(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167516
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】鋼板の中継溶接方法、中継溶接の判定システム、および中継溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/03 20060101AFI20231116BHJP
B23D 15/06 20060101ALI20231116BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20231116BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20231116BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20231116BHJP
【FI】
B23K26/03
B23D15/06 Z
B23Q17/09 A
B23Q17/24 A
B23K26/21 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078773
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 邦暢
(72)【発明者】
【氏名】西村 信也
(72)【発明者】
【氏名】大平 貴徳
【テーマコード(参考)】
3C029
3C039
4E168
【Fターム(参考)】
3C029CC10
3C039AA31
4E168BA13
4E168BA83
4E168CA06
4E168CB23
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】鋼板をシャー切断などによる切断した後、溶接を行う際の溶接安定性を向上する溶接方法を提供する。
【解決手段】鋼板を中継溶接する前に行われ、中継溶接するときの突合せ面となる位置を切断予定位置として、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部とをそれぞれの前記切断予定位置で切断装置により切断する切断工程と、前記切断工程で切断された前記先行鋼板および前記後行鋼板の板厚方向と板幅方向との切断面を観察する観察工程と、前記切断面の破断面率を測定する測定工程と、前記破断面率により再切断の要否を判定する判定工程と、前記判定工程により再切断は不要と判定されたとき、前記尾端部と前記先端部とを突合せ溶接する溶接工程とを有する鋼板の中継溶接方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を中継溶接するにあたって、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部との突合せ面となる位置である切断予定位置を切断装置により切断する切断工程と、
前記切断工程で切断された前記先行鋼板および前記後行鋼板のそれぞれの板厚方向と板幅方向との切断面を観察する観察工程と、
前記切断面の破断面率を測定する測定工程と、
前記破断面率により再切断の要否を判定する判定工程と、
前記判定工程により再切断は不要と判定されたとき、前記尾端部と前記先端部とを突合せ溶接する溶接工程とを有する鋼板の中継溶接方法。
【請求項2】
前記判定工程が、前記破断面率が判定閾値を超えた場合、前記判定工程にて再切断が必要と判定し、前記切断工程を再度行い、
前記破断面率が判定閾値以下の場合、再切断は不要と判定し、前記溶接工程の溶接を行う請求項1に記載の中継溶接方法。
【請求項3】
前記観察工程における前記切断面の観察範囲が、前記鋼板の板幅の10%以上である請求項1に記載の中継溶接方法。
【請求項4】
前記観察工程の前記切断面を観察する手段がカメラであり、前記カメラが首振り式のものまたは複数台である請求項1に記載の中継溶接方法。
【請求項5】
前記破断面率の交換用の管理値を設け、前記管理値を超えるとき、前記切断工程で使用するシャーを交換する請求項1に記載の中継溶接方法。
【請求項6】
鋼板を中継溶接するにあたって、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部との突合せ面となる位置である切断予定位置を切断装置により切断された前記先行鋼板および前記後行鋼板の板厚方向と板幅方向との切断面を観察する観察部と、
前記切断面の破断面率を測定する測定部と、
