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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167208
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】整流回路
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20231116BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H02J50/12
H02M7/12 601
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078205
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】岩本 藤行
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚哉
【テーマコード(参考)】
5H006
【Fターム(参考)】
5H006CA02
5H006CB01
5H006CB07
5H006CC08
5H006DB01
5H006DC04
(57)【要約】
【課題】より簡素な構成で、自動整合回路と整流回路を一体にした回路を提供する。
【解決手段】整流回路11において直流出力端子間にスイッチング素子S1及びS2の直列回路を接続し、各スイッチング素子のS1及びS2のドレイン、ソース間にそれぞれダイオードD1及びD2を接続する。交流入力端子の一端とスイッチング素子S1及びS2の共通接続点との間に、共振周波数が交流電源周波数に等しく設定される直列共振フィルタ12を接続し、制御部13は、スイッチング素子S1及びS2を、交流電源周波数と同じ周波数で、それぞれ50%のデューティ比で、且つ互いに180度の位相差でスイッチングする。更に制御部13は、電力の伝送経路上で後発的に発生した発生リアクタンスΔXに応じて、スイッチング素子S1をスイッチングするゲート信号Vg1の位相又はスイッチング素子S2の端子間電圧Vds2の位相を変化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流出力端子間に接続される第1及び第2スイッチング素子(S1、S2)の直列回路と、
前記第1及び第2スイッチング素子のそれぞれにおいて、低電圧側端子にアノードが接続され、高電圧側端子にカソードが接続されるダイオード(D1、D2)と、
交流入力端子の一端と前記第1及び第2スイッチング素子の共通接続点との間に接続され、共振周波数が交流電源周波数に等しく設定される直列共振フィルタ(12)と、
前記第1及び第2スイッチング素子を、前記交流電源周波数と同じ周波数で、それぞれ50%のデューティ比で、且つ互いに180度の位相差でスイッチングする制御部(13,13A、13B)と、を備え、
前記制御部は、電力の伝送経路上において後発的に発生した発生リアクタンスに応じて、前記第1スイッチング素子をスイッチングする駆動信号の位相、又は前記第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を、入力される交流電圧の位相に対して所定の位相差となるように制御し、
前記発生リアクタンスが存在しなければ、前記第1及び第2スイッチング素子をオフするか、又は前記第1スイッチング素子をスイッチングする駆動信号の位相、又は前記第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を、前記交流電圧の位相と同位相とし、
前記発生リアクタンスが誘導性であれば、前記第1スイッチング素子の駆動信号の位相、又は前記第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を、前記交流電圧の位相に対して所定値だけ遅らせて、
前記発生リアクタンスが容量性であれば、前記第1スイッチング素子の駆動信号の位相、又は前記第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を、前記交流電圧の位相に対して所定値だけ進ませる整流回路。
【請求項2】
前記直列回路に並列に接続される平滑コンデンサ(Cm)を備え、
前記所定値を、90°とする請求項1記載の整流回路。
【請求項3】
