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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167438
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20231116BHJP
【FI】
H02M7/487
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078624
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 将希
(72)【発明者】
【氏名】森嶋 洋介
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770DA01
5H770DA32
5H770DA34
5H770EA01
5H770EA30
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA03Y
5H770HA14W
5H770JA18W
(57)【要約】
【課題】低負荷から高負荷まで、バランサーを用いずに、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2を均等化する。
【解決手段】直流電源の電圧Eの正極Pおよび負極Nの間に直列接続された第1コンデンサーC1および第2コンデンサーC2を含み、正極P、第1コンデンサーC1および第2コンデンサーC2の接続点である零極Z、または、負極N、のいずれかにスイッチングして、交流電力を出力するDC/AC変換部10と、DC/AC変換部10のスイッチングを、電流指令および電圧指令に応じて制御する処理部20と、を有し、処理部20は、有効電力が閾値以上であると判定すれば、直流信号で電圧指令を補正し、有効電力が閾値未満であると判定すれば、電流が変化し、かつ、単位時間での平均値が直流になる交流信号で電流指令を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の正極および負極の間に直列接続された第1コンデンサーおよび第2コンデンサーを含み、前記正極、前記第1コンデンサーおよび第2コンデンサーの接続点である零極、または、前記負極、のいずれかにスイッチングして、交流電力を出力するDC/AC変換部と、
前記DC/AC変換部のスイッチングを、電流指令および電圧指令に応じて制御する処理部と、
を有し、
前記処理部は、
前記交流電力の有効電力が閾値以上であるか否かを判定し、
前記閾値以上であると判定すれば、直流信号で前記電圧指令を補正し、
前記閾値未満であると判定すれば、電流が変化し、かつ、単位時間での平均値が直流になる交流信号で前記電流指令を補正する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記交流信号は、
交流の半波である
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記直流信号は、
前記第1コンデンサーで保持された第1保持電圧と前記第2コンデンサーで保持された第2保持電圧との電圧差である、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記交流信号は、
前記電圧差の極性にしたがって選択された交流の正波または負波を、前記電圧差の絶対値で乗算してものである
ことを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記処理部は、
制御部と、
前記有効電力が前記閾値以上であるか否かを判定する有効電力判定部と、
前記第1コンデンサーで保持される電圧と前記第2コンデンサーで保持される電圧との電圧差を算出する電圧差算出部と、
前記電圧差に応じた電圧補正値を算出する電圧補正値算出部と、
前記電圧差に応じた電流補正値を算出する電流補正値算出部と、
を有し、
前記制御部は、
前記閾値以上であると前記有効電力判定部により判定されれば、前記電圧補正値で前記電圧指令を補正し、
前記閾値未満であると前記有効電力判定部により判定されれば、前記電流補正値で前記電流指令を補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力の直流電源に設けられた直列コンデンサー回路において各コンデンサーの保持電圧を均等化させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電システムや蓄電池などから入力される直流電源を交流電圧に変換する電力変換装置としては、2レベルタイプと比較して、より正弦波に近い波形を出力することができる3レベルタイプが用いられることが多い。
