(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167480
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】カムシャフト駆動歯車および車両
(51)【国際特許分類】
F01L 13/00 20060101AFI20231116BHJP
F01L 13/02 20060101ALI20231116BHJP
F02D 17/00 20060101ALI20231116BHJP
F16D 41/06 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
F01L13/00 302F
F01L13/02
F02D17/00 H
F16D41/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078704
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 裕充
(72)【発明者】
【氏名】浦山 朋之
(72)【発明者】
【氏名】竹山 若葉
(72)【発明者】
【氏名】本間 勇人
(72)【発明者】
【氏名】山口 和博
【テーマコード(参考)】
3G018
3G092
【Fターム(参考)】
3G018BA09
3G018CA05
3G018CA10
3G018DA21
3G018EA23
3G018EA25
3G018GA22
3G018GA39
3G092DA01
3G092DA02
3G092DA03
3G092FA12
(57)【要約】
【課題】何らかの原因でエンジンに逆回転が発生しても動弁機構の吸排気タイミングを適切に回復させる。
【解決手段】本開示の一形態におけるエンジンに搭載されるカムシャフト駆動歯車は、伝達手段と噛み合う駆動側部と、カムシャフトと連結する被駆動側部と、駆動側部と被駆動側部を互いに押し付ける方向に作用する弾性付与部と、を含み、駆動側部と被駆動側部における互いの対向面には正回転に対して噛み合う一対の噛み合い溝が設けられ、この噛み合い溝にはクランクシャフトとカムシャフトとの位相を調整する位相調整用歯車と位相調整用歯車が移動可能な歯車溝と歯車溝内において前記位相調整用歯車を正回転時に収容可能な歯車収容凹部とが設けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトに連結されて前記クランクシャフトの動力を伝達する伝達手段からの動力をカムシャフトに伝達するカムシャフト駆動歯車であって、
前記伝達手段と噛み合う駆動側部と、
前記カムシャフトと連結する被駆動側部と、
前記駆動側部と前記被駆動側部を互いに押し付ける方向に作用する弾性付与部と、を含み、
前記駆動側部と前記被駆動側部における互いの対向面には正回転に対して噛み合う一対の噛み合い溝が設けられ、
前記噛み合い溝には、前記クランクシャフトと前記カムシャフトとの位相を調整する位相調整用歯車と、前記位相調整用歯車が移動可能な歯車溝と、前記歯車溝内において前記位相調整用歯車を前記正回転時に収容可能な歯車収容凹部とが設けられてなる、
カムシャフト駆動歯車。
【請求項2】
前記駆動側部は、前記伝達手段と周面で噛み合うと共に、側面には回転方向に沿って設けられた前記歯切り溝の一方を構成する第1噛み合い溝が形成された第1ギア本体を含み、
前記被駆動側部は、前記カムシャフトの端部において前記第1噛み合い溝に対向して設けられ、前記第1噛み合い溝に対して正回転時で噛み合うと共に逆回転時は空転可能な前記歯切り溝の他方を構成する第2噛み合い溝が形成された第2ギア本体を含む、
請求項1に記載のカムシャフト駆動歯車。
【請求項3】
前記歯車溝は、径方向に関して所定の間隙を有して前記回転方向に沿って複数列だけ設けられてなる、
請求項2に記載のカムシャフト駆動歯車。
【請求項4】
前記複数列で構成された歯車溝にそれぞれ設けられる歯車収容凹部は、前記回転方向に関して等間隔で配置されてなる、
