IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特開-蓄電素子用電極及び蓄電素子 図1
  • 特開-蓄電素子用電極及び蓄電素子 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167246
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】蓄電素子用電極及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20231116BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231116BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231116BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20231116BHJP
   H01G 11/40 20130101ALI20231116BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20231116BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01G11/06
H01G11/40
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078282
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】須山 元嗣
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA02
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA55
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ04
5H029EJ07
5H029HJ01
5H029HJ05
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA08
5H050EA15
5H050FA02
5H050FA16
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高い蓄電素子用電極、及びこのような電極を備える蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る蓄電素子用電極は、活物質、固体電解質及び導電剤を含有し、上記導電剤が、直径が100nm以上300nm以下である繊維状の第1導電剤と、直径が1nm以上30nm以下である繊維状の第2導電剤とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、固体電解質及び導電剤を含有し、
上記導電剤が、直径が100nm以上300nm以下である繊維状の第1導電剤と、直径が1nm以上30nm以下である繊維状の第2導電剤とを含む蓄電素子用電極。
【請求項2】
正極である請求項1に記載の蓄電素子用電極。
【請求項3】
上記第1導電剤と上記第2導電剤との質量比が1:9から9:1の範囲内である請求項1又は請求項2に記載の蓄電素子用電極。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の蓄電素子用電極を備える蓄電素子。
【請求項5】
全固体蓄電素子である請求項4に記載の蓄電素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子用電極及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。また、全固体電池等、非水電解質として固体電解質を用いる蓄電素子も開発されている。
【0003】
全固体電池の電極には、一般的に活物質と固体電解質とを含有する活物質層を有するものが用いられる。また、電極の活物質層には、電子導電性を向上させるために、導電剤が通常さらに含有される。特許文献1には、正極活物質であるコバルト酸リチウム、固体電解質であるLi1.5Al0.5Ge1.5(PO、導電剤であるケッチェンブラック等を含む正極活物質層が設けられた全固体電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-142439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電素子には、放電容量が大きいこと、高率放電性能に優れること、容量維持率が高いこと等の各種性能が求められる。しかし、活物質、固体電解質及び導電剤を含有する従来の電極が用いられた蓄電素子は、これらの性能を十分に満足できるものではない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高い蓄電素子用電極、及びこのような電極を備える蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る蓄電素子用電極は、活物質、固体電解質及び導電剤を含有し、上記導電剤が、直径が100nm以上300nm以下である繊維状の第1導電剤と、直径が1nm以上30nm以下である繊維状の第2導電剤とを含む。
【0008】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、本発明の一側面に係る蓄電素子用電極を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高い蓄電素子用電極、及びこのような電極を備える蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子(全固体電池)の模式的断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
はじめに、本明細書によって開示される蓄電素子用電極及び蓄電素子の概要について説明する。
【0012】
