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特開2023-167484組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池
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  • 特開-組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池 図1
  • 特開-組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池 図2
  • 特開-組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167484
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20231116BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231116BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231116BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/13
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078711
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】房 楠
(72)【発明者】
【氏名】水野 悠
(72)【発明者】
【氏名】杉原 裕理
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS10
5H017BB08
5H017DD05
5H017EE06
5H017EE07
5H017EE09
5H017EE10
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH08
5H050AA02
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA02
5H050DA04
5H050EA09
5H050EA24
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】安全性及び電池性能に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる組成物を提供する。
【解決手段】本開示の組成物は、導電性炭素繊維(A1)を含む導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、前記オレフィン系樹脂(B)以外の樹脂であるバインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)の総量に対して、前記導電性炭素繊維(A1) 5質量超30質量%以下と、前記オレフィン系樹脂(B) 60質量%~90質量%と、前記バインダー樹脂(C) 1質量%~30質量%と、前記合成ゴム(D) 1質量%~20質量%と、を含有する。前記オレフィン系樹脂(B)の含有量に対する前記導電性炭素材料(A)の含有量の比が0.08~0.32である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素繊維(A1)を含む導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、前記オレフィン系樹脂(B)以外の樹脂であるバインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)の総量に対して、
前記導電性炭素繊維(A1) 5質量超30質量%以下と、
前記オレフィン系樹脂(B) 60質量%~90質量%と、
前記バインダー樹脂(C) 1質量%~30質量%と、
前記合成ゴム(D) 1質量%~20質量%と、を含有し、
前記オレフィン系樹脂(B)の含有量に対する前記導電性炭素材料(A)の含有量の比が0.08~0.32である、組成物。
【請求項2】
前記導電性炭素材料(A)が、導電性炭素粒子(A2)を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記導電性炭素繊維(A1)が、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバーから選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記導電性炭素材料(A)の含有量が、前記導電性炭素材料(A)、前記オレフィン系樹脂(B)、前記バインダー樹脂(C)、及び前記合成ゴム(D)の総量に対して、7質量%~30質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記オレフィン系樹脂(B)が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記オレフィン系樹脂(B)が、水分散性オレフィン系樹脂を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記オレフィン系樹脂(B)の粒径が0.1μm~9.0μmであり、前記オレフィン系樹脂(B)の軟化点が70℃以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記バインダー樹脂(C)が、カルボキシメチルセルロース又はポリフッ化ビニリデンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記合成ゴム(D)が、スチレンブタジエンゴムを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
リチウムイオン二次電池の電極のアンダーコート層に用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記電極が正極である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
集電体と、
前記集電体の少なくとも一方の主面に積層されたアンダーコート層とを備え、
前記アンダーコート層は、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の組成物の固形分を含む、アンダーコート層付き集電体。
【請求項13】
請求項12に記載のアンダーコート層付き集電体と、
前記アンダーコート層上に積層された合材層と、
を備える、電極。
【請求項14】
請求項13に記載の電極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、電子機器、電気自動車、又は電気貯蔵用の電源として広く使用されている。特に最近では、ハイブリッド自動車等に搭載可能な、高容量で高出力かつエネルギー密度の高い電池が求められている。このようなリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという利点がある。一方で、リチウム金属及びリチウムイオンを使用することから、安全性に対する十分な対応策が必要となる。
【0003】
特許文献1は、電池の内部温度が上昇した場合に、内部抵抗を上昇させる機能を有する非水電解質二次電池用電極の下地層形成用導電性組成物を開示している。
特許文献1に開示の導電性組成物は、導電性の炭素材料(A)と、水溶性樹脂(B)と、水分散樹脂微粒子(C)と、水性液状媒体(D)とを含有する。水分散樹脂微粒子(C)が少なくともオレフィン系樹脂微粒子を含む。導電性組成物の固形分の合計100質量%中、導電性の炭素材料(A)の含有量が、10~50質量%であり、水溶性樹脂(B)の含有量が、10~50質量%であり、水分散樹脂微粒子(C)の含有量が、30~70質量%であり、水分散樹脂微粒子(C)に含まれるオレフィン系樹脂微粒子の割合が、50~100質量%である。特許文献1では、具体的に、導電性の炭素材料(A)として、カーボンブラック(すなわち、「デンカブラックHS-100」又は「ケッチェンブラックEC-300J」)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5939346号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の導電性組成物を用いて形成されたリチウム二次イオン電池では、優れた安全性と、優れた電池性能とが両立しないおそれがあった。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑み、安全性及び電池性能に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0008】
<1> 導電性炭素繊維(A1)を含む導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、前記オレフィン系樹脂(B)以外の樹脂であるバインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)の総量に対して、
前記導電性炭素繊維(A1) 5質量超30質量%以下と、
前記オレフィン系樹脂(B) 60質量%~90質量%と、
前記バインダー樹脂(C) 1質量%~30質量%と、
前記合成ゴム(D) 1質量%~20質量%と、を含有し、
前記オレフィン系樹脂(B)の含有量に対する前記導電性炭素材料(A)の含有量の比が0.08~0.32である、組成物。
<2> 前記導電性炭素材料(A)が、導電性炭素粒子(A2)を更に含む、前記<1>に記載の組成物。
<3> 前記導電性炭素繊維(A1)が、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバーから選択される少なくとも1つである、前記<1>又は<2>に記載の組成物。
<4> 前記導電性炭素材料(A)の含有量が、前記導電性炭素材料(A)、前記オレフィン系樹脂(B)、前記バインダー樹脂(C)、及び前記合成ゴム(D)の総量に対して、7質量%~30質量%である、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の組成物。
<5> 前記オレフィン系樹脂(B)が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を含む、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の組成物。
<6> 前記オレフィン系樹脂(B)が、水分散性オレフィン系樹脂を含む、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の組成物。
<7> 前記オレフィン系樹脂(B)の粒径が0.1μm~9.0μmであり、前記オレフィン系樹脂(B)の軟化点が70℃以上である、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の組成物。
<8> 前記バインダー樹脂(C)が、カルボキシメチルセルロース又はポリフッ化ビニリデンを含む、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の組成物。
<9> 前記合成ゴム(D)が、スチレンブタジエンゴムを含む、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の組成物。
<10> リチウムイオン二次電池の電極のアンダーコート層に用いられる、前記<1>~<9>のいずれか1つに記載の組成物。
<11> 前記電極が正極である、前記<10>に記載の組成物。
<12> 集電体と、
前記集電体の少なくとも一方の主面に積層されたアンダーコート層とを備え、
前記アンダーコート層は、前記<1>~<11>のいずれか1つに記載の組成物の固形分を含む、アンダーコート層付き集電体。
<13> 前記<12>に記載のアンダーコート層付き集電体と、
前記アンダーコート層上に積層された合材層と、
を備える、電極。
<14> 前記<13>に記載の電極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、安全性及び電池性能に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示のリチウムイオン二次電池の一例であるラミネート型電池を示す概略断面図である。
図2】本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池における正極の断面図である。
図3】本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池における負極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0012】
以下、図面を参照して、本開示の組成物、アンダーコート層付き集電体、電極及びリチウムイオン二次電池の実施形態について説明する。図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0013】
