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特開2023-167437滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置
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  • 特開-滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置 図1
  • 特開-滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置 図2
  • 特開-滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置 図3
  • 特開-滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置 図4
  • 特開-滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置 図5
  • 特開-滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置 図6
  • 特開-滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167437
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20231116BHJP
   A47B 97/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
F16F15/02 L
A47B97/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078623
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修市
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA13
(57)【要約】
【課題】本発明は、床面の材質にかかわらず、地震の振動を確実に摺動させる、滑動部材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の滑動部材(100)は、摺動面(102)および摺動面(102)の反対面に設けられる非摺動面(101)を有し、金属細線により構成されている金属細線構造体を含む補強材(120)と、補強材(120)を構成する金属細線同士の間隙を充填する黒鉛を含む滑り材(110)と、によって構成されることを特徴とする。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置に使用される滑動部材であって、
摺動面および前記摺動面の反対面に設けられる非摺動面を有し、
金属細線により構成されている金属細線構造体を含む補強材と、
前記補強材を構成する金属細線同士の間隙を充填する黒鉛を含む滑り材と、によって構成されることを特徴とする、滑動部材。
【請求項2】
請求項1記載の滑動部材であって、
金属細線構造体の体積占有率が、前記非摺動面および前記摺動面を通る中心軸線における前記摺動面から前記非摺動面に向かう方向において、増加することを特徴とする、滑動部材。
【請求項3】
請求項1記載の滑動部材であって、
金属細線構造体の体積占有率が、前記非摺動面および前記摺動面を通る中心軸線と直交し、前記中心軸線から遠ざかる方向において、増加することを特徴とする、滑動部材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の滑動部材であって、
前記摺動面から前記非摺動面まで貫通された孔が形成されていることを特徴とする、滑動部材。
【請求項5】
上端が支持物に対して固定され、下端が床面に対して滑動する免震装置であって、
一端が支持物に固定される支持部と、
前記支持部の他端に配設される滑動部と、を備え、
前記滑動部が請求項1~3のいずれか1項記載の滑動部材を含むことを特徴とする、免震装置。
【請求項6】
上端が支持物に対して固定され、下端が床面に対して滑動する免震装置であって、
一端が支持物に固定される支持部と、
前記支持部の他端に配設される滑動部と、を備え、
前記滑動部が請求項4記載の滑動部材を含むことを特徴とする、免震装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免震装置に使用される滑動部材に関し、該滑動部材を用いた免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の免震または制震などの減災対策である免震設計技術が発展している。また、屋内外に設けられる設備(例えば家具、電子機器、ドラム缶、パレット、物品棚など)に対しても、地震による倒壊などに起因する人的被害および/または経済被害が発生しないように、減災対策を目的として、該設備用の免震装置などの免震技術の開発が発展している。
【0003】
