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特開2023-167130汚泥脱水剤及びそれを用いた汚泥脱水方法
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  • 特開-汚泥脱水剤及びそれを用いた汚泥脱水方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167130
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】汚泥脱水剤及びそれを用いた汚泥脱水方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/147 20190101AFI20231116BHJP
   C08F 220/34 20060101ALI20231116BHJP
   C08F 236/02 20060101ALI20231116BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C02F11/147 ZAB
C08F220/34
C08F236/02
B01D21/01 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078053
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】林田 豪一
(72)【発明者】
【氏名】米倉 温
(72)【発明者】
【氏名】本多 剛
【テーマコード(参考)】
4D015
4D059
4J100
【Fターム(参考)】
4D015BA06
4D015BA19
4D015CA11
4D015CA12
4D015DB07
4D015DB15
4D015DB18
4D015DC03
4D015DC07
4D059AA01
4D059AA03
4D059AA04
4D059AA05
4D059AA06
4D059AA08
4D059BE07
4D059BE08
4D059BE15
4D059BE16
4D059BE17
4D059BE19
4D059BE26
4D059BE27
4D059BE38
4D059BE53
4D059BE55
4D059BJ00
4D059DA16
4D059DA17
4D059DA23
4D059DA24
4D059DB05
4D059DB11
4D059DB21
4D059DB24
4D059DB25
4D059DB26
4D059DB28
4J100AL08P
4J100AM15Q
4J100AS17R
4J100BA32P
4J100BA36R
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA09
4J100DA38
4J100FA03
4J100FA20
4J100FA28
4J100JA18
(57)【要約】
【課題】
汚泥脱水処理として使用される汚泥脱水剤に関するものであり、より性能の高い汚泥脱水剤及び汚泥脱水方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
特定の物性、組成を有する水溶性高分子を含有する汚泥脱水剤を使用することで汚泥脱水性能の向上を達成することができる。水溶性高分子の物性値は、高分子0.05質量%水溶液の粘度をB型粘度計にて回転数2.5、5、10、20、50、100rpmで測定(25℃)、回転数をX、粘度(mPa・s)をYとし、回転数ln(X)をX軸、粘度ln(Y)をY軸とする一次関数グラフを作成し、得られる傾き値(絶対値)が0.32~0.46の範囲を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体1~99モル%、下記一般式(2)で表されるアニオン性単量体0~20モル%及び非イオン性単量体1~99モル%を構成単位とする水溶性高分子を含有する汚泥脱水剤であって、前記水溶性高分子が、下記方法(1)から算出される傾き値(絶対値)0.32~0.46の範囲を有することを特徴とする汚泥脱水剤。
一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1~3のアルキルあるいはアルコキシ基、Rは炭素数1~3のアルキルあるいはアルコキシ基、7~20のアルキル基あるいはアリール基、Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基を表わす、X は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO 、CSO 、CONHC(CHCHSO 、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOO 、YあるいはYは水素または陽イオンをそれぞれ表わす。