(1)組成物
本開示の組成物は、導電性炭素繊維(A1)を含む導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、前記オレフィン系樹脂(B)以外の樹脂であるバインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)の総量(以下、単に「(A)~(D)の総量」ともいう。)に対して、
前記導電性炭素繊維(A1) 5質量超30質量%以下と、
前記オレフィン系樹脂(B) 60質量%~90質量%と、
前記バインダー樹脂(C) 1質量%~30質量%と、
前記合成ゴム(D) 1質量%~20質量%と、を含有し、
前記オレフィン系樹脂(B)の含有量に対する前記導電性炭素材料(A)の含有量の比(以下、「質量比(A/B)」という場合がある。)が0.08~0.32である、組成物。
【0014】
本開示において、「導電性炭素材料」とは、20℃における体積抵抗率が40Ω・cm未満、好ましくは3Ω・cm未満である炭素材料を示す。
本開示において、「導電性炭素繊維」とは、導電性炭素材料のうち、繊維状の導電性炭素材料を示す。「繊維状」とは、細長い形状を示し、具体的に、導電性炭素材料の短軸(繊維直径)に対する長軸(繊維長)の比(長軸/短軸)が100を超える形状を示す。
本開示において、「オレフィン系樹脂」とは、オレフィンから導かれる構造単位を含む樹脂を示す。詳しくは、「オレフィン系樹脂」とは、オレフィンの単独重合体、2種以上のオレフィンの共重合体、又は、オレフィンと他のモノマーとの共重合体を示す。
本開示において、「含有量」と「添加量」とは、実質的に同一とみなす。
【0015】
本開示の組成物は、上記の構成を有するため、安全性及び電池性能に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0016】
(1.1)組成物の用途
本開示の組成物は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池の電極の部品等に好適に用いられ、リチウムイオン二次電池の電極のアンダーコート層により好適に用いられ、リチウムイオン二次電池の正極のアンダーコート層に更に好適に用いられる。詳しくは、本開示の組成物は、集電体の少なくとも一方の主面上にアンダーコート層及び合材層がこの順で積層された電極を備えるリチウムイオン二次電池に含まれる前記アンダーコート層を形成するために用いられることが好ましい。なかでも、本開示の組成物は、集電体の少なくとも一方の主面上にアンダーコート層及び合材層がこの順で積層された正極を備えるリチウムイオン二次電池の前記正極に含まれる前記アンダーコート層を形成するために用いられることがより好ましい。
【0017】
本開示において、「集電体」とは、リチウムイオン二次電池において、活物質から発生した電子を集め、かつ活物質に電子を供給するためのシート状物を示す。「集電体の主面」とは、対向する複数の一対の面のうち、面積が最も広い対向する一対の面を示す。
【0018】
(1.2)導電性炭素材料(A)
本開示の組成物は、導電性炭素材料(A)を含有する。導電性炭素材料(A)は、導電性炭素繊維(A1)を含む。これにより、本開示の組成物の電気的抵抗は低減する。
【0019】
(1.2.1)導電性炭素繊維(A1)
導電性炭素材料(A)は、導電性炭素繊維(A1)を含む。これにより、本開示の組成物の電気的抵抗は低減しやすい。
【0020】
導電性炭素繊維(A1)の繊維直径は、特に限定されず、好ましくは1nm~300nm、より好ましくは3nm~150nm、さらに好ましくは5nm~100nm、特に好ましくは10nm~70nmである。
導電性炭素繊維(A1)の繊維長は、特に限定されず、好ましくは1μm~100μm、より好ましくは3μm~70μm、さらに好ましくは5μm~50μm、特に好ましくは5μm~30μmである。
繊維直径および繊維長の測定方法としては、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出する方法を挙げることができる。
【0021】
導電性炭素繊維(A1)としては、カーボンファイバー(CF、繊維直径:1000nm~10000nm)、カーボンナノチューブ(CNT、繊維直径:1nm~1000nm)、グラフェンナノリボン(GNR、繊維直径:1nm~10nm)、フラーレンナノウィスカ(繊維直径:1nm~10nm)等が挙げられる。
【0022】
「カーボンファイバー」とは、実質的に炭素元素だけからなる繊維状(すなわち、中実)の炭素材料を示す。
「カーボンナノチューブ」とは、炭素の六員環ネットワークで形成されるグラフェンを円筒形に継ぎ目なく閉じてできる針状の炭素繊維を示す。
「グラフェンナノリボン」とは、炭素の六員環ネットワークで形成されるグラフェンをナノメートルサイズの幅に切り出した帯状物を示す。
「フラーレンナノウィスカ」とは、フラーレンが、ひげ状に連なり線状の単結晶となったものであり、線状の単結晶の繊維直径がナノメートルサイズである炭素繊維を示す。
【0023】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(SWNT:single-walled carbon nanotube)、二層カーボンナノチューブ(DWNT:double-walled carbon nanotube)、多層カーボンナノチューブ(MWNT:multi-walled carbon nanotube)、気相法炭素繊維(VGCF:vapor grown carbon fiber)等が挙げられる。
導電性炭素繊維(A1)は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
導電性炭素繊維(A1)は、導電性能とコストのバランスの観点から、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバーから選択される少なくとも一方を含むことが好ましく、カーボンナノチューブ又はカーボンファイバーを含むことがより好ましく、カーボンナノチューブを含むことがさらに好ましい。なかでも、カーボンナノチューブとしては、多層カーボンナノチューブ(MWNT)及び気相法炭素繊維(VGCF)の少なくとも一方を含むことが好ましく、多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含むことがより好ましく、多層カーボンナノチューブ(MWNT)であることがさらに好ましい。
【0025】
導電性炭素繊維(A1)は市販品であってもよい。多層カーボンナノチューブ(MWNT)の市販品としては、QINGDAO HAOXIN社製の「HX-N1」、「HX-N3」等が挙げられる。気相法炭素繊維(VGCF)の市販品としては、昭和電工株式会社製の「VGCF(登録商標)-H」等が挙げられる。導電性炭素繊維(A1)を含む分散液の市販品として、QINGDAO HAOXIN社製の「HX-WS-1」、「HX-WS-3」、「HX-NS-1」等を用いてもよい。
【0026】
(1.2.2)導電性炭素粒子(A2)
導電性炭素材料(A)は、導電性炭素粒子(A2)を含んでもよいし、含まなくてもよい。導電性炭素材料(A)は、導電性炭素繊維(A1)に加えて、導電性炭素粒子(A2)を含むことで、線と点を結合するハイブリット導電パスの形成による導電性能が向上するとともに、導電性炭素繊維(A1)の含有量を低減してコスト競争力を向上できる。
【0027】
本開示において、「導電性炭素粒子」とは、導電性炭素材料のうち、粒子状の導電性炭素材料を示す。「粒子状」とは、粒状を示し、具体的に、導電性炭素材料の短軸(粒子の最小径)に対する長軸(粒子の最小径)の比(長軸/短軸)が1.0~5.0の形状を示す。
【0028】
導電性炭素粒子(A2)の粒径は、特に限定されない。導電性炭素粒子(A2)の粒径は、アンダーコート層に含まれる各粒子間に分散し導電助剤として機能させる観点から、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm~4μmである。この場合、導電性炭素粒子(A2)の粒子の1次粒子径は、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.001μm~0.4μmである。
導電性炭素粒子(A2)の粒径は、レーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50体積%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径)を示す。
【0029】
導電性炭素粒子(A2)としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、及びフラーレン等が挙げられる。グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛(例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛など)が挙げられる。導電性炭素粒子(A2)は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
導電性炭素粒子(A2)は、市販品であってもよい。カーボンブラックの市販品としては、例えば、「Super P」(TIMCAL社製)等が挙げられる。燐片状黒鉛の市販品としては、「KS-6」(TIMREX社製)等が挙げられる。
【0031】
(1.2.3)含有量
導電性炭素繊維(A1)の含有量は、(A)~(D)の総量に対して、5質量%超30質量%以下である。導電性炭素繊維(A1)の含有量が上記範囲内であれば、本開示の組成物中において、導電性炭素繊維(A1)同士の連絡点の数が多く、パーコレーション効果によって本開示の組成物の常温時の電気的抵抗を低減することができる。更に、リチウムイオン二次電池の急激な温度上昇時には、導電性炭素繊維(A1)同士の接触が保たれにくく、アンダーコート層の電気的抵抗が増大することによって、得られるリチウムイオン二次電池は、シャットダウン機能を発揮することができる。つまり、リチウムイオン二次電池の安全性は優れる。シャットダウン機能は、リチウムイオン二次電池の電池反応の進行を阻止することを含む。電池反応とは、正極と負極との間で行われるリチウムイオンの挿入反応及び脱離反応を示す。
導電性炭素繊維(A1)を含む導電性炭素材料(A)の含有量が高ければ高いほど、リチウムイオン二次電池の電池性能はより優れる傾向にある。
【0032】
導電性炭素材料(A)の含有量は、導電性炭素繊維(A1)の含有量が上記範囲内であれば特に限定されず、シャットダウン機能の確保及び電池性能の確保の観点から、(A)~(D)の総量に対して、好ましくは5質量%超30質量%、より好ましくは7質量%~25質量%、さらに好ましくは10質量%~16質量%、特に好ましくは10質量%~13質量%である。
【0033】
導電性炭素繊維(A1)の含有量は、(A)~(D)の総量に対して、5質量%超30質量%以下であり、シャットダウン機能の確保及び電池性能の確保の観点から、好ましくは5質量%超20質量%以下、より好ましくは7質量%~15質量%、さらに好ましくは7質量%~10質量%である。
【0034】
導電性炭素材料(A)が導電性炭素粒子(A2)を含有する場合、導電性炭素粒子(A2)の含有量は、下記の範囲内であることが好ましい。
導電性炭素粒子(A2)の含有量は、導電性炭素繊維(A1)の補助として導電性の改善による電池性能の確保及びシャットダウン機能の確保の観点から、(A)~(D)の総量に対して、好ましくは0.1質量%~10質量%、より好ましくは0.5質量%~5質量%、さらに好ましくは1質量%~3質量%である。
導電性炭素繊維(A1)の含有量に対する導電性炭素粒子(A2)の含有量の質量比(A2/A1)は、特に限定されず、シャットダウン機能の確保及び電池性能の確保の観点から、好ましくは0~0.7、より好ましくは0~0.5、さらに好ましくは0~0.3である。
【0035】
質量比(A/B)は、0.08~0.32である。質量比(A/B)が上記範囲内であれば、シャットダウン機能と、電池性能を確保するためにアンダーコート層の電気的抵抗を低減すること(以下、「アンダーコート層の低抵抗性」という。)とを両立できる。
質量比(A/B)は、シャットダウン機能と、電池性能の確保との観点から、好ましくは0.08~0.25、より好ましくは0.10~0.20、さらに好ましくは0.10~0.14である。
【0036】
(1.3)オレフィン系樹脂(B)
本開示の組成物は、オレフィン系樹脂(B)を含む。これにより、本開示の組成物がアンダーコート層の原料に用いられる場合、リチウムイオン二次電池は熱暴走しにくく、リチウムイオン二次電池の安全性は確保される。
【0037】
