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特開2023-16712アセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016712
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】アセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/407 20060101AFI20230126BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230126BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A61K31/407
A61K9/70 401
A61K47/32
A61K47/06
A61K47/14
A61P25/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108475
(22)【出願日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】17/381,294
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 祐香
(72)【発明者】
【氏名】石田 和也
(72)【発明者】
【氏名】田村 涼馬
(72)【発明者】
【氏名】黒川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】道中 康也
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076BB31
4C076CC01
4C076DD34
4C076EE03
4C076FF67
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA32
4C086NA06
4C086ZA02
(57)【要約】
【課題】 薬物としてアセナピンを含有する貼付剤において、皮膚に対する薬物由来の感作性を十分に低減すること。
【解決手段】 支持体層と粘着剤層とを備えるアセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法であって、
前記粘着剤層を準備するための粘着剤として、前記粘着剤の全量に対して、2~5質量%のアセナピンフリー体、7~18質量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、0.5~10質量%のポリイソブチレン(PIB)、30~70質量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、及び、5~10質量%の流動パラフィンを含有する粘着剤を用い、かつ、
5週齢のHartley系白色雌モルモットの頚背部の皮膚に対して24時間閉塞貼付した場合におけるアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)が、フリー体換算で、90~300μg/cmの範囲内となる前記アセナピン含有貼付剤を準備する、
前記アセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層と粘着剤層とを備えるアセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法であって、
前記粘着剤層を準備するための粘着剤として、前記粘着剤の全量に対して、2~5質量%のアセナピンフリー体、7~18質量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、0.5~10質量%のポリイソブチレン(PIB)、30~70質量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、及び、5~10質量%の流動パラフィンを含有する粘着剤を用い、かつ、
5週齢のHartley系白色雌モルモットの頚背部の皮膚に対して24時間閉塞貼付した場合におけるアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)が、フリー体換算で、90~300μg/cmの範囲内となる前記アセナピン含有貼付剤を準備する、
前記アセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法。
【請求項2】
前記粘着剤層の量が、乾燥後で80~400g/mである、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項3】
前記粘着剤が、1~20質量%のパルミチン酸イソプロピルをさらに含有している、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項4】
前記SISと前記PIBとの質量比(SIS:PIB)が、4:1~3:2である、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項5】
前記アセナピンフリー体と前記SISと前記PIBとの合計量との質量比(アセナピンフリー体:(SIS+PIB))が、1:3~1:14である、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項6】
前記SISと前記PIBとの合計量と前記脂環族飽和炭化水素樹脂との質量比((SIS+PIB):脂環族飽和炭化水素樹脂)が、1:1.1~1:5である、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項7】
前記アセナピンフリー体と前記脂環族飽和炭化水素樹脂との質量比(アセナピンフリー体:脂環族飽和炭化水素樹脂)が、1:6~1:30である、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項8】
前記SISと前記PIBとの合計量と前記流動パラフィンとの質量比((SIS+PIB):流動パラフィン)が、4:1~1:1である、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項9】