請求項3に記載のカムシャフト駆動歯車。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のカムシャフト駆動歯車を備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばカムシャフトの端部に設置されるカムシャフト駆動歯車に適用可能な動力の伝達及び遮断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車のエンジンでは、筒内へ新気を吸入する時期と燃焼後の燃焼ガスを排出する時期とが公知の動弁機構で制御されている。かような動弁機構は、例えばエンジンのクランクシャフトを動力源としてベルトやチェーンを介したギヤ機構で伝達して駆動力を得ている。
【0003】
このとき何らかの原因でエンジンが逆回転をした場合には、例えばベルトやチェーンで歯飛びが発生することがある。ベルトやチェーンで歯飛びが発生した場合には、その後は動弁機構の吸排気タイミングがずれてしまい、エンジン本来の性能を維持できなくなる可能性も生じてくる。そのため従来では、例えば下記特許文献に例示されるように、エンジンのバルブタイミング制御装置におけるスプロケットにワンウェイクラッチを設けたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-256827号公報
【特許文献2】特開2001-107712号公報
【特許文献3】特開2012-026275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述した各特許文献に限らず現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず以下に述べる課題が存在する。
例えば上記した特許文献では、ワンウェイクラッチを用いている点で上記したエンジンの逆回転が発生しても歯飛びは抑制できるとも言える。しかしながらこれらの特許文献には、逆回転後で如何にして元の位置へ復帰させるかについては未だに改良の余地は大きい。
【0006】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、何らかの原因でエンジンに逆回転が発生しても動弁機構の吸排気タイミングを適切に回復させることが可能なエンジンのカムシャフト駆動歯車と当該カムシャフト駆動歯車を備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示の一形態におけるエンジンに搭載されるカムシャフト駆動歯車は、エンジンのクランクシャフトに連結されて前記クランクシャフトの動力を伝達する伝達手段からの動力をカムシャフトに伝達するカムシャフト駆動歯車であって、前記伝達手段と噛み合う駆動側部と、前記カムシャフトと連結する被駆動側部と、前記駆動側部と前記被駆動側部を互いに押し付ける方向に作用する弾性付与部と、を含み、前記駆動側部と前記被駆動側部における互いの対向面には正回転に対して噛み合う一対の噛み合い溝が設けられ、前記噛み合い溝には、前記クランクシャフトと前記カムシャフトとの位相を調整する位相調整用歯車と、前記位相調整用歯車が移動可能な歯車溝と、前記歯車溝内において前記位相調整用歯車を前記正回転時に収容可能な歯車収容凹部とが設けられてなる。
【0008】
また上記課題を解決するため、本開示における車両は、このカムシャフト駆動歯車をエンジンと動弁機構との間の動力伝達機構として搭載する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、何らかの原因でエンジンに逆回転が発生しても動弁機構の吸排気タイミングを適切に回復させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る車両のエンジンの構成の一部を示す部分正面図である。
【
図2】実施形態におけるカムシャフト駆動歯車のうち噛み合い時の第1カムシャフト駆動歯車を示す模式図である。
【
図3】実施形態におけるカムシャフト駆動歯車のうち非噛み合い時の第1カムシャフト駆動歯車を示す模式図である。
【
図4】実施形態におけるカムシャフト駆動歯車のうち、駆動側部と対向する非駆動側部の上面側構造を示す模式図である。
【
図5】噛み合い時と非噛み合い時を対比した本実施形態におけるカムシャフト駆動歯車の模式図である。
【
図6】噛み合い時と非噛み合い時におけるカムシャフト駆動歯車の状態遷移図である。
【
