(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167406
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】三次元積層装置および方法
(51)【国際特許分類】
B22F 12/30 20210101AFI20231116BHJP
B22F 10/32 20210101ALI20231116BHJP
B22F 12/50 20210101ALI20231116BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20231116BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20231116BHJP
B29C 64/255 20170101ALI20231116BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231116BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231116BHJP
B29C 64/188 20170101ALI20231116BHJP
B29C 64/371 20170101ALI20231116BHJP
【FI】
B22F12/30
B22F10/32
B22F12/50
B22F10/28
B29C64/153
B29C64/255
B33Y10/00
B33Y30/00
B29C64/188
B29C64/371
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078573
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 秀次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】貫野 敏史
(72)【発明者】
【氏名】笠見 明子
(72)【発明者】
【氏名】橘 孝洋
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AC04
4F213AP06
4F213AQ01
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL72
4F213WL74
4K018KA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】三次元積層装置および方法において、装置の小型化を図ると共に加工対象物の大きさに制約を受けずに造形物を造形することができる。
【解決手段】造形面106を有する加工対象物の側面に接触して粉末材料を受ける粉末受け部材12と、粉末受け部材12の外面に接触すると共に前記造形面106に交差する造形方向に沿って移動自在に支持される粉末保持部材13と、粉末保持部材13を前記造形方向に沿って移動可能な移動装置14と、造形面106上の粉末材料に光ビームを照射して溶融固化させることで成形層を形成する照射装置17と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形面を有する加工対象物に接触して粉末材料を受ける粉末受け部材と、
前記粉末受け部材に接触すると共に前記造形面に交差する造形方向に沿って移動自在に支持される粉末保持部材と、
前記粉末保持部材を前記造形方向に沿って移動可能な移動装置と、
前記造形面上の前記粉末材料に光ビームを照射して溶融固化させることで成形層を形成する照射装置と、
を備える三次元積層装置。
【請求項2】
前記粉末受け部材は、前記加工対象物の外周面に沿う開口部を有する、
請求項1に記載の三次元積層装置。
【請求項3】
前記粉末保持部材は、前記粉末受け部材の外周面に沿って設けられる枠形状をなす、
請求項2に記載の三次元積層装置。
【請求項4】
前記粉末保持部材と前記粉末受け部材は、いずれか一方にシール部材が設けられる、
請求項3に記載の三次元積層装置。
【請求項5】
前記造形面上の前記粉末材料の上面を平滑面とするリコータを有する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の三次元積層装置。
【請求項6】
前記リコータは、前記造形面と平行をなす第1方向に移動自在に支持されるリコータ本体と、前記リコータ本体に対して前記造形面と平行をなすと共に前記第1方向に直交する第2方向に並んで着脱自在に装着される複数のブレードとを有する、
請求項5に記載の三次元積層装置。
【請求項7】
前記リコータは、前記造形面に対する前記リコータ本体の平行度を調整する高さ調整装置を有する、
請求項6に記載の三次元積層装置。
【請求項8】
前記リコータ本体と共に前記第1方向に沿って移動自在に支持されて前記造形面の角度を計測する計測装置を有する、
請求項6に記載の三次元積層装置。
【請求項9】