前記制御部は、前記発生リアクタンスが誘導性であれば、前記第1及び第2スイッチング素子をスイッチングする駆動信号に、当該スイッチング素子の出力端子間電圧の遷移時間以上のデッドタイムを設定する請求項1又は2記載の整流回路。
【請求項4】
前記制御部は、前記発生リアクタンスが容量性であれば、前記第1及び第2スイッチング素子をスイッチングする駆動信号に、当該スイッチング素子に通電される電流の遷移時間以上のデッドタイムを設定する請求項1又は2記載の整流回路。
【請求項5】
入力される交流電力の電流電圧位相差を検出する位相差検出部(14)を備え、
前記制御部は、前記電流電圧位相差に応じて前記発生リアクタンスの状態を判定する請求項1又は2記載の整流回路。
【請求項6】
前記位相差検出部は、前記直列共振フィルタの出力側に配置されている請求項5記載の整流回路。
【請求項7】
前記直列共振フィルタの出力側に、入力される交流電力の電流及び電圧を検出する電流電圧検出部(41)を備え、
前記制御部(13A)は、前記電流及び前記電圧に応じて前記発生リアクタンスの状態を判定する請求項1又は2記載の整流回路。
【請求項8】
前記直流出力端子間において、入力される電力を検出する電力検出部(42)を備え、
前記制御部(13B)は、前記電力に応じて、前記第1スイッチング素子の駆動信号の位相を、前記交流電圧の位相に対して変化させ、前記電力が目標値以上になると、前記交流電圧の位相に対する前記駆動信号の位相差を固定する請求項1又は2記載の整流回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電力を直流電力に整流する回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電界結合式や磁界結合式等で用いられる非接触給電(WPT:Wireless Power Transfer)システムでは、電力の伝送効率を向上させるためや、電力の反射を抑制するため、送電経路上のリアクタンス成分をキャンセルしたりインピーダンス整合をさせる整合回路や、結合器のLC値と交流電源周波数とで共振させる共振回路を設けている。
【0003】
結合器の共振周波数や送電経路上のリアクタンス成分は、結合器等の経年による寸法変動や受電側の移動等により変動する場合がある。整合回路や共振回路が、定数が固定のLC素子で構成されていると、発生したリアクタンス成分に対応できず、電力反射が発生し、電力伝送性能が劣化することが懸念される。
【0004】
そのような問題に対処するため、LC値を可変にした機械式の構成や、スイッチング素子とLC素子とで構成された電子式の自動整合回路を追加して、送電経路上のリアクタンス成分の変動に追随させて、その影響をキャンセルする方式がある。しかし、その場合、回路体格の増大が懸念される。特に、受電側の回路は、移動体や飛行体等に搭載される想定により体格や重量に制約がある場合が多く、小型化が求められる。そこで、電力伝送性能と受電側回路の小型化を両立するため、自動整合回路と整流回路を一体にした回路が提案されている。
【0005】
特許文献1は、ブリッジレスPFC(Power Factor Correction)と磁気エネルギー回生スイッチ(MERS:Magnetic Energy Recovery Switch)とを組み合わせた構成を開示している。SW1、SW2を交流電源以上の周波数でスイッチングして力率を改善、つまりリアクタンス成分の影響の抑制しながら整流すると同時に、コンデンサCMとFETのSWを用いてSW1~SW3によるソフトスイッチングを成立させ、高効率に動作させる方式である。
【0006】
非特許文献1は、+jX又は-jXと、スイッチ二つとコンデンサで構成された整流部と、DC-DCコンバータとで構成された整流回路を開示している。コンバータによって、V1とV2を制御し、+jXと-jXの寄与を制御してインピーダンスZrを制御し、送電経路上のリアクタンスをキャンセルする方式となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-36573号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】IEEE JOURNAL OF EMERGING AND SELECTED TOPICS IN POWER ELECTRONICS、VOL.8,NO.3,SEPTEMBER 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で使用されているPFCでは、一般的に、SW1~SW3を交流電源の周波数の数百倍の周波数でスイッチングさせながら制御する必要があることから、電源周波数が85kHz~13.56MHzとなる非接触給電への適用は困難である。