図7】変形例におけるカムシャフト駆動歯車の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本開示を実施するための好適な実施形態について説明する。かかる実施形態に示される寸法、材料、その他具体的な数値等は、本開示の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除いて本開示を限定するものではない。また本開示に直接関係のない要素や構造に関する図示は適宜省略する場合がある。さらに以下で詳述する以外の構成については、例えば特開2019-31997号公報などに記載された公知のエンジン構造を適宜補完して実施することができる。
【0012】
[エンジン100]
まず本開示の好適な実施形態におけるエンジン100の構成について、
図1を参照しながら説明する。かようなエンジン100は、後述するカムシャフト駆動歯車40を備えて車両に搭載される。なお、本実施形態に好適な車両としては、例えばエンジンを備えた公知の二輪自動車や四輪自動車が例示でき、さらには電動モータも搭載した公知のハイブリッド車を適用してもよい。
【0013】
図1に、公知のチェーンカバーが取り外された状態のエンジン100の構成(一部のみ抜粋)を示す。なお本実施形態のエンジン100は、ピストンが鉛直に対して水平に倒置された水平対向型エンジンが例示できるが、V型エンジンなど公知の他のピストン機構を適用してもよい。また、
図1ではエンジンの左バンク側のチェーン室内を示しているが、右バンク側については左バンク側とほぼ同様であるため省略している。
【0014】
図示されるとおり、本実施形態におけるエンジン100は、それぞれ公知の、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、およびヘッドカバー13などを含んだエンジン本体10で構成されている。
シリンダブロック11は、公知のピストン(図示省略)が挿入されるシリンダライナなどが設けられ、上記した右バンク側のシリンダブロックと公知の接合手段を介して接合されている。また、シリンダブロック11には、上記した右バンク側のシリンダブロックとは反対側にシリンダヘッド12が公知の接合手段を介して接合されている。
【0015】
シリンダヘッド12は、シリンダの天井部分を構成する。このシリンダヘッド12のうち上記したシリンダブロック11とは反対側には、ヘッドカバー13が公知の接合手段を介して接合されている。
なおシリンダブロック11内には、公知のシリンダボア(図示省略)が形成されている。これらのシリンダボア、ピストンの冠面およびシリンダヘッド12は、エンジン100における燃焼室を形成する。
【0016】
シリンダブロック11には、上記した燃焼室に連通する公知の吸気ポートと排気ポート(共に図示省略)が設けられている。このうち吸気ポートは、シリンダヘッド12に設けられた公知の吸気バルブ(図示省略)によって開閉可能に構成されている。また、排気ポートは、同様にシリンダヘッド12に設けられた公知の排気バルブ(図示省略)によって開閉される。
【0017】
図1に示すように、左右のシリンダブロックの間には、クランクシャフト20がエンジン本体10に対して回転自在となるように支持されている。このクランクシャフト20は、エンジン本体10内のピストン運動と連動するようにピストンと接続されており、燃焼室内におけるピストンの往復動作に従って回転運動を行う。そしてクランクシャフト20には公知の駆動用スプロケット21が設けられており、クランクシャフト20の回転運動が駆動用スプロケット21を介して他の機構へ伝達される。
【0018】
また、シリンダヘッド12には、カムシャフト30が軸周りに回転可能となるように支持されている。このカムシャフト30は、吸気用カムシャフト30Aと、排気用カムシャフト30Bとで構成されている。このうち吸気用カムシャフト30Aには、上記した吸気バルブを駆動する公知のカム(図示省略)が設けられている。また、排気用カムシャフト30Bには、上記した排気バルブを駆動する公知のカム(図示省略)が設けられている。
【0019】
そして本実施形態の吸気用カムシャフト30Aの端部には、後述するチェーン80(伝達手段)からの動力を吸気用カムシャフト30Aに伝達する第1カムシャフト駆動歯車40Aが設けられている。この第1カムシャフト駆動歯車40Aの外周面には公知の吸気用カムスプロケットが設けられている。