装置本体に対して前記第1方向および前記第2方向に沿って移動自在に支持されて前記造形面を加工することで前記造形面の角度を補正する加工装置を有する、
請求項6に記載の三次元積層装置。
【請求項10】
前記造形面上の前記粉末材料の平滑面に沿って不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置を有する、
請求項1に記載の三次元積層装置。
【請求項11】
加工対象物に粉末受け部材が接触した状態で前記加工対象物の造形面に粉末材料を供給する工程と、
前記造形面上の前記粉末材料に光ビームを照射して溶融固化させることで第1成形層を形成する工程と、
前記粉末受け部材に接触する粉末保持部材を前記造形面に交差する造形方向に沿って所定距離だけ移動する工程と、
前記第1成形層上に粉末材料を供給する工程と、
前記第1成形層上の前記粉末材料に光ビームを照射して溶融固化させることで第2成形層を形成する工程と、
を有する三次元積層方法。
【請求項12】
前記加工対象物の造形面に供給された前記粉末材料の上面に沿って不活性ガスを噴出することで不活性ガス雰囲気を形成した後、前記粉末材料に光ビームを照射する、
請求項11に記載の三次元積層方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元積層装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属粉末などの粉末を原料として三次元積層体を成形する三次元積層装置が実用化されている。三次元積層装置による積層造形法(例えば、AM:Additive Manufacturing)の一つとして、パウダーベッド方式(PBF:Powder Bed Fusion)がある。パウダーベッド方式による積層造形法は、まず、チャンバ内に造形面を有する加工対象物を配置すると共に、加工対象物の周囲および上方に金属粉末を充填する。次に、リコータにより加工対象物の造形面の上方に金属粉末の平滑面を形成する。そして、金属粉末の平滑面に対してレーザビームや電子ビームなどを照射し、金属粉末を溶融、凝固させることで、加工対象物の造形面上に三次元形状をなす複雑な造形物を形成する。このような三次元積層装置としては、例えば、下記特許文献に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-081947号公報
【特許文献2】特開2020-192800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の三次元積層装置は、三次元積層を行う加工対象物を収容するためのチャンバが必要になる。チャンバは、加工対象物の全体を収容する必要があることから、巨大な造形物を収容することが困難となり、三次元積層を行う加工対象物の大きさに制約を受けてしまうという課題がある。また、従来の三次元積層装置は、造形面上の金属粉末を溶融、凝固させるたびにチャンバ内で造形物を所定距離だけ下降させる必要がある。加工対象物が大型である場合、下降装置が大型化してしまうという課題がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、装置の小型化を図ると共に加工対象物の大きさに制約を受けずに造形物を造形することができる三次元積層装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の三次元積層装置は、造形面を有する加工対象物に接触して粉末材料を受ける粉末受け部材と、前記粉末受け部材に接触すると共に前記造形面に交差する造形方向に沿って移動自在に支持される粉末保持部材と、前記粉末保持部材を前記造形方向に沿って移動可能な移動装置と、前記造形面上の前記粉末材料に光ビームを照射して溶融固化させることで成形層を形成する照射装置と、を備える。
【0007】
また、本開示の三次元積層方法は、加工対象物に粉末受け部材が接触した状態で前記加工対象物の造形面に粉末材料を供給する工程と、前記造形面上の前記粉末材料に光ビームを照射して溶融固化させることで第1成形層を形成する工程と、前記粉末受け部材に接触する粉末保持部材を前記造形面に交差する造形方向に沿って所定距離だけ移動する工程と、前記第1成形層上に粉末材料を供給する工程と、前記第1成形層上の前記粉末材料に光ビームを照射して溶融固化させることで第2成形層を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の三次元積層装置によれば、装置の小型化を図ることができると共に、加工対象物の大きさに制約を受けずに造形物を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の三次元積層装置を表す斜視図である。
【
図2】
図2は、三次元積層装置を表す概略構成図である。
【
図3】
図3は、三次元積層装置の要部を表す平面図である。
【
図7】
図7は、三次元積層方法を説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図8は、加工対象物の造形面に対する粗加工方法を表す概略図である。
