(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167249
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】軽量低温適合圧力容器
(51)【国際特許分類】
F17C 3/04 20060101AFI20231116BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20231116BHJP
B32B 1/02 20060101ALI20231116BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231116BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20231116BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
F17C3/04 A
F17C1/06
B32B1/02
B32B15/08 105Z
B32B5/28 A
F16J12/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078286
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】内藤 公喜
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
4F100
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA04
3E172BB03
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC04
3E172BC07
3E172BC08
3E172BD03
3E172CA11
3E172CA20
3E172CA22
3E172DA03
3E172DA04
3E172DA36
3E172EA03
3E172EB03
3J046AA20
3J046BA03
3J046BA08
3J046BD09
3J046CA02
3J046CA04
3J046DA05
4F100AB04A
4F100AB10A
4F100AB31A
4F100AC10C
4F100AC10E
4F100AD11C
4F100AD11E
4F100AG00C
4F100AG00E
4F100AK01C
4F100AK01E
4F100AK47C
4F100AK47E
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100CB00B
4F100DA01
4F100DG00C
4F100DG00E
4F100DH02C
4F100DH02E
4F100DJ01D
4F100JG04B
4F100JG04C
4F100JJ02D
(57)【要約】
【課題】液体水素タンクに用いて好適な、真空断熱構造のような断熱性が得られると共に、軽量化の利点を有する軽量低温適合圧力容器を提供すること。
【解決手段】低温流体又は圧縮気体等の流体を、低温で貯蔵することができる軽量低温適合圧力容器であって、貯蔵空間102を囲むステンレス鋼製またはアルミ合金製の内部圧力容器104と、内部圧力容器104とその外側の層との熱膨張による応力を吸収し、かつ絶縁性を有する延性接着剤層112、内部圧力容器104とのガルバニック腐食を確実に回避するための絶縁性のファイバー補強プラスチック層114、軽量で強度を確保する第2のファイバー補強プラスチック層116、貯蔵空間102への熱の伝達を抑止する高断熱発泡剤層118、発泡剤層118の外部からの衝撃を回避する第3のファイバー補強プラスチック層120が一体に巻装されているものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温流体又は圧縮気体等の流体を、低温で貯蔵することができる軽量低温適合圧力容器であって、
貯蔵空間を囲む、ステンレス鋼製またはアルミ合金製の内部圧力容器と、
前記内部圧力容器を囲み、前記内部圧力容器とその外側の層との熱膨張による応力を吸収し、かつ絶縁性を有する延性接着剤層と、
前記延性接着剤層を囲み、前記内部圧力容器とのガルバニック腐食を確実に回避するための絶縁性のファイバー補強プラスチック層と、