【0020】
同様に本実施形態の排気用カムシャフト30Bの端部には、上記したチェーン80(伝達手段)からの動力を排気用カムシャフト30Bに伝達する第2カムシャフト駆動歯車40Bが設けられている。この第2カムシャフト駆動歯車40Bの外周面には公知の排気用カムスプロケットが設けられている。
【0021】
なおこれら第1カムシャフト駆動歯車40Aと第2カムシャフト駆動歯車40Bが、本実施形態のカムシャフト駆動歯車40を構成している。
チェーン80は、本実施形態の伝達手段を構成し、上記した駆動用スプロケット21、吸気用カムスプロケット及び排気用カムスプロケットを架け渡す。一例として、チェーン80は、公知の材料で構成された複数の駒が連続して繋ぎ合わされることによってループ状に形成されたローラーチェーンが例示できる。
【0022】
従って、例えばクランクシャフト20に従って駆動用スプロケット21が時計回りに回転すると、伝達手段としてのチェーン80も時計回りに連動し、このチェーン80の駆動によって吸気用カムスプロケットや排気用カムスプロケットが回転する。このようにしてクランクシャフト20の回転がチェーン80を介して吸気用カムスプロケットや排気用カムスプロケットに伝達されて、上記した吸気用カムシャフト30Aおよび排気用カムシャフト30Bもチェーン80の駆動と連動して回転される。
【0023】
なお
図1から理解されるとおり、チェーン80の張り側である駆動用スプロケット21と、吸気用カムスプロケット及び排気用カムスプロケットと、の間には、チェーン80の動作を案内する公知のチェーンレバーやチェーンガイドが設けられていてもよい。また、駆動用スプロケット21と吸気用カムスプロケットの間には、公知のテンショナ90が設けられていてもよい。テンショナ90は、例えばそれぞれ公知の本体部91およびプランジャ92を有する。このうち本体部91は、上記したシリンダブロック11に固定されている。また、プランジャ92は、上記した本体部91に出没自在に設けられる。
【0024】
プランジャ92のうち突出した先端部は、公知のチェーンレバー93に接するように配置されている。従って、テンショナ90は、このプランジャ92の前進動作および後退動作に連動してチェーンレバー93を移動させることで、上記したチェーン80の張力を調整可能となっている。
【0025】
なおテンショナ90の具体例としては、例えば特開2019-31997号公報に開示されたテンショナ機構を適宜補完してもよい。
また、本実施形態では伝達手段として公知のチェーン80を用いているが、クランクシャフトからカムシャフトへ動力を伝達できればよく、例えばベルトなど公知の他の伝達手段を適用してもよい。
【0026】
<カムシャフト駆動歯車40>
次に
図2~5も参照しつつ、本実施形態におけるカムシャフト駆動歯車40の構成について説明する。なお以下では、カムシャフト駆動歯車40のうち吸気用カムスプロケットを駆動する第1カムシャフト駆動歯車40Aを例にして説明するが、排気用カムスプロケットを駆動する第2カムシャフト駆動歯車40Bについても同様である。
【0027】
本実施形態における第1カムシャフト駆動歯車40Aは、エンジン100のクランクシャフト20に連結されて当該クランクシャフト20の動力を伝達する伝達手段(チェーン80)からの動力をカムシャフト30に伝達する機能を有して構成されている。
【0028】
より具体的に第1カムシャフト駆動歯車40Aは、例えば
図2、3及び5を対比すると理解されるとおり、駆動側部50と、被駆動側部60と、弾性付与部70と、を少なくとも含んで構成されている。
駆動側部50は、前記した伝達手段としてのチェーン80と噛み合うと共に、当該チェーン80から動力が伝達されるように構成されている。
【0029】
本実施形態の駆動側部50は、これらの図に示すように、チェーン80と噛み合う公知のカムスプロケット(不図示)が周面に設けられたアウターハウジング32Aと、このアウターハウジング32Aと連結された第1ギア本体51と、を少なくとも含んで構成されている。これらアウターハウジング32Aと第1ギア本体51は、固定ボルト31B及び31Cなど公知の締結手段で連結されている。従ってチェーン80の動力がアウターハウジング32Aに伝達されると、第1ギア本体51は、このアウターハウジング32Aの回転に追従して回転することが可能となっている。
