
図15に示すように輝点の連続範囲Cの幅は比較的大きくなり、StDevの値が大きくなるので、StDevの値により貼付痕と削り跡104の違いを判別することができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態では、IDカード10に偽の券面情報を印刷した紙片101等を貼り付ける、IDカード10の券面情報を削り取った後に偽の券面情報を書き込むといった変造が行われた場合、IDカード10に貼付痕や削り跡104による段差が生じ、その段差が、IDカード10の片側に位置する光源22を点灯させてIDカード10の撮影を行った場合に明部や暗部として現れることを利用してIDカード10の真贋判定を行うことができる。また、IDカード10の両側の光源22を片側ずつ点灯させて撮影を行った一対の撮影画像100のそれぞれからIDカード10の画像130を得て、これらの画像130の差分をとることで、上記の段差が生じた部分のみを差分画像140から抽出し、真贋判定を好適に行うことができる。
【0075】
通常の撮影手法ではIDカード10の周囲から均等に光が当たっている条件下でIDカード10の撮影を行うので、貼付痕や削り跡104による段差を検出することが難しいが、本実施形態では上記の手法により撮影を行うことで、IDカード10の段差による真贋判定を精度良く行うことが可能になる。
【0076】
上記の段差は、一方の画像130では明部として、他方の画像130では暗部として現れる。結果、上記の差分画像140では、段差の生じた部分が輝度の大きな画素(輝点)として検出されるので、その数を判定値と比較することで、偽のIDカード10か否かの判定が可能である。
【0077】
またIDカード10に角折れがある場合、一方の画像130では明部として、他方の画像130では暗部として現れる。これは本人確認証の真贋とは関係が無いので、S405(
図9参照)のマスク処理により輝点として検出されないようにする。
【0078】
またIDカード10には、ホログラム部分など、両画像130で異なる輝度となるものの、IDカード10の真贋とは関係が無い部分が存在する場合もある。本実施形態では、そのような部分についても、S407(
図9参照)のマスク処理により輝点として検出されないようにする。
【0079】
また、差分画像140に輝点が生じている場合でも、それがある程度まとまって存在していない場合には、ノイズである可能性が高い。そこで、ノイズによる誤判定を避けるため、S413(
図9参照)において、輝点のまとまりを考慮した真贋判定を行うことができる。
【0080】
また、IDカード10に紙片101等を貼り付けた場合は、輝点が紙片101等の輪郭部分に集中するのに対し、IDカード10の券面情報を削り取った場合は、輝点の位置にばらつきが生じることから、連続範囲Cにおける輝点の位置のばらつきに基づき、IDカード10の変造の方法を判別することが可能である。
【0081】
また本実施形態では、前記のS401(
図9参照)において輝度補正を行うことで、光源22の位置に応じた輝度変化の成分を撮影画像100から除去し、真贋判定の精度を向上させることができる。
【0082】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば、運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住カードなどIDカード10の種類に応じてS407(
図9参照)のマスク処理は省略することが可能である。また前記の領域a(
図11(c)参照)も、IDカード10の種類に応じて適宜定めることができる。
【0083】
また真贋判定の目的も特に限定されず、金融機関における口座開設時の他、携帯端末の契約時、各種行政機関における手続時の本人確認などに適用することが可能である。
【0084】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0085】
1:真贋判定システム
2:スキャナ
3:真贋判定装置
10:IDカード
21:カメラ
22:光源
101:紙片
104:削り跡
301:取得手段
302:真贋判定手段