前記アセナピンフリー体と前記流動パラフィンとの質量比(アセナピンフリー体:流動パラフィン)が、1:1~1:5である、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項10】
前記アセナピンフリー体と前記パルミチン酸イソプロピルとの質量比(アセナピンフリー体:パルミチン酸イソプロピル)が、1:1~1:5である、請求項3に記載の皮膚感作性の低減方法。
【請求項11】
粘着剤の全量に対して、2~5質量%のアセナピンフリー体、7~18質量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、0.5~10質量%のポリイソブチレン(PIB)、30~70質量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、及び、5~10質量%の流動パラフィンを含有する粘着剤を用い、かつ、5週齢のHartley系白色雌モルモットの頚背部の皮膚に対して24時間閉塞貼付した場合におけるアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)がフリー体換算で300μg/cmを超えるアセナピン含有貼付剤と比べて、皮膚感作性が低減している、請求項1に記載の皮膚感作性の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体層と粘着剤層とを備えるアセナピン含有貼付剤の皮膚感作性を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセナピン(trans-5-クロロ-2-メチル-2,3,3a,12b-テトラヒドロ-1H-ジベンゾ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5-c]ピロール)は、中枢神経系(CNS)抑制活性、抗ヒスタミン活性及び抗セロトニン活性を有する化合物であり、統合失調症等の中枢神経系疾患の治療に用いられる薬物として知られている。
【0003】
アセナピンを含有する製剤としては、例えば、国際公開第2010/127674号(特許文献1)において、スプレー剤、エアロゾル、貼付剤、軟膏等の外用剤が記載されている。また、国際公開第2014/017593号(特許文献2)、国際公開第2014/017594号(特許文献3)、国際公開第2014/017595号(特許文献4)、特開2016-199603号公報(特許文献5)、特開2017-25111号公報(特許文献6)には、アセナピンを含有する貼付剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/127674号
【特許文献2】国際公開第2014/017593号
【特許文献3】国際公開第2014/017594号
【特許文献4】国際公開第2014/017595号
【特許文献5】特開2016-199603号公報
【特許文献6】特開2017-25111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、薬物としてアセナピンを含有する貼付剤において、アセナピンの含有量や粘着剤層の組成が同様であるにも拘らず、皮膚に対する薬物由来の感作がみられる場合とみられない場合があるという課題を有していることを見出した。
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、薬物としてアセナピンを含有する貼付剤において、皮膚に対する薬物由来の感作性を十分に低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の組成を有する粘着剤を用いて得られる粘着剤層と支持体層とを備えるアセナピン含有貼付剤において、前記支持体層上に積層される前記粘着剤層におけるアセナピンの含有量や粘着剤層の組成に加えて、モルモットの皮膚に対するアセナピンの累積皮膚透過量が皮膚に対する薬物由来の感作性に関係があることを見出した。そして、前記アセナピン含有貼付剤において、モルモットの皮膚に対するアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)を特定の範囲内とすることにより、前記目的を達成することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0009】
[1]支持体層と粘着剤層とを備えるアセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法であって、
前記粘着剤層を準備するための粘着剤として、前記粘着剤の全量に対して、2~5質量%のアセナピンフリー体、7~18質量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、0.5~10質量%のポリイソブチレン(PIB)、30~70質量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、及び、5~10質量%の流動パラフィンを含有する粘着剤を用い、かつ、
5週齢のHartley系白色雌モルモットの頚背部の皮膚に対して24時間閉塞貼付した場合におけるアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)が、フリー体換算で、90~300μg/cmの範囲内となる前記アセナピン含有貼付剤を準備する、
前記アセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法。
【0010】
[2]前記粘着剤層の量が、乾燥後で80~400g/mである、[1]に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0011】
[3]前記粘着剤が、1~20質量%のパルミチン酸イソプロピルをさらに含有している、[1]又は[2]に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0012】
[4]前記SISと前記PIBとの質量比(SIS:PIB)が、4:1~3:2である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0013】
