(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167263
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】部材、アクチュエータ、及び形状記憶部材
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20231116BHJP
F03G 7/06 20060101ALI20231116BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20231116BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20231116BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231116BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08L83/04
F03G7/06 D
C08K5/053
C08K5/16
C08K3/04
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078312
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】宇都 甲一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 育夢
(72)【発明者】
【氏名】ジェン シャオヤン
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP031
4J002DA037
4J002DA077
4J002DF017
4J002DM007
4J002EC016
4J002EN016
4J002FD140
4J002FD206
4J002FD207
(57)【要約】 (修正有)
【課題】再プログラム特性を有するメカニカルメタマテリアルとして利用できる、新規な材料で構成された部材を提供する。
【解決手段】部材であって、シリコーンゴムと、25℃~100℃の融点を有する脂肪族化合物と、光熱変換粒子とを含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムと、
25℃~100℃の融点を有する脂肪族化合物と、
光熱変換粒子と、を含む部材。
【請求項2】
前記シリコーンゴムが、ポリジメチルシロキサン構造を含む、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記脂肪族化合物が、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族カルボン酸、及び脂肪族炭化水素からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の部材。
【請求項4】
前記脂肪族化合物が、直鎖の脂肪族ジオールである、請求項3に記載の部材。
【請求項5】
前記脂肪族化合物が、1,10-デカンジオールである、請求項4に記載の部材。
【請求項6】
前記脂肪族化合物の融点が、50℃~80℃である、請求項1~5のいずれか1項に記載の部材。
【請求項7】
前記光熱変換粒子が、窒化チタン、炭素、及び金属からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~6のいずれか1項に記載の部材。
【請求項8】
前記光熱変換粒子が、窒化チタンである、請求項7に記載の部材。
【請求項9】
前記光熱変換粒子の平均粒子径が、20~100nmである、請求項1~8のいずれか1項に記載の部材。
【請求項10】
前記シリコーンゴムに対する、前記脂肪族化合物の比率が、10質量%~50質量%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の部材。
【請求項11】
前記シリコーンゴムに対する、前記光熱変換粒子の比率が、1質量%以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の部材。
【請求項12】
前記部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、照射部のヤング率(Ya)が、非照射部のヤング率(Yb)よりも低くなる、請求項1~11のいずれか1項に記載の部材。
【請求項13】
前記非照射部のヤング率(Yb)に対する、前記照射部のヤング率(Ya)の比率(Ya/Yb)が、0.1~0.2である、請求項12に記載の部材。
【請求項14】
前記光の照射による前記照射部のヤング率の低下が可逆的である、請求項12又は13に記載の部材。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の前記部材を有する、アクチュエータ。
【請求項16】
前記アクチュエータは、付与されたエネルギーを動作に変換する部品であり、
前記エネルギーを前記アクチュエータに付与する前に、前記部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、前記アクチュエータの動作をプログラム、及び/又は再プログラムできるように構成されている、請求項15に記載のアクチュエータ。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか1項に記載の前記部材を有する、形状記憶部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材、アクチュエータ、及び形状記憶部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工的に作り出した特殊な幾何学構造により、新たな物理特性が導入された材料がメカニカルメタマテリアルと呼ばれ関心を集めている(例えば、非特許文献1~4)。メカニカルメタマテリアルは、負のポアソン比、軽量かつ高い剛性、高いエネルギー吸収特性、方向性を有する捻じれ、形状転移を示すなど様々な力学的機能を創出することが可能であり、医療用デバイス、構造材料、衣服のデザイン等に活用されている。また、メカニカルメタマテリアルは、現在盛んに研究が行われている3Dプリンタなどの積層造形技術との相性も良い。材料だけでなく構造によって機能のデザインが可能であるということは、既存の材料の性能を大きく向上させるポテンシャルを有する。
【0003】
一方、本発明者らは、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)をベースとした形状記憶ポリマーの開発を進めており、形状記憶ポリマーの複数の形状変化(特許文献1)や、パーマネント形状の書き換え(特許文献2)等、分子デザインに基づく材料の機能化について報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Materials & Design 198, 109313 (2021)
【非特許文献2】Material & Design 211, 110178 (2021)
【非特許文献3】Science 344, 1373 (2014)
【非特許文献4】Nature 589, 386-390 (2021)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-046481号公報
【特許文献2】国際公開第2021/200532号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のメカニカルメタマテリアルでは、その機能や動きが単に構造によって規定されるため、一つの材料で複数の機能や動きを達成することは困難であった。この様な背景から、材料構造によりプログラムされたメカニカルメタマテリアルの機能や動きを再プログラム(リプログラム)できる新しい技術の開発が強く求められている。
【0007】
本発明者らは、形状記憶ポリマーが有する、外部刺激に応答して弾性率や形状を変化させる特性をメカニカルメタマテリアルの設計に活用できるのではないかという、新規な発想に着眼した。しかし、従来の形状記憶ポリマーでは、メカニカルメタマテリアルに応用した場合に、十分なリプログラム特性を得られなかった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものである。即ち、本発明は、再プログラム特性を有するメカニカルメタマテリアルとして利用できる、新規な材料で構成された部材を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0010】
[1] シリコーンゴムと、