3レベルタイプの電力変換装置では、正極および負極の間の直流電圧を分割した零極が設けられる。さらに3レベルタイプの電力変換装置では、正極および零極の間に第1コンデンサーが設けられ、零極および負極の間に第2コンデンサーが設けられる。このような電力変換装置では、第1コンデンサーの保持電圧が交流波形の正側として出力され、第2コンデンサーの保持電圧が交流波形の負側として出力される。
【0003】
このため、電力変換装置では、第1コンデンサーの保持電圧と第2コンデンサーの保持電圧とが互いに等しくなるように均等化(バランス)させる必要がある。両コンデンサーの保持電圧を均等化する技術としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載された技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-199738号公報
【特許文献2】特開2011-109789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、両コンデンサーの保持電圧を均等化するために、リアクトルやスイッチング素子などのバランサーが別途必要となり、容量増に伴う大型化や高コスト化などを招く、といった課題がある。
特許文献2に記載された技術では、流れる電流が小さい低負荷時においては均等化の効果が弱まる、といった課題がある。
【0006】
このような事情に鑑みて、本発明の目的は、バランサーを用いることなく、低負荷時であっても、均等化の効果を維持することが可能な技術等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る電力変換装置は、直流電源の正極および負極の間に直列接続された第1コンデンサーおよび第2コンデンサーを含み、前記正極、前記第1コンデンサーおよび第2コンデンサーの接続点である零極、または、前記負極、のいずれかにスイッチングして、交流電力を出力するDC/AC変換部と、前記DC/AC変換部のスイッチングを、電流指令および電圧指令に応じて制御する処理部と、を有し、前記処理部は、前記交流電力の有効電力が閾値以上であるか否かを判定し、前記有効電力が閾値以上であると判定すれば、前記電圧指令を直流信号で補正し、前記有効電力が閾値未満であると判定すれば、前記電流指令を交流信号で補正する。
この態様に係る電力変換装置によれば、バランサーを用いることなく、低負荷時であっても、均等化の効果を維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る電力変換装置の回路構成を示す図である。
図2】電力変換装置における処理部の構成を示すブロック図である。
図3】応用例に係る電力変換装置の回路構成を示す図である。
図4】従来例(特許文献1)の回路構成を示す図である。
図5】従来例(特許文献2)の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る電力変換装置について図面を参照して説明する。図1は、直流電源の電圧Eを入力して、例えば単相の交流電圧に変換して出力する電力変換装置1の回路構成を示す図である。
【0010】
図に示されるように、電力変換装置1は、DC/AC変換部10と処理部20とを有する。DC/AC変換部10は、直流の電圧Eを、正極P、零極Zおよび負極Nの3レベルで出力する3レベルインバーターであり、第1コンデンサーC1、第2コンデンサーC2およびスイッチ回路Q1~Q6を含む。
【0011】
第1コンデンサーC1および第2コンデンサーC2は、正極Pと負極Nとの間で直列接続され、入力でなる直流の電圧Eを分割する。なお、第1コンデンサーC1および第2コンデンサーC2の接続点が零極Zである。
スイッチ回路Q1~Q6では、それぞれスイッチング素子とダイオード素子とが逆方向に並列接続される。このうち、スイッチ回路Q1~Q4が、正極Pと負極Nとの間において4段で直列接続される。なお、スイッチ回路Q2およびQ3の接続点が出力点Outである。
【0012】
スイッチ回路Q5は、スイッチ回路Q1およびQ2の接続点と零極Zとの間に設けられ、当該接続点から零極Zに向かう電流を阻止する。このため、スイッチ回路Q1およびQ2の接続点は、スイッチ回路Q5によって零極Zの電位にクランプされる。
