(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167144
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】巻上機の組立治具および組立方法
(51)【国際特許分類】
B66B 7/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
B66B7/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078087
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】畔上 卓人
【テーマコード(参考)】
3F305
【Fターム(参考)】
3F305DA15
3F305DA21
(57)【要約】
【課題】従来よりも建屋内での巻上機のメンテナンスや入替作業に適した巻上機の組立治具を提供する。
【解決手段】巻上機の組立治具は、ロープの巻き取りおよび巻き戻しを行うシーブと、シーブの回転軸に沿って配置され、シーブを回転させるシャフトとを備える巻上機の組み立てに適用される。組立治具は、軸方向他方側に向けてロッドを伸張させる複数の直動シリンダを有し、シーブの軸方向一方側でシーブに固定される第1治具と、シーブの軸方向他方側に配置され、ロッドを受ける第2治具と、を備える。第1治具の直動シリンダは、回転軸から径方向にずれた位置でシャフトと並行にそれぞれ配置され、第2治具は、シャフトの他方側と固定されるとともに、ロッドの押圧で軸方向他方側に移動する。直動シリンダの駆動により、第2治具に固定されたシャフトを軸方向一方側からシーブ内に引き込んでシャフトをシーブに嵌入させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープの巻き取りおよび巻き戻しを行うシーブと、前記シーブの回転軸に沿って配置され、前記シーブを回転させるシャフトとを備える巻上機の組み立てに適用される組立治具であって、
軸方向他方側に向けてロッドを伸張させる複数の直動シリンダを有し、前記シーブの軸方向一方側で前記シーブに固定される第1治具と、
前記シーブの前記軸方向他方側に配置され、前記ロッドを受ける第2治具と、を備え、
前記第1治具の前記直動シリンダは、前記回転軸から径方向にずれた位置で前記シャフトと並行にそれぞれ配置され、
前記第2治具は、前記シャフトの他方側と固定されるとともに、前記ロッドの押圧で前記軸方向他方側に移動し、
前記直動シリンダの駆動により、前記第2治具に固定された前記シャフトを前記軸方向一方側から前記シーブ内に引き込んで前記シャフトを前記シーブに嵌入させる
巻上機の組立治具。
【請求項2】
複数の前記直動シリンダは、前記回転軸を中心に回転対称の位置に配置される
請求項1に記載の組立治具。
【請求項3】
前記シーブは、前記シャフトの軸穴を有するボスとロープ巻取面との間に、前記シーブを軸方向に貫通する貫通穴を複数有し、
前記直動シリンダは、前記貫通穴に配置される
請求項1に記載の組立治具。
【請求項4】
前記シャフトは、他方側の第1部位と、前記第1部位よりも太径で前記シーブに嵌入される第2部位とを有し、
前記第1部位の外周に挿入され、前記第1部位と前記シーブとの隙間を埋めるスリーブをさらに備える
請求項1に記載の組立治具。
【請求項5】
前記シャフトの他方側の端部で軸方向に沿って立設されるとともに前記第2治具に挿入され、前記シャフトと前記第2治具を位置決めするガイドピンをさらに備える
請求項1に記載の組立治具。
【請求項6】
ロープの巻き取りおよび巻き戻しを行うシーブと、前記シーブの回転軸に沿って配置され、前記シーブを回転させるシャフトとを備える巻上機の組立方法であって、
軸方向他方側に向けてロッドを伸張させる複数の直動シリンダを有する第1治具を、前記シーブの軸方向一方側で前記シーブに固定する工程と、
前記ロッドを受ける第2治具を前記シーブの前記軸方向他方側に配置し、前記シャフトの他方側と固定する工程と、
前記直動シリンダを駆動させて前記ロッドの押圧で前記第2治具を前記軸方向他方側に移動させて、前記第2治具に固定された前記シャフトを前記軸方向一方側から前記シーブ内に引き込んで前記シャフトを前記シーブに嵌入させる工程と、を含み、