前記絶縁性のファイバー補強プラスチック層を囲み、軽量で強度を確保する第2のファイバー補強プラスチック層と、
前記第2のファイバー補強プラスチック層を囲んで、貯蔵空間への熱の伝達を抑止する発泡剤層と、
前記発泡剤層を囲み、発泡剤層の外部からの衝撃を回避する第3のファイバー補強プラスチック層が一体に巻装されていることを特徴とする軽量低温適合圧力容器。
【請求項2】
前記内部圧力容器が、前記第2及び第3のファイバー補強プラスチック層と発泡剤層で覆われるサンドイッチ構造を有する、請求項1に記載の軽量低温適合圧力容器。
【請求項3】
前記延性接着剤層が、前記内部圧力容器の膨張/収縮のために曲がるように構成される、請求項1又は2に記載の軽量低温適合圧力容器。
【請求項4】
熱の伝達を抑止するために、真空断熱構造を併用した手段を更に含む、請求項1乃至3の何れかに記載の軽量低温適合圧力容器。
【請求項5】
前記絶縁性のファイバー補強プラスチック層は、バサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)の何れか1つを用いる、請求項1乃至4の何れかに記載の軽量低温適合圧力容器。
【請求項6】
前記第2のファイバー補強プラスチック層は、バサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)、若しくは、カーボンファイバー補強プラスチック層(CFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP/CFRP)の何れか1つを用いる、請求項1乃至5の何れかに記載の軽量低温適合圧力容器。
【請求項7】
前記第3のファイバー補強プラスチック層は、バサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)、若しくは、カーボンファイバー補強プラスチック層(CFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP/CFRP)の何れか1つを用いる、請求項1乃至6の何れかに記載の軽量低温適合圧力容器。
【請求項8】
前記軽量低温適合圧力容器は、液体水素タンクとして使用されるものであって、耐圧の基準値が70MPaよりも低圧に定められている、請求項1乃至7の何れかに記載の軽量低温適合圧力容器。
【請求項9】
前記耐圧の基準値は、40MPa、25MPa、または10MPaの何れかである請求項8に記載の軽量低温適合圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車載用に用いて好適な、軽量化と断熱性を両立した液体水素タンクに用いて好適な軽量低温適合圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
水素社会の実現では、エネルギ密度の高い液体水素が重要であり、気体水素タンクから液体水素タンクに研究開発が移行しており、例えば特許文献1、2が提案されている。特許文献1では、内部圧力容器として繊維強化樹脂マトリックスを備える軽量複合材料製であるため、製造コストが金属製に比較して高額になるという課題があった。また、真空断熱層を設けた構造であった。
特許文献2では、内部圧力容器としてステンレス内装タンクと強化繊維巻き付けされた管体GPI高圧管の二重タンク構造となっており、ステンレス内装タンクと管体GPI高圧管の間に真空断熱層を設けることで、断熱性能を高めている。しかし、特許文献2では、70MPaの物質透過性の高い高圧水素ガスの密封性能を確保するために、液体水素タンクが4本必要な構造であるため、製造コストが高額になるという課題があった。
なお、液体水素タンクは大型商用車であるバス・トラック用としてドイツが先行開発(ステンレス製)している。
【0003】
航空機への展開(航空機の電動化)ではタンクの重量、極低温環境での材料活用に課題がある。個人用自動車への展開ではタンクの重量、極低温環境での材料活用および液体水素のボイルオフの課題がある。
また、例えば特許文献3に示すように、液体水素タンクの軽量化のために、樹脂材料とガラス繊維強化樹脂複合材料の積層板構造であって、底部に金属片を有する構造も提案されているが、積層板構造では真空断熱構造のような断熱性が得られないという課題があった。
【0004】
図4は、従来の気体水素タンクに用いられる真空断熱構造の一例を示す構成断面図である。
