(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167162
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】コンクリート充填鋼管柱の設計法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/36 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
E04C3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078126
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】近藤 史朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡武
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太勇
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FB06
2E163FB07
2E163FD52
2E163FF15
(57)【要約】
【課題】耐火被覆の設置が不要であり、火災の加熱による柱の構造耐力への影響を低減するコンクリート充填鋼管柱を提供できるコンクリート充填鋼管柱の設計法を提供する。
【解決手段】鋼管21と、鋼管21の内部に充填された充填コンクリート22と、で構成され、地階を除いて3以上の階層を有する建築物1に備えられるコンクリート充填鋼管柱2に適用されるコンクリート充填鋼管柱の設計法であって、コンクリート充填鋼管柱2が加熱された際に、充填コンクリート22の加熱により耐力が低下する部分を除いた横断方向の有効断面の断面積をAce、有効断面内の充填コンクリート22の設計基準強度をFc、鋼管21の長期許容圧縮力をLNとしたとき、次の式(1)が成立することを特徴とする。
[数1]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管と、前記鋼管の内部に充填された充填コンクリートと、で構成され、地階を除いて3以上の階層を有する建築物に備えられるコンクリート充填鋼管柱に適用されるコンクリート充填鋼管柱の設計法であって、
前記コンクリート充填鋼管柱が加熱された際に、前記充填コンクリートの加熱により耐力が低下する部分を除いた横断方向の有効断面の断面積をAce、前記有効断面内の前記充填コンクリートの設計基準強度をFc、前記鋼管の長期許容圧縮力をLNとしたとき、次の式(1)が成立することを特徴とする、コンクリート充填鋼管柱の設計法。
【数1】
【請求項2】
前記鋼管の基準強度は、440N/mm2以下である、
請求項1に記載のコンクリート充填鋼管柱の設計法。
【請求項3】
前記コンクリート充填鋼管柱は、横断面が略正方形に形成された角柱として備えられ、
前記鋼管は、横断面の部材幅が500mm以上、厚みが16mm以上で形成される、
請求項1に記載のコンクリート充填鋼管柱の設計法。
【請求項4】
前記コンクリート充填鋼管柱は、横断面が略円形に形成された円柱として備えられ、
前記鋼管は、横断面の部材幅が633mm以上、厚みが16mm以上で形成される、
請求項1に記載のコンクリート充填鋼管柱の設計法。
【請求項5】
角形形状の鋼管の厚さは、
前記鋼管の横断面の部材幅が1000mm以上の場合、前記鋼管の基準強度と部材幅に応じて次の式(2)を満たす部材ランクFC以上となる厚さとして算出され、
【数2】
前記鋼管の横断面の部材幅が1000mm未満の場合、前記鋼管の基準強度と部材幅に応じて次の表1にしたがって定められる鋼管厚さとする、
請求項3に記載のコンクリート充填鋼管柱の設計法。
【表1】
【請求項6】
円形形状の鋼管の厚さは、
前記鋼管の横断面の部材幅が2610mm以上の場合、前記鋼管の基準強度と部材幅に応じて次の式(3)を満たす部材ランクFC以上となる厚さとして算出され、
【数3】
前記鋼管の横断面の部材幅が2610mm未満の場合、前記鋼管の基準強度と部材幅に応じて次の表2にしたがって定められる鋼管厚さとする、
請求項4に記載のコンクリート充填鋼管柱の設計法。
【表2】
【請求項7】
前記充填コンクリートの設計基準強度Fcは、39N/mm2以上60N/mm2以下である、
