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  • 特開-動力伝達装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167462
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/36 20120101AFI20231116BHJP
【FI】
F16H48/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078659
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(71)【出願人】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D-70435 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】原 智之
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト シュペングラー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ウルトシュナー
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィッド ウルマン
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA34
3J027FA36
3J027FA37
3J027FB02
3J027HB07
3J027HB12
3J027HD01
3J027HE03
3J027HF02
3J027HG03
3J027HH01
3J027HH02
3J027HH13
3J027HK02
(57)【要約】
【課題】重量の偏りと駆動トルクの偏りとを低減できる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置は、駆動トルクを第1の出力軸および第2の出力軸に配分する差動装置と、第1の要素、第1の要素に連動して回転する第2の要素および第3の要素をそれぞれ備える第1の遊星歯車装置および第2の遊星歯車装置と、第1の遊星歯車装置の第3の要素と第2の遊星歯車装置の第3の要素とを連結する連結部と、を備える。第1の出力軸は第1の遊星歯車装置の第1の要素に結合し、第2の出力軸は第2の遊星歯車装置の第1の要素に結合する。第1の遊星歯車装置の第2の要素は制御モーターが取り付けられ、第2の遊星歯車装置の第2の要素は回転が規制されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動トルクを第1の出力軸および第2の出力軸に配分する差動装置と、
第1の要素、前記第1の要素に連動して回転する第2の要素および第3の要素をそれぞれ備える第1の遊星歯車装置および第2の遊星歯車装置と、
前記第1の遊星歯車装置の前記第3の要素と前記第2の遊星歯車装置の前記第3の要素とを連結する連結部と、を備え、
前記第1の出力軸は、前記第1の遊星歯車装置の前記第1の要素に結合し、
前記第2の出力軸は、前記第2の遊星歯車装置の前記第1の要素に結合し、
前記第1の遊星歯車装置の前記第2の要素に制御モーターが取り付けられ、
前記第2の遊星歯車装置の前記第2の要素は回転が規制されている動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2の遊星歯車装置の前記第2の要素は、摩擦によって静止体に固定されている請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1の要素は、サンギヤとリングギヤとにかみあうプラネタリギヤを回転自在に支持するキャリヤである請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1の遊星歯車装置および第2の遊星歯車装置は、前記差動装置に関して対称に配置されている請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2つの出力軸にトルクを配分する動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの出力軸にトルクを配分する動力伝達装置として、特許文献1に開示された先行技術が知られている。