(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167187
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078165
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】星 譲
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505GG08
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ22
5H505JJ23
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505JJ28
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL38
5H505LL41
5H505LL58
5H505PP01
(57)【要約】
【課題】モータのデューティ飽和を精度良く回避することができるモータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置は、電流指令値に基づいて、モータに印加する電圧の電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、電圧指令値算出部により算出された電圧指令値と、モータの駆動回路への供給可能電圧とに基づいて、供給可能電圧に対する電圧指令値のデューティを算出するデューティ算出部と、デューティ算出部により算出されたデューティに基づいて、電圧指令値算出部により算出された電圧指令値を抑制する電圧指令値抑制部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動制御するモータ制御装置であって、
電流指令値に基づいて、前記モータの電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、
前記電圧指令値算出部により算出された前記電圧指令値と、前記モータの駆動回路への供給可能電圧とに基づいて、前記供給可能電圧に対する前記電圧指令値のデューティを算出するデューティ算出部と、
前記デューティ算出部により算出されたデューティに基づいて、前記電圧指令値算出部により算出された前記電圧指令値を抑制する電圧指令値抑制部と、を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
前記電圧指令値抑制部は、
前記デューティ算出部により算出されたデューティが100%を超えている場合、当該デューティが100%となるように前記電圧指令値を抑制する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電圧指令値抑制部は、
前記デューティ算出部により算出されたデューティに基づいて、前記電圧指令値の抑制ゲインを算出する抑制ゲイン算出部と、
前記抑制ゲイン算出部により算出された前記抑制ゲインを前記電圧指令値に乗算する乗算部と、を備える請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記抑制ゲイン算出部は、前記デューティ算出部により算出されたデューティの逆数を前記抑制ゲインとして算出する請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記抑制ゲイン算出部は、
q軸用の前記抑制ゲインを算出するq軸用抑制ゲイン算出部と、
d軸用の前記抑制ゲインを算出するd軸用抑制ゲイン算出部と、を備え、
前記d軸用抑制ゲイン算出部は、前記d軸用の抑制ゲインを1サンプル周期遅れで出力する請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記電圧指令値算出部により算出された前記電圧指令値をローパスフィルタ処理するフィルタ処理部をさらに備え、
前記乗算部は、前記抑制ゲインを前記ローパスフィルタ処理に乗算する請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記電圧指令値算出部は、少なくとも積分器を備え、
前記抑制ゲイン算出部により算出された前記抑制ゲインを前記積分器に乗算する第2の乗算部をさらに備える請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
モータを駆動制御するモータ制御方法であって、
電流指令値に基づいて、前記モータの電圧指令値を算出するステップと、
前記電圧指令値と、前記モータの駆動回路への供給可能電圧とに基づいて、前記供給可能電圧に対する前記電圧指令値のデューティを算出するステップと、
前記デューティに基づいて、前記電圧指令値を抑制するステップと、を含むモータ制御方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって駆動制御される前記モータと、
を備える電動アクチュエータ。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって駆動制御される前記モータと、を備え、
前記モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石型の同期電動機(ブラシレスDCモータ)は、例えば電動パワーステアリング装置の駆動源として広く用いられている。