屋内外に設けられる設備に使用される免震装置は、設備および/または使用される床面の材質に応じて個別に設計される。設備の形状および床面の材質によって免震装置の形状が異なるため、同じ設備を床面が異なる場所に配置する場合および同じ床面で別の設備を配置する場合、複数の免震装置を使用しなくてはならない。状況にそぐわない免震装置を利用すると、地震時に設備の転倒が発生し、人的被害および/または経済被害が発生する。
【0004】
従来、屋内外に設けられる設備に使用される免震装置は、支持物に固定される支持部と床面または床面に固定された面に対して摺動する滑動部材により構成される。
【0005】
特許文献1には、一端が機器に対して接続され、他端が床面に対して移動可能に構成される支持具、および上端が機器に係止され、下端が床面係止された弾性体を備える免震装置が開示される。該免震装置によれば、弾性体によって地震時の振動を減衰させるとともに、支持具が減衰された振動で床面を移動するので、機器の転倒を抑制した上で、地震時の揺れを吸収する。特許文献1の免震装置における支持具の床面に接する面には摺動性を向上するための滑動部材が含まれている。該滑動部材としては、六フッ化エチレン樹脂を含む材料が利用される。
【0006】
また、特許文献2にはステンレス鋼板、クロムその他の硬質メッキを施した鋼板、テフロン材(「テフロン」は登録商標)を含有する樹脂コーティング板、またはテフロン材(「テフロン」は登録商標)を含有する樹脂板を用いた滑り面を備えるシステムフロアが開示される。滑り面上には支持物を支持する支柱脚が摺動可能な状態で設けられる。滑り面および支柱脚の材質を任意に調整することで、摩擦係数を調整し地震時における、設備の転倒を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-246286号公報
【特許文献2】特許3626384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの部材は一定の床面および/または一定の設備に対して、優れた摺動性を有する一方で、一部の床面に対して摩擦係数が大きくなるという問題がある。特許文献1のように樹脂等を滑り材として用い、床面がコンクリートである場合、滑り材と床面との間の摩擦係数が大きくなり、地震時に大きなモーメント(転倒モーメント)が発生し、設備の転倒が発生する。
【0009】
また、特許文献2のように、床面を専用の滑り面とする場合、滑り面の風化によって、安全性を担保することができない。また、床面の一部に滑り面を設ける必要があるので、設備を配置する際の自由度が低下する。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、床面の材質にかかわらず、地震の振動を確実に摺動させる滑動部材を提供することを目的とする。また、該滑動部材を用い、床面の材質および設備の種類にかかわらず、地震による設備の転倒防止を目的とする免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するために本発明の滑動部材および該滑動部材を用いた免震装置は、以下のような特徴を有する。
【0012】
(1)
本発明は、免震装置に使用される滑動部材であって、
摺動面および前記摺動面の反対面に設けられる非摺動面を有し、
金属細線により構成されている金属細線構造体を含む補強材と、
前記補強材を構成する金属細線同士の間隙を充填する黒鉛を含む滑り材と、によって構成されることを特徴とする。
【0013】
かかる構成の滑動部材によれば、摺動面が黒鉛を含む滑り材によって構成されているので、コンクリートを含む材質の床面であっても、地震時に滑動部材の摺動面と床面が摺動することができる。したがって、地震時における設備の転倒を抑制する。また、金属細線構造体を含む補強材が滑動部材内に存在するので、耐久性が向上する。したがって、このような滑動部材が高荷重の支持物に対して使用される場合であっても、振動時におけるせん断応力による滑動部材の破壊を抑制する。
【0014】
(2)
また、本発明の滑動部材によれば、前記金属細線構造体の体積占有率が、前記非摺動面および前記摺動面を通る中心軸線における前記摺動面から前記非摺動面に向かう方向において、増加することが好ましい。
【0015】
かかる構成の滑動部材によれば、摺動面付近の金属細線構造体の体積占有率が非摺動面付近の金属細線構造体の体積占有率よりも小さいため、滑動部材が摩耗しても、床面に対する金属細線構造体の露出が抑制される。したがって、地震時における滑動部材と床面との摺動を阻害しないため、支持物の転倒が抑制される。また、露出した場合でも摺動面に対して金属細線構造体の露出割合が過多にならない。したがって、地震時において、滑り材が摩耗して、金属細線構造体が露出したとしても、滑動部材と床面との摺動が維持され、支持物の転倒が抑制される。
【0016】
(3)
また、本発明の滑動部材によれば、前記金属細線構造体の体積占有率が、前記非摺動面および前記摺動面を通る中心軸線と直交し、前記中心軸線から遠ざかる方向において、単調増加することが好ましい。
【0017】