前記破断面率により再切断の要否を判定する判定部と、を有する中継溶接の判定システム。
【請求項7】
請求項6に記載の中継溶接の判定システムを有する、鋼板の中継溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の中継溶接方法に関する。また、鋼板の中継溶接の判定システムや中継溶接装置に関する。これらは、シャー切断後にレーザー溶接を行う鋼板の製造等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
鋼板製造プロセスラインにおいて、コイル状に巻き取られた鋼板を連続して通板させる際、先行コイル後端部および後行コイル先端部を切断後、突き合わせ溶接を行った後に通板させる。
【0003】
この突き合わせ溶接時の手法の1つとしてレーザー溶接が使用される。レーザー溶接はエネルギー集中度を高める必要があることからビーム焦点を出来る限り狭くする必要がある。それに伴い、レーザー照射部における先行コイルと後行コイルのギャップも高精度で制御する必要があり、切断面ならびに溶接面の精度向上が重要である。一般的には溶接安定性を確保するためには先行コイル後端部および後行コイル先端部のギャップ(間隔)1mm以下という精度が要求される。
【0004】
しかしながら鋼板をシャー切断時、切断面には剪断面以外に大きな凹凸を伴う破断面が発生することがある。そのためシャー切断時に破断面が発生していると、レーザー溶接に支障をきたすレベルのギャップが発生し、溶接安定性低下につながることがある。
【0005】
通板において板破断を防止するために溶接安定性を確保することは重要であり、溶接部の健全性を監視するために、様々な溶接監視システムが適用されているが、その多くは溶接後の溶接部位の状態から診断を実施するものである。そのためこれらの監視システムでは溶接後に切断面の目視確認および溶接安定性を判定することができない。その結果、切断不良に起因する溶接破断による生産性の阻害や、破断面発生未然防止のためのシャー交換頻度増による製造コストの悪化を招いている。
【0006】
これらに対応するために、特許文献1は、板幅方向のギャップ変動検出器を移動する溶接機に装備し、連続的に測定した結果を溶接条件に反映する手法が提案されている。これは、溶接すべき鋼板間のギャップ検出器を移動する溶接機に装備し、連続的に測定した結果を溶接条件に反映させる手法である。
【0007】
また、特許文献2は、板幅方向に加え、板厚方向のギャップ変動を検出するために、切断面の検出器を移動する溶接機に装備し、連続的に測定した結果を溶接条件に反映する手法が提案されている。これは、板厚方向に破断面発生およびそれに伴うギャップが不均一な場合に生じる溶接不良に対応すべく、CCDカメラ等を移動する溶接機に装備し、連続的に測定した結果を溶接条件に反映させる手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3-133587号公報
【特許文献2】特開平8-290281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2の工程フローチャートを下記に示す。特許文献1、2は溶接機に搭載されたギャップ検出器および破断面検出器を有する技術であり、その技術思想は溶接機を走行させると同時にギャップおよび破断面に応じて溶接条件を調整することである。そのため溶接条件の調整だけで対応できないような凹凸を有する切断面に対しては当該技術で対応することは出来ず、溶接不良を発生させてしまう懸念があり、その場合、大きな手戻りを発生させ、生産効率の多大な損失に繋がる。
【0010】
また近年、成型技術が向上し様々な材料を鋼板で製造するようになったことに伴い、鋼板硬さや板厚の多様化が進んでいる。鋼板の硬さや板厚によっては溶接安定性に対し有害なマルテンサイトが生成しやすいケースもあり、その場合、溶接条件の調整で溶接不良を回避することは困難である。
【0011】
また当該技術はあくまで溶接条件を調整するための技術であり、鋼板形状等に起因する一過性の切断不良なのか、シャーの劣化による慢性的な不良なのかを見極めるものでは無く、本来シャー交換をすべき状態でも溶接条件調整により対応することで溶接破断頻発を招く懸念がある。
【0012】
係る状況下、本発明は、鋼板をシャー切断などにより切断した後、溶接を行う際の溶接安定性を向上することを目的とする。これは、特に硬度の高い鋼板や板厚が厚い鋼板に対しても有効である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0014】