このようなモータのベクトル制御において、デューティ(=制御電圧/供給可能電圧)が100%を超えると、制御電圧が供給可能電圧(VR電圧)で制限されてしまい、3相制御電圧が非線形的な波形となり、モータ異音や振動が問題となる。
そこで、デューティ飽和によるモータ異音等を抑制するための技術として、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。この技術は、モータ電圧方程式からデューティが100%になる電流値を計算し、これを電流指令値次元で制限する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術では、電流指令値を制限することでデューティの最大使用率を制限しているが、モータの動的な状態変化や温度等の環境変化、製造ばらつきにより電流指令値の制限値が誤差を持ってしまい、デューティの最大使用率の制限精度が悪化するという問題がある。その理由は、主に以下の3点である。
(1)モータ電圧方程式が微分方程式であるにもかかわらず、微分項を無視している。つまり、代数方程式として電流値を解いているので、動特性が無視されている。
(2)ノイズ除去のために、入力信号として使用する電源電圧(VR電圧)とモータ回転角速度とをローパスフィルタ(LPF)処理しているため、位相遅れが発生する。
(3)設計定数として、温度変化や製造ばらつきの影響を受けるモータ定数を使用しているため、設計値と実物値とを一致させることが難しい。
【0005】
そこで、本発明は、モータのデューティ飽和を精度良く回避することができるモータ制御装置、電動アクチュエータおよび電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一つの態様のモータ制御装置は、モータを駆動制御するモータ制御装置であって、電流指令値に基づいて、前記モータに印加する電圧の電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、前記電圧指令値算出部により算出された前記電圧指令値と、前記モータの駆動回路への供給可能電圧とに基づいて、前記供給可能電圧に対する前記電圧指令値のデューティを算出するデューティ算出部と、前記デューティ算出部により算出されたデューティに基づいて、前記電圧指令値算出部により算出された前記電圧指令値を抑制する電圧指令値抑制部と、を備える。
【0007】
また、上記のモータ制御装置において、前記電圧指令値抑制部は、前記デューティ算出部により算出されたデューティが100%を超えている場合、当該デューティが100%となるように前記電圧指令値を抑制してよい。
【0008】
さらに、上記のモータ制御装置において、前記電圧指令値抑制部は、前記デューティ算出部により算出されたデューティに基づいて、前記電圧指令値の抑制ゲインを算出する抑制ゲイン算出部と、前記抑制ゲイン算出部により算出された前記抑制ゲインを前記電圧指令値に乗算する乗算部と、を備えてよい。
【0009】
また、上記のモータ制御装置において、前記抑制ゲイン算出部は、前記デューティ算出部により算出されたデューティの逆数を前記抑制ゲインとして算出してよい。
さらに、上記のモータ制御装置において、前記抑制ゲイン算出部は、q軸用の前記抑制ゲインを算出するq軸用抑制ゲイン算出部と、d軸用の前記抑制ゲインを算出するd軸用抑制ゲイン算出部と、を備え、前記d軸用抑制ゲイン算出部は、前記d軸用の抑制ゲインを1サンプル周期遅れで出力してよい。
【0010】
また、上記のモータ制御装置は、前記電圧指令値算出部により算出された前記電圧指令値をローパスフィルタ処理するフィルタ処理部をさらに備え、前記乗算部は、前記抑制ゲインを前記ローパスフィルタ処理に乗算してよい。
さらに、上記のモータ制御装置において、前記電圧指令値算出部は、少なくとも積分器を備え、上記のモータ制御装置は、前記抑制ゲイン算出部により算出された前記抑制ゲインを前記積分器に乗算する第2の乗算部をさらに備えてよい。
【0011】
また、本発明の一つの態様のモータ制御方法は、モータを駆動制御するモータ制御方法であって、電流指令値に基づいて、前記モータに印加する電圧の電圧指令値を算出するステップと、前記電圧指令値と、前記モータの駆動回路への供給可能電圧とに基づいて、前記供給可能電圧に対する前記電圧指令値のデューティを算出するステップと、前記デューティに基づいて、前記電圧指令値を抑制するステップと、を含む。
【0012】
また、本発明の一つの態様の電動アクチュエータは、上記のいずれかのモータ制御装置と、前記モータ制御装置によって駆動制御される前記モータと、を備える。
さらに、本発明の一つの態様の電動パワーステアリング装置は、上記のいずれかのモータ制御装置と、前記モータ制御装置によって駆動制御される前記モータと、を備え、前記モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの態様によれば、現在のデューティを算出し、これをフィードバックして電圧指令値(制御電圧)を抑制するので、モータの動的な状態変化や温度等の環境変化、製造ばらつきの影響を受けずに、モータのデューティ飽和を精度良く回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、電動パワーステアリング装置の概要を示す構成例である。
【
図2】
図2は、コントロールユニットの機能構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態における電流制御部の制御ブロック図である。
【
図4】
図4は、PID制御器における制御電圧抑制ゲインの乗算例である。