【0010】
また、非特許文献1の構成では、整流部のスイッチング周波数は交流電源の周波数と同じであるが、±jX部分、整流部、コンバータの組み合わせが2組必要であり、回路体格の増大が懸念される。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡素な構成で、自動整合回路と整流回路を一体にした回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の整流回路によれば、直流出力端子間に第1及び第2スイッチング素子の直列回路を接続し、各スイッチング素子の低電圧側端子、高電圧側端子間にダイオードを接続する。交流入力端子の一端と第1及び第2スイッチング素子の共通接続点との間に、共振周波数が交流電源周波数に等しく設定される直列共振フィルタを接続し、制御部は、第1及び第2スイッチング素子を、交流電源周波数と同じ周波数で、それぞれ50%のデューティ比で、且つ互いに180度の位相差でスイッチングする。
【0012】
更に、制御部は、電力の伝送経路上において後発的に発生した発生リアクタンスに応じて、第1スイッチング素子をスイッチングする駆動信号の位相、又は第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を、入力される交流電圧の位相に対して所定の位相差となるように制御する。具体的には、発生リアクタンスが存在しなければ、第1及び第2スイッチング素子をオフするか、又は第1スイッチング素子をスイッチングする駆動信号の位相、又は第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を、交流電圧の位相と同位相とする。発生リアクタンスが誘導性であれば、第1スイッチング素子の駆動信号の位相、又は第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を、交流電圧の位相に対して所定値だけ遅らせて、発生リアクタンスが容量性であれば、第1スイッチング素子の駆動信号の位相、又は前記第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を、交流電圧の位相に対して所定値だけ進ませる。
【0013】
すなわち、制御部が、電力の伝送経路上に後発的に発生したリアクタンスの影響を打ち消すように、第1スイッチング素子をスイッチングする駆動信号の位相、又は第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を制御する。これにより、インピーダンスを自動的に整合させながら、交流電力を直流電力に変換できる。また、スイッチング周波数が交流電源周波数と同一になるので、非接触式給電システムへの適用が容易であり、スイッチング損失も低減できる。そして、非特許文献1に開示されている構成に比較して、回路体格を小さくできる。
【0014】
請求項2記載の整流回路によれば、交流電圧の位相に対して、第1スイッチング素子の駆動信号の位相、又は第2スイッチング素子の端子間電圧の位相を遅らせたり、進ませる所定値を90°とする。このように構成すれば、交流電圧及び交流電流をVin,Iinとし、平滑コンデンサの端子電圧をVoとすると、この電圧Voと第1及び第2スイッチング素子の動作とが、電圧Vinの位相から90°ずれた補助電源として機能する。電圧Voは、発生リアクタンスが容量性の場合は電流Iinの位相を進め、発生リアクタンスが誘導性の場合は電流Iinの位相を遅らせる。そして、平滑コンデンサの充放電がバランスすると、電圧Vinと電流Iinの位相が揃うことになる。これにより、インピーダンスを効率的に整合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態であり、整流回路の構成を示す図
図2図1に示す構成のバリエーションを示す図
図3】電流電圧位相差検出部の回路構成を示す図
図4】制御部の構成を示す図
図5】非接触給電システムの構成を示す機能ブロック図
図6】発生リアクタンスが存在しない場合に、スイッチング素子S1及びS2をオフにする状態を示す信号波形図
図7】発生リアクタンスが存在しない場合に、ゲート信号Vg1のパルス位相を交流電圧位相と同相にする状態を示す信号波形図
図8】発生リアクタンスが誘導性の場合に、ゲート信号Vg1のパルス位相を交流電圧位相よりも進ませた遅らせた非定常状態を示す信号波形図