請求項1から6のいずれか一項に記載のコンクリート充填鋼管柱の設計法。
【請求項8】
前記有効断面の断面積は、前記充填コンクリートの温度が200℃以内の部分の横断方向の断面積である、
請求項1から6のいずれか一項に記載のコンクリート充填鋼管柱の設計法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート充填鋼管柱の設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築基準法施行令において、地階を除いて階数が3以上の鉄骨系柱の建築物は、柱のみの火熱による耐力の低下によって容易に倒壊するおそれがある場合、耐火または準耐火対策の要求がなくても柱の構造を通常の火災による火熱が加えられてから30分間、構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊等が生じない構造とすることが規定されている。
【0003】
従来、柱の耐火構造は、建設省告示に定められた構造のいずれかに該当するものとされており、いずれも柱の周囲が被覆材で被覆された耐火被覆構造である。例えば、特許文献1には、耐火被覆が設けられた鋼材を用いた耐火被覆柱および耐火被覆梁を備える耐火構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐火または準耐火対策の要求がない柱に耐火被覆を設ける作業は、該作業分の工期の延長や工費が嵩むという課題がある。そのため、耐火被覆による工法を用いることなく建築基準法施行令に規定された耐火要求を満足できる柱の設計法が求められている。
【0006】
一方で、従来から鉄骨系柱の一工法として適用されているコンクリート充填鋼管柱は、鋼管の内部に充填されたコンクリートの熱容量が大きいことにより、火災時においても鋼管の内部の充填コンクリートの耐力が低下しにくいという特徴を有する。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、耐火被覆の設置が不要であり、火災の加熱による柱の構造耐力への影響を低減するコンクリート充填鋼管柱を提供できるコンクリート充填鋼管柱の設計法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋼管と、前記鋼管の内部に充填された充填コンクリートと、で構成され、地階を除いて3以上の階層を有する建築物に備えられるコンクリート充填鋼管柱に適用されるコンクリート充填鋼管柱の設計法であって、前記コンクリート充填鋼管柱が加熱された際に、前記充填コンクリートの加熱により耐力が低下する部分を除いた横断方向の有効断面の断面積をAce、前記有効断面内の前記充填コンクリートの設計基準強度(N/mm2)をFc、前記鋼管の長期許容圧縮力をLNとしたとき、次の式(1)が成立することを特徴とする、コンクリート充填鋼管柱の設計法。
【0009】
【0010】
上記の構成により、コンクリート充填鋼管柱の設計法により設計されたコンクリート充填鋼管柱(以下、「設計コンクリート充填鋼管柱」と記載する)は、式(1)を満たすことにより、加熱時において充填コンクリートの有効断面による充填コンクリートの圧縮方向の耐力が鋼管の長期許容圧縮力を上回る。そのため、設計コンクリート充填鋼管柱は、加熱によって鋼管部分の圧縮方向の耐力が低下した後も、充填コンクリートが柱軸力を保持し長期圧縮力に対して継続して支持できる。
以上より、設計コンクリート充填鋼管柱が式(1)を満たすことにより、設計コンクリート充填鋼管柱は、火災等による加熱時においても柱の構造耐力に支障が発生しないため、耐火被覆を設置することなく建築基準法施行令の構造規定を満たすことができる。
設計コンクリート充填鋼管柱は、耐火被覆の設置を省略でき、さらに従来の鉄骨造と比較して鉄骨の数量を削減できるため、設計コンクリート充填鋼管柱が適用される建築物の全体の工費の削減および工期の短縮が可能となる。
【0011】
また、本発明に係るコンクリート充填鋼管柱の設計法において、前記鋼管の基準強度は、440N/mm2以下であってもよい。
【0012】
上記の構成とすることにより、コンクリート充填鋼管柱の設計法において鋼管の長期許容圧縮力が一定範囲に指定されるため、コンクリート充填鋼管柱の設計の正確性および容易性を向上できる。
【0013】
