(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167430
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】アンテナモジュール及びこれを備えるICカード
(51)【国際特許分類】
H01Q 7/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
H01Q7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078611
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】梶木屋 翔磨
(57)【要約】
【課題】ICカードへの応用が好適なアンテナモジュールを提供する
【解決手段】アンテナモジュール1は、電流方向が互いに逆向きとなるよう直列に接続された第1及び第2コイル110,120と、第1コイル110の開口部111と重なる位置に設けられた貫通孔31を有する磁性シート30とを備える。第2コイル120は磁性シート30と重なる。これによれば、磁性シート30の貫通孔31を介して第1コイル110と重なる位置にICモジュール50を配置することにより、第1及び第2コイル110,120とICモジュール50を電磁界結合させることが可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流方向が互いに逆向きとなるよう直列に接続された第1及び第2コイルと、
前記第1コイルの開口部と重なる位置に設けられた貫通孔を有する磁性シートと、を備え、
前記第2コイルは、前記磁性シートと重なる、アンテナモジュール。
【請求項2】
前記第1コイルと前記第2コイルの間に接続されたキャパシタをさらに備える、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項3】
前記第1及び第2コイルを介して前記磁性シートと重なる第1メタルプレートをさらに備え、
前記第1メタルプレートは、前記第1コイルの開口部と重なる第1貫通孔と、前記第2コイルの開口部と重なる第2貫通孔と、前記第1貫通孔と外縁の間に設けられた第1スリットと、前記第2貫通孔と前記外縁の間に設けられた第2スリットとを有する、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項4】
前記第1貫通孔内に位置する第1磁性体と、
前記第2貫通孔内に位置する第2磁性体と、をさらに備える、請求項3に記載のアンテナモジュール。
【請求項5】
前記第1磁性体は、前記第1コイル側の表面に凹部を有する、請求項4に記載のアンテナモジュール。
【請求項6】
前記第1及び第2コイルに直列接続され、前記第1メタルプレートの前記外縁に沿って周回する第3コイルをさらに備える、請求項3に記載のアンテナモジュール。
【請求項7】
前記第1貫通孔のエッジは、平面視で前記第1コイルの最内周ターンと最外周ターンの間に位置し、
前記第2貫通孔のエッジは、平面視で前記第2コイルの最内周ターンと最外周ターンの間に位置する、請求項3に記載のアンテナモジュール。
【請求項8】
前記第1メタルプレートの平面形状は略矩形状であり、
前記第1コイルの開口部と前記第2コイルの開口部は、前記第1メタルプレートの長手方向における位置が互いに異なっており、且つ、前記第1メタルプレートの短手方向における位置が部分的に重なるよう互いにオフセットしている、請求項3に記載のアンテナモジュール。
【請求項9】
前記磁性シートを介して前記第1メタルプレートと重なる第2メタルプレートをさらに備え、
前記第2メタルプレートは、前記磁性シートの前記貫通孔と重なる第3貫通孔を有する、請求項3乃至8のいずれか一項に記載のアンテナモジュール。
【請求項10】
請求項9に記載のアンテナモジュールと、
前記第3貫通孔内に配置されたICモジュールと、を備えるICカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナモジュール及びこれを備えるICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対向する2辺にそれぞれ切欠形状部が形成された面状導体と、切欠形状部と重なる位置に配置され、電流方向が互いに逆向きとなる2つのコイル導体を備えたアンテナモジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたアンテナモジュールは、ポゴピンなどを用いてRFICに接続する必要があることから、ICカードへの応用は困難である。
【0005】
