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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167311
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】コンクリート床版の撤去工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 24/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
E01D24/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078386
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391059414
【氏名又は名称】コンクリートコーリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 英一
(72)【発明者】
【氏名】奥山 信博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 眞一
(72)【発明者】
【氏名】延藤 遵
(72)【発明者】
【氏名】尾田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 清文
(72)【発明者】
【氏名】安田 篤司
(72)【発明者】
【氏名】永山 貴光
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA11
2D059AA14
2D059GG41
(57)【要約】
【課題】工期の削減や労力の軽減を図ることができるコンクリート床版の撤去工法を提供する。
【解決手段】鋼桁21とコンクリート床版22とが接合された合成桁2からコンクリート床版22を撤去するコンクリート床版の撤去工法において、コンクリート床版22の上に無端ループ状のワイヤーソー4を備える切断装置1を設置する切断装置設置工程と、コンクリート床版22における鋼桁21の直上となる桁上床版24をワイヤーソー4で桁軸方向に直交する桁軸直交方向の一方側から他方側に向かって切断して鋼桁21から切り離す切断工程と、桁上床版24とコンクリート床版22における桁軸直交方向に隣り合う桁上床版24の間の桁間床版25とを一体のまま撤去する撤去工程と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼桁とコンクリート床版とが接合された合成桁から前記コンクリート床版を撤去するコンクリート床版の撤去工法において、
前記コンクリート床版の上に無端ループ状のワイヤーソーを備える切断装置を設置する切断装置設置工程と、
前記コンクリート床版における前記鋼桁の直上となる桁上床版を前記ワイヤーソーで桁軸方向に直交する桁軸直交方向の一方側から他方側に向かって切断して前記鋼桁から切り離す切断工程と、
前記桁上床版と前記コンクリート床版における桁軸直交方向に隣り合う前記桁上床版の間の桁間床版とを一体のまま撤去する撤去工程と、
を有するコンクリート床版の撤去工法。
【請求項2】
前記切断装置設置工程では、
前記コンクリート床版における切断する前記桁上床版よりも前記桁軸直交方向の他方側に、前記桁軸方向に間隔をあけた2つの位置それぞれに前記コンクリート床版の上端から前記ワイヤーソーによる切断位置に至る一対のコア孔を設ける貫通孔形成工程と、
前記一対のコア孔それぞれから前記桁軸直交方向に延びて、前記コンクリート床版の上端から前記切断位置に至る一対の桁軸直交方向スリットを設ける桁軸直交方向スリット形成工程と、
前記コンクリート床版における切断する前記桁上床版よりも前記桁軸直交方向の一方側に、前記一対の桁軸直交方向スリットと連続し、前記桁軸方向に延びて前記コンクリート床版の下端から前記切断位置に至る桁軸方向スリットを設ける桁軸方向スリット形成工程と、
前記ワイヤーソーを前記桁軸方向の一方側の前記コア孔から、前記桁軸方向の一方側の前記桁軸直交方向スリット、前記桁軸方向スリット、前記桁軸方向の他方側の前記桁軸直交方向スリット、前記桁軸方向の他方側の前記コア孔に通すワイヤーソー設置工程と、