25℃~100℃の融点を有する脂肪族化合物と、
光熱変換粒子と、を含む部材。
[2] 前記シリコーンゴムが、ポリジメチルシロキサン構造を含む、[1]に記載の部材。
[3] 前記脂肪族化合物が、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族カルボン酸、及び脂肪族炭化水素からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]又は[2]に記載の部材。
[4] 前記脂肪族化合物が、直鎖の脂肪族ジオールである、[3]に記載の部材。
[5] 前記脂肪族化合物が、1,10-デカンジオールである、[4]に記載の部材。
[6] 前記脂肪族化合物の融点が、50℃~80℃である、[1]~[5]のいずれかに記載の部材。
[7] 前記光熱変換粒子が、窒化チタン、炭素、及び金属からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]~[6]のいずれかに記載の部材。
[8] 前記光熱変換粒子が、窒化チタンである、[7]に記載の部材。
[9] 前記光熱変換粒子の平均粒子径が、20nm~100nmである、[1]~[8]のいずれかに記載の部材。
[10] 前記シリコーンゴムに対する、前記脂肪族化合物の比率が、10質量%~50質量%である、[1]~[9]のいずれかに記載の部材。
[11] 前記シリコーンゴムに対する、前記光熱変換粒子の比率が、1質量%以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の部材。
[12] 前記部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、照射部のヤング率(Ya)が、非照射部のヤング率(Yb)よりも低くなる、[1]~[11]のいずれかに記載の部材。
[13] 前記非照射部のヤング率(Yb)に対する、前記照射部のヤング率(Ya)の比率(Ya/Yb)が、0.1~0.2である、[12]に記載の部材。
[14] 前記光の照射による前記照射部のヤング率の低下が可逆的である、[12]又は[13]に記載の部材。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載の前記部材を有する、アクチュエータ。
[16] 前記アクチュエータは、付与されたエネルギーを動作に変換する部品であり、
前記エネルギーを前記アクチュエータに付与する前に、前記部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、前記アクチュエータの動作をプログラム、及び/又は再プログラムできるように構成されている、[15]に記載のアクチュエータ。
[17] [1]~[14]のいずれかに記載の前記部材を有する、形状記憶部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、再プログラム特性を有するメカニカルメタマテリアルとして利用できる、新規な材料で構成された部材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】実施形態の部材を含むアクチュエータ(第1実施形態、実施例6)を説明する図、及び写真である。
【
図1B】実施形態の部材を含むアクチュエータ(第1実施形態、実施例6)を説明する別の図、及び別の写真である。
【
図2A】実施形態の部材を含むアクチュエータ(第2実施形態、実施例7)の基本ユニットを説明する図である。
【
図2B】実施形態の部材を含むアクチュエータであって、
図2Aに示す基本ユニットから構成される、平面的なアクチュエータ(第2実施形態、実施例7)を説明する図である。
【
図2C】実施形態の部材を含むアクチュエータであって、
図2Aに示す基本ユニットから構成される、平面的なアクチュエータ(第2実施形態、実施例7)を説明する別の図である。
【
図2D】実施形態の部材を含むアクチュエータであって、
図2Aに示す基本ユニットから構成される、円筒状アクチュエータ(第2実施形態、実施例7)を説明する図である。
【
図2E】実施例7における、円筒状アクチュエータの動きを説明する図、及び写真である。
【
図2F】実施例7における、円筒状アクチュエータの動きを説明する別の図、及び別の写真である。
【
図3A】実施形態の部材を含むアクチュエータ(第3実施形態、実施例8)を説明する図である。
【
図3B】実施形態の部材を含むアクチュエータであって、
図2Aに示す基本ユニットから構成される、円筒状アクチュエータ(第3実施形態、実施例8)を説明する図である。
【
図3C】実施例8における、円筒状アクチュエータの動きを説明する図、及び写真である。
【
図3D】実施例8における、円筒状アクチュエータの動きを説明する別の図、及び別の写真である。
【
図4A】実施形態の部材を含むアクチュエータ(第4実施形態、実施例9)を説明する図、及び写真である。
【
図4B】実施例9における、アクチュエータが平坦な面上を移動する様子を示す写真である。
【
図4C】実施例9における、アクチュエータが凹凸面(砂利が敷かれた面)上を移動する様子を示す写真である。
【
図5】実施例1~5で作製した試料の1軸引張試験の結果である、応力-歪み曲線を示す図である。
【
図6】
図5に示す応力-歪み曲線から求めた、実施例1~5で作製した試料のヤング率を示す図である。
【
図7】実施例1~5で作製した試料の熱分析結果(DSC曲線)を示す図である。
【
図8】実施例1~5で作製した試料の形状記憶特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を奏する範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。このことは、各化合物についても同義である。
【0015】
[部材]
本実施形態の部材は、シリコーンゴムと、25℃~100℃の融点を有する脂肪族化合物(以下、適宜、「特定脂肪族化合物」と記載する)と、光熱変換粒子とを含む。詳細は後述するが、本実施形態の部材は、その一部に特定波長を含む光が照射されると、照射部の物性(例えば、弾性率)が変化する。そして、この照射部の物性の変化は可逆的である。この特性を利用することにより、本実施形態の部材は、再プログラム特性を有するメカニカルメタマテリアルとして機能でき、更に、アクチュエータに応用できる。また、本実施形態の部材は、形状記憶能を有し、形状記憶部材としても利用できる。
【0016】
シリコーンゴム(シリコーンラバー)は、架橋構造を有し、ゴム状性質を有するポリシロキサン構造を主成分とする樹脂であれば特に制限はない。通常、シリコーンゴムは、シリコーンゴム前駆体であるポリシロキサン及び/又はその誘導体を架橋することによって製造される。シリコーンゴムは、2次元状のシロキサン結合(D単位)を主体とするため弾性、柔軟性を有する。この点が、3次元状のシロキサン結合(T単位)を主体とするため、架橋密度が高く固いシリコーンレジンと異なる。また、シリコーンゴムは当然に室温で固体であり、この点、室温で液体のシリコーンオイルと異なる。シリコーンゴムの種類は特に限定されず、例えば、以下のものが挙げられる。ジメチルシリコンゴム(MQ)、ビニルメチルシリコンゴム(VMQ)、フルオロビニルメチルシリコンゴム(FVMQ)、フェニルビニルメチルシリコンゴム(PVMQ)。中でも、シリコーンゴムとしては、ポリジメチルシロキサン構造を含むポリマーが、十分な柔軟性と適度な機械強度を併せ持つため、駆動部(可動部)を有するアクチュエータへの利用に適している。
【0017】
シリコーンゴムは、1種類の前駆体(ポリシロキサン及び/又はその誘導体)の架橋物であってもよいし、2種類以上の前駆体の架橋物であってもよい。シリコーンゴムは、シリコーンゴム前駆体(主剤)を架橋剤によって架橋させた架橋物であってもよい。この場合、シリコーンゴムは、架橋剤由来の構造(又は成分)を含んでいてもよい。更に、シリコーンゴムは、必要に応じて汎用の添加剤を含有していてもよい。
【0018】
部材中における、シリコーンゴムの割合は、特に限定されないが、例えば、65質量%~95質量%、又は70質量%~80質量%としてよい。シリコーンゴムの割合が上記範囲内であれば、シリコーンゴムは、その内部に特定脂肪族化合物及び光熱変換粒子が分散するマトリックスとして機能できる。シリコーンゴムの割合が上記範囲内であれば、部材は弾性体の性質を保持でき、アクチュエータとして利用可能な十分な柔軟性と適度な機械強度を有することができる。
【0019】
