(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167464
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ゴム物品、及びこれを用いたタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20231116BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078662
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 菜穂
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC01X
4J002AC04Y
4J002AC05W
4J002FD010
4J002GM01
4J002GN01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた低発熱性と耐カット性とを両立することができるゴム物品、及び、該ゴム物品を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分と、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含むゴム組成物の加硫物であり、前記ゴム成分が、30質量%以上70質量%以下の天然ゴムと、30質量%以上70質量%以下のブタジエンゴムとを含み、前記シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上40質量部以下であり、厚みが3mm以上である、ゴム物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含むゴム組成物の加硫物であり、
前記ゴム成分が、30質量%以上70質量%以下の天然ゴムと、30質量%以上70質量%以下のブタジエンゴムとを含み、
前記シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上40質量部以下であり、
厚みが3mm以上である、ゴム物品。
【請求項2】
前記シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して22質量部以上30質量部以下である、請求項1に記載のゴム物品。
【請求項3】
前記シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの融点が、123℃以下である、請求項1または請求項2に記載のゴム物品。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の前記ゴム物品を用いたタイヤ。
【請求項5】
請求項3に記載の前記ゴム物品を用いたタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム物品をサイドゴムに用いた請求項4に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム物品をサイドゴムに用いた請求項5に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品及びこれを用いたタイヤに関し、特に、建設車両や鉱山車両等に用いられるタイヤのサイドゴムに適用することができるゴム物品に関する。
【背景技術】
【0002】
岩場の多い鉱山や建設現場を走行するダンプトラック等に装着されるタイヤ(ORR(オフロードラジアル)タイヤと呼ばれる)は、サイドウォール部にカット傷を受けやすい。このことから、当該サイドウォール部に適用されるサイドゴムには高い耐カット性が求められる。
また、近年、低燃費化及び軽量化のため、ORRタイヤにおいて薄ゲージ化が進められている。しかしながら、サイドゴムが薄くなるほど、耐カット性が低下する傾向がある。
耐カット性を向上させるために、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを配合したゴム組成物を用いることが知られている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを配合するだけでは、耐カット性の効果は十分とは言えず、また、低発熱性との両立においてもさらに改善する余地があった。このことから、低発熱性及び高い耐カット性との両立が課題となっていた。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、優れた低発熱性と耐カット性とを両立することができるゴム物品、及び、該ゴム物品を用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1]ゴム成分と、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含むゴム組成物の加硫物であり、前記ゴム成分が、30質量%以上70質量%以下の天然ゴムと、30質量%以上70質量%以下のブタジエンゴムとを含み、前記シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上40質量部以下であり、厚みが3mm以上である、ゴム物品。
[2]前記シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して22質量部以上30質量部以下である、[1]に記載のゴム物品。
[3]前記シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの融点が、123℃以下である、[1]または[2]に記載のゴム物品。
【0006】
[4][1]~[3]のいずれかに記載の前記ゴム物品を用いたタイヤ。