図9】同定常状態を示す信号波形図
図10】発生リアクタンスが容量性の場合に、ゲート信号Vg1のパルス位相を交流電圧位相よりも進ませた非定常状態を示す信号波形図
図11】同定常状態を示す信号波形図
図12】発生リアクタンスが誘導性の場合の電圧・電流ベクトル図
図13】発生リアクタンスが誘導性の場合について、付与する位相差が90°で適切であることを説明する非定常状態を示す図
図14】同定常状態を示す図
図15】発生リアクタンスが容量性の場合の電圧・電流ベクトル図
図16】発生リアクタンスが容量性の場合について、付与する位相差が90°で適切であることを説明する非定常状態を示す図
図17】同定常状態を示す図
図18】ゲート信号Vg1、Vg2にデッドタイムを付与する際に、交流電圧Vinの位相に対して、スイッチング素子S2のドレイン、ソース間電圧Vdsの位相差を90°にすることを説明する図
図19】第2実施形態であり、発生リアクタンスが誘導性の場合に、ゲート信号Vgs1、Vgs2間に付与するデッドタイムが電圧Vds1の立下り時間未満である場合を示す信号波形図
図20】同デッドタイムが電圧Vds1の立下り時間以上である場合を示す信号波形図
図21】発生リアクタンスが容量性の場合に、付与するデッドタイムが電流Is1の立下り時間未満である場合を示す信号波形図
図22】同デッドタイムが電流Is1の立下り時間以上である場合を示す信号波形図
図23】第3実施形態であり、電流電圧位相差検出部の回路構成を示す図(その1)
図24】電流電圧位相差に対する出力電圧VDCの変化を示す図
図25】電流電圧位相差検出部の回路構成を示す図(その2)
図26】電流電圧位相差に対する出力電圧VDCの変化を示す図
図27】第4実施形態であり、基準信号の出力源が異なる整流回路の構成を示す図
図28】第5実施形態であり、整流回路の構成を示す図
図29】第6実施形態であり、整流回路の構成を示す図
図30】負荷に出力する電力Poに応じて、交流電圧Vinの位相に対するゲート信号Vg1の位相差をスイープさせる状態を示す信号波形図
図31】制御内容を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。図5に示すように、一般的な非接触給電システムは、送電側に交流電源1、自動整合回路2及び整合回路・共振用回路3があり、受電側に整合回路・共振用回路4、自動整合回路5、整流回路6及び負荷7がある。そして、整合回路・共振用回路3、4の間には結合器8が配置されており、この結合器8を介して、送電側から受電側に、電界結合又は磁界結合により非接触給電が行われる。本実施形態の構成は、受電側の自動整合回路5及び整流回路6に相当する構成である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の整流回路11は、負荷7の両端に接続される平滑コンデンサCm、並びにスイッチング素子S1及びS2の直列回路を備えている。スイッチング素子S1及びS2は、例えばNチャネルMOSFETであり、そのドレイン、ソース間には、それぞれダイオードD1及びD2が接続されている。これらのダイオードD1及びD2は、FETのボディダイオードでも良い。スイッチング素子S1及びS2は、それぞれ第1及び第2スイッチング素子である。また、ドレイン、ソースは、それぞれ高電圧側端子、低電圧側端子である。
【0018】
受電側の交流入力端子の一端と、スイッチング素子S1及びS2の共通接続点との間には、コンデンサCf及びコイルLfの直列回路からなる共振回路12が接続されている。スイッチング素子S1及びS2のスイッチング動作は、制御部13により制御される。制御部13は、スイッチング素子S1及びS2のゲートに、それぞれ駆動信号であるゲート信号Vg1及びVg2を出力する。
【0019】
交流電源1の両端には、電流電圧位相差検出部14が接続されている。電流電圧位相差検出部14は、交流電源1の電流-電圧の位相差を検出し、その検出結果を例えばデータとして制御部13に送信する。上記のデータには、電圧のゼロクロス点に同期して出力される基準信号が含まれている。尚、電流電圧位相差検出部14は、図2に示すように、受電側において、共振回路12とスイッチング素子S2との間で、スイッチング素子S2と並列に接続されていても良い。また、図中に示す「ΔX」は、経時変化により送電経路中に後発的に発生したリアクタンスを示しており、以下、発生リアクタンスΔXと称する。
【0020】
