(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167373
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】有価物回収装置
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20231116BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20231116BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20231116BHJP
【FI】
C25B9/00 Z
C25B1/01 Z
C25B9/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078518
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金村 祥平
(72)【発明者】
【氏名】柳生 基茂
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AB25
4K021BA05
4K021CA08
4K021CA09
4K021CA15
4K021DB53
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】電気化学セルブロックから有価物を効率的に回収することを容易に実現可能な有価物回収装置を提供する。
【解決手段】実施形態の有価物回収装置において、反応容器は、電気化学セルブロックを収容する収容空間が内部に形成されている。溶解液供給配管は、収容空間に溶解液を供給するように反応容器に設けられている。溶解液排出配管は、収容空間から溶解液を排出するように反応容器に設けられている。一対の導電部は、収容空間に収容された電気化学セルブロックに電気的に接続される。実施形態の有価物回収装置では、収容空間において溶解液に浸漬された電気化学セルブロックに、一対の導電部を介して、電圧を印加する電解処理を実施することによって、電気化学セルブロックから有価物を溶解液に溶解させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と空気極とが電解質膜を挟むように積層方向に積層された電気化学セルを有する電気化学セルブロックから金属の有価物を回収するための有価物回収装置であって、
前記電気化学セルブロックを収容する収容空間が内部に形成されている反応容器と、
前記収容空間に溶解液を供給するように前記反応容器に設けられた溶解液供給配管と、
前記収容空間から前記溶解液を排出するように前記反応容器に設けられた溶解液排出配管と、
前記収容空間に収容された前記電気化学セルブロックに電気的に接続される一対の導電部と
を有し、
前記収容空間において前記溶解液に浸漬された前記電気化学セルブロックに、前記一対の導電部を介して、電圧を印加する電解処理を実施することによって、前記電気化学セルブロックから前記有価物を前記溶解液に溶解させる、
有価物回収装置。
【請求項2】
前記電気化学セルブロックは、
前記燃料極に連通している燃料極ガス流路と、
前記空気極に連通している空気極ガス流路と
を含み、
前記燃料極ガス流路および前記空気極ガス流路は、延在し、前記燃料極ガス流路および前記空気極ガス流路が延在する延在方向が前記積層方向に対して直交する方向に沿っており、
前記電気化学セルブロックが収容空間に収容されたときに、前記溶解液供給配管と前記溶解液排出配管とが、前記延在方向において、前記電気化学セルブロックを挟むように前記反応容器に設置されている、
請求項1に記載の有価物回収装置。
【請求項3】
前記電気化学セルブロックは、
前記燃料極に連通する燃料極ガス流路と、
前記空気極に連通する空気極ガス流路と
を含み、
前記燃料極ガス流路および前記空気極ガス流路は、延在し、前記燃料極ガス流路が延在する燃料極流路延在方向および前記空気極ガス流路が延在する空気極流路延在方向が前記積層方向に対して直交する方向に沿っていると共に、前記燃料極流路延在方向と前記空気極流路延在方向とが互いに直交しており、
前記溶解液供給配管は、
前記電気化学セルブロックが収容空間に収容されたときに、前記燃料極流路延在方向において前記燃料極ガス流路の一端側に位置するように前記反応容器に設置されている第1の溶解液供給配管と、
前記電気化学セルブロックが収容空間に収容されたときに、前記空気極流路延在方向において前記空気極ガス流路の一端側に位置するように前記反応容器に設置されている第2の溶解液供給配管と
を含み、
前記溶解液排出配管は、
前記電気化学セルブロックが収容空間に収容されたときに、前記燃料極流路延在方向において前記燃料極ガス流路の他端側に位置するように前記反応容器に設置されている第1の溶解液排出配管と、