前記第1治具の前記直動シリンダは、前記回転軸から径方向にずれた位置で前記シャフトと並行にそれぞれ配置される
組立方法。
【請求項7】
前記第2治具を前記シーブの前記軸方向他方側に固定し、前記第2治具と前記シャフトの他方側を固定した後に、前記第2治具と前記シーブの固定を解除する工程をさらに含む
請求項6に記載の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機の組立治具および組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動機で駆動綱車(シーブ)を回転させて乗りかごを移動させるエレベータ用の巻上機が知られている。この種の巻上機では、大荷重に耐えるためにシーブとシャフトを一般的にしまり嵌めで締結する。例えば、加熱膨張したシーブにシャフトを焼き嵌めすることで両者が締結される。また、シーブとシャフトの芯出しの容易性から、シャフトを垂直に吊った状態でシーブに挿入することもある。
【0003】
また、近年の持続可能な社会を構築する観点からは、巻上機のメンテナンスや入替(リプレイス)の容易さが巻上機の性能指標の1つとして重要視されつつある。例えば、高層ビルの最上階等でスペースの限られた建屋(機械室など)において、巻上機の分解および組立を簡易に行えることは非常に好ましい。
例えば、特許文献1は、エレベータ用シーブなどの重量物の中心部を形成するボスの交換を、狭い作業空間内で行うのに好適な圧入装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エレベータ用の巻上機のメンテナンスや入替のときには、巻上機を分解状態で建屋内に搬入し、建屋内で巻上機の組立を実施することもある。建屋内のスペースの制約を考慮すると、シャフトを吊り下げて垂直方向からシーブに挿入することは困難である場合が多い。また、シーブ全体を加熱できる加熱炉を建物内に搬入することも困難であり、搬入できたとしてもシーブの加熱には時間がかかる。しかも、火気厳禁の建屋ではシーブとシャフトの焼き嵌めを建屋内で行うことができない。
【0006】
また、特許文献1の圧入装置は、ボスの一方側を油圧シリンダで押圧して他方側のシーブにボスを圧入している。そのため、油圧シリンダの軸方向のストロークを確保するために軸方向に大きなスペースが要求されることに加え、油圧シリンダが大重量になることから建屋内での組立になお支障をきたす可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、従来よりも建屋内での巻上機のメンテナンスや入替作業に適した巻上機の組立治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る巻上機の組立治具は、ロープの巻き取りおよび巻き戻しを行うシーブと、シーブの回転軸に沿って配置され、シーブを回転させるシャフトとを備える巻上機の組み立てに適用される。組立治具は、軸方向他方側に向けてロッドを伸張させる複数の直動シリンダを有し、シーブの軸方向一方側でシーブに固定される第1治具と、シーブの軸方向他方側に配置され、ロッドを受ける第2治具と、を備える。第1治具の直動シリンダは、回転軸から径方向にずれた位置でシャフトと並行にそれぞれ配置され、第2治具は、シャフトの他方側と固定されるとともに、ロッドの押圧で軸方向他方側に移動する。直動シリンダの駆動により、第2治具に固定されたシャフトを軸方向一方側からシーブ内に引き込んでシャフトをシーブに嵌入させる。
【0009】
上記の組立治具において、複数の直動シリンダは、回転軸を中心に回転対称の位置に配置されてもよい。
上記の組立治具において、シーブは、シャフトの軸穴を有するボスとロープ巻取面との間に、シーブを軸方向に貫通する貫通穴を複数有していてもよい。また、直動シリンダは、貫通穴に配置されてもよい。
また、シャフトは、他方側の第1部位と、第1部位よりも太径でシーブに嵌入される第2部位とを有していてもよい。また、上記の組立治具は、第1部位の外周に挿入され、第1部位とシーブとの隙間を埋めるスリーブをさらに備えていてもよい。
上記の組立治具は、シャフトの他方側の端部で軸方向に沿って立設されるとともに第2治具に挿入され、シャフトと第2治具を位置決めするガイドピンをさらに備えていてもよい。