したがって、本開示は、ICカードへの応用が好適なアンテナモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施態様によるアンテナモジュールは、電流方向が互いに逆向きとなるよう直列に接続された第1及び第2コイルと、第1コイルの開口部と重なる位置に設けられた貫通孔を有する磁性シートとを備え、第2コイルは磁性シートと重なる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ICカードへの応用が好適なアンテナモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態によるアンテナモジュールを備えるICカード3の外観を示す略斜視図である。
【
図2】
図2は、本開示の第1の実施形態によるアンテナモジュール1を備えるICカード3の構造を説明するための略分解斜視図である。
【
図3】
図3は、本開示の第1の実施形態によるアンテナモジュール1を備えるICカード3の構造を説明するための略断面図である。
【
図4】
図4は、基材20の一方の表面21に形成された導体パターンを基材20の他方の表面22側から見た略平面図である。
【
図5】
図5は、基材20の他方の表面22に形成された導体パターンの略平面図である。
【
図6】
図6は、ICモジュール50を裏面側から見た略斜視図である。
【
図7】
図7(a),(b)は、ICカード3とカードリーダー6が通信を行う状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は、ICカード3において第1メタルプレート10に生じる渦電流の分布を示すシミュレーション結果であり、(a)は第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向における位置が同じである場合を示し、(b)は第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向における位置が互いにオフセットしている場合を示している。
【
図9】
図9は、本開示の第2の実施形態によるアンテナモジュール2を備えるICカード4の構造を説明するための略分解斜視図である。
【
図10】
図10は、本開示の第2の実施形態によるアンテナモジュール2を備えるICカード4の構造を説明するための略断面図である。
【
図11】
図11は、基材20の一方の表面21に形成された導体パターンを基材20の他方の表面22側から見た略平面図である。
【
図12】
図12は、基材20の他方の表面22に形成された導体パターンの略平面図である。
【
図13】
図13は、ICカード4とカードリーダー6が通信を行う状態を示す模式図である。
【
図14】
図14は、本開示の第2の実施形態によるアンテナモジュール2を備えるICカード5の構造を説明するための略断面図である。
【
図15】
図15は、ICカード5において第1メタルプレート10に生じる渦電流の分布を示すシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本開示の一実施形態によるアンテナモジュールを備えるICカード3の外観を示す略斜視図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態によるICカード3は、Y方向を長手方向、X方向を短手方向、Z方向を厚み方向とする板状体であり、XY面を構成する上面3aと裏面3bを有している。ICカード3には後述するICモジュールが内蔵されており、ICモジュールの端子電極EがICカード3の上面3aに露出している。
【0012】
図2及び
図3は、それぞれ本開示の第1の実施形態によるアンテナモジュール1を備えるICカード3の構造を説明するための略分解斜視図及び略断面図である。
【0013】
図2及び
図3に示すICカード3は、裏面3b側から上面3a側に向かって、第1メタルプレート10、基材20、磁性シート30及び第2メタルプレート40がこの順に積層された構造を有している。第1及び第2メタルプレート10,40は、ステンレスやチタンなどの金属材料からなる。第2メタルプレート40の表面はICカード3の上面3aを構成し、第1メタルプレート10の表面はICカード3の裏面3bを構成する。このように、ICカード3は、本体にメタルプレートが用いられたカードであって、カード両面がメタルプレートから構成されるカードである。なお、ICカード3の上面3a側は、金属材料からなる第2メタルプレート40に代えて、プラスチックなどの樹脂材料からなる樹脂プレートから構成されていても構わない。
【0014】
