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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167467
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】構造物
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20231116BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20231116BHJP
   E04B 1/35 20060101ALI20231116BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20231116BHJP
【FI】
B28B1/30
E04G21/02 103Z
E04B1/35 L
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078673
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊成
(72)【発明者】
【氏名】木ノ村 幸士
(72)【発明者】
【氏名】張 文博
【テーマコード(参考)】
2E172
4G052
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172DC08
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】3Dプリンタを利用して形成された、機能をもたらすための複数の空間を確保した構造物を提案する。
【解決手段】3Dプリンタのノズルから吐出されたセメント系材料2を積層することにより形成された構造物10であって、外形を形成する外層部3と、外層部3の内部空間5をコンクリート打設用領域51と中空領域52と連結用領域53に区画する内層部4とを有している。外層部3と内層部4は、連続したセメント系材料2により形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタのノズルから吐出されたセメント系材料を積層することにより形成された構造物であって、
外形を形成する外層部と、
前記外層部の内部空間をコンクリート打設用領域と中空領域とに区画する内層部と、を有することを特徴とする、構造物。
【請求項2】
外形角部の半径が、前記ノズルの半径より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
セメント系材料同士を当接する箇所において、少なくとも一方のセメント系材料が前記ノズルの半径よりも小さい半径により折り返されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の構造物。
【請求項4】
前記内部空間は、前記内層部により区画された連結用領域を有し、
前記連結用領域は、他の構造物と連結するための連結部材を収納可能であることを特徴とする、請求項1に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタを用いて形成した構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の施工において、予め所定の形状に形成されたプレキャスト部材を使用すれば、現場での型枠の組み立て、配筋作業、コンクリートの打ち込みおよび養生に要する手間を省略し、工期短縮化を図ることができる。
一方、プレキャスト部材は一般的に高価である。また、プレキャスト部材は、工場などにおいて、型枠にコンクリートを打設して形成するのが一般的である。このようなプレキャスト部材は、密実に形成されている場合が多く、重量が重く、輸送コストが高くなるとともに、施工用の揚重機の選定にも影響が及ぶ場合がある。
そのため、特許文献1には、3Dプリンタを利用して中空体を形成し、この中空体内にモルタルを充填することにより構造物を構築する方法が開示されている。
この構造物は、荷重を支持する機能を有しているが、構造物の内部に、荷重支持機能以外の機能をもたらすための空間(例えば排水路や配管スペース等)を設けておけば、構造物の外部に別部材(例えば、管材や治具等)を設ける必要がなく、施工時の手間の低減化および美観の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-062488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような観点から、本発明は、3Dプリンタを利用して形成された、機能をもたらすための複数の空間を確保した構造物を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、3Dプリンタのノズルから吐出されたセメント系材料を積層することにより形成された構造物であって、外形を形成する外層部と、前記外層部の内部空間を区画する内層部とを有している。この構造物の内部には、前記内層部により、コンクリート打設領域と、中空領域とが区画されている。