方法(1);水溶性高分子0.05質量%水溶液をB型粘度計にて回転数2.5、5、10、20、50、100rpmで粘度(mPa・s、25℃)を測定、回転数ln(X)をX軸、粘度ln(Y)をY軸とする一次関数グラフを作成し、得られる傾き値(絶対値)。尚、Xは回転数、Yは粘度、ln(X)、ln(Y)は、それぞれの自然対数を表す。
【請求項2】
前記水溶性高分子が、重合開始剤としてアゾ系重合開始剤と過酸化物系重合開始剤を併用して製造した水溶性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の汚泥脱水剤。
【請求項3】
前記水溶性高分子の25℃で測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度が、2~10dL/gであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の汚泥脱水剤。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、多官能不飽和単量体を単量体総量に対して0.001~0.01質量%含有する請求項1あるいは2に記載の汚泥脱水剤。
【請求項5】
前記水溶性高分子の形態が油中水型エマルジョンであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の汚泥脱水剤。
【請求項6】
前記請求項1あるいは2に記載の汚泥脱水剤を汚泥に添加し、脱水することを特徴とする汚泥の脱水方法。
















【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥脱水剤として汎用されている水溶性高分子に関するものであり、詳しくは、汚泥脱水性能が向上する水溶性高分子を含有する汚泥脱水剤及びそれを用いた汚泥脱水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理における汚泥脱水においては、一般に水溶性高分子が使用される。しかし、近年の難脱水汚泥に対しては、PAM系汚泥脱水剤単独では効果が不良な場合が多く、様々な脱水処方が提案されている。
例えば、特許文献1では、界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含む単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し重合した後、得られる油中水滴型エマルジョン状液体を、乾燥工程を経ることによって造粒し製造した、電荷内包率が35%以上90%以下であるイオン性水溶性高分子粉末の汚泥脱水剤について開示されている。
このように不飽和二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより、高分子に架橋構造を導入することが検討されているが、多官能性単量体を使用する場合にはミクロゲルが発生しやすいという問題がある。また、多官能性単量体による架橋、分岐構造の導入は、多官能性単量体中の複数の2重結合が反応する必要があるが、この反応率は反応条件に影響されやすく、最適量の調節が困難である。このため性能としては不十分であった。
一方、重合開始剤として過酸化物を使用すると、過酸化物の水素引き抜き効果により、高分子に分岐構造が導入されることが知られている。
特許文献2、特許文献3にはアゾ系開始剤と、硫酸鉄(II)と過酸化水素を使用するレドックス系開始剤を併用、あるいはアゾ開始剤と、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウムを併用する例が記載されている。レドックス系開始剤は、ラジカルが急激に発生し、過剰に分岐構造が導入され、適度な分岐構造を導入することが困難であり、制御が難しいという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開2009-280649号公報
【特許文献2】特開2014-180648号公報
【特許文献3】特開2006-188694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、汚泥脱水処理として使用される汚泥脱水剤に関するものであり、より性能の高い汚泥脱水剤及び汚泥脱水方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため鋭意検討を行なった結果、特定の組成と物性を有する水溶性高分子を含有する汚泥脱水剤を使用することで汚泥脱水性能の向上を達成することができることを見出し、本発明に至った。
一般に高分子水溶液はずり速度の増加に従い粘度が低下する、シェアシニングを示す。その原因についてはいろいろ研究されているが、流動により高分子が伸長し、排除体積効果が減少することにより粘度が低下するという考え方がある(山口則子ら、Science reports of Tokyo Woman‘s Christian University、Received January 10、1980)。