前記電気化学セルブロックが収容空間に収容されたときに、前記空気極流路延在方向において前記空気極ガス流路の他端側に位置するように前記反応容器に設置されている第2の溶解液排出配管と
を含む、
請求項1に記載の有価物回収装置。
【請求項4】
前記収容空間において前記一対の導電部が挟むように設置された前記電気化学セルブロックを押し付けるための押付治具
を備える、
請求項1に記載の有価物回収装置。
【請求項5】
前記電解処理の実施によって生ずるガスを排出するように前記反応容器に設けられたガス排出配管
を備える、
請求項1から4のいずれかに記載の有価物回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有価物回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルブロックは、水素極と酸素極とが電解質膜を挟むように構成された電気化学セルを複数有し、複数の電気化学セルが積層されている。
【0003】
電気化学セルは、燃料電池セルおよび電解セルとして利用可能である。電気化学セルが燃料電池セルとして使用される場合には、高温条件下において、たとえば、水素極に供給された水素と、酸素極に供給された酸素とが、電解質膜を介して反応することで、電気エネルギーが得られる。これに対して、電気化学セルが電解セルとして使用される場合には、たとえば、高温条件下で、水(水蒸気)を電解することによって、水素極において水素が発生し、酸素極において酸素が発生する。
【0004】
電気化学セルにおいて、水素極および酸素極は、触媒として、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)等の高価な有価物を含む。このため、電気化学セルから有価物を回収するために、さまざまな技術が提案されている。例えば、焼却灰に含まれる有価物成分を強酸化性溶液に溶解させることによって分離して回収することが提案されている。また、電解によって有価物成分を回収することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第1626036号
【特許文献2】特許第6652518号
【特許文献3】特許第6652454号
【特許文献4】特許第6109769号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような電気化学セルを含む電気化学セルブロックから有価物を効率的に回収することが要求されている。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、電気化学セルブロックから有価物を効率的に回収することを容易に実現可能な有価物回収装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の有価物回収装置は、燃料極と空気極とが電解質膜を挟むように積層方向に積層された電気化学セルを有する電気化学セルブロックから金属の有価物を回収するための有価物回収装置であって、反応容器と溶解液供給配管と溶解液排出配管と一対の導電部とを有する。反応容器は、電気化学セルブロックを収容する収容空間が内部に形成されている。溶解液供給配管は、収容空間に溶解液を供給するように反応容器に設けられている。溶解液排出配管は、収容空間から溶解液を排出するように反応容器に設けられている。一対の導電部は、収容空間に収容された電気化学セルブロックに電気的に接続される。実施形態の有価物回収装置では、収容空間において溶解液に浸漬された電気化学セルブロックに、一対の導電部を介して、電圧を印加する電解処理を実施することによって、電気化学セルブロックから有価物を溶解液に溶解させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る有価物回収装置が金属の有価物を回収する電気化学セルブロック1の一部を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る有価物回収装置2を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る有価物回収装置2を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態において、電気化学セルブロック1から金属の有価物を回収する方法を示すフロー図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の変形例に係る有価物回収装置2を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る有価物回収装置2を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
[A]電気化学セルブロック1の構成
図1は、第1実施形態に係る有価物回収装置が金属の有価物を回収する電気化学セルブロック1の一部を模式的に示す図である。