[5]前記ゴム物品をサイドゴムに用いた[4]に記載のタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明に依れば、優れた低発熱性と耐カット性とを両立することができるゴム物品を得ることができる。また、本発明のゴム物品を適用することにより、優れた低発熱性と耐カット性を示すタイヤを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ゴム物品の厚みと耐カット性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表し、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが 化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0010】
[ゴム物品]
本発明のゴム物品は、ゴム成分と、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含むゴム組成物の加硫物であり、前記ゴム成分が、30質量%以上70質量%以下の天然ゴムと、30質量%以上70質量%以下のブタジエンゴムとを含み、前記シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上40質量部以下であり、厚みが3mm以上である。
【0011】
本発明のゴム物品は、上述したゴム成分を含むゴム組成物の加硫物であることにより、優れた低発熱性を示す。
通常、ゴム物品の厚みが増すに従い耐カット性が向上する傾向がある。また、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンをゴム組成物に配合する場合、得られるゴム物品の耐カット性が向上する傾向がある。しかし、本発明者の検討の結果、上述したゴム組成物から得たゴム物品の場合、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含まないゴム組成物から得たゴム組成物よりも、厚みの増加による耐カット性の向上が顕著であることが判明した。すなわち、上述したゴム組成物から得たゴム物品の場合は、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンによる耐カット性向上効果と、ゴム物品の厚さによる耐カット性向上効果とが重畳されることを判明した。この理由は定かではないが、ゴム成分と、ゴム成分に対するシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとの配合量のバランスによる相乗効果と考えられる。すなわち、本発明は、上述のゴム組成物の加硫物からなり、厚みが3mm以上であるゴム物品とすることにより、今までの知見から予測できる範疇を超えた優れた耐カット性を得るものである。
【0012】
〔ゴム組成物〕
以下、本発明のゴム物品に用いられるゴム組成物について詳細に説明する。
<ゴム成分>
ゴム組成物は、ゴム成分と、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含む。ゴム成分が、30質量%以上70質量%以下の天然ゴムと、30質量%以上70質量%以下のブタジエンゴムとを含む。ポリブタジエンゴムの種類としては特に制限はない。例えば、ポリブタジエンゴムは、変性ブタジエンゴムであっても良く、未変性のブタジエンゴムであっても良い。
【0013】
天然ゴムの配合量をゴム成分中30質量%以上とすることにより、ゴム物品の耐カット性及び耐亀裂進展性を向上させることができる。耐カット性及び耐亀裂進展性の観点から、天然ゴムの配合量は、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。
また、天然ゴムの配合量をゴム成分中70質量%以下とすることにより、低発熱性に優れるゴム物品を得ることができるとともに、ゴム物品の耐オゾン性を向上させることができる。低発熱性と耐オゾン性の観点から、天然ゴムの配合量は、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0014】
ブタジエンゴムの配合量をゴム成分中30質量%以上とすることにより、ゴム物品の耐オゾン性を向上させることができる。耐オゾン性の観点から、ブタジエンゴムの配合量は、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。
また、ブタジエンゴムの配合量をゴム成分中70質量%以下とすることにより、ゴム物品の耐カット性及び耐亀裂進展性を向上させることができる。耐カット性及び耐亀裂進展性の観点から、ブタジエンゴムの配合量は、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
本発明において、本発明のゴム物品に要求される性能(低発熱性及び耐カット性)を阻害しない範囲で、天然ゴム及びブタジエンゴム以外のジエン系ゴムを含んでいても良い。その他のジエン系ゴムとしては、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(NBR)等が挙げられる。その他のジエン系ゴムの配合量は、ゴム成分中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。
【0016】
