(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167212
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】人工芝
(51)【国際特許分類】
E01C 13/08 20060101AFI20231116BHJP
A01G 13/00 20060101ALI20231116BHJP
D04B 21/02 20060101ALI20231116BHJP
D04B 21/14 20060101ALI20231116BHJP
D04B 21/10 20060101ALI20231116BHJP
D06M 15/248 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
E01C13/08
A01G13/00 D
D04B21/02
D04B21/14 Z
D04B21/10
D06M15/248
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078210
(22)【出願日】2022-05-11
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】594054520
【氏名又は名称】株式会社ユニチカテクノス
(71)【出願人】
【識別番号】000104412
【氏名又は名称】カンボウプラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山名 道則
(72)【発明者】
【氏名】空閑 徹
(72)【発明者】
【氏名】門口 幸司
【テーマコード(参考)】
2D051
4L002
4L033
【Fターム(参考)】
2D051AA07
2D051AB04
2D051AG16
2D051AG20
2D051HA01
2D051HA02
2D051HA04
2D051HA05
2D051HA06
4L002AA07
4L002AB02
4L002AC07
4L002CA00
4L002CA04
4L002CB01
4L002CB02
4L002CB03
4L002DA00
4L002EA00
4L002FA00
4L033AA07
4L033AB03
4L033AB06
4L033AC15
4L033CA14
(57)【要約】
【課題】 衝撃吸収性の高い人工芝を提供する。
【解決手段】 この人工芝は、ウェール方向に走行する複数の編目列1,1,・・・を備え、透かし目4を持つ経編地5と、経編地5の表面から上方に起立し、頂部が輪部2rとなっている複数のパイル糸2,2,・・・と、透かし目4を塞ぐことなく付着した合成樹脂3とで構成されている。パイル糸2の輪部2rは、近隣の他のパイル糸の輪部の中を通って形成されている。これにより、複数のパイル糸2,2,・・・は連結状態となる。パイル糸2,2間の一部には、合成樹脂3が膜状、水掻き状又は玉状で付着しており、パイル糸2,2間の一部が結合されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェール方向に走行する複数の編目列を備え、透かし目を持つ経編地と、
前記経編地の表面から上方に起立し、頂部が輪部となっている複数のパイル糸と、
前記透かし目を塞ぐことなく付着した合成樹脂とで構成され、
前記パイル糸の輪部は、近隣の他のパイル糸の輪部の中を通って形成されることにより、連結された状態となっており、
前記パイル糸間の一部が、前記合成樹脂で結合されていることを特徴とする人工芝。
【請求項2】
パイル糸間の一部が、膜状、水掻き状又は玉状の合成樹脂で結合されている請求項1記載の人工芝。
【請求項3】
経編地がウェール方向に走行する複数の編目列と、該複数の編目列を繋いでコース方向に走行する挿入糸とで形成されている請求項1記載の人工芝。
【請求項4】
パイル糸が編目列を構成する編目に編み込まれて上方に起立している請求項1記載の人工芝。
【請求項5】
パイル糸が一つの編目列から上方に起立しており、該パイル糸の輪部が該編目列から上方に起立している近隣の他のパイル糸の輪部の中を通って形成されている請求項1記載の人工芝。
【請求項6】
パイル糸が近隣の二つの編目列から斜め上方に起立して頂部で輪部となっており、該輪部が、該二つの編目列から斜め上方に起立している他のパイル糸の輪部の中を通って形成されている請求項1記載の人工芝。
【請求項7】
パイル糸がモノフィラメント糸である請求項1記載の人工芝。
【請求項8】
合成樹脂が塩化ビニル樹脂である請求項1記載の人工芝。
【請求項9】
合成樹脂中に顔料及び/又は防炎剤が含有されている請求項1記載の人工芝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工芝、特に仮設用人工芝に関し、競技場の天然芝上に敷設したり、天然芝以外のトラックや通路等に敷設するための人工芝に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、天然芝上に敷設する仮設用人工芝として、経編地と経編地表面から起立するパイル糸で形成されたものが知られている(特許文献1)。仮設用人工芝上では、競技者が練習したりウォーミングアップする。しかるに、特許文献1に記載された仮設用人工芝は衝撃吸収性が低く、競技者が踏み違えたり転倒したりすると、練習中等に怪我をする恐れがある。