かかる構造物によれば、外層部により外形の美観が維持される。加えて、かかる構造物によれば、内層部によって外層部の内部空間を複数の領域(コンクリート打設領域と中空領域)に区画しているので、荷重支持機能をもたらす空間とそれ以外の機能をもたらす空間が確保されている。
なお、前記外形の角部の半径が、前記ノズルの半径より大きければ、角部において、3Dプリンタのノズルをなめらかに移動させることが可能となり、より高品質に構造物を製造できる。
また、セメント系材料同士を当接する箇所において、少なくとも一方のセメント系材料が前記ノズルの半径よりも小さい半径により折り返されていれば、セメント系材料同士をより確実に当接することができる。
他の構造物と連結するための連結部材を収納するための治具領域が前記内層部により形成されていれば、構造物同士を連結した際に、連結部材が露出することがなく、美観に優れた構造物を構築できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の構造物によれば、3Dプリンタを利用することで、内部空間を複数に区画することができ、この区画された領域を利用することで、複数の機能をもたらすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る支柱を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る支柱を示す側面図である。
図3】構造物の製造状況を示す正面図である。
図4】(a)は図2のA区間の断面図、(b)は図2のB区間の断面図、(c)は図2のC区間の断面図である。
図5】(a)は図2のD区間の断面図、(b)は図2のE区間の断面図である。
図6】外形角部とノズルの中心線との関係を示す模式図である。
図7】構造物を示す斜視図であって、(a)は下段ブロック、(b)は中段ブロック、(c)は上段ブロックである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態では、建物の支柱1について説明する。図1および図2に支柱1を示す。支柱1は、図1および図2に示すように、3つの構造物10,10,10(下段ブロック13,中断ブロック14,上段ブロック15)を積み重ねる(縦に連結する)ことにより所定の高さ(本実施形態では2600mm)に形成されている。構造物10は、平面視矩形状を呈しており、支柱1は、四角柱状に形成されている。支柱1の前面には、下端部に照明設置用の照明埋込部12が形成されているとともに、軸方向に沿った照明用の溝11が形成されている。溝11は、上下に延びていて、照明埋込部12の上端から支柱1の上端付近まで形成されている。溝11は、上に行くに従って深さが小さくなるように傾斜している。照明埋込部12の上端は、溝11に面して開放されている。
図3に構造物の製造状況を示す。各構造物10は、図3に示すように、3Dプリンタ6のノズル61から吐出されたセメント系材料2を積層することにより形成されている。ノズル61は、架台62により上下前後左右に移動可能に支持されている。
【0009】
図4および図5に支柱1の断面図を示す。構造物10は、図4(a)~(c)および図5(a)、(b)に示すように、外形を形成する外層部3と、外層部3の内部空間5を区画する内層部4とを有している。外層部3と内層部4は、連続したセメント系材料2により形成されている。本実施形態では、内層部4(内部空間5)にセメント系材料2の積層開始点21を設けることで、構造物10の表面に積層開始点21が現れないようにする。構造物10の側面には、スリット16が設けられている。スリット16は、セメント系材料2が外層部3から内層部4へ、または内層部4から外層部3へと移り変わる折り返し点同士を突き合せた部分である。本実施形態では、スリット16の設計上のスリット幅(セメント系材料2が変形しないと仮定した場合のスリット幅)をノズル61の直径(内径)よりも十分に小さくすることで(例えば、ノズル61の直径が25mmのときに、設計上のスリット幅を1mm)、スリット16部分の材料(セメント系材料2同士)を密着させるものとした。ノズル61から吐出されたセメント系材料は、吐出後に広がるため、設計上のスリット幅を小さくすることで、隙間が塞がれる。なお、一方の折り返し点におけるノズル61の中心と他方の折り返し点におけるノズル61の中心との離隔距離をノズル61の直径(内径)よりも小さくすると、設計上のスリット幅がマイナスとなり、折り返し点においてセメント系材料2に大きな盛り上がり等が生じる等、美観を損ねる虞がある。これに対し、前記離隔距離をノズル61の直径(内径)よりも大きくすると、セメント系材料2が自重あるいは上載荷重により広がった後も、スリット16においてセメント系材料2同士が接触せず離間する場合もあるが、設計上のスリット幅をノズル61の直径(内径)よりも十分に小さくしておけば、吐出後にセメント系材料2が広がることにより、セメント系材料2同士が密着するようになる。