本発明において、ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上40質量部以下でシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含む。シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの配合量が5質量部未満である場合、加硫ゴム中において十分な結合が形成されず、十分な耐カット性及び低発熱性を得ることができない。一方、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの配合量が40質量部を超える場合、ゴムの柔軟性が低下するので、十分な耐カット性及び低発熱性を得ることができないだけではなく、耐亀裂進展性も低下するため好ましくない。優れた低発熱性及び耐カット性を得る観点から、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの配合量は、22質量部以上30質量部以下であることが好ましく、24質量部以上28質量部以下であることがより好ましい。
【0017】
一般に、ORRタイヤ等の大型タイヤは、比較的低い温度(145℃以下)で加硫が行われる。シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの融点が加硫温度よりも低い場合は、加硫時にシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンがゴム成分中に均一に分散しやすくなる。この結果、加硫後のゴム製品の物性、特に耐亀裂性を向上させることができる。上記加硫温度を考慮すると、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの融点は、123℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましい。一方、加硫後のゴム製品の耐カット性及び発熱特性を考慮すると、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの融点は95℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。
なお、本発明においては、示差走査熱量測定(DSC)装置内にシンジオタクチック1,2-ポリブタジエンのサンプルを入れ、10℃/分の昇温速度で昇温してDSC曲線を取得し、該DSC曲線の融解ピーク温度を、「融点」とする。
【0018】
シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンは、重量平均分子量(Mw)が100,000~750,000であることが好ましく、120,000~750,000であることがより好ましく、140,000~750,000であることが更に好ましい。重量平均分子量(Mw)が上記範囲であることにより、耐カット性及び低発熱性に優れるゴム製品を得ることができ、また、作業性も良好となる。
なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として求める。
【0019】
シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの結晶化度は、25~80%であることが好ましく、25~70%であることがより好ましく、25~50%であることが更に好ましい。上記結晶化度のシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを用いることにより、優れた耐カット性と低発熱性とを両立することができる。
なお、結晶化度は、結晶化度0%の1,2-ポリブタジエンの密度を0.889g/cm3、結晶化度100%の1,2-ポリブタジエンの密度を0.963g/cm3として、水中置換法により測定した密度から換算して算出する。
【0020】
シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンは、1,2-結合含有量が、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
なお、1,2-結合含有量は、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの1H及び13C核磁気共鳴(NMR)分析により求める。
【0021】
本発明に適用できるシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとして、JSR(株)製の商品名「RB840」(融点:126℃、結晶化度:36%、1,2結合含有量:94質量%)、商品名「RB830」(融点:105℃、結晶化度:29%、1,2結合含有量:93質量%)などが挙げられる。中でも、商品名「RB830」を用いることが好ましい。
【0022】
<充填剤>
本発明に用いられるゴム組成物は、ゴム組成物を補強する充填剤を含有する。ゴム組成物が充填剤を含有することで、ゴム製品の耐破壊特性など、強度を上げることができる。
ゴム組成物は、充填剤としてカーボンブラックを含有することが好ましい。また、本発明のゴム組成物は、カーボンブラック以外に、シリカ、及び、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤としては、クレー、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0023】
<<カーボンブラック>>
カーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらカーボンブラックは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定する)は、低発熱性の観点から120m2/g以下であることが好ましく、100m2/g以下であることがより好ましい。また、耐久性の観点から、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、40m2/g以上であることが好ましく、50m2/g以上であることがより好ましい。カーボンブラックは、上述したものから1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、耐久性の観点から20質量部以上であることが好ましく、25質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることが更に好ましい。また、発熱性の観点から、カーボンブラックの含有量は、70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、55質量部以下であることが更に好ましい。
