(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167435
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】飽和地盤の解析方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
E02D 1/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078618
(22)【出願日】2022-05-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年8月2日に、令和3年度土木学会全国大会第76回年次学術講演会in関東From東海大学(http://www.jsce.or.jp/taikai2021/)の講演情報ページにおいて公開 (2)令和3年9月10日に、令和3年度土木学会全国大会第76回年次学術講演会in関東From東海大学(http://www.jsce.or.jp/taikai2021/)のオンライン講演会において公開
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野 浩樹
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA05
2D043AC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】土骨格の変位uおよび間隙水の変位Uを未知数とするu-U定式化に基づく飽和地盤の有限要素解析に対し、要素間の間隙率が不連続となる場合であっても、隣接曲面上の間隙水圧および流量の連続性を確保して、解析精度の向上を図ることが可能な、支配方程式の離散化形式による解析方法およびプログラムを提案する。
【解決手段】土骨格のつり合い式および間隙水のつり合い式を、連続式によって間隙水圧pを消去した、土骨格の変位uおよび間隙水の変位Uを未知数とするu-U定式化で記述し、有限要素解析で前記つり合い式を含む支配方程式の離散化形式を解くことにより地盤モデルの挙動の数値解を求める飽和地盤の解析方法であって、要素内の間隙率を、式1に示す間隙率マトリックスによって節点に離散化する飽和地盤の解析方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土骨格のつり合い式および間隙水のつり合い式を、連続式によって間隙水圧pを消去した、土骨格の変位uおよび間隙水の変位Uを未知数とするu-U定式化で記述し、有限要素解析で前記つり合い式を含む支配方程式の離散化形式を解くことにより地盤モデルの挙動の数値解を求める飽和地盤の解析方法であって、要素内の間隙率を、式1に示す間隙率マトリックスによって節点に離散化することを特徴とする、飽和地盤の解析方法。
【数1】
【請求項2】
有限要素法による支配方程式の空間離散化の過程において、前記要素内の土骨格と間隙水の変位ベクトルを、該要素を構成する節点での変位ベクトルと形状関数で表現した式2および式3によって近似する場合に、該要素内の間隙率を乗じた土骨格と間隙水の変位ベクトルを、前記間隙率マトリックスで表現した式4および式5によって近似し、該要素内の平均相対変位ベクトル、平均相対変位増分ベクトル、平均相対速度ベクトル、平均相対加速度ベクトルを、該間隙率マトリックスを用いて表現した式6、式7、式8、式9により近似することを特徴とする、請求項1に記載の飽和地盤の解析方法。
【数2】
【請求項3】
土骨格のつり合い式、間隙水のつり合い式および連続式を、式10、式11および式12に示す式とし、これらの保存式を含む支配方程式の空間離散化の過程において、前記間隙率マトリックスを導入することを特徴とする、請求項2に記載の飽和地盤の解析方法。
【数3】
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の飽和地盤の解析方法をコンピュータ上で機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水~土連成有限要素解析による飽和地盤の解析方法およびこれをコンピュータ上で機能させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事や地震動等に伴う飽和地盤の挙動については、有限要素法や有限体積法等で離散化された支配方程式を数値的に解析し、地盤変位や間隙水圧等に対する近似解を求めてその影響を検討する場合がある。飽和地盤の支配方程式はBiotの飽和多孔質体理論によって導くことができる。本理論では、飽和土を土骨格(固相)と間隙水(液相)の二相系でモデル化し、飽和土の密度や応力等の諸量を各相の諸量の重ね合わせで表現する。
