(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167509
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】繊維束の送出機構
(51)【国際特許分類】
B65H 59/14 20060101AFI20231116BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20231116BHJP
D01H 13/00 20060101ALI20231116BHJP
D01H 13/10 20060101ALI20231116BHJP
B65H 51/10 20060101ALI20231116BHJP
B65H 51/32 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B65H59/14
D02J1/22 302C
D01H13/00 Z
D01H13/10
B65H51/10 C
B65H51/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078759
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】399126134
【氏名又は名称】株式会社ハーモニ産業
(74)【代理人】
【識別番号】110002804
【氏名又は名称】弁理士法人フェニックス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新河戸 宏昭
【テーマコード(参考)】
3F111
4L036
4L056
【Fターム(参考)】
3F111AA06
3F111AA07
3F111CA10
4L036AA01
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA49
4L056BA05
4L056CA06
4L056CA51
4L056CA52
4L056CA57
(57)【要約】
【課題】多数本の長繊維を引き揃えた繊維束Fを安定かつ確実に送り出すことができる繊維束の送出機構10を提供すること。
【解決手段】所要の周速度で駆動回転し、外周面に巻き付けられた繊維束Fを摩擦抵抗により送る駆動ローラ1と、この駆動ローラ1の近傍に設けられ、繊維束Fを駆動ローラ1の外周面に所定の巻き付け角θで巻き付けるガイドローラ2とを備え、このガイドローラ2を駆動ローラ1の周速度と異なる周速度で駆動回転可能に設けた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の長繊維を引き揃えた繊維束を送り出す繊維束の送出機構であって、
所要の周速度で駆動回転し、外周面に巻き付けられた前記繊維束を摩擦抵抗により送る駆動ローラと、前記駆動ローラの近傍に設けられ、前記繊維束を前記駆動ローラの外周面に所要の巻き付け角で巻き付けるガイドローラと、を備え、
前記ガイドローラが、前記駆動ローラの周速度と異なる周速度で駆動回転可能に設けられていることを特徴とした繊維束の送出機構。
【請求項2】
前記ガイドローラが、前記駆動ローラよりも前記繊維束の送出上流側に設けられていることを特徴とした請求項1に記載の繊維束の送出機構。
【請求項3】
前記駆動ローラよりも前記繊維束の送出下流側に前記繊維束の張力に応じて上下動する昇降ローラが設けられ、
前記昇降ローラの上下動位置に基いて前記駆動ローラの周速度を調節することを特徴とした請求項2に記載の繊維束の送出機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束の送出機構、より詳しくは、炭素繊維等の長繊維を多数本、引き揃えて成る繊維束を送り出す繊維束の送出機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば繊維強化プラスチック(FRP)等の中間材料であるプリプレグシートを製造するために、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等の長繊維を多数本、引き揃えた繊維束を風洞装置の空気流により幅広に開繊し、シート状に形成する開繊装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる開繊装置においては、繊維束を供給する給糸部と、供給された繊維束を開繊処理する風洞装置との間や、この風洞装置と、開繊処理されたシート状の繊維束を巻き取る巻取部との間に、繊維束を引き取って送り出すための送出機構が配設されている。そして、例えば風洞装置で検出した繊維束の撓み量に基いて、各送出機構による繊維束の送出し量を適宜調節することにより開繊装置における繊維束の適正な張力を維持するようにしている。