【
図9】
図9は、加工対象物の三次元モデル作成方法を表す概略図である。
【
図10】
図10は、加工対象物に対する三次元積層装置の装着方法を表す概略図である。
【
図11】
図11は、加工対象物の造形面に対する微細加工方法を表す概略図である。
【
図13】
図13は、粉末リコータによる金属粉末の平滑面の形成方法を表す概略図である。
【
図14】
図14は、光ビームの照射による造形方法を表す概略図である。
【
図15】
図15は、加工対象物の造形面に対する造形物の造形状態を表す概略図である。
【
図16】
図16は、造形物が造形された加工対象物を表す概略図である。
【
図17】
図17は、変形例の造形物が造形された加工対象物を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
<三次元積層装置>
図1は、本実施形態の三次元積層装置を表す斜視図、
図2は、三次元積層装置を表す概略構成図である。
【0012】
図1および
図2に示すように、三次元積層装置10は、加工対象物100の補修作業に適用される。加工対象物100は、例えば、航空エンジンや発電用ガスタービンなどに適用されるタービン翼であり、翼部101と、プラットフォーム102と、翼根部103とを有する。また、翼部101は、上部に突起部104,105を有する。但し、一方の突起部105は、長期の使用により変形したため、事前に除去され、造形面106が形成されている。加工対象物100は、所定の位置に治具111により位置決め固定される。三次元積層装置10は、加工対象物100の造形面106に金属を積層することで、突起部105と同様の形状をなす造形物107を造形する。
【0013】
なお、三次元積層装置10は、加工対象物100の補修作業に限らず、加工対象物100に新規の造形物107を造形する作業に適用してもよい。また、加工対象物100は、航空エンジンや発電用ガスタービンなどに適用されるタービン翼に限るものではない。
【0014】
三次元積層装置10は、装置本体11と、粉末受け部材12と、粉末保持部材13と、移動装置14と、粉末供給装置15と、粉末リコータ16と、照射装置17と、加工装置18と、計測装置19と、不活性ガス供給装置20とを備える。
【0015】
装置本体11において、取付板21は、図示しない支持板に支持され、上方に複数の支持ロッド22を介して支持板23が支持される。支持板23は、底板23aの両側に一対の側板23bが一体に設けられたU字形状をなす。支持板23は、各側板23bの上部にそれぞれレール部24が固定される。第1移動台25は、各側板23bの掛け渡されるように配置され、各支持部25aが各側板23bのレール部24に移動自在に支持される。すなわち、第1移動台25は、支持板23に対して水平方向である第1方向Xに沿って移動自在に支持される。なお、第1移動台25は、図示しない駆動装置により第1方向Xに移動可能であるが、手動で移動可能としてもよい。
【0016】
第1移動台25は、レール部26が固定される。第2移動台27は、レール部26により第1移動第25に対して水平方向である第2方向Yに沿って移動自在に支持される。第1方向Xと第2方向Yは、互いに直交する。なお、第2移動台27は、図示しない駆動装置により第2方向Yに移動可能であるが、手動で移動可能としてもよい。そして、加工装置18は、第2移動台27に支持される。すなわち、加工装置18は、装置本体11に対して第1方向Xおよび第2方向Yに沿って移動自在に支持され、加工対象物100の造形面106を加工することで、造形面106の角度(平行度)を修正可能である。加工装置18は、例えば、レーザ加工装置であるが、検索装置などの加工装置であってもよい。
【0017】
昇降台28は、複数のガイドロッド28aが支持板23に固定された複数のガイド部材29により昇降自在に支持される。また、取付板21は、複数の昇降装置30が固定され、昇降装置30は、昇降ロッド30aの先端部が昇降台28に連結される。そのため、昇降装置30を駆動することで、昇降台28を鉛直方向である第3方向Zに沿って移動可能である。第3方向Zは、第1方向Xおよび第2方向Yに直交する。
【0018】
昇降台28は、枠形状をなし、中央部の開口部の下方に粉末受け部材12および粉末保持部材13が配置される。粉末受け部材12は、矩形のプレート形状をなし、支持板23の上部に固定される。粉末受け部材12は、造形面106を有する加工対象物100の側面(翼部101の外周面)に接触して金属粉末(粉末材料)Pを受け取る。粉末保持部材13は、四角の枠形状をなし、粉末受け部材12の外方で粉末受け部材12の外周面に沿って配置される。粉末保持部材13は、粉末受け部材12の外面に接触すると共に、造形面106に交差する造形方向である第3方向Zに沿って移動自在に支持される。そして、移動装置14は、昇降台28に配置され、粉末受け部材12に対して粉末保持部材13を造形方向である第3方向Zに沿って移動可能である。
【0019】