第1メタルプレート10には、第1及び第2貫通孔11,12と第1及び第2スリット13,14が設けられている。第1スリット13は、第1貫通孔11と外縁15の間に設けられており、第2スリット14は、第2貫通孔12と外縁15の間に設けられている。これにより、第1及び第2貫通孔11,12の内壁は、閉じることなくそれぞれ第1及び第2スリット13,14を介して、第1メタルプレート10の外縁15に繋がっている。その結果、第1及び第2貫通孔11,12の周囲に生じた渦電流は、第1及び第2スリット13,14によって第1及び第2貫通孔11,12の周囲を周回することができず、これにより第1メタルプレート10のより広い領域がアンテナの一部として機能する。また、第1及び第2貫通孔11,12は、第1メタルプレート10の長手方向であるY方向における位置が互いに異なっており、これにより第1メタルプレート10のより広い領域がアンテナの一部として機能する。本実施形態では、第1スリット13が繋がる第1メタルプレート10の外縁15と第2スリット14が繋がる第1メタルプレート10の外縁15は、第1メタルプレート10の対向する2辺であって、第1スリット13が第1貫通孔11から外縁15に向かう方向と第2スリット14が第2貫通孔12から外縁15に向かう方向は反対方向である。第2メタルプレート40には第3貫通孔41が設けられており、貫通孔41の内部にはICモジュール50が配置されている。
【0015】
基材20は、PET(ポリエチレンテレフタレート)などの絶縁性樹脂材料からなるフィルムであり、その一方の表面21に第1コイル110、第2コイル120及びキャパシタ電極101が設けられ、他方の表面22にキャパシタ電極103が設けられている。第1コイル110の開口部111は、Z方向から見た平面視で第1メタルプレート10の第1貫通孔11と重なりを有している。第2コイル120の開口部121は、Z方向から見た平面視で第1メタルプレート10の第2貫通孔12と重なりを有している。したがって、第1及び第2開口部111,121についても、Y方向における位置が互いに異なっている。キャパシタ電極101,103は基材20を介して対向しており、これによりキャパシタCを構成する。基材20は、一方の表面21が第1メタルプレート10側を向くよう配置される。第1メタルプレート10と基材20は、接着層61を介して接着される。
【0016】
基材20の他方の表面22は、磁性シート30で覆われる。磁性シート30と基材20は、接着層62を介して接着される。磁性シート30及び接着層62には、第1コイル110の開口部111と重なる位置にそれぞれ貫通孔31,64が設けられている。磁性シート30は、シート状の磁性体であっても構わないし、接着層62を用いずに磁性粒子と樹脂を混合したペースト状部材を基材20の他方の表面22に塗布し、これを硬化させたものであっても構わない。本実施形態によるアンテナモジュール1は、少なくとも基材20及びその表面21,22に形成された導体パターンと磁性シート30によって構成される。第2メタルプレート40と磁性シート30は、接着層63を介して接着される。第2メタルプレート40及び接着層63には、第1コイル110の開口部111と重なる位置にそれぞれ貫通孔41,65が設けられている。
【0017】
図3に示すように、第1メタルプレート10の第1貫通孔11、第1コイル110の開口部111、磁性シート30の貫通孔31及び第2メタルプレート40の第3貫通孔41は、Z方向から見た平面視で、互いに重なる位置に設けられている。第1コイル110は、少なくとも開口部111が磁性シート30の貫通孔31と重なりを有している必要があるが、第1コイル110の全体が磁性シート30の貫通孔31と重なりを有していても構わない。つまり、第1コイル110は、磁性シート30と重なる部分を有していなくても構わない。これに対し、第2コイル120と重なる領域には磁性シート30に貫通孔が設けられておらず、第2コイル120の全体が磁性シート30と重なっている。第2コイル120は、貫通孔31と重なることなく磁性シート30と重なっている。
【0018】
ここで、第1コイル110は、少なくとも開口部111が第1メタルプレート10の第1貫通孔11と重なりを有している必要があるが、Z方向から見た平面視で、第1貫通孔11のエッジが第1コイル110の最内周ターンと最外周ターンの間に位置していてもよい。同様に、第2コイル120は、少なくとも開口部121が第1メタルプレート10の第2貫通孔12と重なりを有している必要があるが、Z方向から見た平面視で、第2貫通孔12のエッジが第2コイル120の最内周ターンと最外周ターンの間に位置していてもよい。換言すれば、Z方向から見た平面視で、第1及び第2コイル110,120の巻き幅領域内に開口部111,121のエッジが位置していてもよい。巻き幅領域は、最内周ターンの近傍や最外周ターンの近傍に比べると磁束密度が低いため、この位置に開口部111,121のエッジを配置することにより、第1及び第2コイル110,120が渦電流の影響を受けにくくなる。その結果、インダクタンスの低下や交流抵抗の増加が抑えられる。