前記理論による支配方程式には、未知数の取り方や近似の方法によって、さまざまな定式化がある。例えば、式1に示す土骨格のつり合い式、式2に示す間隙水のつり合い式および式3に示す連続式を保存式とし、間隙水の圧縮性を仮定して未知数を土骨格の変位uと間隙水の変位Uとするu-U定式化もその一つであり、これに基づく水~土連成有限要素解析が広く適用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Zienkiewicz, O. C. and Shiomi, T.:Dynamic behaviour of saturated porous media; the generalized Biot formulation and its numerical solution, International journal for numerical and analytical methods in geomechanics, Vol.8, pp.71~96, 1984.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水~土連成有限要素解析において、2つの要素が隣接する曲面上では、連通管の原理と物質収支の観点から、間隙水圧と流量が連続している必要がある。一方、有限要素法による飽和地盤のモデル化では、地層の種類や密度の違い等によって要素間の間隙率の変化が不連続となる場合がある。要素間の間隙率が不連続となる場合に、従来技術の空間離散化手法によるu-U定式化の離散化形式を適用すると、要素間の隣接曲面上での間隙水圧と流量が不連続となるため、解析精度が低下するおそれがある。
本発明が解決しようとする課題は、u-U定式化に基づく飽和地盤の有限要素解析に対し、要素間の間隙率が不連続となる場合であっても、隣接曲面上の間隙水圧および流量の連続性を確保して、解析精度の向上を図ることが可能な、支配方程式の離散化形式による解析方法およびこれをコンピュータ上で機能させるためのプログラムを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の飽和地盤の解析方法は、土骨格のつり合い式および間隙水のつり合い式を、連続式によって間隙水圧pを消去した、土骨格の変位uおよび間隙水の変位Uを未知数とするu-U定式化で記述し、有限要素解析で前記つり合い式を含む支配方程式の離散化形式を解くことにより地盤モデルの挙動の数値解を求めるものであって、要素内の間隙率を、式4に示す間隙率マトリックスにより節点に離散化するものである。
また、本発明のプログラムは、飽和地盤のu-U定式化に基づく前記解析方法をコンピュータ上で機能させるものである。
かかる飽和地盤の解析方法によれば、要素間の間隙率の変化が不連続となる場合であっても、隣接曲面上の間隙水圧および流量の連続性が成立するため、解析精度が向上する。
【0007】
【0008】
有限要素法による支配方程式の空間離散化の過程において、要素内の土骨格と間隙水の変位ベクトルを、該要素を構成する節点での変位ベクトルと形状関数で表現した式5および式6によって近似する場合に、該要素内の間隙率を乗じた土骨格と間隙水の変位ベクトルは、前記間隙率マトリックスで表現した式7および式8によって近似し、該要素内の平均相対変位ベクトルは、式8から式7を差し引いて、式9に示すように近似するのが望ましい。
同様に、該要素内の平均相対変位増分ベクトル、平均相対速度ベクトル、平均相対加速度ベクトルも、該間隙率マトリックスを用いて表現した式10、式11、式12により近似するのが望ましい。
【0009】
【0010】
また、支配方程式の離散化形式の近似度を向上させるため、土骨格のつり合い式、間隙水のつり合い式および連続式を、式13、式14および式15に示す式とし、これらの保存式を含む支配方程式の空間離散化の過程において、前記間隙率マトリックスを円滑に導入するのが望ましい。
【0011】
【0012】
