(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167469
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】金属腐食検査装置及び金属腐食検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/90 20060101AFI20231116BHJP
G01J 3/46 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N21/90 C
G01J3/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078675
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 幸基
(72)【発明者】
【氏名】ユディティヤ クスマワティ
【テーマコード(参考)】
2G020
2G051
【Fターム(参考)】
2G020AA08
2G020DA05
2G020DA12
2G020DA32
2G020DA34
2G020DA52
2G020DA66
2G051AA21
2G051AB12
2G051BA08
2G051CA04
2G051CB01
2G051CC15
2G051EA17
2G051EB01
(57)【要約】
【課題】検査対象の腐食を高精度且つ高効率に検査できること。
【解決手段】検査対象1の金属材料に生じた腐食を検査する金属腐食検査装置10において、検査対象の表面領域5を区画したセル6毎に、照射光2を反射させた反射光3から、この反射光の波長別の反射強度を検出する検出器12と、検出器により検出されたセル毎の前記波長別の反射強度のデータを取得するデータ取得部13と、データ取得部にて取得されたセル毎の前記波長別の反射強度に基づいて、波長空間におけるベクトルをセル毎に演算するベクトル演算部14と、ベクトル演算部にて演算されたベクトルに基づいて、表面領域5のセル毎にその腐食状態を判定する腐食状態判定部15と、を有して構成されたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の金属材料に生じた腐食を検査する金属腐食検査装置において、
前記検査対象の表面領域を区画したセル毎に、照射光を反射させた反射光から、この反射光の波長別の反射強度を検出する検出器と、
前記検出器により検出された前記セル毎の前記波長別の反射強度のデータを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部にて取得された前記セル毎の前記波長別の反射強度に基づいて、波長空間におけるベクトルを前記セル毎に演算する演算部と、
前記演算部にて演算された前記ベクトルに基づいて、前記表面領域の前記セル毎にその腐食状態を判定する判定部と、を有して構成されたことを特徴とする金属腐食検査装置。
【請求項2】
前記判定部は、演算部にて演算されたセル毎の波長空間におけるベクトルと、予め設定された表面状態別の基準ベクトルとの成す角度を用いて、検査対象の表面領域における前記セル毎にその腐食状態を判定する請求項1に記載の金属腐食検査装置。
【請求項3】
前記検査対象は、鉄を主成分として含む鋼材にエポキシ系の塗料が施された物であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属腐食検査装置。
【請求項4】
前記検査対象は、原子力発電所にて発生する放射性廃棄物を保管するドラム缶であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属腐食検査装置。
【請求項5】
検査対象の金属材料に生じた腐食を検査する金属腐食検査方法において、
前記検査対象の表面領域を区画したセル毎に、照射光を反射させた反射光から、この反射光の波長別の反射強度を検出する検出ステップと、
前記検出ステップにより検出された前記セル毎の前記波長別の反射強度のデータを取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップにて取得された前記セル毎の前記波長別の反射強度に基づいて、波長空間におけるベクトルを前記セル毎に演算する演算ステップと、