本発明の一側面に係る蓄電素子用電極は、活物質、固体電解質及び導電剤を含有し、上記導電剤が、直径が100nm以上300nm以下である繊維状の第1導電剤と、直径が1nm以上30nm以下である繊維状の第2導電剤とを含む。
【0013】
当該蓄電素子用電極は、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高い。このような効果が生じる理由は定かではないが、以下の理由が推測される。直径が小さい繊維状の導電剤は、柔軟で折れ曲がりやすいため、粒子状の活物質間の電子伝導経路を形成し易いものの、凝集が生じ易く導電剤の分布が不均一になる傾向にある。一方、直径が大きい繊維状の導電剤は、剛直で折れ曲がりにくいため、分散性は良いものの、粒子状の活物質間の電子伝導経路を形成し難い。本発明の一側面に係る蓄電素子用電極においては、直径が100nm以上300nm以下である繊維状の第1導電剤と、直径が1nm以上30nm以下である繊維状の第2導電剤との2種類の繊維状の導電剤が用いられていることで、十分に分散された良好な状態の電子伝導経路が形成され、これにより上記効果が奏されるものと推測される。
【0014】
「繊維状の導電剤」とは、変形可能な細長い形状の導電剤をいう。繊維状の導電剤の直径に対する長さの比は、例えば10以上である。繊維状の導電剤の直径及び長さは、走査電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)又は原子間力顕微鏡(AFM)の画像に基づく。上記画像から、個々の繊維状の導電剤の直径を求め、直径が100nm以上300nm以下であるものを第1導電剤、直径が1nm以上30nm以下のものを第2導電剤とする。1本の繊維状の導電剤においてその直径が均一ではない場合、最大の直径に基づいて判断する。また、繊維状の導電剤の直径は、放電状態における測定値とする。放電状態とは、蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電した状態をいう。ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合をいう。
SEM等による導電剤の画像の取得は、蓄電素子用電極から分離し、採取された導電剤に対して行う。蓄電素子用電極の活物質層中に活物質、固体電解質(酸化物固体電解質、硫化物固体電解質等)、導電剤及びバインダが含まれる場合、活物質層から、活物質及び酸化物固体電解質等を例えば塩酸等で除去し、硫化物固体電解質等を例えば水、エタノール等で除去し、バインダを例えば酪酸ブチル等で除去することにより、導電剤を採取することができる。採取した導電剤を、適当な分散媒を用いて分散させた後、分散媒を除去し、SEM、TEM、SPM又はAFMで観測する。
【0015】
本発明の一側面に係る蓄電素子用電極は、正極であることが好ましい。また、本発明の一側面に係る蓄電素子用電極は、上記活物質、上記固体電解質、及び上記第1導電剤と上記第2導電剤とを含む導電剤を含有する正極活物質層を有することも好ましい。このような場合、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高いという効果をより高めることができる。
【0016】
上記第1導電剤と上記第2導電剤との質量比が1:9から9:1の範囲内であることが好ましい。このような場合、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高いという効果をより高めることができる。第1導電剤と第2導電剤との質量比に関し、例えば、第1導電剤の比率を高めた場合は放電容量がより大きくなる傾向があり、第2導電剤の比率を高めた場合は高率放電性能がより高まる傾向がある。
【0017】
第1導電剤と第2導電剤との質量比は以下の方法により測定することができる。充放電前又は放電状態の蓄電素子用電極から、導電剤を採取する。導電剤を採取する方法は、上記した通りである。適当な分散媒を用いて分散させた後、分散媒を除去した導電剤を、SEM、TEM、SPM又はAFMで得られる画像から、質量比を求める。具体的には、繊維状の導電剤の形状を円柱と仮定し、各繊維状の導電剤の直径及び長さ(高さ)から、各繊維状の導電剤の体積を求める。そして、繊維状の導電剤の真密度と体積とから、1本の繊維状の導電剤の質量を求める。なお、繊維状の導電剤が内部に空隙を有する場合においても、内部の空隙は無視して、中実な円柱と仮定して質量を求める。SEM、TEM、SPM又はAFMで得られる1つの画像中の全ての第1導電剤及び第2導電剤について、1本毎の質量を求め、複数の第1導電剤の合計の質量と、複数の第2導電剤の合計の質量との比を、第1導電剤と第2導電剤との質量比とする。
【0018】
本発明の一側面に係る蓄電素子は、本発明の一側面に係る蓄電素子用電極を備える。当該蓄電素子は、本発明の一側面に係る蓄電素子用電極を備えるため、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高い。
【0019】
本発明の一側面に係る蓄電素子は、全固体蓄電素子であることが好ましい。全固体蓄電素子に本発明の一側面に係る蓄電素子用電極を適用した場合、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高いという効果が特に顕著に現れる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る蓄電素子用電極、蓄電素子及びその製造方法、蓄電装置、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0021】
<蓄電素子用電極>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子用電極(以下、単に「電極」と称する場合がある。)は、基材と、当該基材に直接又は中間層を介して配される活物質層とを有する。当該電極は、正極であってもよく、負極であってもよいが、正極であることが好ましい。当該電極は、バイポーラ型電極であってもよい。当該電極は、各種蓄電素子に用いることができるが、中でも全固体蓄電素子に好適に用いることができる。
【0022】
(基材)