先行技術は、駆動トルクを2つの出力軸に配分する差動装置と、片方の出力軸に配置された3台の遊星歯車装置と、を備えている。遊星歯車装置の要素の1つは片方の出力軸に結合し、遊星歯車装置の別の要素は差動装置に接続されている。遊星歯車装置に取り付けられた制御モーターが作動すると、遊星歯車装置の要素を逆に回転させるトルクが差動装置に加わるため、2つの出力軸に駆動トルクを能動的に配分できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許発明第102014112602号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術は片方の出力軸に3台の遊星歯車装置が配置されているので、差動装置を境にして片方に重量が偏ると共に駆動トルクの偏りを生じるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、左右の重量および駆動トルクの偏りを低減できる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の動力伝達装置は、駆動トルクを第1の出力軸および第2の出力軸に配分する差動装置と、第1の要素、第1の要素に連動して回転する第2の要素および第3の要素をそれぞれ備える第1の遊星歯車装置および第2の遊星歯車装置と、第1の遊星歯車装置の第3の要素と第2の遊星歯車装置の第3の要素とを連結する連結部と、を備える。第1の出力軸は第1の遊星歯車装置の第1の要素に結合し、第2の出力軸は第2の遊星歯車装置の第1の要素に結合する。第1の遊星歯車装置の第2の要素は制御モーターが取り付けられ、第2の遊星歯車装置の第2の要素は回転が規制されている。
【0007】
差動装置は、第1の出力軸に結合し中心軸を中心に自転する第1のサイドギヤと、第2の出力軸に結合し中心軸を中心に自転する第2のサイドギヤと、第1のサイドギヤと第2のサイドギヤとにかみあい中心軸の周りを公転するピニオンと、ピニオンの自転軸を支持し駆動トルクが与えられるデフケースと、を備えるものであっても良い。
【発明の効果】
【0008】
第1の態様によれば、第1の出力軸に結合する第1の要素、第1の要素に連動して回転する第2の要素および第3の要素を備える第1の遊星歯車装置と、第2の出力軸に結合する第1の要素、第1の要素に連動して回転する第2の要素および第3の要素を備える第2の遊星歯車装置と、を備え、差動装置に与えられた駆動トルクが、第1の出力軸および第2の出力軸に配分される。連結部によって第3の要素同士が連結され、第2の遊星歯車装置の第2の要素は回転が規制されている。第1の遊星歯車装置の第2の要素に制御モーターがトルクを与えると、第1の出力軸および第2の出力軸にトルクを能動的に配分できる。遊星歯車装置は2つの出力軸にそれぞれ配置されているので、重量の偏りと駆動トルクの偏りとを低減できる。
【0009】
第2の態様によれば、第1の態様において、第2の遊星歯車装置の第2の要素は摩擦によって静止体に固定されている。第2の出力軸のトルクが過大になると第2の要素が回転するので、部品の破損のリスクを低減できる。
【0010】
第3の態様によれば、第1又は第2の態様において、第1の要素はサンギヤにかみあうプラネタリギヤを支持するキャリヤである。制御トルクが与えられる第2の要素から第1の要素に伝わる回転速度を遅くできるので、比較的小さな制御トルクによって第1の要素にトルクを与えることができる。
【0011】
第4の態様によれば、第1又は第2の態様において、第1の遊星歯車装置および第2の遊星歯車装置は差動装置に関して対称に配置されている。よって差動装置に関する対称性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施の形態における動力伝達装置のスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態における動力伝達装置10のスケルトン図である。動力伝達装置10は2つの出力軸のトルク配分を調整する装置である。本実施形態では、自動車に配置された動力伝達装置10を説明する。動力伝達装置10は、与えられたトルクを第1の出力軸11及び第2の出力軸12に配分する差動装置13と、第1の出力軸11に配置された第1の遊星歯車装置20と、第2の出力軸12に配置された第2の遊星歯車装置30と、を備えている。
【0014】