粉末供給装置15は、装置本体11の上方に配置される。粉末供給装置15は、図示しない移動装置により第1方向Xおよび第2方向Y、好ましくは第3方向Zに沿って移動自在に支持される。粉末供給装置15は、粉末材料である金属粉末Pを加工対象物100の少なくとも造形面106に向けて供給可能である。
【0020】
複数のガイド部材29は、一対のレール部31が固定される。一対のレール部31は、一対のレール部24と平行をなすように第1方向Xに沿って配置される。一対の第3移動台32は、それぞれ一対のレール部31に沿って第1方向Xに沿って移動自在に支持される。一対の第3移動台32は、連結ロッド33により連結される。また、粉末リコータ16は、一対の第3移動台32の間で、一対の第3移動台32に一対の吊り下げ部材34を介して吊り下げ支持される。粉末リコータ16は、加工対象物100の造形面106上の金属粉末Pの上面を平滑面P1とする。粉末リコータ16は、作業者が連結ロッド33を持って移動するものであるが、駆動装置により駆動可能としてもよい。
【0021】
計測装置19は、粉末リコータ16に装着される。計測装置19は、粉末リコータ16における第2方向Yにおける一端部と他端部に装着される。計測装置19は、装置本体11に対して、粉末リコータ16と共に第1方向Xに沿って移動自在に支持される。計測装置19は、造形面106の角度を計測可能である。計測装置19は、例えば、造形面106までの距離を計測するレーザ計測装置であるが、他の計測装置であってもよい。
【0022】
照射装置17は、装置本体11の上方に配置される。照射装置17は、図示しない移動装置により第1方向Xおよび第2方向Y、好ましくは第3方向Zに沿って移動自在に支持される。照射装置17は、加工対象物100の造形面106上の金属粉末Pに対して光ビームRを照射し、金属粉末Pを溶融固化させることで成形層を形成する。ここで、照射装置17が照射する光ビームRは、例えば、レーザビームや電子ビームなどである。
【0023】
不活性ガス供給装置20は、装置本体11に配置される。不活性ガス供給装置20は、加工対象物100の造形面106上の金属粉末Pの平滑面P1に沿って不活性ガスを供給する。不活性ガス供給装置20は、噴出ノズル36と、供給ライン37と、開閉弁(好ましくは、流量調整弁)38と、ガスタンク39とを有する。噴出ノズル36は、好ましくは、粉末保持部材13に配置される。噴出ノズル36は、供給ライン37を介してガスタンク39に連結される。開閉弁38は、供給ライン37に設けられる。ここで、不活性ガス供給装置が供給する不活性ガスは、アルゴンや窒素などである。
【0024】
移動装置14と粉末供給装置15と照射装置17と加工装置18と計測装置19と不活性ガス供給装置20(開閉弁38)は、制御部70に接続される。制御部70は、移動装置14、粉末供給装置15、照射装置17、加工装置18、計測装置19、不活性ガス供給装置20の開閉弁38を駆動制御可能である。ここで、制御部70は、制御装置であり、制御装置は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。
【0025】
<粉末受け部材および粉末保持部材>
図3は、三次元積層装置の要部を表す平面図、
図4は、
図3のIV-IV断面図である。
【0026】
図3および
図4に示すように、粉末受け部材12は、底部12aと、縦壁部13bとを有する。粉末受け部材12は、底部12aの外周部に4個の縦壁部13bが一体に設けられて構成される。粉末受け部材12は、底部12aに加工対象物100の側面を含む外周面に嵌合する開口部41を有する。開口部41は、加工対象物100の翼部101の形状であり、翼部101より一回り大きい寸法である。そのため、粉末受け部材12は、開口部41が翼部101に嵌合する。このとき、粉末受け部材12の開口部41内周面と翼部101の外周面との間の隙間を埋める部材を設けることが好ましい。
【0027】
粉末保持部材13と粉末受け部材12は、少なくともいずれか一方にシール部材42が設けられる。本実施形態にて、シール部材42は、粉末保持部材13に設けられる。すなわち、粉末保持部材13は、各縦壁部12bの外側に周方向に沿って溝部12cが形成される。シール部材42は、四角形状をなし、粉末保持部材13における各縦壁部12bの溝部12cに固定される。粉末受け部材12は、粉末保持部材13の外方に位置し、内周面がシール部材42の外周面に密着する。そのため、粉末保持部材13に対して粉末受け部材12が第3方向Zに沿って移動しても、粉末保持部材13と粉末受け部材12は、シール部材42を介して密着状態が維持される。なお、シール部材42は、粉末受け部材12に設けてもよい。
【0028】
<粉末リコータ>
図5は、粉末リコータを表す正面図、
図6は、粉末リコータを表す側面図である。
【0029】
図5および
図6に示すように、粉末リコータ16は、支持板51と、リコータ本体52と、複数の把持部材53と、複数のブレード54と、高さ調整装置55とを有する。
【0030】