また、本発明に係るコンクリート充填鋼管柱の設計法において、前記コンクリート充填鋼管柱は、横断面が略正方形に形成された角柱として備えられ、前記鋼管は、横断面の部材幅が500mm以上、厚みが16mm以上で形成されてもよい。
【0014】
上記の構成とすることにより、コンクリート充填鋼管柱の設計法において角柱形状の鋼管寸法範囲が一定範囲に指定されるため、コンクリート充填鋼管柱の設計の正確性および容易性を向上できる。
【0015】
また、本発明に係るコンクリート充填鋼管柱の設計法において、前記コンクリート充填鋼管柱は、横断面が略円形に形成された円柱として備えられ、前記鋼管は、横断面の部材幅が633mm以上、厚みが16mm以上で形成されてもよい。
【0016】
上記の構成とすることにより、コンクリート充填鋼管柱の設計法において円柱形状の鋼管寸法範囲が一定範囲に指定されるため、コンクリート充填鋼管柱の設計の正確性および容易性を向上できる。
【0017】
また、本発明に係るコンクリート充填鋼管柱の設計法において、角形形状の鋼管の厚さは、前記鋼管の横断面の部材幅が1000mm以上の場合、前記鋼管の基準強度と部材幅に応じて次の式(2)を満たす部材ランクFC以上となる厚さとして算出され、前記鋼管の横断面の部材幅が1000mm未満の場合、前記鋼管の基準強度と部材幅に応じて次の表1にしたがって定められる鋼管厚さとしてもよい。(表1は、発明を実施するための形態に記載。)
【0018】
【0019】
上記の構成とすることにより、角柱形状のコンクリート充填鋼管柱について、変形性能が脆性的である部材種別FDランクの鋼管を対象から除外することができるため、鋼管の靭性を確保できる。
【0020】
また、本発明に係るコンクリート充填鋼管柱の設計法において、円形形状の鋼管の厚さは、前記鋼管の横断面の部材幅が2610mm以上の場合、前記鋼管の基準強度と部材幅に応じて次の式(3)を満たす部材ランクFC以上となる厚さとして算出され、前記鋼管の横断面の部材幅が2610mm未満の場合、前記鋼管の基準強度と部材幅に応じて次の表2にしたがって定められる鋼管厚さとしてもよい。(表2は、発明を実施するための形態に記載。)
【0021】
【0022】
上記の構成とすることにより、円柱形状のコンクリート充填鋼管柱について、変形性能が脆性的である部材種別FDランクの鋼管を対象から除外することができるため、鋼管の靭性を確保できる。
【0023】
また、本発明に係るコンクリート充填鋼管柱の設計法において、前記充填コンクリートの設計基準強度Fcは、39N/mm2以上60N/mm2以下であってもよい。
【0024】
上記の構成とすることにより、コンクリート充填鋼管柱の設計法において充填コンクリートの設計基準強度の範囲が一定範囲に指定されるため、コンクリート充填鋼管柱の設計の正確性および容易性を向上できる。
【0025】
また、本発明に係るコンクリート充填鋼管柱の設計法において、前記有効断面の断面積は、前記充填コンクリートの温度が200℃以内の部分の横断方向の断面積であってもよい。
【0026】
上記の構成とすることにより、コンクリート充填鋼管柱の設計法において有効断面の断面積の定義が一定範囲に指定されるため、コンクリート充填鋼管柱の設計の正確性および容易性を向上できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、耐火被覆の設置が不要であり、火災の加熱による柱の構造耐力への影響を低減するコンクリート充填鋼管柱を提供できるコンクリート充填鋼管柱の設計法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態によるコンクリート充填鋼管柱の設計法が適用されるコンクリート充填鋼管柱を備える柱梁構造の一例を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の実施形態によるコンクリート充填鋼管柱の設計法が適用されるコンクリート充填鋼管柱の一例であり、(a)は、角柱状のコンクリート充填鋼管柱の横断面図である。(b)は、円柱状のコンクリート充填鋼管柱の横断面図である。
【
図3】本発明の実施形態によるコンクリート充填鋼管柱の設計法が適用されるコンクリート充填鋼管柱の加熱による軸方向収縮量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態によるコンクリート充填鋼管柱の設計法について、
図1から
図3に基づいて説明する。