【0019】
図4は、基材20の一方の表面21に形成された導体パターンを基材20の他方の表面22側から見た略平面図である。尚、
図4に示すA-A線は、
図3の断面位置を示している。
【0020】
図4に示すように、基材20の一方の表面21には、第1コイル110と、第2コイル120と、第1コイル110の外周端と第2コイル120の外周端を接続する配線パターン100と、配線パターン100に接続されたキャパシタ電極101が設けられている。
図4に示す例では、第1及び第2コイル110,120の外形及び開口部が略矩形であり、ターン数が約6ターンである。ここで、第1コイル110は、外周端から内周端に向かって左回り(反時計回り)に周回するのに対し、第2コイル120は、外周端から内周端に向かって右回り(時計回り)に周回する。そして、第1コイル110の外周端と第2コイル120の外周端が配線パターン100を介して接続されていることから、第1コイル110と第2コイル120に流れる電流方向は、互いに逆向きとなる。但し、第1コイル110と第2コイル120に流れる電流方向が互いに逆向きとなる限り、第1及び第2コイル110,120の外周端から内周端に向かう周回方向については限定されない。例えば、第1及び第2コイル110,120の外周端から内周端に向かう周回方向が同じ場合は、第1及び第2コイル110,120の一方のコイルの外周端を他方のコイルの内周端に接続してもよい。なお、第1及び第2コイル110,120に流れる電流は交流電流であることから、電流方向は交流電流の周波数に応じて向きが切り替わることとなる。したがって、第1コイル110と第2コイル120に流れる電流方向が互いに逆向きとなるとは、第1コイル110と第2コイル120に同じタイミングで流れる電流の向きのことである。
【0021】
図5は、基材20の他方の表面22に形成された導体パターンの略平面図である。
【0022】
図5に示すように、基材20の他方の表面22には、配線パターン102と、配線パターン102に接続されたキャパシタ電極103が設けられている。キャパシタ電極103の平面位置はキャパシタ電極101と一致しており、これにより一対のキャパシタ電極101,103とその間に位置する基材20によってキャパシタCが構成される。また、配線パターン102の一端は基材20を貫通して設けられたビア導体112を介して第1コイル110の内周端に接続される。配線パターン102の他端は基材20を貫通して設けられたビア導体122を介して第2コイル120の内周端に接続される。これにより、第1コイル110の内周端と第2コイル120の内周端は、配線パターン102を介して接続される。
【0023】
かかる構成により、第1コイル110と第2コイル120が直列に接続されるとともに、第1コイル110と第2コイル120の間にキャパシタCが並列に接続されることになる。これら第1コイル110、第2コイル120及びキャパシタCは、外部回路に接続されない閉回路を構成する。第1及び第2コイル110,120にキャパシタCを接続することは必須でないが、キャパシタCを用いることにより共振周波数の微調整が可能となり、通信特性を高めることができる。
【0024】
第1及び第2コイル110,120に電流が流れると、第1メタルプレート10には渦電流が発生する。ここで、第1コイル110と第2コイル120には互いに逆方向に電流が流れることから、第1貫通孔11の周囲に発生する渦電流の周回方向と、第2貫通孔12の周囲に発生する渦電流の周回方向も互いに逆方向となる。これにより、第1貫通孔11の周囲に発生する渦電流と第2貫通孔12の周囲に発生する渦電流が互いに強め合うことになり、第1メタルプレート10自体がアンテナの一部として機能する。
【0025】
図6は、ICモジュール50を裏面側から見た略斜視図である。
【0026】
図6に示すように、ICモジュール50は、モジュール基板51と、モジュール基板51に搭載又は内蔵されたICチップ52と、カップリングコイル53とを備えている。ICチップ52は、ドーム状の保護樹脂54で覆われることにより保護されている。モジュール基板51の表面側には、
図1に示す端子電極Eが設けられる。このような構成を有するICモジュール50は、第2メタルプレート40に設けられた第3貫通孔41に収容される。ICモジュール50が第3貫通孔41に収容されると、カップリングコイル53と基材20に設けられた第1コイル110が電磁界結合する。カップリングコイル53及び第1コイル110と重なる位置においては、磁性シート30の貫通孔31が設けられていることから、カップリングコイル53と第1コイル110の結合が磁性シート30によって妨げられることはない。