【0011】
図1において、縦方向は、鉛直方向zに沿っており、横方向は、第1水平方向xに沿っており、紙面に直交する方向は、第2水平方向yに沿っている。
図1では、第1水平方向xと鉛直方向zとで規定される鉛直面(xz面)の断面を示している。
【0012】
電気化学セルブロック1は、電気化学セル11とセパレータ12とを備える。電気化学セルブロック1は、複数の電気化学セル11がセパレータ12を介して電気的に直列に接続されたセルスタックであって、電気化学セル11とセパレータ12とが交互に並ぶように積層されている。
【0013】
電気化学セルブロック1を構成する各部について説明する。
【0014】
[A-1]電気化学セル11
電気化学セル11は、電解質膜110と燃料極111と空気極112とを有する。電気化学セル11は、燃料極111と空気極112とが電解質膜110を挟むように積層されている。ここでは、電解質膜110と燃料極111と空気極112とが積層する積層方向は、例えば、鉛直方向zに沿っている。電気化学セル11は、例えば、高分子電解質型である。
【0015】
電気化学セル11において、電解質膜110は、例えば、スルフォン酸基を有するフッ素系高分子材料で構成されている。燃料極111および空気極112は、例えば、拡散層(図示省略)に触媒(図示省略)が担持されることで構成されている。拡散層は、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系材料で形成されている。触媒は、例えば、Pt(白金)、Ru(ルテニウム)、Co(コバルト)の金属元素のうち少なくとも1つの元素を含む物質(単体、化合物)である。
【0016】
[A-2]セパレータ12
セパレータ12は、導電性材料で形成された多孔質体で構成されている。セパレータ12には、燃料極ガス流路F121と空気極ガス流路F122とが形成されている。
【0017】
燃料極ガス流路F121は、セパレータ12のうち燃料極111側の面に形成されており、燃料極ガスが流れる。燃料極ガス流路F121は、燃料極111に連通しており、燃料極111に供給するガスおよび燃料極111で生成されたガスが燃料極ガスとして流れるように構成されている。ここでは、燃料極ガス流路F121は、延在しており、燃料極ガス流路F121が延在する燃料極流路延在方向D121は、例えば、電解質膜110と燃料極111と空気極112とが積層する積層方向に対して直交する第2水平方向yである。燃料極ガス流路F121は、複数であって、複数の燃料極ガス流路F121が、第1水平方向xにおいて間を隔てて設けられている。
【0018】
空気極ガス流路F122は、セパレータ12のうち空気極112側の面に形成されており、空気極ガスが流れる。空気極ガス流路F122は、空気極112に連通しており、空気極112に供給するガスおよび空気極112で生成されたガスが空気極ガスとして流れるように構成されている。ここでは、空気極ガス流路F122は、延在しており、空気極ガス流路F122が延在する空気極流路延在方向D122は、例えば、電解質膜110と燃料極111と空気極112とが積層する積層方向、および、燃料極流路延在方向D121に対して直交する第1水平方向xである。図示を省略しているが、空気極ガス流路F122は、複数であって、複数の空気極ガス流路F122が、第2水平方向yにおいて間を隔てて設けられている。
【0019】
[B]有価物回収装置2の構成
図2および
図3は、第1実施形態に係る有価物回収装置2を模式的に示す図である。
【0020】
図2において、縦方向は、鉛直方向zに沿っており、横方向は、第1水平方向xに沿っており、紙面に直交する方向は、第2水平方向yに沿っている。
図2では、第1水平方向xと鉛直方向zとで規定される鉛直面(xz面)のうち、
図3のB-B部分の断面を示している。
【0021】
図3において、縦方向は、第2水平方向yに沿っており、横方向は、第1水平方向xに沿っており、紙面に直交する方向は、鉛直方向zに沿っている。
図3では、第1水平方向xと鉛直方向zとで規定される鉛直面(xz面)のうち、
図2のA-A部分の断面を示している。
【0022】
本実施形態の有価物回収装置2は、
図2および
図3に示すように、反応容器21と溶解液供給配管22と溶解液排出配管23と一対の導電部241,242とを備え、電気化学セルブロック1から金属の有価物を回収するように構成されている。
【0023】
有価物回収装置2を構成する各部について説明する。
【0024】
[B-1]反応容器21
反応容器21は、例えば、四角管形状であって、電気化学セルブロック1を収容する収容空間SP21が内部に形成されている。反応容器21は、塩化ビニル樹脂やフッ素樹脂などの絶縁材料で形成されている。
【0025】
[B-2]溶解液供給配管22/溶解液排出配管23
溶解液供給配管22は、反応容器21の収容空間SP21に溶解液SLを供給するように反応容器21に設けられている。
【0026】