特定脂肪族化合物は、25℃~100℃の融点を有し、好ましくは50~80℃の融点を有する。特定脂肪族化合物の融点が上記範囲の下限値以上であれば、部材の一部に光を照射した場合に、光の照射部と非照射部との物性のコントラスト(相違)を明確にでき、また、融点が上記範囲の上限値以下であれば、光の照射によって照射部の物性を十分に変化させることができる。したがって、特定脂肪族化合物の融点が上記範囲内であれば、部材は、メカニカルメタマテリアルとして十分なリプログラム特性を得られる。
【0020】
特定脂肪族化合物の種類は、上記範囲内の融点を有していれば特に限定されない。特定脂肪族化合物において、炭素原子は、直鎖、分枝、又は非芳香環(脂環式と呼ぶ)を形成してよく、脂肪族化合物は、飽和化合物であってもよいし、不飽和化合物であってもよい。また、特定脂肪族化合物において、炭素鎖には水素以外にも、酸素、窒素、硫黄、又は塩素等のハロゲン、等のヘテロ原子が結合していてもよい。特定脂肪族化合物の水素原子は、ヒドロキシ基(-OH)、アルデヒド基(-CHO)、カルボキシ基(-COOH)、アミノ基(-NH2)等の官能基により置換されてもよい。
【0021】
シリコーンゴムへの分散性を高める観点から、特定脂肪族化合物は、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族カルボン酸、又は脂肪族炭化水素であってもよく、好ましくは、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族カルボン酸、又は脂肪族炭化水素であってもよく、より好ましくは、脂肪族アルコールであってよい。
【0022】
同様にシリコーンゴムへの分散性を高める観点から、特定脂肪族化合物は、飽和した直鎖構造を有することが好ましい。即ち、特定脂肪族化合物は、置換又は無置換の直鎖の飽和脂肪族炭化水素が好ましい。置換基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等が挙げられる。即ち、特定脂肪族化合物は、直鎖の飽和脂肪族アルコール、直鎖の飽和脂肪族アミン、直鎖の飽和脂肪族カルボン酸、直鎖の無置換飽和脂肪族炭化水素であってよい。一分子中の置換基の数は、例えば、0~2個、又は1個~2個であってよい。特定脂肪族化合物(置換又は無置換の直鎖の飽和脂肪族炭化水素)の炭素数は、例えば、5個~30個の範囲から、それの融点が上述の特定範囲内となるように適宜選択してよい。
【0023】
直鎖の飽和脂肪族アルコールとしては、例えば、炭素数12~20の第1級モノアルコール、炭素数6~20のα,ω-ジオールを用いてもよい。α,ω-ジオールとしては、具体的には、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,15-ペンタデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,17-ヘプタデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,19-ノナデカンジオール、1,20-イコサンジオール等が挙げられ、中でも、1,10-デカンジオールが好ましい。
【0024】
直鎖の飽和脂肪族カルボン酸としては、例えば、炭素数10~20個のモノカルボン酸、炭素数5個のジカルボン酸(グルタル酸)を用いてもよい。また、直鎖の無置換飽和脂肪族炭化水素は、その炭素数が、例えば、17~30個であってもよい。
【0025】
特定脂肪族化合物は、単一の化合物であってもよいし、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0026】
本実施形態の部材において、シリコーンゴムに対する、特定脂肪族化合物の比率は、特に限定されないが、例えば、10~50質量%としてよい。特定脂肪族化合物の比率が上記範囲内であると、部材は、メカニカルメタマテリアルとして十分なリプログラム特性を得られる。
【0027】
更に、本実施形態では、以下に説明するように、部材の使用用途に応じて、特定脂肪族化合物の比率を適宜調整してよい。
例えば、特定脂肪族化合物の比率が高い程、部材に光を照射した場合の照射部と非照射部との物性(例えば、弾性率)の差は大きくなる傾向がある(後述する
図6参照)。照射部と非照射部の物性の差が大きい程、少ないエネルギーで大きく動くアクチュエータを作製し易い。この観点から、シリコーンゴムに対する特定脂肪族化合物の比率は、例えば、40~50質量%が好ましい。
【0028】
一方で、アクチュエータの種類によっては、照射部と非照射部の物性差はそれ程大きくなくとも十分に駆動可能であり、また、部材の機械的強度等を考慮した場合、主材料であるシリコーンゴムに添加する特定脂肪族化合物の比率は少ない方が好ましい。このような観点から、シリコーンゴムに対する特定脂肪族化合物の比率は、例えば、10~20質量%が好ましい。
【0029】
また、本実施形態の部材は、形状記憶能を有し、形状記憶部材としても利用できる。形状記憶部材としての利用を想定した場合、シリコーンゴムに対する特定脂肪族化合物の比率は、10質量%~50質量%が好ましく、形状固定能力と形状回復能力とのバランスを考慮した場合、30質量%~40質量%がより好ましい。
【0030】
更に、形状記憶能(特に形状回復能力)が高いということは、本実施形態の部材をメカニカルメタマテリアルとして用いた場合に、一旦、プログラムした動作をリセットして初期状態に回復する能力が高く、再プログラム特性に優れると言える。したがって、本実施形態の部材が、メカニカルメタマテリアルとしての優れた再プログラム特性と、形状記憶部材としての形状記憶特性とを兼ね備えるという観点から、シリコーンゴムに対する特定脂肪族化合物の比率は、例えば、30~40質量%が好ましい。
【0031】
光熱変換粒子は、光エネルギーを熱エネルギーに変換する粒子である。本実施形態の部材では、照射された光のエネルギーを光熱変換粒子が熱エネルギーに変換し、この熱エネルギーによって部材の物性(例えば、弾性率)が変化する。
【0032】
光熱変換粒子の材料は、部材の用途等に応じて適宜選択してよい。光熱変換粒子としては、例えば、窒化チタン等のセラミック;カーボンブラック等の炭素(炭素材料);金、銀等の金属が挙げられる。例えば、窒化チタン、カーボンブラックは、吸収波長範囲が紫外~可視~赤外と広いため、これらを用いれば部材に照射する光の波長の選択域も広がる。また、多くの光エネルギーを吸収できるため、高い熱エネルギーを得られる。一方で、金や銀は、吸収する光の波長範囲が比較的狭いため(金ナノ粒子:500~600nm、銀ナノ粒子:400nm付近)、これらを用いれば、特定の波長の光(例えば、レーザー光)に対してのみに応答して物性が変化する部材を得ることができる。また、金ナノ粒子、又は銀ナノ粒子は、その粒子形状を変化させることで吸収波長を調整することもできる。例えば、ロッド状の金ナノ粒子、及び銀ナノ粒子は、可視光領域だけでなく(近)赤外領域にも吸収を示す。
【0033】
また、光熱変換粒子は、シリコーンゴムへの分散性が高い方が、均一に分散して高い光熱変換効率を得られるため好ましい。この観点から、光熱変換粒子は、窒化チタンが好ましい。また、光熱変換粒子は、シリコーンゴムへの分散性が向上するように表面処理が施されたものであってもよい。また、光熱変換粒子は、一種類の粒子から構成されてもよいし、2種類以上の粒子の混合物であってもよい。
【0034】
光熱変換粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、20nm~100nmが好ましい。平均粒子径がこの範囲であれば、シリコーンゴムに対して、より均一に分散でき、部材作製中(材料硬化中)における粒子の沈降を抑制できる。光熱変換粒子の平均粒子径は、例えば、TEM観察により10個程度の粒子の粒子径を測定し、その算術平均としてよい。
【0035】
尚、本実施形態の部材は、部材に光を照射する代わりに、部材を加熱しても、その物性を変化させることができる。しかし、部材の特定部分のみを選択的に加熱し、選択的に物性を変化させることは、極めて困難である。特に、部材の形状が複雑になる程、また、部材における物性を変化させたい領域の配置パターンが複雑になる程、難易度が高くなる。本実施形態の部材は、光熱変換粒子を含有することにより、本課題を解決するに至った。本実施形態の部材は、光熱変換粒子を含有することで、熱ではなく、光を用い、光の照射部の物性を選択的に変更できる。これにより、例えば、アクチュエータの複雑な動きのプログラミング、及び/又は再プログラミングが可能となる。
【0036】