スイッチ回路Q6は、零極Zとスイッチ回路Q3およびQ4の接続点との間に設けられ、零極Zから当該接続点に向かう電流を阻止する。このため、スイッチ回路Q3およびQ4の接続点は、スイッチ回路Q6によって零極Zの電位にクランプされる。
なお、スイッチ回路Q5、Q6は、逆方向の耐圧を有するダイオード素子に置き換えてもよい。
【0013】
第1コンデンサーC1で保持された第1保持電圧Vc1、第2コンデンサーC2で保持された第2保持電圧Vc2、出力点Outから負荷に流れる電流i_d、および、出力点Outから負荷に流れる電流i_dは、それぞれセンサによって検出されて、これらの検出結果がそれぞれ処理部20に供給される。
処理部20は、これらの検出結果や電圧指令、電流指令に基づいて、スイッチ回路Q1~Q4におけるスイッチング素子のオンおよびオフを制御する。
【0014】
次に、処理部20について説明する。処理部20における演算は、例えばDSP(Digital Signal Processor)などによってデジタル処理で実行されるが、ここでは便宜的に、アナログ処理で実行されるもの、として説明する。
【0015】
図2は、処理部20の構成を示すブロック図である。
図に示されるように、処理部20は、電圧差算出部210、有効電力判定部220、電圧補正値算出部230、電流補正値算出部240および制御部250を有する。
【0016】
電圧差算出部210は、加算部211およびLPF(Low Pass Filter)212を有する。加算部211は、加算入力端(+)に入力された第1保持電圧Vc1から、減算入力端(-)に入力された第2保持電圧Vc2を減算して、当該減算結果を出力する。
なお、本説明において加算部は、二入力の加算のみならず、一方の入力から他方の入力の減算、正値と負値との加算等の広義の加減算を実行するものをいう。
【0017】
LPF212は、加算部211の出力のうち、低域成分を通過させ、高域成分を遮断して、直流の電圧差Dcとして出力する。
なお、電圧差Dcがゼロであれば、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2が等しく、バランスしていることを示し、電圧差Dcが正値であれば、Vc1>Vc2であることを示し、電圧差Dcが負値であれば、Vc1<Vc2であることを示す。
【0018】
有効電力判定部220は、有効電力算出部221、コンパレーター222、スイッチ223、NOT回路224、スイッチ225を含む。
有効電力算出部221は、DC/AC変換部10から出力された電圧e_dおよび電流i_dを入力して、有効電力Pwを算出する。例えば有効電力算出部221は、電圧e_dおよび電流i_dの瞬時値同士を乗算して、当該乗算結果を平均化することで有効電力Pwを算出する。
【0019】
コンパレーター222は、負入力端(-)に供給された有効電力Pwが正入力端(+)に供給された閾値Pth以上であれば、Lレベルの信号Detを出力し、有効電力Pwが閾値Pth未満であれば、Hレベルの信号Detを出力する。
【0020】
スイッチ223および225はそれぞれ単極双投型である。
スイッチ223は、信号DetがLレベルであれば、図において実線で示されるように係数「1」を選択し、信号DetがHレベルであれば、破線で示されるように係数「0」を選択して、選択した係数を電流補正値算出部240に出力する。
スイッチ225は、信号Detの論理レベルをNOT回路224で反転した信号にしたがって係数「0」または「1」を選択する。詳細には、スイッチ225は、信号DetがLレベルであれば、図において実線で示されるように係数「0」を選択し、信号DetがHレベルであれば、破線で示されるように係数「1」を選択して、選択した係数を電圧補正値算出部230に出力する。
したがって、有効電力判定部220は、電圧補正値算出部230および電流補正値算出部240に、排他的に係数「0」または「1」を供給する。
【0021】
電圧補正値算出部230は、調整部231および乗算部232を有する。
調整部231は、例えばACR(Automatic Current Regulator)であり、電圧差Dcの電流を自動で調整する。乗算部232は、調整部231により調整された電圧差Dcと、スイッチ225で選択された係数とを乗算して、当該乗算の積を電圧補正値e_amとして制御部250に供給する。
【0022】
電流補正値算出部240は、正負判定部241、スイッチ242、乗算部243、調整部244、絶対値算出部245、LPF246、調整部247および乗算部248を有する。
正負判定部241は、電圧差Dcの正負を判定して、スイッチ242の選択を切り替える。スイッチ242は単極双投型であり、2つの入力端のうち一方には、余弦波の正半波が供給され、入力端の他方には、余弦波の負半波が供給される。