溶解液排出配管23は、反応容器21の収容空間SP21から溶解液SLを排出するように反応容器21に設けられている。
【0027】
本実施形態では、溶解液供給配管22および溶解液排出配管23は、電気化学セルブロック1が収容空間SP21に収容されたときに、例えば、電気化学セルブロック1の空気極流路延在方向D122において電気化学セルブロック1を挟むように、反応容器21に設置されている。
【0028】
[B-3]一対の導電部241,242
一対の導電部241,242は、反応容器21の収容空間SP21に収容された電気化学セルブロック1に電気的に接続される。
【0029】
ここでは、一対の導電部241,242は、反応容器21の収容空間SP21を密封するように、反応容器21に設置されている。
【0030】
具体的には、一対の導電部241,242のうち、一方の導電部241は、反応容器21の下面に底板として設置されている。一方の導電部241は、導電材料で形成された四角形の板状体であって、例えば、黒鉛板やチタン板である。一方の導電部241は、電気化学セルブロック1において、例えば、燃料極111(
図1参照)側の端子に密着して電気的に接続される。
【0031】
他方の導電部242は、反応容器21の上面に上蓋として設置されている。他方の導電部242は、導電材料で形成された四角形の板状体であって、例えば、黒鉛板やチタン板である。他方の導電部242は、電気化学セルブロック1において、例えば、空気極112(
図1参照)側の端子に密着して電気的に接続される。
【0032】
[C]有価物の回収方法
本実施形態の有価物回収装置2を用いて、電気化学セルブロック1から金属の有価物を回収する方法について説明する。
【0033】
図4は、第1実施形態において、電気化学セルブロック1から金属の有価物を回収する方法を示すフロー図である。
【0034】
[C-1]解体(ST10)
金属の有価物を回収する際には、まず、
図4に示すように、電気化学セルブロック1を含む電気化学装置(図示省略)について解体を行う(ST10)。
【0035】
これにより、電気化学装置(図示省略)を、電気化学セルブロック1と、電気化学セルブロック1以外の部材(例えば、プラスチックの筐体、ステンレスの固定金具、銅配線)とに分離する。
【0036】
[C-2]セッティング(ST20)
つぎに、
図4に示すように、電気化学セルブロック1を有価物回収装置2にセッティングする(ST20)。
【0037】
ここでは、
図2および
図3に示すように、反応容器21の収容空間SP21に電気化学セルブロック1を収容する。
【0038】
具体的には、導電部241が下面に設置された状態である反応容器21の収容空間SP21に、電気化学セルブロック1を上方から挿入する。これにより、電気化学セルブロック1において、例えば、燃料極111(
図1参照)側の端子に導電部241が密着して電気的に接続される。そして、反応容器21の上面に導電部242を設置する。これにより、電気化学セルブロック1において、例えば、空気極112(
図1参照)側の端子に導電部242が密着して電気的に接続される。また、一対の導電部241,242の設置により、反応容器21の収容空間SP21が密封される。
【0039】
[C-1]電解処理(ST30)
つぎに、
図4に示すように、電気化学セルブロック1について電解処理を実行する(ST30)。
【0040】
電解処理を実施する際には、
図2に示すように、一対の導電部241,242に電源80を電気的に接続する。
【0041】
そして、溶解液SLを溶解液供給配管22から収容空間SP21に供給する。
【0042】
電解処理で使用する溶解液SLは、ハロゲン化物イオン(Cl-等)を含む酸性の水溶液である。溶解液SLにおいて、ハロゲン化物イオンは、電解処理で溶解液SLに溶解させる金属の種類に応じて適宜選択される。溶解液SLにおいて、ハロゲン化物イオンの濃度は、電解処理を効率的に実施するために、0.01mol/L以上16.0mol/L以下であることが好ましい。また、溶解液SLのpHは、電解処理を効率的に実施するために、5以下であることが好ましい。更に、溶解液SLは、分散した陰イオン交換樹脂の固体を含んでいてもよい。
【0043】
溶解液SLの供給は、例えば、溶解液供給配管22に接続する供給ポンプ(図示省略)を用いて実行される。溶解液SLの供給により、収容空間SP21において電気化学セルブロック1が溶解液SLで浸漬された状態になる。つまり、電気化学セルブロック1では、溶解液SLが燃料極ガス流路F121に流入し、溶解液SLが燃料極111が浸漬される(
図1参照)。これと共に、電気化学セルブロック1では、溶解液SLが空気極ガス流路F122に流入し、空気極112は溶解液SLによって浸漬される(
図1参照)。
【0044】
そして、収容空間SP21において溶解液SLに浸漬された電気化学セルブロック1に、一対の導電部241,242を介して、電圧を印加することで、電解処理を実施する。