従来の気体水素タンクは、圧力容器400として、貯蔵室402、内部圧力容器404、二重殻接合部405、端部開口部406、端部肉厚部407、外側容器408、真空断熱層410を備えている。
貯蔵室402は、例えば高圧の気体水素ガスを貯蔵する領域で、温度範囲は液体水素温度(20K)から貯蔵室402が圧縮水素で満たされた際に起こる高温まで(400Kまで)広い温度範囲にわたる。貯蔵室402は、例えば、高圧の気体水素ガスを使用する軽量車両用貯蔵の応用例では、通常、250リットルの外部体積中に5kgのH
2を貯蔵した場合、例えば70MPa(700bar)までの動作圧力を有する。高圧の気体水素ガスを70MPa(700bar)としているのは、液体水素と気体水素の体積変化が約800倍であることと、液体水素タンクのエネルギ密度が70MPaの気体水素タンクの1.1倍であることを考慮している。
【0005】
内部圧力容器404は、高い比強度を有する軽量で剛性の構造であると共に、燃料貯蔵空間102内部からの高圧(圧縮気体のため)に耐えるように構成され、車両の応用例において、重量が圧力容器で決定的に重要である点に配慮している。内部圧力容器404は、液体水素温度(-253℃)と常温との間の断熱を可能とすると共に、耐圧70MPaを許容する構造体が必要であるため、水素ガスの遮蔽性能と低温脆性の高い例えばSUS316材やクロム・ニッケル鋼主体の2層ステンレス鋼などからなる薄肉の高圧容器に内装するタンクとしている。
外側容器408は、多層断熱材の効率的な動作に必要な容器の周りの真空を維持するために動作する。外側容器408では、多層真空超断熱層で断熱される。多層真空超断熱層は、圧力が0.01Pa(7.5×10-5mmHg)より低い高真空下において、優れた熱特性を示す。
内部圧力容器404と外側容器408は、70MPaに安全に耐えなければならないため、非常に強固な構造になっている。外側容器408には、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP:carbon fiber reinforced plastic)を用いるとよいが、それでも重量が重くなっている。
【0006】
端部開口部406は、貯蔵室402に液体水素を出し入れするための開口部で、内部圧力容器404の端部に設けられている。端部肉厚部407は、端部開口部406の管壁面となる肉厚部である。二重殻接合部405は、端部肉厚部407に設けられるもので、例えば、内部圧力容器404の端部開口部406側の端部と外側容器408の端部が、例えば溶接を用いて接合されるもので、真空断熱層410の真空状態を維持するような密封構造となっている。
真空断熱層410は、貯蔵室402への熱伝達を抑止する働きをする。真空断熱層410に用いられる断熱材としては、低温動作の際に貯蔵空間への熱伝達を減少させる外部真空多層断熱材を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4815129号
【特許文献2】特開2018-66426号
【特許文献3】特開平1-299400号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、液体水素タンクの軽量化のために、内部圧力容器として繊維強化樹脂マトリックスを備える軽量複合材料を用いた構造が、特許文献3で提案されているが、積層板構造のみでは真空断熱構造のような断熱性が得られないという課題があった。
特許文献2では、ステンレスやアルミ合金の薄板と炭素繊維強化樹脂複合材料(CFRP)を用いた構造と真空断熱(最外層がステンレスやアルミ合金の薄板)を併用した構造が提案されているが、軽量化(比重)の利点が少ないという課題があった。
また、
図4に示す従来構造では、低温液体又は圧縮気体を低温で貯蔵するとき、真空断熱構造では時間の経過とともに真空断熱性能が低下するという課題があった。真空断熱構造では真空度が低下し、性能が悪くなるのを防止するため、例えば真空状態を維持する電子顕微鏡(TEM,SEM等)のように、真空状態を維持するため真空ポンプを常時稼働する必要がある。
本発明はこのような課題を解決するもので、液体水素タンクに用いて好適な、真空断熱構造のような断熱性が得られると共に、軽量化の利点を有する軽量低温適合圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕本発明の軽量低温適合圧力容器は、例えば