【0010】
図4(a)~(c)および図5(a)、(b)に示すように、外層部3は、平面視矩形状を呈している。すなわち、外層部3は、スリット16における一方のセメント系材料2の折り返し点を起点として、矩形状に1周して他方のセメント系材料2の折り返し点に至ることにより形成されている。外層部3の角部(外形角部)は、丸みを帯びている。外形角部の半径は、ノズル61の半径より大きい。
図6に外形角部とノズル61の中心線CLの関係を示す。図6に示すように、外形角部の半径(外側の半径)がノズル61の半径Rn以下の場合(0Rn,1Rn)、ノズル61の動き(中心線CLの軌跡)が直線的となり、角の部分でノズル61の進行方向が変わる際に慣性で材料が垂れやすくなってしまう。一方、外形角部の半径をノズル61の半径よりも大きくした場合は(2Rn、3Rn)、ノズル61の曲線的な移動が可能となる。
図4(a)~(c)および図5(a)、(b)に示すように、内層部4は、外層部3の内部空間5において複数の角部及び折り返し点を有することで、内部空間5を複数に区画している。本実施形態の内部空間5には、内層部4により区画されたコンクリート打設用領域51と中空領域52と連結用領域53とが形成されている。
【0011】
コンクリート打設用領域51は、内部空間5の中央部に形成されている。コンクリート打設用領域51には、連設された構造物10に跨って補強部材(鉄筋や鉄骨等)が配設されるとともに、コンクリートが打設される。すなわち、構造物10(コンクリート打設用領域51)は、支柱1として荷重支持機能を発現する本体部分を形成するための型枠として機能する。
【0012】
中空領域52は、支柱1内に上下方向に連続した筒状空間を形成する。本実施形態の中空領域52は、雨どい(縦排水管)として機能する。本実施形態では、一対の中空領域52が、溝11または照明埋込部12を挟んで対向するように形成されている。中空領域52は、セメント系材料2を平面視三角形状に造成し、当該中空領域52の一の角部において、セメント系材料2同士を当接することにより平面的に密閉された領域に形成されている。なお、セメント系材料2同士を当接する箇所では、一方のセメント系材料2を他方のセメント系材料2に向かって直線的に近づけた後、ノズル61の半径よりも小さい半径により屈折させて他方のセメント系材料2に添設させる。すなわち、セメント系材料2同士を当接する箇所では、セメント系材料2を屈折させる際のノズル61の中心の移動軌跡の半径を、ノズル61の半径(内径)より小さくすることで、ノズル61から吐出された後に広がった材料が、他方のセメント系材料2に当接することでセメント系材料2同士の隙間がなくなる。
【0013】
連結用領域53は、構造物10同士を連結するための連結部材を収納可能な空間である。本実施形態では、構造物10の角部に連結用領域53を形成している。連結用領域53は、外層部3の角部において、一方の辺から他方の辺に向かってセメント系材料2を斜めに設置することで、三角形状に形成されている。連結部材としては、例えば、上下の構造物10,10に跨って配設された鋼棒(鉄筋等)により構成すればよい。本実施形態では、シース71を配設した状態で、連結用領域53にグラウトを充填する。構造物10同士を連結する際には、鉄筋をシース71に挿入して、両構造物10に跨った状態で設置する。また、本実施形態では、構造物10をクレーン等により吊持する際に使用する吊り金具72を連結用領域53に設けておく。
【0014】
図7に構造物10を示す。図4(a)、(b)および図7(a)に示すように、最下段の構造物10である下段ブロック13には、照明埋込部12が形成されている。照明埋込部12は、下段ブロック13の下部に形成されている。照明埋込部12は、照明設備(図示せず)を設置するために必要な空間を形成する。図4(a)および(b)に示すように、照明埋込部12は、外層部3の内面に面して、内層部4を構成するセメント系材料2を円筒状に造成することにより内部空間5に形成されている。支柱1(下段ブロック13)の下端から50mmまでの区間(A区間)では、照明埋込部12を構成するセメント系材料2の円筒状部分が2重に形成されており、支柱1(下段ブロック13)の下端から50mm~400mmの区間(B区間)では、照明埋込部12を構成するセメント系材料2の円筒状部分が1重に形成されている。
図4(c)および図7(a)に示すように、下段ブロック13の上部には、U字状の溝11が形成されている。溝11は、図4(c)に示すように、外層部3の一面をU字状に窪ませることにより形成されている。外層部3の前面に面する溝11の角部は、外形角部の半径がノズル61の半径よりも大きくなるように丸みを帯びて形成されている。U字状の溝11の底部は、下段ブロック13の照明埋込部12の内面と連続するように半円状に形成されている。本実施形態では、支柱1(下段ブロック13)の下端から400mm~500mmの区間(C区間)では、同一形状(一定の深さ)のU字状の溝11が形成されている。一方、下段ブロック13の下端から500mm~上端までの区間では、溝11が上に行くに従って溝11の深さが小さくなるように傾斜している(図5(a)参照)。