<1> 鋼板を中継溶接するにあたって、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部との突合せ面となる位置である切断予定位置を切断装置により切断する切断工程と、
前記切断工程で切断された前記先行鋼板および前記後行鋼板のそれぞれの板厚方向と板幅方向との切断面を観察する観察工程と、
前記切断面の破断面率を測定する測定工程と、
前記破断面率により再切断の要否を判定する判定工程と、
前記判定工程により再切断は不要と判定されたとき、前記尾端部と前記先端部とを突合せ溶接する溶接工程とを有する鋼板の中継溶接方法。
<2> 前記判定工程が、前記破断面率が判定閾値を超えた場合、前記判定工程にて再切断が必要と判定し、前記切断工程を再度行い、
前記破断面率が判定閾値以下の場合、再切断は不要と判定し、前記溶接工程の溶接を行う前記<1>に記載の中継溶接方法。
<3> 前記観察工程における前記切断面の観察範囲が、前記鋼板の板幅の10%以上である前記<1>または<2>に記載の中継溶接方法。
<4> 前記観察工程の前記切断面を観察する手段がカメラであり、前記カメラが首振り式のものまたは複数台である前記<1>~<3>のいずれかに記載の中継溶接方法。
<5> 前記破断面率の交換用の管理値を設け、前記管理値を超えるとき、前記切断工程で使用するシャーを交換する前記<1>~<4>のいずれかに記載の中継溶接方法。
<6> 鋼板を中継溶接するにあたって、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部との突合せ面となる位置である切断予定位置を切断装置により切断された前記先行鋼板および前記後行鋼板の板厚方向と板幅方向との切断面を観察する観察部と、
前記切断面の破断面率を測定する測定部と、
前記破断面率により再切断の要否を判定する判定部と、を有する中継溶接の判定システム。
<7> 前記<6>に記載の中継溶接の判定システムを有する、鋼板の中継溶接装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鋼板を切断した後、溶接を行う際の溶接安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の中継溶接方法の第一の実施形態に係るフロー図である。
【
図4】シャーで切断するときの切断面の状態を説明するための概要図である。
【
図5】シャーによる切断回数と切断面の不良率が所定値以上となる発生回数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0018】
[本発明の中継溶接方法]
本発明の中継溶接方法は、鋼板を中継溶接するにあたって、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部との突合せ面となる位置である切断予定位置を切断装置により切断する切断工程と、前記切断工程で切断された前記先行鋼板および前記後行鋼板のそれぞれの板厚方向と板幅方向との切断面を観察する観察工程と、前記切断面の破断面率を測定する測定工程と、前記破断面率により再切断の要否を判定する判定工程と、前記判定工程により再切断は不要と判定されたとき、前記尾端部と前記先端部とを突合せ溶接する溶接工程とを有する。
【0019】
本発明によれば、鋼板を切断した後、溶接を行う際の溶接安定性を向上させることができる。例えば従来技術である引用文献1は、溶接機走行開始後に切断面観察を行い、溶接条件調整を行うことによって溶接不良を回避する。一方、本発明の中継溶接方法は、シャー切断後であり、溶接開始前に、切断面の観察を行い、再切断の要否の判定を行う構成を有する。また、溶接条件調整を行うものとしてもよい。
【0020】
このような構成により、溶接条件調整によって対応できない切断面不良および高炭素鋼等の難溶接鋼に対して溶接開始前に溶接可否の判定を行い、溶接後に行う溶接良否判断における不良率を大幅に低減させ、生産効率の低下を抑制することができる。
【0021】
[本発明の中継溶接の判定システム]
本発明の中継溶接の判定システムは、鋼板を中継溶接するにあたって、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部との突合せ面となる位置である切断予定位置を切断装置により切断された前記先行鋼板および前記後行鋼板の板厚方向と板幅方向との切断面を観察する観察部と、前記切断面の破断面率を測定する測定部と、前記破断面率により再切断の要否を判定する判定部と、を有する。
【0022】