この考え方に従うと、高分子内に分岐或いは架橋構造が導入されると高分子の柔軟性が低下し、流動による高分子の伸長が抑制され、粘度低下が起きにくくなると考えられる。
また、分子量分布が広いと粘度の下降が緩やかになるとの結果も報告されている(近久芳昭、日本物理学会誌第22巻第8号520項)。
一方、水溶性高分子の電荷、分子量等が凝集、脱水性能に影響を及ぼすことは周知であるが、水中での高分子の形状、流水中での形状変化も脱水性能に重要な影響を及ぼすと考えられる。
そうするとシェアシニングの程度、即ち粘度のずり速度依存性は、凝集、脱水性能に影響するものと考えられる。
以上の考察のもと検討を進めた結果、高分子水溶液の粘度がずり速度に対し特定の依存性を有する場合に、優れた凝集、脱水性能を有することを明らかにした。
【発明の効果】
【0006】
本発明における汚泥脱水剤を使用することで、難脱水汚泥や多種多様な汚泥に対して汚泥脱水性能の向上を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明における水溶性高分子としては、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体1~99モル%、下記一般式(2)で表されるアニオン性単量体0~20モル%、非イオン性単量体1~99モル%を構成単位とする。
一般式(1)で表されるカチオン性単量体20~99モル%が好ましく、30~99モル%がより好ましく、40~99モル%がより一層好ましい。これはカチオン性単量体の割合が中~高モルである方が、汚泥種への汎用性があり、本発明における物性値の高分子が製造しやすいためである。
一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1~3のアルキルあるいはアルコキシ基、Rは炭素数1~3のアルキルあるいはアルコキシ基、7~20のアルキル基あるいはアリール基、Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基を表わす、X は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO 、CSO 、CONHC(CHCHSO 、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOO 、YあるいはYは水素または陽イオンをそれぞれ表わす。
【0008】
一般式(1)で表されるカチオン性単量体として、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートあるいはジメチルアミノプロピルアクリルアミドの塩化メチルや塩化エチルなど低級アルキル基のハロゲン化物による四級化物である。例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物等である。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。一般式(2)で表されるアニオン性単量体としては、(メタ)アクリル酸あるいはそのナトリウム塩等のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、マレイン酸あるいはそのアルカリ金属塩、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のアクリルアミドアルカンスルホン酸あるいはそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩等が挙げられる。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。
【0009】
本発明で使用する非イオン性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらの中で(メタ)アクリルアミドが好ましい。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。
【0010】
本発明における水溶性高分子は、カチオン性単量体、非イオン性単量体、及びアニオン性単量体から選択される一種以上の単量体あるいは単量体混合物を共重合することによって製造することができる。共重合は、例えば、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、油中水型分散重合、塩水中分散重合等によって重合した後、水溶液、塩水中分散液、油中水型エマルジョンあるいは粉末等、任意の製品形態にすることができる。この中でも本発明における物性を有する水溶性高分子を製造しやすい油中水型エマルジョン重合が好ましい。
【0011】
油中水型エマルジョンの場合は、特開平10-140496号公報や特開2011-99076号公報等に挙げられる方法に準じて適宜に製造することができる。即ち、カチオン性単量体、非イオン性単量体、及びアニオン性単量体から選択される一種以上を含有する単量体混合物を水、少なくとも水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合する。