本実施形態の部材において、シリコーンゴムに対する、光熱変換粒子の比率は、特に限定されないが、1質量%以下、0.05質量%~1質量%、又は0.1質量%~0.5質量%としてよい。光熱変換粒子の比率が上記範囲内の下限値以上であると、光照射により、部材は十分な熱エネルギーを得ることができる。一方で、光熱変換粒子の比率が高すぎると、部材表面で光が吸収されてしまい、部材内部まで光が届かずに内部が加熱されない(熱エネルギーが得られない)虞がある。この観点から、光熱変換粒子の比率は、上記範囲内の上限値以下であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の部材は、シリコーンゴム、特定脂肪族化合物、及び光熱変換粒子のみから構成されていてもよし、本実施形態の部材の効果を奏する範囲において、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。本実施形態の部材における、その他の化合物の割合は、例えば、0質量%、5質量%以下、または1質量%以下としてもよい。
【0038】
[部材の製造方法]
本実施形態の部材の製造方法は特に限定されず、例えば、以下に説明する方法により製造してもよい。
【0039】
まず、部材の形状に対応した、所定形状のキャビティを有する成型用モールドを用意する(ステップS1)。成型用モールドは、例えば、3Dプリンタにより製造してもよい。3Dプリンタは複雑な形状を製造可能であるため、3Dプリンタを用いれば、複雑な形状のアクチュエータ用の金型を容易に製造できる。
【0040】
次に、シリコーンゴム前駆体であるポリシロキサン及び/又はその誘導体(主剤)と、その硬化剤と、特定脂肪族化合物と、光熱変換粒子と、必要に応じて、その他の添加剤とを混合して混合物を得る(ステップS2)。混合物を成型用モールドのキャビティ内で硬化させ、所定形状の部材が得られる(ステップS3)。混合物は、室温で所定時間放置することにより硬化してもよいし、加熱することにより硬化してもよい。
【0041】
[アクチュエータへの応用]
<部材の特徴>
本実施形態の部材は、その一部に特定波長を含む光が照射されることにより、照射部の物性(例えば、弾性率)が変化する。この効果のメカニズムは、以下のように推察される。特定波長とは、部材に含まれる光熱変換粒子が吸収可能な光の波長である。部材に照射された光のエネルギーは、光熱変換粒子により熱エネルギーに変換される。この熱エネルギーにより、照射部の温度が上昇し、特定脂肪族化合物の融点を超えると、特定脂肪族化合物が溶融して液体となる。これにより、照射部の物性が変化する。そして、液化した特定脂肪族化合物は直ちに凝固することはないため、部材への光照射を中断しても、照射部の変化した物性は一定時間維持される。即ち、部材へ光を照射し続ける必要はない。
一方で、照射部の物性の変化は可逆的である。例えば、一定時間、室温で放置する、又は室温若しくはそれ以下の温度に冷却すること等により、溶融した特定脂肪族化合物が再び凝固して固体にもどると、照射部の物性も光照射前の物性に戻る。この特性を利用することにより、本実施形態の部材は、再プログラム特性を有するメカニカルメタマテリアルとして機能でき、更に、アクチュエータに応用できる。尚、以上説明したメカニズムは推定であり、本発明の範囲の解釈に何ら影響を与えない。
【0042】
本実施形態の部材は、光熱変換粒子を含有しているため、光照射により物性を変化させることができる。このため、照射部(物性の変化した領域)を部材内に比較的自由に配置でき、部材をアクチュエータとして用いた場合に、アクチュエータに複雑な動きをプログラム、及び/又は再プログラムできる。
【0043】
例えば、光照射部では、弾性率の一種であるヤング率が変化する。部材の一部に特定波長を含む光が照射されることにより、照射部のヤング率Yaが非照射部のヤング率Ybよりも低くなってもよい。即ち、非照射部と比較して、照射部が柔らかく、伸びやすく、変形し易い性質を得てもよい。例えば、非照射部のヤング率Ybに対する、照射部のヤング率Yaの比率(Ya/Yb)が、0.05~0.3、又は0.1~0.2であってもよい。比率(Ya/Yb)がこの範囲であれば、部材は後述するアクチュエータとして十分に駆動することができる。
【0044】
<アクチュエータ>
以上説明した特徴を有する部材を含むアクチュエータについて、以下に説明する。アクチュエータとは、付与されたエネルギーを動作に変換する部品である。本実施形態のアクチュエータは、エネルギーをアクチュエータに付与する前に、部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、アクチュエータの動作をプログラム、又は、再プログラムできる。
尚、以下のアクチュエータの説明に用いる
図1A~
図4Aは、後述する実施例におけるシミュレーション結果等を示す図である。
【0045】
(1)アクチュエータの第1実施形態
図1Aに、上述の部材により構成されている、棒状(梁、ビーム)のアクチュエータ100を示す。通常、均一な物性(弾性率)を有する材料で構成されている棒状のアクチュエータ100に、それの延在方向(
図1Aに示す、方向ED)に沿って単軸荷重をかけた場合、アクチュエータ100の屈曲する方向を予測することは困難である。本実施形態では、アクチュエータ100に所定波長を含む光を照射することで、この屈曲方向をプログラム、及び/又は再プログラムできる。
【0046】
所定波長を含む光を照射する前のアクチュエータ(部材)100は、ヤング率Ybを有する。まず、アクチュエータ100の延在方向EDと直交する方向(左右方向)における一方側(
図1Aの左側)に、所定波長を含む光を照射する。これにより、アクチュエータ100の一方側(
図1Aの左側)にヤング率Ybよりも低いヤング率Yaを有する照射部100Aが形成される。他方側(
図1Aの右側)は、ヤング率Ybを有する非照射部100Bとなる。
【0047】
次に、アクチュエータ100にエネルギー(
図1A中に示す矢印方向の単軸荷重)を付与する。これにより、アクチュエータ100は、ヤング率の高い100B側(
図1Aの右側)に凸となるよう屈曲する。
【0048】
また、
図1Bには、光を照射する位置を変更したアクチュエータ100を示す。
図1Bでは、アクチュエータ100の延在方向と直交する方向(左右方向)における他方側(
図1Bの右側)に所定波長を含む光を照射する。次に、
図1Aと同様のエネルギー(
図1B中に示す矢印方向の単軸荷重)をアクチュエータ100に付与すると、アクチュエータ100は、
図1Aとは逆に、
図1Bの左側に凸となるよう屈曲する。これは、低いヤング率Yaを有する照射部100Aが、アクチュエータ100の右側に形成されるためである。
【0049】
このように、同一の材料及び構造を有するアクチュエータ100に対して、光を照射する位置(照射部100Aの位置)を変更することで、アクチュエータ100の動作を変化させることができる。即ち、本実施形態では、エネルギー(
図1A及び
図1B中に示す矢印方向の単軸荷重)をアクチュエータ100に付与する前に、部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、アクチュエータ100の動作(左側に屈曲、又は右側に屈曲)をプログラムできる。
【0050】
本実施形態のアクチュエータ100はシリコーンゴムを含む弾性体であるため、アクチュエータ100にかけている荷重(エネルギー)を開放すると、元の形状(延在方向EDに延びている状態)に復元する。単軸荷重の付与及び開放を連続して繰り返すと、それに追随して、アクチュエータ100は、屈曲及び復元を繰り返すことができる。
【0051】
また、光照射による照射部100Aのヤング率の変化(低下)は可逆的であり、例えば、室温で所定時間放置することにより、元の値に戻る。したがって、アクチュエータ100にかけている荷重(エネルギー)を開放して、室温で所定時間放置することにより、アクチュエータ100は、光照射前の状態に戻ることができる。そして、再度、部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、アクチュエータ100の動作(左方向に屈曲、又は右側に屈曲)を再プログラムできる。
【0052】
(2)アクチュエータの第2実施形態
図2Aに、上述の部材により構成されているアクチュエータ200と、その基本ユニット200uを示す。基本ユニット200uは、2本の棒状の駆動部200aと、連結部200bと、連結部200cとを有する。2本の駆動部200aは、それらの延在方向(
図2Aに示す、方向ED)の一方の端(上端)同士、他方の端(下端)同士が、それぞれ、連結部200bにより連結されている。即ち、2本の駆動部200aと、2本の連結部200bとにより、矩形の枠組みが形成されている。更に、駆動部200aの延在方向における中心部からは、他の基本ユニット200uと連結するための連結部200cが、該矩形の枠組みの外側に向かって、それぞれ伸びている。アクチュエータ200は、基本ユニット200uが延在方向ED、及び延在方向と直交する方向(
図2Aの左右方向)に連結された、平面的な構造を有する。
【0053】
所定波長を含む光を照射する前のアクチュエータ(部材)200は、ヤング率Ybを有する。まず、