本発明のプログラムは、地盤モデルの挙動の数値解を求めるための、u-U定式化に基づく水~土連成有限要素解析をコンピュータに実行させるプログラムであって、1)要素内の間隙率を、式4に示す間隙率マトリックスによって節点に離散化する機能、2)要素内の土骨格と間隙水の変位ベクトルを、該要素を構成する節点での変位ベクトルと形状関数で表現した式5、式6によって近似する場合に、該要素内の間隙率を乗じた土骨格と間隙水の変位ベクトルを、間隙率マトリックスで表現した式7、式8によって近似し、該要素内の平均相対変位ベクトル、平均相対変位増分ベクトル、平均相対速度ベクトル、平均相対加速度ベクトルを、該間隙率マトリックスを用いて表現した式9、式10、式11、式12により近似する機能、および、3)土骨格のつり合い式、間隙水のつり合い式、連続式を、式13、式14、式15に示す式とし、これらの保存式を含む支配方程式の離散化形式を、間隙率マトリックスを導入して構築する機能、をコンピュータに実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の飽和地盤の解析方法によれば、u-U定式化に基づく有限要素解析において要素間の間隙率が不連続となる場合であっても、隣接曲面上の間隙水圧および流量の連続性を確保して、解析精度の向上を図ることが可能になる。
また、本発明の解析方法は、コンピュータ上で機能可能なプログラムとして構成し、該コンピュータ上で機能させることによって、自動的かつ迅速に実行されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】間隙率マトリックスの算定例を示す説明図であって、(a)は算定条件、(b)は算定結果である。
【
図2】水~土連成有限要素解析における隣接曲面上の間隙水圧および流量の連続性についての説明図であって、(a)は地盤モデルであり、(b)は隣接曲面上の間隙水圧の連続性を説明する図、(c)は隣接曲面上の流量の連続性を説明する図である。
【
図3】(a)は1次元静的浸透問題による検証解析の解析モデル、(b)は1次元静的浸透問題による検証解析で設定した間隙率を示す図である。
【
図4】1次元静的浸透問題による検証解析で得られた定常状態の間隙水圧分布と流速分布を示すグラフであって、(a)は従来技術によるグラフ、(b)は本実施形態によるグラフである。
【
図5】1次元圧密問題による検証解析の解析モデルである。
【
図6】1次元圧密問題による検証解析で得られた過剰間隙水圧比の深度分布を示すグラフであって、(a)は従来技術によるグラフ、(b)は本実施形態によるグラフである。
【
図7】1次元動的浸透問題による検証解析の解析モデルである。
【
図8】1次元動的浸透問題による検証解析で得られた上層および下層の流速の経時変化を示すグラフであって、(a)は従来技術によるグラフ、(b)は本実施形態によるグラフである。
【
図9】1次元鉛直地動問題による検証解析の解析モデルである。
【
図10】1次元鉛直地動問題による検証解析で得られた土骨格の地表面鉛直加速度の時刻歴を示すグラフであって、(a)は従来技術によるグラフ、(b)は本実施形態によるグラフである。
【
図11】1次元鉛直地動問題による検証解析で得られた土骨格の地表面鉛直加速度に関する参照解との誤差を示す図であって、(a)は従来技術による図、(b)は本実施形態による図、(c)は(a)および(b)に対する凡例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る水~土連成有限要素解析について説明する。
<支配方程式(保存式、構成式、初期条件、境界条件等)>
本実施形態の水~土連成有限要素解析は、飽和地盤を対象としており、支配方程式の局所的記述にZienkiewicz and Shiomi(1984)によるu-U定式化(非特許文献1)を参照する。ここに、u-U定式化とは土骨格の変位uと間隙水の変位Uを未知数とする定式化である。本実施形態における地盤(領域:V、境界:S)の支配方程式を式18から式33に示す。ひずみは微小ひずみ、土粒子は非圧縮性とし、温度変化は無視できると仮定する。応力とひずみの符号については引張成分を正、圧力の符号は圧縮を正とする。
ここで、地盤の土粒子が組み重なって形成する構造を土骨格、土粒子間ないし土骨格間の間隙を満たす水を間隙水と称し、間隙が水によって完全に満たされている土を飽和土と称する。すなわち、Biotの飽和多孔質体理論では飽和土が土骨格(固相)と間隙水(液相)の2つの相で構成されると仮定する。さらに、飽和土で構成される地盤を飽和地盤と称する。
【0016】
【0017】
【0018】
土骨格の変形を支配する式は、主に土骨格のつり合い式(式18)と、土骨格の有効応力増分~ひずみ増分関係を表す構成式(式22)である。間隙水の流れを支配する式は間隙水のつり合い式(式19)と連続式(式20)であり、式21に示すように間隙水の圧縮性を仮定する。また、式23に示すように土骨格の有効応力は飽和土の全応力と間隙水圧によって定義される。さらに、土骨格に生じるひずみは土骨格のひずみと変位の関係(式24)で表され、間隙水に生じるひずみは間隙水の土骨格に対する平均相対ひずみと平均相対変位の関係(式25)によって評価する。