【0012】
又、分散媒として使用する炭化水素からなる油状物質の例としては、パラフィン類、ナフテン類、あるいは灯油、軽油、中油等の鉱油、あるいはこれらと実質的に同じ範囲の沸点や粘度等の特性を有する炭化水素系合成油、あるいはこれらの混合物が挙げられる。含有量としては、油中水型エマルジョン全量に対して20質量%~50質量%の範囲であり、好ましくは20質量%~35質量%の範囲である。
【0013】
油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤の例としては、HLB1~15のノニオン性界面活性剤であり、その具体例としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。これら界面活性剤の添加量としては、油中水型エマルジョン全量に対して0.5~10質量%であり、好ましくは1~5質量%の範囲である。
【0014】
単量体の重合濃度は20~60質量%の範囲であり、単量体の組成、開始剤の選択によって適宜重合の濃度と温度を設定する。重合温度としては20~80℃、好ましくは20~60℃の範囲で行なう。重合開始はラジカル重合開始剤を使用する。これら開始剤は油溶性或いは水溶性のどちらでも良く、アゾ系、過酸化物系開始剤を併用することが好ましい。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2、2’-アゾビスイソブチレート、1、1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2、2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル-2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2、2’-アゾビス(4-メトキシ-2、4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0015】
水溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’-アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’-アゾビス[2-(5-メチル-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩化水素化物、4、4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が挙げられる。更に過酸化物系の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム或いはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルヒドロペルオキシド等を挙げることができる。
適度な分岐構造を導入するために、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤を併用することが好ましい。使用する開始剤の量は、アゾ系開始剤10~1000ppm、過酸化物系開始剤10~1000ppmの併用が好ましい。更に好ましくはアゾ系開始剤100~600ppm、過酸化物系開始剤100~600ppmの併用である。
【0016】
本発明における水溶性高分子を製造する際の重合時あるいは重合後、構造変性剤として多官能不飽和単量体を使用すると、本発明における水溶性高分子が有する物性値を得やすいので好ましい。多官能不飽和単量体の種類にもよるが、多官能不飽和単量体を単量体総量に対し、0.001~0.01質量%の範囲内で存在させる。更に好ましくは、0.002~0.006質量%である。多官能不飽和単量体の例としては、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸-1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、N-ビニル(メタ)アクリルアミド、N-メチルアリルアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アクロレイン、グリオキザール、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられ、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0017】
又、重合度を調節するためイソプロピルアルコールを対単量体0.1~5質量%併用、あるいはギ酸ソーダを対単量体0.01~0.5質量%併用すると効果的である。
【0018】