【0010】
本発明の他の態様は、ロープの巻き取りおよび巻き戻しを行うシーブと、シーブの回転軸に沿って配置され、シーブを回転させるシャフトとを含む巻上機の組立方法である。組立方法は、軸方向他方側に向けてロッドを伸張させる複数の直動シリンダを有する第1治具を、シーブの軸方向一方側でシーブに固定する工程と、ロッドを受ける第2治具をシーブの軸方向他方側に配置し、シャフトの他方側と固定する工程と、直動シリンダを駆動させてロッドの押圧で第2治具を軸方向他方側に移動させて、第2治具に固定されたシャフトを軸方向一方側からシーブ内に引き込んでシャフトをシーブに嵌入させる工程と、を含む。また、第1治具の直動シリンダは、回転軸から径方向にずれた位置でシャフトと並行にそれぞれ配置される。
【0011】
上記の組立方法は、第2治具をシーブの軸方向他方側に固定し、第2治具とシャフトの他方側を固定した後に、第2治具とシーブの固定を解除する工程をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、従来よりも建屋内での巻上機のメンテナンスや入替作業に適した巻上機の組立治具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】回転軸を通るYZ平面で
図1の巻上機を切断して示す側断面図である。
【
図3】組立治具を用いてシーブにシャフトを嵌入する前の状態を示す図である。
【
図4】組立治具を用いてシーブにシャフトを嵌入した後の状態を示す図である。
【
図5】本実施形態の組立治具を用いたシャフトの嵌入工程を示す図である。
【
図8】第2治具とシャフトの位置決めの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0015】
図面においては、巻上機の回転軸AXの延長方向と平行な方向を軸方向と称する。また、以下の説明では、回転軸AXを中心とする周方向を単に周方向と称し、回転軸AXを中心とする径方向を単に径方向と称する。
【0016】
また、図面においては、適宜3次元直交座標系としてXYZ座標系を示す。XYZ座標系において、Y方向は、回転軸AXと平行な方向であって、
図2の左右方向に対応する。Z方向は、Y方向と直交する方向であって、
図2の上下方向に対応する。X方向は、Y方向及びZ方向と直交する方向であって、
図2の紙面垂直方向に対応する。
【0017】
図1は、本実施形態の巻上機1の斜視図であり、
図2は、回転軸AXを通るYZ平面で
図1の巻上機1を切断して示す側断面図である。本実施形態の巻上機1は、例えばエレベータ用の巻上機に適用される。
【0018】
巻上機1は、円筒状のシーブ2と、シャフト3と、第1軸受台4と、第2軸受台5と、モータ6と、制動装置7と、を備える。シーブ2は、外周面にロープ巻取面2aを有し、乗りかごと重りを繋ぐロープ(不図示)を巻き取りまたは巻き戻す機能を担う。シャフト3は、シーブ2を軸方向に貫通してシーブ2に嵌入され、シーブ2に対して同心状に取り付けられている。なお、シーブ2とシャフト3の嵌入方法については後述する。
【0019】
第1軸受台4および第2軸受台5はそれぞれ取付台8の上に立設されている。取付台8は、例えば、エレベータの機械室の床に固定される。第1軸受台4は、シーブ2に対して一方側(
図2の右側)に配置され、シーブ2よりも一方側でシャフト3を受ける第1軸受4aを有する。第2軸受台5は、シーブ2に対して他方側(
図2の左側)に配置され、シーブ2よりも他方側でシャフト3を受ける第2軸受5aを有する。第1軸受4aおよび第2軸受5aには、例えば自動調心ころ軸受を用いることができる。これにより、シャフト3およびシーブ2は、第1軸受台4の第1軸受4aと、第2軸受台5の第2軸受5aにより回転可能に軸支される。
【0020】
また、シャフト3の他方側は第2軸受台5を貫通し、モータ6のケーシング6a内に配置される。モータ6は、シャフト3の他方側に固定される回転子6bと、ケーシング6aに固定された固定子6cとをケーシング6a内に有する。回転子6bと固定子6cは、僅かな空隙を隔てて回転軸AXを中心に同心状に配置される。また、固定子6cにはコイル(不図示)が巻回されている。コイルの電流制御により固定子6cの磁界を順番に切り替えることで、回転子6bの磁界に対する吸引力または反発力が固定子6cに発生する。これにより、回転子6bの取り付けられたシャフト3を介してシーブ2が回転駆動する。