【0023】
このような構成において、電圧差Dcが正であると正負判定部241によって判定されれば、正半波がスイッチ242によって選択され、電圧差Dcが負である判定されれば、負半波が選択されて、選択された半波が乗算部243における2つの入力端の一方に供給される。
【0024】
調整部244は、電圧差Dcの電流を自動で調整する。絶対値算出部245は、調整部244により調整された電圧差Dcの絶対値を出力する。LPF246は、電圧差Dcの絶対値の高域成分を遮断し、調整部247は、高域成分が遮断された電圧差Dcの電流を自動で調整して、乗算部248における2つの入力端の一方に供給する。
乗算部248における入力端の他方には、有効電力判定部220から出力された係数が供給される。乗算部248は、有効電力判定部220から出力された係数と、高域成分が遮断され、調整部247により調整された電圧差Dcの絶対値と、を乗算して、乗算部243における入力端の他方に供給する。
乗算部243は、スイッチ242によって選択された余弦波の正半波または負半波と、乗算部248の乗算結果とを乗算して、当該乗算の積を電流補正値i_amとして制御部250に供給する。
【0025】
制御部250は、加算部251、252、調整部253、加算部254、255およびλ変換部206を有する。
加算部251は、電流補正値i_amを、外部から供給される電流指令i_pに加算する。電流指令i_pは、DC/AC変換部10から出力される交流電流の目標値である。
加算部252は、加算部251の加算結果から、DC/AC変換部10から出力される電流i_dを減算する。このため、加算部252による減算結果は、フィードバック制御において実際に出力される電流が目標電流からどれだけシフトしているのかを示す電流偏差i_erになる。
【0026】
調整部253は、電流偏差i_erの電流を自動で調整する。
加算部254は、外部から供給される電圧指令e_pに、調整された電流偏差i_erを加算する。電圧指令e_pは、DC/AC変換部10から出力される交流電圧の目標値である。
加算部255は、加算部254の加算結果に電圧補正値e_amを加算する。
λ変換部256は、加算部255の加算結果を、変調率λに変換する。
なお、変調率λは図示省略されたキャリアと比較される。この比較によってPWM信号が生成され、スイッチ回路Q1~Q4のゲート信号として供給される。
【0027】
次に、電力変換装置1の動作について説明する。
便宜的に、処理部20の基本的な処理について説明するために、電圧差算出部210、有効電力判定部220、電圧補正値算出部230および電流補正値算出部が存在せず、制御部250だけが存在する構成を想定する。
この構成において、制御部250は、DC/AC変換部10から出力される電流i_dが目標である電流指令i_pに一致するように、スイッチ回路Q1~Q4のスイッチングをそれぞれ制御する。具体的には、制御部250は、電流偏差i_erがゼロになるように、すなわちDC/AC変換部10から出力される電流i_dが電流指令i_pに一致するようにフィードバックで制御するとともに、電圧指令e_pで出力される電圧e_dをフィードフォワードで制御する。
【0028】
次に、処理部20において、電圧差算出部210、有効電力判定部220、電圧補正値算出部230および電流補正値算出部240が存在する実施形態の構成の動作を説明する。
【0029】
有効電力判定部220は、有効電力Pwが閾値Pth以上であると判定すれば、電圧補正値算出部230に係数「1」を供給し、電流補正値算出部240に係数「0」を供給する。このため、電圧補正値算出部230により算出される電圧補正値e_amは、第1保持電圧Vc1と第2保持電圧Vc2との電圧差Dcを調整部231により調整したものとなる。一方、電流補正値算出部240により算出される電流補正値i_amは、調整部247による出力およびスイッチ242による選択にかかわらず、ゼロになる。
【0030】
有効電力Pwが閾値Pth以上であれば、電圧指令e_pが電圧補正値e_amの加算により補正されて、補正後の電圧指令にしたがって、DC/AC変換部10から出力される電圧e_dが制御される。詳細には、有効電力Pwが閾値Pth以上であれば、交流の電圧指令e_pに、電圧差Dcに応じた電圧補正値e_amがオフセットされて、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2のアンバランス状態がバランスするように制御される。
【0031】