重合後は、必要に応じて転相剤と呼ばれる親水性界面活性剤を添加して油の膜で被われたエマルジョン粒子が水に馴染み易くし、中の水溶性高分子が溶解し易くする処理を行い、水で希釈しそれぞれの用途に用いる。親水性界面活性剤の例としては、カチオン性界面活性剤やHLB9~15のノニオン性界面活性剤であり、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルコールエーテル系等が挙げられる。
【0019】
本発明における水溶性高分子の物性値について説明する。
液体は主としてニュートン性流体あるいは非ニュートン性流体として分類されて下記の式で表される。
η=σ/γ
η:粘度(Pa・s)、σ:ずり応力(Pa)、γ:ずり速度(s-1
ニュートン性流体は、粘度がずり速度に依存せず、ずり速度が大きくなっても粘度は略一定である。一方、非ニュートン性流体に区分されるダイラタント流体はずり速度が大きくなるに従って粘度も大きくなる性質を有している。一般に高分子溶液は、ずり速度の増加とともに粘度が低下するシェアシニングを示す。
【0020】
本発明における水溶性高分子は、下記方法(1)から算出される傾き値を有する。
方法(1);水溶性高分子0.05質量%水溶液をB型粘度計にて回転数2.5、5、10、20、50、100rpmで粘度(mPa・s、25℃)を測定、回転数ln(X)をX軸、粘度ln(Y)をY軸とする一次関数グラフを作成し、得られる傾き値(絶対値)。ここで、Xは回転数、Yは粘度、ln(X)、ln(Y)は、それぞれの自然対数を表す。尚、水溶性高分子0.05質量%水溶液を作製する際は、純水もしくは蒸留水を使用し、800rpmで30分間攪拌して作製する。又、低い回転数(2.5rpm)から順番に測定する。
傾き値の具体的な求め方は後述の図1(高分子水溶液の回転数と粘度の一次関数グラフ)で示す。尚、粘度測定は1号ローターを使用する。適宜2号ローターを使用する。
この傾き値が小さいことは、流動場における高分子の変形が小さいこと、即ち強い分岐、架橋構造を有することを示している。一方傾き値が大きいことは、流動場における高分子の変形が大きいこと、即ち弱い分岐、架橋構造を有することを意味する。
【0021】
一般的な汚泥脱水剤としてのPAM系高分子では、通常、傾きは-(マイナス)であり、傾き値(絶対値)が0.50以上となり、0.50~0.70の範囲である。しかし、本発明における水溶性高分子では高分子構造を調節することで、傾き値(絶対値)を0.32~0.46の範囲を有する。0.32より小さいと分岐、架橋が過剰に導入されており、高分子の柔軟性が失われ、フロック形成が阻害され、脱水性能が低下する。0.46よりも大きいと分岐、架橋構造が少なすぎ、高分子の柔軟性が過剰となり、緩いフロックとなり、脱水性能が低下する。
【0022】
本発明では、高分子の傾き値が0.32~0.46の範囲を有すると脱水効果が優れることを見出したものである。特に重合開始剤としてアゾ系開始剤と過酸化物系開始剤の重合機構の異なるラジカル種を併用することで適度な分子量を有し、適度な分岐、架橋構造を有する高分子を得ることができる。過酸化物系開始剤は水素引き抜き効果により分岐を促進するが同時に低分子量化を引き起こす。従って高分子量化を期待できるアゾ開始剤と併用することが好ましい。
レドックス系開始剤はラジカルが急激に発生するために分岐構造導入の制御が難しく、また過剰に導入されやすいため好ましくない。
傾き値が本発明における範囲を有することで難脱水汚泥や多種多様な汚泥に対する優れた脱水効果が得られる。
【0023】
(不可能・非実際的事情)
上記の通り、アゾ系開始剤と過酸化物系開始剤を用いて重合した場合、得られる高分子には分岐構造が導入されると考えられる。しかしながらその程度は微量と考えられ、得られる高分子をその構造又は特性により直接特定することは不可能であるか、又はおおよそ実際的ではない。
【0024】
本発明における水溶性高分子は、汚泥脱水剤として性能を発揮するには一定の分子量が必要である。分子量の指標として固有粘度がある。固有粘度を指標とすると、水溶性高分子の25℃で測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度2~10dL/g、好ましくは4~8dL/gである。固有粘度は、柴山科学機械製作所製自動粘度測定装置SS-120-L1型装置を使用して測定した。
固有粘度が小さいことは一般に分子量が小さいことを意味するが、この場合フロック形成が阻害され、脱水性能が低下する。また、固有粘度が小さいと高分子溶液の粘性は高分子間の相互作用が低下することからニュートン流体に近づき、高分子の傾き値は低下する。
【0025】
高分子濃度が0.5質量%になるように完全溶解したときの25℃において回転粘度計にて測定した4質量%食塩水溶液粘度(SLV;0.5質量%塩水溶液粘度)も分子量の指標として使用される。本発明における水溶性高分子では、SLVが5mPa・s以上、100mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以上、100mPa・s以下がより好ましく、10mPa・s以上、70mPa・s以下がより一層好ましい。この0.5質量%塩水溶液粘度は、B型粘度計において1号ローター、60rpmで測定した値である。B型粘度計としては東機産業TVB-10M等が使用される。尚、高分子溶解液は800rpmで30分間攪拌して作製する。