差動装置13は、中心軸Oを中心とする円環状に第1のギヤ15が設けられたデフケース14と、中心軸Oを中心に自転する第1のサイドギヤ16及び第2のサイドギヤ17と、第1のサイドギヤ16及び第2のサイドギヤ17にかみあうピニオン18と、を備えている。サイドギヤ16,17及びピニオン18はベベルギヤであり、ベベルギヤ同士のかみあいにより動力の伝達方向を変更する。ピニオン18の自転軸19はデフケース14に設けられており、ピニオン18は中心軸Oの周りを公転する。ピニオン18の数は、駆動モーター(図示せず)の最大トルク、自動車の重量や用途などにより1個または複数個が適宜設定される。
【0015】
第1の出力軸11は第1のサイドギヤ16に中心軸O上で結合し、第2の出力軸12は第2のサイドギヤ17に中心軸O上で結合している。第1の出力軸11及び第2の出力軸12は逆の方向に向かって延びている。第1の出力軸11及び第2の出力軸12は中心軸O上に連結していれば、軸の全長に亘って同軸である必要はない。第1の出力軸11及び第2の出力軸12は、中心軸Oに対して角度があっても良い。第1の出力軸11及び第2の出力軸12には、それぞれ車輪(図示せず)が取り付けられている。
【0016】
デフケース14に設けられた第1のギヤ15には、駆動モーター(図示せず)のトルク(駆動トルク)が与えられる。第1の出力軸11及び第2の出力軸12は自動車の駆動軸である。動力伝達装置10は、駆動モーターのトルクを第1の出力軸11及び第2の出力軸12を介して左右の車輪に伝えると共に、左右の車輪の回転速度差を許容しつつ左右の車輪にトルクを能動的に配分する。
【0017】
第1の遊星歯車装置20は、第1の要素21、第1の要素21に連動して回転する第2の要素22及び第3の要素24を備えている。第1の要素21に連動して第2の要素22及び第3の要素24が回転するというのは、動力伝達装置10に遊星歯車装置20が組み付けられる前の状態のことをいう。動力伝達装置10に遊星歯車装置20が組み付けられた後は、各要素21,22,24のいずれかは回転が規制される。本実施形態では第2の要素22はサンギヤであり、第3の要素24はサンギヤと同軸に配置されたリングギヤである。第1の要素21は、サンギヤとリングギヤとにかみあうプラネタリギヤ23を支持するキャリヤである。
【0018】
第1の要素21は第1の出力軸11に結合しており、第1の出力軸11は第2の要素22を貫通している。第3の要素24には、周方向に連続する円環状の第2のギヤ25が設けられている。第2の要素22には、周方向に連続する円環状の第3のギヤ26が設けられている。第3のギヤ26にかみあう第4のギヤ27は、制御モーター28の回転軸に結合している。第2の要素22には、第3のギヤ26と第4のギヤ27とのかみあい(減速装置)を介して、制御モーター28のトルク(制御トルク)が与えられる。
【0019】
第2の遊星歯車装置30は、第1の要素31、第1の要素31に連動して回転する第2の要素32及び第3の要素34を備えている。第1の要素31に連動して第2の要素32及び第3の要素34が回転するというのは、動力伝達装置10に遊星歯車装置30が組み付けられる前の状態のことをいう。動力伝達装置10に遊星歯車装置30が組み付けられた後は、各要素31,32,34のいずれかは回転が規制される。本実施形態では第2の要素32はサンギヤであり、第3の要素34はサンギヤと同軸に配置されたリングギヤである。第1の要素31は、サンギヤとリングギヤとにかみあうプラネタリギヤ33を回転自在に支持するキャリヤである。
【0020】
第1の要素31は第2の出力軸12に結合しており、第2の出力軸12は第2の要素32を貫通している。第3の要素34には、周方向に連続する円環状の第5のギヤ35が設けられている。第2の要素32には、第2の要素32と一体に回転する回転体36が設けられている。回転体36は動力伝達装置10のケース(図示せず)等の静止体41に、摩擦によって固定されている。従って第2の遊星歯車装置30の第2の要素32は回転が規制されている。
【0021】
第1の遊星歯車装置20の第2の要素22を固定し、第1の要素21を入力軸、第3の要素24を出力軸とするときの第1の遊星歯車装置20の速度伝達比は、第2の遊星歯車装置30の第2の要素32を固定し、第1の要素31を入力軸、第3の要素34を出力軸とするときの第2の遊星歯車装置30の速度伝達比と同じ値である。すなわち第1の遊星歯車装置20と第2の遊星歯車装置30は、配置されている位置が異なるだけで、各要素の歯数や個数は同一である。第2のギヤ25の歯数は、第5のギヤ35の歯数と同じ値である。