【0024】
<<無機充填材>>
本発明に用いられるゴム組成物は、必要に応じて、無機充填材が含まれていてもよい。無機充填材として、シリカ、及びアルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムから選ばれる少なくとも1つの金属、金属酸化物又は金属水酸化物が挙げられる。中でも、補強性の高いシリカが好ましい。シリカの種類は特に制限はなく、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明に係るゴム組成物は、シリカを含む無機充填材が配合される場合には、ゴム組成物の補強性及び低燃費性を更に向上させる目的で、シランカップリッグ剤を配合してもよい。
無機充填材の含有量は、発熱性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、80質量部以下であることが好ましく、75質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることが更に好ましい。
【0025】
<各種成分>
本発明に用いられるゴム組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される各種成分、例えば、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛、加硫促進剤、加硫剤、樹脂、オイル等を含有していてもよい。これら各種成分としては、市販品を好適に使用することができる。
【0026】
[ゴム物品の用途]
本発明のゴム物品は、低発熱性及び耐カット性に優れるものである。本発明のゴム物品は、タイヤ、コンベアベルトなどに適用することができる。
中でも、本発明のゴム物品は、タイヤに適用されることが好ましく、タイヤのサイドゴムに適用されることがより好ましい。本発明のゴム物品が適用されるタイヤとしては、ORR(オフロードラジアル)タイヤ、トラック用タイヤなどの大型車両用のタイヤが挙げられる。中でも、ORRタイヤに適用されることが好ましい。
【0027】
本発明のゴム物品は、厚みが3mm以上であることを要する。厚みが3mm以上であることにより、優れた耐カット性が確保でき、上述したゴム組成物を用いることで予想以上の耐カット性向上効果を得ることができる。耐カット性を考慮すると、ゴム物品の厚みは、4mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましい。
本発明のゴム物品がタイヤのサイドゴムに適用される場合、タイヤサイド部において、トータルゲージの一番薄い箇所の厚みが3mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。なお、サイドゴムの厚みが厚くなるほど、重量が増し燃費が悪くなる虞があり、また、使用するゴムの量も増大する。軽量化及びゴムの使用量低減のため、サイドゴムの厚みは30mm以下であることが好ましい。
【0028】
[ゴム物品の製造方法]
本発明のゴム物品は、以下の方法により製造することができる。
まず、上述したゴム組成物の各成分を配合し、混練して、ゴム組成物を調製する。混練には、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練機を使用することができる。各成分の混練は、全一段階で行ってもよく、二段階以上に分けて行ってもよい。
その後、ゴム組成物を加硫してゴム物品を得る。この場合、未加硫のゴム組成物を成形した後に加硫してもよく、予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを成形後に本加硫してもよい。
本発明のゴム物品がタイヤに適用される場合、本発明のゴム物品を他のゴム部材とともに積層して生タイヤを成形し、当該生タイヤを加硫することで、タイヤを製造する。加硫温度は、100~145℃で行うことが好ましい。
【実施例0029】
[実施例1~4、比較例1]
下記表1に示す配合組成で各成分を混練し、ゴム組成物を調製した。表1中の配合処方の数値の単位は質量部である。調製したゴム組成物を、145℃または110℃で加硫して、実施例及び比較例のゴム物品を得た。
なお、表中の成分の詳細は以下のとおりである。
NR:天然ゴム、TSR#20
BR:ブタジエンゴム、UBEエラストマー(株)、VCR450
sPB1:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、JSR(株)製、商品名「RB830」、融点:105℃
sPB2:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、JSR(株)製、商品名「RB840」、融点:126℃
カーボンブラック:旭カーボン(株)製、HAF
硫黄(加硫剤):細井化学工業(株)製、HK-200-5
TBBS(加硫促進剤):N-(t-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、三新化学工業(株)製、商品名「サンセラーNS-G」
【0030】
実施例及び比較例について、下記の評価を行った。
【0031】
1.発熱性
145℃で加硫したゴム物品を用いて、発熱性の評価を行った。株式会社上島製作所製スペクトロメーターを用いて、初期荷重1600mN、歪2%、周波数52Hzの条件下で、25℃における各ゴム物品のtanδ(損失正接)を測定した。比較例1のゴム物品のtanδを100として指数化し、発熱性指数として表した。結果を表1に示す。数値が小さい程、低発熱性であることを示す。