【0021】
制動装置7は、シーブ2の一方側に取り付けられる円板状のブレーキディスク7aと、ブレーキディスク7aと当接可能なブレーキクランパ7bとを有する。制動装置7は、ブレーキディスク7aの制動面にブレーキクランパ7bのブレーキパッドを押しつけることで摩擦力を生じさせて、シーブ2の回転を制動する。
【0022】
次に、本実施形態において、シーブ2にシャフト3を嵌入するときに使用される組立治具について説明する。
図3は、本実施形態の組立治具を用いてシーブ2にシャフト3を嵌入する前の状態を示す図である。
図4は、本実施形態の組立治具を用いてシーブ2にシャフト3を嵌入した後の状態を示す図である。
図5、
図6は、本実施形態の組立治具を用いたシャフト3の嵌入工程を示す図である。
図7は、第1治具10の一例を示す図である。
【0023】
本実施形態のシーブ2へのシャフト3の嵌入は、シーブ2の一方側から行われる。また、特に限定するものではないが、上記の組立治具を用いたシーブ2へのシャフト3の嵌入は、例えば、巻上機のメンテナンスや入替のときにエレベータの機械室内で行われる。
【0024】
シャフト3は、他方側から順に、細径の第1部位3aと、太径の第2部位3bを有している。第1部位3aは、モータ6の固定子6cや第2軸受5aが嵌合される部位であり、第2部位3bは、シーブ2が嵌合される部位である。シャフト3の第2部位3bには、シーブ2をシャフト3に固定するためのキー3cが配置される。また、シャフト3の他方側の端部には、回転子6bを固定するためのボルト穴3dが設けられている。なお、シャフト3の他方側の端部に設けられたボルト穴3dは、後述する第2治具20の固定にも用いられる。
【0025】
シーブ2は、外周にロープ巻取面2aを有し、中心部にボス2bを有する筒状体である。シーブ2のボス2bには、シャフト3を受ける軸穴2cが形成されている。シーブの軸穴2cは回転軸AXに沿って設けられ、軸穴2cの内径はシャフト3の第2部位3bの外径に対してしまり嵌めとなる寸法である。なお、シーブ2の軸穴2cには、シャフト3の第2部位3bに配置されたキー3cを受けるためのキー溝(不図示)が形成されている。
【0026】
また、シーブ2のロープ巻取面2aとボス2bの間には、それぞれシーブ2を軸方向に貫通する貫通穴2eが複数形成されている。複数の貫通穴2eは、軸穴2cの外周側においてシーブ2の周方向に環状になすように配列されている。また、各々の貫通穴2eの間には、ロープ巻取面2aとボス2bの間を径方向につなぐリブ2fが形成されている。なお、ボス2bとロープ巻取面2aの間では複数のリブ2fが放射状をなすように配置される。
【0027】
一方、組立治具は、第1治具10および第2治具20を有する。
第1治具10は、シーブ2の一方側の面に取り付けられる治具である。第1治具10は、中央が開口された円板状の本体部11と、本体11部に固定された複数の油圧シリンダ12とを有する。油圧シリンダ12は直動シリンダの一例である。
【0028】
本体部11は、例えば、シーブ2の一方側の面にボルト14で着脱可能に固定される。また、本体部11の開口11aは、シャフト3を挿通可能な寸法である。そのため、第1治具10がシーブ2に取り付けられた状態において、第1治具10の外側(一方側)からシーブ2の軸穴2cにシャフト3を挿入することが可能である。
【0029】
また、各々の油圧シリンダ12は、油圧により前後退するシリンダロッド12aを有している。油圧シリンダ12は、シーブ2の一方側の面に対してシリンダロッド12aの移動方向が直交するように本体部11に固定され、本体部11がシーブ2に固定された状態でシリンダロッド12aが軸方向(図中Y方向)の他方側に伸張可能に構成されている。
【0030】
複数の油圧シリンダ12は、
図7に示すように、回転軸AXから径方向にずれた位置で、回転軸AXを中心に回転対称をなすように本体部11に配置されている。
図7では、本体部11の左右に2本ずつ、4本の油圧シリンダ12が回転対称に配置されている例を示している。また、各々の油圧シリンダ12は、それぞれシーブ2の貫通穴2eに配置され、
図4に示すように、シリンダロッド12aをシーブ2の他方側に伸張させることが可能である。