図1に示すように、低温流体又は圧縮気体等の流体を、低温で貯蔵することができる軽量低温適合圧力容器であって、貯蔵空間102を囲むステンレス鋼製またはアルミ合金製の内部圧力容器104と、内部圧力容器104を囲み、内部圧力容器104とその外側の層との熱膨張による応力を吸収し、かつ絶縁性を有する延性接着剤層112、延性接着剤層112を囲み、内部圧力容器104とのガルバニック腐食を確実に回避するための絶縁性のファイバー補強プラスチック層114、絶縁性のファイバー補強プラスチック層114を囲み、軽量で強度を確保する第2のファイバー補強プラスチック層116、ファイバー補強プラスチック層116を囲んで、貯蔵空間102への熱の伝達を抑止する高断熱発泡剤層118、発泡剤層118を囲み、発泡剤層118の外部からの衝撃を回避する第3のファイバー補強プラスチック層120が一体に巻装された軽量低温適合圧力容器である。
このように構成された装置においては、低温液体又は圧縮気体を低温で貯蔵するとき、真空断熱構造のように時間とともに真空断熱性能が低下することなく、低温断熱を維持することができる。また、内部圧力容器104は絶縁性を有する接着剤層112およびファイバー補強プラスチック層114で被覆されており、運用時の塩イオン等の介入によるガルバニック腐食を確実に防止している。
【0010】
〔2〕本発明の軽量低温適合圧力容器〔1〕において、好ましくは、例えば
図1に示すように、内部圧力容器104が、第2及び第3のファイバー補強プラスチック層(116、120)と発泡剤層118で覆われるサンドイッチ構造を有するとよい。
〔3〕本発明の軽量低温適合圧力容器〔1〕又は〔2〕において、好ましくは、前記延性接着剤層が、前記内部圧力容器の膨張/収縮のために曲がるように構成されるとよい。
〔4〕本発明の軽量低温適合圧力容器〔1〕~〔3〕において、熱の伝達を抑止するために、真空断熱構造を併用した手段を更に含むとよい。この場合、真空断熱構造には、真空度が低下する場合でも、真空度を回復できるように、真空ポンプを常時稼働させる構造とするとよい。
〔5〕本発明の軽量低温適合圧力容器〔1〕~〔4〕において、好ましくは、絶縁性のファイバー補強プラスチック層114は、バサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)の何れか1つを用いるよい。
〔6〕本発明の軽量低温適合圧力容器〔1〕~〔5〕において、好ましくは、第2のファイバー補強プラスチック層116は、バサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)、若しくは、カーボンファイバー補強プラスチック層(CFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP/CFRP)の何れか1つを用いるとよい。
〔7〕本発明の軽量低温適合圧力容器〔1〕~〔6〕において、好ましくは、第3のファイバー補強プラスチック層120は、バサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)、若しくは、カーボンファイバー補強プラスチック層(CFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP/CFRP)の何れか1つを用いるとよい。
〔8〕本発明の軽量低温適合圧力容器〔1〕~〔7〕において、好ましくは、前記軽量低温適合圧力容器は、液体水素タンクとして使用されるものであって、耐圧の基準値が70MPaよりも低圧に定められているとよい。
〔9〕本発明の軽量低温適合圧力容器〔8〕において、好ましくは、前記耐圧の基準値は、40MPa、25MPa、または10MPaの何れかであるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の軽量低温適合圧力容器によれば、多層積層板構造でありながら真空断熱構造のような断熱性が得られると共に、軽量化の利点を有する軽量低温適合圧力容器を提供できる。
また、本発明の軽量低温適合圧力容器を液体水素タンクとして使用する場合、液体水素タンクは気体水素タンクのように高圧の耐圧性能を常時確保する必要性はなく、断熱性を確保すれば、耐圧が70MPaよりも低圧なタンクとすることが可能であるため、CFRPの使用量を気体水素タンクよりも少なくすることができ、軽量かつ低コストで製造できるタンクとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例を示すサンドイッチ構造の液体水素タンクの構成断面図である。