図3に示すように、電流電圧位相差検出部14では、交流電源1の両端子1a,1b間にコンデンサ15及びトランス16の一次側コイルの直列回路が接続されている。また、端子1aには、トランス17の一次側コイルが接続されている。トランス16の二次側コイルの両端はそれぞれVo_H,Vo_Lであり、トランス17の二次側コイルの両端はそれぞれIo_H,Io_Lである。
【0021】
端子Vo_H,Vo_Lの間には、抵抗素子18V並びに抵抗素子19V及び20Vの直列回路が接続されている。電源とグランドとの間には、抵抗素子21V及び22Vの直列回路が接続されており、それらの共通接続点は、抵抗素子19V及び20Vの共通接続点に接続されている。また、端子Vo_H,Vo_Lは、それぞれアンプ23Vの非反転入力端子、反転入力端子に接続されており、アンプ23Vの出力端子は、Dフリップフロップ24のクロック端子CLKに接続されている。尚、端子Io_H,Io_L間に接続されている構成は上記と対称であり、対応する構成の符号の「V」に替えて「I」を付して示している。そして、アンプ23Iの出力端子は、Dフリップフロップ24のデータ端子Dに接続されている。
【0022】
以上のように構成される電流電圧位相差検出部14によれば、交流電源1の電流が電圧に対して進み位相になると、Dフリップフロップ24の出力端子Qが「1」となり、同遅れ位相になると出力端子Qバーが「1」となる。
【0023】
図4に示すように、制御部13は、2つの選択回路25(1)及び25(2)と、遅延回路26~28とを備えている。これらの遅延回路26~28により付与される遅延位相量は、それぞれ交流電源周期の位相90°、270°、180°である。選択回路25(1)及び25(2)の可動接点は、それぞれスイッチング素子S1及びS2のゲートに接続されている。選択回路25(1)の固定接点(1)には、交流電源1の電圧位相に同期した基準信号が与えられている。
【0024】
選択回路25(2)の固定接点(1)には、遅延回路28の出力端子が接続されている。選択回路25(1)の固定接点(2)、選択回路25(2)の固定接点(3)には、遅延回路26の出力端子が接続されている。また、選択回路25(1)の固定接点(3)、選択回路25(2)の固定接点(2)には、遅延回路27の出力端子が接続されている。選択回路25の可動接点の切り替えは、発生リアクタンスΔXの判定結果に応じて行われる。電流電圧間の位相差がなければΔX=0であり、固定接点(1)が選択される。電流が電圧に対して遅れ位相であればΔX>0であり、固定接点(2)が選択される。電流が電圧に対して進み位相であればΔX<0であり、固定接点(3)が選択される。
【0025】
次に、本実施形態の作用について説明する。
<ΔX=0の場合>
発生リアクタンスが存在せず、電流電圧間の位相差がない場合には、図6に示すように、スイッチング素子S1及びS2を何れもオフにして、ダイオードD1及びD2を導通させて整流を行う。または、図7に示すように、スイッチング素子S1のゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電源電圧と同位相にする。すなわち、ゲート信号Vg1のパルスの立上りを、交流電圧の極性が負側から正側へ移行する際のゼロクロス点に一致させる。スイッチング素子S2のゲート信号Vg2のパルスは、その逆相となる。尚、図中のVinは、交流電源1の電圧であり、Voは整流回路11の出力電圧である。
【0026】
<ΔX>0の場合>
発生リアクタンスが誘導性であれば、図8に示すように、ゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電源電圧の位相よりも所定量Φ=90°だけ遅れ位相にする。図9は、図8に示すようにスイッチング動作させた後の定常状態を示している。
【0027】
<ΔX<0の場合>
発生リアクタンスが容量性であれば、図10に示すように、ゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電源電圧の位相よりも所定量Φ=90°だけ進み位相にする。図11は、図10に示すようにスイッチング動作させた後の定常状態を示している。
【0028】
ここで、ΔX>0、ΔX<0の場合に付与する位相の調整量を90°にすることの妥当性について説明する。ΔX>0の場合のベクトル図は、図12に示すようになる。図中のIin’は、非定常状態に流れる交流電流である。図13に示すように、スイッチング素子S1を、交流電圧位相に対して90°の遅れ位相で、且つデューティ比50%でオンさせると、そのオンしている期間の半周期において、交流電流Iinにより平滑コンデンサCmを充放電する。その結果、電流Iinの位相差分だけ平滑コンデンサCmに電荷が溜まるので、出力電圧Voが得られる。