[5]前記アセナピンフリー体と前記SISと前記PIBとの合計量との質量比(アセナピンフリー体:(SIS+PIB))が、1:3~1:14である、[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0014】
[6]前記SISと前記PIBとの合計量と前記脂環族飽和炭化水素樹脂との質量比((SIS+PIB):脂環族飽和炭化水素樹脂)が、1:1.1~1:5である、[1]~[5]のうちのいずれか1項に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0015】
[7]前記アセナピンフリー体と前記脂環族飽和炭化水素樹脂との質量比(アセナピンフリー体:脂環族飽和炭化水素樹脂)が、1:6~1:30である、[1]~[6]のうちのいずれか1項に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0016】
[8]前記SISと前記PIBとの合計量と前記流動パラフィンとの質量比((SIS+PIB):流動パラフィン)が、4:1~1:1である、[1]~[7]のうちのいずれか1項に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0017】
[9]前記アセナピンフリー体と前記流動パラフィンとの質量比(アセナピンフリー体:流動パラフィン)が、1:1~1:5である、[1]~[8]のうちのいずれか1項に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0018】
[10]前記アセナピンフリー体と前記パルミチン酸イソプロピルとの質量比(アセナピンフリー体:パルミチン酸イソプロピル)が、1:1~1:5である、[3]~[9]のうちのいずれか1項に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0019】
[11]粘着剤の全量に対して、2~5質量%のアセナピンフリー体、7~18質量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、0.5~10質量%のポリイソブチレン(PIB)、30~70質量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、及び、5~10質量%の流動パラフィンを含有する粘着剤を用い、かつ、5週齢のHartley系白色雌モルモットの頚背部の皮膚に対して24時間閉塞貼付した場合におけるアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)がフリー体換算で300μg/cmを超えるアセナピン含有貼付剤と比べて、皮膚感作性が低減している、[1]~[10]のうちのいずれか1項に記載の皮膚感作性の低減方法。
【0020】
なお、本発明において、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)は、以下の方法で求められた値である。
【0021】
(アセナピンの平均累積皮膚透過量の測定)
被検貼付剤であるアセナピン含有貼付剤(大きさ:2cm×2cm)について、5週齢のHartley系白色雌モルモット(体重:326~402g、6匹)を用いて、温度:19~25℃、相対湿度:30~70%の試験環境下で、以下のようにしてアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)を測定した。
【0022】
先ず、測定0日目に、モルモットの頚背部を除毛し、その部分の皮膚に被検貼付剤を24時間閉塞貼付した後、被検貼付剤を皮膚から剥離した。次いで、測定7日目に、前記モルモットに対して測定0日目と同様の処置を頚背部の同じ部分に施した。さらに、測定14日目にも、前記モルモットに対して測定0日目と同様の処置を頚背部の同じ部分に施した。
【0023】
次いで、前記モルモットの皮膚に対して被検貼付剤を24時間貼付している間に前記皮膚を透過したアセナピンの累積透過量(フリー体換算)、すなわちアセナピンの累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)を、以下のようにして測定した。
【0024】
2cm×2cm(4cm)のサイズに打ち抜いた各貼付剤(未使用貼付剤)、並びに、モルモットから剥離した各貼付剤(剥離後貼付剤)をそれぞれ抽出容器に入れ、そこにテトラヒドロフラン(THF)10mLを加え、60分間振とうしてアセナピン(フリー体)をTHF中に抽出せしめた。次いで、希釈液(メタノール:0.01mol/L SDS(1000倍希釈リン酸)=3:1)を加えて容器中の溶液を正確に50mLとした。そして、得られた溶液を、メンブランフィルターを使用して濾過したものを試験液とした。得られた各試験液について、下記条件にて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析し、各貼付剤中のアセナピンの含量(フリー体換算)を定量した。そして、アセナピンの累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)を、下記式(1)に基づいて求めた。
アセナピンの累積皮膚透過量[μg/cm]={(未使用貼付剤のアセナピン含量[μg])-(剥離後貼付剤のアセナピン含量[μg])}/4[cm] ・・・(1)
【0025】
そして、試験に用いた各モルモットについて求めた測定0日目、7日目、14日目のアセナピンの累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)の平均値を求め、さらに、試験に用いた全モルモットについて求めたアセナピンの累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)の平均値を、アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)とした。
【0026】
<HPLC条件>
カラム:TSKgelODS-80TsQA5μm(4.6mmI.D.×150mm)
移動相:混合液(メタノール:0.01mol/L SDS(1000倍希釈リン酸)=3:1)