を有する請求項1に記載のコンクリート床版の撤去工法。
【請求項3】
前記切断装置は、
前記コア孔の内部に設置されるプーリーと、
前記プーリーの設置高さを一定に保つガイド部材と、
を有する請求項2に記載のコンクリート床版の撤去工法。
【請求項4】
前記切断装置設置工程では、前記桁軸直交方向に隣り合う複数の前記桁上床版を切断可能な位置に前記切断装置を設置し、
前記切断工程では、前記桁軸直交方向に隣り合う複数の前記桁上床版を前記切断装置を移動させずに連続して切断する請求項1に記載のコンクリート床版の撤去工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版の撤去工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼桁とコンクリート床版とがずれ止めで接合されて一体化した合成桁では、コンクリート床版を交換する際にジャッキアップによってコンクリート床版を鋼桁から剥離させて撤去することができない。このため、合成桁のコンクリート床版を交換する際には、コンクリート床版における鋼桁の直上の部分(桁上床版)を無端ループ状のワイヤーソーを備える切断装置で桁軸方向に切断している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
合成桁におけるコンクリート床版の撤去の手順は、まず、切断されたコンクリート床版を受ける床版受け支保工を仮設し、コンクリート床版における桁上床版以外の部分(桁間床版)をロードカッターで切断する。続いて、桁上床版をワイヤーソーで切断する。このとき、ワイヤーソーの弛みによって切断位置の高さが上下するため、鋼桁を損傷しないように、鋼桁の上端よりも例えば5cm程度上方の位置において桁上床版を切断し、切断位置よりも下側の部分をウォータージェット装置などで斫って撤去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-31868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、桁上床版のワイヤーソーによる切断位置よりも下側の部分をウォータージェット装置などで斫って撤去する作業は、工期や労力がかかるという問題がある。また、床版受け支保工の仮設および撤去にも工期や労力がかかるという問題がある。
【0006】
本発明は、工期の削減や労力の軽減を図ることができるコンクリート床版の撤去工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリート床版の撤去工法は、鋼桁とコンクリート床版とが接合された合成桁から前記コンクリート床版を撤去するコンクリート床版の撤去工法において、前記コンクリート床版の上に無端ループ状のワイヤーソーを備える切断装置を設置する切断装置設置工程と、前記コンクリート床版における前記鋼桁の直上となる桁上床版を前記ワイヤーソーで桁軸方向に直交する桁軸直交方向の一方側から他方側に向かって切断して前記鋼桁から切り離す切断工程と、前記桁上床版と前記コンクリート床版における桁軸直交方向に隣り合う前記桁上床版の間の桁間床版とを一体のまま撤去する撤去工程と、を有する。
【0008】
本発明では、桁上床版をワイヤーソーで桁軸直交方向に切断するため、桁上床版を桁軸方向に切断する場合と比べて切断距離が短い。これにより、ワイヤーソーの引き込み長さを短くでき、ワイヤーソーの弛みを少なくできる。このため、ワイヤーソーによる切断位置を鋼桁の上面付近に設定できる。その結果、桁上床版のワイヤーソーによる切断位置よりも下側の部分の斫り工程を少なくできて、工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
本発明では、桁上床版と桁間床版とを一体のまま撤去できるため、桁上床版の切断に先行して桁間床版を切断する場合に仮設する床版受け支保工が不要となり、工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
さらに、コンクリート床版と連続する壁高欄も桁上床版および桁間床版と一体に撤去することも可能である。このようにすることにより、壁高欄を個別に撤去する工程を不要にすることができ、更に工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
