(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167134
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】顕微鏡用対物レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 21/02 20060101AFI20231116BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G02B21/02 A
G02B21/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078069
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】川西 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】神田 剛
【テーマコード(参考)】
2H052
2H087
【Fターム(参考)】
2H052AA09
2H052AB01
2H087KA09
2H087LA01
2H087PA07
2H087PA16
2H087PB12
2H087QA03
2H087QA07
2H087QA12
2H087QA17
2H087QA21
2H087QA26
2H087QA34
2H087QA42
2H087QA46
2H087RA32
2H087RA42
2H087UA03
2H087UA06
(57)【要約】
【課題】放射線の影響下で利用可能であり、収差が抑制された顕微鏡用対物レンズを得る。
【解決手段】最も観察対象物の側にあり、石英により構成された第1のレンズ102を有し、前記第1のレンズ102は、前記観察対象物の側の面である第1の面3と該第1の面の反対側の面である第2の面4を有し、前記第1の面3は凹面102aを有し、前記第2の面4は凸面を有し、前記石英の屈折率をn1、前記凹面102aの曲率半径(単位はmm)をr1として、0.028<|(n1-1)/(r1×n1)|<0.063を満たし、使用の状態において、前記第1のレンズ102の前記凹面102aが放射線に被曝する環境に露出している顕微鏡用対物レンズ100。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最も観察対象物の側にあり、石英により構成された第1のレンズを有し、
前記第1のレンズは、前記観察対象物の側の面である第1の面と該第1の面の反対側の面である第2の面を有し、
前記第1の面は凹面を有し、
前記第2の面は凸面を有し、
前記石英の屈折率をn1、
前記凹面の曲率半径(単位はmm)をr1として、
0.028<|(n1-1)/(r1×n1)|<0.063
を満たす顕微鏡用対物レンズ。
【請求項2】
使用の状態において、前記第1のレンズの前記第1の面を放射線に被曝する環境に露出させることが可能な請求項1に記載の顕微鏡用対物レンズ。
【請求項3】
前記第1のレンズの前記第2の面の側であり、前記第1のレンズから離れた位置に、前記第1のレンズに近い位置から順に第2のレンズおよび第3のレンズが配置され、
前記第2のレンズは2つの凹面を有し、
前記第3のレンズは2つの凹面を有し、
前記第2のレンズの一方の凹面と前記第3のレンズの一方の凹面とが向かい合うように前記第2のレンズと前記第3のレンズが配置され、
前記第2のレンズの屈折率をn2、
前記第3のレンズの屈折率をn3、
前記第2のレンズの前記一方の凹面の曲率半径(単位はmm)をr2、
前記第3のレンズの前記一方の凹面の曲率半径(単位mm)をr3
として、
0.04<|(n2-1)/(r2×n2)|<0.07
0.02<|(n3-1)/(r3×n3)|<0.06
を満たす請求項1に記載の顕微鏡用対物レンズ。
【請求項4】
前記第2のレンズの前記一方の凹面と前記第3のレンズの前記一方の凹面との光軸上における距離dは、d=2.5mm~5.0mmである請求項3に記載の顕微鏡用対物レンズ。
【請求項5】
前記第2のレンズと前記第3のレンズの間には、光学絞りが配置されている請求項4に記載の顕微鏡用対物レンズ。
【請求項6】
前記第1のレンズと前記光学絞りとの間において、
正レンズと負レンズを張り合わせた色消しレンズ1、2、3を有し、
色消しレンズ1はレンズ1とレンズ2、
色消しレンズ2はレンズ3とレンズ4、
色消しレンズ3はレンズ5とレンズ6から構成され、
レンズ2とレンズ4、レンズ5は異常分散ガラスであり、