【
図5】
図5は、EMF外乱抑制器における制御電圧抑制ゲインの乗算例である。
【
図6】
図6は、dq軸制御電圧Vd_0、Vq_0の説明図である。
【
図7】
図7は、q軸制御電圧の抑制方法の説明図である。
【
図8】
図8は、d軸制御電圧の抑制方法の説明図である。
【
図9】
図9は、抑制前後のdq軸制御電圧およびデューティの一例である。
【
図10】
図10は、第2の実施形態における電流制御部の制御ブロック図である。
【
図11】
図11は、シミュレーションの実施条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0016】
(第1の実施形態)
以下、本発明における第1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態におけるモータ制御装置を備える電動パワーステアリング装置100の構成例を示す図である。
操向ハンドル(ステアリングホイール)1のコラム軸2は、減速ギヤ3、ユニバーサルジョイント4Aおよび4B、ピニオンラック機構5を経て、操向車輪(不図示)のタイロッド6に連結されている。コラム軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、コラム軸2には、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が、減速ギヤ3を介して連結されている。
【0017】
コントロールユニット(ECU)30は、車載電源であるバッテリ14から電源供給されることによって作動する。バッテリ14の負極は接地され、その正極は、エンジン始動を行うイグニッションスイッチ11を介してECU30に接続されるとともに、イグニッションスイッチ11を介さずに直接、ECU30に接続されている。
ECU30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
ECU30は、上記プロセッサが所定のプログラムを実行することでモータ制御装置の機能を実現する。モータ20とECU30とで、電動アクチュエータを構成している。
【0018】
なお、ECU30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウェアにより構成してもよい。
例えばECU30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。また、例えばECU30は、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0019】
ECU30には、トルクセンサ10により検出された操舵トルクThと、車速センサ12により検出された車速Vhとが入力される。そして、ECU30は、操舵トルクThと車速Vhとに基づいて、アシストマップ等を用いてアシスト指令の操舵補助指令値を演算し、演算された操舵補助指令値に基づいてモータ20に供給する駆動電流を制御する。
ここで、モータ20は、永久磁石同期モータである。モータ20は、例えば3相ブラシレスモータとすることができる。また、減速ギヤ3は、例えばウォームギヤとすることができる。この場合、モータ20で生じたトルクは、減速ギヤ3の内部のウォームを介してウォームホイールに伝達され、ウォームホイールを回転させる。これにより、減速ギヤ3は、モータ30で生じたトルクを増加させ、コラム軸2に補助操舵トルクを与える。
【0020】
図2を参照して、コントロールユニット(ECU)30の機能構成の一例を説明する。
この
図2に示すように、ECU30は、基本電流指令値演算部31aと、電流指令値演算部31bと、減算器32aおよび32bと、電流制御部33と、2相/3相変換部34と、PWM制御部35と、インバータ(INV)36と、3相/2相変換部37と、角速度変換部38と、を備える。
【0021】
基本電流指令値演算部31aは、操舵トルクThおよび車速Vhに基づいて、モータ20に流すべき電流指令値Irefを演算する。
電流指令値演算部31bは、電流指令値Irefと、VR電圧VR(バッテリ14からインバータ36への供給可能電圧)と、モータ20の回転角速度ωEとに基づいて、モータ20に流すべきq軸電流指令値Iq
*およびd軸電流指令値Id
*を演算する。
ここで、電流指令値演算部31bは、3相モータ電流の最大値がシステム最大電流Imaxを超過する過電流が生じないように制限されたdq軸電流指令値Id
*、Iq
*を演算する。
【0022】
3相モータ電流Ia、IbおよびIcは、それぞれ電流センサ22a、22bおよび22cによって検出される。検出された3相モータ電流Ia、IbおよびIcは、3相/2相変換部37によってdq軸電流Id、Iqに変換される。
減算器32a、32bは、フィードバックされた電流Iq、Idをq軸電流指令値Iq
*およびd軸電流指令値Id
*からそれぞれ減じることにより、q軸偏差電流ΔIqおよびd軸偏差電流ΔIdを算出する。q軸偏差電流ΔIqおよびd軸偏差電流ΔIdは、電流制御部33に入力される。
【0023】
電流制御部33は、q軸偏差電流ΔIqおよびd軸偏差電流ΔIdを各々0とするような制御電圧(電圧指令値)Vq、Vdを算出する。2相/3相変換部34は、dq軸制御電圧Vd、Vqを3相制御電圧Va、VbおよびVcに変換する。
PWM制御部35は、3相制御電圧Va、VbおよびVcに基づいてPWM制御され たゲート信号を生成する。
【0024】