有効電力判定部220は、有効電力Pwが閾値Pth未満であると判定すれば、電圧補正値算出部230に係数「0」を供給し、電流補正値算出部240に係数「1」を供給する。このため、電圧補正値算出部230により算出される電圧補正値e_amは、第1保持電圧Vc1と第2保持電圧Vc2との電圧差Dcにかかわらず、ゼロになる。一方、電流補正値算出部240により算出される電流補正値i_amは、電圧差Dcの極性に応じた半波であって、振幅が電圧差Dcの絶対値に応じた大きさの半波になる。なお、電流補正値i_amは、時間的な平均値でみれば、直流になる。
【0032】
有効電力Pwが閾値Pth未満であれば、電流指令i_pが電流補正値i_amの加算により補正されて、補正された電流指令(i_p+i_am)と電流i_dとの電流偏差i_erがゼロになるように、DC/AC変換部10から出力される電流i_dがフィードバック制御される。
詳細には、有効電力Pwが閾値Pth未満であれば、出力電流のフィードバック制御に、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2のバランス制御が組み合わせられる。このため、電流指令i_pが電流補正値i_amによって歪むことによってバランス制御が実行されるので、DC/AC変換部10から出力される電流が小さく、有効電力が閾値未満であっても、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2の均等化を維持することができる。
【0033】
次に、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2の具体的な動作について説明する。
スイッチ回路Q1およびQ2がオンすると、第1コンデンサーC1から放電した電力が、例えば負荷に接続されたインダクタ(図示省略)に蓄積される。次に、スイッチ回路Q1およびQ2がオフすると、インダクタに蓄積された電力が、零極Z、第2コンデンサーC2、スイッチ回路Q4のダイオードおよびスイッチ回路Q3のダイオードを順に介した経路で還流するので、第2コンデンサーC2が充電される。したがって、スイッチ回路Q1およびQ2のオンおよびオフは、第1コンデンサーC1で保持される第1保持電圧Vc1を低下させ、第2コンデンサーC2で保持される第2保持電圧Vc2を上昇させる。
【0034】
一方、スイッチ回路Q3およびQ4がオンすると、第2コンデンサーC2が放電し、放電した電力が、例えば負荷に接続されたインダクタに蓄積される。次に、スイッチ回路Q3およびQ4がオフすると、インダクタに蓄積された電力が、スイッチ回路Q2のダイオードおよびスイッチ回路Q1のダイオード、正極P、第1コンデンサーC1および零極Zを順に介した経路で還流するので、第1コンデンサーC1が充電される。したがって、スイッチ回路Q3およびQ4のオンおよびオフは、第1保持電圧Vc1を上昇させ、第2保持電圧Vc2を低下させる。
【0035】
仮に、本実施形態においてVc1>Vc2になって電圧差が正値になれば、電圧指令e_pが電圧補正値e_amによって補正され、または電流指令i_pが電流補正値i_amによって補正される結果、スイッチ回路Q1およびQ2のオン・オフの頻度(オン・オフの時間)が、スイッチ回路Q3およびQ4のオン・オフの頻度よりも高く(時間が長く)なる。このため、第1保持電圧Vc1が低下し、第2保持電圧Vc2が上昇して、Vc1>Vc2の状態が是正される。
【0036】
一方、Vc1<Vc2になって電圧差が負値になれば、電圧指令e_pが電圧補正値e_amによって補正され、または電流指令i_pが電流補正値i_amによって補正される結果、スイッチ回路Q3およびQ4のオン・オフの頻度(オン・オフの時間)が、スイッチ回路Q1およびQ2のオン・オフの頻度よりも高く(時間が長く)なる。このため、第1保持電圧Vc1が上昇し、第2保持電圧Vc2が低下して、Vc1<Vc2の状態が是正される。
【0037】
したがって、本実施形態では、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2に差が生じれば、その差をゼロするようなバランス制御が実行されることになる。
また、本実施形態において有効電力Pwが閾値Pth以上である場合に、電圧補正値e_amは電圧差Dcに応じた値であるので、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2の均等化制御における操作量として機能する。
また、有効電力Pwが閾値Pth未満である場合に、電流補正値i_amは電圧差Dcの極性に応じた半波と当該電圧差Dcの絶対値との積であるので、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2の均等化制御における操作量として機能する。