支持板51は、第2方向Yに沿って配置される。支持板51は、一対の吊り下げ部材34を介して各第3移動台32に吊り下げ支持される。リコータ本体52は、支持板51の下方で第2方向Yに沿って配置される。リコータ本体52は、下方および側方に開口する開口溝52aが第2方向Yに沿って形成される。複数の把持部材53は、リコータ本体52の下方に配置される。各把持部材53は、上部に吊下支持部53aが設けられる。把持部材53は、吊下支持部53aがリコータ本体52の開口溝52aに第2方向Yに沿って移動自在に嵌合し、所定の位置に位置決め可能である。
【0031】
また、各把持部材53は、それぞれ複数のブレード54の上部を把持可能である。複数の把持部材53と複数のブレード54と、同じ形状をなす。高さ調整装置55は、支持板51の上部の両側に配置される。すなわち、1個の高さ調整装置55は、支持板51における第2方向Yの一方側に配置され、もう1個の高さ調整装置55は、支持板51における第2方向Yの他方側に配置される。各高さ調整装置55は、駆動ロッド55aの先端部が支持板51を貫通し、リコータ本体52に連結される。
【0032】
そのため、粉末リコータ16は、リコータ本体52に対して造形面106と平行をなす第2方向Yに並んで複数のブレード54が着脱自在に装着される。このとき、粉末リコータ16は、複数の把持部材53およびブレード54のうち、不要である把持部材53およびブレード54を取り外すことができる。そして、粉末リコータ16は、造形面106と平行をなす第1方向Xに沿って移動可能である。また、高さ調整装置55は、装置本体11に対するリコータ本体52の角度、つまり、加工対象物100の造形面106に対する複数のブレード54の平行度を調整可能である。
【0033】
<三次元積層方法>
図7は、三次元積層方法を説明するためのフローチャートである。
【0034】
本実施形態の三次元積層方法は、加工対象物100に粉末受け部材12が接触した状態で加工対象物100の造形面106に金属粉末Pを供給する工程と、造形面106上の金属粉末Pに光ビームRを照射して溶融固化させることで第1成形層を形成する工程と、粉末受け部材12に接触する粉末保持部材13を造形面106に交差する造形方向に沿って所定距離だけ移動する工程と、第1成形層上に金属粉末Pを供給する工程と、第1成形層上の金属粉末Pに光ビームRを照射して溶融固化させることで第2成形層を形成する工程とを有する。
【0035】
具体的に説明すると、ステップS11にて、加工対象物100を位置決めし、ステップS12にて、造形面106に対して粗加工を実施する。
【0036】
図8は、加工対象物の造形面に対する粗加工方法を表す概略図である。
図8に示すように、加工対象物100は、所定の位置に載置され、治具111により翼根部103が所定の位置に固定されることで、位置決めされる。このとき、加工対象物100は、造形面106がほぼ水平をなすように配置される。そして、加工対象物100の造形面106に対して、粗加工を実施する。この場合、造形面106に対する粗加工は、例えば、グラインダなどにより実施される。
【0037】
ステップS13にて、加工対象物100の三次元モデルを作成する。加工対象物100の基準三次元モデルは、CAD(Computer Aided Design)により設計データとして保存される。制御部70は、加工対象物100の基準三次元モデルに対して、現在の加工対象物100の三次元モデルを作成する。
【0038】
図9は、加工対象物の三次元モデル作成方法を表す概略図である。
図9に示すように、加工対象物100は、鋳造により製作されることから、製造誤差が発生する。また、加工対象物100は、長期間にわたって使用されてものであることから、翼部101、プラットフォーム102、翼根部103などが変形している。さらに、加工対象物100は、治具111により位置決め固定されるものであるが、位置決め誤差が発生する。そのため、制御部70は、基準三次元モデルに基づいて現在の三次元モデルを作成し、造形物107を造形する造形面106を修正する。
【0039】
ステップS14にて、位置決め固定された加工対象物100に対して、三次元積層装置10を配置する。
【0040】
図10は、加工対象物に対する三次元積層装置の装着方法を表す概略図である。
図10に示すように、三次元積層装置10に装着された粉末受け部材12は、加工対象物100の翼部101に対応した開口部41(
図5参照)が形成されている。そのため、位置決めされた加工対象物100に対して装置本体11を移動し、加工対象物100の翼部101に粉末受け部材12の開口部41が嵌合した状態に配置する。
【0041】
ステップS15にて、加工対象物100における造形面106に対して微細加工を実施する。すなわち、加工対象物100は、造形面106が水平となるように位置決め固定されているものの、平行度がずれている可能性がある。そのため、加工対象物100の造形面106が水平となるように微細加工が実施される。このとき、作業者は、粉末リコータ16を第1方向Xに沿って移動することで、計測装置19により造形面106の角度(平行度)を計測する。