【0009】
また、本発明に係るコンクリート床版の撤去工法では、前記切断装置設置工程では、前記コンクリート床版における切断する前記桁上床版よりも前記桁軸直交方向の他方側に、前記桁軸方向に間隔をあけた2つの位置それぞれに前記コンクリート床版の上端から前記ワイヤーソーによる切断位置に至る一対のコア孔を設ける貫通孔形成工程と、前記一対のコア孔それぞれから前記桁軸直交方向に延びて、前記コンクリート床版の上端から前記切断位置に至る一対の桁軸直交方向スリットを設ける桁軸直交方向スリット形成工程と、前記コンクリート床版における切断する前記桁上床版よりも前記桁軸直交方向の一方側に、前記一対の桁軸直交方向スリットと連続し、前記桁軸方向に延びて前記コンクリート床版の下端から前記切断位置に至る桁軸方向スリットを設ける桁軸方向スリット形成工程と、前記ワイヤーソーを前記桁軸方向の一方側の前記コア孔から、前記桁軸方向の一方側の前記桁軸直交方向スリット、前記桁軸方向スリット、前記桁軸方向の他方側の前記桁軸直交方向スリット、前記桁軸方向の他方側の前記コア孔に通すワイヤーソー設置工程と、を有していてもよい。
【0010】
このような構成とすることにより、桁軸方向スリット形成工程以外の工程をコンクリート床版の上から作業できるため、作業を容易にできる。
桁軸方向スリットが設けられることにより、特に、切断開始時のワイヤーソーの高さ方向のずれや、飛散を最小限に抑えられる。
【0011】
また、本発明に係るコンクリート床版の撤去工法では、前記切断装置は、前記コア孔の内部に設置されるプーリーと、前記プーリーの設置高さを一定に保つガイド部材と、を有していてもよい。
【0012】
このような構成とすることにより、コンクリート床版の上面よりも下方のコア孔の内部にプーリーを設置できるため、ワイヤーソーによる切断位置を鋼桁の上面付近の高さに設定した際に、ワイヤーソーを切断位置に安定した状態に設置できる。また、ワイヤーソーの高さが一定に保たれるため、その高さが維持されるため、ワイヤーソーが鋼桁と接触することを防止できる。
【0013】
また、本発明に係るコンクリート床版の撤去工法は、前記切断装置設置工程では、前記桁軸直交方向に隣り合う複数の前記桁上床版を切断可能な位置に前記切断装置を設置し、前記切断工程では、前記桁軸直交方向に隣り合う複数の前記桁上床版を前記切断装置を移動させずに連続して切断してもよい。
【0014】
このような構成とすることにより、前記切断装置設置工程を少なくすることができるため、工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
なお、複数の桁上床版を切断装置を移動させずに連続して切断するため、桁上床版を1つずつ切断する場合と比べて全体のワイヤーソーの引き込み長さは長くなるが、各桁上床版は、ワイヤーソーで桁軸直交方向に切断されるため、1つの桁上床版を切断する際に生じるワイヤーソーの弛みは、桁上床版を桁軸方向に切断する場合と比べて少なくできる。このため、ワイヤーソーによる切断位置を鋼桁の上面付近に設定できて、桁上床版のワイヤーソーによる切断位置よりも下側の部分の斫り工程を少なくできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】合成桁の鉛直断面図である。
図2】桁上床版を切断する切断装置の側面図である。
図3図2の平面図である。
図4図2の斜視図である。
図5】コア孔、桁軸直交方向スリット、桁軸方向スリットを示す平面図である。
図6図5のA-A線断面図である。
図7】切断工程を示す平面図である。
図8図7のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態によるコンクリート床版の撤去工法について、図1図8に基づいて説明する。
本実施形態によるコンクリート床版の撤去工法は、図1に示すような鋼桁21とコンクリート床版22とがずれ止め23で接合されて一体化した合成桁2からコンクリート床版22を撤去する方法である。以下では、合成桁2が延びる方向、すなわち鋼桁21が延びる方向を桁軸方向(図の矢印Aの方向、図3参照)と表記する。本実施形態では、桁軸方向は、略水平方向である。桁軸方向に直交する水平方向を桁軸直交方向(図の矢印Bの方向)と表記する。
【0018】