ここで、本実施形態における連続式(式20)は、間隙水の土骨格に対する平均相対ひずみと関連付けて記述する点において、非特許文献1のu-U定式化における式(式3)とは異なる。
さらに、土骨格の変位、間隙水の変位、有効応力、間隙水圧に関する初期条件式(式26、式27、式28、式29)を与え、土骨格の変位、間隙水の変位、飽和土の応力、間隙水圧に関する境界条件式(式30、式31、式32、式33)を与える。
以上の支配方程式の離散化形式を連立させ、時間ステップを追跡しながら逐次解析することによって、地盤の変位や応力、間隙水の流速や水圧の分布とその時間的変化が求められる。
【0019】
<空間離散化のための準備>
支配方程式の空間離散化には有限要素法を適用する。その準備の過程では、土骨格と間隙水の変位に関する近似式等を設定する。以下、有限要素法による離散化のための準備について説明する。
間隙率については、要素の形状や体積、間隙率の分布を考慮することにより、該要素を構成する節点において等価な値を求める(式4)。これに基づいて節点変位の自由度数を次数とする正方な対角マトリックスを定義し、支配方程式の空間離散化に導入する。これ以降、該マトリックスを間隙率マトリックスと称する。なお、式4は、間隙率マトリックスにおいて節点Kに対応する成分を示している。
図1に間隙率マトリックスの具体的な算定例を示す。本算定例においては、
図1(a)に示すように、2次元モデルとし、1次の形状関数による2つの長方形要素が節点2および節点5の面で隣接している場合を想定する。2つの要素の体積はVで等しいとする。間隙率は各要素内で均質と仮定し、それぞれの間隙率をn
E1およびn
E2とする。この場合、節点番号順に自由度を並べた12行×1列の節点変位ベクトルuに対し、式4による間隙率マトリックスは、
図1(b)に示すような、12行×12列の正方な対角マトリックスになる。
【0020】
【0021】
要素内の土骨格と間隙水の変位ベクトルは、式5および式6に示すように、該要素を構成する節点での変位ベクトルと形状関数によって近似する。加速度ベクトルと速度ベクトルも同様に近似する。
本実施形態において、要素内の間隙率を乗じた土骨格と間隙水の変位ベクトルは、式7および式8に示すように、該要素を構成する節点の土骨格と間隙水の変位ベクトル、形状関数、間隙率マトリックスを用いて近似する。
さらに、該要素内の間隙水の平均相対変位ベクトルは、式8から式7を差し引き、式9に示すように近似する。該要素内の平均相対変位増分ベクトル(式10)、平均相対速度ベクトル(式11)、平均相対加速度ベクトル(式12)も同様に近似する。
【0022】
【0023】
u-U定式化では間隙水の圧縮性を仮定する。さらに、本実施形態では、式34に示すように、間隙水圧増分~ひずみ増分関係を表す間隙水の構成式を連続式(式20)の増分形から求める。
支配方程式の空間離散化においては、要素内の間隙水圧増分を、式35に示すように、該要素を構成する節点での土骨格と間隙水の変位増分ベクトル、形状関数の導関数、間隙率マトリックスと関連付けて近似する。
【0024】
【0025】
各時間ステップでの要素内の有効応力と間隙水圧は、式36、式37に示すように、1つ前の時間ステップにおける値と該時間ステップで生じる増分によって表現する。
【0026】
【0027】
本実施形態において、土骨格のつり合い式(式18)と間隙水のつり合い式(式19)については、空間離散化のための準備として透水に伴う相互作用項と間隙水の慣性項を書き直し、式38および式39のように修正する。さらに、修正された各つり合い式の空間離散化において、要素内の間隙水の平均相対速度ベクトルと平均相対加速度ベクトルは、間隙率マトリックスを用いた近似式(式11、式12)によって表現する。
【0028】
【0029】
<空間離散化>
支配方程式の空間離散化には有限要素法を適用する。これによって得られる連立マトリックス方程式を式40に示す。
有限要素法による支配方程式の離散化は、例えば、「非線形有限要素法の基礎と応用」(久田 俊明・野口 裕久,丸善,1995年)を参照して行う。詳細に述べると、土骨格のつり合い式(式38)と間隙水のつり合い式(式39)に仮想変位を乗じ、仮想仕事の原理を適用することで領域Vを積分領域とする弱形式を導出する。各つり合い式に対する弱形式の導出過程においては、境界条件式(式30、式31、式32、式33)、土骨格の有効応力の定義式(式23)、ひずみと変位の関係(式24、式25)、各時間ステップでの増分によって表現された有効応力と間隙水圧(式36、式37)を代入する。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
