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特開2023-167139山留構造および地下構造物の構築方法
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  • 特開-山留構造および地下構造物の構築方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167139
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】山留構造および地下構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
E21D9/06 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078077
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川北 潤
(72)【発明者】
【氏名】麻 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】高見沢 計夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 敦
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AA04
2D054AB05
2D054EA09
2D054FA02
2D054FA07
(57)【要約】
【課題】地中に並設された函体同士の間に地山を残すことなく函体同士を連結することが可能な山留構造および地下構造物の構築方法を提案する。
【解決手段】地中において並設された函体2,2を連結する際に、函体2同士の間の領域Aの上方に形成された山留構造3であって、一方の函体2の上部から他方の函体2の上方に至る第一斜材4と、他方の函体2の上部から一方の函体2の上方に至る第二斜材5とを備えている。第一斜材4と第二斜材5は、正面視で領域Aの上方において交差している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中において並設されたトンネル同士の間の領域の上方に形成された山留構造であって、
一方のトンネルの上部から他方のトンネルの上方に至る第一斜材と、
他方のトンネルの上部から一方のトンネルの上方に至る第二斜材と、を備え、
前記第一斜材と前記第二斜材とが正面視で前記領域の上方において交差していることを特徴とする、山留構造。
【請求項2】
前記第一斜材および前記第二斜材の周囲の地盤に対して地盤改良が施されていることを特徴とする、請求項1に記載の山留構造。
【請求項3】
隣り合う一対のトンネルのうちの一方のトンネルの上部から他方のトンネルの上方に向けて第一斜材を打設する工程と、
前記他方のトンネルの上部から前記一方のトンネルの上方に向けて第二斜材を打設する工程と、
前記トンネル同士の間の領域を掘削する工程と、
前記トンネル同士を連結する工程と、を備える地下構造物の構築方法であって、
前記第一斜材および前記第二斜材は、前記領域の上方において正面視で交差するように設けることを特徴とする、地下構造物の構築方法。
【請求項4】
前記第一斜材および前記第二斜材を利用して、前記第一斜材および前記第二斜材の周囲の地盤に対して地盤改良を行う工程を備えていることを特徴とする、請求項3に記載の地下構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に並設されたトンネル間の山留構造および地下構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
並設された複数本のトンネルを利用して1つの地下構造物を構築する場合がある。この地下構造物を構築する場合には、複数本のトンネルを構築した後に、トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルの残置された覆工を利用して、本設の頂底版や側壁等を構築する。このとき、隣り合うトンネル同士の間に隙間を有している場合がある。
間隔をあけて並設されたトンネル同士を連結する際には、トンネル同士の間の地盤を掘削する際に、上方からの土砂の崩落を防止する必要がある。
【0003】
このような山留構造として、いわゆるパイプルーフ工法により、一方のトンネル110から他方のトンネル110に向けて水平に鋼管120をかけ渡すことで、トンネル110同士の間の領域の上部に山留を行う場合がある(図10参照)。パイプルーフ工法は、トンネル110の坑内から作業を行うため、トンネル上端(頂版下面)よりも低い位置に山留(鋼管120)が形成されてしまい、山留め(鋼管120)よりも上の部分に地山(残留地盤G)が残ってしまう。したがって、各トンネル110の覆工を利用して地下構造物の覆工を構築する場合には、トンネル110同士の接合部において地下構造物の覆工に大きな断面欠損が発生してしまう。
そのため、本出願人は、特許文献1に示すように、間隔をあけて並設された2本のトンネルを接続する際の山留構造として、一方のトンネルの上部および下部から他方のトンネルの上部および下部へ山留鋼板をかけ渡すとともに、上部に掛け渡した山留鋼板の上方および下部に掛け渡した山留鋼板の下方に止水注入材を注入する山留構造を提案している。