鋼桁21は、I形鋼などで桁軸直交方向に間隔をあけて複数設けられている。鋼桁21のフランジ幅、すなわち、桁軸直交方向の寸法は、例えば、500mm程度である。
【0019】
コンクリート床版22は、複数の鋼桁21の上に設けられている。コンクリート床版22は、鋼桁21の直上となる部分に下方に突出するハンチ部26が設けられている。ハンチ部26の下面が鋼桁21の上面と接合されている。ハンチ部26は、下方に向かって漸次桁軸直交方向の寸法が小さくなっている。コンクリート床版22における鋼桁21の直上で鋼桁21と接合されている部分を桁上床版24と表記し、鋼桁21とは上下方向に重ならず鋼桁21に直接接合されていない部分を桁間床版25と表記する。
【0020】
図2から図4に示すように、コンクリート床版の撤去工法では、桁軸方向の所定のスパン29毎に、無端ループ状のワイヤーソー4を備える切断装置1で桁軸直交方向に隣り合う桁上床版24,24をそれぞれ鋼桁21から切り離し、これらの桁上床版24、24とその間の桁間床版25とを繋がったまま一体に撤去する。このため、桁上床版24を鋼桁21から切り離す前にコンクリート床版22から桁間床版25を切り離して撤去することは行わない。
【0021】
桁上床版24を鋼桁21から切り離す際には、桁軸方向の所定のスパン29毎に、桁上床版24を桁軸直交方向一方側から他方側に向かって切断する。桁上床版24を切断する際の上記の桁軸方向の所定のスパン29とは、切断装置1が一度に切断可能な桁軸方向のスパンである。以下では、桁軸方向の所定のスパン29を切断スパン29と表記する。
【0022】
桁上床版24は、ワイヤーソー4で鋼桁21を損傷しないように、鋼桁21の上面よりも上方の切断位置27(図2および図4参照)で切断される。桁上床版24における切断位置27よりも下側の部分28は、ウォータージェット装置などで斫って撤去する。切断位置27は、例えば、鋼桁21の上面よりも2cm上方の位置とする。切断位置27は、ずれ止め23が設けられている位置である。本実施形態によるコンクリート床版の撤去工法では、コンクリート床版22とともにずれ止め23も切断する。
【0023】
本実施形態では、切断装置1のワイヤーソー4で桁上床版24を引き切ることで、桁上床版24を鋼桁21から切り離している。ワイヤーソー4は、水平方向および鉛直方向に引き切り可能である。以下の切断装置1の説明では、ワイヤーソー4が引き切り可能な水平方向を前後方向(図4の矢印Cの方向)と表記し、前後方向に直交する水平方向を幅方向(図4の矢印Dの方向)と表記する。
【0024】
図2および図4に示すように、切断装置1は、切断部31と、駆動部32と、を有している。切断部31は、無端ループ状のワイヤーソー4と、ワイヤーソー4が巻き掛けられる複数のプーリー5と、複数のプーリー5を支持するガイドフレーム6および一対のガイド部材7と、を有する。
一対のガイド部材7,7は、ガイドフレーム6の幅方向の両側に1つずつ設けられる。
複数のプーリー5は、ガイドフレーム6の内部に設けられる駆動プーリーおよび複数の内側プーリーと、ガイドフレーム6の外部に設けられ一対のガイド部材7,7に支持される外側上部プーリー53(図4参照、図2では省略)および外側下部プーリー54と、を有する。外側下部プーリー54は、本発明の「コア孔の内部に設置されるプーリー」に相当する。
【0025】
ガイドフレーム6は、駆動部32と連結されている。駆動プーリーは、駆動部32に接続されている。駆動プーリーは、駆動部32の動力によって回転し、ワイヤーソー4を循環回転させる。
複数の内側プーリーのうちの一部の内側プーリーは、上下方向に移動可能である。一部の内側プーリーが上下方向に移動することにより、循環回転するワイヤーソー4を切断方向に移動できるとともに、ワイヤーソー4の位置を調整できる。
駆動プーリーおよび複数の内側プーリーは、それぞれの回転軸が前後方向に延びる向きで、前後方向を向く同一の鉛直面内に配置される。
【0026】
一対のガイド部材7は、上下方向に延びる棒状の部材である。一対のガイド部材7は、それぞれガイドフレーム6に昇降可能に支持されている。ガイド部材7の下端部は、ガイドフレーム6の下端部よりも下方に移動可能である。ガイド部材7の上端部には、外側上部プーリー53(図4参照)が取り付けられている。ガイド部材7の下端部には、外側下部プーリー54が取り付けられている。
【0027】