【0026】
本発明の汚泥脱水剤が適用される難脱水汚泥は、脱水がより困難な有機分比率の高い汚泥である。具体的には有機物の指標となる汚泥の有機物量(VSS、浮遊物質中の強熱減量、質量%対SS)が45質量%以上の汚泥である。
近年、これら有機性の汚泥では、VSSやVTS(蒸発残留物中の強熱減量、質量%対TS)が増加する傾向にあり、従来の汚泥脱水剤に比べて本発明の汚泥脱水剤の効果がより顕著となるため、VSSが60質量%以上の汚泥が好ましく、70質量%以上が更に好ましい。尚、各種測定値は、定法(下水試験方法)に基づく測定による。
【0027】
汚泥脱水剤中に本発明における物性値を有する水溶性高分子以外の水溶性高分子を含有していても差し支えない。多種多様な汚泥で効果を発揮するには汚泥脱水剤の全質量に対して本発明における物性値を有する水溶性高分子を50質量%以上含有することが好ましい。
【0028】
本発明における汚泥脱水剤添加処理後、スクリュー濃縮機、遠心濃縮機、楕円盤型濃縮機等や、ベルトプレス、遠心脱水機、スクリュープレス、多重円盤型脱水機、ロータリープレス、フィルタープレス等の脱水機を任意に適用できる。
【0029】
本発明における汚泥脱水剤として適用可能な汚泥種は、製紙排水、化学工業排水、食品工業排水などの生物処理したときに発生する余剰汚泥、あるいは都市下水、し尿、産業排水の処理で生じる有機性汚泥(いわゆる生汚泥、余剰汚泥、混合生汚泥、消化汚泥、凝沈・浮上汚泥およびこれらの混合物)であるが、これら汚泥に任意の濃度に水で希釈して添加される。0.01~1.0質量%の範囲が好ましい。汚泥に対する添加率は、汚泥種、脱水機種によっても異なるが、汚泥液量に対し1~1000ppmである。使用する脱水機の種類は、ベルトプレス、遠心脱水機、スクリュープレス、多重円板型脱水機、ロータリープレス、フィルタープレス等に対応できる。又、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第一鉄、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄等の無機系凝集剤と併用しても良い。
【実施例0030】
以下に本発明における汚泥脱水剤について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
攪拌機、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに沸点190℃ないし230℃のナフテン系オイル143.8gにソルビタンモノオレート4.3g及びポリオキシエチレンモノオレート 14.5gを仕込み溶解させた。別に80質量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQと略記)200.9g、50質量%アクリルアミド(AAMと略記)78.6g、ギ酸ナトリウム0.5g、メチレンビスアクリルアミド0.005g、純水を各々採取し添加した。油と水溶液を混合し、ホモジナイザーで乳化した。この時の単量体組成は、DMQ/AAM=60/40(モル%)である。
得られたエマルジョン単量体溶液の温度を45~48℃に保ち、窒素置換を30分行なった後、アゾ系開始剤ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート(富士フィルム和光純薬V-601)0.1g(対単量体0.05質量%)、過酸化物系開始剤ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.1g(対単量体0.05質量%)を加え、重合反応を開始させた。50℃で4時間重合させ反応を完結させた。試料Aとし、組成、物性を表1に示す。又、単量体組成、開始剤量、多官能性不飽和単量体量を変更した他は試料Aと同様な重合条件で反応した。これらを試料B~Fとし、組成、物性を表1に示す。
【0032】
(比較例1)
試料Aと同様に、単量体組成DMQ/AAM=60/40(モル%)のエマルジョン単量体溶液を調整した。得られたエマルジョン単量体溶液の温度を30~32℃に保ち、窒素置換を30分行なった後、レドックス系開始剤の酸化剤t-ブチルヒドロペルオキシド0.008g(対単量体0.004質量%)を加えた。還元剤亜硫酸水素ナトリウム 0.012 g(対単量体0.006質量%)を35℃で1時間逐次添加を行うことで重合させ反応を完結させた。試料1とし、組成、物性を表1に示す。又、開始剤としてアゾ系開始剤ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレートのみを使用し、単量体組成、開始剤量、多官能性不飽和単量体量を変更した他は試料Aと同様な重合条件で反応した。これらを試料2~8とし、組成、物性を表1に示す。