測定波長:230nm
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/min
注入量:10μL。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、薬物としてアセナピンを含有する貼付剤において、皮膚に対する薬物由来の感作性を十分に低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0029】
本発明は、支持体層と粘着剤層とを備えるアセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法であって、
前記粘着剤層を準備するための粘着剤として、前記粘着剤の全量に対して、2~5質量%のアセナピンフリー体、7~18質量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、0.5~10質量%のポリイソブチレン(PIB)、30~70質量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、及び、5~10質量%の流動パラフィンを含有する粘着剤を用い、かつ、
5週齢のHartley系白色雌モルモットの頚背部の皮膚に対して24時間閉塞貼付した場合におけるアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)が、フリー体換算で、90~300μg/cmの範囲内となる前記アセナピン含有貼付剤を準備する、
前記アセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法である。
【0030】
本発明に係るアセナピン含有貼付剤は、支持体層と前記支持体層の少なくとも一方の面上に配置された粘着剤層とを備える。前記支持体層としては、従来公知のものを適宜用いることができ、このような支持体層の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ナイロン等のポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体、ポリウレタン等の合成樹脂が挙げられる。また、前記支持体層の形態としては、フィルム;シート;シート状多孔質体;シート状発泡体;織布、編布、不織布等の布帛;及びこれらの積層体等が挙げられる。本発明において、前記支持体層の厚さは特に制限されないが、通常2~3000μm程度であることが好ましい。
【0031】
また、前記粘着剤層の前記支持体層とは反対の面上に剥離ライナーをさらに備えるものであってもよい。かかる剥離ライナーとしては、貼付剤の使用前まで前記粘着剤層を被覆し、使用するときに剥離して除去することが可能なものであればよく、紙(剥離紙)でもよいしアルミ箔でもよい。あるいは、その材質は合成樹脂であってもよい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のフィルム;上質紙とポリオレフィンとのラミネートフィルム;ナイロン、アルミニウム等のフィルム等が挙げられる。これらの剥離ライナーとしては、前記粘着剤層から容易に剥離できるという観点から、シリコーンやポリテトラフルオロエチレン等の剥離剤により表面コート(剥離処理)が施されたものを用いることが好ましい。
【0032】
本発明に係るアセナピン含有貼付剤の粘着剤層を準備するための粘着剤は、前記粘着剤の全量に対して、2~5質量%のアセナピンフリー体、7~18質量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、0.5~10質量%のポリイソブチレン、30~70質量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、及び、5~10質量%の流動パラフィンを含有する。
【0033】
<アセナピン>
本発明に係るアセナピンは、trans-5-クロロ-2-メチル-2,3,3a,12b-テトラヒドロ-1H-ジベンゾ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5-c]ピロールのことを指す。アセナピンは、中枢神経系(CNS)抑制活性、抗ヒスタミン活性及び抗セロトニン活性を有し、通常、統合失調症等の中枢神経系疾患の治療に用いられる薬物として知られている。
【0034】
本発明において、このようなアセナピンとしては、遊離の形態であるアセナピンフリー体であることが必要である。薬物としてアセナピンフリー体を用いると、後述するゴム系粘着剤であるスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンと組み合わせることにより、薬物の皮膚透過性が良好となる。
【0035】
本発明に係るアセナピンフリー体としては、貼付剤の製造時にアセナピンフリー体として添加されたものであってもよく、原料の取り扱い性や安定性の観点から、前記粘着剤層中においてアセナピンの薬学的に許容される塩から生成せしめたものであってもよく、両者の混合物であってもよい。アセナピンの薬学的に許容される塩(以下、場合によりアセナピンの塩という)からアセナピンフリー体を生成せしめる方法としては、例えば、貼付剤の製造時に前記粘着剤層の組成物中に前記アセナピンの塩と金属イオン含有脱塩剤(中和剤)とを配合して前記アセナピンの塩を脱塩させる方法が挙げられる。
【0036】
前記アセナピンの塩としては、前記金属イオン含有脱塩剤によって脱塩されやすいという観点から、酸付加物であることが好ましく、前記酸としては、塩酸、臭化水素酸、メタンスルホン酸等の単塩基酸;フマル酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸等の多塩基酸が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
また、前記金属イオン含有脱塩剤としては、金属水酸化物、酢酸金属塩等が挙げられ、前記金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、製造時に取り扱いが容易であり、かつ、アセナピンフリー体の経時安定性がより向上するという観点から、前記金属イオン含有脱塩剤としては、アルカリ金属イオン含有脱塩剤が好ましく、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムが特に好ましい。