インバータ36は、モータ20の駆動回路である。インバータ36は、PWM制御部35において生成されたゲート信号によって駆動され、モータ20にはq軸偏差電流ΔIqおよびd軸偏差電流ΔIdが0になるような電流が供給される。
また、レゾルバ(またはモータ回転角センサ)21は、モータ20のモータ角度(回転角)θを検出する。角速度変換部38は、モータ角度θの変化に基づいてモータ20の回転角速度ωEを算出する。これらモータ角度θおよび回転角速度ωEは、モータベクトル制御に使用される。
【0025】
モータベクトル制御において、デューティ(=制御電圧/供給可能電圧)の最大使用率が100%にならない場合、下記2つの問題が発生する。
[1]100%未満の場合、モータおよびECUの能力を最大限に利用できない。
[2]100%を超えている場合、制御電圧が供給可能電圧(VR電圧)で制限されてしまい、3相制御電圧が非線形的な波形となり、モータ作動音や振動が問題となる。
【0026】
そこで、本実施形態では、デューティの最大使用率を100%にするために、現在のデューティをリアルタイムで算出して、これをフィードバックし、制御電圧を常時補正する。具体的には、電流制御部33において現在のデューティを算出し、算出されたデューティが100%を超えている場合、デューティが100%となるようにdq軸制御電圧Vd、Vqを補正(抑制)する。
【0027】
以下、設計思想について説明する。
デューティの最大使用率100%と過電流の抑制とを実現するための手段は、以下の4つの手段からなる。
[手段1:デューティ算出]
dq軸制御電圧Vd,Vq[V]とVR電圧VR[V]とに基づいて、次式をもとに現在のデューティ使用率Duty[-]を算出する。
Duty=√(Vd
2+Vq
2)/(A・VR) ………(1)
ここで、上記の係数Aは、3次高調波補償を行う場合、A=1/√3、3次高調波補償を行わない場合、A=1/2である。なお、3次高調波補償は、モータ印加電圧に3次高調波を重畳して印加電圧波形のピークを潰すことにより、デューティ飽和を発生しにくくする処理である。
【0028】
[手段2:dq軸制御電圧抑制]
まず、手段1において算出されたDutyに基づいて、制御電圧抑制ゲインGを算出する。
ここで、Dutyが100%以上の場合は、次式のように、Dutyの逆数を制御電圧抑制ゲインGとして算出する。
G=1/Duty ………(2)
一方、Dutyが100%未満の場合は、制御電圧抑制ゲインG=1とする。
【0029】
そして、この制御電圧抑制ゲインGを用いて、直接的にdq軸制御電圧Vd,Vqを抑制する。
具体的には、制御電圧抑制ゲインGをdq軸制御電圧Vd,Vqに乗算することで、dq軸制御電圧を抑制する。これにより、デューティが100%以上の場合はデューティを100%にすることができる。また、dq軸制御電圧Vd,Vqを算出するPID制御器内の積分器のワインドアップ対策として、当該積分器にも制御電圧抑制ゲインGを掛ける。
【0030】
[手段3:d軸電流指令値算出]
モータ電圧方程式とdq軸電圧の円条件とは、下記2式で表される。
【0031】
【0032】
ここで、dq軸電圧の合成値がVR電圧となるように、すなわちデューティ100%となるように、上記(3)(4)式を連立して(Vd,Vqを消去して)d軸電流について解くと、次式となる。
【0033】
【0034】
上記(5)式は、デューティ100%領域でのd軸電流指令値Irefd0の算出式となる。
次に、システム最大電流Imaxとq軸電流Iqとを使用して、d軸電流指令値の制限値IrefdLimを下記のとおり算出する。
IrefdLim=√(Imax
2-Iq
2) ………(6)
【0035】
そして、上記のd軸電流指令値の制限値IrefdLimと、d軸電流指令値Irefd0とを比較し、小さい方をd軸電流指令値Irefdとする。
このとき、Irefd0>IrefdLimであれば、d軸電流指令値IrefdをLPF処理する。LPF処理が必要な理由は、dq軸電流の合成値が円条件以上の場合、振動が発生するためである。この振動を緩和するために、Irefd0>IrefdLimの場合のみ、LPF処理をする。
【0036】
[手段4:q軸電流指令値制限]
dq軸電流の円条件を考慮し、q軸電流指令値を制限する。
まず、手段3において導出されたd軸電流指令値Irefdとシステム最大電流Imaxとを使用して、q軸電流指令値の制限値IrefqLimを算出する。
IrefqLim=√(Imax
2-Irefd
2) ………(7)
そして、上記のq軸電流指令値の制限値IrefqLimと電流指令値Irefとを比較し、小さい方をq軸電流指令値Irefqとする。
上記のようにdq軸電流指令値を制限することで、3相モータ電流の最大値がシステム最大電流Imaxを超過しないようにすることができる。
【0037】
図3は、上記の手段1~4を実現するための制御ブロック図である。この
図3では、
図2の電流指令値演算部31b、減算器32a、32bおよび電流制御部33の制御ブロック図を示している。
【0038】
d軸電流指令値算出部41は、上記の手段3を実現する。d軸電流指令値算出部41は、
図3に示すように、回転角速度ω
E[radE/s]、VR電圧V
R[V]およびq軸電流I
q[A]を入力し、d軸電流指令値Iref
dを算出する。d軸電流指令値算出部41は、算出したd軸電流指令値Iref
dをq軸電流指令値制限部42および制御帯域設定部44に出力する。
q軸電流指令値制限部42は、上記の手段4を実現する。q軸電流指令値制限部42は、
図3に示すように、電流指令値Iref[A]およびd軸電流指令値Iref
d[A]を入力し、q軸電流指令値Iref