さらに、各弱形式の導出過程においては、土骨格と間隙水の構成式(式22、式34)を与え、要素内の土骨格の変位ベクトルや間隙水の平均相対変位ベクトル等に関する式5から式12の近似式を考慮する。連続式から求めた間隙水の構成式を各弱形式に代入することで、未知数から間隙水圧pを消去する。
最終的には、各弱形式が任意の仮想節点変位ベクトルで成り立つことから、式40に示した水~土連成解析の連立マトリックス方程式が得られる。
【0034】
<効果のメカニズム>
水~土連成有限要素解析で対象とする地盤モデルについては、地層の種類や密度の違い等によって要素間の間隙率の変化が不連続となるケースがある。本実施形態は該ケースにおいても土骨格の変位uと間隙水の変位Uを未知数とするu-U定式化の離散化形式で精度良く解析されることを念頭に置いている。
本実施形態では、有限要素法による支配方程式の空間離散化の過程で間隙率マトリックスを導入し、最終的には式40の連立マトリックス方程式における各項の間隙率を要素間の隣接曲面を形成する節点での値で表現する。これによって、隣接曲面上の間隙水圧および流量の連続性を常に満足させ、該ケースにおけるu-U定式化の離散化形式の解析精度向上を図っている。
【0035】
図2を参照し、水~土連成有限要素解析における隣接曲面上の間隙水圧および流量の連続性について以下に説明する。なお、流量の符号は流出量を正、流入量を負とする。
図2(a)に示すように、地盤モデルが間隙率等の異なる2種類の飽和土(飽和土1、飽和土2)からなり、モデルの左端から右端に向かって間隙水が流れる1次元浸透問題を想定する。このとき、連通管の原理により(
図2(b)参照)、飽和土1と飽和土2の隣接曲面上の間隙水圧は等しくなければならない(式41参照)。また、隣接曲面上の物質収支の観点より(
図2(c)参照)、飽和土1から流出する間隙水は過不足なく、飽和土2に流入する必要がある(式42参照)。本発明では、式41および式42が成立することをもって、隣接曲面上の間隙水圧と流量が連続するとしている。
【0036】
【0037】
<従来との比較および効果>
要素間の間隙率の変化が不連続となる場合において、従来のu-U定式化の水~土連成有限要素解析(非特許文献1)よりも、本実施形態が高精度に解析されることは、1次元飽和地盤のシミュレーション解析によって検証している。
検証解析に基づき、従来との比較および効果について以下に説明する。なお、いずれの検証解析においても、土骨格の有効応力増分~ひずみ増分関係はヤング係数E、ポアソン比νの線形弾性モデルで規定し、間隙率は各要素内で均質としている。さらに、有限要素法による土骨格の変位uと間隙水の変位Uの離散化には1次のアイソパラメトリック要素を用い、数値積分にはガウスの求積法を用いている。
【0038】
[1次元静的浸透問題による検証解析]
図3に解析条件を示す。有効応力と間隙水圧の初期値はともにモデル内で一様に0とした。土骨格の変位はすべて固定、間隙水の変位は水平方向をすべて自由とし、モデルの左端と右端の間隙水圧を
図3(a)に示すように与えた。これにより、間隙水がモデルの左端から右端に向かって流れる浸透場が模擬される。間隙率についてはモデル中央を境に左右の間隙率をケースごとに
図3(b)に示すような組み合わせで設定した。連立マトリックス方程式の解析方法は慣性項を除いた静的解析とし、時間積分には後退差分法を適用した。
【0039】
図4に、解析結果として、従来技術と本実施形態で得られた定常状態における間隙水圧分布と流速分布を示す。
図4(a)の従来技術による解析結果は、間隙率がモデル中央で不連続に変化するケースにおいてDarcy則による理論解と一致していない。これに対して、
図4(b)の本実施形態による解析結果は、いずれのケースも理論解とよく一致している。
【0040】
[1次元圧密問題による検証解析]
図5に解析条件を示す。有効応力の初期値はモデル内で一様に0とした。間隙水圧の初期値は、静水圧からの過剰分(以下、過剰間隙水圧と称する)として与え、モデル内で一様にp
w
0とした。土骨格および間隙水の変位はモデル下端で固定し、その他の深度は鉛直方向をすべて自由とした。モデル上端は、鉛直下向きにp
w
0と等しい上載圧p