基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。
【0023】
当該電極が正極である場合の基材(正極基材)の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0024】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。正極基材及び後述する負極基材の「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。
【0025】
当該電極が負極である場合の基材(負極基材)の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0026】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0027】
(中間層)
中間層は、基材と活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで基材と活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0028】
(活物質層)
活物質層は、活物質、固体電解質及び導電剤を含有する。活物質層は、必要に応じて、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてもよい。
【0029】
当該電極が正極である場合の活物質層(正極活物質層)には、活物質として、正極活物質が用いられる。当該電極が負極である場合の活物質層(負極活物質層)には、活物質として、負極活物質が用いられる。当該電極がバイポーラ型電極である場合、基材の一方の面側に正極活物質層を備え、他方の面側に負極活物質層を備えていてよい。
【0030】
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池、全固体電池等に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。
【0031】
正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましく、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のうちの少なくとも2種を含むリチウム遷移金属複合酸化物がさらに好ましく、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物がよりさらに好ましい。このリチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO型結晶構造を有することが好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、エネルギー密度を高くすることなどができる。
【0032】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、下記式1で表される化合物が好ましい。
Li1+αMe1-α ・・・1
式1中、MeはNi、Co及びMnのうちの少なくとも1種を含む金属元素(Liを除く)である。0≦α<1である。
【0033】
式1中のMeは、実質的にNi、Co及びMnのうちの1種以上の元素のみから構成されていることが好ましく、これらの3種の元素から構成されていることがより好ましい。但し、Meは、その他の金属元素が含有されていてもよい。その他の金属元素としては、Al等が挙げられる。
【0034】
放電容量がより大きくなることなどの観点から、式1で表される化合物における各構成元素の好適な含有量(組成比)は以下の通りである。なお、モル比は、原子数比に等しい。
【0035】
式1中、Meに対するNiのモル比(Ni/Me)の下限としては、0.1が好ましく、0.2、0.3又は0.4がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Ni/Me)の上限としては、0.9が好ましく、0.8、0.7又は0.6がより好ましい場合もある。
【0036】
式1中、Meに対するCoのモル比(Co/Me)の下限としては、0.05が好ましく、0.1又は0.2がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Co/Me)の上限としては、0.7が好ましく、0.5、0.4又は0.3がより好ましい場合もある。
【0037】
式1中、Meに対するMnのモル比(Mn/Me)の下限としては、0.05が好ましく、0.1又は0.2がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Mn/Me)の上限としては、0.6が好ましく、0.5、0.4又は0.3がより好ましい場合もある。
【0038】
式1中、Meに対するLiのモル比(Li/Me)、即ち、(1+α)/(1-α)の上限としては、1.6が好ましく、1.4又は1.2がより好ましい場合もある。また、αは、0.5以下であってもよく、0.3以下、0.2以下又は0.1以下であってもよい。
【0039】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の組成比は、次の方法により完全放電状態としたときの組成比をいう。まず、蓄電素子を、0.05Cの電流値で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。解体し、正極を取り出し、金属Liを対極とした試験電池を組み立て、正極活物質1gあたり10mAの放電電流で、正極電位が2.85V vs.Li/Liとなるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。エタノール等の適当な溶剤を用いて、取り出した正極に付着した成分(固体電解質等)を十分に洗浄し、室温にて24時間減圧乾燥後、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物を採取する。採取したリチウム遷移金属複合酸化物を測定に供する。蓄電素子の解体から測定に供する試料の作製までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0040】