オレフィン系樹脂(B)の材質は、特に限定されない。オレフィン系樹脂(B)の軟化点は、70℃~150℃であることが好ましい。前記軟化点の上限は、リチウムイオン二次電池の急激な温度上昇時に、より低い温度領域でオレフィン系樹脂(B)が溶融することにより、シャットダウン機能をより効果的に発揮させること(以下、「シャットダウン機能の効果的発揮」という。)の観点から、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下である。オレフィン系樹脂(B)の軟化点の下限は、正極の製造過程で行われる乾燥処理の実行前後において、オレフィン系樹脂(B)の形状を保持させること(以下、「正極乾燥工程の際のオレフィン系樹脂(B)の形状保持」という。)の観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。オレフィン系樹脂(B)の軟化点は、JISK2207(環球法)で測定された値を示す。
【0038】
具体的に、オレフィン系樹脂(B)の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド及びポリメチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
なかでも、オレフィン系樹脂(B)の材質は、シャットダウン機能の効果的発揮と、正極乾燥工程の際のオレフィン系樹脂(B)の形状保持との両立の観点から、ポリエチレン系樹脂、又はポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。オレフィン系樹脂(B)は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本開示において、「ポリエチレン系樹脂」とは、エチレンを主たる成分とする樹脂である。ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体又は共重合体が挙げられる。中でも、ポリエチレン系樹脂は、エチレンと少なくとも1種のα-オレフィンとの共重合体であることが好ましい。
本開示において、「ポリプロピレン系樹脂」とは、プロピレンを主たる成分とする樹脂である。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体又は共重合体が挙げられる。中でも、ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンと少なくとも1種のα-オレフィン(プロピレンを除く)との共重合体であることが好ましい。
本開示において、主たる成分とは、樹脂又は重合体に含まれる構成単位のうち、最も含有比率(モル%)の多い成分のことを意味する。
【0040】
オレフィン系樹脂(B)は、水分散性オレフィン系樹脂を含むことが好ましい。これにより、本開示の組成物がアンダーコート層の原料に用いられる場合、リチウムイオン二次電池はより熱暴走しにくく、リチウムイオン二次電池の安全性は向上する。
【0041】
本開示において、「水分散性オレフィン系樹脂」とは、界面活性剤及び有機溶剤のいずれをも添加しなくとも、水に分散可能なオレフィン系樹脂の微粒子を示す。
【0042】
水分散性オレフィン系樹脂の材質としては、ポリエチレン、ポリエチレン系エラストマー、ポリオレフィンのアイオノマー、EVA等が挙げられる。
【0043】
水分散性オレフィン系樹脂の含有量は、特に限定されず、オレフィン系樹脂(B)の総量に対して、好ましくは20質量%~100質量%、より好ましくは50質量%~100質量%であり、100質量%であってもよい。
【0044】
オレフィン系樹脂(B)の形状は、特に限定されず、粒子状であってもよい。オレフィン系樹脂(B)の形状が粒子状である場合、オレフィン系樹脂(B)の粒径は、特に限定されない。
オレフィン系樹脂(B)の粒径は、最適なアンダーコート層の膜厚範囲に収まるようにオレフィン系樹脂(B)の粒径を調整すること、及び組成物(例えば、アンダーコート層用スラリー)の加工性の観点から、好ましくは0.1μm~9.0μm、より好ましくは0.5μm~4.0μm、さらに好ましくは0.5μm~2.0μmである。オレフィン系樹脂(B)の粒径が小さくなればなるほど、オレフィン系樹脂(B)は凝集しやすくなる傾向にある。
オレフィン系樹脂(B)の粒径は、コールターカウンター法により測定された値を示す。
【0045】
オレフィン系樹脂(B)の粒径は0.1μm~9.0μmであり、オレフィン系樹脂(B)の軟化点は70℃以上であることが好ましい。これにより、本開示の組成物がアンダーコート層の原料に用いられる場合、リチウムイオン二次電池はより熱暴走しにくく、リチウムイオン二次電池の安全性は向上する。
【0046】
オレフィン系樹脂(B)の含有量は、(A)~(D)の総量に対して、60質量%~90質量%である。オレフィン系樹脂(B)の含有量が上記範囲内であれば、シャットダウン機能を確保できる。
オレフィン系樹脂(B)の含有量が高ければ高いほど、リチウムイオン二次電池の安全性はより優れるのに対し、リチウムイオン二次電池の電池性能は低下する傾向にある。つまり、リチウムイオン二次電池の安全性と、リチウムイオン二次電池の電池性能とは、トレードオフの関係を有する。
オレフィン系樹脂(B)の含有量は、アンダーコート層の低抵抗性及びシャットダウン機能の効果的発揮の観点から、(A)~(D)の総量に対して、好ましくは65質量%~83質量%、より好ましくは72質量%~83質量%、さらに好ましくは77質量%~83質量%である。
オレフィン系樹脂(B)の含有量が低いと、シャットダウン機能が低下する傾向にある。
【0047】
オレフィン系樹脂(B)は、市販品であってもよい。水分散性オレフィン系樹脂の市販品としては、三井化学株式会社製のケミパール(登録商標)シリーズ(ポリオレフィン水性ディスパージョン)が挙げられる。低分子量ポリエチレンを微粒状水性ディスパージョン化したものとして、W300、W400、W410、W700、W4005、W401、W500、WF640、W900、W950、WH201、WP100、P301W等が挙げられる。
【0048】
(1.4)バインダー樹脂(C)
本開示の組成物は、バインダー樹脂(C)を含む。これにより、本開示の組成物がアンダーコート層の原料に用いられる場合、バインダー樹脂(C)は、アンダーコート層の物性(例えば、電解液浸透性・剥離強度)を向上させるとともに、リチウムイオン二次電池の電池性能を向上させることができる。
【0049】
バインダー樹脂(C)の材質としては、特に限定されず、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PVDF共重合体、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、及びジアセチルセルロース等が挙げられる。PVDF共重合体は、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体であり、例えば、PVDF-HFP(ヘキサフルオロプロピレン)及びPVDF-PEO(ポリオキシエチレン)等が挙げられる。バインダー樹脂(C)は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なかでも、バインダー樹脂(C)は、アンダーコート層の低抵抗性の観点から、CMC又はPVDFを含むことが好ましい。
【0050】
バインダー樹脂(C)は、市販品であってもよい。
CMCの市販品としては、ダイセルミライズ株式会社製の「1130」、「1140」、「1240」、[1250]、「1260」、「1330」、「2200」、「DL100L」等が挙げられる。
PVDFの市販品としては、株式会社クレハ製のクレハ(登録商標)KFポリマーシリーズが挙げられ、例えば「W#1100」、「W#1300」、「W#1700」、「W#7200」、「W#7300」、「L#7208」が挙げられる。
【0051】
バインダー樹脂(C)の含有量は、(A)~(D)の総量に対して、1質量%~30質量%である。シャットダウン機能は、バインダー樹脂(C)の含有量と、オレフィン系樹脂(B)の含有量とのバランスに依存する。(A)~(D)の総量に対するバインダー樹脂(C)の含有量の割合が高い場合、(A)~(D)の総量に対するオレフィン系樹脂(B)の含有量の割合は低くなる。この場合、シャットダウン機能は、機能しないおそれがある。バインダー樹脂(C)の含有量が上記範囲内であれば、組成物(例えば、アンダーコート層用スラリー)の加工性と、シャットダウン機能の確保との両立ができる。
バインダー樹脂(C)の含有量は、オレフィン系樹脂(B)の含有量によりシャットダウン機能を確保すること、及び組成物(例えば、アンダーコート層用スラリー)の加工性の観点から、(A)~(D)の総量に対して、好ましくは2質量%~15質量%、より好ましくは5質量%~10質量%である。
【0052】
(1.5)合成ゴム(D)
本開示の組成物は、合成ゴム(D)を含む。これにより、本開示の組成物がアンダーコート層の原料に用いられる場合、アンダーコート層と正極集電体との接着性が向上して、電池抵抗を低減できる。
【0053】
合成ゴム(D)の材質としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレンゴム等が挙げられる。合成ゴム(D)は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい
なかでも、合成ゴム(D)は、アンダーコート層の低抵抗性の観点から、SBRのエマルジョンなどの水分散性バインダーを適宜混合したものが好ましく、SBRを含むことがより好ましく、SBRであることがより好ましい。
【0054】
合成ゴム(D)の形状は、特に限定されず、粒子状であってもよい。
【0055】
合成ゴム(D)の含有量は、(A)~(D)の総量に対して、1質量%~20質量%である。合成ゴム(D)の含有量が上記範囲内であれば、正極集電体への接着性と、組成物自体の電気的抵抗を低減することとを両立できる。
合成ゴム(D)の含有量は、組成物自体の電気的抵抗を低減すること、及び正極集電体への接着性の観点から、(A)~(D)の総量に対して、好ましくは3質量%~15質量%、より好ましくは5質量%~12質量%、さらに好ましくは5質量%~10質量%である。
【0056】
オレフィン系樹脂(B)の含有量に対する合成ゴム(D)の含有量の質量比(D/B)は、特に限定されず、0.01~0.7であることが好ましい。質量比(D/B)が上記範囲内であれば、本開示の組成物がアンダーコート層の原料に用いられる場合、アンダーコート層と正極集電体との接着性と、シャットダウン機能の効果的発揮とを両立できる。
質量比(D/B)は、シャットダウン機能の効果的発揮、及び本開示の組成物がアンダーコート層の原料に用いられる場合、アンダーコート層と正極集電体との接着性を維持する観点から、より好ましくは0.05~0.50、さらに好ましくは0.05~0.25、特に好ましくは0.06~0.15である。
【0057】
合成ゴム(D)は、市販品であってもよい。合成ゴム(D)の市販品としては、JSR株式会社製の「TRD2001」(スチレンブタジエンゴム粒子の水分散体)等が挙げられる。
【0058】
(1.6)添加剤(E)
本開示の組成物は、必要に応じて、添加剤(E)を含んでもよいし、添加剤(E)を含んでいなくてもよい。本開示の組成物が添加剤(E)を含むことで、本開示の組成物に添加剤(E)の種類に応じた種々の機能を付与することはできる。
【0059】
本開示において、「添加剤」とは、導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、バインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)以外の固形分を示す。
【0060】
添加剤(E)としては、例えば、70℃以上180℃以下の最大体積膨張温度を有する熱膨張性マイクロカプセル(以下、単に「熱膨張性マイクロカプセル」という場合がある。)、無機酸化物フィラー、硬化性樹脂フィラー、鱗片状フィラー等が挙げられる。なかでも、添加剤(E)は、熱膨張性マイクロカプセル及び無機酸化物フィラーの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0061】
本開示において、「熱膨張性マイクロカプセル」とは、熱可塑性樹脂からなる外殻と、外殻に内包された揮発性膨張剤とを備えるものを示す。詳しくは、熱膨張性マイクロカプセルは、後述する電解液と接触した状態において、リチウムイオン二次電池の異常発熱による熱暴走が開始される直前の温度(例えば、70℃~160℃)に曝されると、急激に軟化発泡して体積膨張を起こす。
本開示において、「体積膨張開始温度」とは、熱膨張性マイクロカプセルに内包される揮発性膨張剤がガス化し、熱膨張性マイクロカプセルが体積膨張を始める温度を示す。
本開示において、「最大体積膨張温度」とは、熱膨張性マイクロカプセルに内包される揮発性膨張剤がガス化して、熱膨張性マイクロカプセルが体積膨張する際に、熱膨張性マイクロカプセルの膨張体積が最大となる温度を示す。
【0062】
本開示の組成物が添加剤(E)を含む場合、添加剤(E)の含有量は下記の範囲内であることが好ましい。
添加剤(E)の含有量は、(A)~(E)の総量に対して、0質量%~50質量%であることが好ましい。添加剤(E)の含有量が上記範囲内であれば、添加剤(E)を持つ特性によって、シャットダウン機能をより効果的に発揮することができる。
添加剤(E)の含有量は、導電性炭素材料(A)とオレフィン系樹脂(B)の含有比率に与える影響度が少なく、シャットダウン機能の効果的発揮と、電池性能の維持と、シャットダウン機能の効果的発揮との観点から、(A)~(E)の総量に対して、好ましくは5質量%~40質量%、より好ましくは10質量%~30質量%以下である。