【0027】
そして、第1コイル110の開口部111は、第1メタルプレート10の第1貫通孔11を介してICカード3の裏面3bと対向していることから、
図7(a)に示すように、ICカード3の裏面3bに設けられた第1貫通孔11をカードリーダー6と向かい合わせることによって、カードリーダー6とICチップ52との間で通信を行うことができる。さらに、第1コイル110は第2コイル120に接続されていることから、
図7(b)に示すように、ICカード3の裏面3bに設けられた第2貫通孔12をカードリーダー6と向かい合わせた場合であっても、カードリーダー6とICチップ52との間で通信を行うことができる。つまり、ICカード3の長手方向における向きにかかわらず、カードリーダー6との間で正しく通信を行うことが可能となる。これにより、使用者は、ICカード3の向きを意識することなく使用することが可能となる。
【0028】
しかも、本実施形態においては、第1メタルプレート10に設けられた第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向における位置が互いにオフセットしており、これによって第1コイル110によって第1メタルプレート10に生じる渦電流と、第2コイル120によって第1メタルプレート10に生じる渦電流がより強められる。第1及び第2開口部111,121についても、X方向における位置が互いにオフセットしている。
【0029】
図8は、第1メタルプレート10に生じる渦電流の分布を示すシミュレーション結果であり、(a)は第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向における位置が同じである場合を示し、(b)は第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向における位置が互いにオフセットしている場合を示している。
図8に示すように、第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向における位置がオフセットしている方が、第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向における位置が同じである場合よりも強い渦電流が生じていることが分かる。第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向におけるオフセット量については特に限定されないが、第1貫通孔11と第2貫通孔12のX方向における中間位置が第1メタルプレート10のX方向における中心と略一致し、且つ、第1及び第2貫通孔11,12がいずれも第1メタルプレート10のX方向における中心と重なりを有していてもよい。特に、第1貫通孔11と重なる第1コイル110の開口部111と、第2貫通孔12と重なる第2コイル120の開口部121がX方向に部分的に重なるよう互いにオフセットしていてもよい。これによれば、磁界強度の高い領域のX方向への偏りが抑えられる。
【0030】
図9及び
図10は、それぞれ本開示の第2の実施形態によるアンテナモジュール2を備えるICカード4の構造を説明するための略分解斜視図及び略断面図である。
【0031】
図9及び
図10に示すICカード4は、基材20の表面21,22に形成された導体パターンの構成が異なる点において、
図2及び
図3に示したICカード3と相違している。その他の基本的な構成は、
図2及び
図3に示したICカード3と同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図9及び
図10に示すように、本実施形態においては、基材20に第3コイル130が追加されている。本実施形態によるアンテナモジュール2は、少なくとも基材20及びその表面21,22に形成された導体パターンと磁性シート30によって構成される。また、第2メタルプレート40の表面はICカード4の上面4aを構成し、第1メタルプレート10の表面はICカード4の裏面4bを構成する。
【0032】
図11は、基材20の一方の表面21に形成された導体パターンを基材20の他方の表面22側から見た略平面図である。尚、
図11に示すA-A線は、
図10の断面位置を示している。
【0033】
図11に示すように、基材20の一方の表面21には、第1コイル110と、第2コイル120と、第3コイル130と、第1コイル110の外周端と第3コイル130の内周端を接続する配線パターン104と、第2コイル120の外周端とキャパシタ電極101を接続する配線パターン105が設けられている。第1の実施形態と同様、第1コイル110は、外周端から内周端に向かって左回り(反時計回り)に周回するのに対し、第2コイル120は、外周端から内周端に向かって右回り(時計回り)に周回する。第3コイル130は、基材20の一方の表面21の外縁に沿って約1.5ターン周回する。