【0015】
図5(a)および図7(b)に示すように、中段に位置する構造物10である中段ブロック14の前面には、U字状の溝11が軸方向(高さ方向)に沿って形成されている。中段ブロック14の溝11は、上に行くに従って溝11の深さが小さくなるように傾斜している。
図5(a)、(b)および図7(c)に示すように、上段に位置する構造物10である上段ブロック15の前面には、U字状の溝11が軸方向に沿って形成されている。上段ブロック15の溝11は、底部の断面形状(平面視の形状)が中段ブロック14の上部に形成された溝11と同形状で、上に行くに従って溝11の深さが小さくなるように傾斜している。溝11は、上段ブロック15の上端から所定の高さ(本実施形態では50mm)低い位置まで形成されていて、それ以降(上段ブロック15の上端から50mmまでの区間)の前面は、図5(b)に示すように、平坦である。
【0016】
本実施形態の構造物10によれば、外層部3により外形の美観が維持される。
また、内層部4によって外層部3の内部空間5を複数の領域(コンクリート打設用領域51、中空領域52、連結用領域53)に区画しているので、荷重支持機能をもたらす空間(コンクリート打設用領域51)とそれ以外の機能をもたらす空間(中空領域52、連結用領域53)が確保されている。
また、外層部3の角部の半径が、ノズル61の半径より大きいため、角部においても、3Dプリンタ6のノズル61を滑らかに移動させることが可能となり、その結果、より高品質に構造物10を製造できる。角部の半径が小さいと、ノズル61を角部で一旦停止させるなどの処置が必要となり、その結果、角部において材料が垂れるおそれがある。すなわち、ノズル61を直線的のみに移動させると、角部においてノズル61の一時停止および再始動を繰り返す必要が生じ、角部におけるセメント系材料2の乱れが生じる。一方、ノズル61を滑らかに移動させることができれば、材料の垂れを抑制できる。また、ノズル61を滑らかに移動させることで、造成スピードを速めることができる。
【0017】
また、外層部3と内層部4とが、連続したセメント系材料2により形成されているため、外層部3と内層部4とが一体に成形される。そのため、外層部3と内層部4とを連結するための部材等を設ける必要がない。また、外層部3と内層部4とを連続したセメント系材料2により形成することで、ノズル61の移動を構造物10の製造(セメント系材料2の吐出)のみに限定することが可能となる。そのため、ノズル61の無駄な移動(例えば、材料の吐出を伴わない位置調整のみを目的とした移動等)を排することができる。
また、セメント系材料2の造成開始点を、内部空間5に設けているため、セメント系材料2の形状が乱れがちな造成開始点が外面に露出することがない。そのため、外形の美観が維持される。
【0018】
また、セメント系材料2同士を当接する箇所において、少なくとも一方のセメント系材料2がノズル61の半径よりも小さい半径により折り返されているため、セメント系材料2同士をより確実に当接できる。セメント系材料2の折り返し点では、折り返したノズル61にセメント系材料2が引きずられることで、当接する他方のセメント系材料2から離れる場合があるが、ノズル61の半径よりも小さい半径で折り返すことで、慣性による材料流れによってセメント系材料2同士を当接させることが可能となる。
連結部材を収納するための連結用領域53が内部空間5に形成されているため、構造物10同士を連結した際に、連結部材が外面に露出することがなく、美観に優れた構造物を構築できる。
【0019】
本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、構造物10を利用して支柱を形成する場合について説明したが、構造物10により形成される構造体は限定されるものではなく、例えば壁や梁であってもよい。
支柱を形成するための構造物10の数は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
また、構造物10の断面形状は、構造体の形状に応じて適宜決定すればよい。
支柱の溝11および照明埋込部12は、必要に応じて形成すればよい。
中空領域52の用途は雨どいに限定されるものではない。また、中空領域52の数や配置も限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
また、前記実施形態では、外層部3と内層部4とを連続したセメント系材料2により一体に造成するものとしたが、外層部3と内層部4は、個別に造成してもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 支柱
10 構造物
11 溝
12 照明埋込部
13 下段ブロック
14 中段ブロック
15 上段ブロック
16 スリット
2 セメント系材料
3 外層部
4 内層部
5 内部空間
51 コンクリート打設用領域
52 中空領域
53 連結用領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7