前記演算ステップにて演算された前記ベクトルに基づいて、前記表面領域の前記セル毎にその腐食状態を判定する判定ステップと、を有することを特徴とする金属腐食検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検査対象の金属材料の腐食状態を検査する金属腐食検査装置及び金属腐食検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の放射性物質を扱う施設では、放射能で汚染された物体をドラム缶等の容器に収容し、外部に漏洩しないよう密封して保管している。ただし、保管が長期化するケースが多いため、保管中にドラム缶が腐食し孔が開いて、収容物が外部に漏洩してしまう可能性がある。一般的に、ドラム缶は乾燥した屋内の比較的良好な環境で保管されているため、腐食はドラム缶の内側から進行して外側まで到達するケースが考えられる。保管中のドラム缶に対しては定期的な点検が実施されており、検査方法としては超音波検査、目視検査、カメラ画像検査等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の超音波検査の場合、ドラム缶の厚さを正確に測定できるものの、ドラム缶1本当り数か所の検出ポイントを設定し、これらの検出ポイントの一つ一つに対して検出プローブを当てて測定する必要がある。このため、保管している大量のドラム缶に対しての超音波検査は、作業効率が悪く現実的ではない。
【0005】
目視検査の場合、一度に広範囲の錆の有無を検査できるが、上述のようにドラム缶の内側から進行した腐食を発見する必要があるため、外側に現れた僅かな錆を目視で確認することは難しく、見逃してしまう恐れがある。
【0006】
特許文献1では,検査対象物を撮影した画像から、ニューラルネットワーク等を利用した学習器を用いて、錆色に加え塗装の劣化領域(割れ・剥がれ・膨れが発生した領域)をも特定し、高度な検査を行う方法が提案されている。しかし、検査対象物の内側から進行した腐食と外側の塗装劣化とを関連付けることは困難であり、色情報のみで錆であると判断すると、高い割合で誤りが発生する可能性がある。
【0007】
上述のように、大量のドラム缶を検査するための効率の高さと、僅かな錆を正確に検出するための精度の高さとを両立できる検査手法は、未だ見出されていない。
【0008】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、検査対象の腐食を高精度且つ高効率に検査することができる金属腐食検査装置及び金属腐食検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態における金属腐食検査装置は、検査対象の金属材料に生じた腐食を検査する金属腐食検査装置において、前記検査対象の表面領域を区画したセル毎に、照射光を反射させた反射光から、この反射光の波長別の反射強度を検出する検出器と、前記検出器により検出された前記セル毎の前記波長別の反射強度のデータを取得するデータ取得部と、前記データ取得部にて取得された前記セル毎の前記波長別の反射強度に基づいて、波長空間におけるベクトルを前記セル毎に演算する演算部と、前記演算部にて演算された前記ベクトルに基づいて、前記表面領域の前記セル毎にその腐食状態を判定する判定部と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の実施形態における金属腐食検査方法は、検査対象の金属材料に生じた腐食を検査する金属腐食検査方法において、前記検査対象の表面領域を区画したセル毎に、照射光を反射させた反射光から、この反射光の波長別の反射強度を検出する検出ステップと、前記検出ステップにより検出された前記セル毎の前記波長別の反射強度のデータを取得するデータ取得ステップと、前記データ取得ステップにて取得された前記セル毎の前記波長別の反射強度に基づいて、波長空間におけるベクトルを前記セル毎に演算する演算ステップと、前記演算ステップにて演算された前記ベクトルに基づいて、前記表面領域の前記セル毎にその腐食状態を判定する判定ステップと、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、検査対象の腐食を高精度且つ高効率に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る金属腐食検査装置の構成を示すブロック図。
【
図2】
図1の検査対象の表面領域における表面状態を示す模式図。
【
図3】
図2の表面状態における錆面、塗装面、マーカ面の反射強度スペクトルをそれぞれ示すグラフ。
【
図4】
図2の任意のセルにおける反射強度スペクトルを示すグラフ。
【
図5】
図4における任意のセルの反射強度スペクトルから演算した波長空間におけるベクトルと基準ベクトルとの関係をイメージして示す図。
【
図6】