したがって、本実施形態では、有効電力Pwが閾値Pth以上である場合も、閾値Pth未満である場合も、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2が迅速に均等化される。
【0038】
本実施形態の効果を説明するにあたって、特許文献1および特許文献2における構成および課題の詳細に検討する。
【0039】
まず、図4に示されるように、特許文献1に記載された電力変換装置1aでは、第1コンデンサーC1で保持される第1保持電圧Vc1と第2コンデンサーC2で保持される第2保持電圧Vc2とを均等化するために、バランサーBLが設けられる。詳細には、電力変換装置1aでは、正極Pと負極Nとの間にスイッチ回路Q11およびQ12の直列回路が設けられ、零極Zとスイッチ回路Q11およびQ12の接続点との間にリアクトルL1が設けられる構成となっている。
【0040】
この構成において、例えばVc1>Vc2の場合、スイッチ回路Q11をオンさせて、第1コンデンサーC1を放電させる。このときに放電された電力はリアクトルL1に蓄積される。次に、スイッチ回路Q11をオフさせて、リアクトルL1に蓄積された電力を、スイッチ回路Q12のダイオードを介して第2コンデンサーC2に還流させる。この還流によって第2保持電圧Vc2が上昇して、第1保持電圧Vc1と第2保持電圧Vc2とが均等化される。
【0041】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、均等化のために、リアクトルL1やスイッチ回路Q11、Q12で構成されるバランサーBLが必要になり、容量増に伴う大型化や高コスト化などの課題を招く、という課題がある点は上述した通りである。
【0042】
次に、図5に示されるように、特許文献2に記載された電力変換装置1bでは、均等化のために、第1保持電圧Vc1と第2保持電圧Vc2とを検出して、その電圧差に応じて各相の交流電圧を制御する。
電力変換装置1bにおいて、例えばVc1>Vc2の場合、正極Pおよび零極Zの間のスイッチ回路をオンさせて、第1コンデンサーC1を放電させる。このときに放電された電力は、交流負荷に接続されたインダクタ(図5では省略)に蓄積される。次に、正極Pおよび零極Zの間のスイッチ回路をオフさせて、インダクタに蓄積された電力を、零極Zと負極Nとの間のスイッチ回路におけるダイオードを介して第2コンデンサーC2に還流させる。この還流によって第2保持電圧Vc2が上昇して、第1保持電圧Vc1と第2保持電圧Vc2とが均等化される。
【0043】
しかしながら、特許文献2に記載された技術では、多くの電流が流れる高負荷時には、均等化の効果を発揮するが、低負荷時には、交流電圧を制御しても流れる電流が少ないために、均等化の効果が弱い。このため、低負荷時において、第1保持電圧Vc1と第2保持電圧Vc2とが急激にアンバランスした場合の均等化が困難である、という課題がある点は上述した通りである。
【0044】
これに対して、本実施形態では、有効電力が閾値以上であれば、電圧指令e_pを直流の電圧補正値e_amで補正することで、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2が均等化される一方で、有効電力が閾値未満であれば、フィードバック制御の電流指令i_pに電流補正値i_amを加算し、電流指令を歪ませることで、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2の均等化が図られる。したがって、実施形態に係る電力変換装置1では、低負荷から高負荷まで、バランサーを用いずに、第1保持電圧Vc1および第2保持電圧Vc2の均等化が可能になる。
【0045】
上述した実施形態では、処理部20における処理をアナログで説明したが、上述したようにデジタル処理も可能である。デジタル処理の場合、第1保持電圧Vc1、第2保持電圧Vc2、電流i_dおよび電流i_dは、それぞれAD変換されて処理部20に供給される。また、電流指令i_pおよび電圧指令e_pはデジタルで処理部20に供給される
。そして、加減算や、乗算、比較、フィルタリング処理などの演算がデジタルで処理される構成とすればよい。
【0046】
また、実施形態では、DC/AC変換部10が単相交流を出力する構成を示したが、例えば図3に示されるようにU、VおよびWの三相交流を出力する構成であってもよい。三相交流を出力する場合、U、VおよびWの各相について図2に示される処理内容を適用すればよい。