外側上部プーリー53の回転軸は、前後方向に延びている。外側上部プーリー53は、上記の駆動プーリーおよび複数の内側プーリーと同一の鉛直面内に配置される。幅方向の一方側のガイド部材7に支持された外側上部プーリー53と他方側のガイド部材7に支持された外側上部プーリー53とは、前後方向の同じ位置および同じ高さに配置され、幅方向に離れている。
【0028】
図2に示すように、外側下部プーリー54は、回転軸が水平となる向きで上下方向に延びるガイド部材7の軸線71回りに回転可能に支持されている。すなわち、外側下部プーリー54は、自在プーリーである。外側下部プーリー54の中心を通る回転軸線541とガイド部材7の軸線71とは交差していない。
【0029】
本実施形態では、幅方向の一方側のガイド部材7に支持された外側下部プーリー54と他方側のガイド部材7に支持された外側下部プーリー54とは、前後方向の同じ位置および同じ高さに配置され、幅方向に離れている。なお、幅方向の一方側のガイド部材7に支持された外側下部プーリー54および他方側のガイド部材7に支持された外側下部プーリー54は、それぞれ任意の高さや位置に配置できるように構成されていてよい。
上述しているように一対のガイド部材7は、それぞれガイドフレーム6に昇降可能に支持されている。一対のガイド部材7は、それぞれガイドフレーム6に対する高さを調整することによって外側下部プーリー54の高さを調整できる。一対のガイド部材7は、それぞれガイドフレーム6に対する高さを固定することによって外側下部プーリー54の高さを一定に維持できる。
【0030】
ワイヤーソー4は、ガイドフレーム6の内部の駆動プーリーおよび複数の内側プーリーに巻き掛けられてガイドフレーム6の幅方向の両側それぞれに出され、外側上部プーリー53に巻き掛けられて下方に延びて外側下部プーリー54に巻き掛けられる。
【0031】
ワイヤーソー4は、後方に引っ張られた状態で一方の外側下部プーリー54と他方の外側下部プーリー54との間の部分を通過する際に、切断対象物、すなわちコンクリート床版22の桁上床版24を前方から後方に向かって切断する。ワイヤーソー4の循環回転の軌道における切断を行う部分であり、一方の外側下部プーリー54と他方の外側下部プーリー54との間の部分を切断部分41と表記する。
【0032】
図3に示すように、切断部分41は、一対の外側下部プーリー54それぞれから前方に延びて、一対の外側下部プーリー54よりも前方の前端部分42が幅方向に延びている。切断部分41は、上下方向から見て後方に開口するC字形状である。切断部分41は、主に前端部分42が切断対象物を切断する。切断部分41は、一対の外側下部プーリー54よりも前側に配置され、切断が進むに従って前端部分42が後方に移動する。
【0033】
図2および図3に示すように、切断部分41が一対の外側下部プーリー54よりも前側に配置されている場合は、一対の外側下部プーリー54の回転軸線541は、ガイド部材7の軸線71(図2参照)よりも前方において幅方向に延びている。
図5および図6に示すように、切断部分41が一対の外側下部プーリー54の間に近づくと、一対の外側下部プーリー54,54は、それぞれガイド部材7の軸線71(図5参照)回りに回転し、それぞれの前端が互いに近づくとともに後方に移動する。このようにすることにより、切断部分41をより後方に引き寄せることができる。
【0034】
図4を参照し、上述しているように、桁上床版24を鋼桁21から切り離す際には、切断スパン29毎に、桁上床版24を桁軸直交方向一方側から他方側に向かって切断する。このため、切断装置1は、幅方向が桁軸方向と同じ方向となり、前後方向が桁軸直交方向と同じ方向となる向きで、切断対象となる桁上床版24の桁軸直交方向の他方側に位置する桁間床版25上に設置される。切断スパン29は、切断部分41の前端部分42の幅方向の寸法に相当する。切断スパン29は、例えば2.5mから3m程度である。
【0035】
切断装置1をコンクリート床版22に設置する前には、ワイヤーソー4を切断位置27に配置するために、コンクリート床版22に一対のコア孔81,81、一対の桁軸直交方向スリット82,82および桁軸方向スリット83を設ける。
【0036】