前記レンズ1のg線における屈折率をn01g、F線における屈折率をn01F、C線における屈折率をn01C、d線におけるアッベ数をνd1、部分分散比θg.F.1をθg.F.1=(n01g-n01F) /n01F-n01C)、
前記レンズ2のg線における屈折率をn02g、F線における屈折率をn02F、C線における屈折率をn02C、d線におけるアッベ数をνd2、部分分散比θg.F.2をθg.F.2=(n02g-n02F) /(n02F-n02C)、
前記レンズ3のg線における屈折率をn03g、F線における屈折率をn03F、C線における屈折率をn03C、d線におけるアッベ数をνd3、部分分散比θg.F.3をθg.F.3=(n03g-n03F) /(n03F-n03C)、
前記レンズ4のg線における屈折率をn04g、F線における屈折率をn04F、C線における屈折率をn04C、d線におけるアッベ数をνd4、部分分散比θg.F.4をθg.F.4=(n04g-n04F) /(n04F-n04C)、
前記レンズ5のg線における屈折率をn05g、F線における屈折率をn05F、C線における屈折率をn05C、d線におけるアッベ数をνd5、部分分散比θg.F.5をθg.F.5=(n05g-n05F) /(n05F-n05C)、
前記レンズ6のg線における屈折率をn06g、F線における屈折率をn06F、C線における屈折率をn06C、d線におけるアッベ数をνd6、部分分散比θg.F.6をθg.F.6=(n06g-n06F) /(n06F-n06C)として、
-0.0015<(θg.F.2-θg.F.1)/(νd2-νd1)<0
-0.0015<(θg.F.4-θg.F.3)/(νd4-νd3)<0
-0.0015<(θg.F.6-θg.F.5)/(νd6-νd5)<0
である請求項5に記載の顕微鏡用対物レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線環境下での使用が想定される顕微鏡用対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線環境下で顕微鏡を利用する場合、光学系を構成するガラスレンズが放射線の影響で着色する現象が発生する。この現象をブラウニングという。この現象を回避する方法として、放射線環境下に露出するレンズを石英で構成する構造が考えられる。レンズを石英で構成した顕微鏡については、例えば特許文献1や特許文献2が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6392947号公報
【特許文献2】特許第5385442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射線の影響を最も受けるのは、最も観察対象物の側にあるレンズである。他方において、顕微鏡の場合、最も観察対象物の側にあるレンズ(前玉)には、必要なNAを得るための光学機能が要求される。ここで、前玉として石英レンズを採用した場合、以下の点が問題となる。
【0005】
石英はガラスに比較して屈折率が小さい。例えば、550nm付近における石英の屈折率は1.46であり、レンズ用ガラスの屈折率は1.5から1.85(種類による)である。
【0006】
そのため、石英レンズのパワーをガラスレンズの場合と同様のものとしようとすると、レンズ表面の曲率半径をガラスレンズの場合に比較して小さくする必要がある。しかしながら、レンズ表面の曲率半径が小さくなると、レンズ曲率の程度が強くなり、収差の問題が顕在化する。
【0007】
このような背景において、本発明は、放射線の影響下(環境下)で利用可能であり、収差が抑制された顕微鏡用対物レンズを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、最も観察対象物の側にあり、石英により構成された第1のレンズを有し、前記第1のレンズは、前記観察対象物の側の面である第1の面と該第1の面の反対側の面である第2の面を有し、前記第1の面は凹面を有し、前記第2の面は凸面を有し、前記石英の屈折率をn1、前記凹面の曲率半径(単位はmm)をr1として、0.028<|(n1-1)/(r1×n1)|<0.063を満たす顕微鏡用対物レンズである。本発明の顕微鏡用対物レンズは、使用の状態において、前記第1のレンズの前記第1の面を放射線に被曝する環境に露出させることが可能である。
【0009】