図1の金属腐食検査装置の作用を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
図1は、一実施形態に係る金属腐食検査装置の構成を示すブロック図である。この
図1に示す金属腐食検査装置10は、検査対象1の金属材料に生じた腐食を検査するものであり、光源11、検出器12、データ取得部13、演算部としてのベクトル演算部14、判定部としての腐食状態判定部15、データベース16、及びデータ出力部17を有して構成される。
【0014】
ここで、検査対象1としては、腐食により酸化鉄が形成されるような鉄を主成分として含む鋼材の表面にエポキシ塗料等の、可視波長域の光の反射率が高い塗装が施された物である。
図1では検査対象1の表面が平面状の場合を示したが、曲面状であっても構わない。また、検査対象1としては、例えば、原子力発電所にて発生した放射性廃棄物を保管するためのドラム缶である。
【0015】
光源11は、反射光3の波長別の反射強度を測定する際の波長範囲(例えば、400nm~1000nm)を全て含む照射光2を発すると共に、検査対象1における表面領域5の全域に照射光2を照射するよう配置される。
【0016】
検出器12は、検査対象1の表面領域5を区画したセル6毎に、照射光2を反射させた反射光3から、この反射光3の波長別の反射強度を検出する。つまり、この検出器12は、表面領域5からの反射光3を波長別に分光し、各々の単波長成分の強度を受光素子(不図示)で検出し、波長別の反射強度を得る装置である。この波長別に分光する方法としては、プリズムや回折格子等の分光素子を用いる方法や、波長選択性を持つ受光素子を用いる方法がある。
【0017】
また、検出器12における反射光3の入射面(検出面12A)は、複数の受光素子が一次元又は二次元的に配列した複眼、もしくは一つの受光素子からなる単眼で構成される。ここで、検査対象1の表面領域5を区画した上記セル6は、検出器12の一つの受光素子に入射する反射光3を反射させた表面領域5の区画を意味している。
図1における反射光3は、一つのある受光素子に入射する光を示している。このため、検出器12の検出面12Aが複数の受光素子を二次元配列させた複眼である場合には、受光素子とセルとは一対一に対応する。他方、検出面12Aが一つの受光素子からなる単眼である場合には、受光素子の変位位置とセルとが一対一に対応する。
【0018】
なお、検出面12Aが複数の受光素子を二次元配列させた複眼を持つ検出器12としては、ハイパースペクトルカメラ等の分光分析機能を持つカメラが適している。通常、ハイパースペクトルカメラは波長弁別能のバンド幅が数百にのぼる。例えば、400nm~1000nmの波長範囲において2nmのバンド幅で波長弁別している場合、バンド幅は300個程であり、一つの受光素子当り300個程の波長別の反射強度のデータが存在することになる。
【0019】
データ取得部13は、検出器12により検出されたセル6毎の波長別の反射強度のデータを取得する。このセル6毎の波長別の反射強度は、各セル6の表面状態を表している。ここで、
図2は、検査対象1における表面領域5の表面状態の一例である錆面7、塗装面8、マーカ面9を示している。例えば、保存用のドラム缶には、黒い油性マジック等で識別記号等の標識が記入されるケースが多く、上記マーカ面9は、この標識が記入された表面状態を表している。
【0020】
そして、
図3は、錆面7、塗装面8、マーカ面9という異なる表面状態について、典型的な反射光3の波長別の反射強度を示したグラフである。通常、反射光3の波長別の反射強度のグラフはスペクトルと呼ばれており、錆面7、塗装面8、マーカ面9が基準となる表面状態であるため、
図3のグラフは基準スペクトルと呼称される。符号Aは錆面7の反射強度スペクトル、符号Bは、例えば黄色の塗装面8の反射強度スペクトル、符号Cはマーカ面9の反射強度スペクトルをそれぞれ示す基準スペクトルである。錆面7の反射強度スペクトルAは、赤色に対応する波長よりも長い波長で強度が高くなっている。一方、黄色の塗装面8の反射強度スペクトルBは、全体的に高く、黄色に対応する波長にピークが表れている。また、マーカ面9の反射強度スペクトルCは、錆面7よりも長波長側にピークがある。
【0021】
上述のことから、特定の波長の反射強度の相違によって、検査対象1の表面領域5の表面状態を識別できると考えられる。ところが、実際には反射強度の絶対値は、照射光2の強度や表面領域5の表面状態に大きく依存する。例えば、表面領域5の表面の汚れの程度によって反射強度の絶対値が増減してしまう。一方、反射強度スペクトルの波長微分を取り、出現するピークの位置(波長)によって、検査対象1の表面領域5の表面状態を識別する方法も考えられる。波長微分を取ることにより反射強度の絶対値による影響を回避できる。ところが、波長微分のピークの位置にはバラツキがあり、これだけで表面領域5の表面状態を識別すると誤りが発生する可能性がある。