好適なリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi3/5Co1/5Mn1/5、LiNi1/2Co1/5Mn3/10、LiNi1/2Co3/10Mn1/5、LiNi8/10Co1/10Mn1/10等を挙げることができる。
【0041】
正極活物質の材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を、使用する全正極活物質のうち50質量%以上(好ましくは70から100質量%、より好ましくは80から100質量%)の割合で含有することが好ましく、実質的にリチウム金属複合酸化物のみからなる正極活物質を用いることがより好ましい。
【0042】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池、全固体電池等に通常用いられる公知の負極活物質の中から適宜選択できる。負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0043】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0044】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0045】
ここで、炭素材料の「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0046】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0047】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0048】
活物質は、通常、粒子状である。粒子状の活物質の表面の少なくとも一部は、他の化合物等によって被覆されていてもよい。他の化合物としては、酸化物、硫化物、ハロゲン化物等が挙げられ、酸化物が好ましい。この酸化物としては、例えばLiNbO等のリチウム元素とニオブ元素とを含む複合酸化物が挙げられる。
【0049】
粒子状の活物質の平均粒径は、例えば0.01μm以上100μm以下とすることができる。活物質の平均粒径の下限は、0.1μmであってもよく、1μmであってもよい。活物質の平均粒径の上限は、20μmであってもよく、5μmであってもよい。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0050】
活物質を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0051】
活物質層における活物質の含有量は、30質量%以上99質量%以下が好ましく、50質量%以上98質量%以下がより好ましく、60質量%以上95質量%以下がさらに好ましく、70質量%以上又は80質量%以上がよりさらに好ましい場合もある。活物質の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0052】
固体電解質は、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、25℃において固体である。固体電解質は、通常、活物質層における粒子状の正極活物質間の空隙を埋めるように存在する。後述するように、固体電解質の一部は、粒子状の正極活物質の表面を被覆するように存在していてもよい。固体電解質は、典型的には粒子状であり、粒子同士が結合した塊状であってもよい。
【0053】
固体電解質には、従来公知の固体電解質を用いることができる。固体電解質としては、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等を挙げることができ、硫化物系固体電解質が好ましい。
【0054】
硫化物系固体電解質としては、例えばLiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-P-LiN、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(但し、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)、Li10GeP12等を挙げることができる。
【0055】
なお、硫化物系固体電解質(典型的には、アルジロダイト型の硫化物系固体電解質)は、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物(典型的には、上記式1で表されるリチウム遷移金属複合酸化物)の充放電電位で酸化分解され易く、その結果、充放電サイクルに伴う放電容量の低下等が生じやすい傾向にある。そのため、活物質が上記リチウム遷移金属複合酸化物を含み、固体電解質が硫化物系固体電解質を含む蓄電素子用電極に本発明の技術を適用した場合、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高くなるという効果が顕著に現れる。
【0056】
活物質層における固体電解質の含有量としては、5質量%以上90質量%以下が好ましく、10質量%以上70質量%以下がより好ましく、12質量%以上50質量%以下がさらに好ましく、15質量%以上30質量%以下がよりさらに好ましい。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、放電容量をより大きくし、高率放電性能をより高め、充放電サイクル後の容量維持率をより高めることなどができる。
【0057】
活物質層中において、活物質と固体電解質とは複合体を形成していてもよい。活物質と固体電解質との複合体としては、活物質及び固体電解質等の間で化学的又は物理的な結合を有する複合体、活物質と固体電解質等とを機械的に複合化させた複合体等が挙げられる。上記複合体は、一粒子内に活物質及び固体電解質等が存在しているものであり、例えば、活物質及び固体電解質等が凝集状態を形成しているもの、粒子状の活物質の表面の少なくとも一部に固体電解質等を含有する皮膜が形成されているものなどが挙げられる。