本発明において、前記第1のレンズの前記第2の面の側であり、前記第1のレンズから離れた位置に、前記第1のレンズに近い位置から順に第2のレンズおよび第3のレンズが配置され、前記第2のレンズは2つの凹面を有し、前記第3のレンズは2つの凹面を有し、前記第2のレンズの一方の凹面と前記第3のレンズの一方の凹面とが向かい合うように前記第2のレンズと前記第3のレンズが配置され、前記第2のレンズの屈折率をn2、前記第3のレンズの屈折率をn3、前記第2のレンズの前記一方の凹面の曲率半径(単位はmm)をr2、前記第3のレンズの前記一方の凹面の曲率半径(単位mm)をr3として、
0.04<|(n2-1)/(r2×n2)|<0.07
0.02<|(n3-1)/(r3×n3)|<0.06
を満たす態様が挙げられる。
【0010】
本発明において、前記第2のレンズの前記一方の凹面と前記第3のレンズの前記一方の凹面との光軸上における離間距離dは、d=2.5mm~5.0mmである構成は好ましい。本発明において、前記第2のレンズと前記第3のレンズの間には、光学絞りが配置されている態様が挙げられる。
【0011】
本発明において、前記第1のレンズと前記光学絞りとの間において、前記第1のレンズの側から順に配置された正レンズと負レンズを張り合わせた色消しレンズ1、2、3を有し、色消しレンズ1はレンズ1とレンズ2、色消しレンズ2はレンズ3とレンズ4、色消しレンズ3はレンズ5とレンズ6から構成され、前記レンズ1のg線における屈折率をn01g、F線における屈折率をn01F、C線における屈折率をn01C、d線におけるアッベ数をνd1、部分分散比θg.F.1をθg.F.1=(n01g-n01F) /(n01F-n01C)、前記レンズ2のg線における屈折率をn02g、F線における屈折率をn02F、C線における屈折率をn02C、d線におけるアッベ数をνd2、部分分散比θg.F.2をθg.F.2=(n02g-n02F) /(n02F-n02C)、前記レンズ3のg線における屈折率をn03g、F線における屈折率をn03F、C線における屈折率をn03C、d線におけるアッベ数をνd3、部分分散比θg.F.3をθg.F.3=(n03g-n03F) /(n03F-n03C)、前記レンズ4のg線における屈折率をn04g、F線における屈折率をn04F、C線における屈折率をn04C、d線におけるアッベ数をνd4、部分分散比θg.F.4をθg.F.4=(n04g-n04F) /(n04F-n04C)、前記レンズ5のg線における屈折率をn05g、F線における屈折率をn05F、C線における屈折率をn05C、d線におけるアッベ数をνd5、部分分散比θg.F.5をθg.F.5=(n05g-n05F) /(n05F-n05C)、前記レンズ6のg線における屈折率をn06g、F線における屈折率をn06F、C線における屈折率をn06C、d線におけるアッベ数をνd6、部分分散比θg.F.6をθg.F.6=(n06g-n06F) /(n06F-n06C)として、-0.0015<(θg.F.2-θg.F.1)/(νd2-νd1)<0、-0.0015<(θg.F.4-θg.F.3)/(νd4-νd3)<0、-0.0015<(θg.F.6-θg.F.5)/(νd6-νd5)<0である態様が挙げられる。ここで、レンズ2とレンズ4、レンズ5は異常分散ガラスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射線の影響下で利用可能であり、収差が抑制された顕微鏡用対物レンズが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
(概要)
図1には、最も観察対象物の側にあり、石英により構成された第1のレンズ102を有し、前記第1のレンズ102は、前記観察対象物の側の面である第1の面3と該第1の面の反対側の面である第2の面4を有し、前記第1の面3は凹面102aを有し、前記第2の面4は凸面を有し、前記石英の屈折率をn1、前記凹面102aの曲率半径(単位はm)をr1として、0.028<|(n1-1)/(r1×n1)|<0.062を満たし、使用の状態において、前記第1のレンズ102の前記第1の面3(凹面102a)が放射線に被曝する環境に露出している顕微鏡用対物レンズ100が示されている。
【0015】
図1には、実施形態である対物レンズ100のレンズの構成が示されている。
図2は、対物レンズ100を用いた顕微鏡200の概要が示されている。この例では、顕微鏡200を用いた観察対象物(試料)150の観察が行われる。
【0016】
顕微鏡200を用いた観察対象物の観察は、石英板101を介して行われる。この例において、石英板101は、観察対象物を保持するシャーレの底板の部分であり、この底板の部分を介して顕微鏡200を用いた観察が行われる。石英板101の部分がカバーガラスである場合もあり得る。この例において、石英板101の厚みは0.3mmである。