図2Bに示すように、基本ユニット200uの矩形の枠組みにおいて、2本の駆動部200aの外側に光を照射する。これにより、アクチュエータ200の各ユニット200uには、矩形の枠組みの外側に比較手的低いヤング率Yaを有する照射部100Aが形成され、矩形の枠組みの内側に比較的高いにヤング率Ybを有する非照射部100Bが形成される。
【0054】
次に、アクチュエータ200に、延在方向(
図2Aに示す、方向ED)に沿って単軸荷重を付与する。これにより、アクチュエータ200の駆動部200aは、ヤング率の高い200B側(矩形の枠組みの内側)に凸となるよう屈曲し、結果として、各ユニット200uの矩形の枠組みが縮む(枠組みの内部面積が小さくなる)変形が生じる。
【0055】
また、
図2Cには、光を照射する位置を変更したアクチュエータ200を示す。
図2Cでは、基本ユニット200uの矩形の枠組みにおいて、2本の駆動部200aの内側に光を照射する。次に、
図2Bと同様のエネルギー(
図2C中に示す矢印方向の力)をアクチュエータ200に付与すると、アクチュエータ200の駆動部200aは、
図2Bとは逆に、矩形の枠組みの外側に凸となるよう屈曲し、結果として、各ユニット200uの矩形の枠組みが広がる(枠組みの内部面積が大きくなる)変形が生じる。これは、低いヤング率Yaを有する照射部200Aが、枠組みの内側に形成されるためである。
【0056】
このように、同一の材料及び構造を有するアクチュエータ200に対して、光を照射する位置(照射部200Aの位置)を変更することで、アクチュエータ200の動作を変化させることができる。即ち、本実施形態では、エネルギー(
図2B及び
図2C中に示す矢印方向の力)をアクチュエータ200に付与する前に、部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、アクチュエータ200の動作(各ユニット200uの矩形の枠組みが縮む、又は広がる)をプログラムできる。
【0057】
本実施形態のアクチュエータ200は、アクチュエータ200にかけている荷重(エネルギー)を開放すると、元の形状に復元する。したがって、
図2Bに示すアクチュエータでは、単軸荷重の付与及び開放を連続して繰り返すと、それに追随して、各ユニット200uの矩形の枠組みの縮小及び復元を繰り返すことができる。
図2Cに示すアクチュエータでは、単軸荷重の付与及び開放を連続して繰り返すと、それに追随して、各ユニット200uの矩形の枠組みの拡大及び復元を繰り返すことができる。
【0058】
また、光照射による照射部200Aのヤング率の変化(低下)は可逆的であるため、例えば、アクチュエータ100にかけている単軸荷重(エネルギー)を開放して、照射部200Aのヤング率Yaが光照射前の値Ybに戻った後に、再度、部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、アクチュエータ200の動作を再プログラムできる。
【0059】
次に、
図2Dに示すアクチュエータ210について説明する。アクチュエータ210は、在方向EDに沿って延在する円筒状のアクチュエータであり、平面的な構造のアクチュエータ200の延在方向EDと直交する方向における端部を連結したものである。
【0060】
まず、状態(A)のアクチュエータ210の各基本ユニット200uの矩形の枠組みにおいて、2本の駆動部200aの外側に光を照射し、照射部200Aを形成する。次に、アクチュエータ210に、延在方向(
図2Dに示す、方向ED)に沿って単軸荷重を付与すると、アクチュエータ210は、延在方向EDに延びる中線に向かって収縮する(
図2Dの状態(B))。
【0061】
光照射による照射部200Aのヤング率の変化(低下)は可逆的である。このため、例えば、アクチュエータ210にかけている負荷を開放し、室温で所定時間放置することにより、アクチュエータ210の形状及びヤング率共に、光を照射する前の状態に復元する(状態(A´))。
【0062】
次に、状態(A´)のアクチュエータ210の各基本ユニット200uの矩形の枠組みにおいて、2本の駆動部200aの内側に光を照射し、照射部200Aを形成する。次に、状態(A)を状態(B)と変化させたときと同様のエネルギー(単軸荷重)をアクチュエータ210に付与する。すると、アクチュエータ210は、延在方向EDに延びる中線を中心として外側に膨らむ(
図2Dの状態(C))。
【0063】
更に、アクチュエータ210にかけている負荷を開放し、例えば、室温で所定時間放置することにより、アクチュエータ210は、再び状態(A)に復元する。
【0064】
以上説明したように、本実施形態では、エネルギー(単軸荷重)をアクチュエータ210に付与する前に、部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、アクチュエータ210の動作(円筒形のアクチュエータ210が中線に向かって縮む、又は膨らむ)をプログラム、又は再プログラムできる。
【0065】
(3)アクチュエータの第3実施形態
図3Aに、第1実施形態で用いたものと同じ、アクチュエータ(部材)100を示す。第1実施形態では、比較的低いヤング率Yaを有する照射部100Aと、比較的高いヤング率Ybを有する非照射部100Bとは、延在方向EDに沿って均等な割合で配置されている(
図1A及び
図2B)。これに対して、本実施形態では、照射部100Aと、非照射部100Bとの比率が、延在方向EDに沿って変化している。
【0066】
図3Aの左側の図では、低いヤング率Yaを有する照射部100Aの割合が、延在方向における部材の一端(
図3Aの上端)から、他端(
図3Aの下端)に向かって、徐々に少なくなる。また、
図3Aの右側の図では、低いヤング率Yaを有する照射部100Aの割合が、延在方向における部材の一端(
図3Aの上端)から、他端(
図3Aの下端)に向かって、徐々に多くなる。
図3Aに示すようなヤング率の傾斜は、例えば、部材に照射する光の照射角度を制御して部材上の光量を調整することにより、実現できる。
【0067】
第1実施形態と同様のエネルギー(
図3A中に示す矢印方向の力、単軸荷重)をアクチュエータ100に付与すると、
図3Aに示すように、アクチュエータ100は、圧縮に対してねじれを持って屈曲する。このように、アクチュエータ100は、光照射によって、屈曲の方向のみならず、屈曲モードも制御可能である。
【0068】
次に、第3実施形態で用いたものと同じ、アクチュエータ(部材)210において、屈曲モードを制御する例について説明する。
【0069】
図3Bに示す、状態(A1)のアクチュエータ210の駆動部200a(
図2A参照)において、
図3Aの右側の図のようなヤング率の傾斜が得られるように、光を照射して照射部と、非照射部とを形成する。そして、延在方向に沿って単軸荷重を付与すると、アクチュエータ210は、
図3Bにおける上側から見た場合に反時計回りに捻じれが生じる(
図3Bの状態(D))。アクチュエータ210にかけている負荷を開放し、例えば、室温で所定時間放置することにより、アクチュエータ210の形状及びヤング率は、光を照射する前の状態に復元する(
図3Bの状態(A1´))。次に、駆動部200aにおいて、
図3Aの左側の図のようなヤング率の傾斜が得られるように、光を照射して照射部と、非照射部とを形成する。そして、延在方向EDに沿って単軸荷重を付与すると、アクチュエータ210は、
図3Bにおける上側から見た場合に時計回りに捻じれが生じる(
図3Bの状態(E))。更に、アクチュエータ210にかけている負荷を開放し、例えば、室温で所定時間放置することにより、アクチュエータ210は、再び状態(A1)に復元する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態では、エネルギー(単軸荷重)をアクチュエータ210に付与する前に、部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、アクチュエータ210の屈曲モードもプログラム、又は再プログラムできる。
【0071】
(4)アクチュエータの第4実施形態
図4Aに、上述の部材により構成されている、空気圧駆動のアクチュエータ300を示す。アクチュエータ300は、空気圧により任意の方向に回転可能な車輪として機能できる。
【0072】
アクチュエータ300は、4つの円柱状の空洞部が設けられた立方体の形状を有する。まず、
図4Aの上段に示すように、アクチュエータ300の一部に所定波長を含む光を照射し、比較的低いヤング率Yaを有する照射部300Aと、比較的高いヤング率Ybを有する非照射部300Bを形成する。次に、例えばシリンジ等を用いて、アクチュエータ300の空洞部を減圧すると、ヤング率の分布に応じて、4つの空洞部は