【0004】
ところが、従来の繊維束の送出機構は、所要の周速度で駆動回転する駆動ローラと従動回転する従動ローラとによって繊維束を挟み、従動ローラを駆動ローラ側へ付勢しながら繊維束を送り出すようにしていたため、例えば、繊維束の性状や、ローラ同士の挟み圧、各ローラの外周面の表面状態やその経時変化によって、送出し時に繊維束とローラ外周面との間に滑りや位置ずれ等が生じ、確実に繊維束を送り出すことができない場合があった。また、ローラ同士の挟み圧が大き過ぎる結果、繊維束に糸切れ等のダメージを与えてしまい、その糸切れした単糸が駆動ローラに巻き付いてしまうといった難点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の繊維束の送出機構に上記のような難点があったことに鑑みて為されたもので、繊維束にダメージをほとんど与えることなく、安定かつ確実に繊維束を送り出すことができる繊維束の送出機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多数本の長繊維を引き揃えた繊維束を送り出す繊維束の送出機構であって、 所要の周速度で駆動回転し、外周面に巻き付けられた前記繊維束を摩擦抵抗により送る駆動ローラと、前記駆動ローラの近傍に設けられ、前記繊維束を前記駆動ローラの外周面に所要の巻き付け角で巻き付けるガイドローラと、を備え、
前記ガイドローラが、前記駆動ローラの周速度と異なる周速度で駆動回転可能に設けられていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明は、前記ガイドローラが、前記駆動ローラよりも前記繊維束の送出上流側に設けられていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明は、前記駆動ローラよりも前記繊維束の送出下流側に前記繊維束の張力に応じて上下動する昇降ローラが設けられ、前記昇降ローラの上下動位置に基いて前記駆動ローラの周速度を調節することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る繊維束の送出機構によれば、駆動ローラの周速度と異なる周速度で駆動回転するガイドローラによって繊維束を駆動ローラの外周面に所要の巻き付け角で巻き付けることができるので、駆動ローラの外周面と繊維束との間で十分な接触面積を確保することができ、繊維束にダメージをほとんど与えることなく安定かつ確実に繊維束を送り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の繊維束の送出機構が配設された繊維束の開繊装置の概略正面図である。
【
図2】本実施形態の繊維束の送出機構の正面図である。
【
図3】本実施形態の繊維束の送出機構の要部右側面図である。
【
図4】本実施形態の繊維束の送出機構の要部左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、本実施形態の繊維束の送出機構10は、例えば繊維束の開繊装置Mに適用することができる。開繊装置Mは、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等の長繊維を多数本、引き揃えて成る繊維束F内に風洞装置の空気流を通過させて幅広に開繊し、シート状に形成するものである。ここでは、給糸部Aから供給された繊維束Fを計2台の風洞装置B1・B2により段階的に開繊し、開繊処理されたシート状の繊維束を巻取部Cで巻き取るようにしており、本実施形態の繊維束の送出機構10は、開繊装置Mの給糸部Aと第一段目の風洞装置B1との間、及び第一段目の風洞装置B1と第二段目の風洞装置B2との間にそれぞれ配設されている。そして、開繊装置Mの第二段目の風洞装置B2と巻取部Cとの間には、後述する本発明に係る実施変形例の繊維束の送出機構20が配設されている。
【0013】
なお、本実施形態では、繊維束Fとして直径7μmの炭素繊維が12000本、エポキシ樹脂系サイジング剤で互いに微着させて引き揃えられた繊維束(国産炭素繊維12K)を使用している。
【0014】