かかる構成の滑動部材によれば、金属細線構造体の体積占有率が中心軸線付近よりも外側面付近において大きい。したがって、滑動部材を支持物に固定する場合、摺動時に滑動部材の外側面付近に荷重が集中することによって発生する滑動部材のせん断破壊が抑制される。このため、高荷重の支持物であっても、地震時における転倒を抑制する。
【0018】
(4)
また、本発明の滑動部材によれば、前記摺動面から前記非摺動面まで貫通された孔が形成されていることが好ましい。
【0019】
かかる構成の滑動部材によれば、摺動面から非摺動面まで貫通された孔が形成されているので、滑動部材を免震装置に使用する場合、免震装置を構成する支持部の他端面が露出する。他端面には支持物と支持部とを螺合するための駆動部などが設けられ、駆動部などが貫通された穴によって露出するので、ドライバーなどの所定の工具を用いた支持物と免震装置との接合が容易になる。このため、種々の支持物に対して免震装置を接合でき、免震装置ひいては滑動部材の自由度が向上する。したがって、このような滑動部材によれば、より多くの種類の支持物に対して、取り付けることができる。
【0020】
(5)
本発明の免震装置は、上端が支持物に対して固定され、下端が床面に対して滑動する免震装置であって、
一端が支持物に固定される支持部と、
前記支持部の他端に配設される滑動部と、を備え、
前記滑動部が(1)~(4)のいずれか記載の滑動部材を含むことを特徴とする。
【0021】
かかる構成の免震装置によれば、支持物の種類に依存せずに、支持物に固定することができるので、支持物ごとに免震装置を設計する必要がなく、煩雑さが低減される。また、滑動部が(1)~(4)にいずれかの記載の滑動部材を含むことから、床面の材質に依存せずに利用することができる。したがって、床面の材質および支持物の種類によらずに、安全性および自由度が高い、広範囲に使用可能な免震装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の免震装置にかかる概略図を示す図である。
図2】本発明の免震装置の支持部の軸線方向を通る断面に沿った断面図である。
図3】本発明の免震装置の支持部と滑動部とが密着する前の断面状態を示す概略図である。
図4】本発明の第1の実施形態にかかる滑動部材の断面図を示す図である。
図5】本発明の第2の実施形態にかかる滑動部材の断面図を示す図である。
図6】本発明の第3の実施形態にかかる滑動部材の断面図を示す図である。
図7】貫通孔が形成された滑動部材の断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の免震装置1の実施形態は次の説明及び図面を用いることで説明される。図1は本発明の免震装置1にかかる概略構成を示す図である。本発明の免震装置1は、家具、家電、コンピュータ、実験装置、測定装置、ドラム缶、パレット、物品棚等の設備(支持物2の一例)に固定される免震装置1である。本発明の免震装置1は支持部15と支持部15の他端に配設される、滑動部10と、から構成されている。支持部15の一端は、支持物2に対して固定されている。
【0024】
図2を参照するように、支持部15は略円柱状の金属または有機材料からなる部材である。支持部15には、一端から他端にかけて部分的に設けられる第1固定手段151が設けられている。第1固定手段151は支持物2に対して、所定の固定方法によって固定されている。例えば、支持部15の側面は、一端を起点として、雄ネジ加工され、支持物2に設けられる雌ネジ部に対して螺着することができる。雄ネジ加工は一端を起点として、他端を終点として形成されてもよいが、他端と一端の間の任意の2点を起点および終点として形成してもよい。このとき、ワッシャまたはナットなどを支持部15の雄ネジ部に螺着し、支持物2との固定を向上させることができる。また、支持部15の一端と支持物2の固定方法は螺着に限定されず、嵌着または溶着など免震装置1の設計に応じて任意に選択されてもよい。
【0025】
支持部15の他端には滑動部10が固定されるように形成される第2固定手段152が設けられている。第2固定手段152に滑動部10を固定することで、支持部15と滑動部10とが一体的に形成され、免震装置1を構成する。例えば、図2を参照するように、第2固定手段152は、中心に孔を有する略円板状の部材である。中心に設けられている孔は雌ネジ加工され、支持部15に形成されている第1固定手段151としての雄ネジ加工部に螺着されている。図2に示されるように、滑動部10は支持部15に対して密着され固定されている。第2固定手段152が、略円板状であるため、滑動部10は支持部15に対して、抜け落ちることがなく、滑動部10は支持部15に対して、固定される。滑動部10と第2固定手段152との固定方法については、特に限定されないが、滑動部10を第2固定手段152に対して圧縮させ、密着させることで、支持部15と滑動部10とを一体的に形成するインサート成形によってなされることが好ましい。本実施形態では、第1固定手段151に対して、第2固定手段152が螺着されたが、これに限らず、支持部15の他端と第2固定手段152が溶着または接着されてもよい。
【0026】