【0022】
これらに対し、反射光3の反射強度スペクトルのグラフ形状に基づくことで、検査対象1の表面領域5について誤りの少ない表面状態の識別が可能になる。具体的には、まず、錆面7、塗装面8、マーカ面9の各基準スペクトルについて考察する。
図3に示すように、錆面7、塗装面8、マーカ面9の各反射強度スペクトルA、B、Cについて、複数個(n個)の波長(λ1、λ2、…、λn)を選定し、各波長での反射強度値(錆面7の反射強度スペクトルAについてのRa1、Ra2、…、Ran、塗装面8の反射強度スペクトルBについてのRb1、Rb2、…、Rbn、マーカ面9の反射強度スペクトルCについてのRc1、Rc2、…、Rcn)を用いて、下式のように仮想の波長空間(色空間)での基準ベクトルを定義する。
錆面7の基準ベクトル :Ra=(Ra1、Ra2、…、Ran)
塗装面8の基準ベクトル :Rb=(Rb1、Rb2、…、Rbn)
マーカ面9の基準ベクトル:Rc=(Rc1、Rc2、…、Rcn)
【0023】
上記基準ベクトルの波長空間(色空間)での方向は、錆面7、塗装面8、マーカ面9の表面状態に固有な特徴を強く含んでいる。これらの表面状態別の基準ベクトルは、事前の測定により評価されてデータベース16に予め登録される。
【0024】
次に、
図2に示す検査対象1の表面領域5の位置座標(x、y)に位置するセル6について考察する。この位置座標(x、y)のセル6に対してデータ取得部13にて取得された反射光3の反射強度スペクトル(波長別の反射強度)を
図4に示す。
図1に示すベクトル演算部14は、データ取得部13にて取得された検査対象1の表面領域5におけるセル6毎の反射光3の反射強度スペクトル(波長別の反射強度)に基づいて、仮想の波長空間(色空間)におけるベクトルをセル6毎に演算する。
【0025】
具体的には、ベクトル演算部14は、検査対象1の表面領域5の位置座標(x、y)のセル6について、
図4に示す反射光3の反射強度スペクトルの波長(λ1、λ2、…、λn)における反射強度値{P1(x、y)、P2(x、y)、…、Pn(x、y)}を用いて、下式のように位置座標(x、y)のセル6に対応した波長空間(色空間)でのベクトルP(x、y)を定義する。
位置座標(x、y)のセル6のベクトル
:P(x、y)={P1(x、y)、P2(x、y)、…、Pn(x、y)}
【0026】
図1に示す腐食状態判定部15は、ベクトル演算部14にて演算された検査対象1の表面領域5におけるセル6毎の波長空間(色空間)におけるベクトルに基づいて、つまり、このベクトルと、予め設定された上記表面領域5の表面状態(錆面7、塗装面8、マーカ面9)別の基準ベクトルとの成す角度に基づいて、検査対象1の表面領域5におけるセル6毎にその腐食状態を判定する。この腐食状態判定部15による判定結果がデータ出力部17から出力される。
【0027】
つまり、腐食状態判定部15は、
図5に示すように、まず、検査対象1の表面領域5における位置座量(x、y)のセル6のベクトルP(x、y)と、錆面7の基準ベクトルRa、塗装面8の基準ベクトルRb、マーカ面9の基準ベクトルRcとがそれぞれ成す角度Θa(x、y)、Θb(x、y)、Θc(x、y)を、下式のように定義する。
Θa(x、y)=cos
-1{Ra・P(x、y)/(|Ra||P(x、y)|)}
Θb(x、y)=cos
-1{Rb・P(x、y)/(|Rb||P(x、y)|)}
Θc(x、y)=cos
-1{Rc・P(x、y)/(|Rc||P(x、y)|)}
【0028】
ここで、・は、例えばベクトルa1、a2、…、anとベクトルb1、b2、…、bnの内積{(a1、a2、…、an)・(b1、b2、…、bn)=a1×b1+a2×b2+…+an×bn}を、| |はベクトルの長さ{|(a1、a2、…、an)|=(a1
2+a2
2+a3
2+…+an
2)
1/2}をそれぞれ意味している。上記成す角度Θa(x、y)、Θb(x、y)、Θc(x、y)のイメージを
図5に示す。
【0029】
次に、腐食状態判定部15は、多数の測定データを蓄積することによって予め角度の閾値Θsを設定する。この角度の閾値Θsはデータベース16に登録される。また、腐食状態判定部15は、上記成す角度Θa(x、y)、Θb(x、y)、Θc(x、y)のうちで最小になる角度を求める。そして、腐食状態判定部15は、上記最小の角度が閾値Θs以下である場合に、位置座標(x、y)のセル6が、上記最小の角度を決定した基準ベクトルRa、Rb、Rcが表す表面状態を有するものと判定する。