【0017】
顕微鏡200は、蛍光顕微鏡における例であり、対物レンズ100、観察対象物150に蛍光を生じさせるための照明光を発光する光源210、照明光と観察光を分離するビームスプリッター220、結像レンズ230、撮像を行う検出器240を備える。ビームスプリッター220としては、プリズムを用いたものやダイクロイックミラーが利用される。対物レンズ100は、無限遠補正の対物レンズであり、検出器240の側に出射する光束は平行光となる。この対物レンズ100からの平行光が結像レンズ230により、集束され、検出器240の位置で観察対象物150の像が結像する。検出器240は、2次元イメージセンサであり、上記結像した像を画像イメージデータとして検出する。検出器240としては、例えばCMOSイメージセンサやCCDイメージセンサが利用される。
【0018】
光源210からの照明光が対物レンズ100を介して観察対象物150に照射され、観察対象物150におけるその反射光および観察対象物150で生じた蛍光が対物レンズ100を介して、検出器230で検出され、顕微鏡画像の画像データが得られる。
【0019】
(対物レンズの構造)
図1に示すように、対物レンズ100は、観察対象の側から、レンズ102、レンズ103、レンズ104、レンズ105、レンズ106、レンズ107、レンズ108、レンズ109、レンズ110、レンズ111、レンズ112、レンズ113と配置された構造を有する。
【0020】
図2に示す顕微鏡200は、放射線環境下での使用を前提としている。そのため、最も観察対象物150の側にあり、放射線環境下に曝されるレンズ102を石英で構成する。レンズ102は、対物レンズ100の最も前の位置にあるので前玉と呼ばれる。
【0021】
この例では、レンズ102の厚みが十分に確保でき、放射線環境下における放射線を十分に遮蔽できる見込みであるので、レンズ103の後のレンズは、レンズ用の光学ガラスを利用している。放射線を遮蔽するのに必要な石英材料の厚みは、最低2mm、好ましくは3mm程度と見積もられる。なお、放射線はガンマ線を想定しているが、例えば観察対象物150が放射性物質である場合も想定される。
【0022】
レンズ102により放射線を遮蔽できず、レンズ103にも耐放射線機能が必要な場合は、レンズ103も石英で構成する。これは、レンズ104以降においても同じである。
【0023】
なお、レンズ103以降に耐放射線特性が要求される場合でも、その要求性能がそれほど高くない場合は、レンズ103以降の材質として耐放射性ガラスを用いることもできる。なお、レンズ102は、長時間にわたり放射線に曝される可能性が想定されるので、石英で構成することが必須である。
【0024】
対物レンズ100は、石英板101を含めて光学設計がされている。対物レンズ100は、可視光帯域(F線、d線、C線、g線)で設計されている。開口数は、NA=0.56としている。
【0025】
この例において、レンズ102の材質は石英であり、レンズ103~レンズ106、レンズ108、レンズ111~レンズ113の材質はレンズ用の光学ガラスである。レンズ107、レンズ109、レンズ110は、レンズ用の異常分散ガラスを用いて構成されている。
【0026】
以下、観察対象物150の側を前、前側、前段等と記述し、観察対象物と反対の側(検出器230の側)を後、後側、後段等と記述する。また、あるレンズに着目した場合に、前側のレンズ面を前面、後側のレンズ面を後面と記述する。
【0027】
また、各レンズの前面と後面には、符号が付してあり、その符合によりレンズ面を特定する。例えば、レンズ102の前面を3面(符号3の面)と表記し、レンズ102の後面を4面(符号4の面)と表記する。また例えば、レンズ103の前面を5面と表記し、レンズ103の後面を6面と表記する。
【0028】
レンズ102は正の屈折力を有し、前面(3面)が凹面102a、後面(4面)が凸面のメニスカスレンズである。レンズ102の後段には、レンズ103が配置されている。
【0029】
レンズ103は、正の屈折力を有している。レンズ103の後段には、レンズ104及びレンズ105が配置されている。レンズ104とレンズ105は貼り合わせレンズを構成し、全体として正の屈折力を有している。
【0030】
レンズ104とレンズ105の後段には、レンズ106及びレンズ107が配置されている。レンズ106とレンズ107は貼り合わせレンズを構成しており、全体として正の屈折力を有している。
【0031】
レンズ106とレンズ107の後段には、レンズ108及びレンズ109が配置されている。レンズ108とレンズ109は貼り合わせレンズを構成しており、全体として正の屈折力を有している。