z が作用する応力境界とするとともに、過剰間隙水圧が0の水圧境界とした。間隙率については
図5に示すようにモデル中央深度で不連続に変化させた。連立マトリックス方程式の解析方法は慣性項を除いた準静的解析とし、時間積分には後退差分法を適用した。計算時間増分は
図5に示す通りである。
【0041】
図6に、解析結果として、従来技術と本実施形態で得られた7種類の時間係数Tにおける過剰間隙水圧比の深度分布を示す。ここで、過剰間隙水圧比とは時々刻々変化する過剰間隙水圧p
wを初期値p
w
0で除した値(=p
w/p
w
0)である。初期条件として与えた過剰間隙水圧は時間経過とともに消散する。
図6の深度分布はその過程におけるp
w/p
w
0の同時刻分布であり、Terzaghiによる理論解を破線で、解析結果を実線等で示している。前述のように、本検証解析ではアイソパラメトリック要素の次数を1次としており、要素内の間隙水圧は一定であるため、解析による深度分布は階段状になる。なお、時間係数Tとは圧密時間を無次元化した量である。
理論解との一致度を従来技術と本実施形態の2つの解析結果で比較すると、いずれの時間係数Tにおいても、
図6(a)の従来技術による結果は低く、
図6(b)の本実施形態による結果は高いと言える。
【0042】
[1次元動的浸透問題による検証解析]
図7に解析条件を示す。有効応力と間隙水圧の初期値はともにモデル内で一様に0とした。土骨格の変位はすべて固定、間隙水の変位は鉛直方向をすべて自由とし、モデル上端の全水頭を0.0m、モデル下端の全水頭を1.0mで固定した。これにより、間隙水が鉛直上向きに流れる浸透場が模擬される。間隙率についてはモデル中央深度で不連続に変化させた。本検証解析では、モデルの上端と下端に水頭差を与えた瞬間からの流速の経時変化を動的に解析するため、連立マトリックス方程式の解析方法は慣性項を考慮した動的解析とし、時間積分にはNewmarkのβ法を適用した。計算時間増分とNewmarkのβ法の係数は
図7に示す通りである。
【0043】
図8に解析結果を示す。
図8(a)は従来技術による解析結果、
図8(b)は本実施形態による解析結果であり、上層(深度0.25m)および下層(深度0.75m)における流速の経時変化を実線で示している。また、
図8には「Development and verification of a soil-water coupled finite deformation analysis based on u-w-p formulation with fluid convective nonlinearity」(Noda, T. and Toyoda, T., Soils and Foundations, Vol.59, Issue4, pp.888~904, 2019.)による理論解を破線で示している。
本実施形態による解析結果は、
図8(b)に示すように、理論解とよく一致しており、流速の一様な浸透場が各時刻において適切に再現されている。
【0044】
[1次元鉛直地動問題による検証解析]
図9に解析条件を示す。本検証解析では層厚100mの地盤モデルを正弦波によって鉛直方向に加震した。有効応力と間隙水圧の初期値はともにモデル内で一様に0とした。土骨格および間隙水の変位はモデル下端で固定し、その他の深度は鉛直方向をすべて自由とした。モデル上端は間隙水圧が0の水圧境界とした。間隙率については2つの異なる値(0.30、0.45)を上層から5mピッチで互層状に与えた。透水係数kと加震周波数fはパラメトリックに設定することとし、両者の組み合わせのケース数を透水係数8ケース×加震周波数6ケース=48ケースとした。数値実験という位置付けにより、各ケースにおいて透水係数kはモデル全体に均質に与えた。連立マトリックス方程式の解析方法は慣性項を考慮した動的解析とし、時間積分にはNewmarkのβ法を適用した。計算時間増分とNewmarkのβ法の係数は
図9に示す通りである。
【0045】
本検証解析では、要素間の間隙率の変化が不連続となるケースでも隣接曲面上の間隙水圧および流量の連続性が成立する、「Variational formulation of dynamics of fluid- saturated porous elastic solids」(Ghaboussi, J. and Wilson, E. L., Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, EM4, pp.947~963, 1972.)のu-w定式化の離散化形式による解析結果を参照解とした。ここに、u-w定式化とは土骨格の変位uと間隙水の土骨格に対する平均相対変位w(=n(U-u)、n:間隙率)を未知数とする定式化である。