図4A上段に示す方向に圧縮される。また、アクチュエータ300の空洞部の減圧を開放すると、アクチュエータ300は弾性体であるため、4つの空隙部は元の形状に復元する。そして、アクチュエータ300の空洞部の減圧、減圧開放(常圧)を連続して繰り返すことで、4つの空隙部は
図4A上段に示す圧縮と、復元とを繰り返し、これにより、アクチュエータ300は、
図4A上段に示す矢印方向に回転(右回転)する。アクチュエータ(車輪)300を平面上に設置すると、アクチュエータ(車輪)300は、
図4Aにおける右方向に移動する。
【0073】
図4A下段には、光を照射する位置を変更したアクチュエータ300を示す。
図4A下段に示すアクチュエータ300では、照射部300Aと非照射部300Bの配置を、
図4A上段の配置と入れ替えている。このため、アクチュエータ300の空洞部の減圧、減圧開放(常圧)を連続して繰り返すと、アクチュエータ300は、
図4A下段に示す矢印方向に回転(左回転)する。アクチュエータ(車輪)300を平面上に設置すると、アクチュエータ(車輪)300は、
図4Aにおける左方向に移動する。即ち、アクチュエータ300において、照射部300Aと、非照射部300Bとの配置を入れ替えると、アクチュエータ(車輪)300の回転の向きは反対(逆回転)となる。
【0074】
このように、同一の材料及び構造を有するアクチュエータ300に対して、光を照射する位置を変更することで、アクチュエータ300の動作を変化させることができる。即ち、本実施形態では、エネルギー(空気圧)をアクチュエータ300に付与する前に、部材の一部に特定波長を含む光を照射することにより、アクチュエータ300の動作(回転方向及び移動方向)をプログラムできる。また、照射部のヤング率の変化(低下)は可逆的であるため、アクチュエータ300の動作を再プログラムすることもできる。
【0075】
以上説明したアクチュエータの実施形態は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせてもよい。
【0076】
また、各実施形態において、アクチュエータ(部材)に照射する光は、部材が吸収して熱エネルギーに変換可能な波長の光を含んでいれば特に限定されず、例えば、レーザー光であってもよいし、LEDやランプ等の光であってもよい。レーザー光を用いる場合、非照射部を覆う遮光用マスク(フォトマスク)等を用いる必要がないため、照射部の位置の設計変更が容易である。一方、LED、ランプ等の光を用いる場合、遮光用マスク等を用いる必要があるが、一度に広い領域を照射できるため、作業時間を短縮できる。遮光用マスクは、例えば、3Dプリンタを用いることで、複雑な形状も作製可能である。
【0077】
[形状記憶部材への応用]
本実施形態の部材はシリコーンゴムを含む弾性体であるため、通常、力を加えて変形させても、加えている力を開放すると元の形状に復元する。しかし、以下に説明する条件において、本実施形態の部材は形状記憶能を発現する。
【0078】
まず、部材に光を照射して部材の温度を特定脂肪族化合物の融点より高くし、その状態で部材に力を加え、部材を変形させる。部材を変形させたまま(部材に力を加えたまま)、部材の温度を特定脂肪族化合物の融点未満まで低下させる。この融点未満の状態で、部材に加えた力を開放させても、部材の変形は維持される。即ち、部材は、一時的な形状(変形)を固定する能力(形状固定能力)を有する。
【0079】
次に、変形を維持している、融点未満の部材に再び光を照射し、部材の温度を融点以上とする。これにより、部材の変形は消失し、部材本来の形状(永久的な形状)が復元される。即ち、部材は、一時的な形状(変形)から永久的な形状に回復する能力(形状回復能力)を有する。
【0080】
この本実施形態の部材の形状記憶能のメカニズムは、以下のように推測される。部材の温度が特定脂肪族化合物の融点未満である場合、本実施形態の部材は、シリコーンゴム(例えば、架橋ポリジメチルシロキサン)の永久的なネットワークが支配的である。シリコーンゴムは弾性体であり、通常、力を加えて変形させても、加えている力を開放すると、元の形状に復元する。しかし、部材に光を照射して部材の温度を特定脂肪族化合物の融点より高くすると、部材内の特定脂肪族化合物が液体となる。この状態で部材に力を加え、部材を変形させ、そのまま(部材に力を加えたまま)、部材の温度を特定脂肪族化合物の融点未満まで低下させる。すると、溶解した特定脂肪族化合物が再び凝固する。これにより、特定脂肪族化合物の可逆ネットワークが形成される。可逆ネットワークが形成された状態で、部材に加えた力を開放しても、可逆ネットワークが、シリコーンゴムの永久ネットワークに蓄えられた荷重を打ち消すため、一時的な形状(変形)を固定することができる。これにより、形状固定能力が発現する。
次に、特定脂肪族化合物の可逆ネットワークが支配的な状態(変形が維持されている状態)の部材に、再び光を照射し、部材の温度を融点以上と、特定脂肪族化合物が溶解し、可逆ネットワークが消滅する。これにより、シリコーンゴムの永久ネットワークが支配的となり、部材の元の形状が復元する。
尚、以上説明したメカニズムは推定であり、本発明の権利範囲に何ら影響を与えない。
【0081】
尚、形状記憶能(特に形状回復能力)が高いということは、本実施形態の部材をメカニカルメタマテリアルとして用いた場合に、一旦、プログラムした動作をリセットして初期状態に回復する能力が高く、再プログラム特性にも優れると言える。
【実施例0082】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0083】
[実施例1]
後述する評価に使用するための試料を作製した。まず、試料の形状に対応したキャビティを有する成型用モールドを、3Dプリンタを用いて作製した。次に、シルガード(登録商標)184(Dow Chemical Company製)の主剤(シリコーンゴム前駆体である、ビニル基末端ポリジメチルシロキサン)及び硬化剤(主剤と硬化剤を10:1の重量比で混合)と、特定脂肪族化合物としての1,10-デカンジオール(東京化成工業株式会社製)と、光熱変換粒子としての窒化チタン粒子(日清エンジニアリング株式会社製、平均粒子径:40nm)とを混合して混合物を得た。混合物において、シリコーンゴム(主剤+硬化剤)に対する、1,10-デカンジオールの比率は10質量%とし、窒化チタン粒子の比率は、0.2質量%とした。また、1,10-デカンジオールは、乳鉢を使用して粉砕した後に他の材料と混合した。つぎに、混合物を成型用モールドのキャビティ内に注ぎ、60℃で24時間焼成して硬化させ、本実施形態の試料を得た。
【0084】
[実施例2]
シリコーンゴムに対する、1,10-デカンジオールの比率を20質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により本実施例の試料を作製した。
【0085】
[実施例3]
シリコーンゴムに対する、1,10-デカンジオールの比率を30質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により本実施例の試料を作製した。
【0086】
[実施例4]
シリコーンゴムに対する、1,10-デカンジオールの比率を40質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により本実施例の試料を作製した。
【0087】
[実施例5]
シリコーンゴムに対する、1,10-デカンジオールの比率を50質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により本実施例の試料を作製した。
【0088】
[比較例1]
1,10-デカンジオール及び窒化チタン粒子を用いなかった以外は、実施例1と同様の方法により本比較例の試料を製造した。即ち、シリコーンゴムのみからなる試料を作製した。
【0089】
<評価>
(1)1軸引張試験
実施例1~5及び比較例1で作製した試料の応力-歪み曲線と、ヤング率とを評価するため、1軸引張試験を行った。試料としては、ドッグボーン型(所謂、ダンベル型)試料を用意した。
【0090】
1軸引張試験は、室温(約20℃)において、電動式試験台(島津製作所製、AG-Xplus-10kN)を用いて、変位速度10mm/min一定で行った。記録された荷重-変位データを用いて、応力-歪み曲線をプロットした。結果を
図5に示す。
図5において、横軸は、試料の延伸前の通常状態の長さL
0に対する、延伸後の長さLの比である延伸比λ=L/L
0、即ち、歪であり、縦軸は応力である。
【0091】
また、100℃に加熱した恒温槽(島津製作所製、TCE-N300)内においても、同様の引張試験を行った。結果を併せて
図5に示す。
【0092】
図5に示すように、シリコーンゴムのみから形成された比較例1の試料(