【0038】
本発明に係るアセナピンフリー体を前記アセナピンの塩から生成せしめる場合、前記金属イオン含有脱塩剤の配合量は、前記アセナピンの塩の酸塩基当量に対して0.5~6当量となる量であることが好ましく、1~6当量となる量であることがより好ましい。前記金属イオン含有脱塩剤の配合量が前記下限未満であると、十分な量のアセナピンフリー体を生成せしめることが困難となって十分な皮膚透過性を達成することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると粘着剤層の粘着力が低下する傾向にある。
【0039】
本発明に係る粘着剤において、前記アセナピンフリー体の含有量としては、前記粘着剤の全量に対して2~5質量%であることが必要である。アセナピンフリー体の含有量が前記下限未満の場合には、皮膚透過量が不十分となるために貼付剤の面積を大きくする必要が生じ、他方、前記上限を超える場合には、皮膚刺激等の局所における副作用が生じたり、皮膚感作がみられ易くなる。また、同様の観点から、前記アセナピンフリー体の含有量としては、前記粘着剤の全量に対して3~4質量%であることが特に好ましい。
【0040】
また、本発明に係る粘着剤において、前記アセナピンフリー体の単位面積あたりの含有量(g/m)としては、1.6~20g/mであることが好ましく、2.0~10g/mであることがより好ましい。アセナピンフリー体の単位面積あたりの含有量が前記下限未満の場合には、皮膚透過量が不十分となるために貼付剤の面積を大きくする必要が生じる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、皮膚刺激等の局所における副作用が生じたり、皮膚感作がみられ易くなる傾向にある。
【0041】
<ゴム系粘着剤>
本発明に係る粘着剤においては、粘着基剤であるゴム系粘着剤として、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)とポリイソブチレン(PIB)とを組み合わせて用いる必要がある。このようにSIS及びPIBを前記アセナピンフリー体と組み合わせて用いることにより、粘着剤層からのアセナピンの放出性の向上と粘着剤層の粘着力の向上とを両立することが可能となる。
【0042】
本発明に係る粘着剤において、SISの含有量としては、前記粘着剤の全量に対して7~18質量%であることが必要である。SISの含有量が前記下限未満の場合には、貼付剤の皮膚への付着性が低下し、他方、前記上限を超える場合には、アセナピンの粘着剤層からの放出性が低下し、十分な皮膚透過性を達成することが困難となる。また、同様の観点から、SISの含有量としては、前記粘着剤の全量に対して9~16質量%であることが特に好ましい。
【0043】
本発明に係る粘着剤において、PIBの含有量としては、前記粘着剤の全量に対して0.5~10質量%であることが必要である。PIBの含有量が前記下限未満の場合には、貼付剤の皮膚への付着性が低下し、他方、前記上限を超える場合には、アセナピンの粘着剤層からの放出性が低下し、十分な皮膚透過性を達成することが困難となる。また、同様の観点から、PIBの含有量としては、前記粘着剤の全量に対して3~8質量%であることが特に好ましい。
【0044】
また、前記SISと前記PIBとの質量比(SIS:PIB)は、粘着剤層からのアセナピンの放出性の向上と粘着剤層の粘着力の向上との両立という観点から、4:1~3:2であることが好ましく、3:1~2:1であることがより好ましい。さらに、前記アセナピンフリー体と前記ゴム系粘着剤(SISとPIBとの合計量)との質量比(アセナピンフリー体:ゴム系粘着剤)は、粘着剤層からのアセナピンの放出性の向上と粘着剤層の粘着力の向上との両立という観点から、1:3~1:14であることが好ましく、1:4~1:8であることがより好ましい。
【0045】
<粘着付与剤>
本発明に係る粘着剤においては、粘着付与剤として、脂環族飽和炭化水素樹脂を用いる必要がある。このように脂環族飽和炭化水素樹脂を前記アセナピンフリー体、前記SIS及び前記PIBと組み合わせて用いることにより、貼付剤の皮膚への付着性を向上させることが可能となる。
【0046】
本発明に係る粘着剤において、脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量としては、前記粘着剤の全量に対して30~70質量%であることが必要である。脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量が前記下限未満の場合には、貼付剤の皮膚への付着性が低下し、他方、前記上限を超える場合には、粘着剤層の凝集力が低下し、剥離時の痛みが強くなり易くなる。また、同様の観点から、脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量としては、前記粘着剤の全量に対して45~65質量%であることが特に好ましい。
【0047】
また、前記ゴム系粘着剤(SISとPIBとの合計量)と前記脂環族飽和炭化水素樹脂との質量比(ゴム系粘着剤:脂環族飽和炭化水素樹脂)は、皮膚への付着力の低下抑制と粘着剤層の凝集力の低下抑制との両立という観点から、1:1.1~1:5であることが好ましく、1:2~1:4であることがより好ましい。さらに、前記アセナピンフリー体と前記脂環族飽和炭化水素樹脂との質量比(アセナピンフリー体:脂環族飽和炭化水素樹脂)は、皮膚への付着力の低下抑制という観点から、1:6~1:30であることが好ましく、1:8~1:25であることがより好ましい。
【0048】
<軟化剤>
本発明に係る粘着剤においては、軟化剤として、流動パラフィンを用いる必要がある。このように流動パラフィンを前記アセナピンフリー体、前記SIS、前記PIB及び前記脂環族飽和炭化水素樹脂と組み合わせて用いることにより、貼付剤の皮膚への付着性や製剤物性を向上させることが可能となる。
【0049】