【0042】
図11は、加工対象物の造形面に対する微細加工方法を表す概略図である。
図11に示すように、加工対象物100における造形面106の上方に加工装置18を位置させる。制御部70は、加工装置18を第1方向Xおよび第2方向Yに移動することで、造形面106を微細加工する。この場合、造形面106に対する加工装置18による微細加工は、例えば、レーザ加工や研磨加工などにより実施される。なお、加工装置18による造形面106を微細加工後、計測装置19により造形面106の角度(平行度)を計測して確認する。
【0043】
ステップS16にて、照射装置17から照射する光ビームの照射位置を調整する。すなわち、制御部70は、加工対象物100の三次元モデルに基づいて造形面106に位置を把握し、造形面106に対する照射装置17からの光ビームRの照射位置を規定する。
【0044】
ステップS17にて、粉末リコータ16の調整作業を行う。加工対象物100は。翼部101に突起部104があることから、粉末リコータ16におけるブレード54の形状を調整する必要がある。すなわち、粉末リコータ16が第1方向Xに移動するとき、突起部104に当接するブレード54を取り外す。
【0045】
ステップS18にて、制御部70は、移動装置14により粉末保持部材13を所定距離だけ上昇する。すなわち、制御部70は、粉末保持部材13を上昇させ、加工対象物100の造形面106に対して金属粉末Pの所定の積層量だけ、粉末保持部材13の上面が上方に位置するように位置させる。ここで、粉末保持部材13の上昇距離は、金属粉末Pの積層高さであり、成形層の厚さとなる。
【0046】
ステップS19にて、制御部70は、粉末供給装置15を作動して粉末受け部材12に対して金属粉末Pを供給する。すなわち、粉末供給装置15は、加工対象物100の造形面106が被覆されるように、粉末受け部材12に対して金属粉末Pを供給する。
【0047】
図12は、金属粉末の供給方法を表す概略図である。
図12に示すように、加工対象物100は、翼部101の周囲に粉末受け部材12が配置され、粉末受け部材12は、周囲に粉末保持部材13が配置される。そのため、翼部101と粉末受け部材12と粉末保持部材13との間に粉末充填空間部が形成される。粉末供給装置15は、粉末充填空間部および造形面106が埋まるように金属粉末Pを供給する。
【0048】
ステップS0にて、制御部70は、粉末リコータ16を作動し、翼部101と粉末受け部材12と粉末保持部材13との間に粉末充填空間部に充填された金属粉末Pの上面に平滑面P1を形成する。この場合、金属粉末Pの平滑面P1は、少なくとも造形面106に上面だけに形成されていればよい。
【0049】
図13は、粉末リコータによる金属粉末Pの平滑面P1の形成方法を表す概略図である。
図13に示すように、粉末リコータ16は、突起部104に当接するブレード54が取り外されている。作業者は、粉末リコータ16を第1方向Xに沿って移動すると、ブレード54により造形面106上の余分な金属粉末Pが掻き取られ、金属粉末Pの平滑面P1が形成される。すなわち、造形面106上に所定厚さの金属粉末Pの層が形成される。
【0050】
ステップS21にて、制御部70は、不活性ガス供給装置20を作動し、開閉弁38を開放することで、噴出ノズル36から金属粉末Pの平滑面P1に沿って不活性ガスを噴出する。そして、ステップS22にて、この状態で、制御部70は、照射装置17から造形面106上の金属粉末Pの平滑面P1に対して光ビームRを照射する。
【0051】
図14は、光ビームの照射による造形方法を表す概略図である。
図14に示すように、不活性ガス供給装置20は、金属粉末Pの平滑面P1に沿って不活性ガスを噴出することで、金属粉末Pの平滑面P1の上方空間を不活性ガス雰囲気に維持する。この状態で、照射装置17は、造形面106上の金属粉末Pの平滑面P1に向けて光ビームRを照射する。このとき、照射装置17を第1方向Xおよび第2方向Yに沿って移動することで、造形面106の上面に全ての領域に対して光ビームRを照射する。すると、造形面106上の領域にある金属粉末P溶融した後に固化することで、造形面106上に第1成形層が形成される。
【0052】
ステップS23にて、制御部70は、三次元造形が終了したか否かを判定する。すなわち、制御部70は、加工対象物100の造形面106に所定高さの造形物107が造形されたか否かを判定する。ここで、制御部70は、加工対象物100の造形面106に所定高さの造形物107が造形されていないと判定(No)すると、ステップS18に移行し、ステップS18~S22の処理を再度実施する。
【0053】
つまり、ステップS18~S22にて、制御部70は、粉末保持部材13を所定距離だけ上昇し、粉末供給装置15により粉末受け部材12に対して金属粉末Pを供給した後、粉末リコータ16を作動し、金属粉末Pの上面に平滑面P1を形成する。そして、制御部70は、不活性ガス供給装置20を作動し、金属粉末Pの平滑面P1の上方空間を不活性ガス雰囲気に維持した状態で、照射装置17により金属粉末Pの平滑面P1に向けて光ビームRを照射する。すると、造形面106上の領域にある金属粉末P溶融した後に固化することで、第1成形層上に第2成形層が形成される。