【0022】
差動装置13は、第1の遊星歯車装置20と第2の遊星歯車装置30との間に配置されている。本実施形態では、第1の遊星歯車装置20及び第2の遊星歯車装置30は、差動装置13に関して対称に配置されている。第1の遊星歯車装置20のサンギヤ及び第2の遊星歯車装置30のサンギヤは、差動装置13のピニオン18の自転軸19を含む平面42に関して対称に配置されている。
【0023】
動力伝達装置10は、第1の遊星歯車装置20と第2の遊星歯車装置30との間に、第3の要素24,34同士を連結する連結部37が配置されている。連結部37は、第3の要素24に設けられた第2のギヤ25にかみあう第6のギヤ38と、第3の要素34に設けられた第5のギヤ35にかみあう第7のギヤ39と、第6のギヤ38と第7のギヤ39とを結合し第6のギヤ38及び第7のギヤ39と一体に回転する軸40と、を備えている。第6のギヤ38の歯数は、第7のギヤ39の歯数と同じ値である。軸40の位置は固定されているので、本実施形態では連結部37により第3の要素24,34は同じ向きに同じ速度で回転する。
【0024】
第1の遊星歯車装置20のサンギヤにかみあうプラネタリギヤ23を支持するキャリヤ(第1の要素21)が、制御モーター28が取り付けられたサンギヤ(第2の要素22)を回そうとすると、第2の要素22の回転速度は、第1の要素21の回転速度よりも大きくなろうとする。各要素に働くトルクは回転速度に反比例するので、第1の要素21のトルクよりも第2の要素22のトルクを低減できる。トルクを低減した第2の要素22の回転を規制できる程度のイナーシャをもった制御モーター28が、第2の要素22に取り付けられている。すなわち制御モーター28によって第2の要素22は回転が規制されている。
【0025】
動力伝達装置10が搭載された自動車が、石畳路のようなでこぼこ道を高速で直進しているときは、片方の車輪(図示せず)が瞬間的に路面を離れて宙に浮き、再び着地することがある。片方の車輪が宙に浮いたときも駆動モーター(図示せず)はトルクを差動装置13に供給し続けるので、宙に浮いた車輪は空転し、差動装置13が作動して、車輪が取付けられた出力軸11,12が結合した第1の要素21,31間の回転速度が大きく相違せざるを得ないような状態になる。
【0026】
しかし、第2の遊星歯車装置30の第2の要素32は回転が規制されており、第3の要素34は連結部37を介して第1の遊星歯車装置20の第3の要素24に連結され、第2の要素22には第3のギヤ26と第4のギヤ27とのかみあい(減速装置)を介して制御モーター28が取り付けられている。従って片方の車輪が宙に浮いた状態で差動装置13が作動するときは、第1の遊星歯車装置20の第2の要素22が制御モーター28を逆駆動する、又は、第2の遊星歯車装置30の第2の要素32が静止体41と回転体36との間に働く摩擦力に抗して回転しようとする状態になる。
【0027】
第2の遊星歯車装置30の第1の要素31(キャリヤ)が、ある速度で回転するときの第2の要素32(サンギヤ)の回転速度は、第1の要素31の回転速度よりも大きいので、第2の要素32及び回転体36のトルクは、第1の要素31のトルクよりも小さい。従って回転体36と静止体41との間に働く、ある程度の大きさの摩擦力によって第2の要素32の回転は規制される。
【0028】
第1の遊星歯車装置20の第2の要素22が制御モーター28を逆駆動するには、制御モーター28のイナーシャに、減速装置の減速比を2乗した値を乗じた大きなイナーシャを駆動しなければならない。従って片方の車輪が短時間浮いた程度では、宙に浮いた車輪の回転速度はほとんど変化しない。すなわち第1の遊星歯車装置20及び第2の遊星歯車装置30は慣性リミテッドスリップデフを実現する。片方の車輪が宙に浮いても左右の車輪の回転速度はほとんど変わらないので、接地している車輪には駆動トルクが与え続けられる。宙に浮いた車輪が着地したときも、両方の車輪は自動車を駆動し続けるので直進安定性を確保できる。宙に浮いた車輪の回転速度は、接地していたときの車輪の回転速度とほぼ同じなので、車輪が再着地したときに動力伝達装置10の各ギヤに過大な撃力は働かない。よって動力伝達装置10の各ギヤ等の破損のリスクを低減できる。
【0029】