本発明に係る粘着剤において、流動パラフィンの含有量としては、前記粘着剤の全量に対して5~10質量%であることが必要である。流動パラフィンの含有量が前記下限未満の場合には、貼付剤の皮膚への付着性が低下し、他方、前記上限を超える場合には、粘着剤層の凝集力が低下し、剥離後に皮膚に粘着剤層やべたつきが残り易くなる。また、同様の観点から、流動パラフィンの含有量としては、前記粘着剤の全量に対して6~9質量%であることが特に好ましい。
【0050】
また、前記ゴム系粘着剤(SISとPIBとの合計量)と前記流動パラフィンとの質量比(ゴム系粘着剤:流動パラフィン)は、皮膚への付着力の低下抑制と粘着剤層の凝集力の低下抑制との両立という観点から、4:1~1:1であることが好ましく、3:1~2:1であることがより好ましい。さらに、前記アセナピンフリー体と前記流動パラフィンとの質量比(アセナピンフリー体:流動パラフィン)は、皮膚への付着力の低下抑制という観点から、1:1~1:5であることが好ましく、1:2~1:4であることがより好ましい。
【0051】
<吸収促進剤>
本発明に係る粘着剤においては、吸収促進剤がさらに含有されていることが好ましい。吸収促進剤としては、従来、経皮吸収促進作用を有することが知られている化合物であればよい。吸収促進剤としては、例えば、有機酸エステル(例えば、脂肪酸エステル、ケイ皮酸エステル)、有機酸アミド(例えば、脂肪酸アミド)、脂肪族アルコール、多価アルコール、エーテル(例えば、脂肪族エーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)等が挙げられる。これらの吸収促進剤は、不飽和結合を有していてもよく、環状、直鎖状又は分枝状の化学構造であってもよい。また、吸収促進剤は、モノテルペン系化合物、セスキテルペン系化合物、又は植物油(例えば、オリーブ油)であってもよい。これらの吸収促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明に係る粘着剤においては、吸収促進剤として、パルミチン酸イソプロピルがさらに含有されていることが好ましい。このようにパルミチン酸イソプロピルを前記アセナピンフリー体、前記SIS及び前記PIBと組み合わせて用いることにより、アセナピンの皮膚透過性を向上させることが可能となる。
【0053】
本発明に係る粘着剤において、パルミチン酸イソプロピルの含有量としては、前記粘着剤の全量に対して1~20質量%であることが好ましい。パルミチン酸イソプロピルの含有量が前記下限未満の場合には、アセナピンの粘着剤層からの放出性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、吸収促進剤が粘着剤層から分離されて粘着剤層の粘着性を損ったり、皮膚刺激等の局所における副作用が生じ易くなる傾向にある。また、同様の観点から、パルミチン酸イソプロピルの含有量としては、前記粘着剤の全量に対して5~12質量%であることが特に好ましい。
【0054】
また、前記アセナピンフリー体と前記パルミチン酸イソプロピルとの質量比(アセナピンフリー体:パルミチン酸イソプロピル)は、粘着剤層からのアセナピンの放出性の向上と皮膚感作性の低減との両立という観点から、1:1~1:5であることが好ましく、1:2~1:4であることがより好ましい。
【0055】
<他の添加剤等>
以上説明したように、本発明に係るアセナピン含有貼付剤の粘着剤層を準備するための粘着剤は、アセナピンフリー体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレン、脂環族飽和炭化水素樹脂及び流動パラフィン(さらに、必要に応じてパルミチン酸イソプロピル)をそれぞれ所定の範囲内となるように含有するものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、安定化剤等の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0056】
このような安定化剤としては、トコフェロール及びそのエステル誘導体、アスコルビン酸及びそのエステル誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、製剤物性及び外観、薬物安定化効果の観点から、ジブチルヒドロキシトルエンを安定化剤として用いることがより好ましい。本発明に係る粘着剤がこのような安定化剤を含有する場合、その含有量としては、前記粘着剤の全量に対して0.1~3質量%であることが好ましい。前記安定化剤の含有量が前記下限未満であると貼付剤中の各成分の安定性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると粘着剤層の凝集力が低下する傾向にある。
【0057】
また、本発明に係るアセナピン含有貼付剤の粘着剤層を準備するための粘着剤は、実質的に水を含有しないことが好ましい。本発明に係る前記粘着剤は主に疎水性の成分から構成されるため、水の含有量が10質量%を超えると水分が粘着剤層から分離されて粘着剤層の粘着性を損なう傾向にある。ここで、実質的に水を含有しないとは、製造時に意図的な水の添加を行わず、また、日本薬局方に準拠したカールフィッシャー法による測定により求められる水の含有量が、粘着剤層の全量に対して10質量%未満であることを意味する。
【0058】
<アセナピン含有貼付剤の皮膚感作性の低減方法>
本発明においては、前記粘着剤からなる粘着剤層を準備し、さらに、5週齢のHartley系白色雌モルモットの頚背部の皮膚に対して24時間閉塞貼付した場合におけるアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)が、フリー体換算で、90~300μg/cmの範囲内となる前記アセナピン含有貼付剤を準備することにより、得られたアセナピン含有貼付剤を皮膚に貼付した場合における薬物由来の皮膚感作性が十分に低減されるようになる。すなわち、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量が前記下限未満の場合には、貼付時における薬物移行量が低下してしまい、他方、前記上限を超える場合には、皮膚に対する薬物由来の感作性の低減が十分に達成されにくくなる。また、同様の観点から、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量としては、フリー体換算で、150~300μg/cmの範囲内であることが特に好ましい。