【0032】
レンズ108とレンズ109の後段には、レンズ110及びレンズ111が配置されている。レンズ110とレンズ111は張り合わせレンズを構成しており検出器側に凹面を向けたメニスカスレンズである。
【0033】
レンズ110とレンズ111の後段には、レンズ112及びレンズ113が配置されている。レンズ112とレンズ113は張り合わせレンズを構成しており観察対象側に凹面を向けたメニスカスレンズである。これらの2つのメニスカスレンズは、2つを合わせて全体として負の屈折力を有している。
【0034】
レンズ111の後面の凹面(符号18a)とレンズ112の前面の凹面(符号20a)の間は、空間114となっている。レンズ111とレンズ112の間には、光学絞り115が配置されている。光学絞り115は、中央に丸い孔が空いた平板形状を有している。
【0035】
(レンズ102の詳細)
レンズ102には石英を用いている。石英は、ガラスと比較して低屈折率であるので、同じ光学特性を得る場合、ガラス製の場合に比較してレンズ表面の曲率半径を小さくする必要がある。この場合、レンズの曲率をガラスの場合に比較して小さくしなくてはならず、ガラスの場合に比較して収差の問題が顕在化する。
【0036】
そこで、本実施形態では、レンズ102では、ある程度の収差の発生を許容しつつ、前玉に必要な光学特性を追求し、後段(レンズ102から見て、観察対象物150から離れた側)のレンズ群によって収差を補正している。
【0037】
上記の目的を達成するために、レンズ102の前面(3面)は、以下の条件で設計されている。まず、上述のように、3面は凹面102aを有し、4の面は凸面である。ここで、レンズ102を構成する石英の屈折率をn1とし、凹面102aの曲率半径(単位はmm)をr1とした場合に、レンズ102の凹面102aに係るペッツバール和(n1-1)/(r1×n1)が、下記の条件を満たすようにする。
0.028<|(n1-1)/(r1×n1)|<0.063
【0038】
|(n1-1)/(r1×n1)|≦0.028となると、曲率半径r1が大きくなり、レンズ表面の曲率が小さくなるので(より平面に近づく)、対物レンズ100の前玉(最も観察対照物の側のレンズ102)に要求される像面湾曲等の収差補正が不足し、周辺画角における解像度を得るのが困難になる。この場合、後段で収差の補正が難しくなる。
【0039】
他方において、|(n1-1)/(r1×n1)|≧0.063となると、凹面102aの曲率半径r1が小さくなり製造製が悪くなる。また、凹面102aの曲率半径が小さくなり、球面収差等の収差の発生が顕著となる。この場合においても、後段で収差の補正が難しくなる。
【0040】
以上の理由により、後段で収差を補正でき、且つ、要求される解像度を得るために必要なレンズ102は、上記の不等式を満たす必要がある。
【0041】
(収差の補正に必要な条件)
以下、前玉(レンズ102)において生じた収差を後段において補正する仕組みについて説明する。この例では、
図1のレンズ111とレンズ112を用いて上記収差の補正を行う。ここでは、レンズ111の18面とレンズ112の20面に係り、下記の条件を満足するように設計が行われている。
【0042】
ここでは、レンズ111を構成するガラスの屈折率をn17、レンズ112を構成するガラスの屈折率をn20、r18を18面(符号18aの凹面)の曲率半径(単位はmm)、r20を20面(符号20aの部分の凹面)の曲率半径(単位はmm)として、18面と20面に係るペッツバール和に関して、下記の条件を満足するようにする。
【0043】
0.04<|(n17-1)/(r18×n17)|<0.07
0.02<|(n20-1)/(r20×n20)|<0.06
【0044】
|(n17-1)/(r18×n17)|≦0.04となると、r18が大きくなり、18面による収差を補正する機能が不足する。つまり、有効な収差の補正が困難になる。
【0045】
0.07≦|(n17-1)/(r18×n17)|となると、r18が小さくなり、レンズ111の製造製の低下、また18面の凹面構造によるコマ収差等の収差の発生が顕在化する。
【0046】
|(n20-1)/(r20×n20)|≦0.02となると、r20が大きくなり、20面による収差を補正する機能が不足する。つまり、有効な収差の補正が困難になる。
【0047】
0.06≦|(n20-1)/(r20×n20)|となると、r20が小さくなり、レンズ112の製造製の低下、また20面の凹面構造によるコマ収差等の収差の発生が顕在化する。