本実施形態によるコンクリート充填鋼管柱の設計法は、耐火構造の設置の要求がなく、地階を除いて3階建て以上の鉄骨系の建築物1に適用される。建築物1は、都市計画法に規定される防火地域および準防火地域になく、建築基準法に規定される特殊建築物ではない建築物である。
【0030】
図1に示すように、建築物1は、本実施形態のコンクリート充填鋼管柱の設計法により設計される複数のコンクリート充填鋼管柱2と、複数の梁3と、各階層を仕切る複数のスラブ4と、を備える。
図1において、コンクリート充填鋼管柱2に対する水平一方向をX方向、X方向に直交するコンクリート充填鋼管柱2に対する水平他方向をY方向、梁3に対する鉛直方向(コンクリート充填鋼管柱2の配置方向)をZ方向と記載する。梁3は、例えば公知のH形鋼である。
【0031】
コンクリート充填鋼管柱2は、耐火被覆を有さない鋼管柱である。複数のコンクリート充填鋼管柱2は、X方向およびY方向に一定の間隔で配置される。
【0032】
複数の梁3は、X方向およびY方向に一定の間隔で複数配置され、1層の梁部31が形成される。梁部31は、Z方向に一定の間隔で建築物1の階数に応じて複数配置される。複数の梁部31は、上方に建築物1の床や屋根に相当するスラブ4が設けられている。スラブ4は公知の鉄筋コンクリートで形成される。
【0033】
複数のコンクリート充填鋼管柱2と、複数の梁3とは、各交差部5において接合される。交差部5における接合方法は限定されず、例えば交差部5でコンクリート充填鋼管柱2と複数の梁3を溶接することにより接合される。
【0034】
図2に示すように、コンクリート充填鋼管柱2は、鋼管21と、鋼管21の内部に充填された充填コンクリート22と、で構成されている。
【0035】
コンクリート充填鋼管柱2は、コンクリート充填鋼管柱2が加熱された際に、充填コンクリート22の加熱により耐力が低下する部分を除いた横断方向の有効断面23によるコンクリート耐力が鋼管21の長期許容圧縮耐力を上回ることを設計条件とする。具体的には、有効断面23の断面積をAce、有効断面23内の充填コンクリート22の設計基準強度をFc、鋼管21の長期許容圧縮力をLNとしたとき、式(1)が成立する。有効断面23は、コンクリート充填鋼管柱2のシャフト2aの内、交差部5(柱梁接合部)を除く最小の横断面である。例えば、シャフト2aの径長が途中で変化する場合、有効断面23は、最小の径長における横断面を取る。
【0036】
【0037】
上記の設計条件を満たすことにより、平時における長期応力に対しては鋼管21の耐力だけで抵抗し、火災等の加熱によって鋼管21部分の耐力が低下した後は、充填コンクリート22の耐力だけで長期応力に対して抵抗する。
【0038】
有効断面23の断面積Aceは、コンクリート充填鋼管柱2の加熱時において充填コンクリート22の温度が200℃以内の部分の横断方向の断面積である。
【0039】
鋼管21は、建築基準法に規定される品質基準を満たす。鋼管21は、BCP325であることが望ましい。鋼管21の基準強度(F値)は440N/mm2以下である。
【0040】
コンクリート充填鋼管柱2は、横断面24が略正方形に形成された角柱または略円形に形成された円柱として備えられるのが望ましい。
【0041】
図2(a)に示すように、コンクリート充填鋼管柱2は、横断面24が略正方形に形成された角柱である場合、鋼管21の横断面24の部材幅であるX方向およびY方向の幅長bが500mm以上、厚みtが16mm以上で形成される。
【0042】
図2(b)に示すように、コンクリート充填鋼管柱2は、横断面24が略円形に形成された円柱である場合、鋼管21の横断面24の部材幅である幅長(外径)Dが633mm以上、厚みが16mm以上で形成される。
【0043】
鋼管21は、国土交通省告示に規定される火災時に充填コンクリート22から発生する蒸気を外部に逃がす蒸気抜き孔が所定の位置に設けられている。
【0044】
充填コンクリート22の設計基準強度Fcは、39N/mm2以上60N/mm2以下である。
【0045】
鋼管21の部材幅と厚みとの比である幅厚比Cは、横断面24が略正方形の角柱である場合、鋼管21の幅長bが1000mm以上であれば、建設省告示第1792号第3号第2号のイに記載の柱種別FCに定められた数値以下となる。鋼管21の基準強度Fが235N/mm2であると幅厚比Cは48となり、鋼管21の基準強度Fが295N/mm2であると幅厚比Cは42.8となり、鋼管21の基準強度Fが325N/mm2であると幅厚比Cは40.8となる。また、下記の式(2)が成立する。但し、鋼管21の幅長bが1000mm未満である場合、鋼管21の厚みtは表1に示す条件となり、幅厚比Cは表1に記載の幅長bと厚みtとの関係から算出される。