【0059】
本発明において、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)は前述の方法で求められた値であり、予め作製した被検貼付剤について前述の方法により前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)を求めておき、その後は被検貼付剤と同一の仕様で作製することにより、前記条件(前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)が90~300μg/cmの範囲内)を満たす本発明に係るアセナピン含有貼付剤を準備することが可能となる。
【0060】
<アセナピン含有貼付剤の製造方法>
このような本発明に係るアセナピン含有貼付剤を製造する具体的な方法は、特に制限されず、公知の貼付剤の製造方法を適宜採用することにより製造することができる。
【0061】
例えば、先ず、アセナピンフリー体、ゴム系粘着剤(SIS及びPIB)、脂環族飽和炭化水素樹脂及び流動パラフィン(さらに、必要に応じてパルミチン酸イソプロピル)を溶剤と共に常法に従って練合して均一な粘着剤層組成物を得る。次いで、この粘着剤層組成物を前記支持体層の面上(通常は一方の面上)に所定の厚みで塗布した後、必要に応じて加温して前記溶剤を乾燥除去し、所望の大きさに裁断することにより、前記アセナピン含有貼付剤を得ることができる。
【0062】
なお、前記粘着剤層組成物を得る際に用いる溶剤としては、例えば、トルエン、エタノール、メタノール、酢酸エチル等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記加温の条件としては、前記溶剤に応じて適宜選択することができるが、温度条件としては、通常60~120℃であることが好ましく、加温時間としては、通常2~30分間であることが好ましい。
【0063】
また、前記アセナピン含有貼付剤を準備する際に、前記粘着剤層の前記支持体層と反対の面上に前記剥離ライナーを貼り合わせる工程をさらに含んでいてもよい。また、前記粘着剤層組成物を先ず前記剥離ライナーの一方の面上に前述の所定の厚みとなるように塗布して粘着剤層を形成した後に、前記粘着剤層の前記剥離ライナーと反対の面上に前記支持体層を貼り合わせる工程としてもよい。
【0064】
<粘着剤層の量>
本発明においては、前記粘着剤層組成物を前記支持体層の面上に塗布する際に、粘着剤層の量が乾燥後に80~400g/mとなるようにすることが好ましい。前述のとおり特定の組成を有する粘着剤を用いて得られる粘着剤層と支持体層とを備えるアセナピン含有貼付剤において、前記支持体層上に積層される前記粘着剤層の量を前記範囲内とすることにより、皮膚に対する薬物由来の感作性をより十分に低減することが可能となる。すなわち、前記粘着剤層の量が前記下限未満の場合には、貼付時における薬物移行量が低下してしまう傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、皮膚に対する薬物由来の感作性の低減が十分に達成されにくくなる傾向にある。また、同様の観点から、前記粘着剤層の量としては、乾燥後に90~300g/mであることが特に好ましい。
【0065】
<貼付剤の面積>
本発明においては、前記アセナピン含有貼付剤の面積を5~160cmとすることが好ましく、10~80cmとすることがより好ましい。前記貼付剤の面積が前記下限未満の場合には、十分な皮膚透過性を達成することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、貼付中の皮膚への付着力の低下がみられ易くなる傾向にある。
【0066】
<皮膚感作性とその評価方法>
皮膚感作性とは、遅延性過敏反応の一つで、化学物質による過剰な免疫反応により皮膚にかぶれが起こる現象である。一次刺激を示さないわずかな接触でも、感作性を有する物質によってリンパ節中の感作T型細胞が増殖し、再び同一化学物質に触れると認識されたT型細胞からリンホカインが放出され皮膚炎症を引き起こすことにより、皮膚感作性が陽性となる。
【0067】
このような皮膚感作性の試験法としては、マキシマイゼーション法(Guinea Pig Maximisation Test(GPMT))、ビューラー法(Buehler Test)、局所リンパ節試験(Local Lymph Node Assay(LLNA))が知られており、本発明における皮膚感作性の評価にはいずれの方法を用いることが可能であるが、皮膚への貼付のみで評価できるという観点から、ビューラー法が好ましく採用される。なお、マキシマイゼーション法及びビューラー法は「経済協力開発機構(OECD)の化学物質の試験に関するガイドライン」のTG406として収載されており、局所リンパ節試験は同ガイドラインのTG429として収載されている。
【実施例0068】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例で得られたアセナピン含有貼付剤について、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)を前述の方法で求め、さらに、「経済協力開発機構(OECD)の化学物質の試験に関するガイドライン」のTG406として収載されているビューラー法に準拠して以下の方法で皮膚感作性を評価した。
【0069】
(皮膚感作性の評価方法)
各実施例及び比較例で得られたアセナピン含有貼付剤(被検貼付剤、大きさ:2cm×2cm)について、5週齢のHartley系白色雌モルモット(体重:326~402g、感作群:6匹、対照群(非感作群):6匹)を用いてビューラー法により以下のようにして皮膚感作性を評価した。
【0070】
<試験環境条件>
温度:19~25℃
相対湿度:30~70%
【0071】
<感作>
感作群のモルモットに対する感作は次のようにして行った。すなわち、感作0日目に、モルモットの頚背部を除毛し、その部分の皮膚に被検貼付剤を24時間閉塞貼付した。一方、対照群(非感作群)としては、無処置対照群として前記処置を施さないモルモット用いた。次いで、感作7日目に、感作群のモルモットに対して感作0日目と同様の処置を頚背部の同じ部分に施した。さらに、感作14日目にも、感作群のモルモットに対して感作0日目と同様の処置を頚背部の同じ部分に施した。