自動車の直進走行中に横風が吹いてきたときや旋回のときなどに制御モーター28を作動すると、第1のサイドギヤ16と第2のサイドギヤ17とを逆の向きに回転させる方向のトルクが動力伝達装置10に加わるため、出力軸11,12の片方はトルクが増加し、出力軸11,12のもう片方はトルクが減少した状態になる。これにより自動車が曲がろうとするときの制御のパラメータである重心回りのヨーモーメントの制御ができる。遊星歯車装置20,30は2つの出力軸11,12にそれぞれ配置されているので、差動装置13を境にした動力伝達装置10の重量の偏りと駆動トルクの偏りとを低減できる。よって自動車の走行安定性を向上できる。
【0030】
制御モーター28を作動すると第3のギヤ26と第4のギヤ27とのかみあいを介して第2の要素22が回転し、プラネタリギヤ23の公転に伴い第1の要素21が回転し、第1のサイドギヤ16と第2のサイドギヤ17とを逆の向きに回転させる方向のトルクが動力伝達装置10に加えられる。この動作はギヤのかみあいにより実現されるので、ヒステリシスがないに近い状態でトルクの大きさと方向を制御し、正確に左右の車輪に駆動力を能動的に配分できる。
【0031】
第2の遊星歯車装置30の第2の要素32は摩擦によって静止体41に固定されているので、回転体36と静止体41との間に働く摩擦力を上回るトルクが第2の要素32に加えられない限り、第2の要素32は静止している。第2の出力軸12のトルクが過大になり、回転体36と静止体41との間に働く摩擦力を上回るトルクが第2の要素32に加えられると、第2の要素32は回転する。これにより過大なトルクが動力伝達装置10に加えられたときに、動力伝達装置10の各ギヤに過大な撃力が働かないようにできる。よって動力伝達装置10の破損のリスクを低減できる。
【0032】
第1の出力軸11が結合した第1の要素21(キャリヤ)のトルクよりもトルクが小さい第2の要素22(サンギヤ)に制御モーター28が取り付けられているので、比較的小さな制御モーター28の小さいトルク(制御トルク)で動力伝達装置10にトルクを与えることができる。よって制御モーター28は最大トルクが小さいものを採用できる。
【0033】
差動装置13は、第1の出力軸11に結合する第1のサイドギヤ16と、第2の出力軸12に結合する第2のサイドギヤ17と、第1のサイドギヤ16と第2のサイドギヤ17とにかみあうピニオン18と、ピニオン18の自転軸19を支持するデフケース14と、を備えている。これにより遊星歯車装置を含む差動装置に比べ、第1の出力軸11と第2の出力軸12とにトルクを配分する効率の偏りを低減できる。さらに既存の差動装置13にトルクベクトリング機能を追加できる。
【0034】
第1の遊星歯車装置20及び第2の遊星歯車装置30は差動装置13に関して対称に配置されているので、差動装置13に関する動力伝達装置10の対称性を向上できる。さらに第1の出力軸11と第2の出力軸12とを同じ長さにできるので、操縦性を向上できる。特に第1の遊星歯車装置20のサンギヤ及び第2の遊星歯車装置30のサンギヤは、差動装置13のピニオン18の自転軸19を含む平面42に関して対称に配置されているので、対称性をさらに向上できる。また、差動装置13の中心軸Oと遊星歯車装置20,30の回転中心とが同軸上に配置されているので、動力伝達装置10の径方向の寸法が過大にならないようにできる。
【0035】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0036】
実施形態では、ベベルギヤからなる2つのサイドギヤ16,17と、サイドギヤ16,17にかみあうピニオン18と、を備える差動装置13について説明したが、必ずしもこれに限るものではない。ベベルギヤを含む差動装置13に代えて、遊星歯車装置を含む公知の機構を差動装置13に採用することは当然可能である。
【0037】
実施形態では、第1の遊星歯車装置20及び第2の遊星歯車装置30が、単一の遊星歯車列を備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。単一の遊星歯車列を複数組み合わせた複合遊星歯車列を第1の遊星歯車装置20及び第2の遊星歯車装置30にそれぞれ採用することは当然可能である。
【0038】
実施形態では、第1の遊星歯車装置20において、第2の要素22としてサンギヤに制御モーター28を取り付け、第3の要素24としてリングギヤを第2の遊星歯車装置30に連結し、第2の遊星歯車装置30において、第2の要素32として回転体36を介してサンギヤの回転を規制し、第3の要素34としてリングギヤを第1の遊星歯車装置20に連結する場合について説明した。しかし、これに限られるものではない。
【0039】