【0030】
例えば、腐食状態判定部15は、検査対象1の表面領域5における位置座標(x、y)のセル6のベクトルP(x、y)と錆面7の基準ベクトルRaとの成す角度Θa(x、y)が最小であり、この成す角度Θa(x、y)が、Θa(x、y)≦Θsの場合、位置座標(x、y)のセル6が錆面7を有すると判定する。また、腐食状態判定部15は、検査対象1の表面領域5における位置座標(x、y)のセル6のベクトルP(x、y)と塗装面8の基準ベクトルRbとの成す角度Θb(x、y)が最小であり、この成す角度Θb(x、y)が、Θb(x、y)≦Θsの場合に、位置座標(x、y)のセル6が塗装面8を有すると判定する。
【0031】
成す角度Θa(x、y)、Θb(x、y)、Θc(x、y)のうち最小の成す角度が閾値Θs以下にならない場合、腐食状態判定部15は、検査対象1の表面領域5における位置座標(x、y)のセル6の表面状態がその他の表面状態であると判定する。
【0032】
なお、腐食状態判定部15は、検査対象1の表面領域5における位置座標(x、y)のセル6の表面状態を、成す角度Θa(x、y)、Θb(x、y)、Θc(x、y)のうち最小の成す角度を決定する基準ベクトルRa、RbまたはRcが表す表面状態であると簡略的に判定してもよい。あるいは、腐食状態判定部15は、検査対象1の表面領域5における位置座標(x、y)のセル6の表面状態を、閾値Θs以下となる成す角度Θa(x、y)、Θb(x、y)、Θc(x、y)をそれぞれ決定する基準ベクトルRa、Rb、Rcが表す表面状態であると簡略的に判定してもよい。
【0033】
次に、上述のように構成された金属腐食検査装置10の作用を、
図1及び
図6を用いて説明する。
光源11が、検査対象1の表面領域5に向けて照射光2を照射する照射ステップを実行する(S11)、次に、検出器12が、検査対象1の表面領域5におけるセル6毎に、照射光2を反射させた反射光3から、この反射光3の波長別の反射強度を検出する検出ステップを実行する(S12)。
【0034】
次に、データ取得部13が、上記検出ステップにより検出されたセル6毎の反射光3の波長別の反射強度データを取得するデータ取得ステップを実行する(S13)。その後、ベクトル演算部14が、データ取得ステップにより取得されたセル6毎の反射光3の波長別の反射強度に基づいて、仮想の波長空間(色空間)におけるベクトルP(x、y)をセル6毎に演算する演算ステップを実行する(S14)。
【0035】
次に、腐食状態判定部15が、演算ステップにて演算されたセル6のベクトルP(x、y)と、予め設定された表面領域5の表面状態(錆面7、塗装面8、マーカ面9)別の基準ベクトルRa、Rb、Rcとの成す角度Θa(x、y)、Θb(x、y)、Θc(x、y)を用いて、セル6の表面状態、特に腐食状態をセル6毎に判定する判定ステップを実行する(S15)。検査対象1の全ての表面領域5について腐食状態を判定して、検査対象1の腐食検査を終了する(S16)。
【0036】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)金属腐食検査装置10は、検査対象1の表面領域5のセル6毎に検出された反射光3の波長別の反射強度に基づいて、ベクトル演算部14が波長空間(色空間)におけるベクトルP(x、y)をセル6毎に演算し、このベクトルP(x、y)に基づいて、腐食状態判定部15が、セル6が健全な塗装面8もしくはマーカ面9を有するのか、または錆面7を有するのかを判定する。従って、金属腐食検査装置10は、検査対象1の表面に生じた僅かな錆、つまり僅かな腐食を高精度に検査することができる。
【0037】
(2)金属腐食検査装置10は、照射光2が照射される検査対象1の表面領域5からの反射光3を用いて、表面領域5のセル6毎の腐食状態を自動的に判定することから、広範囲に存在する検査対象1、例えば大量のドラム缶に対しても、その腐食を高効率に検査することができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合わせは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1…検査対象、2…照射光、3…反射光、5…表面領域、6…セル、7…錆面、8…塗装面、9…マーカ面、10…金属腐食検査装置、12…検出器、13…データ取得部、14…ベクトル演算部(演算部)、15…腐食状態判定部(判定部)、P(x、y)…ベクトル、Ra、Rb、Rc…基準ベクトル、Θa(x、y)、Θb(x、y)、Θc(x、y)…成す角度