図2図3図7および図8に示すように、一対のコア孔81,81は、上下方向から見た平面視において一対のガイド部材7,7(図2参照)それぞれと重なる位置に設けられる。コア孔81は、コンクリート床版22の上端から切断位置27の高さに至る上下方向に延びる孔部であり、桁間床版25を貫通または、上方に開口している。一対のコア孔81,81は、一対のガイド部材7,7に対応して、桁軸方向に間隔をあけて2つ設けられる。コア孔81には、上方からガイド部材7の下端部に取り付けられた外側下部プーリー54が挿入される。コア孔81が桁間床版25を貫通しない場合には、コア孔81の内部に配置された外側下部プーリー54から巻き出されるワイヤーソー4を切断位置27の高さに配置できるように、コア孔81の深さが設定される。コア孔81は、コンクリート床版22の上方から形成される。
【0037】
一対の桁軸直交方向スリット82,82は、コンクリート床版22の上端から切断位置27の高さに至る上方に開口する溝部であり、桁軸直交方向に延びている。一対の桁軸直交方向スリット82,82は、一対のコア孔81それぞれから桁軸直交方向に延びている。一対の桁軸直交方向スリット82,82は、桁軸方向に間隔をあけて設けられる。一対の桁軸直交方向スリット82,82の間隔は、切断スパン29(図4参照)に相当し、切断部分41の前端部分42の幅寸法と略同じである。一対の桁軸直交方向スリット82,82は、コンクリート床版22の桁軸直交方向全体にわたって形成される。コンクリート床版22は、桁軸直交方向スリット82によって桁軸方向に分断される。一対の桁軸直交方向スリット82,82は、コンクリート床版22の上方から形成される。
【0038】
桁軸方向スリット83は、コンクリート床版22の下端から切断位置27の高さに至る下方に開口する溝部であり、桁軸方向に延びている。桁軸方向スリット83は、一対の桁軸直交方向スリット82,82の間に設けられる。桁軸方向スリット83の桁軸方向の一方側の端部は、桁軸方向の一方側の桁軸直交方向スリット82の下端部分と接続される。桁軸方向スリット83の桁軸方向の他方側の端部は、桁軸方向の他方側の桁軸直交方向スリット82の下端部分と接続される。桁軸方向スリット83は、切断対象となる桁上床版24の桁軸直交方向の一方側に設けられる。本実施形態では、桁軸方向スリット83は、切断対象となる桁上床版24の桁軸直交方向の一方側に連続するハンチ部26の桁軸直交方向の一方側の端部近傍に設けられる。桁軸方向スリット83は、コンクリート床版22の下方から形成される。
【0039】
図2から図4に示すように、切断装置1は、幅方向が桁軸方向と同じ方向となり、前後方向が桁軸直交方向と同じ方向となる向きでコンクリート床版22の桁間床版25上に設置される。切断部31のガイドフレーム6および駆動部32が桁間床版25の上に設置される。切断部31のガイド部材7は、高さ調整され、下端部に取り付けられた外側下部プーリー54がコア孔81の内部に挿入される。外側下部プーリー54に巻き掛けられたワイヤーソー4が切断位置27の高さとなるように外側下部プーリー54の高さが調整される。
【0040】
図2および図3に示すように、ワイヤーソー4の切断部分41は、一対のコア孔81,81の内部に配置された外側下部プーリー54から一対の桁軸直交方向スリット82,82を通って桁軸直交方向の一方側に延び、一対の桁軸直交方向スリット82,82の桁軸直交方向の一方側の端部間の桁軸方向スリット83を通って桁軸方向に延びる姿勢に設置される。切断装置1が駆動し、ワイヤーソー4の前端部分42が桁軸直交方向の一方側から他方側に引き寄せられることによって、桁上床版24における一対の桁軸直交方向スリット82,82の間の部分が桁軸直交方向の一方側から他方側に向かって切断される。
【0041】
上記の切断装置1を用いたコンクリート床版の撤去工法について説明する。
図、2、3に示すように、切断装置1をコンクリート床版22に設置する(切断装置設置工程)。切断装置設置工程では、桁軸直交方向の一方側の端部に位置する桁上床版24(桁上床版24Aと表記する、図4参照)を切断可能な位置に切断装置1を設置する。本実施形態では、桁上床版24Aの桁軸方向の他方側に隣接する桁間床版25(桁間床版25Aと表記する、図4参照)に切断装置1を設置する。
【0042】
切断装置設置工程では、まず、コンクリート床版22に一対のコア孔81,81を設ける貫通孔形成工程と、一対の桁軸直交方向スリット82,82を設ける桁軸直交方向スリット形成工程と、桁軸方向スリット83を設ける桁軸方向スリット形成工程と、を行う。