【0033】
80質量%DMQ125gと純水375gを混合し、温度を45~48℃に保ち、窒素置換を30分行なった後、水溶性アゾ系開始剤2、2’-アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物(V50)0.1g(対単量体0.1質量%)を加え、重合反応を開始させた。50℃で4時間重合させ反応を完結させた。試料9とし、組成、物性を表1に示す。
【0034】
(表1)
単量体;DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、AAM:アクリルアミド、AAC:アクリル酸、DMC:メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
0.5質量%塩水溶液粘度:4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように溶解したときの25℃において測定した粘度(mPa・s)。
0.2質量%水溶液粘度:高分子濃度が0.2質量%になるように水で溶解したときの25℃において測定した粘度(mPa・s)。
【0035】
(実施試験例1)
下水処理場より発生した余剰汚泥(pH6.6、電気伝導度101mS/m、SS分10500mg/L、VSS85.7質量%、VTS81.4質量%、M-アルカリ度230mg/L、アニオン量2.13meq/L)についてスクリュープレス型脱水機を想定した脱水試験を実施した。
汚泥200mLをポリビーカーに採取し、表1の実施例1の試料Aの0.2質量%水溶液を対汚泥液量120ppm添加(高分子純分)、CST測定装置において500rpmで60秒間撹拌後、40メッシュにて濾過し濾水量を測定した。その後、ナイロン製濾布(#202)を用いて汚泥をプレス圧4Kg/cmで60秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20時間乾燥)を測定した。試料B及びCについても同様な条件で同様な試験を実施した。結果を表2に示す。
【0036】
(比較試験例1)実施試験例1と同様な汚泥を用い、表1の比較例1の試料を用いて同様な試験を実施した。これらの結果を表2に示す。
【0037】
(表2)
【0038】
本発明における水溶性高分子を添加した実施試験例1では、比較試験例1に比べてケーキ含水率が低下を示し、本発明における傾き値を有する水溶性高分子の脱水効果が優れることが分かった。傾き値が0.30の試料1添加時では、効果が不良であり、傾き値が小さすぎると性能を発揮しないことが分かった。
【0039】
(実施試験例2)
食品工場より発生した余剰汚泥(pH6.9、電気伝導度116mS/m、SS分8000mg/L、VSS93.7質量%、VTS87.9質量%、M-アルカリ度289mg/L、アニオン量23.93meq/L)についてスクリュープレス型脱水機を想定した脱水試験を実施した。
汚泥200mLをポリビーカーに採取し、試料Aあるいは試料Cの0.2質量%水溶液を対汚泥液量150ppm添加(高分子純分)、CST測定装置において500rpmで60秒間撹拌後、40メッシュにて濾過し濾水量を測定した。その後、ナイロン製濾布(#202)を用いて汚泥をプレス圧4Kg/cmで60秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20時間乾燥)を測定した。結果を表3に示す。
【0040】
(比較試験例2)実施試験例2と同様な汚泥を用い、表1の比較例1の試料を用いて同様な試験を実施した。結果を表3に示す。
【0041】
(表3)
【0042】
本発明における水溶性高分子を添加した実施試験例2では、比較試験例2に比べてケーキ含水率が低下を示し、本発明における傾き値を有する水溶性高分子の脱水効果が優れることが分かった。同モル組成で同程度の分子量を有する高分子の比較において、本発明における水溶性高分子の効果が優れることが分かった。
【0043】
(実施試験例3)
畜産工場より発生した畜産汚泥(pH6.7、電気伝導度1261mS/m、SS分15000mg/L、VSS88.3質量%、VTS74.0質量%、M-アルカリ度317mg/L、アニオン量4.77meq/L)についてスクリュープレス型脱水機を想定した脱水試験を実施した。
汚泥200mLをポリビーカーに採取し、試料Aあるいは試料Cの0.2質量%水溶液を対汚泥液量350ppm添加(高分子純分)、CST測定装置において500rpmで60秒間撹拌後、40メッシュにて濾過し濾水量を測定した。その後、ナイロン製濾布(#202)を用いて汚泥をプレス圧4Kg/cmで60秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20時間乾燥)を測定した。結果を表4に示す。
【0044】
(比較試験例3)実施試験例3と同様な汚泥を用い、表1の比較例1の試料を用いて同様な試験を実施した。結果を表4に示す。
【0045】