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、衝撃吸収性の高い人工芝を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、パイル糸の構成を工夫し、かつ、パイル糸間の一部を合成樹脂で結合することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、ウェール方向に走行する複数の編目列を備え、透かし目を持つ経編地と、前記経編地の表面から上方に起立し、頂部が輪部となっている複数のパイル糸と、前記透かし目を塞ぐことなく付着した合成樹脂とで構成され、前記複数のパイル糸は、輪部が近隣の他の輪部の中を通って形成されることにより、連結された状態となっており、前記パイル糸間の一部が、前記合成樹脂で結合されていることを特徴とする人工芝に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る人工芝は、パイル糸同士が輪部近傍で繋がって連結しており、かつ、パイル糸間の一部が合成樹脂で結合されているので、衝撃が負荷されたとき、衝撃を受けた箇所だけでなく、その箇所の周辺でも衝撃を受けとめることになる。したがって、本発明に係る人工芝は、衝撃吸収性が高くなり、競技者を怪我から守ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一例に係る輪部の連結状態を示した模式図である。
【
図2】本発明の他の例に係る輪部の連結状態を示した模式図である。
【
図3】本発明の一例に係る人工芝の一部を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る人工芝は、透かし目4を持つ経編地5と、経編地5表面から起立するパイル糸2と、透かし目4を塞ぐことなく付着した合成樹脂3とで構成されている。経編地5は、従来公知の方法で編成することができ、たとえば、ラッシェル編機等で編成することができる。透かし目4は、経編地5のウェール方向に走行する編目列1,1,・・・間に間隔を設けることにより、形成される。透かし目4の形状は、一般的に、角目(四角形)又は菱目(菱形)である。経編地5は、従来公知のもので透かし目4を持つものであれば、どのようなものでもよい。たとえば、編目列1,1,・・・のみで形成され、隣り合う編目列1,1間で部分的に結節を形成することにより得られたものでもよい。また、編目列1,1,・・・間に挿入糸を挿入したものであってもよい。前者の場合、透かし目が菱目となりやすく、後者の場合、透かし目が角目となりやすい。かかる透かし目が存在することにより、透水性が良好となり、散水や雨水が溜まりにくくなる。
【0009】
本発明に係る人工芝は、経編地5表面から起立するパイル糸2が設けられているので、ダブルラッシェル編機で編成するのが好ましい。ダブルラッシェル編機は、表面経編地と裏面経編地を編成しながら、この両経編地間を連結糸で連結して編成する機械である。このダブルラッシェル編機を用い、たとえば表面経編地は編成せずに裏面経編地のみを編成し、この裏面経編地に連結糸を編み込めば、裏面経編地とこの裏面経編地表面から起立する連結糸とからなる編地が得られる。裏面経編地から上方に延びる連結糸は、表面経編地が編成されていないため、表面経編地が本来有する位置において輪部が形成され、この輪部を頂部とするパイル糸2となる。
【0010】
本発明において、パイル糸2の輪部2rは、近隣の他の輪部の中を通って形成され、複数のパイル糸2,2,・・・が連結された状態となっている。この状態を図に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
図1において、符号11a及び11bは経編地のウェール方向に走行する編目列を示している。編目列11a及び11bは、図示していないけれども、コース方向に走行する挿入糸によって連結されているか、又は編目列11a及び11bを数コース毎に交差させて編み込んだ結節によって、透かし目を持つ経編地となっている。一つの編目列11aに編み込まれたパイル糸21とこの近隣に編み込まれたパイル糸22がある場合、パイル糸21の輪部21rは、パイル糸22の輪部22rの中を通って形成されている。また、パイル糸22の輪部22rは、パイル糸23の輪部23rを通って形成されている。さらに、編目列11bに編み込まれたパイル糸も、編目列11aに編み込まれたパイル糸と同様の構成になっている。これらが前方及び後方に連続することにより、パイル糸2の輪部2rが連結状態となる。
【0011】
図2において、符号11a,11b,11c及び11dは、各々、経編地の編目列を示している。
図2の場合も、
図1の場合と同様に、コース方向に走行する挿入糸によって連結されているか、又は編目列11a及び11bを数コース毎に交差させて編み込んだ結節によって、透かし目を持つ経編地となっている。編目列11a及び編目列11cに編み込まれたパイル糸21は編目列11bの直上で輪部21rを形成し、この輪部21rはパイル糸22の輪部22rの中を通って形成されている。パイル糸22は編目列11a及び編目列11cに編み込まれており、編目列11bの直上で輪部22rを形成している。この輪部22rは、パイル糸23の輪部23rの中を通って形成されている。パイル糸23は編目列11a及び編目列11cに編み込まれており、編目列11bの直上で輪部23rを形成している。また、編目列11b及び編目列11dに編み込まれたパイル糸は、編目列11cの直上で輪部を形成し、編目列11a及び編目列11cに編み込まれたパイル糸と同様の構成になっている。これが前方及び後方に連続することにより、パイル糸2の輪部2rが連結状態となる。
図2の場合、パイル糸がコース方向に対向して斜め上方に起立し、その頂部で輪部が形成されているので、パイル糸の起立状態はトラス構造のものになり、より衝撃吸収性が向上する。
【0012】
また、パイル糸2の連結状態は、
図1及び