本実施形態では、第2固定手段152が略円板状の部材であり、固定方法がインサート成形による密着であるとしたが、これに限られない。滑動部10が支持部15に対して、抜け落ちることがないように、任意に設計変更可能である。例えば、第2固定手段152を略半球殻状の部材として構成してもよい。また、例えば、支持部15の側面の一部に溝または雄ネジ加工を形成することで、第2固定手段152の有無にかかわらず、滑動部10を支持部15に対して嵌着または螺着させて固定してもよい。
【0027】
滑動部10と支持部15とが、インサート成形によって固定される場合、図3に示されるように、インサート成形前、滑動部10は後述する滑動部材100によって中心軸線Lを通る任意の断面が略U字状となるような凹部11を備えた板として形成される。ここで、中心軸線Lは、滑動部10の一の面(非摺動面)および一の面と反対面に設けられる他の面(摺動面)のそれぞれの幾何重心を通る線である。凹部11は滑動部10の一の面(非摺動面)かつ中心軸線Lを中心に略円柱状に形成されている。支持部15の第2固定手段152を滑動部10に形成されている凹部11に挿入し、滑動部10の縁部12を含む、滑動部10全体を所定の機械で等方的または非等方的に圧縮する。このとき、滑動部10の縁部12および滑動部10全体が所定の形状になるように圧縮されるので、凹部11が滑動部10によって充填され、第2固定手段152と滑動部10とが密着する。したがって、滑動部10が支持部15に対して、抜け落ちることなく、滑動部10と支持部15とが一体的に形成される。
【0028】
図2および図3で示した滑動部10の形状は円柱となることが好ましいが、円柱に限定されず、円筒または角柱、角筒など免震装置1に応じて、最適な形状が選択される。また、凹部11の形状も同様に円柱であることが好ましいが、円柱に限定されず、角柱など免震装置1に応じて、最適な形状が選択される。
【0029】
図4は本発明の免震装置1における滑動部10を構成している、第1の実施形態にかかる滑動部材100の断面を示す図である。滑動部材100は非摺動面101と摺動面102を有し、金属細線構造体を含む補強材120および補強材120の間隙を充填する黒鉛を含む滑り材110によって構成される。滑動部材100の構成要素の位置および姿勢の説明のため、滑動部材100の摺動面102の幾何重心を極点Oとする3次元円筒座標系(R、θ、Z)を用いる。ここでZ軸は極点Oを通り、非摺動面101の幾何重心に向かって延在する中心軸線Lであり、R軸およびθ軸はそれぞれ中心軸線Lと直交する面における二次元極座標(R、θ)の径方向軸および周方向軸のそれぞれである。
【0030】
図7のように、滑動部10が円筒状または角筒状に形成される場合、貫通孔がZ軸と平行かつ極点Oを中心に形成されることが好ましい。貫通孔を形成することで、支持部15と滑動部10とを螺合する場合において、支持部15の他端における他端面が露出する。支持部15の他端面には、支持部15と支持物2とを螺合するための略マイナス字状または略プラス字状などの駆動部が設けられ、該駆動部が外部に露出する。したがって、ドライバーなどの所定の工具を用い、支持部15を回転させることができ、免震装置1および支持物2の螺合を容易にする。駆動部の形状は特に限定されるものではなく、設計または使用される場面において、任意に調整されてもよい。貫通孔の摺動面102に対するZ軸射影形状は好ましくは円であるが、円に限定されるものではない。貫通孔のZ軸射影形状のとして、楕円または多角形(例えば、正六角形、正十二角形)等、設計または使用される場面において任意に選択されてもよい。また、貫通孔のZ軸射影形状は摺動面102を基準として、変化してもよいし、変化しなくてもよい。摺動面102から駆動部の露出面まで拡径してもよいし、縮径してもよいし、これらの組み合わせであってもよい。貫通孔の形状は本発明の限定事項ではなく、当業者によって任意に調整されてもよい。
【0031】
第1の実施形態にかかる滑動部材100によれば、補強材120は滑動部材100の全体を通し均等に占有される。このとき、補強材120の重量は、全体の重量に対して、10以上80以下重量%であり、体積占有率は全体の体積に対して、1以上52以下体積%であることが好ましいが、これに限定されず使用される免震装置1の特性に応じて任意に調整されてもよい。
【0032】
補強材120は金属細線構造体により構成される。金属細線構造体は所定の金属により選択される金属製のメッシュであるが、これに限定されず金属細線により形成されるあらゆる構造物である。金属細線の径は特に限定されないが、使用される免震装置1によって、任意に選択される。例えば、免震装置1が高荷重の支持物2を支持する場合、高荷重に対して耐性を持つ必要があるため、金属細線の径は0.05mm以上0.80m以下が好ましい。また、金属細線は、黒鉛を含む滑り材110と異種金属接触腐食することがあるため、腐食を抑制する観点から、自然腐食電位が黒鉛と近い金属から選択されることが好ましい。金属細線は好ましくは、ステンレス鋼線、メッキ鉄線および真鍮線の少なくとも一つから選択されるが、これに限定されず、使用される環境および/または免震装置1の特性に応じて、任意の金属が選択されてもよい。また、異なる径を有した複数の金属細線および/または異なる材料より選択される複数の金属細線により、本発明の金属細線構造体が形成されてもよい。
【0033】