【0058】
導電剤は、繊維状の第1導電剤と、繊維状の第2導電剤とを含む。繊維状の導電剤(第1導電剤及び第2導電剤)の長さは特に限定されないが、例えば0.1μm以上100μm以下であってもよく、1μm以上60μm以下であってもよく、3μm以上30μm以下であってもよい。
【0059】
繊維状の導電剤としては、繊維状金属、繊維状導電性樹脂、繊維状炭素等を挙げることができるが、繊維状炭素が好ましい。繊維状炭素とは、炭素質材料である繊維状の導電剤をいう。繊維状炭素(炭素質材料である繊維状の導電剤)としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)等が挙げられる。繊維状炭素は、例えば紡糸法等により高分子を繊維状にし、不活性雰囲気下で熱処理する方法や、触媒存在下、高温で有機化合物を反応させる気相成長法等によって得ることができる。繊維状炭素及びその他の繊維状の導電剤は、市販されているものを用いることができる。従来の方法で製造される繊維状炭素等には、金属微粒子等が混入し得る。用いる繊維状炭素の純度は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0060】
第1導電剤の直径は100nm以上300nm以下であり、120nm以上200nm以下が好ましく、140nm以上160nm以下がより好ましい。第1導電剤としては、例えば、気相成長法によって得られたカーボンナノチューブが好適に用いられる。
【0061】
第2導電剤の直径は1nm以上30nm以下である。第2導電剤の直径の下限としては、2nmが好ましい場合があり、4nm、6nm又は8nmがより好ましい場合がある。第2導電剤の直径が上記下限以上である場合、高率放電性能がより高まる傾向にある。第2導電剤の直径の上限としては、20nmが好ましく、10nmがより好ましく、8nm、6nm又は4nmがさらに好ましい場合がある。第2導電剤の直径が上記上限以下である場合、放電容量がより大きくなる傾向にある。第2導電剤としては、単層又は多層のカーボンナノチューブ(SWCNT又はMWCNT)が好適に用いられる。
【0062】
第1導電剤と第2導電剤との質量比としては、1:9から9:1の範囲内であることが好ましく、2:8から8:2の範囲内であることがより好ましい。このような場合、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高いという効果をより高めることができる。放電容量がより大きくなる傾向からは、第1導電剤と第2導電剤との質量比としては、3:7から9:1の範囲内であることがより好ましく、5:5から9:1の範囲内であることがさらに好ましい。また、高率放電性能がより高まる傾向からは、第1導電剤と第2導電剤の質量比としては、1:9から5:5の範囲内であることがより好ましい。
【0063】
導電剤は、第1導電剤及び第2導電剤以外のその他の導電剤をさらに含んでいてもよい。他の導電剤としては、第1導電剤及び第2導電剤以外の繊維状の導電剤、並びに非繊維状の導電剤(例えば、粒子状の導電剤)が挙げられる。但し、活物質層に含まれる全ての導電剤に対する第1導電剤及び第2導電剤の合計含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上、95質量%以上又は99質量%以上であることがより好ましい。また、活物質層に含まれる全ての繊維状の導電剤に対する第1導電剤及び第2導電剤の合計含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上、95質量%以上又は99質量%以上であることがより好ましい。このような場合、第1導電剤と第2導電剤とを用いる本発明の効果が特に顕著に生じる。
【0064】
導電剤のうちの全ての繊維状の導電剤の直径分布(繊維径分布)においては、100nm以上300nm以下の範囲と、1nm以上30nm以下の範囲とにそれぞれピーク(極大値)が現れることが好ましい。また、この直径分布においては、30nm超100nm未満の範囲にピークが現れないことが好ましい。さらにこの直径分布においては、少なくとも100nm以上300nm以下の範囲と、1nm以上30nm以下の範囲とにそれぞれピークが現れ、これらのピークよりも高いピークが他の範囲に現れないことが好ましく、100nm以上300nm以下の範囲と、1nm以上30nm以下の範囲のみにピークが現れることがより好ましい。このような場合、第1導電剤と第2導電剤とを用いる本発明の効果が特に顕著に生じる。なお、繊維状の導電剤の直径分布は、上記したSEM、TEM、SPM又はAFMの画像から繊維状の導電剤1本毎の直径及び質量を求め、横軸に直径、縦軸に質量の分布曲線を作成することで得られる。
【0065】
活物質層における導電剤の含有量は、0.1質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.8質量%以上1.5質量%以下がさらに好ましく、1.2質量%以下又は1.0質量%以下がよりさらに好ましい場合がある。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。特に、当該電極においては、導電剤が繊維状の第1導電剤及び第2導電剤を含み、これらが良好な電子伝導経路を形成するため、導電剤の含有量が比較的少ない場合も、良好な充放電性能を発揮することができる。また、当該蓄電素子用電極が正極の場合、硫化物系固体電解質等の固体電解質は、導電剤と密接している場合に酸化分解が促進される場合がある。そこで、導電剤の含有量を上記上限以下とすることで、固体電解質の酸化分解による充放電性能の低下を抑制することができる。
【0066】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0067】
活物質層におけるバインダの含有量は、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.3質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。バインダの含有量を上記下限以上とすることで、活物質を安定して保持することができる。また、バインダの含有量を上記上限以下とすることで、活物質等の含有量を増やすことができる結果、放電容量をより大きくしく、高率放電性能をより高め、充放電サイクル後の容量維持率をより高めることが可能となる。