【
図2】本発明の比較例を示す積層板構造の液体水素タンクの構成断面図である。
【
図3】熱計算に用いるモデルと式(3層)の説明図である。
【
図4】従来の気体水素タンクに用いられる真空断熱構造の一例を示す構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例を示すサンドイッチ構造の液体水素タンクの構成断面図である。
図1に示す液体水素タンクは、圧力容器100として、貯蔵空間102、内部圧力容器104、端部開口部106、端部肉厚部107、接着剤層112、絶縁ファイバー補強プラスチック層(FRP:fiber reinforced plastic)114、ファイバー補強プラスチック層(FRP)116、発泡剤層118、ファイバー補強プラスチック層(FRP)120を備えている。
貯蔵空間102は、例えば液体水素を貯蔵する領域で、温度範囲は液体水素温度(20K)から貯蔵空間102が圧縮水素で満たされた際に起こる高温まで(100Kまで)広い温度範囲にわたる。貯蔵空間102は、例えば、液体水素を使用する軽量車両用貯蔵の応用例では、通常、250リットルの外部体積中に5kgのH
2を貯蔵した場合、例えば70MPa(700bar)までの動作圧力を有する。
【0014】
内部圧力容器104は、高い比強度を有する軽量で剛性の構造であると共に、燃料貯蔵空間102内部からの高圧(圧縮気体のため)に耐えるように構成され、車両の応用例において、重量が圧力容器で決定的に重要である点に配慮している。内部圧力容器104は、液体水素温度(-253℃)と常温との間の断熱を可能とすると共に、耐圧70MPaを許容する構造体が必要であるため、水素ガスの遮蔽性能と低温脆性の高い例えばSUS316材やクロム・ニッケル鋼主体の2層ステンレス鋼・アルミ合金などからなる薄肉の高圧容器に内装するタンクとしている。
端部開口部106は、貯蔵室102に液体水素を出し入れするための開口部で、内部圧力容器104の端部に設けられている。端部肉厚部107は、端部開口部106の管壁面となる肉厚部である。
【0015】
接着剤層112は、例えば、内部圧力容器104の端部開口部106側の端部とファイバー補強プラスチック層(FRP)114、116の端部を、例えば接着剤を用いて接合する層である。
接着剤としては、例えばウレタン、シリコン、ポリビニルブチラール樹脂系の延性のある接着剤層が得られる材料を用いるとよい。接着剤層112の厚みは、例えば0.06~2mmが好ましく、更に好ましくは0.5~2mmであり、最も好ましくは1~2mmとするとよい。0.05mmより薄いと内部圧力容器104とその外側の層との熱膨張による応力を吸収できず剥がれを生ずると共に、ガルバニック腐食を防止するのに必要な絶縁性が確保できない。2mmよりも厚いと、接着剤の使用量が増加して、製造コストが高騰すると共に、硬化迄の時間がかかる。
【0016】
ファイバー補強プラスチック層(FRP)114、116は、接着剤層112を介して、内部圧力容器104の外周面に巻装されるもので、内部圧力容器104の周面強度を補強する。また、ファイバー補強プラスチック層(FRP)114は、延性接着剤層112を囲み、内部圧力容器104とのガルバニック腐食を確実に回避するための絶縁性を備えている。
ファイバー補強プラスチック層(FRP)114には、例えばバサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)の何れか1つを用いるとよい。絶縁性を確保する為、導電性のあるカーボンファイバー補強プラスチック層(CFRP)、またはカーボンファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP/CFRP)は用いられない。
ファイバー補強プラスチック層(FRP)114の厚みは、タンクの大きさや強度等設計指針に依存して定めるとよい。
【0017】
ファイバー補強プラスチック層(FRP)116は、絶縁性のファイバー補強プラスチック層114を囲み、軽量で強度を確保するものである。ファイバー補強プラスチック層(FRP)116には、例えばバサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)若しくは、カーボンファイバー補強プラスチック層(CFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP/CFRP)の何れか1つを用いるとよい。