補強材120の間隙を充填する滑り材110は主として黒鉛によって形成される。黒鉛としては、膨張黒鉛が利用され、膨張黒鉛と金属細線構造体を当接した状態で、圧縮加工し、該膨張黒鉛を1.2以上2.0以下g/cmの密度になるように圧縮することで、金属細線構造体の間隙を充填する。このとき、支持部15と上記滑動部材100によって形成される滑動部10とがさらにインサート成形されることで、支持部15と滑動部10とが密着し、かつ、一体的に形成される。
【0034】
図5は本発明の第2の実施形態にかかる滑動部材100の断面を示す図である。第2の実施形態にかかる滑動部材100によれば、補強材120の体積占有率がZ軸(摺動面102から非摺動面101に向かう方向)に沿って増加する。図5において、体積占有率が所定の増加傾向を示しているが、これに限定されない。免震装置および/または支持物2に応じて、線形増加および指数増加などの単調増加であってもよいし、非連続的な増加(単調増加)であってもよい。増加傾向は、免震装置および/または支持物2に応じて任意に調整される。ここで、Z方向における体積占有率は、Z軸と直交する任意の2つの断面(R-θ面)で囲まれた滑動部材100の体積における、補強材120の体積の割合を示すものである。Z方向における体積占有率は、中心軸線Lに沿った断面(例えば、図5のような断面図)における画像解析などで求めることもできる。
【0035】
図6は本発明の第3の実施形態にかかる滑動部材100の断面を示す図である。第3の実施形態にかかる滑動部材100によれば、補強材120の体積占有率がR方向(中心軸線Lから遠ざかる方向)に沿って増加する。図6において、体積占有率が所定の増加傾向を示しているが、これに限定されない。免震装置および/または支持物2に応じて、線形増加および指数増加などの連続的な単調増加であってもよいし、非連続的な単調増加であってもよい。増加傾向は、免震装置および/または支持物2に応じて任意に調整される。ここで、R方向における体積占有率は、中心軸線Lを軸線とした任意の2つの円筒で囲まれた滑動部材100の体積における、補強材120の体積の割合を示すものである。R方向における体積占有率は、Z軸と直交する任意の一または複数の断面における画像解析などで求めることもできる。
【実施例0036】
(実施例1)
実施例1は第1の実施形態にかかる滑動部材100を用いた免震装置1である。このとき、ステンレス鋼線が補強材120としての金属細線に用いられ、膨張黒鉛が滑り材110としての黒鉛に用いられた。
【0037】
実施例1によれば、地震が発生しても、床面と滑動部10との間に良好な滑りが発生するため、揺れを吸収および/または抑制することができる。また、コンクリート製の床面に使用しても、良好な滑りが維持されるため、凹凸が多い床面であっても、支持物2の転倒を抑制し、人的被害および/または経済被害を抑制する。また、ネジ加工されているので、容易に取り付けることができる。したがって、簡単な取り付け構造により、取り付けの自由度が高まり、種々の支持物2に対して利用することができる。また、補強材120が、耐久性を向上させるので、地震時の揺れによって発生するせん断破壊を抑制する。
【0038】
(実施例2)
実施例2は第2の実施形態にかかる滑動部材100を用いた免震装置1である。実施例2にかかる滑動部材によれば、補強材120の滑動部材100全体の体積に対する体積占有率が中心軸線Lに沿う方向(Z方向、非摺動面101から摺動面102に向かう方向)に沿って単調増加している。補強材120および滑り材110の構成ならびに免震装置の製造方法については、実施例1と実質的に同じであるため、重複の観点から、記載を省略する。
【0039】
実施例2によれば、補強材120が免震装置1の支持部15周りを覆うことから、支持部15に加わる荷重に対して耐性が向上する。また、地震時には滑動部10が補強材120を露出することなく、地震の振動を良好に滑らせる。さらに、地震時に発生するせん断応力に対して耐性を持つので、滑動部10がせん断破壊することなく、振動を確実に吸収および/または抑制することができる。
【0040】
(実施例3)
実施例3は第3の実施形態にかかる滑動部材100を用いた免震装置1である。実施例2にかかる滑動部材によれば、補強材120の滑動部材100全体の体積に対する体積占有率が径線方向(R方向、中心軸線Lから遠ざかる方向)に沿って単調増加している。補強材120および滑り材110の構成ならびに免震装置の製造方法については、実施例1と実質的に同じであるため、重複の観点から、記載を省略する。
【0041】
実施例3によれば、補強材120が免震装置1の支持部15周りを覆うことから、支持部15に加わる荷重に対して耐性が向上する。地震時に発生するせん断応力に対して耐性を持つので、滑動部10がせん断破壊することなく、振動を確実に吸収および/または抑制することができる。
【符号の説明】
【0042】
1:免震装置、2:支持物、10:滑動部、11:凹部、12:縁部、15:支持部、100:滑動部材、101:非摺動面、102:摺動面、105:側面、110:滑り材、120:補強材、151:第1固定手段、152:第2固定手段、O:極点、L:中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7