【0031】
第2治具20は、シーブ2の他方側に配置され、シャフト3の他方側の端部に固定される板状の治具である。第2治具20の全体形状は、長手方向寸法がシーブ2の直径に対応する略長方形であり、長手方向の両端部がシーブ2の外周形状に対応する円弧状をなしている。また、第2治具20の幅は、シャフト3の直径よりも大きく、第1治具10の油圧シリンダ12の配置領域をカバーできる寸法である。
【0032】
第2治具20の長手方向中央部には、シャフト3の他方側の端部に第2治具20を固定するために、複数の第1のボルト挿通穴21が設けられている。また、第2治具20の長手方向端部には、シャフト3との固定作業の際に第2治具20をシーブ2に一時的に固定するために、第2のボルト挿通穴22がそれぞれ両側に設けられている。
【0033】
第2治具20は、シーブ2の他方側で油圧シリンダ12のシリンダロッド12aを受け、軸方向(Y方向)に伸張するシリンダロッド12aに対して反力を生じさせる。これにより、第2治具20は、油圧シリンダ12に押圧されてシャフト3とともに軸方向の他方側に移動するように構成されている。
【0034】
以下、
図5、
図6を参照しつつ、本実施形態の組立治具を用いたシャフト3の嵌入工程を説明する。
【0035】
まず、
図5(A)、(B)に示すように、シーブ2の一方側の面に第1治具10を取り付け、シーブ2の他方側の面に第2治具20を取り付ける。シーブ2への第1治具10の取り付けは、第1治具10の本体部11とシーブ2の一方側の面をボルト14で締結することで行われる。また、シーブ2への第2治具20の取り付けは、例えば
図3に示すように、第2治具20の第2のボルト挿通穴22にボルト22aを挿入し、第2治具20とシーブの他方側の面をボルト22aで締結することで行われる。
【0036】
図5(B)において、第1治具10および第2治具20をシーブ2に取り付けた状態では、第1治具10の各油圧シリンダ12は、シリンダロッド12aが一方側に後退して収縮した状態にある。また、各油圧シリンダ12におけるシリンダロッド12aは、例えば
図3に示すように、それぞれ第2治具20の内側の面(シーブ2と対向する面)と当接した状態にある。また、ボス2bの軸穴2cは、第1治具10の開口11aに臨むため、第1治具10とシーブ2に一方側からシャフト3を挿通することが可能である。
【0037】
次に、
図5(B)、(C)に示すように、第1治具10の一方側からシーブ2の軸穴2cにシャフト3を挿通する。このとき、シャフト3の第1部位3aの外周には、シャフト3の第2部位3bの外径よりも外径が若干小径であるスリーブ30がすきま嵌めで挿入される。スリーブ30は、シャフト3の第1部位3aとシーブ2の軸穴2cとの隙間を埋めて、シャフト3の嵌入時にシャフト3が径方向にぶれることを抑制する機能を担う。
【0038】
その後、スリーブ30を取り付けたシャフト3を軸穴2cに挿通し、シャフト3の他方側の端部を第2治具20に固定する。シャフト3と第2治具20の固定は、第2治具20の第1のボルト挿通穴21とシャフトのボルト穴3dにボルト21aを挿通し、第2治具20とシャフト3をボルト21aで締結することで行われる。以上の状態が、
図3に示す状態に対応する。
【0039】
また、特に限定するものではないが、シャフト3を第2治具20に取り付ける際に、
図8に示すようにシャフト3の端部に軸方向に延びるガイドピン31を取り付け、ガイドピン31を第2治具20に挿通させることでシャフト3と第2治具20を位置決めしてもよい。
図8の構成によれば、シャフト3に対して第2治具20を精度よく位置決めすることができる。また、例えばシャフト3と第2治具20をインローで係合させて位置決めする構成と比べると、径方向の凹凸が少ないので嵌入時に局所的な応力集中が発生しにくくなる。そのため、位置決めに係る部品強度を必要以上に高くせずに済み、コストを抑制できる。
【0040】
第2治具20とシャフト3が固定された後、第2治具20の第2のボルト挿通穴22からボルト22aを取り外す。これにより、シーブ2と第2治具20の固定が解除され、シーブ2に対して第2治具20が他方側に移動可能な状態となる。
【0041】
次に、
図4および