【0030】
また
図5に示すように、これらアウターハウジング32Aと第1ギア本体51は、上記した弾性付与部70としての皿バネ70A及び70Bを介して互いに連結されている。
弾性付与部70は、前記した駆動側部50と被駆動側部60を互いに押し付ける方向に作用するように構成されている。なお本実施形態の弾性付与部70は、本実施形態では公知の皿バネを例示しているが、上記した作用を発揮する限りにおいて特に制限はなくスプリングなど他の公知の弾性部材を適用してもよい。
【0031】
従って、仮に何らかの原因でエンジン100が逆回転をした場合、この逆回転によってチェーン80も逆向きに駆動することで駆動側部50が逆転するが、弾性付与部70の弾性力に抗して駆動側部50が軸方向外側(
図5における右方向でありカムシャフト30から離間する方向)へ退避可能となっている。これにより、上記したエンジン100の逆回転が被駆動側部60まで伝達されず、駆動側部50の退避動作によって遮断することが可能となる。
【0032】
ここで
図2(b)は、
図2(a)におけるA-A断面を示す。
図2に示すように、第1ギア本体51のうち被駆動側部60との対向面には、エンジン100の正回転(予め設定で定められた適正な回転方向)に対して噛み合って動力伝達が可能な第1噛み合い溝52が設けられている。
図2に示すように、第1噛み合い溝52は、エンジン100が適正な正回転をするとき、皿バネ70A及び70Bの弾性力Fを介して第2噛み合い溝62と噛み合うことが可能となっている。
【0033】
また、
図2及び
図4などに示すように、第1噛み合い溝52のうち周方向の少なくとも1部には、クランクシャフト20とカムシャフト30との位相を調整する位相調整用歯車71と、この位相調整用歯車71を正回転時に収容可能な歯車収容凹部54とが設けられている。これらの図に示すように、位相調整用歯車71は、第1噛み合い溝52において周方向に沿って軸周りに形成された歯車溝53内を移動可能に構成されている。なお位相調整用歯車71としては、例えば公知のピニオン状の歯車が例示できる。
【0034】
すなわち、本実施形態の第1噛み合い溝52には、周方向に沿って平歯車状の底面を有する歯車溝53が形成されるとともに、この歯車溝53内には上記した歯車収容凹部54が設けられている。なお歯車収容凹部54の深さについては、対向する噛み合い溝同士が噛み合いつつ位相調整用歯車71がガタツキなく収容される限りにおいて特に制限はなく、例えば図示されるように位相調整用歯車71の直径に対して1/4~1/5程度の深さが例示できる。
【0035】
次に、上記した駆動側部50と噛み合う被駆動側部60について説明する。
被駆動側部60は、前記したカムシャフト30と連結するように構成されている。より具体的に本実施形態の被駆動側部60は、
図5に示すように、公知の固定ボルト31Aを介してカムシャフト30に固定されている。これにより、上記した噛み合い時には駆動側部50からの回転が被駆動側部60を介してカムシャフト30に伝達される。
【0036】
また同図に示すように、アウターハウジング32Aには公知の固定ボルト31Dを介して第2アウターハウジング32Bが設けられていてもよい。かような第2アウターハウジング32Bは、アウターハウジング32Aに連結されて被駆動側部60の側面の少なくとも一部と対向するように設置してもよい。これにより、例えば上記した駆動側部50の退避動作が発生した際に駆動側部50が被駆動側部60に対して極端に離間して脱落してしまうことが抑制される。
【0037】
より具体的に本実施形態の被駆動側部60は、
図2及び
図5などに示すように、カムシャフト30と連結された第2ギア本体61を含んで構成されている。
図2に示すように、第2ギア本体61のうち駆動側部50との対向面には、エンジン100の正回転(予め設定で定められた適正な回転方向)に対して上記第1噛み合い溝52と噛み合って動力伝達が可能な第2噛み合い溝62が設けられている。
このように本実施形態の駆動側部50と被駆動側部60における互いの対向面には正回転に対して噛み合う一対の噛み合い溝(第1噛み合い溝52及び第2噛み合い溝62)が設けられいる。