ところが、地中において一方のトンネルから他方のトンネル向けて山留鋼板を押し出す(スライドさせる)には、山留鋼板をスライドさせる際の圧入機械を挿入するための加工や、山留鋼板をセグメントに設置しておくための加工等、特殊な加工をセグメントに施す必要があるため、セグメントの製造コストが高くなる。また、トンネル上部にスライド前の山留鋼板を設けておくためのスペースを確保する必要があるため、掘削断面を設計断面よりも大きくする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-115485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、地中に並設された函体同士の間に地山を残すことなく函体同士を連結することが可能な山留構造および地下構造物の構築方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の山留構造は、地中において並設されたトンネル同士の間の領域の上方に形成された山留構造であって、一方のトンネルの上部から他方のトンネルの上方に至る第一斜材と、他方のトンネルの上部から一方のトンネルの上方に至る第二斜材とを備えるものである。前記第一斜材と前記第二斜材とは、正面視で前記領域の上方において交差している。
また、本発明の地下構造物の構築方法は、隣り合う一対のトンネルのうちの一方の前記トンネルの上部から他方の前記トンネルの上方に向けて第一斜材を打設する工程と、他方の前記トンネルの上部から一方の前記トンネルの上方に向けて第二斜材を打設する工程と、前記トンネル同士の間の領域を掘削する工程と、前記トンネル同士を連結する工程とを備えるものである。前記第一斜材および前記第二斜材は、前記領域の上方において正面視で交差するように設ける。
【0007】
かかる山留構造および地下構造物の構築方法によれば、トンネルの内部から斜材を施工することによりトンネルよりも高い位置に山留を形成するため、トンネル同士の間に地山を残さずにトンネル同士を連結することができる。したがって、トンネルを利用して地下構造物の覆工を構築する場合でも、地下構造物の覆工に断面欠損が生じることがなく、また、トンネルの掘削断面積を必要最小限に抑えることができる。また、斜材は、一般的な装置を用いてトンネル内部から施工できる。
なお、前記第一斜材および前記第二斜材の周囲の地盤に対して地盤改良を施すことで、第一斜材および第二斜材の隙間からの土砂の崩落を抑制できる。このような地盤改良は、前記第一斜材および前記第二斜材を利用して行うのが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の山留構造および地下構造物の構築方法によれば、地中に並設したトンネル同士の間に地山を残さずに、当該トンネル同士を連結することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る地下構造物の概要を示す断面図である。
図2】山留構造を示す断面図である。
図3】山留構造の平面図である。
図4】本実施形態の地下構造物の構築方法の手順を示すフローチャートである。
図5】函体形成工程を示す断面図である。
図6】地盤改良工程を示す断面図である。
図7】第一斜材打設工程を示す断面図である。
図8】第二斜材打設工程を示す断面図である。
図9】掘削工程を示す断面図である。
図10】従来の山留構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、地中に並設した一対の函体(トンネル)2,2を連結することにより大断面の地下構造物1を構築する場合について説明する。図1に地下構造物1の概要を示す。
函体2は、シールド工法や推進工法等により、地中に設ける。隣り合う函体2,2は、図1に示すように間隔をあけて並設する。地下構造物1は、函体2同士の間の領域Aを掘削するとともに、当該領域Aに面する不要な覆工21を撤去し、領域Aの上下に連結用の新設覆工22,23を設置することにより形成する。新設覆工22,23は、残存させた覆工20に連結する。領域Aを掘削する際および不要な覆工21を撤去する際には、函体2同士の間の領域Aの上方に山留構造3を形成し、土砂の崩落を防止する。
【0011】
図2,3に山留構造3を示す。山留構造3は、図2に示すように、一方の函体2(第一函体2a)の上部から他方の函体2(第二函体2b)の上方に至る第一斜材4と、第二函体2bの上部から第一函体2aの上方に至る第二斜材5とを備えている。また、第一斜材4および第二斜材5の周囲の地盤Gに対して地盤改良Giが施されている。
第一斜材4と第二斜材5は、正面視(トンネル軸方向視)で領域Aの上方において交差している。本実施形態では、第一斜材4および第二斜材5は鋼管からなる。
【0012】
第一斜材4は、図3に示すように、第一函体2aの軸方向に沿って所定の間隔(例えば1m)をあけて複数本設けられている。また、第二斜材5は、第一斜材4同士の中間位置に配置されるように、第二函体2bの軸方向に沿って設けられている。すなわち、第一斜材4と第二斜材5は、同じ間隔をあけて、交互に複数本設けられている。
【0013】
次に、地下構造物1の構築方法について説明する。図4に地下構造物1の構築方法の手順を示す。図4に示すように、地下構造物1の構築方法は、函体形成工程S1と、地盤改良工程S2と、第一斜材打設工程S3と、第二斜材打設工程S4と、掘削工程S5と、連結工程S6とを備えている。
函体形成工程S1は、図5に示すように、間隔をあけて隣り合う一対の函体2,2を形成する工程である。図5は、函体形成工程S1を示す断面図である。函体2は、シールド工法または推進工法により形成するものとする。本実施形態の函体2は、矩形状断面である。
【0014】
図6に地盤改良工程S2を示す。地盤改良工程S2は、図6に示すように、函体2同士の間の領域Aの上方の地盤Gに対して地盤改良Giを行う工程である。地盤改良Giは、第一斜材4および第二斜材5の打設予定箇所の周囲の地盤Gに対して行う。本実施形態では、函体内から地盤Gに対して薬液注入を行う。
【0015】