【0048】
また、面18と面20の間の向かい合った凹面の間に形成された空間114の部分における光軸上における面18と面20との間の離間距離d18は、2.5mm<d18<5mmの範囲とする。5mm≦d18となると、像面湾曲の補正が難しくなる。d18≦2.5mmとなると、レンズ111とレンズ112が接触し、物理的に実現できない。
【0049】
(色収差の補正を行う場合の条件)
本実施形態では、以下の構成により特に色収差の補正を行う。ここでは、負のレンズ106と正のレンズ107による貼り合わせレンズにより色消しレンズ1が構成され、負のレンズ108と正のレンズ109による貼り合わせレンズにより色消しレンズ2が構成され、正のレンズ110と負のレンズ111による貼り合わせレンズにより色消しレンズ3が構成されている。また、レンズ107、レンズ109、レンズ110を異常分散ガラスにより構成している。そして、以下に説明する条件を満足することで色収差の補正を行っている。ここでは、各レンズに係る(θg.F.2-θg.F.1)/(ν2-ν1)を以下のように限定する。
【0050】
-0.0015<(θg.F.11-θg.F.10)/(ν11-ν10)<0
-0.0015<(θg.F.14-θg.F.13)/(ν14-ν13)<0
-0.0015<(θg.F.17-θg.F.16)/(ν17-ν16)<0
【0051】
ここで、θg.F=(ng-nF)(nF-nC)であり、ngはg線(435.824nm)における屈折率、nFはF線(486.133nm)における屈折率、nCはC線(656.273nm)における屈折率である。
【0052】
上記の場合、レンズ106のg線における屈折率をn01g、F線における屈折率をn01F、C線における屈折率をn01Cとして、θg.F.10=(n01g-n01F)(n01F-n01C)である。また、レンズ106のアッベ数をν10とする。なお、アッベ数は、d線(波長587.6560nm)における値である。これは、他のアッベ数も同じである。
【0053】
レンズ107のg線における屈折率をn02g、F線における屈折率をn02F、C線における屈折率をn02Cとして、θg.F.11=(n02g-n02F) /(n02F-n02C)である。また、レンズ107のアッベ数をν11とする。
【0054】
レンズ108のg線における屈折率をn03g、F線における屈折率をn03F、C線における屈折率をn03Cとして、θg.F.13=(n03g-n03F) /(n03F-n03C)である。また、レンズ108のアッベ数をν13とする。
【0055】
レンズ109のg線における屈折率をn04g、F線における屈折率をn04F、C線における屈折率をn04Cとして、θg.F.14=(n04g-n04F) /(n04F-n04C)である。また、レンズ109のアッベ数をν14とする。
【0056】
レンズ110のg線における屈折率をn05g、F線における屈折率をn05F、C線における屈折率をn05Cとし、θg.F.16=(n05g-n05F) /(n05F-n05C)である。また、レンズ110のアッベ数をν16とする。
【0057】
レンズ111のg線における屈折率をn06g、F線における屈折率をn06F、C線における屈折率をn06Cとして、θg.F.17=(n06g-n06F) /(n06F-n06C)である。また、レンズ111のアッベ数をν17とする。
【0058】
(θg.F.2-θg.F.1)/(ν2-ν1)が上記の範囲以上となると、色収差の補正過多となり、新たな色収差を招く。また、(θg.F.2-θg.F.1)/(ν2-ν1)が上記の範囲以下となると、色収差の補正不足となり、色収差が残る。
【0059】
以下、上述した対物レンズの具体例について説明する。なお、以下の具体例においては結像レンズ230として、焦点距離=112mmの理想レンズの使用を前提としている。
【0060】
(具体例1)
以下は具体例1における各種データである。レンズ断面図は
図3に示す。
倍率β=-11.2、開口数NA=0.56、ワーキングディスタンスD0=3mm、焦点距離f=10mm、d18=2.85mm
|(n1-1)/(r1×n1)|=0.04833
|(n17-1)/(r18×n17)|=0.05498
|(n20-1)/(r20×n20)|=0.05231
(θg.F.11-θg.F.10)/(ν11-ν10)=-0.00106
(θg.F.14-θg.F.13)/(ν14-ν13) )=-0.00111
(θg.F.17-θg.F.16)/(ν17-ν16) )=-0.00106
【0061】