一対のコア孔81,81、一対の桁軸直交方向スリット82,82および桁軸方向スリット83の形成は、切断スパン29毎に行ってもよいし、コンクリート床版22の全体または複数の切断スパン29に同時に行ってもよい。一対のコア孔81,81、一対の桁軸直交方向スリット82,82および桁軸方向スリット83の形成を切断スパン29毎に行う場合は、切断する桁上床版24毎に行ってもよいし、複数の桁上床版24に対応するように行ってもよい。
【0043】
続いて、切断装置1を桁間床版25Aに設置して、ワイヤーソー4を桁軸方向の一方側のコア孔81から、桁軸方向の一方側の桁軸直交方向スリット82、桁軸方向スリット83、桁軸方向の他方側の桁軸直交方向スリット82、桁軸方向の他方側のコア孔81に通すワイヤーソー設置工程を行う。ワイヤーソー4の切断部分41を、鋼桁21の上面から2cm程度上方に配置する。
【0044】
切断装置1を駆動させ、図5および図6に示すように桁上床版24Aを桁軸直交方向の一方側から他方側に向かって切断する(切断工程)。切断工程では、切断位置27に配置されたずれ止め23もワイヤーソー4で切断する。
【0045】
図4を参照し、切断装置1を切断した桁上床版24Aの桁軸直交方向の他方側に隣り合う桁上床版24(桁上床版24Aと表記する)を切断可能な位置に移動させて設置する(切断装置設置工程)。本実施形態では、桁上床版24Bの桁軸方向の他方側に隣接する桁間床版25(桁間床版25Bと表記する)に切断装置1を設置する。
【0046】
切断装置1を駆動させ、桁上床版24Bを桁軸直交方向の一方側から他方側に向かって切断する(切断工程)。
切断した桁上床版24Bの桁軸直交方向の他方側に連続する桁間床版25Bの桁軸直交方向の中間部を、切断スパン29の桁軸方向全体にわたってロードカッターなどで切断する。これにより、桁間床版25Bが桁軸直交方向に分断される。桁間床版25Bにおける切断部分よりも桁軸方向の一方側の部分251は、桁上床版24Bと一体化している。
【0047】
鋼桁21から切断された2つの桁上床版24A,24B、その間の桁間床版25A、および桁間床版25Bにおける切断部分よりも桁軸方向の一方側の部分251を一体のまま撤去する(撤去工程)。
【0048】
同様にして、同一切断スパン29における桁軸直交方向に隣り合う領域において、切断装置1を設置し、桁上床版24を鋼桁21から切断して桁上床版24と桁間床版25と一体に撤去する。隣接する切断スパン29においても同様にコンクリート床版22を撤去する。
コンクリート床版22を撤去した後には、桁上床版24における切断位置27よりも下側の部分28は、ウォータージェット装置などで斫って撤去する。
【0049】
本実施形態によるコンクリート床版の撤去工法によれば、桁上床版24をワイヤーソー4で桁軸直交方向に切断するため、桁上床版24を桁軸方向に切断する場合と比べて切断距離が短い。本実施形態では、桁上床版24の桁軸直交方向の寸法は、鋼桁21のフランジ幅寸法と同じ500mm程度である。桁上床版24を桁軸方向に切断する場合は、2m程度切断することが一般的である。
これにより、ワイヤーソー4の引き込み長さを短くでき、ワイヤーソー4の弛みを少なくできる。このため、ワイヤーソー4による切断位置27を鋼桁21の上面付近に設定できる。その結果、桁上床版24のワイヤーソーによる切断位置27よりも下側の部分28の斫り工程を少なくできて、工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
本実施形態によるコンクリート床版の撤去工法によれば、桁上床版24と桁間床版25とを一体のまま撤去できるため、桁上床版24の切断に先行して桁間床版25を切断する場合に仮設する床版受け支保工が不要となり、工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
さらに、コンクリート床版22と連続する壁高欄(不図示)も桁上床版24および桁間床版25と一体に撤去することも可能である。このようにすることにより、壁高欄を個別に撤去する工程を不要にすることができ、更に工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
【0050】