【0045】
電解処理の実施の際に電気化学セルブロック1に印加する電圧は、直流電圧と交流電圧とのいずれでもよい。電圧の値は、適宜、設定される。例えば、単セルである電気化学セル11に対して印加する電圧は、電解処理を効率的に実施するために、0.10V以上3.00V以下であることが好ましい。
【0046】
電解処理の実施により、電気化学セルブロック1から有価物が溶解液SLに溶解する。
【0047】
例えば、下記の(化学式1)に示すように、電気化学セルブロック1に有価物として含有する白金(Pt)触媒と、溶解液SLにハロゲン化物イオンとして含有する塩素イオン(Cl-)との間において反応が生じ、白金錯イオンであるテトラクロロ白金(II)酸イオン([PtCl4]2-)が生成される。また、(化学式1)に示す反応が生ずる電圧よりも更に大きな電圧が印加されたときには、下記の(化学式2)に示すように、電気化学セルブロック1に有価物として含有する白金(Pt)触媒と、溶解液SLにハロゲン化物イオンとして含有する塩素イオン(Cl-)との間において反応が生じ、白金錯イオンであるヘキサクロロ白金(IV)酸イオン([PtCl6]2-)が生成される。
【0048】
Pt+4Cl-→[PtCl4]2-+2e- ・・・(化学式1)
Pt+6Cl-→[PtCl6]2-+2e- ・・・(化学式2)
【0049】
なお、溶解液SLが陰イオン交換樹脂を含む場合、溶解液SL中の白金錯イオンが陰イオン交換樹脂に捕集された状態になることで、有価物である白金が溶解液SLに溶解する。
【0050】
収容空間SP21において有価物が溶解した溶解液SLは、溶解液排出配管23から外部へ排出される。溶解液SLの排出は、例えば、吸引ポンプを用いて実行される。溶解液SLに溶解した有価物は、再利用のための処理が適宜施される。これにより、電気化学セルブロック1から有価物が回収される。この有価物の回収には、溶解液排出配管23の下流において、溶解液SLからイオン交換樹脂によってイオン捕集する構成としたり、電解によって有価物を固体金属として陽極または陰極に析出させて回収することも可能である。
【0051】
電解処理の実施では、例えば、溶解液SLの流通を連続的に実施する。この他に、溶解液SLの流通を、断続的に実施してもよい。更に、電解処理の実施では、溶解液SLを循環させてもよい。つまり、収容空間SP21から溶解液排出配管23を介して排出された溶解液SLを、溶解液供給配管22を介して、収容空間SP21に戻してもよい。
【0052】
[C]まとめ
以上のように、本実施形態の有価物回収装置2は、反応容器21と溶解液供給配管22と溶解液排出配管23と一対の導電部241,242とを有する。反応容器21は、電気化学セルブロック1を収容する収容空間SP21が内部に形成されている。溶解液供給配管22は、収容空間SP21に溶解液SLを供給するように反応容器21に設けられている。溶解液排出配管23は、収容空間SP21から溶解液SLを排出するように反応容器21に設けられている。一対の導電部241,242は、収容空間SP21に収容された電気化学セルブロック1に電気的に接続される。有価物回収装置2は、収容空間SP21において溶解液SLに浸漬された電気化学セルブロック1に、一対の導電部241,242を介して、電圧を印加する電解処理を実施することによって、電気化学セルブロック1から有価物を溶解液SLに溶解させる。このため、本実施形態の有価物回収装置2を用いることによって、電気化学セルブロック1から有価物を効率的に回収することができる。
【0053】
本実施形態の有価物回収装置2では、電気化学セルブロック1が収容空間SP21に収容されたときに、溶解液供給配管22と溶解液排出配管23とが、電気化学セルブロック1の空気極流路延在方向D122において、電気化学セルブロック1を挟むように反応容器21に設置されている。これにより、本実施形態では、溶解液SLは、空気極流路延在方向D122に沿って、溶解液供給配管22から溶解液排出配管23へ流れる。このため、電気化学セルブロック1の電気化学セル11において空気極流路延在方向D122に延在する空気極ガス流路F122では、溶解液SLがスムーズに流れる。その結果、電解処理を実施したとき、空気極112に含まれる白金などの有価物が溶解液SLに溶解しやすくなる。したがって、本実施形態では、電気化学セルブロック1から有価物を更に効率的に回収することができる。
【0054】
[D]変形例
上記の実施形態では、電気化学セルブロック1が収容空間SP21に収容されたときに、空気極流路延在方向D122において、溶解液供給配管22と溶解液排出配管23とが電気化学セルブロック1を挟むように反応容器21に設置されている場合について説明したが、これに限らない。
【0055】
図5は、第1実施形態の変形例に係る有価物回収装置2を模式的に示す図である。
【0056】
図5では、
図3と同様に、第1水平方向xと鉛直方向zとで規定される鉛直面(xz面)の断面を示している。
【0057】