【0032】
2.耐カット性
145℃で加硫したゴム物品を用いて、下記の耐カット性の評価を行った。
実施例及び比較例のゴム物品から、厚さ5cm、長さ15cm、幅10cmのサンプルを切り出し、水平の台に載置した。サンプルの40cm上方に、重り(26kg)を付けた刃物を先端がサンプルに向くように配置した。その後、刃物を自由落下させて、サンプルに傷をつけた。傷に平行となる向きにサンプルをカットした後、傷の深さを測定した。比較例1のゴム物品についた傷の深さの逆数を100として指数化し、耐カット性指数として表した。結果を表1に示す。数値が大きい程、耐カット性に優れることを示す。
【0033】
3.耐亀裂進展性
比較例1、実施例2及び4について、110℃で加硫したゴム物品と145℃で加硫したゴム物品の2種類を用意した。各ゴム物品からJIS3号試験片を作製した。試験片中心部に、試験片の長さ方向に0.5mmの亀裂を入れた。引張試験装置(島津製作所社製)を用い、雰囲気温度80℃の条件で、試験片の長さ方向に0%から70%の歪み範囲で繰り返し応力を与え、試験片が切断するまでの回数を測定した。比較例1のゴム組成物を145℃で加硫したゴム物品から作製した試験片での結果を100として、それぞれの結果を指数表示した。結果を表1に示す。数値が大きい程、耐亀裂進展性が良好であることを示す。
【0034】
【0035】
表1に示すように、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを添加することにより、低発熱性であるとともに、耐カット性に優れるゴム物品が得られた。特に、実施例2,3は実施例1あるいは実施例4よりも優れた低発熱性と耐カット性を示した。
加硫温度を110℃とした場合、実施例4(シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの融点が126℃)は十分な耐亀裂進展性が得られなかった。これに対し、実施例2(シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの融点が105℃)では、比較例1に対して耐亀裂進展性が向上した。また、加硫温度を145℃とした場合、実施例2及び実施例4のいずれも、比較例1に対して耐亀裂進展性が向上した。このように、加硫温度がシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの融点より高い場合、より優れた耐亀裂進展性が得られた。
【0036】
[試験例1~6]
下記表2に示す配合組成で各成分を混練し、ゴム組成物を調製した。表中の配合処方の数値の単位は質量部である。調製したゴム組成物を、145℃で加硫して、試験例1~6のゴム物品を得た。各試験例のゴム物品の厚みを表2に示す。
なお、表中の成分の詳細は以下のとおりである。
NR:天然ゴム、RSS#1
sPB2:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、JSR(株)製、商品名「RB840」融点:126℃
カーボンブラック:HAFグレード、N2SA:66m2/g、DBP:103ml/100g
硫黄(加硫剤):細井化学工業(株)製、HK-200-5
CZ(加硫促進剤):N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーCZ」
【0037】
各試験例について、下記の耐カット性の評価を行った。
各試験例のゴム物品から、長さ7cm、幅6cmのサンプルを切り出し、水平の台に載置した。サンプル上方に、重り(15kg)を付けた刃物を先端がゴム物品に向くように配置した。その後、刃物を自由落下させ、サンプルに傷をつけた。刃物が落下する高さを変えながら試験を行い、サンプルが破断したときの高さを得た。得られた高さの値を用い、ゴム物品が破断するエネルギーを算出した。試験例1のゴム物品が破断したエネルギーを100として指数化し、耐カット性指数として表した。結果を表2に示す。数値が大きい程、耐カット性に優れることを示す。
また、ゴム物品の厚みと耐カット性の数値の関係を、
図1に示した。
図1において、横軸は厚み、縦軸は耐カット性の耐カット性指数である。
【0038】
【0039】
同じ厚みである場合、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを添加した試験例4~6は、添加しなかった試験例1~3よりも耐カット性が向上した。この結果は、上述した実施例と同じである。
図1に示すように、試験例1~3、4~6のいずれも、厚みが増大するに従い耐カット性が上昇する。しかし、試験例4~6は、厚みが増すに従い、試験例1~3との耐カット性指数の差が開く傾向が見られる。これは、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含むゴム組成物を用いた場合、耐カット性の上昇が、厚みによる効果以外の寄与、すなわち、ゴム組成物の成分自体による寄与もあることを示している。ゴム物品の厚みが3mm以上であることにより、ゴム組成物の成分の寄与による耐カット性上昇効果を得ることができると言える。
表2及び
図1に示した傾向は、ゴム成分にポリブタジエンを更に含み、本願の配合比率を満たすゴム組成物を用いる場合にも同様に表れると予想される。また、表2及び
図1に示した傾向は、加硫ゴム中のシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの結合量に影響される。このため、表2に記載のシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとは異なる種類のシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを用いた場合でも、同じ傾向を示すと言える。