【0068】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。活物質層に増粘剤を含有させる場合、活物質層における増粘剤の含有量としては、例えば0.1質量%以上5質量%以下であり、3質量%以下であってもよく、活物質層に増粘剤が含有されていないことが好ましい場合もある。
【0069】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。活物質層にフィラーを含有させる場合、活物質層におけるフィラーの含有量としては、例えば0.1質量%以上5質量%以下であり、3質量%以下であってもよく、活物質層にフィラーが含有されていないことが好ましい場合もある。
【0070】
活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を活物質、固体電解質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0071】
活物質層における活物質、固体電解質、導電剤及びバインダの合計含有量は、例えば80質量%以上100質量%以下が好ましく、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上又は99.9質量%以上がより好ましい場合もある。
【0072】
活物質層の平均厚さとしては、10μm以上1,000μm以下が好ましく、30μm以上500μm以下がより好ましい。活物質層の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する蓄電素子を得ることができる。活物質層の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子の小型化を図ることなどができる。活物質層の平均厚さは、任意の5ヶ所で測定した厚さの平均値とする。後述する隔離層の平均厚さも同様である。
【0073】
活物質層の多孔度としては、5%以上20%以下が好ましく、8%以上15%以下がより好ましく、10%以上12%以下がさらに好ましい。活物質層の多孔度がこのように比較的低い場合、緻密な層となっており、活物質と固体電解質との間に良好な反応界面が形成されることなどにより、充放電性能が向上し得る。一方、一般的に、多孔度が低く層が緻密になると、充放電の際の副反応が促進され、充放電に伴う放電容量の低下が顕著になる傾向にある。そのため、多孔度が上記範囲の活物質層を備える蓄電素子用電極に本発明の技術を適用した場合、放電容量が大きく、高率放電性能に優れ、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高くなるという効果が顕著に現れる。
【0074】
活物質層の多孔度は、活物質層の見かけ密度に対する活物質層の真密度の百分率である。活物質層の見かけ密度は、活物質層の平均厚さ、面積及び質量から算出される。活物質層の真密度は、活物質層を構成する各成分の真密度及び含有量から算出される。
【0075】
なお、例えば後述する蓄電素子の製造方法において、正極合剤又は負極合剤の加圧成型により正極活物質層又は負極活物質層を形成する際、あるいは正極活物質層と隔離層と負極活物質層とを加圧によりする際に、高い圧力でさらには高温下で行うことなどにより、多孔度の低い活物質層を形成することができる。
【0076】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子として、以下、全固体蓄電素子の一形態である全固体電池を具体例に挙げて説明する。図1の蓄電素子10は、全固体電池であり、正極1と負極2とが隔離層3を介して配置された二次電池である。正極1は、正極基材4及び正極活物質層5を有し、正極基材4が正極1の最外層となる。負極2は、負極基材7及び負極活物質層6を有し、負極基材7が負極2の最外層となる。図1に示す蓄電素子10においては、負極基材7上に、負極活物質層6、隔離層3、正極活物質層5及び正極基材4がこの順で積層されている。蓄電素子10における正極1及び負極2の少なくとも一方が、本発明の一実施形態に係る電極である。
【0077】
(正極)
正極1は、正極基材4と、この正極基材4に直接又は中間層を介して配される正極活物質層5とを備える。本発明の一実施形態において、正極1に本発明の一実施形態に係る電極が用いられる場合、正極1の正極基材4及び正極活物質層5の具体的形態及び好適形態は、本発明の一実施形態に係る電極に備わる基材(正極基材)及び活物質層(正極活物質層)として上記した通りである。
【0078】
本発明の他の実施形態として、負極2に本発明の一実施形態に係る電極が用いられている場合、正極1は従来公知の正極であってもよい。
【0079】
(負極)
負極2は、負極基材7と、この負極基材7に直接又は中間層を介して配される負極活物質層6とを備える。本発明の一実施形態において、負極2に本発明の一実施形態に係る電極が用いられる場合、負極2の負極基材7及び負極活物質層6の具体的形態及び好適形態は、本発明の一実施形態に係る電極に備わる基材(負極基材)及び活物質層(負極活物質層)として上記した通りである。
【0080】
本発明の他の実施形態として、正極1に本発明の一実施形態に係る電極が用いられている場合、負極2は従来公知の負極であってもよい。負極活物質層6は、金属リチウム箔又はリチウム合金箔であってもよい。
【0081】
(隔離層)
隔離層3は、通常、固体電解質を含有する。隔離層3に含有される固体電解質としては、上記した従来公知の固体電解質を用いることができ、硫化物系固体電解質が好ましい。隔離層3における固体電解質の含有量としては、70質量%以上が好ましく、90質量以上%がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましいこともある。
【0082】