図2に示したパイル糸2の連結状態を組み合わせたものであってもよい。たとえば、3~7コース等の複数コースにおいて、
図1の如き態様でパイル糸を連結させ、続く3~7コース等の複数コースにおいて、
図2の如き態様でパイル糸を連結させてもよい。
図1及び
図2は、パイル糸の構造及び形態を分かりやすく模式的に示したものである。現実には、隣り合う編目列の間隔は0.5~2mm程度であり、隣り合うパイル糸の間隔も0.5~2mm程度であり、パイル糸は200~700デシテックス程度の可撓性のモノフィラメント糸で形成されている。したがって、パイル糸は前後左右に変形し、パイル糸同士が重なり合ったり接触したりしている。
【0013】
経編地表面から上方に起立するパイル糸2の高さは、5~15mm程度である。パイル糸2としては、従来公知の糸を用いうるが、高剛性のモノフィラメント糸を用いるのが好ましい。なお、経編地を構成する糸も従来公知の糸を用いうるが、合成樹脂3を含浸しやすいマルチフィラメント糸を用いるのが好ましい。パイル糸2は、透かし目4を有する経編地の編目列1に編み込まれているので、パイル糸2,2,・・・間には、0.5~2mm程度の空隙が存在する。そして、パイル糸2,2,・・・間の一部は、合成樹脂3で結合されている。合成樹脂3は、パイル糸2,2間を結合するため、膜状、水掻き状又は玉状等の形態で付着しているのが好ましい。また、合成樹脂3は、経編地を構成する糸中に含浸されていると共に糸表面にも付着し、パイル糸2の表面にも付着しているのが好ましい。この方が、衝撃吸収性も向上するし、耐久性に向上する。
【0014】
合成樹脂3でパイル糸2,2,・・・間の一部を結合するには、経編地とパイル糸で構成されている編地を、合成樹脂液に含浸した後、乾燥・熱処理して合成樹脂3を固着させればよい。この際、パイル糸の密度に基づき、合成樹脂液の粘度及び含浸量を調整すれば、パイル糸2,2,・・・間の間隙の一部を、膜状、水掻き状又は玉状等の架橋形態で合成樹脂3が付着して、パイル糸2,2,・・・間の一部が合成樹脂3によって結合されるのである。合成樹脂3としては、従来公知のものを用いうるが、柔軟性又は弾力性のある塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂又はアクリル樹脂等を用いることができる。特に、難燃性である塩化ビニル樹脂を用いるのが好ましい。人工芝を、屋内競技場やドーム型競技場で用いる場合は、難燃性を要求されることが多いからである。合成樹脂3中には、顔料を含有させておくのが好ましい。人工芝であるから、緑色顔料を含有させておくのが好ましい。また、無機充填剤、防炎剤又は可塑剤等の任意の添加剤を含有させておいてもよい。
【0015】
この人工芝は、従来公知の用途に用いられる。特に、仮設用人工芝として好適で、競技場の天然芝上に敷設したり、天然芝以外のトラックや通路等に敷設して用いられる。また、合成樹脂として塩化ビニル樹脂を用いた人工芝は、難燃性であるため、屋内の床上に敷設して用いることもできる。
【実施例0016】
実施例1
経編地を編成するための糸として、330デシテックス96フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸を準備した。また、パイル糸を編成するための糸として、455デシテックスのポリエステルモノフィラメント糸を準備した。この両糸を用い、14ゲージのダブルラッシェル編機で、L3、L4、L5及びL6の筬を使用し、以下の編組織でパイル糸及び経編地よりなる編地を編成した。
(パイル糸組織)
L3:2-3,4-5/3-2,1-0// (1in 1out)
(経編地組織)
L4:0-0,0-1/1-1,1-0// (All in)
L5:3-3,0-0/0-0,1-1/1-1,0-0/0-0,3-3/3-3, 2-2/2-2,3-3// (All in)
L6:0-0,2-2/2-2,1-1/1-1,2-2/2-2,0-0/0-0, 1-1/1-1,0-0// (All in)
【0017】
この編地の目付は約500g/m2であった。また、経編地は糸密度は、17コース/ インチ、14ウェール/ インチであり、角目よりなる透かし目を持つものであった。パイル糸の高さは約10mmであり、パイル糸の起立状態はトラス構造のものであった。
【0018】
この編地を、塩化ビニル樹脂100質量部及び緑色顔料14質量部を含有する塩化ビニル樹脂液に含浸した後、185℃で熱処理して人工芝を得た。塩化ビニル樹脂の付着量は約700g/m2であった。パイル糸間の一部は、塩化ビニル樹脂が膜状等で付着し、結合されていた。
【0019】
比較例1
塩化ビニル樹脂を付着せずに、実施例1で編成した編地を人工芝とした。
【0020】
実施例1及び比較例1に係る人工芝の衝撃吸収性(%)を測定した。衝撃吸収性(%)は、EN 14808の進化型試験方法であるAAA法(Advanced Artificial Athlete)で測定した。AAA法は、加速度計を取り付けた20kgの錘を55mmの高さから人工芝上に落下させ、錘が受ける衝撃力(N)を検知し、以下の式にて算出したものである。
衝撃吸収性(%)=[(X-Y)/Y]×100
式中、Xは錘が受ける衝撃力(N)であり、Yは基準の衝撃力(6760N)である。ここで、基準の衝撃力は、20kgの錘を55mmの高さからコンクリート面(20cm厚)に落下させたときに、錘が受ける衝撃力であり、一般的に6760Nの値が採用されている。
【0021】
AAA法による測定の結果、実施例1に係る人工芝は衝撃吸収性が14%であり、比較例に係る人工芝は5%であった。したがって、実施例1に係る人工芝は、比較例1に係るものに比べて、衝撃吸収性に優れていることが分かる。