【0054】
ステップS18~S22の処理を繰り返し実施することで、加工対象物100の造形面106上に所定高さの造形物107が造形される。
【0055】
図15は、加工対象物の造形面に対する造形物の造形状態を表す概略図である。
図15に示すように、造形面106上に金属粉末Pの溶融、固化を繰り返すことで、造形面106上に複数の成形層を積層し、造形物107を造形する。
【0056】
すると、ステップS23にて、制御部70は、加工対象物100の造形面106に所定高さの造形物107が造形されたと判定(Yes)し、ステップS24に移行する。ステップS24にて、作業者は、加工対象物100から三次元積層装置10を取り外して作業終了となる。
【0057】
図16は、造形物が造形された加工対象物を表す概略図である。
図16に示すように、加工対象物100は、翼部101の一方側に突起部104が設けられると共に、翼部101の他方側の造形面106に突起部105としての造形物107が形成される。
【0058】
なお、本実施形態の三次元積層方法は、上述した方法に限定されるものではない。
図17は、変形例の造形物が造形された加工対象物を表す概略図である。
【0059】
図17に示すように、加工対象物100は、翼部101の一方側に突起部104が設けられると共に、翼部101の他方側の造形面106に突起部105としての造形物107Aが形成される。造形物107Aは、積層部121と、溶接部122とから構成される。
【0060】
すなわち、
図15にて、加工対象物100は、造形面106上に金属粉末Pの溶融、固化を繰り返すことで、造形面106上に複数の成形層を積層し、造形物107を造形する。一方、
図16にて、加工対象物100は、造形面106上に金属粉末Pの溶融、固化を繰り返すことで、造形面106上に複数の積層部121を積層した後、積層部121上に溶接部122を溶接することで造形物107Aを造形する。
【0061】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る三次元積層装置は、造形面106を有する加工対象物100に接触して金属粉末(粉末材料)Pを受ける粉末受け部材12と、粉末受け部材12に接触すると共に造形面106に交差する造形方向に沿って移動自在に支持される粉末保持部材13と、粉末保持部材13を造形方向に沿って移動可能な移動装置14と、造形面106上の金属粉末Pに光ビームRを照射して溶融固化させることで成形層を形成する照射装置17とを備える。
【0062】
第1の態様に係る三次元積層装置によれば、加工対象物100に接触する粉末受け部材12を設けると共に、粉末受け部材12に接触すると共に造形方向に沿って移動自在な粉末保持部材13を設けることで、粉末受け部材12が余分な金属粉末Pを受け止めることができ、粉末保持部材13を造形方向に沿って移動することで、造形面106上に所定厚さの金属粉末Pを積層することができる。そのため、加工対象物100を収容するためのチャンバが不要となり、三次元積層を行う加工対象物100の大きさに制約を受けることがない。また、粉末受け部材12に対して粉末保持部材13を移動するだけでよく、加工対象物100を昇降させることが不要となり、造形物を高精度に造形することができる。
【0063】
第2の態様に係る三次元積層装置は、第1の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、粉末受け部材12が加工対象物100の外周面に沿う開口部41を有する。これにより、粉末受け部材12が加工対象物100の周囲に位置することとなり、粉末受け部材12が余分な金属粉末Pを適切に受け止めることができる。
【0064】
第3の態様に係る三次元積層装置は、第2の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、粉末保持部材13が粉末受け部材12の外周面に沿って設けられる枠形状をなす。これにより、粉末保持部材13が粉末受け部材12の周囲に位置することとなり、造形面106上に所定厚さの金属粉末Pの層を適切に形成することができる。
【0065】
第4の態様に係る三次元積層装置は、第3の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、粉末保持部材13と粉末受け部材12とのいずれか一方にシール部材42が設けられる。これにより、粉末保持部材13と粉末受け部材12との隙間からの金属粉末Pの漏れを防止することができる。
【0066】
第5の態様に係る三次元積層装置は、第1の態様から第4の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、造形面106上の金属粉末Pの上面を平滑面P1とする粉末リコータ16を有する。これにより、造形面106上に所定厚さの金属粉末Pの層を高精度(例えば、0.05mm以下)に形成することができる。