図6(A)に示すように、第1治具10の油圧シリンダ12を駆動し、シリンダロッド12aを他方側に伸張させる。すると、第2治具20は、油圧シリンダ12の押圧によって軸方向他方側に向けて移動し、第2治具20に固定されているシャフト3を一方側から他方側に向けて引き込む。これにより、シーブ2の軸穴2cにシャフト3の第2部位3bが嵌入される。
【0042】
シーブ2の軸穴2cにシャフト3の第2部位3bが嵌入された後、
図6(B)に示すように、第1治具10、第2治具20およびスリーブ30を取り外す。以上で、本実施形態のシャフト3の嵌入工程が終了する。
【0043】
以下、本実施形態の作用効果を述べる。
本実施形態では、シーブ2の一方側に第1治具10を固定し、シーブ2の他方側にシャフト3の他方側と固定された第2治具20を配置する。そして、第1治具10の油圧シリンダ12の押圧で第2治具20を他方側に移動させて、第2治具20に固定されたシャフト3を一方側からシーブ2内に引き込む。これにより、焼き嵌めを行うことなくシャフト3をシーブ2に嵌入させることが可能となる。また、本実施形態でのシャフト3の嵌入は、シャフト3を垂直方向に吊り下げなくても可能である。以上のように、本実施形態の組立治具の適用により、建屋内のスペースや建屋に火気に関する制約がある場合などにおいても、巻上機1のシーブ2にシャフト3を容易に嵌入できる。
【0044】
また、第1治具10の油圧シリンダ12は、回転軸から径方向にずれた位置でシャフト3と並行に配置されている。つまり、本実施形態の組立治具は、シャフト3と油圧シリンダ12が並列に配置されており、シャフト3と油圧シリンダ12が直列に配置されていない。
シャフト3と油圧シリンダ12が直列に配置される場合には、シャフト3および油圧シリンダ12の軸方向寸法と、油圧シリンダ12のストローク分を合計したサイズの作業スペースが要求される。これに対し、本実施形態の組立治具の場合、シャフト3の軸方向寸法と油圧シリンダ12のストローク分の作業スペースを確保すればよく、シャフト3と油圧シリンダ12を直列に配置する場合と比べて作業スペースのサイズを減らすことができる。そのため、本実施形態によれば、作業スペースの制約が大きい建屋内での巻上機のメンテナンスや入替作業を従来よりも容易に行うことができる。
【0045】
また、本実施形態の第1治具10は複数の油圧シリンダ12を使用するため、1つの油圧シリンダでシャフトを嵌入する場合と比べ、油圧シリンダ12のサイズを小さくすることができる。そのため、本実施形態によれば、組立治具を建屋内へ搬入する際の負荷を抑制することもできる。
【0046】
また、本実施形態では、回転軸を中心として油圧シリンダ12を回転対称の位置に配置するため、複数の油圧シリンダ12を用いても軸方向に沿ってシャフト3をシーブ2に容易に嵌入できる。
【0047】
また、本実施形態では、油圧シリンダ12をシーブ2の貫通穴2eに配置することで、第1治具10と第2治具20の径方向のサイズをシーブ2の直径以内に収めることができる。そのため、本実施形態によれば、建屋内での巻上機のメンテナンスや入替作業を行うときに必要となる作業スペースをより抑制できる。
【0048】
<実施形態の補足事項>
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0049】
例えば、組立治具の油圧シリンダの本数や配置は、上記実施形態の構成には限定されない。また、油圧シリンダは、シーブのロープ巻取面2aよりも外周側に配置される構成であってもよい。
【0050】
上記実施形態では、本発明の組立治具をエレベータの巻上機のメンテナンスや入替に適用した場合について説明した。しかしながら、本発明の組立治具は、ロープを巻き上げる巻上機であれば、如何なる用途の巻上機にも適用可能である。
【0051】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1…巻上機、2…シーブ、2a…ロープ巻取面、2b…ボス、2c…軸穴、2e…貫通穴、3…シャフト、3a…第1部位、3b…第2部位、4…第1軸受台、5…第2軸受台、6…モータ、7…制動装置、10…第1治具、11…本体部、11a…開口、12…油圧シリンダ、12a…シリンダロッド、14…ボルト、20…第2治具、21,22…ボルト挿通穴、21a,22b…ボルト、30…スリーブ、31…ガイドピン