図5中のPure PDMS)は、室温と100℃において、応力の変化は見られなかった。
一方、実施例1~5の各試料では、室温では硬く(応力:2.08~3.52MPa)、100℃では柔らかくなった(応力:0.27~0.52MPa)。本評価では、実施例1~5の各試料を100℃に加熱することで、疑似的に各試料に光を照射した状態を作り出している。以上の結果から、実施例1~5の各試料において、照射部の物性が変化することが確認できた。
【0093】
次に、
図5における各試料の応力-歪み曲線に基づき、Ogden超弾性材料モデルを用いてフィッティングし、微小歪みにおけるヤング率を算出した。
図6に、シリコーンゴムに対する1,10-デカンジオールの比率(
図6のグラフの横軸)と、ヤング率の関係を示す。
【0094】
シリコーンゴムのみから形成された比較例1の試料(
図6中のPure PDMS)は、室温と100℃において、ヤング率の変化は見られなかった。
一方、実施例1~5の各試料では、室温のヤング率と比較して、100℃のヤング率が低かった。この結果から、光照射により、照射部のヤング率が低下することが確認できた。室温のヤング率に対する、100℃のヤング率の比率は、1/4~1/2で程度であった。
また、シリコーンゴムに対する1,10-デカンジオールの比率が増加するに伴い、室温でのヤング率は増加し、100℃におけるヤング率は減少した。これから、1,10-デカンジオールの比率を高めることで、照射部と、非照射部との剛性差(ヤング率の差)を大きくできることが分かった。
【0095】
(2)熱分析
示差走査熱量計(DSC-60、島津製作所製)を用いて、実施例1~5及び比較例1で作製した各試料のDSC曲線を求めた。
図7に結果を示す。
図7に示すように、実施例1~5のいずれの試料も、76℃付近に吸熱ピークを示した。この吸熱ピークは、1,10-デカンジオールの融解によるものだと推測される。したがって、上述した引張試験において、100℃に加熱した各試料では、内部の1,10-デカンジオールは液体(溶融)状態だったと推測される。また。実施例1~5の試料の吸熱ピークの温度がほぼ同一だったことから、各試料中の1,10-デカンジオールの融解温度は、1,10-デカンジオールの含有量の影響を受けないことがわかった。
一方、シリコーン樹脂(比較例1の試料)は、今回測定した温度範囲において、吸熱ピークを示さなかった。
【0096】
(3)形状記憶特性評価
実施例1~5の形状記憶効果は、犬骨(dog-bone)試料の固定・回復性を用いて評価した。
【0097】
まず、通常状態の長さ(L0)の犬骨試料を温度制御可能な電動テストスタンドに設置した。100℃で10分間加熱した後、ゆっくりと40%歪みまで伸ばした(伸張後の長さをLsとする)。荷重をかけたままの試料を室温まで十分に冷却した後、試験台から取り出した。荷重を解放すると、内部応力により試料は少し収縮し、一時的な長さ(Lt)を維持した。その後、100℃のオーブンで10分間加熱した。加熱すると、各試料は、ほぼ初期形状に戻り、永久的な長さ(Lp)を保つことができる。各試料について、この工程を5回繰り返し、固定度(Rf)、回復度(Rr)の平均値を求めた。固定度(Rf)、回復度(Rr)は、以下の式で与えられる。尚、本評価では、実施例1~5の各試料を100℃に加熱することで、疑似的に各試料に光を照射した状態を作り出している。
【0098】
【0099】
固定度(Rf)は、試料が一時的に形状(変形)を固定する能力(形状固定能力)の程度を示し、回復度(Rr)は、一時的な形状(変形)から永久的な形状に回復する能力(形状回復能力)の程度を示す。
図8に、シリコーンゴムに対する1,10-デカンジオールの比率(
図8の横軸)と、固定度(Rf)及び回復度(Rr)との関係を示す。
【0100】
固定度(Rf)及び回復度(Rr)共に、80%以上の高い水準で推移しており、実施例1~5の試料が高い形状記憶特性(高い形状固定能力及び形状回復能力)を有することが確認できた。
また、固定度(Rf)は、1,10-デカンジオールの比率が向上する程、上昇し、一方で、回復度(Rr)は、1,10-デカンジオールの比率が低下する程、即ち、シリコーンゴムの比率が上昇する程、上昇した。この結果から、形状固定能力は、1,10-デカンジオールの可逆ネットワークが支配的であり、形状回復能力は、シリコーンゴムの永久ネットワークが支配的であることがわかる。
図8から、固定度(Rf)及び回復度(Rr)のバランス、即ち、形状固定能力と形状回復能力とのバランスを考慮した場合、1,10-デカンジオールの比率は、30質量%~40質量%が好ましいと考えられる。
【0101】
[実施例6]
上述の「アクチュエータの第1実施形態」において説明した棒状(梁、ビーム)のアクチュエータ100(
図1A及び
図1B)についてシミュレーションを行った。また、本実施例では、実際にアクチュエータ100を作製して、シミュレーション結果の実証実験も行った。
【0102】
シミュレーションは、COMSOL Inc.製のシミュレーションソフトウェア(COMSOL Multiphysics(登録商標) Ver.5.6)を用いて行った。アクチュエータ100のサイズは、0.4cm×3.2cm×0.4cmとし、材料組成は、実施例3で作製した試料と同一とした。
図6に示す結果から、非照射部100Bのヤング率Ybを2.6MPa、照射部100Aのヤング率Yaを0.4MPaと設定した。また、5%工学歪みが得られるように延在方向EDの単軸荷重を設定して、シミュレーションを行った。
【0103】
シミュレーション結果は、「アクチュエータの第1実施形態」において説明した通りである。アクチュエータ100は、延在方向EDの単軸荷重を付与すると、ヤング率の高い100Bの側に凸となるよう屈曲した。
【0104】
<アクチュエータ100の作製及び駆動>
成型用モールドをアクチュエータ100に対応するものに変更した以外は、実施例3の試料と同様の方法により本実施例のアクチュエータ100を作製した。
【0105】
次に、遮光用マスクを用いて、アクチュエータ100の延在方向EDと直交する方向(左右方向)における一方側のみに光を照射した。光源としては、メタルハライドランプ(380nm~700nmの発光波長を含む)を用いた。これにより、アクチュエータ100の一方側に照射部100Aを形成し、他方側に非照射部100Bを形成した。
図6に示す結果から、非照射部100Bのヤング率Ybは、2.6MPaであり、照射部100Aのヤング率Yaは、0.4MPaと推測される。
【0106】
光照射後、アクチュエータ100に、5%工学歪みが得られるように延在方向EDの単軸荷重を付与した。この結果、シミュレーション結果と同様に、アクチュエータ100は、ヤング率の高い100Bの側に凸となるよう屈曲した(
図1A及び
図1B)。また、単軸荷重の付与及び開放を連続して繰り返したところ、それに追随して、アクチュエータ100は、屈曲及び復元を繰り返すことができた。
【0107】
[実施例7]
上述の「アクチュエータの第2実施形態」において説明した円筒状アクチュエータ210(
図2D)のシミュレーションを行った。また、本実施例では、実際にアクチュエータ210を作製して、シミュレーション結果の実証実験も行った。
【0108】
シミュレーションは、実施例6と同様の計算用ソフトを用いて行った。材料組成は、実施例3で作製した試料と同一とした。
図2Aに示すアクチュエータ200の基本ユニットuの各サイズは、下記の通りとした。
駆動部200aの幅W:0.4cm
駆動部200aの長さ(高さ)h:3.2cm
隣り合う駆動部200a間の距離d:2cm
【0109】
シミュレーションの結果は、「アクチュエータの第2実施形態」において説明した通りである。基本ユニット200uの矩形の枠組みにおいて、駆動部200aの外側にヤング率が低い照射部200Aが配置された場合、延在方向EDの単軸荷重を付与すると、アクチュエータ210は収縮した(
図2Dの状態(B))。一方、駆動部200aの内側にヤング率が低い照射部200Aが配置された場合、延在方向EDの単軸荷重を付与すると、アクチュエータ210は膨らんだ(
図2Dの状態(C))。
【0110】
<アクチュエータ210の作製及び駆動>
まず、平面的な構造のアクチュエータ200(
図2B)を製造した。製造方法は、アクチュエータ200に対応する形状の成型用モールドを用いた以外は、実施例3の試料と同様である。平面的なアクチュエータ200の端部同士を連結して、
図2Dに示す、円筒状アクチュエータ210を得た。
【0111】
次に、遮光用マスク及びメタルハライドランプを用いて、各基本ユニット200uの矩形の枠組みにおいて、駆動部200aの外側に光を照射して照射部200Aを形成した。遮光用マスクは、3Dプリンタで作製したものを用いた。この状態のアクチュエータ210に対して、延在方向EDの単軸荷重を付与した様子を