図2~
図4に示すように、本実施形態の繊維束の送出機構10は、所要の周速度で駆動回転する駆動ローラ1と、この駆動ローラ1の近傍に設けられ、繊維束Fを駆動ローラ1の外周面に所要の巻き付け角θで巻き付けるためのガイドローラ2及び昇降ローラ3とから構成されている。
【0015】
駆動ローラ1は、
図3に示すように、フレーム11に固定されたモータ12による回転駆動力が傘歯車13・14及び駆動軸15を介して伝達され、所要の周速度で一方向に連続回転し、その外周面に巻き付けられた繊維束Fを、摩擦抵抗を利用して送り出す。このモータ12の回転速度を適宜調節することで、駆動ローラ1の周速度を調節し、繊維束Fの送出し量を調節することができる。
【0016】
ガイドローラ2は、駆動ローラ1の駆動軸15の回転駆動力が平歯車21・22及び駆動軸23を介して伝達され、駆動ローラ1の周速度とは異なる周速度で、繊維束Fの走行方向に対し正回転方向に連続回転する。本実施形態のガイドローラ2は、駆動ローラ1よりも繊維束Fの送出上流側に設けられている。
【0017】
昇降ローラ3は、
図2に示すように、駆動ローラ1よりも繊維束Fの送出下流側に設けられており、繊維束Fの走行に応じて従動回転しながら、繊維束Fの張力に応じて上下動する。即ち、
図4に示すように、フレーム11には、縦部材31を介してレール32が固定されており、このレール32に沿って上下スライド移動するスライダ33が設けられている。スライダ33には支持部材34が固定されており、この支持部材34に昇降ローラ3が従動回転自在に軸設されている。また、フレーム11には、縦部材31を介して変位センサ35が設けられており、支持部材34に固定された移動素子36の上下位置を検出する。この変位センサ35により検出した昇降ローラ3の上下動位置に基いてモータ12の回転速度を制御することによって、駆動ローラ1の周速度を適宜調節する。なお、
図2及び
図4中、符号37で指示するものは、フレーム11に開設された、昇降ローラ3の上下移動を許容するための長孔である。
【0018】
このように本実施形態の繊維束の送出機構10によれば、ガイドローラ2及び昇降ローラ3によって繊維束Fを駆動ローラ1の外周面に所要の巻き付け角で巻き付けることができるので、駆動ローラ1の外周面と繊維束Fとの間で十分な接触面積を確保することができ、駆動ローラ1の外周面の摩擦抵抗により繊維束Fを安定かつ確実に送り出すことができる。また、本実施形態の繊維束の送出機構10は、従来の送出機構のように一対のローラで繊維束を挟んで送り出していないので、繊維束に対するダメージを大幅に抑制することができる。
【0019】
しかも、本実施形態の繊維束の送出機構10によれば、ガイドローラ2が駆動ローラ1の周速度と異なる周速度で駆動回転するため、繊維束Fの走行速度と異なる周速度で回転するガイドローラ2によって、繊維束Fの走行方向(水平面に対する走行角度)を変えることができ、このことによっても、繊維束Fを安定かつ確実に送り出すことができる。つまり、従来、繊維業界においては、連続走行する糸条の走行方向を変える際には、自由に従動回転するフリーローラや、回転不能に固定されたガイドバーを用いることが一般的である。しかしながら、本実施形態の繊維束の送出機構10において、ガイドローラ2の代わりに、従来のフリーローラを使用した場合、繊維束Fを構成する単糸に糸切れがあった際、その糸切れした単糸がフリーローラの外周面上に何周にも亘って連続的に巻き付いてしまう不具合が生じ、そして、その糸切れした単糸がフリーローラ上で積み重なる結果、糸切れしていない正常な単糸の幅方向への位置ずれを招き、次工程の開繊処理にも支障を来すことになる。本実施形態の繊維束の送出機構10によれば、ガイドローラ2が繊維束Fの走行速度と異なる周速度で回転するので、糸切れした単糸がガイドローラ2の外周面上に巻き付くことを未然に防ぐことができ、繊維束Fを安定かつ確実に送り出すことができるのである。
【0020】
他方、本実施形態の繊維束の送出機構10において、ガイドローラ2の代わりに、回転不能に固定されたガイドバーを使用した場合、連続走行する繊維束Fによってガイドバーの外周面が偏摩耗してしまい、ガイドバーの外周面に生じた溝により繊維束の単糸の幅方向への位置ずれ等を招き、同様に次工程の開繊処理に支障を来すことになる。本実施形態の繊維束の送出機構10によれば、ガイドローラ2が繊維束Fの走行速度と異なる周速度で回転するので、繊維束Fの接触位置が変わり、ガイドローラ2の偏摩耗を有効に防ぐことができ、繊維束Fを安定かつ確実に送り出すことができる。