また、本実施形態によるコンクリート床版の撤去工法では、切断装置設置工程における桁軸方向スリット83を設ける桁軸方向スリット形成工程以外の工程をコンクリート床版22の上から作業できるため、作業を容易にできる。
桁軸方向スリット83が設けられることにより、特に、切断開始時のワイヤーソー4の高さ方向のずれや、飛散を最小限に抑えられる。
【0051】
また、本実施形態では、一対のガイド部材7は、それぞれガイドフレーム6に対する高さを固定することによって外側下部プーリー54の高さを一定に維持できる。
このような構成とすることにより、ワイヤーソー4の高さが一定に維持されるため、ワイヤーソー4による切断位置27を鋼桁21の上面付近の高さに設定した際に、その高さが維持されるため、ワイヤーソー4が鋼桁21と接触することを防止できる。
また、ガイド部材7によってコンクリート床版22の上面よりも下方のコア孔81の内部に外側下部プーリー54を設置できるため、ワイヤーソー4を鋼桁21の上面付近の高さ切断位置に安定した状態に設置できる。
【0052】
以上、本発明によるコンクリート床版の撤去工法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、桁上床版24にはハンチ部26が設けられているが、ハンチ部26が設けられていなくてもよい。
上記の実施形態では、コンクリート床版22の切断位置27は、ずれ止め23が設けられている位置であり、ワイヤーソー4でコンクリート床版22とともにずれ止め23も切断している。これに対し、切断位置27をずれ止め23よりも上方の高さに設定し、ワイヤーソー4では、ずれ止め23を切断しないようにしてもよい。
上記の実施形態では、コア孔81に配置される外側下部プーリー54は、ガイド部材7によって設置高さを調整可能であるため、切断位置27をずれ止め23の位置にするか、ずれ止め23よりも上方の位置にするかを選択可能である。
【0053】
切断装置1は、ワイヤーソー4が設けられている装置であれば、上記以外の構成であってもよい。
上記の実施形態では、コア孔81に配置される外側下部プーリー54は、自在プーリーであるが、自在プーリーでなくてもよい。コア孔81には、回転軸が水平方向に延びるプーリー(縦プーリー)および回転軸が鉛直方向に延びるプーリー(横プーリー)が設けられ、ワイヤーソー4の切断部分41をより手前側まで引き寄せられるように構成されていてもよい。
【0054】
外側下部プーリー54は、ガイド部材7に支持されているが、外側下部プーリー54が支持される形態は、上記以外であってもよい。ガイド部材7は、ガイドフレーム6に対する高さを調整可能であるが、ガイドフレーム6に対する高さが調整できずに固定されていてもよい。
【0055】
また、コンクリート床版の撤去工法では、切断装置設置工程において、切断対象となる桁上床版24の桁軸直交方向の一方側に切断装置1を設置し、切断工程では、切断対象となる桁上床版24を1つずつ切断している。
これに対し、切断装置設置工程において、桁軸直交方向に隣り合う複数の桁上床版24を切断可能な位置に切断装置1を設置し、切断工程では、桁軸直交方向に隣り合う複数の桁上床版24を、切断装置1を移動させずに連続して切断してもよい。
このような構成とすることにより、切断装置設置工程を少なくすることができるため、工期の削減や労力の軽減を図ることができる。
【0056】
なお、複数の桁上床版24を切断装置1を移動させずに連続して切断するため、桁上床版24を1つずつ切断する場合と比べて全体のワイヤーソー4の引き込み長さは長くなるが、各桁上床版24は、ワイヤーソー4で桁軸直交方向に切断されるため、1つの桁上床版4を切断する際に生じるワイヤーソー4の弛みは、桁上床版24を桁軸方向に切断する場合と比べて少なくできる。このため、ワイヤーソー4による切断位置27を鋼桁21の上面付近に設定できて、桁上床版24における切断位置27よりも下側の部分28の斫り工程を少なくできる。
【符号の説明】
【0057】
1 切断装置
2 合成桁
4 ワイヤーソー
5 プーリー
6 ガイドフレーム
7 ガイド部材
21 鋼桁
22 コンクリート床版
24,24A,24B 桁上床版
25,25A,25B 桁間床版
27 切断位置
54 外側下部プーリー
81 コア孔
82 桁軸直交方向スリット
83 桁軸方向スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8