ファイバー補強プラスチック層(FRP)114の厚みは、タンクの大きさや強度等設計指針に依存して定めるとよい。
【0018】
発泡剤層(断熱層)118は、貯蔵空間102への熱伝達を抑止する働きをする。発泡剤層(断熱層)118に用いられる断熱材としては、低温動作の際に貯蔵空間への熱伝達を減少させる多孔質断熱材を含むもので、発泡剤層とすることでファイバー補強プラスチック層(FRP)116、120の隙間が充填される。
発泡剤としては、例えばウレタン、プロピレン、フェノール、スチレン、イソシアネート、オール樹脂系の材料を用いるとよい。発泡倍率としては15~60倍が好ましい。また、発泡剤層はハニカムコアを均等概念として含むものであり、例えばアルミ合金、アラミドファイバー補強プラスチック、ペーパー製ハニカムコアやコルゲートコアでもよい。
発泡剤層(断熱層)118の厚みは、例えば15~25mmが好ましく、更に好ましくは15~20mmであり、最も好ましくは15~18mmとするとよい。14mmより薄いと、内部圧力容器104への熱の伝達を抑止する高断熱性が確保できない。25mmよりも厚いと、液体水素タンクの外形寸法が大型化して収納空間に制限のある車載用には向かない。
【0019】
ファイバー補強プラスチック層(FRP)120は、多孔質断熱材の外部からの衝撃を回避するために設けられる。ファイバー補強プラスチック層(FRP)120では、多孔質断熱層で断熱され、優れた熱特性を示す。
ファイバー補強プラスチック層(FRP)120には、例えばバサルトファイバー補強プラスチック層(BFRP)、ガラスファイバー補強プラスチック層(GFRP)、アラミドファイバー(AFRP)を含むポリマーファイバー補強プラスチック層(PFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP)若しくは、カーボンファイバー補強プラスチック層(CFRP)、または上記のファイバー補強プラスチックの複合材料層(BFRP/GFRP/AFRP/PFRP/CFRP)の何れか1つを用いるとよい。
ファイバー補強プラスチック層(FRP)120の厚みは、タンクの大きさや強度等設計指針に依存して定めるとよい。
【0020】
図2は、本発明の比較例を示す積層板構造の液体水素タンクの構成断面図である。
図2に示す液体水素タンクは、圧力容器200として、貯蔵空間202、内部圧力容器204、端部開口部206、端部肉厚部207、接着剤層212、ファイバー補強プラスチック層(FRP)214を備えている。
なお、貯蔵空間202、内部圧力容器204、端部開口部206、端部肉厚部207、接着剤層212、ファイバー補強プラスチック層(FRP)214は、それぞれ貯蔵空間102、内部圧力容器104、端部開口部106、端部肉厚部107、接着剤層112、ファイバー補強プラスチック層(FRP)114、116、120と同様なので、説明を省略する。
【0021】
このように構成された装置における熱伝導状態について説明する。
図3は、熱計算に用いるモデルと式(3層)の説明図である。
内部圧力容器の金属材料として、ステンレス又はアルミ合金の場合における、真空断熱構造(
図4に示す比較例)を取り上げる。ここでは、ステンレスおよびアルミ合金の真空断熱構造で内部温度が-253℃、外部温度が10℃であるとし、また真空断熱構造では、熱輻射や端部での熱伝導の影響で0.02[W/m・K]程度の熱伝導率があるものとした。貯蔵室壁面の全体厚みは、サンドイッチ構造(
図1に示す実施例)、積層板構造(
図2に示す比較例)共に、真空断熱構造(
図4に示す比較例)と同じ厚みに固定しており、ここでは25mmとしている。また、熱量Qについても、真空断熱構造と同じである。
【0022】
上記の条件で、各構造での有効熱伝導率、見かけの比重、外部温度(内部温度は-253℃)を求めた。伝熱面積Aは1とした。
【数1】
【数2】
【0023】
実施例1 (内部圧力容器の金属材料がステンレスの場合)
真空断熱構造(
図4に示す比較例)
ステンレス(熱伝導率kは80[W/m・K]、比重8g/cm
3)
図3において、層lAはステンレス層で、厚み10mmであり、層lBは真空断熱層で、厚み10mm,層lCはステンレス層であり、厚み5mmである。
k(有効熱伝導率)は0.05[W/m・K]、見かけの比重は4.8g/cm
3となる。
【0024】
積層板構造(