図5に示すように、本変形例では、溶解液供給配管22として、溶解液供給配管221(第1の溶解液供給配管)と溶解液供給配管222(第2の溶解液供給配管)とを含む。また、本変形例では、溶解液排出配管23として、溶解液排出配管231(第1の溶解液排出配管)と溶解液排出配管232(第2の溶解液排出配管)とを含む。
【0058】
溶解液供給配管221は、電気化学セルブロック1が収容空間SP21に収容されたときに、燃料極流路延在方向D121において燃料極ガス流路F121の一端側(
図5では上側)に位置するように反応容器21に設置されている。溶解液供給配管222は、電気化学セルブロック1が収容空間SP21に収容されたときに、空気極流路延在方向D122において空気極ガス流路F122の一端側(
図5では左側)に位置するように反応容器21に設置されている。
【0059】
溶解液排出配管231は、電気化学セルブロック1が収容空間SP21に収容されたときに、燃料極流路延在方向D121において燃料極ガス流路F121の他端側(
図5では下側)に位置するように反応容器21に設置されている。溶解液排出配管232は、電気化学セルブロック1が収容空間SP21に収容されたときに、空気極流路延在方向D122において空気極ガス流路F122の他端側(
図5では右側)に位置するように反応容器21に設置されている。
【0060】
これにより、本変形例では、溶解液SLは、燃料極流路延在方向D121に沿って、溶解液供給配管221から溶解液排出配管231へ流れる。このため、電気化学セルブロック1の電気化学セル11において燃料極流路延在方向D121に延在する燃料極ガス流路F121では、溶解液SLがスムーズに流れる。
【0061】
これと共に、本変形例では、溶解液SLは、空気極流路延在方向D122に沿って、溶解液供給配管222から溶解液排出配管232へ流れる。このため、電気化学セルブロック1の電気化学セル11において空気極流路延在方向D122に延在する空気極ガス流路F122では、溶解液SLがスムーズに流れる。
【0062】
その結果、電解処理を実施したとき、燃料極111および空気極112に含まれる白金などの有価物が溶解液SLに溶解しやすくなる。したがって、本変形例では、電気化学セルブロック1から有価物を更に効率的に回収することができる。
【0063】
なお、当然ながら、上記の他に、燃料極流路延在方向D121のみにおいて、溶解液供給配管22と溶解液排出配管23とが電気化学セルブロック1を挟むように反応容器21に設置されていてもよい。
【0064】
その他、上記実施形態では、溶解液供給配管22および溶解液排出配管23が、水平方向(第1水平方向x,第2水平方向y)において並ぶように設置された場合を例示しているが、これに限らない。溶解液供給配管22および溶解液排出配管23が、鉛直方向zにおいて並ぶように設置されていてもよい。この場合、鉛直方向zにおいて、溶解液SLが下方から上方へ流通するように、溶解液供給配管22および溶解液排出配管23を設置することが好ましい。これにより、電解処理の実施によって生ずるガスは、上方へ流れて排出されるため、電解処理の実施が阻害されずに、電解処理を効率的に実行することができる。
【0065】
<第2実施形態>
[A]有価物回収装置2の構成
図6は、第2実施形態に係る有価物回収装置2を模式的に示す図である。
【0066】
図6では、
図2と同様に、第1水平方向xと鉛直方向zとで規定される鉛直面(xz面)の断面を示している。
【0067】
図6に示すように、本実施形態の有価物回収装置2は、反応容器21bの構成が第1実施形態の場合(
図2参照)と異なっている。また、本実施形態の有価物回収装置2は、第1実施形態の場合(
図2参照)と異なり、押付治具30およびガス排出配管40を備える。この点、および、これに関連する点を除き、本実施形態は、第1実施形態の場合と同様である。このため、重複する事項については、適宜、説明を省略する。
【0068】
[A-1]反応容器21b
反応容器21bは、反応容器本体部211と反応容器蓋部212とを有する。反応容器本体部211および反応容器蓋部212は、塩化ビニル樹脂やフッ素樹脂などの絶縁材料で形成されている。
【0069】
反応容器本体部211は、例えば、四角管の下端に底板が設けられた容器であって、電気化学セルブロック1を収容する収容空間SP21が内部に形成されている。ここでは、電気化学セルブロック1は、鉛直方向zにおいて一対の導電部241,242が挟むように設置された状態で、収容空間SP21に収容される。
【0070】
反応容器蓋部212は、例えば、四角形状の板状体であって、収容空間SP21を介して、反応容器本体部211の底板に対面するように、反応容器本体部211の上端に設置される。
【0071】
[A-2]押付治具30
押付治具30は、収容空間SP21において一対の導電部241,242が挟むように設置された電気化学セルブロック1を押し付けるために、反応容器21bに設けられている。