【0021】
また、駆動ローラ1による繊維束Fの引込み作用によって、駆動ローラ1よりも送出上流側の繊維束Fには、送出下流側よりも大きな張力が掛かることになるが、本実施形態の繊維束の送出機構10によれば、ガイドローラ2を駆動ローラ1よりも繊維束Fの送出上流側に設けているので、上述したような繊維束Fの単糸の幅方向への位置ずれ等をより有効に防ぐことができ、繊維束Fを安定かつ確実に送り出すことができる。
【0022】
さらに、本実施形態の繊維束の送出機構10によれば、駆動ローラ1よりも繊維束Fの送出下流側に、繊維束Fの張力に応じて上下動する昇降ローラ3を設け、この昇降ローラ3の上下動位置に基いて駆動ローラ1の周速度を調節することができるので、繊維束Fの送出機構と繊維束Fの張力調節機構とを構成の複雑化を伴うことなく一体に構成することができ、開繊装置M全体の大幅なコンパクト化を図ることができる。
【0023】
また、本実施形態では、駆動ローラ1から昇降ローラ3に至るまでの繊維束Fの走行方向(鉛直方向下向き)と、昇降ローラ3の上下動方向(鉛直方向)とを平行にしているので、昇降ローラ3の上下動位置に拘わらず、駆動ローラ1の外周面に対する繊維束Fの巻き付け角θを一定にすることができ、繊維束Fをより安定かつ確実に送り出すことができる。
【0024】
以上、本実施形態の繊維束の送出機構10について説明したが、本発明は他の実施形態でも実施することができる。
【0025】
例えば、上記実施形態では、ガイドローラ2を駆動ローラ1よりも繊維束Fの送出上流側にのみ設けているが、本発明は勿論これに限定されるものではなく、
図1に示す繊維束の送出機構20のように、ガイドローラ2を、駆動ローラ1を挟むように繊維束Fの送出上流側と送出下流側とにそれぞれ、設けてもよい。また、ガイドローラ2を繊維束Fの送出下流側にのみ設けてもよい。
【0026】
また、上記実施形態では、ガイドローラ2を駆動ローラ1の周速度と異なる周速度で、繊維束Fの走行方向に対し正回転方向に連続回転させているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ガイドローラ2を繊維束Fの走行方向に対し逆回転方向に連続回転させてもよい。また、ガイドローラ2の周速度を駆動ローラ1の周速度より大きくしてもよく、小さくしてもよい。また、ガイドローラ2を繊維束Fの走行方向に対し正回転方向へのみ、或いは、逆回転方向へのみ間欠的に回転させてもよく、間欠的に正逆回転させてもよい。
【0027】
また、上記実施形態では、駆動ローラ1を駆動回転させるモータ12の回転駆動力を、平歯車21・22等を介してガイドローラ2へ伝達することによって、ガイドローラ2を駆動回転させているが、本発明は勿論これに限定されるものではなく、例えば、滑車、ベルト等の他の動力伝達手段を採用してもよい。また、ガイドローラ2を、モータ12とは別の駆動源(例えばモータ、流体圧シリンダ等)により駆動させるようにしてもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、駆動ローラ1から昇降ローラ3に至るまでの繊維束Fの走行方向と、昇降ローラ3の上下動方向とを平行にしているが、本発明は勿論これに限定されるものではなく、両者の方向が平行でなくてもよい。両者の方向が平行でない場合、昇降ローラ3の上下動によって繊維束Fの巻き付け角θが変化することになるが、その最小巻き付け角によって、必要な繊維束Fと駆動ローラ1の外周面との摩擦抵抗が確保できていればよい。
【0029】
本発明は、その他、その趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づいて種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものである。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内でいずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施してもよく、また、一体に構成されている発明特定事項を複数の部材から構成したり、複数の部材から構成されている発明特定事項を一体に構成した形態で実施してもよい。
【符号の説明】
【0030】
10、20 繊維束の送出機構
1 駆動ローラ
2 ガイドローラ
3 昇降ローラ
F 繊維束
θ 繊維束の巻き付け角