隔離層3には、固体電解質の他、酸化物、ハロゲン化合物、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分が含有されていてもよい。バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、活物質層中の成分として例示した材料から選択できる。
【0083】
隔離層3の平均厚さとしては、1μm以上200μm以下が好ましく、3μm以上100μm以下がより好ましい。隔離層3の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極1と負極2とを確実性高く絶縁することが可能となる。隔離層3の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10のエネルギー密度を高めることが可能となる。
【0084】
<蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、従来公知の方法により製造することができる。上記した全固体電池である蓄電素子10の場合、例えば(1)正極合剤を用意すること、(2)隔離層用材料を用意すること、(3)負極合剤を用意すること、及び(4)正極、隔離層及び負極を積層することを備える。
【0085】
(1)正極合剤用意工程
本工程では、通常、正極活物質層を形成するための正極合剤が作製される。正極合剤の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、正極合剤の材料のメカニカルミリング処理、正極合剤の材料の圧縮成形等が挙げられる。正極合剤が、正極活物質と固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程は、例えばメカニカルミリング法等を用いて正極活物質と固体電解質とを混合し、正極活物質と固体電解質との混合物又は複合体を作製することを含むことができる。
【0086】
(2)隔離層用材料用意工程
本工程では、通常、隔離層を形成するための隔離層用材料が作製される。隔離層用材料は、通常、固体電解質とすることができる。隔離層用材料としての固体電解質は、従来公知の方法で作製することができる。例えば、所定の材料をメカニカルミリング法により処理して得ることができる。溶融急冷法により所定の材料を溶融温度以上に加熱して所定の比率で両者を溶融混合し、急冷することにより隔離層用材料を作製してもよい。その他の隔離層用材料の合成方法としては、例えば減圧封入して焼成する固相法、溶解析出などの液相法、気相法(PLD)、メカニカルミリング後にアルゴン雰囲気下で焼成することなどが挙げられる。
【0087】
(3)負極合剤用意工程
本工程では、通常、負極活物質層を形成するための負極合剤が作製される。負極合剤の具体的作製方法は、正極合剤と同様である。
【0088】
(4)積層工程
本工程では、例えば、正極基材及び正極活物質層を有する正極、隔離層、並びに負極基材及び負極活物質層を有する負極が積層される。本工程では、正極、隔離層及び負極をこの順に順次形成してもよいし、この逆であってもよく、各層の形成の順序は特に問わない。上記正極は、例えば正極基材及び正極合剤を加圧成型することにより形成され、上記隔離層は、隔離層用材料を加圧成型することにより形成され、上記負極は、負極基材及び負極合剤を加圧成型することにより形成される。正極基材、正極合剤、隔離層材料、負極合剤及び負極基材を一度に加圧成型することにより、正極、隔離層及び負極が積層されてもよい。正極及び負極をそれぞれ予め成形し、隔離層と加圧成型して積層してもよい。
【0089】
<蓄電装置>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0090】
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子10が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子10を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子10の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0091】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0092】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な全固体電池の場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。例えば、本発明に係る蓄電素子については、正極、隔離層及び負極以外のその他の層を備えていてもよい。正極、隔離層及び負極の各構造も上記した構造に限定されるものではない。
【0093】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]
正極活物質には、LiNbOが表面に付着した粒子状のLiNi1/2Co1/5Mn3/10を用いた。正極活物質におけるLiNbOの含有量は、1質量%であった。以下の手順で、正極合剤ペーストを調製した。第1導電剤である導電剤A(直径130nmから170nm)と、第2導電剤である導電剤D(直径1nmから2nm)と、バインダであるSBRの酪酸ブチル溶液とを混合し、この混合物に、硫化物系固体電解質(LiPSCl)と上記の正極活物質とを加え、自転公転ハイブリッドミキサーにより混練した。次いで、上記混合物に酪酸ブチルを加え、固形分を調整することで、正極合剤ペーストを得た。
なお、各成分の使用量は、正極合剤ペースト中の固形分を基準とした含有量、すなわち形成される正極活物質層中の含有量として、正極活物質が78.0質量%、固体電解質が20.0質量%、導電剤の合計が1.0質量%、バインダが1.0質量%となるように調整した。また、第1導電剤と第2導電剤との質量比は6:4となるようにした。
得られた正極合剤ペーストを正極基材であるアルミニウム箔(平均厚さ20μm)上に、YBA型ベーカーアプリケーターを用いて形成される正極活物質層の目付が15mg・cm-2以上25mg・cm-2以下となるように塗工した。これを100℃のアルゴン雰囲気の乾燥機内で乾燥させることで、正極基材上に正極活物質層を形成した。これを直径10mmの円形に打ち抜いて評価用の正極とした。