【0063】
(1.6.1)熱膨張性マイクロカプセル
本開示の組成物は、必要に応じて、熱膨張性マイクロカプセルを含有してもよい。本開示の組成物は、熱膨張性マイクロカプセルを含有しなくてもよい。
本開示の組成物が熱膨張性マイクロカプセルを含有し、本開示の組成物がアンダーコート層の原料に用いられる場合、熱膨張性マイクロカプセルは、リチウムイオン二次電池の異常発熱によって体積膨張を起こして、電極の直流抵抗を効率的に増大させて、リチウムイオン二次電池の安全性を向上させることができる。
【0064】
熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張開始温度は、120℃~130℃であることが好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの最大体積膨張温度は、145℃~155℃であることが好ましい。
【0065】
外殻を構成する熱可塑性樹脂は、塩化ビニリデンを含む(共)重合体、及び(メタ)アクリロニトリルを含む(共)重合体を含むことが好ましい。これにより、外殻を構成する熱可塑性樹脂は、耐電解液性に優れ、熱可塑性で且つガスバリヤー性に優れる。中でも、電解液耐性の観点から、外殻を構成する熱可塑性樹脂は、(メタ)アクリロニトリルを主成分(51質量%以上)とする(共)重合体であることが好ましい。外殻を構成する熱可塑性樹脂の原料は、得られる熱膨張性マイクロカプセルの発泡特性及び耐熱性を改良するため、重合性単量体に加えて、架橋性単量体を含んでもよい。
【0066】
揮発性膨張剤は、熱膨張性マイクロカプセルの最大体積膨張温度がオレフィン系樹脂(B)の軟化点より高くなるように、沸点を選択することが好ましい。揮発性膨張剤は、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張開始温度がオレフィン系樹脂(B)の軟化点と同等の温度となるように、沸点を選択することが好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池の発熱によりアンダーコート層の温度がオレフィン系樹脂(B)の軟化点を超えて上昇したとき、電極の直流抵抗は効率的に増大する。その結果、リチウムイオン二次電池の安全性はより向上する。
揮発性膨張剤としては、例えば、沸点が100℃以下である低分子量炭化水素、不燃性又は難燃性の化合物等が挙げられる。沸点が100℃以下である低分子量炭化水素としては、例えば、プロパン、プロピレン、n-ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、イソペンタン、ネオペンタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、石油エーテルなどの低分子量炭化水素が好ましく用いられる。不燃性又は難燃性の化合物としては、例えば、ハロゲン化炭化水素(例えば、塩化メチル、メチレンクロライド、フロロトリクロロメタン、ジフロロジクロロメタン、クロロトリフロロメタン等)、クロロフロロカーボン類等が挙げられる。揮発性膨張剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
熱膨張性マイクロカプセルの粒径は、特に限定されず、好ましくは1μm~40μm、より好ましくは3μm~30μm、さらに好ましくは5μm~25μmである。
熱膨張性マイクロカプセルの粒径は、レーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50体積%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径)を示す。
【0068】
組成物が熱膨張性マイクロカプセルを含有する場合、熱膨張性マイクロカプセルの含有量は、(A)~(D)の総量に対して、好ましくは5質量%~50質量%、より好ましくは10質量%~40質量%である。上記範囲にあると、導電性炭素材料(A)とオレフィン系樹脂(B)の含有比率に与える影響度が少なく、シャットダウン機能と、電池性能の維持と、異常発熱時の熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張によるシャットダウン機能の増強との観点から好ましい。
【0069】
熱膨張性マイクロカプセルは、市販品であってもよい。熱膨張性マイクロカプセルの市販品としては、松本油脂製薬株式会社製の「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)」シリーズ、アクゾノーベル社製の「EXPANCEL(登録商標)」シリーズ、積水化学工業株式会社製の「ADVANCELL(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
【0070】
(1.6.2)無機酸化物フィラー
無機酸化物フィラーは、必要に応じて、無機酸化物フィラーを含有してもよい。本開示の組成物は、無機酸化物フィラーを含有しなくてもよい。
本開示の組成物が無機酸化物フィラーを含有する場合、無機酸化物フィラーは、充填材として機能する。
無機酸化物フィラーの含有量を多くすれば、正極の耐熱性に寄与し、無機酸化物フィラーの含有量を極力少なくすれば正極合材層に密着するアンダーコート層となって、内部短絡時に該アンダーコート層が溶融し安全性向上に寄与する。さらに、無機酸化物フィラーの種類や物性を選択することにより、電池の過充電時に電解液を分解しガスを発生させることもできる。
【0071】
無機酸化物フィラーとしては、酸化アルミニウム(α-Al、γ-Al)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、ベーマイト(AlOOH))、マグネシア(酸化マグネシウム:MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、シリカ(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)、炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ホウ素(BN)、マイカ、膨張黒鉛などの酸化黒鉛等が挙げられる。無機酸化物フィラーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、無機酸化物フィラーは、酸化アルミニウムを含むことが好ましい。
【0072】
無機酸化物フィラーの形状としては、特に限定されず、例えば、球形状、針状、楕円体状、板状、鱗片状等が挙げられる。無機酸化物フィラーの粒径は、特に限定されず、0.01μm~5μmであることが好ましい。
無機酸化物フィラーの粒径は、レーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50体積%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径)を示す。
【0073】
本開示の組成物が無機酸化物フィラーを含有する場合、無機酸化物フィラーの含有量は、導電性炭素材料(A)とオレフィン系樹脂(B)の含有比率に与える影響度が少なく、シャットダウン機能と、電池性能の維持と、高温時にアンダーコート層中に熔解したオレフィン系樹脂(B)の流動性を抑制し、シャットダウン機能を長い時間維持することとのの観点から、(A)~(E)の総量に対して、好ましくは5質量%~40質量%、より好ましくは10質量%~30質量%である。
【0074】
(1.7)非固形分
本開示の組成物は、非固形分を含んでもよい。
例えば、アンダーコート層がアンダーコート層用スラリーから形成される場合、アンダーコート層には、そのアンダーコート層用スラリー由来の各種配合成分が含まれることがある。非固形分としては、アンダーコート層用スラリー由来の各種配合成分(例えば、増粘剤、並びに、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等)、水等が挙げられる。
【0075】
(2)アンダーコート層付き集電体
本開示のアンダーコート層付き集電体は、集電体と、アンダーコート層とを備える。アンダーコート層は、集電体の少なくとも一方の主面に積層されている。アンダーコート層は、本開示の組成物の固形分を含む。
【0076】
本開示において、「アンダーコート層付き集電体」とは、リチウムイオン二次電池の電極の部品を示す。
本開示において、「組成物の固形分」は、導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、バインダー樹脂(C)及び合成ゴム(D)を含み、必要に応じて添加剤(E)を含んでもよい。
【0077】
本開示のアンダーコート層付き集電体は、上記の構成を有するため、本開示のアンダーコート層付き集電体は、リチウムイオン二次電池の急激な温度上昇時に、集電体と後述する合材層との間の電気的抵抗を増大させる。これにより、リチウムイオン二次電池の過熱を抑制する。そのため、本開示のアンダーコート層付き集電体は、リチウムイオン二次電池の安全性を向上させることができる。更に、本開示のアンダーコート層付き集電体は、高温環境下においてリチウムイオン二次電池が長期保存されても、リチウムイオン二次電池の直流抵抗の上昇を抑制することができる。
【0078】
アンダーコート層が集電体の両方の主面に積層される場合、一方のアンダーコート層の構成(例えば、材質、形状、膜厚等)は、他方のアンダーコート層と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0079】
以下、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるアンダーコート層付き集電体を「アンダーコート層付き正極集電体」といい、リチウムイオン二次電池の負極に用いられるアンダーコート層付き集電体を「アンダーコート層付き負極集電体」という。
【0080】
(2.1)集電体
集電体の材質は、特に限定されない。
集電体が正極の部品(以下、「正極集電体」という場合がある。)として用いられる場合、正極集電体の材質としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、銅などが挙げられる。「アルミニウム」は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を含む。
集電体が負極の部品(以下、「負極集電体」という場合がある。)として用いられる場合、負極集電体の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、ニッケルメッキ鋼材などが挙げられる。
【0081】
(2.2)アンダーコート層
アンダーコート層は、本開示の組成物を用いて形成される。
【0082】
アンダーコート層の形成位置は、集電体の少なくとも一方の主面の少なくとも一部に形成されていればよく、合材層の塗工パターン(例えば、間欠塗工、ストライプ塗工等)等に応じて適宜選択すればよい。
【0083】
アンダーコート層の膜厚は、特に限定されず、例えば0.1μm~50μm以下である。
アンダーコート層の膜厚の上限は、リチウムイオン二次電池の正常時の直流抵抗をより抑制する等の観点から、好ましくは20μm以下である。
アンダーコート層の膜厚の下限は、リチウムイオン二次電池の異常発熱時に直流抵抗をより高くし、シャットダウン機能をより確実に発揮させる観点から、好ましくは0.2μm以上である。
【0084】
(3)電極
本開示の電極は、本開示のアンダーコート層付き集電体と、合材層とを備える。合材層は、本開示のアンダーコート層付き集電体のアンダーコート層上に積層されている。
【0085】
本開示において、「電極」とは、リチウムイオン二次電池の正極及び負極の少なくとも一方を示す。
【0086】
リチウムイオン二次電池の正極及び負極の各々がアンダーコート層付き集電体を備える場合、正極に含まれるアンダーコート層付き集電体と、負極に含まれるアンダーコート層付き集電体とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
正極に含まれる合材層(以下、「正極合材層」という場合がある。)の材質と、負極に含まれる合材層(以下、「負極合材層」という場合がある。)の材質とは、異なる。
【0087】
(3.1)正極
本開示の正極は、本開示のアンダーコート層付き集電体と、正極合材層とを備える。
【0088】
本開示の正極は、第1正極構成、第2正極構成、第3正極構成、及び第4正極構成を含む。
第1正極構成は、集電体の両方の主面上にアンダーコート層及び正極合材層がこの順に積層された構成を示す。
第2正極構成は、集電体の一方の主面上にアンダーコート層及び正極合材層がこの順に積層され、集電体の他方の主面上にアンダーコート層が積層された構成を示す。
第3正極構成は、集電体の一方の主面上にアンダーコート層及び正極合材層がこの順に積層され、集電体の他方の主面上に正極合材層が積層された構成を示す。
第4正極構成は、集電体の一方の主面上にアンダーコート層及び正極合材層がこの順に積層され、集電体の他方の主面上にアンダーコート層及び正極合材層の各々が積層されていない構成を示す。