例えば第1の遊星歯車装置20において、第2の要素22としてリングギヤに制御モーター28を取り付け、第3の要素24としてサンギヤを第2の遊星歯車装置30に連結し、第2の遊星歯車装置30において、第2の要素32として回転体36を介してリングギヤの回転を規制し、第3の要素34としてサンギヤを第1の遊星歯車装置20に連結することは当然可能である。
【0040】
実施形態では、第1の遊星歯車装置20及び第2の遊星歯車装置30において、第1の要素21,31としてキャリヤを第1の出力軸11及び第2の出力軸12にそれぞれ結合する場合について説明した。しかし、これに限られるものではない。
【0041】
例えば第1の遊星歯車装置20及び第2の遊星歯車装置30において、第1の要素21,31としてリングギヤを第1の出力軸11及び第2の出力軸12にそれぞれ結合することは当然可能である。この場合、例えば第1の遊星歯車装置20において、第2の要素22としてサンギヤに制御モーター28を取り付け、第3の要素24としてキャリヤを第2の遊星歯車装置30に連結し、第2の遊星歯車装置30において、第2の要素32として回転体36を介してサンギヤの回転を規制し、第3の要素34としてキャリヤを第1の遊星歯車装置20に連結する。
【0042】
また、第1の遊星歯車装置20及び第2の遊星歯車装置30において、第1の要素21,31としてサンギヤを第1の出力軸11及び第2の出力軸12にそれぞれ結合することは当然可能である。この場合、例えば第1の遊星歯車装置20において、第2の要素22としてリングギヤに制御モーター28を取り付け、第3の要素24としてキャリヤを第2の遊星歯車装置30に連結し、第2の遊星歯車装置30において、第2の要素32として回転体36を介してリングギヤの回転を規制し、第3の要素34としてキャリヤを第1の遊星歯車装置20に連結する。
【0043】
実施形態では、第2の遊星歯車装置30の第2の要素32が、摩擦によって静止体41に固定されている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。機械的接合や冶金的接合によって第2の要素32を静止体41に固定することは当然可能である。機械的接合は、ねじ、リベット、かしめによる接合やスプライン結合が例示される。冶金的接合は、溶接、ろう付けによる接合が例示される。
【0044】
実施形態では、第3のギヤ26と第4のギヤ27とのかみあい(減速装置)を介して第2の要素22に制御モーター28が取り付けられている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。制御モーター28のイナーシャを確保すれば、減速装置を省略して、制御モーター28の回転軸と第2の要素22とを同軸に結合することは当然可能である。減速装置が省略できる分だけ、動力伝達装置10の径方向の寸法を小さくできる。
【0045】
実施形態では、第1の出力軸11及び第2の出力軸12にそれぞれ車輪が取り付けられる場合、すなわち自動車の左右に延びる駆動軸に動力伝達装置10が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1の出力軸11及び第2の出力軸12を自動車の前後に延びるように配置し、前後に延びる駆動軸(プロペラシャフト)に動力伝達装置10を設けることは当然可能である。この場合、動力伝達装置10は前後輪間のトルク配分を調整する。
【0046】
実施形態では、差動装置13に駆動モーター(図示せず)の駆動力が加えられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。差動装置13にエンジンの駆動力が加えられるようにすることは当然可能である。この場合、エンジンと差動装置13との間に変速機を介在させることは当然可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 動力伝達装置
11 第1の出力軸
12 第2の出力軸
13 差動装置
14 デフケース
16 第1のサイドギヤ
17 第2のサイドギヤ
18 ピニオン
19 自転軸
20 第1の遊星歯車装置
21 第1の要素(キャリヤ)
22 第2の要素(サンギヤ)
23 プラネタリギヤ
24 第3の要素(リングギヤ)
28 制御モーター
30 第2の遊星歯車装置
31 第1の要素(キャリヤ)
32 第2の要素(サンギヤ)
33 プラネタリギヤ
34 第3の要素(リングギヤ)
37 連結部
41 静止体
O 中心軸
図1