【0029】
出力電圧Voと、スイッチング素子S1及びS2のスイッチング動作とが、交流電圧Vinより位相90°遅れた補助電源として機能することで、出力電圧Voは交流電流Iinの位相を進めることになる。そして、電流Iinと電圧Vinの位相が一致するまで、電圧Voは上昇する。やがて、平滑コンデンサCmの充放電がバランスして電圧Voが安定すれば、図14に示すように、電流Iinと電圧Vinの位相が一致する状態に至る。
【0030】
つまり、スイッチング素子S1を、交流電圧Vin位相に対して90°の遅れ位相で、且つデューティ比50%でスイッチング動作させると、電流Iinによる平滑コンデンサCmの充放電がバランスし時に、電流Iinと電圧Vinの位相が揃うことになる。
【0031】
図15図17は、ΔX<0の場合の図12図14相当図である。この場合、出力電圧Voと、スイッチング素子S1及びS2のスイッチング動作とが、交流電圧Vinより位相90°進んだ補助電源として機能することで、出力電圧Voは交流電流Iinの位相を遅らせることになる。そして、電流Iinと電圧Vinの位相が一致するまで、電圧Voは上昇する。やがて、平滑コンデンサCmの充放電がバランスして電圧Voが安定すれば、図17に示すように、電流Iinと電圧Vinの位相が一致する状態に至る。
【0032】
尚、以上は、ゲート信号Vg1,Vg2に対してデッドタイムを付与しない場合について説明した。これに対して、例えば図18に示すように、ゲート信号Vg1の位相をずらしてデッドタイムαを付与すると、電圧Vinとゲート信号Vg1との位相差は(90°+α)となる。この場合でも、電圧Vinに対するスイッチング素子S2のドレイン、ソース間電圧Vds2の位相差は、90°のままである。したがって、上記のようにデッドタイムを付与する際には、電圧Vinに電圧Vds2の位相差を90°とするように制御すれば良い。
【0033】
以上のように本実施形態によれば、整流回路11において、直流出力端子間にスイッチング素子S1及びS2の直列回路を接続し、各スイッチング素子のS1及びS2のドレイン、ソース間に、それぞれダイオードD1及びD2を接続する。交流入力端子の一端とスイッチング素子S1及びS2の共通接続点との間に、共振周波数が交流電源周波数に等しく設定される直列共振フィルタ12を接続し、制御部13は、スイッチング素子S1及びS2を、交流電源周波数と同じ周波数で、それぞれ50%のデューティ比で、且つ互いに180度の位相差でスイッチングする。
【0034】
更に、制御部13は、電力の伝送経路上で後発的に発生した発生リアクタンスΔXに応じて、スイッチング素子S1をスイッチングするゲート信号Vg1の位相又はスイッチング素子S2の端子間電圧Vds2の位相を、入力される交流電圧Vinの位相に対して所定の位相差となるように制御する。具体的には、発生リアクタンスΔXが存在しなければ、スイッチング素子S1及びS2をオフするか、ゲート信号Vg1の位相又は電圧Vds2の位相を、交流電圧Vinの位相と同位相とする。発生リアクタンスΔXが誘導性であれば、ゲート信号Vg1の位相又は電圧Vds2の位相を、交流電圧Vinの位相に対して所定値だけ遅らせて、発生リアクタンスΔXが容量性であれば、ゲート信号Vg1の位相又は電圧Vds2の位相を、交流電圧Vinの位相に対して所定値だけ進ませる。
【0035】
すなわち、制御部13が、発生リアクタンスΔXの影響を打ち消すように、ゲート信号Vg1の位相又は電圧Vds2の位相を制御する。これにより、インピーダンスを自動的に整合させながら、交流電力を直流電力に変換できる。また、スイッチング周波数が交流電源周波数と同一になるので、非接触式給電システムへの適用が容易であり、スイッチング損失も低減できる。そして、非特許文献1に開示されている構成に比較して、回路体格を小さくできる。また、位相を遅らせたり、進ませる所定値を90°とすることで、整流回路11の出力電圧Voとスイッチング素子S1及びS2の動作とが、電圧Vinの位相から90°ずれた補助電源として機能させて、インピーダンスを効率的に整合させることができる。
【0036】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。第2実施形態では、発生リアクタンスΔXが誘導性、容量性であるそれぞれの場合に応じて、スイッチング損失を低減させるために付与するデッドタイムを示す。スイッチング素子S1に流れるドレイン電流をIs1,ドレイン、ソース間電圧をVds1、ダイオードD1に流れる電流をId1とする。