図2Eの上段に示す。比較のために、
図2Eの下段には、シミュレーション結果を示す。単軸荷重の付与により、アクチュエータ210は、シミュレーション結果と同様に、それの中心(延在方向EDに延びる、円筒の中線)に向かって収縮することが確認できた。
【0112】
アクチュエータ210にかけている負荷を開放し、室温で所定時間放置し、アクチュエータ210の形状及びヤング率を光を照射する前の状態に復元させた。次に、遮光用マスク及びメタルハライドランプを用いて、各基本ユニット200uの矩形の枠組みにおいて、駆動部200aの内側に光を照射して照射部200Aを形成した。この状態のアクチュエータ210に対して、延在方向EDの単軸荷重を付与した様子を
図2Fの上段に示す。比較のために、
図2Fの下段には、シミュレーション結果を示す。単軸荷重の付与により、アクチュエータ210は、シミュレーション結果と同様に、それの中心(延在方向EDに延びる、円筒の中線)から外側に向かって膨らむことが確認できた。
【0113】
以上説明したように、部材の一部に光を照射することにより、アクチュエータ210の動作(円筒形のアクチュエータ210が中線に向かって縮む、又は膨らむ)をプログラム、及び再プログラムできるというシミュレーション結果を実証できた。
【0114】
[実施例8]
上述の「アクチュエータの第3実施形態」において説明した、アクチュエータ100(
図3A)及びアクチュエータ210(
図3B)にヤング率の傾斜を設けた場合について、シミュレーションを行った。また、本実施例では、実際にアクチュエータ210に関して、シミュレーション結果の実証実験も行った。
【0115】
<アクチュエータ100のシミュレーション>
シミュレーションは、実施例6と同様の計算用ソフトを用いて行った。材料組成及びサイズは、実施例6で用いたアクチュエータ100と同一とした。
図3A中の傾斜角αは、照射部100Aと非照射部100Bとの境界面と、アクチュエータ100の延在方向EDに直交する面とが為す角度である。上述の実施例6では、傾斜角α=90°とし、照射部100Aと非照射部100Bとの境界面は延在方向EDと平行とした。これに対して、本実施例では、照射部100Aと非照射部100Bとの境界面は延在方向EDに対して傾くよう設定した。
図3Aの左側の図では傾斜角α=82°とし、
図3Aの右側の図では傾斜角α=98°とした。
【0116】
シミュレーションの結果は、「アクチュエータの第3実施形態」において説明した通りである。アクチュエータ100は、圧縮に対してねじれを持って屈曲した。
図3Aの左側の図では、アクチュエータ100を、
図3Aにおける上側から見た場合に時計回りに捻じれが生じ、
図3Aの右側の図では、アクチュエータ100を
図3Bにおける上側から見た場合に反時計回りに捻じれが生じた。
【0117】
<アクチュエータ210のシミュレーション>
シミュレーションは、実施例6と同様の計算用ソフトを用いて行った。材料組成及びサイズは、実施例7で用いたアクチュエータ210と同一とした。シミュレーションの結果は、「アクチュエータの第3実施形態」において説明した通りである。即ち、アクチュエータ210の駆動部200a(
図2A参照)において、
図3Aの左側の図のようにヤング率の傾斜を設けて、延在方向に沿って単軸荷重を付与すると、アクチュエータ210は、上から見た場合に時計回りに捻じれが生じ(
図3Bの状態(E))、
図3Bの右側の図のようにヤング率の傾斜を設けて、延在方向に沿って単軸荷重を付与すると、アクチュエータ210は、上から見た場合に反時計回りに捻じれが生じた(
図3Bの状態(D))。
【0118】
<アクチュエータ210の駆動>
実施例7で作製したアクチュエータ210を用いて以下の実験を行った。まず、遮光用マスク及びメタルハライドランプを用いて、部材に照射する光の照射角度を制御して、アクチュエータ210の各基本ユニット200uの駆動部200aにおいて(
図2A参照)、
図3Aの左側の図のようにヤング率の傾斜(α=82°)を設けた。遮光用マスクは、3Dプリンタで作製したものを用いた。この状態のアクチュエータ210に対して、延在方向EDの単軸荷重を付与した様子を
図3Cの上段に示す。比較のために、
図3Cの下段には、シミュレーション結果を示す。単軸荷重の付与により、アクチュエータ210は、シミュレーション結果と同様に、
図3Cにおける上側から見た場合に時計回りに捻じれが生じた。
【0119】
アクチュエータ210にかけている負荷を開放し、室温で所定時間放置し、アクチュエータ210の形状及びヤング率を、光を照射する前の状態に復元させた。次に、遮光用マスク及びメタルハライドランプを用いて、アクチュエータ210の各基本ユニット200uの駆動部200aにおいて(
図2A参照)、
図3Bの右側の図のようにヤング率の傾斜(α=98°)を設けた。この状態のアクチュエータ210に対して、延在方向EDの単軸荷重を付与した様子を
図3Dの上段に示す。比較のために、
図3Dの下段には、シミュレーション結果を示す。単軸荷重の付与により、アクチュエータ210は、シミュレーション結果と同様に、
図3Dにおける上側から見た場合に反時計回りに捻じれが生じた。
【0120】
以上説明したように、部材の一部に光を照射することにより、アクチュエータ210の屈曲モードもプログラム、及び再プログラムできるというシミュレーション結果を実証できた。
【0121】
[実施例9]
上述の「アクチュエータの第4実施形態」において説明した、空気圧駆動のアクチュエータ300(
図4A)についてシミュレーションを行った。また、本実施例では、実際にアクチュエータ300を作製して、シミュレーション結果の実証実験をも行った。
【0122】
シミュレーションは、実施例6と同様の計算用ソフトを用いて行った。材料組成は、実施例3で作製した試料と同一とした。アクチュエータ300の各サイズは、下記の通りとした。
本体(立方体)の一辺の長さ:4.0cm
円柱状空洞部の底面の直径:1.7cm
【0123】
シミュレーションの結果は、「アクチュエータの第4実施形態」において説明した通りである。空洞部の減圧、減圧開放(常圧)を連続して繰り返すと、アクチュエータ300は回転した。回転の向きは、照射部300Aと、非照射部300Bとの配置に依存しており、照射部300Aと、非照射部300Bとの配置を入れ替えると、アクチュエータ(車輪)300の回転の向きは反対(逆回転)となった。
【0124】
<アクチュエータ300の作製及び駆動>
成型用モールドをアクチュエータ300に対応するものに変更した以外は、実施例3の試料と同様の方法によりアクチュエータ300を作製した。
【0125】
次に、遮光用マスクを用いて、アクチュエータ300の所定の位置に光を照射し、照射部300Aと非照射部300Bを形成した。光源は、メタルハライドランプを用いた。遮光用マスクは、3Dプリンタで作製したものを用いた。
図6に示す結果から、非照射部300Bのヤング率Ybは、2.6MPaであり、照射部300Aのヤング率Yaは、0.4MPaと推測される。
【0126】
光の照射後、シリンジを用いて、アクチュエータ300の空洞部の減圧、減圧開放(常圧)を連続して繰り返した。その結果、シミュレーション結果と同様に、アクチュエータ300は回転し、平面に置いたアクチュエータ(車輪)300は、
図4Aにおける左右方向に移動した。回転の向きは、照射部300Aと、非照射部300Bとの配置に依存しており、照射部300Aと、非照射部300Bとの配置を入れ替えると、アクチュエータ(車輪)300の回転の向きは反対(逆回転)となった。
【0127】
図4Bに、時間を追って撮影した、アクチュエータ(車輪)300の動作(回転)の写真を示す。
図4Bの上段及び下段に示すアクチュエータ300は、それぞれ、先に説明した
図4Aの上段及び下段に示すアクチュエータ300に対応する。即ち、
図4Bの上段に示すアクチュエータ300と、下段に示すアクチュエータ300とは、照射部300Aと、非照射部300Bとの配置が入れ替わっている。
【0128】
本実施例では、0s~0.4sで、アクチュエータ300の空洞部を減圧し、その後、減圧開放(常圧)した。これに伴い、
図4Bに示すように、アクチュエータ300は、0s~0.4sにかけて変形し(空洞部が潰れて圧縮される)、その後、0.4s~1sにかけて、元の形状に回復した。この変形(圧縮)及び回復により、アクチュエータ(車輪)300は回転し、
図4Bにおける左右方向に移動した。
図4Bの上段と、下段とでは、アクチュエータ300の回転方向、及び移動方向は逆向きであった。
【0129】
更に、
図4Cには、本実施例のアクチュエータ300を2個連結した形態を示す。2個連結することにより駆動力が向上し、凹凸を有する面(砂利が敷かれた面)上でも移動可能なことを確認できた。