【0046】
【0047】
【0048】
幅厚比Cは、横断面24が略円形の円柱である場合、鋼管21の幅長bが2610mm以上であれば建設省告示第1792号第3号第2号のイに記載の柱種別FCに定められた数値以下となる。鋼管21の基準強度Fが235N/mm2であると幅厚比Cは100となり、鋼管21の基準強度Fが295N/mm2であると幅厚比Cは72.3となる。また、下記の式(3)が成立する。但し、鋼管21の幅長bが2610mm未満である場合、鋼管21の厚みtは表2に示す条件となり、幅厚比Cは表2に記載の幅長bと厚みtとの関係から算出される。
【0049】
【0050】
【0051】
有効断面23の最小断面積Ace1は、充填コンクリート22の横断方向の外周部25から27mm内側の部分の横断面積である。
【0052】
上記のコンクリート充填鋼管柱2の設計条件について、例えば、鋼管21が角柱であるBCP325であり、幅長bが500mmである場合について検討する。コンクリート充填鋼管柱2について、厚さt、充填コンクリートの設計基準強度Fcを適宜変更し、各ケースについて式(2)を検討する。鋼管21の基準強度Fは325N/mm2であり、鋼管21の長期許容圧縮応力度Faの算出は鋼構造設計基準による。長期許容圧縮応力度Faは、鋼管21の基準強度Fと鋼管21の細長比により求められる。式(2)が成立するには、式(2)の左辺と右辺との比が1以下となればよい。
【0053】
コンクリート充填鋼管柱2は、鋼管21の断面寸法(幅厚比)を大きく取ると、充填コンクリート22の設計基準強度Fcの式(2)が成立する範囲が狭まり、小さく取ると式(4)が成立する設計基準強度Fcの範囲が広まる。コンクリート充填鋼管柱2は、柱のZ方向の長さを長く取ると長期許容圧縮力LNが減少するため、式(2)の成立に有利となる。
【0054】
建築物1に備えられるコンクリート充填鋼管柱2について、建築基準法施行令に規定される通常の火災による火熱が加えられた場合に加熱開始後30分間構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じない構造であることを以下の実証試験により確認する。
【0055】
コンクリート充填鋼管柱2として、幅長bが500mm、厚みtが16mm、Z方向の長さが3500mmに形成された角柱のコンクリート充填鋼管柱供試体20を形成する。鋼管21は、BCP325とする。コンクリート充填鋼管柱供試体20は、幅長bおよび厚みtは、式(3)を満たすように形成される。
【0056】
上記の設計条件により設計されたコンクリート充填鋼管柱供試体20(以下、「供試体20」)は、上端面に対してZ方向下向きに一定の長期許容圧縮力LN(6355kN)が載荷され、同時に一定の加熱速度で加熱し、最大加熱温度は842℃とする。加熱方法は、ISO標準加熱による方法とする。載荷時間および加熱時間は少なくとも40分以上とする。加熱温度は、供試体20のZ方向上端面(加熱面)から10cm離れた位置の該上端面の四隅に対応する4点における火炎温度を測定する。上記の4点の測定点をイ,ロ,ハ,ニとおき、各測定点における加熱による供試体20のZ方向の収縮量(伸び)を測定した。試験規格は、一般財団法人日本建築総合試験所制定「防耐火性能試験・評価業務方法書」4.7柱防火性能試験方法による。実証試験は、複数の供試体を使用し反復試験を行う。
【0057】
図3に示す試験結果から、コンクリート充填鋼管柱供試体20は、加熱開始から約20分後までにおけるZ方向の変形挙動は、鋼管21が加熱によりZ方向上向きに伸びる挙動を示す。この時、充填コンクリート22の上端面は、載荷面から一時的に離間する。
【0058】
コンクリート充填鋼管柱供試体20は、加熱開始から約20分後からZ方向の変形挙動が収縮側に転じる。この挙動は、鋼管21の長期許容圧縮力LNが加熱により漸減したことで載荷している長期許容圧縮力LNを支持できなくなり、載荷による鋼管21の収縮が開始されることを示す。
【0059】
コンクリート充填鋼管柱供試体20は、加熱開始から約21分後からZ方向の時間当たりの収縮量が減少している。この挙動は、加熱開始から20分後までに鋼管21が加熱により伸びた分の長さの収縮がほぼ完了したことで載荷面が鋼管21と充填コンクリート22の両方に接地し、鋼管21と充填コンクリート22とで長期許容圧縮力LNの載荷を支持する構成となることを示す。