【0034】
図12は、基材20の他方の表面22に形成された導体パターンの略平面図である。
【0035】
図12に示すように、基材20の他方の表面22には、配線パターン102,107と、配線パターン102に接続されたキャパシタ電極103が設けられている。キャパシタ電極103の平面位置はキャパシタ電極101と一致しており、これにより一対のキャパシタ電極101,103とその間に位置する基材20によってキャパシタCが構成される。また、配線パターン102の一端は基材20を貫通して設けられたビア導体112を介して第1コイル110の内周端に接続される。配線パターン102の他端は基材20を貫通して設けられたビア導体122を介して第2コイル120の内周端に接続される。これにより、第1コイル110の内周端と第2コイル120の内周端は、配線パターン102を介して接続される。また、配線パターン107の一端は、基材20を貫通して設けられたビア導体106を介してキャパシタ電極101及び第2コイル120の外周端に接続される。さらに、配線パターン107の他端は、基材20を貫通して設けられたビア導体108を介して第3コイル130の外周端に接続される。これにより、第2コイル120の外周端と第3コイル130の外周端は、配線パターン105,107を介して接続される。
【0036】
その結果、第1コイル110、第2コイル120及び第3コイル130が直列に接続されるとともに、第2コイル120に対して並列にキャパシタCが接続されることになる。これら第1コイル110、第2コイル120、第3コイル130及びキャパシタCは、外部回路に接続されない閉回路を構成する。また、第1の実施形態と同様、第1コイル110と第2コイル120には互いに逆方向に電流が流れることから、第1貫通孔11の周囲に発生する渦電流の周回方向と、第2貫通孔12の周囲に発生する渦電流の周回方向も互いに逆方向となる。これにより、第1貫通孔11の周囲に発生する渦電流と第2貫通孔12の周囲に発生する渦電流が互いに強め合うことになる。
【0037】
第1及び第2コイル110,120に電流が流れると、第3コイル130にも電流が流れるため、第3コイル130からも磁界が発生する。
図10に示すように、第3コイル130は、Z方向から見た平面視で第1及び第2メタルプレート10,40と重なるものの、これらの外縁に沿って周回することから、第1及び第2メタルプレート10,40の外縁近傍にも磁界が生じ、これにより通信が可能となる。このため、
図13に示すように、ICカード4の表裏を逆にした状態でカードリーダー6と向かい合わせた場合であっても、第3コイル130を介して、カードリーダー6とICチップ52との間で通信を行うことが可能となる。これにより、使用者は、ICカード4の表裏を意識することなく使用することが可能となる。
【0038】
図14は、本開示の第2の実施形態によるアンテナモジュール2を備えるICカード5の構造を説明するための略断面図である。
【0039】
図14に示すICカード5は、第1メタルプレート10の貫通孔11,12の内部にそれぞれ第1及び第2磁性体71,72が設けられている点において、
図9及び
図10に示したICカード4と相違している。その他の基本的な構成は、
図9及び
図10に示したICカード4と同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
第1及び第2磁性体71,72はNiZn系のフェライトなどからなり、第1及び第2コイル110,120とカードリーダー6との間の磁気結合を高める役割を果たす。また、第1磁性体71は、第1コイル110側の表面の中央部に凹部71aが設けられている。これは、ドーム状に突出する保護樹脂54と第1磁性体71の干渉を防止することによって、ICチップ52に加わるダメージを低減するためである。これに対し、第2磁性体72にこのような凹部を設ける必要はない。
【0041】
図15は、
図14に示すICカード5において、第1メタルプレート10に生じる渦電流の分布を示すシミュレーション結果である。
図15に示すように、第1及び第2磁性体71,72を設けることによって、第1メタルプレート10により強い渦電流が生じていることが分かる。
【0042】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記の実施形態に限定されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本開示の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0043】