qを算出する。q軸電流指令値制限部42は、算出したq軸電流指令値Iref
qを制御帯域設定部43に出力する。
制御帯域設定部43および44では、それぞれ制御帯域の設定を行い、dq軸電流指令値Iref
d、Iref
qのノイズを制限してdq軸電流指令値I
d
*、I
q
*を出力する。
【0039】
減算器32aにより算出されたq軸偏差電流ΔIqは、電流制御器(PID制御器)46に入力され、q軸制御電圧が出力される。PID制御器46は、積分器46a、比較器46bおよび微分器46cを備える。また、積分器46aは、
図4に示すように、後述する制御電圧抑制器60から出力される制御電圧抑制ゲインGを乗算する乗算器46dを備える。PID制御器46の出力は、EMF外乱抑制器47に入力される。
【0040】
モータ20が回転すると逆起電圧(EMF)を発生するが、これが外乱として、電流制御のフィードバックループ内に混入すると、PID制御器46は、本来の役割である電流指令値通りに実電流を流すことができなくなる、つまり電流偏差が大きくなる。そこで、EMF外乱抑制器47は、EMFを抑制して上記電流偏差を小さくするようにする。
【0041】
EMF外乱抑制器47は、EMFによる外乱を、最も単純なフィードバック型で抑制し、電流偏差を小さくするための外乱抑制部である。EMF外乱抑制器47は、例えば
図3に示すように、遅延器47aとローパスフィルタ(LPF)47bとを備え、外部入力無しで、PID制御器46の出力をLPF処理し、LPFの出力を、遅延を伴ってPID制御器46の出力にフィードバックさせる。EMF外乱抑制器47は、電流検出ノイズを抑制しながら、電圧ノイズの感度関数を近似的に「0」にすることができる。
ここで、LPF47bは、
図5に示すように、後述する制御電圧抑制器60から出力される制御電圧抑制ゲインGを乗算する乗算器47cを備える。
【0042】
EMF外乱抑制器47の出力は、LR変換器48に入力される。LR変換器48は、モータ電気特性LRを希望のモータ電気特性L0R0に変換して制御系を安定にするための特性変換部である。LR変換器48は、1次または2次のフィルタにより構成することができる。
LR変換器48から出力されるq軸制御電圧Vqは、制御電圧抑制器60に入力される。
なお、d軸側の電流制御器(PID制御器)50、EMF外乱抑制器51およびLR変換器52は、q軸側の電流制御器(PID制御器)46、EMF外乱抑制器47およびLR変換器48と同様の構成を有するため、ここでは説明を省略する。
【0043】
制御電圧抑制器60は、Duty算出部61と、抑制ゲイン算出部62と、を備える。
Duty算出部61は、上記の手段1を実現する。Duty算出部61は、
図3に示すように、dq軸制御電圧V
d,V
q[V]とVR電圧V
R[V]とを入力し、現在のデューティ(Duty)[-]を算出する。
【0044】
抑制ゲイン算出部62は、上記の手段2を実現する。抑制ゲイン算出部62は、Duty算出部61により算出されたDutyを入力し、
図3に示すように、制御電圧抑制ゲインG[-]を、EMF外乱抑制器47、51内のLPF47a、51a、および、PID制御器46、50内の積分器46a、50aに出力する。
つまり、制御電圧抑制ゲインGをEMF外乱抑制器47、51内のLPF処理に掛けることで、デューティ使用率が100%を超えないようにdq軸制御電圧V
d,V
qを抑制する。また、ワインドアップ対策として、PID制御器46、50内の積分器46a、50aにも制御電圧抑制ゲインGを掛ける。
【0045】
なお、
図3において、PID制御器46、50が電圧指令値算出部に対応し、Duty算出部61がデューティ算出部に対応し、抑制ゲイン算出部62が抑制ゲイン算出部に対応し、乗算器47cが乗算部に対応し、抑制ゲイン算出部62および乗算部47cが電圧指令値抑制部に対応している。また、LRF47bがフィルタ処理部に対応し、積分器46a、50aが積分器に対応し、乗算器46dが第2の乗算部に対応している。
【0046】
以上説明したように、本実施形態におけるモータ制御装置は、dq軸制御電圧Vd、Vqと供給可能電圧であるVR電圧VRとに基づいて、供給可能電圧に対する制御電圧のデューティ(Duty)を算出し、算出されたデューティに基づいてdq軸制御電圧Vd、Vqを抑制する。
このように、本実施形態におけるモータ制御装置は、現在のデューティを算出し、算出された現在のデューティをフィードバックして、制御電圧を常時補正する。上記のように制御電圧の制御構造をフィードバック構造とすることで、モータの状態変化や温度等の環境変化、製造ばらつきの影響を受けにくくすることができ、精度良くdq軸制御電圧Vd、Vqを抑制することができる。これにより、精度良くデューティの最大使用率を制限し、デューティが100%以上となることを回避することができる。その結果、モータ異音や振動の発生を適切に抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態におけるモータ制御装置は、現在のデューティが100%以上である場合、デューティが100%となるようにdq軸制御電圧Vd、Vqを抑制することができる。具体的には、算出された現在のデューティ(Duty)の逆数(1/Duty)を制御電圧抑制ゲインGとして算出し、算出された制御電圧抑制ゲインGをdq軸制御電圧Vd、Vqに乗算することができる。
このように、デューティの最大使用率を100%にすることができるので、モータ20およびECU30の能力を最大限に利用することができる。
【0048】