【0072】
ここでは、押付治具30は、例えば、棒状体であって、鉛直方向zにおいて摺動可能なように反応容器蓋部212を貫通している。
【0073】
押付治具30は、例えば、自重によって鉛直方向zに電気化学セルブロック1を押し付ける。この他に、例えば、スプリングなど付勢部材が押付治具30を鉛直方向zに付勢することで、電気化学セルブロック1を押し付けるように押付治具30が構成されていてもよい。
【0074】
[A-3]ガス排出配管40
ガス排出配管40は、電解処理の実施によって生ずるガスを排出するように反応容器21bに設けられている。
【0075】
ここでは、ガス排出配管40は、反応容器蓋部212を鉛直方向zにおいて貫通するように反応容器蓋部212に固定されている。ガス排出配管40は、反応容器蓋部212のうち溶解液排出配管23の側に設けられている。
【0076】
[B]有価物の回収方法
本実施形態の有価物回収装置2を用いて、電気化学セルブロック1から金属の有価物を回収する方法について説明する。
【0077】
本実施形態においても、
図4に示したように,第1実施形態の場合と同様に、解体を行った後に(ST10)、電気化学セルブロック1を有価物回収装置2にセッティングする(ST20)。
【0078】
ここでは、
図6に示すように、収容空間SP21に電気化学セルブロック1を収容する。具体的には、導電部241が下面に設置された電気化学セルブロック1を、反応容器本体部211の収容空間SP21に上方から挿入する。そして、電気化学セルブロック1の上面に導電部242を設置する。そして、反応容器本体部211の上面に反応容器蓋部212を設置する。
【0079】
つぎに、
図4に示すように、電気化学セルブロック1について電解処理を実行する(ST30)。
【0080】
ここでは、押付治具30を用いて、収容空間SP21において一対の導電部241,242が挟むように設置された電気化学セルブロック1を押し付けた状態で、電解処理を実行する。
【0081】
図示を省略しているが、電解処理を実施する際には、一対の導電部241,242に電源80(
図2参照)を電気的に接続する。そして、収容空間SP21において溶解液SLに浸漬された電気化学セルブロック1に、一対の導電部241,242を介して、電圧を印加することで、電解処理を実施する。
【0082】
電解処理の実施では、副反応でガスが生成される場合がある。電解処理の実施で生成されたガスは、ガス排出配管40を介して、収容空間SP21から収容空間SP21の外部へ排出される。
【0083】
電解処理の実施により、電気化学セルブロック1から有価物が溶解液SLに溶解する。収容空間SP21において有価物が溶解した溶解液SLは、溶解液排出配管23から外部へ排出される。これにより、電気化学セルブロック1から有価物が回収される。
【0084】
[C]まとめ
以上のように、本実施形態の有価物回収装置2は、押付治具30を備えている。このため、本実施形態では、収容空間SP21において一対の導電部241,242が挟むように設置された電気化学セルブロック1を押付治具30で押し付けることができる。これにより、本実施形態では、電気化学セルブロック1と一対の導電部導電部241,242との間が密着する。その結果、本実施形態では、電気化学セルブロック1と一対の導電部241,242とが接触する接触面での電気抵抗が低減する。したがって、本実施形態においては、電気化学セルブロック1から有価物を効率的に回収することができる。その他、本実施形態では、押付治具30を用いることによって、大きさが異なる複数種の電気化学セルブロック1について、電解処理を実施することができる。
【0085】
また、本実施形態の有価物回収装置2は、ガス排出配管40を備えているため、電解処理の実施によって生ずるガスを排出することができる。電解処理の実施で生じたガスは、電解処理の際に抵抗成分になる場合があるが、本実施形態では、電解処理の実施で生じたガスが収容空間SP21から排出されるので、収容空間SP21において電解処理を効率的に実行することができる。
【0086】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1:電気化学セルブロック、2:有価物回収装置、11:電気化学セル、12:セパレータ、21:反応容器、21b:反応容器、22:溶解液供給配管、23:溶解液排出配管、30:押付治具、40:ガス排出配管、80:電源、110:電解質膜、111:燃料極、112:空気極、211:反応容器本体部、212:反応容器蓋部、221:溶解液供給配管(第1の溶解液供給配管)、222:溶解液供給配管(第2の溶解液供給配管)、231:溶解液排出配管(第1の溶解液排出配管)、232:溶解液排出配管(第2の溶解液排出配管)、241:導電部、242:導電部、D121:燃料極流路延在方向、D122:空気極流路延在方向、F121:燃料極ガス流路、F122:空気極ガス流路、SL:溶解液、SP21:収容空間