【0046】
図10、
図11に解析結果を示す。
図10(a)は従来技術による解析結果、
図10(b)は本実施形態による解析結果であり、k=1.0×10
-2m/s、f=2.0Hzのケースで得られた、地表面における土骨格の鉛直加速度時刻歴を実線で示している。これらの図にはu-w定式化による参照解を破線で併記している。また、
図11(a)は従来技術による解析結果、
図11(b)は本実施形態による解析結果であり、前記鉛直加速度の参照解との誤差E
Rを透水係数kと加震周波数fの組み合わせに対して整理し、示している。ここで、u-w定式化による参照解との誤差E
Rは式43によって算定している。
図11(c)は、
図11(a)および
図11(b)に対する凡例であり、誤差E
Rを百分率の範囲によって区分している。
【0047】
【0048】
本実施形態による解析結果は、
図10(b)に示すように、u-w定式化による参照解とよく一致している。また、
図11(b)に示すように、本検証解析の範囲では最大誤差がk=1.0×10
-1m/s、f=10Hzのケースにおいて生じているが、0.01%未満に低減されている。
すなわち、要素間の間隙率の変化が不連続となる条件のもと、土骨格と間隙水の変位が連成する複雑な動的問題においても、本実施形態によってu-U定式化の離散化形式の解析精度向上が図られることが確認された。
【0049】
前記のいずれの検証解析も1次元問題を扱っているが、本発明の実施形態に係る水~土連成有限要素解析においては、1次元だけでなく、2次元および3次元の幾何形状の問題に対しても数値解を得ることができ、u-U定式化の離散化形式の解析精度は次元にかかわりなく向上する。
【0050】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、前述の実施形態に限定されず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。本発明にはその等価物も含まれる。
例えば、間隙水を完全に非圧縮と見なす場合等、未知数に間隙水圧pを加えたu-U-p定式化の空間離散化に応用することが可能である。また、間隙水の変位Uの代わりに間隙水の土骨格に対する相対変位ur(=U-u)を未知数とする定式化の空間離散化にも応用することができる。
さらに、不飽和土の支配方程式と材料特性を適用するとともに、支配方程式の空間離散化に導入する間隙率マトリックスを飽和度で補正した間隙率で構築することにより、不飽和土が堆積する地盤の有限要素解析(ただし、未知数に間隙水の変位Uまたは相対変位urを含む)に応用可能となる。ここで、不飽和土とは、間隙が水と空気からなる土を指し、土粒子、水および空気の3つの要素で構成される土を指す。また、飽和度とは間隙(水と空気)に占める水の体積を間隙の体積で除した値である。
【0051】
地盤モデルに用いる要素の選択は、前述の実施形態に限定されず、解析の条件に準じて任意に設定可能である。例えば、形状関数は任意の次数が適用可能であり、積分点の配置や数値積分の方法についても、適宜選択が可能である。また、要素の形状は有限要素法の範疇において任意に設定可能である。
さらに、前述の実施形態において、間隙率は要素内で均質としたが、本発明はこれに限定されない。本発明は間隙率が要素内で分布する場合にも適用可能である。
【0052】
前述の実施形態において、時間積分は、静的問題ないし準静的問題に後退差分法を、動的問題にNewmarkのβ法を適用したが、本発明はこれらに限定されない。前進差分法、Wilsonのθ法等、時間積分にも任意の方法が採用可能である。
また、土骨格の有効応力増分~ひずみ増分関係を規定する構成モデルは線形弾性モデルに限定されず、弾塑性構成モデルや他の非線形モデル等、目的と条件に応じて任意の設定が可能である。
さらに、前述の実施形態において、土粒子は非圧縮性とし、温度変化は無視できると仮定したが、本発明はこれらに限定されない。本発明は土粒子の圧縮性と温度変化を考慮する場合にも適用可能である。
【0053】
本発明の実施形態に係る水~土連成有限要素解析の非線形性は、弾塑性構成モデル等による材料非線形に加え、total Lagrange法やupdated Lagrange法等によって幾何学非線形も考慮可能である。ここで、total Lagrange法とは参照する基準配置を変形前の初期配置とする手法であり、updated Lagrange法とは参照する基準配置を変形後の現配置とする手法である。