【0089】
(3.1.1)正極合材層
正極合材層は、正極活物質及びバインダーを含有する。
【0090】
(3.1.1.1)正極活物質
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、リチウムイオン二次電池の用途などに応じて、適宜調整され得る。
【0091】
正極活物質としては、例えば、第1酸化物、第2酸化物などが挙げられる。
第1酸化物は、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする。
第2酸化物は、Liと、Niと、Li及びNi以外の金属元素の少なくとも1種と、を構成金属元素として含む。Li及びNi以外の金属元素としては、例えば、遷移金属元素、典型金属元素などが挙げられる。第2酸化物は、Li及びNi以外の金属元素として、好ましくは、原子数換算で、Niと同程度、又は、Niよりも少ない割合で含むことが好ましい。Li及びNi以外の金属元素は、例えば、Co、Mn、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ca、Na、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La及びCeからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。正極活物質は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0092】
正極活物質は、下記式(X)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCM」という場合がある。)を含むことが好ましい。リチウム含有複合酸化物(X)は、単位体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れるという利点を有する。
【0093】
LiNiCoMn … 式(X)
【0094】
式(X)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、a、b及びcの合計は、0.99以上1.00以下である。
【0095】
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Co0.3Mn0.2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1などが挙げられる。
【0096】
正極活物質は、下記式(Y)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCA」という場合がある。)を含んでもよい。
【0097】
LiNi1-x-yCoAl … 式(Y)
【0098】
式(Y)中、tは、0.95以上1.15以下であり、xは、0以上0.3以下であり、yは、0.1以上0.2以下であり、x及びyの合計は、0.5未満である。
【0099】
NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05などが挙げられる。
【0100】
正極活物質の含有量は、正極合材層の総量に対して、好ましくは10質量%~99.9質量%、より好ましくは30質量%~99質量%、更に好ましくは50質量%~99質量%、特に好ましくは70質量%~99質量%である。
【0101】
(3.1.1.2)バインダー
バインダーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂、ゴム粒子などが挙げられる。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。
ゴム粒子としては、スチレン-ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子などが挙げられる。
これらの中でも、正極合材層の耐酸化性を向上させる観点から、バインダーは、フッ素樹脂を含むことが好ましい。バインダーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
バインダーの含有量は、正極合材層の物性(例えば、電解液浸透性、剥離強度、など)と電池性能との両立の観点から、正極合材層の全量に対し、好ましくは0.1質量%以上4質量%以下である。
【0102】
(3.1.1.3)導電助剤
正極合材層は、導電助剤を更に含んでもよい。
導電助剤の材質としては、公知の導電助剤を用いることができる。公知の導電助剤としては、導電性を有する炭素材料が好ましい。導電性を有する炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維、フラーレンなどが挙げられる。導電性炭素繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンファイバーなどが挙げられる。グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛としては、例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などが挙げられる。導電助剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。導電助剤の材質は、市販品であってもよい。
【0103】
(3.1.1.4)その他の成分
正極合材層は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などが挙げられる。
【0104】
(3.2)負極
本開示の負極は、本開示のアンダーコート層付き集電体と、負極合材層とを備える。
【0105】
本開示の負極は、第1負極構成、第2負極構成、第3負極構成、及び第4負極構成を含む。
第1負極構成は、集電体の両方の主面上にアンダーコート層及び負極合材層がこの順に積層された構成を示す。
第2負極構成は、集電体の一方の主面上にアンダーコート層及び負極合材層がこの順に積層され、集電体の他方の主面上にアンダーコート層が積層された構成を示す。
第3負極構成は、集電体の一方の主面上にアンダーコート層及び負極合材層がこの順に積層され、集電体の他方の主面上に負極合材層が積層された構成を示す。
第4負極構成は、集電体の一方の主面上にアンダーコート層及び負極合材層がこの順に積層され、集電体の他方の主面上にアンダーコート層及び負極合材層の各々が積層されていない構成を示す。
【0106】
(3.2.1)負極合材層
負極合材層は、負極活物質及びバインダーを含有する。
【0107】
(3.2.1.1)負極活物質
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限はない。負極活物質は、例えば、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、並びにリチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、負極活物質は、リチウムイオンをドープ及び脱ドープすることが可能な炭素材料(以下、「炭素材料」という。)が好ましい。
【0108】
炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料、非晶質炭素材料などが挙げられる。これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。炭素材料の形態は、特に限定されず、例えば、繊維状、球状、フレーク状などが挙げられる。炭素材料の粒径は、特に限定されず、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは20μm以上30μm以下である。
非晶質炭素材料として、例えば、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが挙げられる。
黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが挙げられる。黒鉛材料は、ホウ素を含有してもよい。黒鉛材料は、金属又は非晶質炭素で被覆されていてもよい。黒鉛材料を被覆する金属の材質としては、金、白金、銀、銅、スズなどが挙げられる。黒鉛材料は、非晶質炭素と黒鉛との混合物であってもよい。
【0109】
(3.2.1.2)バインダー
負極合材層に含まれるバインダーとしては、正極合材層に含まれるバインダーとして例示したものと同様のものが挙げられる。
負極合材層に含まれるバインダーは、正極合材層に含まれるバインダーと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
負極合材層に含まれるバインダーの含有量は、特に限定されず、正極合材層に含まれるバインダーの含有量として例示したものと同様であればよい。
【0110】
(3.2.1.3)導電助剤
負極合材層は、導電助剤を含有することが好ましい。導電助剤としては、正極合材層に含まれ得る導電助剤として例示した導電助剤と同様の導電助剤が挙げられる。
【0111】
(3.2.1.4)その他の成分
負極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などが挙げられる。
【0112】
(4)リチウムイオン二次電池
本開示のリチウムイオン二次電池は、本開示の電極を備える。
【0113】
リチウムイオン二次電池は、一般的に、外装体と、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備える。外装体は、正極、負極、セパレータ、及び非水電解液を収容している。正極は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。負極は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。セパレータは、正極と負極とを離隔する。
【0114】
本開示のリチウムイオン二次電池では、正極及び負極の少なくとも一方が本開示の電極である。本開示のリチウムイオン二次電池の正極及び負極の一方が本開示の電極である場合、正極及び負極の他方はリチウムイオン二次電池に用いられる公知の電極であればよい。
以下、正極及び負極が本開示の電極である場合について、説明する。
【0115】
(4.1)外装体
外装体の形状などは、特に限定はなく、リチウムイオン二次電池の用途などに応じて、適宜選択される。外装体としては、ラミネートフィルムを含む外装体、電池缶と電池缶蓋とからなる外装体などが挙げられる。
【0116】
(4.2)正極及び負極
正極は、本開示の正極である。負極は、本開示の負極である。
【0117】
(4.3)セパレータ
セパレータとしては、例えば、多孔質の樹脂平板が挙げられる。多孔質の樹脂平板の材質としては、樹脂、この樹脂を含む不織布などが挙げられる。樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミドなどが挙げられる。なかでも、セパレータは、単層又は多層構造の多孔性樹脂シートであることが好ましい。多孔性樹脂シートの材質は、一種又は二種以上のポリオレフィン樹脂を主体とする。セパレータの厚みは、好ましくは5μm以上30μm以下である。セパレータは、好ましくは、正極と負極との間に配置される。
【0118】
(4.4)非水電解液
非水電解液は、電解質、及び非水溶媒を含有する。
【0119】
(4.4.1)電解質
電解質は、フッ素を含むリチウム塩(以下、「含フッ素リチウム塩」という場合がある。)、及びフッ素を含まないリチウム塩の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0120】
含フッ素リチウム塩としては、例えば、無機酸陰イオン塩、有機酸陰イオン塩などが挙げられる。
無機酸陰イオン塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF)、などが挙げられる。
有機酸陰イオン塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)などが挙げられる。中でも、含フッ素リチウム塩としては、LiPFが特に好ましい。
フッ素を含まないリチウム塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li10Cl10)などが挙げられる。
【0121】
電解質が含フッ素リチウム塩を含む場合、含フッ素リチウム塩の含有割合は、電解質の全量に対して、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0122】
含フッ素リチウム塩が六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を含む場合、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)の含有割合は、電解質の全量に対して、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0123】