(表4)
【0046】
本発明における水溶性高分子を添加した実施試験例3では、比較試験例3に比べてケーキ含水率が低下を示し、本発明における傾き値を有する水溶性高分子の脱水効果が優れることが分かった。
【0047】
(実施試験例4)
衛生プラントより発生したし尿汚泥(pH6.5、電気伝導度110mS/m、SS分3715mg/L、VSS83.6質量%、VTS72.4質量%、M-アルカリ度50mg/L、アニオン量0.66meq/L)についてスクリュープレス型脱水機を想定した脱水試験を実施した。
汚泥200mLをポリビーカーに採取し、試料Cの0.2質量%水溶液を対汚泥液量30ppm添加(高分子純分)、CST測定装置において1000rpmで45秒間撹拌後、40メッシュにて濾過し濾水量を測定した。その後、ナイロン製濾布(#202)を用いて汚泥をプレス圧3Kg/cmで60秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20時間乾燥)を測定した。結果を表5に示す。
【0048】
(比較試験例4)実施試験例4と同様な汚泥を用い、表1の比較例1の試料を用いて同様な試験を実施した。結果を表5に示す。
【0049】
(表5)
【0050】
本発明における水溶性高分子を添加した実施試験例4では、比較試験例4に比べてケーキ含水率が低下を示し、本発明における傾き値を有する水溶性高分子の脱水効果が優れることが分かった。
【0051】
(実施試験例5)
衛生プラントより発生した下水余剰汚泥(pH6.7、電気伝導度26.6mS/m、SS分3497mg/L、VSS83.2質量%、VTS80.1質量%、M-アルカリ度79mg/L、アニオン量0.23meq/L)について遠心脱水機を想定した脱水試験を実施した。
汚泥200mLをポリビーカーに採取し、試料Dあるいは試料Eの0.2質量%水溶液を対汚泥液量50ppm添加(高分子純分)、CST測定装置において1000rpmで60秒間撹拌後、40メッシュにて濾過し濾水量を測定した。その後、ナイロン製濾布(#202)を用いて汚泥をプレス圧3Kg/cmで30秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20時間乾燥)を測定した。結果を表6に示す。
【0052】
(比較試験例5)実施試験例5と同様な汚泥を用い、表1の比較例1の試料を用いて同様な試験を実施した。結果を表6に示す。
【0053】
(表6)
【0054】
本発明における水溶性高分子を添加した実施試験例5では、比較試験例5に比べてケーキ含水率が低下を示し、本発明における傾き値を有する水溶性高分子の脱水効果が優れることが分かった。同モル組成で同程度の分子量の比較において、本発明における水溶性高分子の効果が優れることが分かった。
【0055】
(実施試験例6)
衛生プラントより発生した下水余剰汚泥(pH6.1、電気伝導度58mS/m、SS分9250mg/L、VSS89.2質量%、VTS86.1質量%、M-アルカリ度109mg/L、アニオン量0.7meq/L)について多重円盤型脱水機を想定した脱水試験を実施した。
汚泥200mLをポリビーカーに採取し、試料Fの0.2質量%水溶液を対汚泥液量100ppm添加(高分子純分)、ポリビーカー移し替え20回撹拌後、40メッシュにて濾過し濾水量を測定した。その後、ナイロン製濾布(#202)を用いて汚泥をプレス圧3Kg/cmで60秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20時間乾燥)を測定した。結果を表7に示す。
【0056】
(比較試験例6)実施試験例6と同様な汚泥を用い、表1の比較例1の試料を用いて同様な試験を実施した。結果を表7に示す。
【0057】
(表7)
【0058】
本発明における水溶性高分子を添加した実施試験例6では、比較試験例6に比べてケーキ含水率が低下を示し、本発明における傾き値を有する水溶性高分子の脱水効果が優れることが分かった。同モル組成で同程度の分子量の比較において、本発明における水溶性高分子の効果が優れることが分かった。
【0059】
本発明における水溶性高分子を汚泥脱水剤として適用することで優れた脱水効果が得られることが分かり、難脱水汚泥やその他、多種多様な汚泥での展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】(高分子水溶液の回転数と粘度の一次関数グラフ)水溶性高分子が有する傾き値について具体的な求め方を示したものである。表1の試料Cの0.05質量%水溶液をB型粘度計にて回転数2.5、5、10、20、50、100rpmで粘度(mPa・s、25℃)を測定し、それぞれの回転数で、粘度216、167、126、94、63、46mPa・sが求められた。回転数をX、粘度をYとし、それぞれの自然対数をln(X)、ln(Y)とする一次関数グラフを作成した。一次関数グラフから傾き値0.42(≒0.4209)(絶対値)が得られ、本発明における水溶性高分子の傾き値の範囲を有する。
図1