【0038】
また、
図2及び
図4などに示すように、第2噛み合い溝62のうち周方向の少なくとも1部には、上記した位相調整用歯車71と、この位相調整用歯車71を正回転時に収容可能な歯車収容凹部64とが設けられている。これらの図に示すように、位相調整用歯車71は、第2噛み合い溝62においても周方向に沿って軸周りに形成された歯車溝63内を移動可能に構成されている。
【0039】
このように本実施形態では、駆動側部50の歯車溝53と被駆動側部60の歯車溝63とが径方向において互いに対向して配置されることで、上記した位相調整用歯車71が周方向(軸周り)に沿って移動可能な平歯車状の通路が形成されることになる。従って、
図3などに示すように、仮にエンジン100で逆回転が発生したときは、駆動側部50が弾性付与部70の弾性力Fに抗して被駆動側部60に対して離間すると共に、この位相調整用歯車71が双方の歯車収容凹部54及び64から離脱して一対の歯車溝53及び63上を転がって移動することが可能となっている。
【0040】
すなわち、本実施形態の第2噛み合い溝62には、周方向に沿って上記歯車溝53と対応するように平歯車状の底面を有する歯車溝63が形成されるとともに、この歯車溝63内には上記した歯車収容凹部64が設けられている。なお歯車収容凹部64の深さについても、対向する噛み合い溝同士が噛み合いつつ位相調整用歯車71がガタツキなく収容される限りにおいて特に制限はなく、例えば図示されるように歯車収容凹部54と同様に位相調整用歯車71の直径に対して1/4~1/5程度の深さが例示できる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のカムシャフト駆動歯車40において、駆動側部50は、前記した伝達手段としてのチェーン80と周面で噛み合うと共に、側面には回転方向に沿って設けられた前記歯切り溝の一方を構成する第1噛み合い溝52が形成された第1ギア本体51を含んで構成される。同様に本実施形態のカムシャフト駆動歯車40において、被駆動側部60は、カムシャフト30の端部において第1噛み合い溝52に対向して設けられて、この第1噛み合い溝52に対して正回転時で噛み合うと共に逆回転時は空転可能な歯切り溝の他方を構成する第2噛み合い溝62が形成された第2ギア本体61を含んで構成される。
【0042】
また、
図4に示すように、本実施形態における第2噛み合い溝62内に設けられる歯車溝63は、径方向(
図4における中心Oに対する半径方向)に関して所定の間隙を有して3列(第1歯車溝63a、第2歯車溝63bおよび第3歯車溝63c)だけ設けられていてもよい。更にこのとき、3列の歯車溝63でそれぞれ設けれた歯車収容凹部64(第1歯車収容凹部64a、第2歯車収容凹部64bおよび第3歯車収容凹部64c)は、前記回転方向に関して互いに等間隔で配置されていてもよい。
【0043】
すなわち本実施形態の歯車収容凹部64による配置形態では、合計3つの第1歯車収容凹部64a~第3歯車収容凹部64cが成す角度α1~α3がそれぞれ120°となるように設置されていてもよい。これにより、3つの位相調整用歯車71が歯車収容凹部54及び64から離脱して歯車溝53及び63上を転がって移動するときに、駆動側部50と被駆動側部60との位置関係を、ガタつかない様に平行に保持して安定させることが可能となっている。
【0044】
なお同図では第2噛み合い溝62について説明するが、この第2噛み合い溝62と対応する駆動側部50の第1噛み合い溝52についても同様であるのでその説明は省略する。
また、上記した
図4では合計3つの第1歯車収容凹部64a~第3歯車収容凹部64cを例示したが、上記した3列の構成に限られず2列または4列以上の任意の複数列の構成であってもよい。このように本実施形態の歯車溝は、径方向に関して所定の間隙を有して回転方向に沿って複数列だけ設けられていてもよい。また、この複数列で構成された歯車溝にそれぞれ設けられる歯車収容凹部は、回転方向に関して等間隔で配置されていてもよい。
【0045】
<噛み合い時と非噛み合い時におけるカムシャフト駆動歯車の状態遷移>
次に
図6を用いて、本実施形態における駆動側部50と被駆動側部60の噛み合い時と非噛み合い時におけるカムシャフト駆動歯車の状態遷移について説明する。