非水電解液が電解質を含む場合、非水電解液における電解質の濃度は、好ましくは0.1mol/L以上3mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以上2mol/L以下である。
【0124】
非水電解液が六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を含む場合、非水電解液における六フッ化リン酸リチウム(LiPF)の濃度は、好ましくは0.1mol/L以上3mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以上2mol/L以下である。
【0125】
(4.4.2)非水溶媒
非水電解液は、一般的に、非水溶媒を含有する。
【0126】
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、含フッ素γ-ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類、含フッ素鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類、ラクタム類、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド燐酸、などが挙げられる。非水溶媒は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0127】
環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などが挙げられる。
含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、トリフルオロプロピレンカーボネート、などが挙げられる。
鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、などが挙げられる。
含フッ素鎖状カーボネート類としては、例えば、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、などが挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酪酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、トリメチル酪酸エチル、などが挙げられる。
含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ジフルオロ酢酸メチル、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、などが挙げられる。
γ-ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、などが挙げられる。
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、などが挙げられる。
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、などが挙げられる。
含フッ素鎖状エーテル類としては、例えば、HCFCFCHOCFCFH、CFCFCHOCFCFH、HCFCFCHOCFCFHCF、CFCFCHOCFCFHCF、C13OCH、C13OC、C17OCH、C17OC、CFCFHCFCH(CH)OCFCFHCF、HCFCFOCH(C、HCFCFOC、HCFCFOCHCH(C、HCFCFOCHCH(CH、などが挙げられる。
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、などが挙げられる。
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、などが挙げられる。
ラクタム類としては、例えば、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N'-ジメチルイミダゾリジノン、などが挙げられる。
【0128】
非水溶媒は、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類の合計の割合は、非水溶媒の全量に対して、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0129】
非水溶媒は、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類の合計の割合は、非水溶媒の全量に対して、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0130】
非水溶媒の含有量は、非水電解液の全量に対して、好ましくは60質量%以上99質量%以下、より好ましくは70質量%以上97質量%以下、更に好ましくは70質量%以上90質量%以下である。
【0131】
非水溶媒の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において、好ましくは10.0mPa・s以下である。
【0132】
(4.4.3)電解液添加剤
非水溶媒は、電解液添加剤を含有してもよい。これにより、リチウムイオン二次電池の充放電サイクルにおいて、本来の電池反応ではない副反応は進行しにくくすることができる。電池反応は、正極及び負極にリチウムイオンが出入り(インターカレート)する反応を示す。副反応は、負極による非水電解液の還元分解反応、正極による非水電解液の酸化分解反応、正極活物質中の金属元素の溶出等を含む。
電解液添加剤としては、特に制限はなく、公知のものを任意に用いることができ、例えば、特開2019-153443号公報に記載の添加剤を用いることができる。
【0133】
(5)リチウムイオン二次電池の一例
図1及び図2を参照して、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例について具体的に説明する。図1は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池1の断面図である。図2は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池1における正極11の断面図である。図3は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池1における負極12の断面図である。
【0134】
本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池1は、積層型である。図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、電池素子10と、正極リード21と、負極リード22と、外装体30とを備える。電池素子10は、外装体30の内部に封入されている。外装体30は、ラミネートフィルムで形成されている。電池素子10には、正極リード21及び負極リード22の各々が取り付けられている。正極リード21及び負極リード22の各々は、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
【0135】
電池素子10は、図1に示すように、正極11と、セパレータ13と、負極12と、が積層されてなる。
正極11は、図2に示すように、アンダーコート層付き正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなる。アンダーコート層付き正極集電体11Aは、正極集電体110の両方の主面上にアンダーコート層111が形成されてなる。
負極12は、図3に示すように、アンダーコート層付き負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる。アンダーコート層付き負極集電体12Aは、負極集電体120の両方の主面上にアンダーコート層121が形成されてなる。
図1に示すように、正極11のアンダーコート層付き正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと、正極11に隣接する負極12のアンダーコート層付き負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bとは、セパレータ13を介して対向している。
【0136】
外装体30の内部には、非水電解液が注入されている。非水電解液は、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに浸透している。リチウムイオン二次電池1では、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bによって、1つの単電池層14が形成されている。
【0137】
なお、本実施形態では、リチウムイオン二次電池1は、積層型であるが、本開示はこれに限定されず、リチウムイオン二次電池1は、例えば、捲回型であってもよい。捲回型は、正極、セパレータ、負極、及びセパレータをこの順の配置で重ねて層状に巻いてなる。捲回型は、円筒型、又は角形を含む。
本実施形態では、図1に示すように、正極リード21及び負極リード22の各々が外装体30の内部から外部に向けて突出する方向は、外装体30に対して反対方向であるが、本開示はこれに限定されない。例えば、正極リード及び負極リードの各々が外装体30の内部から外部に向けて突出する方向は、外装体30に対して同一方向であってもよい。
【実施例0138】
以下、本開示に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本開示は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0139】
実施例及び比較例に用いた製品は以下のとおりである。各製品の物性は、カタログ値である。
【0140】
<導電性炭素材料(A)>
<炭素繊維(A1)及びバインダー樹脂(C1)含有する製品(A1,C1)>
・HX-WS-1:QINGDAO HAOXIN社製の「HX-WS-1」(多層カーボンナノチューブ「HX-N1」(A1)(QINGDAO HAOXIN社製)の水分散液、繊維直径:30nm~60nm、繊維長:10μm~20μm、繊維の固形分濃度:10質量%、バインダー樹脂(C1)(PVP(ポリビニルピロリドン))の固形分濃度:2質量%)
・HX-NS-1:QINGDAO HAOXIN社製の「HX-NS-1」(多層カーボンナノチューブ「HX-N1」(A1)(QINGDAO HAOXIN社製)のNMP(N-メチルピロリドン)分散液、繊維直径:30nm~60nm、繊維長:10μm~20μm、繊維の固形分濃度:10質量%、バインダー樹脂(C1)(PVP)の固形分濃度:2質量%)
・HX-WS-3:QINGDAO HAOXIN社製の「HX-WS-3」(多層カーボンナノチューブ「HX-N3」(A1)(QINGDAO HAOXIN社製)の水分散液、繊維直径:5nm~10nm、繊維長:50μm超過、繊維の固形分濃度:10質量%、バインダー樹脂(C1)(PVP)の固形分濃度:2質量%)
<炭素繊維(A1)>
・VGCF:昭和電工株式会社製の「VGCF(登録商標)-H」(気相法炭素繊維、繊維直径:150nm、繊維長:80μm、繊維の固形分濃度:100質量%)
<炭素粒子(A2)>
・Super-P:TIMCAL社製の「Super-P」(導電性カーボンブラック、固形分濃度:100質量%)
・KS-6:TIMREX社製の「KS-6」(鱗片状黒鉛、固形分濃度:100質量%)
【0141】
<オレフィン系樹脂(B)>
・W300:三井化学株式会社製の「ケミパール(登録商標) W300」(低分子量ポリエチレンの水分散体、固形分濃度:40質量%、粒径:3.0μm、軟化点(環球法):132℃)
・W900:三井化学株式会社製の「ケミパール(登録商標) W900」(低分子量ポリエチレンの水分散体、固形分濃度:40質量%、粒径:0.6μm、軟化点(環球法):132℃)
・W950:三井化学株式会社製の「ケミパール(登録商標) W950」(低分子量ポリエチレンの水分散体、固形分濃度:40質量%、粒径:0.6μm、軟化点(環球法):113℃)
・WP100:三井化学株式会社製の「ケミパール(登録商標) W100」(低分子量ポリエチレンの水分散体、固形分濃度:40質量%、粒径:1.0μm、軟化点(環球法):148℃)
・P301W:三井化学株式会社製の開発品「P301W」(低分子量ポリエチレン、固形分濃度:100質量%、粒径:3.0μm、軟化点(環球法):132℃)
【0142】
<バインダー樹脂(C2)>
・CMC:ダイセルミライズ株式会社製の「2200」(カルボキシメチルセルロールナトリウム、固形分濃度:100質量%)
・PVDF:株式会社クレハ製の「L#7208」(フッ化ビニリデン樹脂のNMP溶液、固形分濃度:8質量%)
・PVP(ポリビニルピロリドン):上記炭素繊維(A1)の「HX-WS-1」、「HX-NS-1」、「HX-WS-3」中に含まれるポリビニルピロリドン。
【0143】
<合成ゴム(D)>
・SBR:JSR株式会社製の「TRD2001」(スチレンブタジエンゴム粒子の水分散体、固形分:50質量%)
【0144】
[1]アンダーコート層付き正極集電体の作製