【0067】
第6の態様に係る三次元積層装置は、第5の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、粉末リコータ16は、造形面106と平行をなす第1方向Xに移動自在に支持されるリコータ本体52と、リコータ本体52に対して造形面106と平行をなすと共に第1方向Xに直交する第2方向Yに並んで着脱自在に装着される複数のブレード54とを有する。これにより、リコータ本体52から不要なブレード54を取り外すことで、加工対象物100の上部と粉末リコータ16との接触を避けることができ、加工対象物100の上部形状に拘わらず、ブレード54により造形面106上に所定厚さの金属粉末Pの層を形成することができ、造形物を高精度に造形することができる。
【0068】
第7の態様に係る三次元積層装置は、第6の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、粉末リコータ16が造形面106に対するリコータ本体52の平行度を調整する高さ調整装置55を有する。これにより、造形面106上に所定厚さの金属粉末Pの層を高精度に形成することができる。
【0069】
第8の態様に係る三次元積層装置は、第6の態様または第7の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、リコータ本体52と共に第1方向Xに沿って移動自在に支持されて造形面106の角度を計測する計測装置19を有する。これにより、計測装置19の計測結果に基づいて造形面106を高精度に加工することができると共に、リコータ本体52の角度調整を高精度に行うことができる。
【0070】
第9の態様に係る三次元積層装置は、第6の態様から第8の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、装置本体11に対して第1方向Xおよび第2方向Yに沿って移動自在に支持されて造形面106を加工することで造形面106の角度を補正する加工装置18を有する。これにより、加工装置18により造形面106の角度を高精度に補正することができる。
【0071】
第10の態様に係る三次元積層装置は、第1の態様から第9の態様に係る三次元積層装置であって、さらに、造形面106上の金属粉末Pの平滑面P1に沿って不活性ガスGを供給する不活性ガス供給装置20を有する。これにより、金属粉末Pの平滑面P1の上方領域を不活性ガス雰囲気とすることで、金属粉末Pの酸化を抑制することができる。
【0072】
第11の態様に係る三次元積層方法は、加工対象物100に粉末受け部材12が接触した状態で加工対象物100の造形面106に金属粉末Pを供給する工程と、造形面106上の金属粉末Pに光ビームRを照射して溶融固化させることで第1成形層を形成する工程と、粉末受け部材12に接触する粉末保持部材13を造形面106に交差する造形方向に沿って所定距離だけ移動する工程と、第1成形層上に金属粉末Pを供給する工程と、第1成形層上の金属粉末Pに光ビームRを照射して溶融固化させることで第2成形層を形成する工程とを有する。そのため、加工対象物100を収容するためのチャンバが不要となり、三次元積層を行う加工対象物100の大きさに制約を受けることがない。また、粉末受け部材12に対して粉末保持部材13を移動するだけでよく、加工対象物100を昇降させることが不要となり、造形物を高精度に造形することができる。
【0073】
第12の態様に係る三次元積層方法は、第11の態様に係る三次元積層方法であって、さらに、加工対象物100の造形面106上の金属粉末Pの平滑面P1に沿って不活性ガスGを噴出することで不活性ガス雰囲気を形成した後、金属粉末Pに光ビームRを照射する。これにより、金属粉末Pの平滑面P1の上方領域を不活性ガス雰囲気とすることで、金属粉末Pの酸化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 三次元積層装置
11 装置本体
12 粉末受け部材
13 粉末保持部材
14 移動装置
15 粉末供給装置
16 粉末リコータ
17 照射装置
18 加工装置
19 計測装置
20 不活性ガス供給装置
21 取付板
22 支持ロッド
23 支持板
24 レール部
25 第1移動台
26 レール部
27 第2移動台
28 昇降台
29 ガイド部材
30 昇降装置
31 レール部
32 第3移動台
33 連結ロッド
34 吊り下げ部材
36 噴出ノズル
37 供給ライン
38 開閉弁
39 ガスタンク
41 開口部
42 シール部材
51 支持板
52 リコータ本体
53 把持部材
54 ブレード
55 高さ調整装置
70 制御部
100 加工対象物
101 翼部
102 プラットフォーム
103 翼根部
104,105 突起部
106 造形面
107,107A 造形物
111 治具
G 不活性ガス
P 金属粉末(粉末材料)
R 光ビーム