【0037】
図19に示すように、発生リアクタンスΔX>0である誘導性の場合に、ゲート信号Vgs1、Vgs2間に付与するデッドタイムが電圧Vds1の立下り時間未満であると、ゲート信号Vgs1が立ち上がりスイッチング素子S1がターンオンする際に、電圧Vds1が0Vにならないタイミングで電流Is1が流れ始めることで、スイッチング損失が発生する。
【0038】
これに対して、図20に示すように、電圧Vds1の立下り時間以上のデッドタイムを付与すると、その間にダイオードD1に電流Id1が流れて電圧Vds1は略0Vとなり、電流Is1は0Aとなる。そこから、ゲート信号Vgs1が立ち上がると、電流Is1は0Aから上昇を開始する。これにより、電圧Vds1が0Vの状態で電流Id1が流れ始めるので、スイッチング素子S1のターンオンが所謂ゼロ電圧スイッチングとなり、スイッチング損失が低減される。
【0039】
また、図21に示すように、発生リアクタンスΔX<0である容量性の場合に付与するデッドタイムが、ドレイン電流Is1の立下り時間未満であると、やはり電圧Vds1が0Vにならないタイミングで電流Is1が流れ始めることで、スイッチング損失が発生する。
【0040】
これに対して、図22に示すように、電流Is1の立下り時間以上のデッドタイムを付与すると、その間にダイオードD1に電流Id1が流れて電圧Vds1は略0Vとなり、電流Is1は0Aとなる。そこから、電圧Vds1が立ち上がるので、ターンオフ時に所謂ゼロ電流スイッチングとなり、スイッチング損失が低減される。
【0041】
(第3実施形態)
第3実施形態は、電流電圧位相差検出回路の構成バリエーションを示す。図23に示す電流電圧位相差検出回路14Aでは、交流端子間に、コンデンサ31及び32の直列回路が接続されている。コンデンサ31に対して並列に、トランス33、コンデンサ34並びにダイオード35a及び35bを組み合わせた回路が接続されている。トランス33の1次巻線は交流端子に接続され、2次巻線にはコンデンサ34が並列に接続されている。
【0042】
ダイオード35aのカソード及びダイオード35bのアノードは、コンデンサ31及び32の共通接続点に接続されている。そして、ダイオード35aのアノードと、ダイオード35bのカソードとは、それぞれコンデンサ34の一端、他端に接続されている。コンデンサ31及び32の共通接続点からは、抵抗素子36を介して電圧VDCが出力される。電圧VDCの出力端子とグランドとの間には、コンデンサ37及び抵抗素子38の並列回路が接続されている。
【0043】
コンデンサ31及び32の共通接続点の電圧をVvd,コンデンサ34の端子電圧をVidとすると、電流電圧位相差検出回路14Aの出力電圧VDCは、図24に示すように、電圧Vvdに対する電圧Vidの位相差に応じた値、つまり電流電圧位相差となる。位相差の遅れ、進みに応じて、電圧VDCは負の値から正の値に変化する。
【0044】
また、図25に示す電流電圧位相差検出回路14Bでは、コンデンサ32に替えて、トランス39の1次巻線が接続されている。トランス39の2次巻線は、ダイオードブリッジ回路40の端子a,bに接続されている。上記2次巻線の中点はグランドに接続されている。一方、トランス33の2次巻線の中点はグランドに接続されておらず、電圧VDCの出力端子となっている。また、その2次巻線は、ダイオードブリッジ回路40の端子c,dに接続されている。
【0045】
トランス39の2次巻線の端子電圧をVvd,トランス33の2次巻線の端子電圧をVidとすると、電流電圧位相差検出回路14Bの出力電圧VDCは、図26に示すように、電圧Vvdに対する電圧Vidの位相差に応じた値となる。位相差の遅れ、進みに応じて、電圧VDCは正の値で変化し、位相差がゼロ場合に電圧VDCは最大値を示す。
【0046】
(第4実施形態)
第4実施形態は、制御部13に入力される基準信号を得る場合のバリエーションを示す。図27に示す整流回路11Aにおいて、交流電源1Aが回路として構成されている場合に、その内部で交流電源の周波数を生成するのにクロック信号を使用していれば、そのクロック信号を基準信号として用いる。
【0047】
(第5実施形態)