また、表1は具体例1のレンズデータを示している。ここで、Rは曲率、Dは光軸上におけるレンズの厚みまたは当該面の後ろの隙間の寸法(単位:mm)、ndはレンズを構成するガラスの屈折率、νdはアッベ数である。これは、表2および表3も同じである。
【0062】
【0063】
図4に具体例1の場合の縦収差のデータを示す。縦収差は、光軸の方向における収差である。例えば、光軸の方向における焦点の位置のずれが縦収差となる。
図4には、左から縦収差である球面収差、非点収差が示されている。これは、
図7および
図10も同じである。いずれの場合も収差がなければ、縦軸に一致した直線となる。
図5に横収差のデータを示す。横収差は、像面に平行な方向(画面に平行な方向)における収差である。これは、
図8および
図11も同じである。いずれの場合も収差がなければ横軸に一致した水平な直線となる。
【0064】
(具体例2)
以下は具体例2における各種データである。レンズ断面図は
図6に示す。
倍率β=-11.2、開口数NA=0.56、ワーキングディスタンスD0=3mm、焦点距離f=10mm、d18=2.9mm
|(n1-1)/(r1×n1)|=0.02856
|(n17-1)/(r18×n17)|=0.05933
|(n20-1)/(r20×n20)|=0.0536
(θg.F.11-θg.F.10)/(ν11-ν10)=-0.00103
(θg.F.14-θg.F.13)/(ν14-ν13) )=-0.00113
(θg.F.17-θg.F.16)/(ν17-ν16) )=-0.00101
また、表2は具体例2のレンズデータを示している。
【0065】
【0066】
図7に具体例2の場合の縦収差のデータを、
図8に横収差のデータを示す。それぞれはC線(波長656.2725nm),d線(波長587.5618),F線(波長486.1327nm),g線(波長435.8343nm)に対する、収差図である。
【0067】
(具体例3)
以下は具体例3における各種データである。レンズ断面図は
図9に示す。
倍率β=-11.2、開口数NA=0.56、ワーキングディスタンスD0=3mm、焦点距離f=10mm、d18=2.5mm
|(n1-1)/(r1×n1)|=0.06283
|(n17-1)/(r18×n17)|=0.0446
|(n20-1)/(r20×n20)|=0.03472
(θg.F.11-θg.F.10)/(ν11-ν10)=-0.00106
(θg.F.14-θg.F.13)/(ν14-ν13) )=-0.00113
(θg.F.17-θg.F.16)/(ν17-ν16) )=-0.00092
また、表3は具体例3のレンズ設計データを示している。
【0068】
【0069】
図10に具体例3の場合の縦収差のデータを、
図11に横収差のデータを示す。それぞれはC線(波長656.2725nm),d線(波長587.5618),F線(波長486.1327nm),g線(波長435.8343nm)に対する、収差図である。
【0070】
(レンズ102の設計条件について)
具体例1~3のレンズ102に関する限定を下記に列挙する。
(具体例1)|(n1-1)/(r1×n1)|=0.04833
(具体例2)|(n1-1)/(r1×n1)|=0.02856
(具体例3)|(n1-1)/(r1×n1)|=0.06283
【0071】
ここで、具体例2の条件(0.02856)は、有意な限定範囲の下限(0.028)に近い。また、具体例3の条件(0.06283)は、有意な限定範囲の上限(0.063)に近い例である。各収差図から、C線~g線の波長域にわたって各種収差が良好に補正されていることがわかる。
【0072】
以上のように、0.028<|(n1-1)/(r1×n1)|<0.063を満たす範囲であれば、放射線の影響下(環境下)で利用可能であり、収差が抑制された顕微鏡用対物レンズが得られる。
【0073】
(その他)
図1、
図3、
図6、
図9には、12枚のレンズを用いた対物レンズ100の例が示されているが、レンズの数は例示する数に限定されない。より多くのレンズを利用する形態も可能である。なお、より少ないレンズとすることも可能であるが、NAと収差の両立については厳しい設計となる。顕微鏡用対物レンズ100は、放射線の影響がない環境で利用することも可能である。
【符号の説明】
【0074】
100…対物レンズ、101…石英板、102~113…レンズ、114…2つの凹面の間の空間、115…光学絞り、150…観察対象の試料、200…顕微鏡、210…光源、220…ビームスプリッター、230…結像レンズ、240…撮像を行う検出器。