[1.1]アンダーコート層用スラリー調製
(実施例1)
アンダーコート層用スラリーの調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
「W900」(B) 600.0質量部に、「CMC水溶液」(C2) 1250.0質量部を加え、10分間混合して、第1混合液を得た(調製工程A)。「CMC水溶液」(C2)は、「CMC」(C2)の含有量が「CMC水溶液」(C2)の総量に対して1.2質量%となるように、蒸留水に「CMC」(C2)を添加して調製されている。
第1混合液に、「HX-WS-3」(A1,C1) 100.0質量部を加えて、15分間混練した後、更に「HX-WS-3」(A1,C1) 100.0質量部を加えて15分間混練し、更に「HX-WS-3」(A1,C1) 100.0質量部を加えて15分混練して、第2混合液を得た(調製工程B)。
第2混合液に、「SBR」(D) 30.0質量部を加えて、20分間混練し、真空脱泡を30分間行った。こうして固形分濃度14.0質量%のアンダーコート層用スラリー(組成物)を調製した(調製工程C)。
【0145】
(実施例2~実施例5、実施例7~実施例9、比較例1、比較例6)
調製工程A~調整工程Cの各々の添加材料及び添加量を表1に示すように変更したことの他は、実施例1と同様にして、アンダーコート層用スラリー(組成物)を調製した。
【0146】
【表1】
【0147】
表1中、調製工程Bにおける「総添加量」は、第1混合液に加えた「HX-WS-3」(A1,C1)又は「HX-WS-1」(A1,C1)の総添加量を示す。
【0148】
(実施例6)
アンダーコート層用スラリーの調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
「VGCF」(A1) 40.0質量部に、「CMC水溶液」(C2) 300.0質量部を加え、15分間混合した後、更に「CMC水溶液」(C2) 150.0質量部を加えて15分間混練し、更に「CMC水溶液」(C2) 150.0質量部を加えて15分混練して、第1混合液を得た(調製工程A)。「CMC水溶液」(C2)は、「CMC」(C2)の含有量が「CMC水溶液」(C2)の総量に対して1.2質量%となるように、蒸留水に「CMC」(C2)を添加して調製されている。
第1混合液に、「W900」(B) 400.0質量部と、「CMC水溶液」(C2) 533.3質量部とを加えて15分間混練した後、更に「W900」(B) 400.0質量部と、「CMC水溶液」(C2) 533.3質量部とを加えて15分間混練して、第2混合液を得た(調製工程B)。
第2混合液に、「SBR」(D) 40.0質量部を加えて、20分間混練し、真空脱泡を30分間行った。こうして固形分濃度15.7質量%のアンダーコート層用スラリー(組成物)を調製した(調製工程C)。
【0149】
(実施例10)
アンダーコート層用スラリーの調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
「Super-P」(A2) 9.0質量部に、「CMC水溶液」(C2) 250.0質量部を加え、15分間混合した後、第1混合液を得た(調製工程A)。「CMC水溶液」(C2)は、「CMC」(C2)の含有量が「CMC水溶液」(C2)の総量に対して1.2質量%となるように、蒸留水に「CMC」(C2)を添加して調製されている。
第1混合液に、「W900」(B) 210.0質量部と、「HX-WS-1」(A1,C1) 70.0質量部と、水 300.0質量部とを加えて15分間混練した後、更に「W900」(B) 210.0質量部と、「HX-WS-1」(A1,C1) 70.0質量部と、水 300.0質量部とを加えて15分間混練した後、更に「W900」(B) 210.0質量部と、「HX-WS-1」(A1,C1) 70.0質量部と、水 300.0質量部とを加えて15分間混練し、第2混合液を得た(調製工程B)。
第2混合液に、「SBR」(D) 30.0質量部を加えて、20分間混練し、真空脱泡を30分間行った。こうして固形分濃度15.0質量%のアンダーコート層用スラリー(組成物)を調製した(調製工程C)。
【0150】
(実施例11~実施例15、比較例2~比較例5)
調製工程A~調整工程Cの各々の添加材料及び添加量を表2に示すように変更したことの他は、実施例10と同様にして、アンダーコート層用スラリー(組成物)を調製した。
【0151】
【表2】
【0152】
表2中、調製工程A、及び調製工程Bにおける「総添加量」は、第1混合液又は第2混合液に加えた「CMC水溶液」(C2)、「W900」(B)、「HX-WS-1」(A1,C1)、及び水の各々の総添加量を示す。
【0153】
(実施例16)
アンダーコート層用スラリーの調製には5Lのプラネタリーディスパを用いた。
「Super-P」(A2) 15.0質量部と、「HX-NS-1」(A1,C1)300.0質量部と、「P301W」(B) 180.0質量部と、「SBR」(D)の減圧乾燥品 9.0質量部とを10分間混合して、第1混合液を得た(調製工程A)。
第1混合液に、「N-メチルピロリドン」(以下、「NMP」という。) 50質量部を加え、更に10分間混合して、第2混合液を得た(調製工程B)。
第2混合液に、「PVDF溶液」(C2) 250.0質量部を加えて、25分間混練した後、更に「PVDF溶液」(C2) 250.0質量部を加えて25分間混練し、更に「PVDF溶液」(C2) 250.0質量部を加えて25分混練して、第3混合液を得た(調製工程C)。「PVDF溶液」(C2)は、「PVDF」(C2)の含有量が「PVDF溶液」(C2)の総量に対して8質量%となるように、「NMP」に「PVDF」(C2)を添加して調製されている。
粘度調整のために、第3混合液に「NMP」 75質量部を加えて15分間混合し、更に「NMP」 75質量部を加えて15分間混合した後、真空脱泡を30分間行った(調製工程D)。こうして固形分濃度20.6質量%のアンダーコート層用スラリー(組成物)を調製した。
【0154】
[1.2]アンダーコート層の塗工・乾燥
アンダーコート層用スラリーの塗工にはダイコーターを用いた。
乾燥後の塗布厚みが3μm(塗布重量が約0.2mg/cm)になるように、アンダーコート層用スラリーをアルミニウム箔(厚み20μm、幅200mm、正極集電体)の一方の主面に塗布し乾燥した。次いで、アルミニウム箔の他方の主面(未塗工面)に、同様に乾燥後の塗布厚みが3μmになるように、アンダーコート層用スラリーを塗布し乾燥した。こうして両面にアンダーコート層を塗工したアルミニウム箔ロール(アンダーコート層付き正極集電体)を得た。
【0155】
[2]正極作製
[2.1]正極合材スラリーの調製
正極合材スラリーの調製には、5Lのプラネタリーディスパを用いた。
正極活物質としての「NCM811」(Umicore社製、組成式:LiNi0.8Co0.1Mn0.1) 1520質量部と、導電助剤としての「Super-P」(TIMCAL社製、導電性カーボン) 30質量部と、導電助剤としての「KS-6」(TIMREX社製、鱗片状黒鉛) 30質量部とを10分間混合して、正極用混合物を得た。
正極用混合物に、「NMP」 50質量部を加え、20分間混合して、第1正極用混合液を得た。
第1正極用混合液に、「PVDF溶液」 350質量部を加えて、30分間混練した後、更に「PVDF溶液」 260質量部を加えて15分間混練し、更に「PVDF溶液」 220質量部加えて15分混練して、第2正極用混合液を得た。「PVDF溶液」は、「PVDF」の含有量が「PVDF溶液」の総量に対して8質量%となるように、「NMP」に「PVDF」を添加して調製されている。
粘度調整のために、第2正極用混合液に「NMP」 80質量部を加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。
こうして固形分濃度65質量%の正極合材スラリーを調製した。
【0156】
[2.2]塗工・乾燥
正極合材スラリーの塗工にはダイコーターを用いた。
正極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が19.0mg/cmになるように、正極合材スラリーをアンダーコート層付き正極集電体(アルミニウム箔の厚み:20μm、アンダーコート層の1層の厚み:3μm、幅:200mm)の一方の主面(すなわち、アンダーコート層)上に塗布し乾燥した。次いで、正極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が19.0mg/cmになるように、正極合材スラリーをアンダーコート層付き正極集電体の他方の主面(すなわち、アンダーコート層)上に同様に塗布し乾燥した。
こうして得た両面塗工した正極ロール(塗工量は両面合計で38.0mg/cm)を、真空乾燥オーブンで130℃、12時間乾燥した。
【0157】
[2.3]プレス
正極ロールのプレスには、35トンプレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記正極をプレス密度が2.9±0.05g/cmになるように、35トンプレス機にてプレスした。
【0158】
[2.4]スリット
正極合材層の面積(表面:56mm×334mm、裏面:56mm×408mm)と、タブ溶接余白のための面積とが得られるように、正極ロールをスリットし、アルミニウム箔上にアンダーコート層が積層された正極(以下、「アンダーコート層付き正極」ともいう。)を得た。
【0159】
[3]負極作製
[3.1]負極合材スラリーの調製
負極合材スラリーの調製には、5Lのプラネタリーディスパを用いた。
負極活物質としての「天然黒鉛」 1050質量部と、導電助剤としての「Super-P」(導電性カーボン、BET比表面積62m/g) 11質量部とを10分間混合した負極用混合物を得た。
負極用混合物に、「CMC水溶液」を450質量部加え、更に20分間混合して、第1負極用混合液を得た。
第1負極用混合液に、「CMC水溶液」 150質量部を加え、更に30分間混合し、更に「CMC水溶液」 293.5質量部加えて30分間混合し、溶媒である水 450質量部を加えて15分間混合して、第2負極用混合液を得た。
第2負極用混合液に、「SBR水溶液」(JSR社製、固形分濃度:50質量%) 45質量部を加えて15分間混練し、真空脱泡10分間を行った。
こうして固形分濃度45質量%の負極合材スラリーを調製した。
【0160】
[3.2]塗工・乾燥
負極合材スラリーの塗工には、ダイコーターを用いた。
負極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が11.0mg/cmになるように、負極合材スラリーを銅箔(厚み10μm、負極集電体)の一方の主面に塗布し乾燥した。次いで、銅箔の他方の主面(未塗工面)に、同様にして、負極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が11.0mg/cmになるように、負極合材スラリーを塗布し乾燥した。こうして得た両面塗工した負極ロール(塗工量は両面合計で22.0mg/cm)を、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥した。
【0161】
[3.3]プレス
負極ロールのプレスには、小型プレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、負極ロールをプレス密度が1.45±0.05g/cmになるように、小型プレス機にてプレスした。
【0162】
[3.4]スリット
負極合材層の面積(表面:58mm×372mm、裏面:58mm×431mm)と、タブ溶接余白のための面積とが得られるように、負極ロールをスリットし、負極を得た。
【0163】
[4]捲回型電池(設計容量1Ah)の作製
[4.1]捲回
セパレータには、空隙率45体積%、厚み25μmのポリエチレン製の多孔質膜(60.5mm×450mm)を用いた。
上記で得られた、負極と、セパレータと、アンダーコート層付き正極と、セパレータとを重ねて捲回した後、プレス成型した。次いで、アンダーコート層を配置した正極の余白部分にアルミニウム製タブを超音波接合機で接合し、負極の余白部分にニッケル製タブを超音波接合機で接合した。これをラミネートフィルムで挟み込み、3辺を加熱シールした。これにより、開口部を有する外装体(以下、単に「外装体」という。)を得た。
【0164】
[4.2]非水電解液の注液
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、EC:EMC:DMC=3:3:4の体積比で混合して、混合溶媒を得た。当該混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製した。
非水電解液の注液前に、上記外装体を真空乾燥機にて、70℃×12hの条件で減圧乾燥した。電解液4.7±0.1gを外装体内に注液した後、真空引きしながら外装体の開口部を加熱シールした。これにより、リチウムイオン二次電池前駆体を得た。以下、開口部が加熱シールされた外装体を、単に「電池容器」ともいう。
【0165】
[4.3]活性化処理