第一斜材打設工程S3は、第一函体2aの上部から第二函体2bの上方に向けて第一斜材4を打設する工程である。図7に第一斜材打設工程S3を示す。第一斜材4は、図7に示すように、第一函体2aの天井部に設けられた小型ボーリングマシン等を利用して地中に向けて斜めに打設する。第一斜材4は、第一函体2aの天井部に設けられた貫通孔を介して地盤Gに挿入する。第一函体2aのセグメントに形成された貫通孔には、第一斜材4よりも一回り大きい口元管41が取り付けられている。口元管41には、施工時の止水バルブやプリペンダー等の止水手段が設けられている。第一斜材4は、平面視で第二函体2bに所定長(例えば500mm~1000mm)重ねた状態になるまで挿入し、基端部を第一函体2aの天井部に固定する。
【0016】
第二斜材打設工程S4は、第二函体2bの上部から第一函体2aの上方に向けて第二斜材5を打設する工程である。図8に第二斜材打設工程S4を示す。第二斜材5は、図8に示すように、第二函体2bの天井部に設けられた小型ボーリングマシン等を利用して地中に向けて斜めに打設する。第二斜材5は、第二函体2bの天井部に設けられた貫通孔を介して地盤Gに挿入する。第二函体2bのセグメントに形成された貫通孔には、第二斜材5よりも一回り大きい口元管51が取り付けられている。口元管51には、施工時の止水バルブやプリペンダー等の止水手段が設けられている。第二斜材5の施工は、第一斜材4の施工と並行して行ってもよいし、第一斜材4の施工後に行ってもよい。第二斜材5は、平面視で第一函体2aに所定長(例えば500mm~1000mm)重ねた状態になるまで挿入し、基端部を第二函体2bの天井部に固定する。
掘削工程S5は、函体2同士の間の領域Aを掘削する工程である。図9に掘削工程S5を示す。掘削工程S5では、函体2の不要な覆工21(領域Aに面する覆工)を撤去するとともに、領域Aの地盤Gを掘削する。
連結工程S6は、函体2同士を連結する工程である。連結工程S6では、領域Aの上下に新設覆工22,23を設けて、第一函体2aおよび第二函体2bの覆工20と連結することで、第一函体2aと第二函体2bとを一体化した地下構造物1を形成する(図1参照)。
【0017】
本実施形態の山留構造3および地下構造物1の構築方法によれば、函体2の内部から斜材(第一斜材4、第二斜材5)を施工することにより函体2,2の上面よりも高い位置に山留3を形成できる。そのため、函体2同士の間に地山を残さずに函体2同士を連結することができる。したがって、函体2を利用して地下構造物1の覆工を構築する場合でも、地下構造物1の覆工に断面欠損が生じることがなく、また、函体2の掘削断面積を必要最小限に抑えることができる。すなわち、函体2と同等以上の高さを有した内部空間を函体2同士の間に確保できる。
また、斜材(第一斜材4、第二斜材5)は、一般的な装置を用いて函体2内部から施工できるため、函体2を構成するセグメント(覆工20)などに特殊な加工を施す必要がない。
【0018】
また、領域Aの上方の地盤Gに対して地盤改良Giを施すことで、土砂の崩落を抑制でき、地下水等の流入も防止できる。
また、第一斜材4および第二斜材5を鋼管により構成することで、第一斜材4および第二斜材5が上載荷重を受け持つようになるので、より確実に土砂の崩落を抑制できる。
第一斜材4は、平面視で第一函体2aと重なる部分および第二函体2bと重なる部分においては、第一斜材4の下側の地盤G(改良地盤Gi)からの地盤反力を期待できるので、領域Aの上方から作用する上載荷重による第一斜材4の変形を抑制することができる。
第二斜材5は、平面視で第一函体2aと重なる部分および第二函体2bと重なる部分においては、第二斜材5の下側の地盤G(改良地盤Gi)からの地盤反力を期待できるので、領域Aの上方から作用する上載荷重による第二斜材5の変形を抑制することができる。
【0019】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、地盤改良Giを行うものとしたが、地盤改良Giは必要に応じて行えばよい。また、地盤改良工法は、薬液注入に限定されるものではなく、例えば、固化材等を注入するなど、土質に応じて適宜決定すればよい。
また、前記実施形態では、新設の函体同士を接続する場合について説明したが、本発明の山留構造3の適用対象物はこれに限定されるものではなく、例えば、既設のトンネルに並設された新設のトンネルを接続する場合や、隣り合う既設のトンネル同士を接続する場合に本発明の山留構造を適用してもよい。
また、トンネルの断面形状は矩形に限定されるものではない。
第一斜材4および第二斜材5は、複数段設けてもよい。また、第一斜材4および第二斜材5を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、鉄筋や単管パイプ等であってもよい。
【0020】
第一斜材4と第二斜材5とを隣接させて打設し、交点において固定してもよい。
また、第一斜材4と第二斜材5との交点の直下に軸方向に連続する梁を設けることで、複数の第一斜材4と複数の第二斜材5と3次元的に連結してもよい。
また、複数の第一斜材4上に板材を設けることで、屋根状の山留構造としてもよい。同様に、複数の第二斜材5上に板材を設けてもよい。
前記実施形態では、矩形断面の函体2を形成するものとしたが、函体2の形状は限定されるものではなく、例えば円形断面であってもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 地下構造物
2 函体(トンネル)
20 覆工
21 不要な覆工
22,23 新設覆工
2a 第一函体(一方の函体)
2b 第二函体(他方の函体)
3 山留構造
4 第一斜材
5 第二斜材
A 領域
G 地盤
Gi 改良地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10