また、本実施形態におけるモータ制御装置は、dq軸制御電圧Vd、Vqの抑制に際し、制御電圧抑制ゲインGを、EMF外乱抑制器47、51内のLPF処理に乗算するので、適切にdq軸制御電圧Vd、Vqを抑制することができる。
さらに、本実施形態におけるモータ制御装置は、制御電圧抑制ゲインGを、PID制御器46、50内の積分器46a、50aに乗算するので、積分器46a、50aのワインドアップを適切に抑制することができ、システムの安定化を実現することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態におけるモータ制御装置は、モータの動的な状態変化や温度等の環境変化、製造ばらつきの影響を受けづらいフィードバック構造で電圧指令値(制御電圧)を抑制するので、モータのデューティ飽和を精度良く回避することができる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、本発明における第2の実施形態について説明する。
上述した第1の実施形態では、抑制ゲイン算出部62により算出された制御電圧抑制ゲインGを用いて、同じタイミングでd軸制御電圧Vdとq軸制御電圧Vqとを抑制する場合について説明した。本実施形態では、デューティ100%領域で転追性を最大にする制御電圧抑制ゲインGがd軸側とq軸側とで共通ではなく、それぞれ重みが異なることを考慮して、dq軸制御電圧Vd,Vqを抑制する例について説明する。
【0051】
以下、デューティ100%領域で転追性を最大にする手段について、
図6~
図9を参照しながら説明する。
[手段1]
制御電圧抑制器用にdq軸制御器を用意して、予め現在のd軸制御電圧V
d_0とq軸制御電圧V
q_0とを算出する。ここで、dq軸制御器は、PID制御器、EMF外乱抑制器およびLR変換器を備えることができる。上記PID制御器は、
図3のPID制御器46、50と同様の構成を有し、上記EMF外乱抑制器は、
図3のEMF外乱抑制器47、51と同様の構成を有し、上記LR変換器は、
図3のLR変換器48、52と同様の構成を有していてよい。
【0052】
図6は、dq軸制御器により算出されるd軸制御電圧V
d_0およびq軸制御電圧V
q_0の一例を示す図である。dq軸制御電圧V
d_0、V
q_0の合成値は、図中白丸で示している。
この
図6において、点線で示す円は、デューティ100%の領域であり、円周上では√(V
d
2+V
q
2)=A・V
Rとなる。
【0053】
[手段2]
手段1において算出されたdq軸制御電圧V
d_0、V
q_0を使用して、q軸用の制御電圧抑制ゲインG
qを算出する。制御電圧抑制ゲインG
qは、
図7(a)の矢印で示すように、dq軸制御電圧の合成値がデューティ100%の円周上となるように算出される。
そして、この制御電圧抑制ゲインG
qを用いて、
図7(a)の矢印αに示すように、まずq軸制御電圧V
q_0を抑制する。抑制後のq軸制御電圧は、
図7(a)の点線矢印で示すV
q_1となる。これにより、dq軸制御電圧の合成値は、
図7(a)の黒点で示すV
d_0,V
q_1の合成値となり、デューティ100%の円周上(点線で示す円)に近づく。
【0054】
デューティ100%以下であれば、q軸電流I
qはq軸電流指令値Iref
qに追従する。そのため、q軸電流I
qは、
図7(b)の破線で示すq軸電流指令値Iref
qで制限される。
このq軸電流I
qを使用して、上述した第1の実施形態で説明した設計思想の[手段3:d軸電流指令値算出]の処理により、d軸電流指令値Iref
dを算出する。
【0055】
[手段3]
上記の手段2において算出された抑制後のq軸制御電圧V
q_1と、抑制前のd軸制御電圧V
d_0とを使用して、d軸用の制御電圧抑制ゲインG
dを算出する。制御電圧抑制ゲインG
dは、
図8(a)の矢印で示すように、dq軸制御電圧の合成値がデューティ100%の円周上となるように算出される。
【0056】
そして、この制御電圧抑制ゲインG
dを用いて、
図8(a)の矢印βに示すようにd軸制御電圧V
d_0を抑制する。抑制後のd軸制御電圧は、
図8(a)の点線矢印で示すV
d_1となる。これにより、dq軸制御電圧の合成値は、V
d_1,V
q_1の合成値となり、デューティ100%の円周上(点線で示す円)にさらに近づく。このように、q軸側に対して1サンプル周期遅れでd軸制御電圧V
d_0を抑制する。
デューティ100%以下であれば、d軸電流I
dはd軸電流指令値Iref
dに追従するので、d軸電流I
dは
図8(b)の破線で示すd軸電流指令値Iref
dで制限される。
【0057】
上記の手段1~3を繰り返すことで、dq軸制御電圧の合成値をデューティ100%の円周上に近づけ、最終的にデューティ100%とすることができる。
また、デューティ100%以下の場合、EMF外乱抑制器による電流の応答性改善により、dq軸電流I
d,I
qはdq軸電流指令値Iref
d,Iref
qに追従させることができる。
したがって、上記により、デューティ100%使用領域で必要な転追を得ることができる(
図8(b)の黒点)。
【0058】
次に、本機能によるdq軸制御電圧とデューティの挙動とについて解析する。
抑制前のdq軸制御電圧をVd_0,Vq_0とすると、Duty0は次式で表すことができる。
Duty0=√(Vd_0
2+Vq_0
2)/(A・VR)………(8)
そして、抑制後のdq軸制御電圧Vd_1,Vq_1は、次式で表すことができる。
【0059】
【0060】
つまり、dq軸制御電圧を抑制する重みwq、wdは次式となる。
【0061】
【0062】