【0060】
コンクリート充填鋼管柱供試体20は、加熱開始から約24分後から収縮量がプラスとなる。この挙動は、充填コンクリート22の耐力による長期許容圧縮力LNの支持が開始されたことを示す。
【0061】
上記の試験結果より、コンクリート充填鋼管柱供試体20は、加熱開始から30分後の長期許容圧縮力LNの載荷によるZ方向の収縮量は5mm未満であり、一般財団法人日本建築総合試験所の防耐火性能試験・評価業務報告書の判定基準より、供試体20の初期高さh/100から算出された軸方向収縮量の許容値35mmに対して十分小さい結果となった。また、コンクリート充填鋼管柱供試体20は、加熱開始から40分後の長期許容圧縮力LNの載荷によるZ方向の収縮量も5mm未満であり、同様に軸方向収縮量の許容値35mmに対して十分小さい結果となった。
【0062】
次に、上述した本発明の実施形態によるコンクリート充填鋼管柱の設計法の作用・効果について図面を用いて説明する。
【0063】
コンクリート充填鋼管柱の設計法により設計されるコンクリート充填鋼管柱2は、建築物1に備えられ、式(2)が成立する。
上記の構成により、充填コンクリート22の有効断面23による充填コンクリート22の圧縮方向の耐力が鋼管21の長期許容圧縮力LNを上回る。そのため、コンクリート充填鋼管柱2は、加熱によって鋼管21部分の圧縮方向の耐力が低下した後も、充填コンクリート22が柱軸力を保持し長期圧縮力に対して継続して支持できる。
以上より、コンクリート充填鋼管柱2は、火災等による加熱時においても柱の構造耐力に支障が発生しないため、耐火被覆を設置することなく建築基準法施行令の構造規定を満たすことができる。
【0064】
コンクリート充填鋼管柱2は、耐火被覆の設置を省略でき、さらに従来の鉄骨造と比較して鉄骨の数量を削減できるため、建築物1全体の工費の削減および工期の短縮が可能となる。
【0065】
コンクリート充填鋼管柱2は、鋼管21の基準強度F、幅長bおよび厚みtと、充填コンクリート22の設計基準強度Fc、有効断面23の温度が一定範囲に指定されるため、コンクリート充填鋼管柱の設計の正確性および容易性を向上できる。
【0066】
コンクリート充填鋼管柱2は、鋼管21の幅長b及び厚みt(幅厚比C)が表1に記載の条件を満たすことにより、鋼管21を変形性能が脆性的である部材種別FDランクを除く部材とすることができるため、鋼管21の靭性を確保できる。
【0067】
コンクリート充填鋼管柱2は、建築物1が生産施設等である場合、設備配管を固定する受けブラケットが取り付けられるが、この際、耐火被覆が設けられていないことにより、受けブラケットを耐火被覆に貫通させて設置する手間を省略できる。そのため、受けブラケットをコンクリート充填鋼管柱2に容易に取り付けることができ、建築物1の全体の工期をさらに短縮できる。
【0068】
以上、本発明によるコンクリート充填鋼管柱の設計法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0069】
例えば、上記の実施形態において、コンクリート充填鋼管柱2は、横断面24が略正方形に形成された角柱または略円形に形成された円柱として備えられるのが望ましいとされるが、X方向とY方向のいずれかが長く形成された略長方形に形成された角柱としてもよい。また、コンクリート充填鋼管柱2は、式(2)を考慮して幅長b、外径Dおよび厚みtが実施形態における基準値以下で形成されてもよい。
【0070】
上記の実施形態において、鋼管21の基準強度Fは、440N/mm2以下、充填コンクリート22の設計基準強度Fcは、39N/mm2以上60N/mm2以下とされるが、式(2)を考慮して基準強度Fが440N/mm2以上とされてもよいし、充填コンクリート22の設計基準強度Fcが60N/mm2とされてもよい。
【0071】
上記の実施形態において、有効断面23の断面積Aceは、充填コンクリート22の温度が200℃以内の部分の横断方向の断面積とされるが、式(2)を考慮して温度の基準値を上げて定義してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 建築物
2 コンクリート充填鋼管柱
21 鋼管
22 充填コンクリート
23 有効断面
24 横断面
b 幅長
t 厚み