次に、内径10mmのセラミックス製粉体成型器に、硫化物系固体電解質(LiPSCl)を80mg挿入し、100MPaの圧力で数秒間、一軸プレスにより加圧成型し、隔離層を形成した。圧力解放後、隔離層の一方の面に、作製した上記正極を正極活物質層が隔離層に対向するように積層して、160℃の温度下、360MPaで5分間、一軸プレスにより加圧した。圧力解放後、正極の積層面とは反対側の面に、負極としてインジウム箔(平均厚さ300μm、直径8mm、ニラコ)及びリチウム箔(平均厚さ300μm、直径6mm、本城金属)、並びに負極基材としてSUS316箔(ニラコ)を積層して、50MPaの圧力で数秒間、一軸プレスにより加圧した。これをセラミックス製粉体成型器から取り出すことで、実施例1の蓄電素子(全固体電池)を得た。得られた蓄電素子における正極活物質層の多孔度は、11.3%であった。なお、正極合剤ペーストの調製から蓄電素子の作製までの作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行った。
【0095】
[実施例2から4、比較例1から6]
正極活物質層中の含有量が表1に記載の値となるように表1に記載の導電剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2から4及び比較例1から6の各蓄電素子を作製した。
【0096】
なお、表1中の導電剤AからEは、以下の通りである。
導電剤A:繊維状の導電剤、気相成長法によって得られたCNT(昭和電工「VGCF」)
導電剤B:繊維状の導電剤、MWCNT(シグマアルドリッチ製品番号901019)
導電剤C:繊維状の導電剤、MWCNT(シグマアルドリッチ製品番号698849)
導電剤D:繊維状の導電剤、SWCNT
導電剤E:粒子状の導電剤、アセチレンブラック
【0097】
導電剤Aの直径は、130nmから170nmの範囲であり、第1導電剤に該当した。
導電剤Bの直径は、50nmから90nmの範囲であり、第1導電剤及び第2導電剤のいずれにも該当しなかった。
導電剤Cの直径は、6nmから13nmの範囲であり、第2導電剤に該当した。
導電剤Dの直径は、1nmから2nmの範囲内であり、第2導電剤に該当した。
【0098】
[比較例6]
正極活物質層中の含有量が表1に記載の値となるように表1に記載の導電剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6の蓄電素子の作製を試みたが、導電剤が凝集し、良好な正極合剤ペーストが得られず、塗工できなかったため、蓄電素子の作製を中止した。
【0099】
(1)容量確認試験
得られた各蓄電素子について、50℃の温度下で、以下の要領で容量確認試験を行った。
充電電流0.1C、充電終止電圧3.75Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.025Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.1C、放電終止電圧2.25Vとして定電流放電を行った。その後、10分間の休止期間を設けた。
次いで、充電電流0.1C、充電終止電圧3.75Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.025Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流3C、放電終止電圧2.25Vとして定電流放電を行った。
初回の充放電の放電電流0.1Cでの放電容量、及び高率放電性能として放電電流0.1Cでの放電容量に対する放電電流3Cでの放電容量の百分率を求めた。結果を表1に示す。
【0100】
(2)充放電サイクル試験
次いで、各蓄電素子について、50℃の温度下で、以下の要領で充放電サイクル試験を行った。
充電電流0.2C、充電終止電圧3.75Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。その後、放電電流0.2C、放電終止電圧2.25Vとして定電流放電を行った。充電後及び放電後には、それぞれ10分間の休止時間を設けた。この充放電を50サイクル実施した。50サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除し、容量維持率を求めた。測定結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示されるように、2種類の繊維状の導電剤を含むものの、第1導電剤及び第2導電剤のうちの一方を含まない電極を備える比較例1、2の各蓄電素子は、放電容量が小さかった。導電剤として粒子状の導電剤のみを含む電極を備える比較例3の蓄電素子は、容量維持率が低かった。第1導電剤及び第2導電剤のうちの一方と粒子状の導電剤を含む電極を備える比較例4、5の各蓄電素子は、高率放電性能が低かった。導電剤として直径の大きい第1導電剤のみを含む電極を備える比較例6の蓄電素子は、放電容量も小さく、高率放電性能も低かった。また、上述のように、導電剤として直径の小さい第2導電剤のみを用いた比較例6では、導電剤の分散状態が良好な正極を得ることができなかった。一方、第1導電剤及び第2導電剤の双方を含む電極を備える実施例1から4の各蓄電素子は、放電容量が大きく(173.0mAh/g以上)、高率放電性能に優れ(77.0%以上)、充放電サイクル後の容量維持率も高い(97.0%以上)ものであった。また、用いた繊維状の導電剤AからDは、いずれも長さが約5μmから約20μmの範囲のものであり、繊維長の影響は小さいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される蓄電素子、及びこれに備わる電極などに適用できる。
【符号の説明】
【0104】
1 正極
2 負極
3 隔離層
4 正極基材
5 正極活物質層
6 負極活物質層
7 負極基材
10 蓄電素子(全固体電池)
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2