【0072】
<惹起>
惹起は、感作第28日目に、感作群及び対照群(非感作群)のモルモットの腹側部を除毛し、その部分の皮膚に被検貼付剤を24時間閉塞貼付した。
【0073】
<評価>
被検貼付剤を除去してから24時間後及び48時間後にそれぞれ、惹起部分を除毛し、皮膚反応を観察した。観察した結果を、表1に示すドレイズ(Draize)の皮膚反応評価基準に基づいて判定し、貼付剤剥離後24時間時点及び貼付剤剥離後48時間時点のそれぞれの皮膚反応スコア(平均値)を求めた。
【0074】
【表1】
【0075】
(実施例1)
先ず、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)14.1質量部、ポリイソブチレン(PIB)6.0質量部、脂環族飽和炭化水素樹脂(商品名:アルコン、荒川化学工業株式会社製)58.6質量部、及び流動パラフィン8.1質量部を混合して均一な粘着基剤組成物を得た。次いで、アセナピンフリー体3.2質量部、パルミチン酸イソプロピル(IPP)10.0質量部、前記粘着基剤組成物86.8質量部、及び適当量のトルエンを混合し、均一な粘着剤層組成物を得た。得られた粘着剤層組成物の組成(トルエンを除く)は表2に示す通りである。
【0076】
次いで、この粘着剤層組成物を剥離処理を施した厚み75μmのポリエステル製フィルム(剥離ライナー)の一方の面上に乾燥後の量が100g/mとなるように塗布し、80℃において15分間乾燥することによりトルエンを除去して粘着剤層を形成した。次いで、前記粘着剤層の前記剥離ライナーとは反対の面上に、厚み25μmのPET製フィルム(支持体層)を積層した後、裁断してアセナピン含有貼付剤を得た。
【0077】
(実施例2及び比較例1~5)
粘着剤層組成物の組成をそれぞれ表2に示す組成とし、さらに、粘着剤層の乾燥後の量を表2に示す量としたこと以外は実施例1と同様にしてアセナピン含有貼付剤を得た。
【0078】
(比較例6)
先ず、アセナピンフリー体3.5質量部、第一のアクリル系粘着剤(商品名:DURO-TAK 87-4287(DT-4287)、Henkel社製)96.5質量部、及び適当量のトルエンを混合し、均一な粘着剤層組成物を得た。得られた粘着剤層組成物の組成(トルエンを除く)は表3に示す通りである。
【0079】
次いで、この粘着剤層組成物を剥離処理を施した厚み75μmのポリエステル製フィルム(剥離ライナー)の一方の面上に乾燥後の量が100g/mとなるように塗布し、80℃において15分間乾燥することによりトルエンを除去して粘着剤層を形成した。次いで、前記粘着剤層の前記剥離ライナーとは反対の面上に、厚み25μmのPET製フィルム(支持体層)を積層した後、裁断してアセナピン含有貼付剤を得た。
【0080】
(比較例7~10)
粘着剤層組成物の組成をそれぞれ表3に示す組成とし、さらに、粘着剤層の乾燥後の量を表3に示す量としたこと以外は比較例6と同様にしてアセナピン含有貼付剤を得た。なお、第二のアクリル系粘着剤として、商品名:DURO-TAK 87-4098(DT-4098)、Henkel社製、シリコーン系粘着剤として、商品名:BIO-PSA 7-4202(BIO-PSA 4202)、デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社製をそれぞれ用いた。
【0081】
(評価)
各実施例及び比較例で得られたアセナピン含有貼付剤について、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)を前述の方法で求め、さらに、前記皮膚感作性を前述の方法で評価した。得られた結果を表2及び表3に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
表2及び表3に示した結果から明らかなとおり、前記本発明の範囲内の特定の組成を有する粘着剤を用いて得られる粘着剤層と支持体層とを備えるアセナピン含有貼付剤において、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)を前記本発明の範囲内とした場合(実施例1~2)は、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)が前記本発明の範囲外の場合(比較例1~2)に比べて、皮膚に対する薬物由来の感作性が明らかに低減されており、後者(比較例1~2)は感作がみられたのに対して前者(実施例1~2)は感作がみられなかった。
【0085】
すなわち、粘着剤の全量に対して、2~5質量%のアセナピンフリー体、7~18質量%のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、0.5~10質量%のポリイソブチレン(PIB)、30~70質量%の脂環族飽和炭化水素樹脂、及び、5~10質量%の流動パラフィンを含有する粘着剤を用いたアセナピン含有貼付剤において、5週齢のHartley系白色雌モルモットの頚背部の皮膚に対して24時間閉塞貼付した場合におけるアセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)がフリー体換算で300μg/cmを超えているアセナピン含有貼付剤(比較例1~2)と比べて、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間)がフリー体換算で90~300μg/cmの範囲内であるアセナピン含有貼付剤(実施例1~2)は皮膚感作性が低減していることが確認された。
【0086】
また、実施例1~2で得られた本発明に係るアセナピン含有貼付剤に対して、粘着剤の組成が相違する比較例3~10で得られたアセナピン含有貼付剤においては、前記アセナピンの平均累積皮膚透過量(24時間、フリー体換算)が前記本発明の範囲内の場合(比較例3、5、6~9)であっても、皮膚に対する薬物由来の感作性は低減されておらず、感作がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明によれば、薬物としてアセナピンを含有する貼付剤において、皮膚に対する薬物由来の感作性を十分に低減することが可能となる。