また、抑制後のdq軸制御電圧Vd_1,Vq_1からDuty1を計算すると次式となる。
【0063】
【0064】
例えば
図9(a)に示すように、抑制前のd軸制御電圧V
d_0が12[V]、抑制前のq軸制御電圧V
q_0が8[V]であり、VR電圧A・V
Rが10[V]である場合、Duty
0は1.44である。
その後、本機能によりdq軸制御電圧を抑制することで、デューティは、
図9(b)のDuty
1=1.06、
図9(c)のDuty
2=1.01のように遷移し、最終的に
図9(d)のDuty
3=1.00、つまり、デューティ100%とすることができる。
【0065】
図10は、上記の手段1~3を実現するための制御ブロック図である。この
図10では、
図2の電流制御部33の制御ブロック図を示している。
図10において、dq軸制御器70Aは手段1を実現し、q軸制御器70Bは手段2を実現し、d軸制御器70Cは手段3を実現する。なお、
図10において、
図3と同一構成を有する部分には
図3と同一符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0066】
dq軸制御器70Aは、PID制御器71、EMF外乱抑制器72およびLR変換器73を備える。
PID制御器71は、PID制御器46、50と同様の構成を有し、EMF外乱抑制器72は、EMF外乱抑制器47、51と同様の構成を有し、LR変換器73は、LR変換器48、52と同様の構成を有することができる。
【0067】
q軸制御器70Bは、
図3に示すq軸側の構成と同様である。ただし、Duty算出部61は、dq軸制御器70Aにより算出されたdq軸制御電圧V
d_0、V
q_0を入力としている点で、
図3に示すDuty算出部61とは異なる。
d軸制御器70Cは、
図3に示すd軸側の構成に制御電圧抑制部80を加えた構成を有する。制御電圧抑制部80は、Duty算出部81、抑制ゲイン算出部82および遅延器83を備える。
Duty算出部81は、q軸制御器70Bが備えるDuty算出部61と同様の算出方法によりデューティ(Duty)を算出する。抑制ゲイン算出部82は、q軸制御器70Bが備える抑制ゲイン算出部62と同様の算出方法により制御電圧抑制ゲインG
dを算出する。
遅延器83は、抑制ゲイン算出部82により算出された制御電圧抑制ゲインG
dを、1サンプルだけホールドして制御電圧抑制ゲインG
d_1として出力する。
【0068】
なお、
図10において、抑制ゲイン算出部62がq軸用抑制ゲイン算出部に対応し、抑制ゲイン算出部82および遅延器83がd軸用抑制ゲイン算出部に対応している。
【0069】
この
図10に示す制御ブロック図における処理手順は、以下のとおりである。
(手順1)
制御電圧抑制器用のdq軸制御器70Aがdq軸制御電圧V
d_0,V
q_0を算出する。
(手順2)
q軸制御器70BのDuty算出部61が、手順1において算出されたdq軸制御電圧V
d_0,V
q_0とVR電圧V
Rとに基づいて、デューティ使用率Duty_qを算出する。
【0070】
(手順3)
Duty算出部61において算出されたDuty_qが100%以上の場合、抑制ゲイン算出部62が、1/Dutyとなるq軸用の制御電圧抑制ゲインGqを算出する。
一方、Duty算出部61において算出されたDuty_qが100%未満の場合、抑制ゲイン算出部62は、q軸用の制御電圧抑制ゲインGqを「1」とする。
(手順4)
手順3において算出された制御電圧抑制ゲインGqを、q軸制御器70BのEMF外乱抑制器47内のLPF47bとPID制御器46内の積分器46aとに乗算する。これにより、q軸制御電圧Vq_0を抑制し、抑制後のq軸制御電圧Vq_1とする。
【0071】
(手順5)
d軸制御器70CのDuty算出部81が、q軸制御器70BのLR変換器48から出力されるq軸制御電圧Vq_1と、d軸制御器70CのLR変換器52から出力されるd軸制御電圧Vd_0と、VR電圧VRとに基づいて、デューティ使用率Duty_dを算出する。
(手順6)
Duty算出部81において算出されたDuty_dが100%以上の場合、抑制ゲイン算出部82が、1/Dutyとなるd軸用の制御電圧抑制ゲインGdを算出する。
一方、Duty算出部81において算出されたDuty_dが100%未満の場合、抑制ゲイン算出部82は、d軸用の制御電圧抑制ゲインGdを「1」とする。
【0072】
(手順7)
遅延器82が、手順6において算出された制御電圧抑制ゲインGdを1サンプルだけホールドし、制御電圧抑制ゲインGd_1として出力する。
(手順8)
手順7において算出された制御電圧抑制ゲインGd_1を、d軸制御器70CのEMF外乱抑制器51内のLPF51bとPID制御器50内の積分器50aとに乗算する。これにより、d軸制御電圧Vd_0を抑制し、抑制後のd軸制御電圧Vd_1とする。
これにより、デューティ使用率が100%を超えないようにdq軸制御電圧が抑制される。以降、手順1~8を繰り返す。
【0073】
図11および
図12は、本実施形態の効果を確認するためのシミュレーション検証結果を示すグラフである。
図11および
図12に示された各グラフの横軸はいずれも時間[s]を示している。
シミュレーション検証では、
図11(b)の二点鎖線で示されているように、システム最大電流I
max(45A)に固定された電流指令値Irefが用いられ、モータを無負荷で高速回転させた状態で、モータ軸に外部からトルクが線形的に付与された。そして、モータトルクと外部トルクとが釣合い、モータが静止したところでシミュレーション検証を終了した。また、このシミュレーション検証では、d軸電流最大値を40[A]、供給電圧(VR電圧)を13.6[V]に設定した。