図28に示す第5実施形態の整流回路11Bでは、電流電圧位相差検出回路14に替えて、電流電圧検出回路41を用いる。電流電圧検出回路41は、交流電圧Vin及び交流電流Iinを検出して、それらを制御部13Aに出力する。制御部13Aは、入力された交流電圧Vin及び交流電流Iinに基いて発生リアクタンスΔXを推定し、その推定結果に応じて第1実施形態と同様にスイッチング素子S1及びS2を制御する。
【0048】
(第6実施形態)
図29に示す第6実施形態の整流回路11Cは、第5実施形態の電流電圧検出回路41に替えて、負荷7に並列接続される電流電圧検出回路42を備えている。この電流電圧検出部に相当する電流電圧検出回路42により、負荷7の端子電圧及び負荷7に通電される電流、つまり出力電圧及び出力電流を検出し、負荷7で消費される電力Poを求める。そして、制御部13Bは、図30に示すように、電力Poが所定値以上となるように、ゲート信号Vg1のパルス位相差をスイープさせる。電流電圧検出回路42は、電力検出部に相当する。
【0049】
次に、第6実施形態の作用について説明する。図31に示すように、制御部13Bは、先ず、現時点の電力Poが所定値P未満であることを検出すると(S1)、スイッチング素子S1のゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電圧Vinの位相と同相に設定する(S2)。それから、電流電圧検出回路42を介して出力電圧及び出力電流を検出し、電力Poを演算する(S3)。
【0050】
続いて、電力Poが所定値P以上か否かを判断し(S4)、所定値P以上であれば(YES)ゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電圧Vinの位相と同相に固定する(S11)。電力Poが所定値P未満であれば(NO)、ゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電圧Vinの位相に対して-Φ又は+Φの位相差となるように設定する(S5)。それから、ステップS3と同様に電力Poを演算する(S6)。
【0051】
次に、ステップS4と同様の判断を行ない(S7)「YES」と判断すると、ゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電圧Vinの位相に対して-Φ又は+Φの位相差となる状態で固定する(S12)。一方、「NO」と判断すると、ゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電圧Vinの位相に対して+Φ又は-Φの位相差となるように設定する(S8)。すなわち、ここでは、ステップS5で選択した極性と逆の極性で位相差を設定する。
【0052】
その後、ステップS3,S4と同様の処理、判断を行い(S9、S10)、「YES」と判断すると、ゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電圧Vinの位相に対して+Φ又は-Φの位相差となる状態で固定する(S13)。一方、「NO」と判断すると、電力Poの低下が、発生リアクタンスΔX以外の要因によると推定されるので、異常発生の可能性があると判定する(S14)。
【0053】
以上のように第6実施形態によれば、整流回路11Cの直流出力端子間において、負荷7により消費される電力Poを検出する電流電圧検出回路42を備え、制御部13Bは、電力Poに応じて、ゲート信号Vg1のパルスの位相を、交流電圧Vinの位相に対して変化させ、電力Poが目標値P以上になると、交流電圧Vinの位相に対するゲート信号Vg1の位相差を固定する。このように構成した場合も、第1実施形態等と同様の効果が得られる。
【0054】
(その他の実施形態)
第2実施形態を、第3~第6実施形態に適用しても良い。
また、第4実施形態を、第5~第6実施形態に適用しても良い。
スイッチング素子は、NチャネルMOSFETに限ることなく、第1スイッチング素子にPチャネルMOSFETを用いたり、IGBT等を用いても良い。
非接触式給電システムに適用するものに限らず、交流電力を直流電力に変換するものに広く適用できる。
【0055】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0056】
図面中、1は交流電源、7は負荷、11は整流回路、12は共振回路、13は制御部、14は電流電圧位相差検出部、Cmは平滑コンデンサ、S1及びS2はスイッチング素子、D1及びD2はダイオードを示す。
図1
図2
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