本開示に係る技術には、以下の構成例が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0044】
本開示によるアンテナモジュールは、電流方向が互いに逆向きとなるよう直列に接続された第1及び第2コイルと、第1コイルの開口部と重なる位置に設けられた貫通孔を有する磁性シートとを備え、第2コイルは磁性シートと重なる。これによれば、磁性シートの貫通孔を介して第1コイルと重なる位置にICモジュールなどを配置することにより、第1及び第2コイルとICモジュールを電磁界結合させることが可能となる。
【0045】
上記アンテナモジュールにおいて、第1コイルと第2コイルの間に接続されたキャパシタをさらに備えていても構わない。これによれば、共振周波数の調整が容易となることから、通信特性が高められる。
【0046】
上記いずれかのアンテナモジュールにおいて、第1及び第2コイルを介して磁性シートと重なる第1メタルプレートをさらに備え、第1メタルプレートは、第1コイルの開口部と重なる第1貫通孔と、第2コイルの開口部と重なる第2貫通孔と、第1貫通孔と外縁の間に設けられた第1スリットと、第2貫通孔と外縁の間に設けられた第2スリットとを有するものであっても構わない。これによれば、第1メタルプレート自体がアンテナの一部として機能する。
【0047】
上記アンテナモジュールにおいて、第1貫通孔内に位置する第1磁性体と、第2貫通孔内に位置する第2磁性体をさらに備えていても構わない。これによれば、第1及び第2コイルの磁気特性を高めることができる。
【0048】
上記アンテナモジュールにおいて、第1磁性体の第1コイル側の表面の中央部には、凹部が設けられていても構わない。これによれば、ICモジュールなどとの干渉を防止することが可能となる。
【0049】
上記いずれかのアンテナモジュールにおいて、第1及び第2コイルに直列接続され、第1メタルプレートの外縁に沿って周回する第3コイルをさらに備えていても構わない。これによれば、通信可能な範囲をより広げることが可能となる。
【0050】
上記いずれかのアンテナモジュールにおいて、第1貫通孔のエッジは、平面視で第1コイルの最内周ターンと最外周ターンの間に位置し、第2貫通孔のエッジは、平面視で第2コイルの最内周ターンと最外周ターンの間に位置しても構わない。これによれば、第1及び第2コイルが渦電流の影響を受けにくくなることから、インダクタンスの低下や交流抵抗の増加を抑えることができる。
【0051】
上記いずれかのアンテナモジュールにおいて、第1メタルプレートの平面形状は略矩形状であり、第1コイルの開口部と第2コイルの開口部は、第1メタルプレートの長手方向における位置が互いに異なっており、且つ、第1メタルプレートの短手方向における位置が部分的に重なるよう互いにオフセットしていても構わない。これによれば、第1メタルプレートに生じる渦電流がより強められることから、通信特性が向上する。
【0052】
上記いずれかのアンテナモジュールにおいて、磁性シートを介して第1メタルプレートと重なる第2メタルプレートをさらに備え、第2メタルプレートは、磁性シートの貫通孔と重なる第3貫通孔を有していても構わない。これによれば、第3貫通孔内にICモジュールを配置することによって、両面がメタルプレートからなるICカードを構成することが可能となる。
【0053】
本開示によるICカードは、上記アンテナモジュールと、第3貫通孔内に配置されたICモジュールと、を備える。これによれば、通信範囲の広いアンテナモジュールを備えたICカードを得ることができる。
【符号の説明】
【0054】
1,2 アンテナモジュール
3~5 ICカード
3a,4a ICカードの上面
3b,4b ICカードの裏面
6 カードリーダー
10 第1メタルプレート
11 第1貫通孔
12 第2貫通孔
13 第1スリット
14 第2スリット
15 外縁
20 基材
21,22 基材の表面
30 磁性シート
31 貫通孔
40 第2メタルプレート
41 第3貫通孔
50 ICモジュール
51 モジュール基板
52 ICチップ
53 カップリングコイル
54 保護樹脂
61~63 接着層
64,65 貫通孔
71 第1磁性体
71a 凹部
72 第2磁性体
100,102,104,105,107 配線パターン
101,103 キャパシタ電極
102,107 配線パターン
106,108 ビア導体
110 第1コイル
111 第1コイルの開口部
112 ビア導体
120 第2コイル
121 第2コイルの開口部
122 ビア導体
130 第3コイル
C キャパシタ
E 端子電極