図2に示す比較例)
接着剤(熱伝導率k0.3[W/m・K]、比重1.2g/cm
3)、FRP(熱伝導率k0.6[W/m・K]、比重1.5g/cm
3)
層lAはステンレス層で、厚み2mm、層lBは接着剤層で、厚み1mm、層lCはFRP層で、厚み22mm
k(有効熱伝導率)は0.62[W/m・K]、見かけの比重は2.0g/cm
3、外部温度は-232℃となる。
【0025】
サンドイッチ構造(
図1に示す実施例)
発泡剤(コア材)(熱伝導率k0.03[W/m・K]、比重0.05g/cm
3)
層lAはステンレス層で、厚み2mm、層lBは接着剤層で、厚み1mm,層lCはFRP層で、厚み5mm、層lDは発泡剤層で、厚み15mm、層lEはFRP層で、厚み2mmである。
k(有効熱伝導率)は0.05[W/m・K]、見かけの比重は1.1g/cm
3、外部温度は18℃となる。
【0026】
積層板構造では軽量化効果は58%であるが、断熱効果は非常に小さい。
サンドイッチ構造では軽量化効果は76%で、かつ、同一熱量だと真空断熱より高い温度を維持できる。断熱性に優れている。
【0027】
実施例2 (内部圧力容器の金属材料がアルミ合金の場合)
真空断熱構造(
図4に示す比較例)
アルミ合金(熱伝導率k240[W/m・K]、比重2.8g/cm
3)
層lAはアルミ合金層で、厚み10mm、層lBは真空断熱層であり、厚み10mm、層lCはアルミ合金層で、厚み5mmである。
k(有効熱伝導率)は0.05[W/m・K]、見かけの比重は1.7g/cm
3となる。
【0028】
積層板構造(
図2に示す比較例)
接着剤(熱伝導率k0.3[W/m・K]、比重1.2g/cm
3)、CFRP(熱伝導率k0.6[W/m・K]、比重1.5g/cm
3)
層lAはアルミ合金層で、厚み2mm、層lBは接着剤層で、厚み:1mm、層lCはFRP層で、厚み22mm
k(有効熱伝導率)は0.62[W/m・K]、見かけの比重は1.6g/cm
3、外部温度は-232℃となる。
【0029】
サンドイッチ構造(
図1に示す実施例) 発泡剤(コア材)(熱伝導率k0.03[W/m・K]、比重0.05g/cm
3)
層lAはアルミ合金層で、厚み2mm、層lBは接着剤層で、厚み:1mm、層lCはFRP層で、厚み:5mm、lD(発泡剤層):15mm、lE(FRP層):2mm
k(有効熱伝導率)は0.05[W/m・K]、見かけの比重は0.7g/cm
3、外部温度は18℃となる。
【0030】
積層板構造では軽量化効果は5%で、かつ、断熱効果は非常に小さい。
サンドイッチ構造では軽量化効果は57%で、かつ、同一熱量だと真空断熱より高い温度を維持できる。断熱性に優れている。
【0031】
本発明の軽量低温適合圧力容器を液体水素タンクとして使用する場合、液体水素タンクは気体水素タンクのように高圧の耐圧性能を常時確保する必要性はなく、断熱性を確保すれば、耐圧が70MPaよりも低圧なタンクとすることが可能である。耐圧が70MPaよりも低圧であるので、
図4に示す気体水素タンクと比較して、CFRPを多く使用する必要性がなく、軽量かつ低コストで製造できるタンクとなる。低圧と言っても、ある程度は圧力に耐えうる構造が必要で、本発明の軽量低温適合圧力容器を液体水素タンクに適用する場合、耐圧の基準値がコストを含めた設計に依存する部分である。
耐圧の基準値は、40MPa、25MPa、または10MPaの何れかとするのがよいが、これに限定されず、70MPaよりも低圧であれば他の適宜の数値を用いても良い。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の軽量低温適合圧力容器によれば、液体水素タンクに用いて好適であり、例えば航空機(水素燃焼航空機や電動化航空機)、トラック、バス等の商用自動車だけでなく個人用自動車にも適用できるが、これに限定されず、更に、船舶や液体水素所蔵基地タンクに用いて好適である。
【符号の説明】
【0034】
100、200、400 圧力容器
102、202、402 貯蔵空間
104、204、404 内部圧力容器
106、206、406 端部開口部
107、207、407 端部肉厚部
112、212 (延性)接着剤層
114、214 ファイバー補強プラスチック層(FRP)
116 第2のファイバー補強プラスチック層(FRP)
118 発泡剤層
120 第3のファイバー補強プラスチック層(FRP)
405 二重殻接合部
408 外側容器
410 真空断熱層