リチウムイオン二次電池前駆体を室温(25℃)で24時間保持した。次いで、リチウムイオン二次電池前駆体を0.05Cで4h定電流充電(0.05C-CC)した後12h休止した。その後、0.1Cで4.2Vまで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)し、30分間休止した後、2.8Vまで0.1Cで定電流放電(0.1C-CC)した。更に、充放電サイクル(0.1C-CCCVで4.2Vの充電と、0.1C-CCで2.8Vの放電)を5回繰り返した。その後、4.2V(SOC100%)の満充電にした状態で、リチウムイオン二次電池前駆体を25℃、5日間保存した。こうして実施例1~実施例16、比較例1~比較例6、及び参考例の捲回型電池(リチウムイオン二次電池)を得た。
【0166】
[5]評価方法
実施例1~実施例16、比較例1~比較例6、及び参考例の捲回型電池について、下記の強制内部短絡試験、初期DCIR測定、及び高温保存後DCIR評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0167】
[5.1]安全性評価(釘刺し試験)
捲回型電池(設計容量1Ah)を25℃の温度環境で、0.1Cで4.2Vまで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)し、釘刺し試験(釘の直径3mm、釘刺し速度1.0mm/秒)を行った。
直径3mmの釘を、速度1.0mm/秒で、試験電池としての捲回型電池(セル)の中部に刺し込み、電池容器の内部において正極と負極とを短絡させた。このときの試験電池の短絡挙動を観察した。詳しくは、試験電池の電池容器の表面に装着した熱電対によって、電池容器の表面温度(以下、「試験電池の内部温度」ともいう。)を経時的に測定した。
同水準で複数回(3回~6回)の試験電池の釘刺し試験を行い、試験電池の総数に対して以下の基準で安全性の評価を行った。安全性の評価結果を表3に示す。安全性の許容可能な評価は、「A」、「B」及び「C」である。
【0168】
A:試験電池の内部温度が300℃を超える電池の数の割合が、試験電池の総数に対して30%未満であった。
B:試験電池の内部温度が300℃を超える電池の数の割合が、試験電池の総数に対して30%以上、50%未満であった。
C:試験電池の内部温度が300℃を超える電池の数の割合が、試験電池の総数に対して50%以上、75%未満であった。
D:試験電池の内部温度が300℃を超える電池の数の割合が、試験電池の総数に対して75%以上であった。
【0169】
[5.2]初期DCIR評価
[5.2.1]初期DCIR測定
捲回型電池(設計容量1Ah)を25℃の温度環境で、0.1Cで4.2Vまで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)し、初期DCIR測定を行った。
0.1Cで10秒間定電流放電(0.1C-CC-10s)し、0.1Cで10秒間定電流充電(0.1C-CC-10s)した。
次いで、0.2Cで10秒間定電流放電(0.2C-CC-10s)し、0.2Cで10秒間定電流充電(0.2C-CC-10s)した。
次いで、0.5Cで10秒間定電流放電(0.5C-CC-10s)し、0.5Cで10秒間定電流充電(0.5C-CC-10s)した。
次いで、1.0Cで10秒間定電流放電(1.0C-CC-10s)し、1.0で10秒間定電流充電(1.0C-CC-10s)した。
次いで、2.0Cで10秒間定電流放電(2.0C-CC-10s)し、2.0Cで10秒間定電流充電(2.0-CC-10s)した。
放電レート0.1C~2.0Cの各々における「CC10s放電」による各電圧低下量(=放電開始前の電圧-放電開始後10秒目の電圧)と、各電流値(即ち、放電レート0.1C~2.0Cに相当する各電流値)と、に基づき、第1直流抵抗(DCIR)を求めた。
【0170】
[5.2.2]評価方法
上記の測定値を基に、参考例(アンダーコート層無し)の第1直流抵抗(DCIR)の測定値を100とした第1相対値を算出し、以下の基準で、初期DCIR評価を行った。
第1相対値及び判定結果を表3に示す。初期DCIR評価の許容可能な評価は、「A」、「B」及び「C」である。
【0171】
A:第1相対値が105以下である。
B:第1相対値が105を超え、115以下である。
C:第1相対値が115を超え、130以下である。
D:第1相対値が130を超える。
【0172】
[5.3]60℃保存後DCIR評価
[5.3.1]60℃保存後DCIR測定
作製した捲回型電池(設計容量1Ah)を25℃の温度環境で、0.1Cで4.2Vまで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)し、充電状態で60℃の雰囲気下で28日間静置した。こうして高温保存後電池を得た。
高温保存後電池に上述した初期DCIR評価用処理と同様のDCIR評価用処理をし、第2直流抵抗(DCIR)を求めた。
【0173】
[5.3.2]評価方法
高温保存後電池の第2直流抵抗(DCIR)の測定値を基に、参考例(アンダーコート層無し)の第2直流抵抗(DCIR)の測定値を100とした第2相対値を算出し、以下の基準で、60℃保存後DCIR評価を行った。
第2相対値及び判定結果を表3に示す。60℃保存後DCIR評価の許容可能な評価は、「A」、「B」及び「C」である。
【0174】
A:第2相対値が120以下である。
B:第2相対値が120を超え、140以下である。
C:第2相対値が140を超え、160以下である。
D:第2相対値が160を超える。
【0175】
[5.4]総合評価
安全性の評価結果、初期DCIRの評価結果、及び60℃保存後DCIRの評価結果を基に、以下の基準で、総合評価を行った。判定結果を表3に示す。
総合評価の許容可能な評価は、「A」である。
【0176】
A:安全性の評価結果、初期DCIRの評価結果、及び60℃保存後DCIRの評価結果のいずれも「D」の判定結果がない。
B:安全性の評価結果、初期DCIRの評価結果、及び60℃保存後DCIRの評価結果のいずれかに「D」の判定結果がある。
【0177】
【表3】
【0178】
表3中、「(A1)」は、導電性炭素繊維(A1)を示し、「(A2)」は、導電性炭素粒子(A2)を示す。
表3中、実施例1の「HX-N3」は、「HX-WS-3」(A1,C1)に含まれる多層カーボンナノチューブ「HX-N3」(A1)を示す。
表3中、比較例1~比較例6、実施例2~実施例5、実施例7~実施例16の「HX-N1」は、「HX-WS-1」(A1,C1)又は「HX-NS-1」(A1,C1)に含まれる多層カーボンナノチューブ「HX-N1」(A1)を示す。
表3中、水分散性ポリオレフィン系樹脂(B)の含有量(質量%)は、(A)~(D)の合計100質量%に対する、水分散性ポリオレフィン系樹脂(B)の固形分の質量の割合を示す。
表3中、比較例1~比較例6、実施例1~実施例5、実施例7~実施例16の「(C1)」は、「HX-WS-1」(A1,C1)、「HX-WS-3」(A1,C1)、又は「HX-NS-1」(A1,C1)に含まれるバインダー樹脂(C1)(PVP)を示す。
表3中、合成ゴム(D)の含有量(質量%)は、(A)~(D)の合計100質量%に対する、合成ゴム(D)の固形分の質量の割合を示す。
【0179】
比較例1の組成物は、導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、バインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)を含有しなかった。そのため、比較例1の安全性の評価結果は「D」であった。
比較例2~比較例4の組成物は、導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、バインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)を含有する。しかしながら、導電性炭素繊維(A1)の含有量は、(A)~(D)の総量に対して、5質量超30質量%以下の範囲内ではなかった。そのため、比較例2~比較例4の初期DCIR及び60℃保存後DCIRの評価結果は、「D」であった。
比較例5の組成物は、導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、バインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)を含有する。しかしながら、(A)~(D)の総量に対して、オレフィン系樹脂(B)の含有量は、60質量%~90質量%の範囲内ではなかった。質量比(A/B)は、0.08~0.32の範囲内ではなかった。そのため、比較例5の安全性の評価結果は、「D」であった。
比較例6の組成物は、導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、バインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)を含有する。しかしながら、(A)~(D)の総量に対して、オレフィン系樹脂(B)の含有量は、60質量%~90質量%の範囲内ではなかった。バインダー樹脂(C)の含有量は、1質量%~30質量%の範囲内ではなかった。合成ゴム(D)の含有量は、1質量%~20質量%の範囲内ではなかった。質量比(A/B)は、0.08~0.32の範囲内ではなかった。そのため、比較例6の安全性の評価結果は、「D」であった。
これらの結果から、比較例1~比較例6の組成物は、安全性及び電池性能に優れるリチウムイオン二次電池とすることができないことがわかった。
【0180】
一方、実施例1~実施例16の組成物は、(A)~(D)の総量に対して、導電性炭素繊維(A1)の含有量は、5質量超30質量%以下の範囲内であった。オレフィン系樹脂(B)の含有量は、60質量%~90質量%の範囲内であった。バインダー樹脂(C)の含有量は、1質量%~30質量%の範囲内であった。合成ゴム(D)の含有量は、1質量%~20質量%の範囲内であった。質量比(A/B)は、0.08~0.32の範囲内であった。
そのため、実施例1~実施例16では、安全性の評価結果が「A」、「B」又は「C」、初期DCIRの評価結果が「A」、「B」又は「C」、60℃保存後DCIRの評価結果が「A」、「B」又は「C」であった。
これらの結果から、実施例1~実施例16の組成物は、安全性及び電池性能に優れるリチウムイオン二次電池とすることができることがわかった。
【0181】
実施例1~実施例16を対比すると、実施例1~実施例3及び実施例5の安全性の評価結果は「A」又は「B」であり、初期DCIRの評価結果は「A」であり、60℃保存後DCIRの評価結果は「B」であった。そのため、実施例1~実施例16の中でも、実施例1~実施例3及び実施例5の組成物は、安全性(すなわち、シャットダウン機能)と、電池性能とのバランスに優れるリチウムイオン二次電池とすることができることがわかった。
第1組成物は、実施例1~実施例16のうち、実施例1~実施例3及び実施例5を包含する。
第1組成物は、
導電性炭素繊維(A1)からなる導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、バインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)の総量に対して、
導電性炭素繊維(A1) 5質量超30質量%以下と、
オレフィン系樹脂(B) 60質量%~90質量%と、
バインダー樹脂(C) 1質量%~16質量%と、
合成ゴム(D) 1質量%~14質量%と、を含有し、
質量比(A/B)が0.10~0.32であり、
導電性炭素繊維(A1)の繊維直径が1nm~100nmであり、
オレフィン系樹脂(B)の軟化点が120℃~150℃である。
【0182】
実施例1~実施例3及び実施例5を対比すると、実施例2は、安全性の評価結果は「A」であり、初期DCIRの評価結果は「A」であり、60℃保存後DCIRの評価結果は「B」であった。そのため、実施例1~実施例3、及び実施例5の中でも、実施例2の組成物は、安全性(すなわち、シャットダウン機能)と、電池性能とのバランスにより優れるリチウムイオン二次電池とすることができることがわかった。
第2組成物は、実施例1~実施例16のうち、実施例2を包含する。
第2組成物は、
導電性炭素繊維(A1)からなる導電性炭素材料(A)、オレフィン系樹脂(B)、バインダー樹脂(C)、及び合成ゴム(D)の総量に対して、
導電性炭素繊維(A1) 5質量超30質量%以下と、
オレフィン系樹脂(B) 60質量%~90質量%と、
バインダー樹脂(C) 1質量%~16質量%と、
合成ゴム(D) 1質量%~14質量%と、を含有し、
質量比(A/B)が0.10~0.32であり、
導電性炭素繊維(A1)の繊維直径が20nm~100nmであり、
オレフィン系樹脂(B)の軟化点が120℃~140℃であり、
オレフィン系樹脂(B)の粒径が0.1μm~2.0μmである。
【符号の説明】
【0183】
1 リチウムイオン二次電池
10 電池素子
11 正極
11A アンダーコート層付き正極集電体
11B 正極合材層
110 正極集電体
111 アンダーコート層
12 負極
12A アンダーコート層付き負極集電体
12B 負極合材層
120 負極集電体
121 アンダーコート層
13 セパレータ
14 単電池層
21 正極リード
22 負極リード
30 外装体
図1
図2
図3