【0047】
以上に例示した各種の形態から、例えば次のような態様が把握される。
【0048】
本開示のひとつの態様1に係る電力変換装置は、直流電源の正極および負極の間に直列接続された第1コンデンサーおよび第2コンデンサーを含み、前記正極、前記第1コンデンサーおよび第2コンデンサーの接続点である零極、または、前記負極、のいずれかにスイッチングして、交流電力を出力するDC/AC変換部と、前記DC/AC変換部のスイッチングを、電流指令および電圧指令に応じて制御する処理部と、を有し、前記処理部は、前記交流電力の有効電力が閾値以上であるか否かを判定し、前記閾値以上であると判定すれば、直流信号で前記電圧指令を補正し、前記閾値未満であると判定すれば、電流が変化し、かつ、単位時間での平均値が直流になる交流信号で前記電流指令を補正する。
【0049】
態様1によれば、有効電力が閾値以上であれば、第1保持電圧と第2保持電圧との電圧差が直流信号で電圧指令が補正されて、第1保持電圧および第2保持電圧が均等化される。一方で、有効電力が閾値未満であれば、電流が変化し、かつ、単位時間での平均値が直流になる交流信号で電流指令が補正されるので、当該電流指令は歪むので、DC/AC変換部の出力電流が小さく、有効電力が閾値未満であっても、第1保持電圧および第2保持電圧が均等化される。
したがって、態様1に係る電力変換装置では、低負荷から高負荷まで、バランサーを用いずに、第1保持電圧および第2保持電圧の均等化が可能になる。
【0050】
なお、直流信号とは、単位時間でみて電圧が一定である、とみなせる信号である。
電圧指令は、DC/AC変換部のスイッチングを制御するに際し、当該DC/AC変換部から出力される交流電圧の目標値である。電流指令は、DC/AC変換部のスイッチングを制御するに際し、当該DC/AC変換部から出力される交流電流の目標値である。
直流信号で電圧指令を補正するとは、電圧指令に直流信号を加算して、加算後の電圧指令で制御する、ということを意味する。同様に、交流信号で電流指令を補正するとは、電流指令に交流信号を加算して、加算後の電流指令で制御する、ということを意味する。
【0051】
態様1の具体的な態様2において、前記交流信号は、交流の半波である。
交流の半波は時間的に電流が変化するので、電流指令を補正する交流信号として用いることができる。
【0052】
態様1の具体的な態様3において、前記直流信号は、前記第1コンデンサーで保持される第1保持電圧と前記第2コンデンサーで保持される第2保持電圧との電圧差である。
態様3によれば、有効電力が閾値以上であれば、第1保持電圧と第2保持電圧との電圧差によって電圧指令が補正されるので、第1保持電圧および第2保持電圧の均等化が迅速に実行される。
【0053】
態様3の具体的な態様4において、前記交流信号は、前記電圧差の極性にしたがって選択された交流の正波または負波を、前記電圧差の絶対値で乗算してものである。
態様4によれば、有効電力が閾値未満であれば、第1保持電圧と第2保持電圧との電圧差の極性にしたがって選択された交流の正波または負波を、電圧差の絶対値で乗算した積によって電流指令が補正されるので、第1保持電圧および第2保持電圧の均等化が迅速に実行される。
【0054】
態様1の具体的な態様5において、前記処理部は、制御部と、前記有効電力が前記閾値以上であるか否かを判定する有効電力判定部と、前記第1コンデンサーで保持される電圧と前記第2コンデンサーで保持される電圧との電圧差を算出する電圧差算出部と、前記電圧差に応じた電圧補正値を算出する電圧補正値算出部と、前記電圧差に応じた電流補正値を算出する電流補正値算出部と、を有し、前記制御部は、前記閾値以上であると前記判定部により判定されれば、前記電圧補正値で前記電圧指令を補正し、前記閾値未満であると前記判定部により判定されれば、前記電流補正値で前記電流指令を補正する。
態様5によれば、処理部における処理内容が、有効電力判定部、電圧差算出部、電圧補正値算出部および電流補正値算出部で構成することができる。
なお、態様5において、有効電力が閾値以上であれば、電流補正値をゼロまたは無視できる程度に小さくしてもよいし、有効電力が閾値未満であれば、電圧補正値をゼロまたは無視できる程度に小さくしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…DC/AC変換部、20…処理部、200…制御部、210…電圧差算出部、220…有効電力判定部、230…電圧補正値算出部、240…電流補正値算出部、C1…第1コンデンサー、C2…第2コンデンサー。
図1
図2
図3
図4
図5