まずエンジン100が適正に回転するときは上記したピストン運動と連動してクランクシャフト20が正回転し、その回転力がカムシャフト駆動歯車40にチェーン80を介して伝達される。すると
図6の上側に示すように、駆動側部50の第1噛み合い溝52と、被駆動側部60の第2噛み合い溝62と、が噛み合って一体となって回転する。これによりクランクシャフト20からチェーン80を介してカムシャフト30へ駆動力(回転)が伝達される。
【0046】
一方で何らかの原因でエンジン100が逆回転した場合、この逆回転がチェーン80を介して駆動側部50に伝達される。しかしながら本実施形態では、
図6の左下側に示すように、逆回転する駆動側部50の第1噛み合い溝52が被駆動側部60の第2噛み合い溝62から離間すると共に、位相調整用歯車71が双方の歯車収容凹部54及び64から離脱して歯車溝内を回転(図示では反時計回り)しながら移動する。これにより上記した逆回転時に駆動側部50からの駆動力が被駆動側部60へ伝達されず、カムシャフト30まで逆回転してしまうことが抑制される。
【0047】
他方、上記したエンジン100の逆回転が正回転に回復した場合、この逆回転後の正回転がチェーン80を介して駆動側部50に伝達される。すると本実施形態では、
図6の左下側から右下側へ移行して、同図に示すように位相調整用歯車71が双方の歯車溝53及び63内を歯車収容凹部へ向けて戻るように回転(図示では時計回り)しながら移動する。そしてその後に位相調整用歯車71が双方の歯車収容凹部54及び64に収容されると、上記した第1噛み合い溝52と第2噛み合い溝62とが噛み合って駆動側部50と被駆動側部60が一体となって回転する元の状態(予め設定されたカムによる適正なバルブタイミング)へ復帰する。
これにより、エンジン100で逆回転が生じてしまったとしても、後述するように吸気バルブを駆動するカムによるバルブタイミングを損ねることなく復帰することが可能となっている。
【0048】
このように本実施形態のカムシャフト駆動歯車および車両によれば、何らかの原因でエンジンに逆回転が発生しても動弁機構の吸排気タイミングを適切に回復させることが可能となる。
【0049】
上記で説明した本開示におけるカムシャフト駆動歯車40の構成は、上記した実施形態に拘泥されず種々の変形が可能である。
例えば
図7に示すように、位相調整用歯車71が収容される一対の歯車収容凹部54及び64の少なくとも一方に対して徐変区間GSを設けてもよい。かような徐変区間GSは、位相調整用歯車71が歯車収容凹部54及び64に対する進入抵抗を抑える機能を有するように構成されている。
【0050】
従って
図2及び
図7を対比して理解されるとおり、
図7の変形例に係る歯車収容凹部54の周方向長さがL1とした場合には、徐変区間GSの周方向長さL2は、(L1/2)以上となっていることが好ましい。また、徐変区間GSの周方向長さL2は、
図2の実施形態に係る歯車収容凹部54の周方向長さがLaとした場合には、徐変区間GSの周方向長さL2は、(La/2)よりも大きく設定される。
【0051】
また
図7に示すように、一対の歯車収容凹部54及び64の双方に対して変形例に係る徐変区間GSを設ける場合には、それぞれの徐変区間GSの高さH1およびH2の合計が、噛み合い溝(本例の場合は第1噛み合い溝52)の歯高H3とほぼ等しくなるように設定してもよい。
【0052】
かような変形例に係るカムシャフト駆動歯車によれば、上記した実施形態の効果に加え、突発的な事象によって高速で逆回転が発生したときでも位相調整用歯車71の歯飛びを抑制することができる。またこのような高速逆回転時における歯飛び対策としては、上記の他に、例えば位相調整用歯車71の噛み合い歯丈を増加したり、弾性付与部70の弾性力Fを増加させたりしてもよい。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態および変形例について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0054】
100 エンジン
10 エンジン本体
20 クランクシャフト
30 カムシャフト
40 カムシャフト駆動歯車
50 駆動側部
60 被駆動側部
70 弾性付与部
80 チェーン(伝達手段)
90 テンショナ