【0074】
この場合、d軸電流指令値算出部41では、
図11(a)の破線で示されるように、40[A]を上限としてd軸電流指令値Iref
dが算出され、q軸電流指令値制限部42では、d軸電流指令値Iref
dと電流指令値Irefとに基づいて、
図11(b)の破線で示されるようにq軸電流指令値Iref
qが算出される。そして、電流制御部33では、dq軸電流指令値Iref
d、Iref
qに基づいてdq軸制御電圧が算出される。このとき、電流制御部33では、デューティ使用率が100%となるようにdq軸制御電圧が算出される。
これにより、
図11(a)の実線で示されるd軸電流I
d[A]、
図11(b)の実線で示されるq軸電流I
q[A]が生じる。また、
図11(c)に示される回転数[rpm]が生じる。
図11(b)におけるq軸電流I
qの時系列波形と、
図11(c)における回転数の時系列波形とを見ると、低負荷から高負荷になるに従い、高回転数から低回転数になるN-T特性となっている。
この特性において、モータが最大出力を引き出していることを確認するため、供給電圧(VR電圧)と3相制御電圧とを確認した。
【0075】
具体的には、下記の3つの領域において、供給電圧(VR電圧)と3相制御電圧とを確認した。
[1]低負荷・高回転数領域(5A、9400rpm付近) t1=0.4sec
[2]中負荷・中回転数領域(23A、4000rpm付近) t2=0.87sec
[3]高負荷・低回転数領域(44A、1800rpm付近) t3=1.34sec
【0076】
結果を
図12(a)~
図12(c)に示す。ここで、
図12(a)は低負荷・高回転数領域、
図12(b)は中負荷・中回転数領域、
図12(c)は高負荷・低回転数領域での供給電圧(VR電圧)と3相制御電圧とを示している。
図12(a)~
図12(c)において、太実線はVR電圧V
R、細実線はA相制御電圧、点線はB相制御電圧、破線はC相制御電圧である。
これら
図12(a)~
図12(c)からも明らかなように、3相制御電圧の最大値は供給電圧(VR電圧)に重なっている、つまりデューティ使用率が100%となっており、狙い通りの動作であることが確認できる。
【0077】
このように、本実施形態におけるモータ制御装置は、q軸用の制御電圧抑制ゲインと、d軸用の制御電圧抑制ゲインとをそれぞれ算出し、d軸用の制御電圧抑制ゲインを1サンプル周期遅れで出力するので、dq軸制御電圧Vd、Vqを抑制する重みを、上記(12)式および(13)式で示すように変えることができる。
これにより、デューティ100%領域で転追性を最大にすることができる。
【0078】
(変形例)
上記各実施形態においては、モータ制御装置がEMF外乱抑制器47、51を備える場合について説明したが、モータ制御装置はEMF外乱抑制器47、51を備えていなくてもよい。この場合、PID制御器46、50の出力に制御電圧抑制ゲインを直接乗算してよい。なお、デューティが100%以上である場合に、デューティが100%となるようにdq軸制御電圧Vd、Vqを抑制することができればよく、制御電圧抑制ゲインの乗算方法は特に限定されない。
【0079】
また、上記各実施形態においては、モータ制御装置の適用例として、モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置100を示したが、上記に限定されるものではない。上記各実施形態におけるモータ制御装置は、永久磁石型の同期電動機(ブラシレスDCモータ)を駆動制御するさまざまな電動アクチュエータ製品に適用可能である。例えば、上記各実施形態におけるモータ制御装置は、鉄道動揺防止アクチュエータ等に適用することもできる。
【0080】
なお、本発明は、上述した実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワークまたは記憶媒体を介して、システムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行することによっても実現可能である。この場合、記録媒体から読み出されたプログラム自体が実施形態の機能を実現することになる。また、当該プログラムを記録した記録媒体は本発明を構成することができる。
また、コンピュータが読み出したプログラムを実行することにより、実施形態の機能が実現されるだけでなく、プログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているオペレーティングシステム(OS)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上記した実施形態の機能が実現されてもよい。
【符号の説明】
【0081】
100…電動パワーステアリング装置、41…d軸電流指令値算出部、42…q軸電流指令値制限部、43…制御帯域設定部、44…制御帯域設定部、46…PID制御器、46a…積分器、46b…比較器、46c…微分器、47…EMF外乱抑制器、47a…遅延器、47b…ローパスフィルタ(LPF)、48…LR変換器、50…PID制御器、50a…積分器、50b…比較器、50c…微分器、51…EMF外乱抑制器、51a…遅延器、51b…ローパスフィルタ(LPF)、52…LR変換器、60…制御電圧抑制部、61…Duty算出部、62…抑制ゲイン算出部、70A…dq軸制御器、70B…q軸制御器、70C…d軸制御器、80…制御電圧抑制部、81…Duty算出部、82…抑制ゲイン算出部、83…遅延器