なお、本願において本発明の中継溶接の判定システムを用いて本発明の中継溶接方法を行うこともでき、本発明の中継溶接方法は中継された鋼板が製造するものである。本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0023】
図1は、本発明の中継溶接方法の第一の実施形態に係るフロー図である。本発明の中継溶接の方法は、まず、鋼板を切断するステップS11を行う。次に、切断された鋼板の切断面を観察するステップS21を行う。次に、切断面の破断面率を測定するステップS31を行う。次に、破断面率に基づいて再切断が必要か判断するステップS32を行う。再切断が必要と判断された場合、再切断を行うために切断を行う切断ラインに搬送するステップS33を行う。ステップS32で、再切断が必要ないと判断された場合、鋼板を突き合わせて溶接するステップS41を行う。これにより、中継溶接された鋼板が得られる。
【0024】
図2は、本発明の中継溶接方法に係る概要図である。
図2(a)は、先行鋼板11と、後行鋼板12を、切断部20で切断する概要図である。
図2(b)は、先行鋼板11の切断予定位置周辺を拡大した図であり、先行鋼板11側の切断用のシャー21で切断し、切断後に、切断面110が観察等の対象となる。
図2(c)は、鋼板の観察等を行う状態を示す図である。先行鋼板11の切断面110を観察部31で観察し、後行鋼板12の切断面120を観察部32で観察する。観察部31、32で観察した結果は、制御部4で測定や判定などが行われる。再切断が不要と判断され、溶接が行われる鋼板は、
図2(d)に示すように溶接部5で溶接される。この溶接部5は、レーザー溶接(レーザービームウェルディング:LBW)である。
【0025】
[切断工程]
本発明の中継溶接方法は、鋼板を中継溶接する前に行われ、中継溶接するときの突合せ面となる位置を切断予定位置として、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部とをそれぞれの切断予定位置で切断装置により切断する切断工程を有する。この切断は、鋼板の種類などに応じて、適した切断手段で行ってよい。鋼板の典型的な切断手法としては、鋼板切断用のシャーによる切断が行われる。
【0026】
[観察工程]
本発明の中継溶接方法は、切断工程で切断された鋼板の板厚方向と板幅方向との切断面を観察する観察工程を有する。観察は、先行鋼板と、後行鋼板のそれぞれの切断面を観察する。
【0027】
図3は、切断された鋼板の切断面の観察像である。
図4は、シャーで切断するときの切断面の状態を説明するための概要図である。
【0028】
切断面の観察工程にて切断面を観察する手段はカメラとすることができる。このカメラは、首振り式の固定カメラを用いることができる。または、カメラを複数台とするものとしてもよい。または板幅方向にガイドレールなどを用いて移動する移動機構を有する移動式カメラを用いてもよい。これにより切断面測定および画像処理を効率よく行うことにより、生産性を向上させることができる。
【0029】
判定工程は、切断面の観察工程における切断された鋼板の板厚方向かつ板幅方向の切断面の観察範囲を、例えば、鋼板の板幅の10%以上であるものとすることができる。
【0030】
図4は、切断面の模式図である。本発明者らが切断面を詳しく分析した結果、不良部は、最初にシャーを入れる場所である切断開始部において剪断面(良好面)の比率が高く、切断進行に従い、剪断面の比率が減少してゆく。その減少傾向は概ね1次関数的であり、断面の一部を観察することで、断面全体の不良比率の推定が可能である。観察部位が狭すぎる場合、局所的な切断不良により、全体の不良比率推定を誤る可能性がある。このため、観察範囲の下限は10%以上とすることが好ましい。鋼板の材料や板厚によっては局所的な不良が発生しやすい場合もあることから、好ましくは20%以上であり、30%以上としてもよい。上限は特に定めなくてもよく100%観察するものとしてもよいが、80%以下や、60%以下としてもよく、適宜、30%以下などとしてもよい。
【0031】
本発明によれば、撮影範囲を減縮することもでき、撮影時間の短縮化による生産性向上、撮影者や撮影機材を低減させることもでき、コストダウンなどにも貢献することができる。
【0032】
観察位置については、管理に必要な再現性が確認できればよく特に限定しないでもよい。観察位置の破断面率が切断面全体の破断面と近似すること、異なる板幅の鋼板においても測定機器の位置調整が不要なことから、鋼板中央部を測定することが好ましい。
【0033】
[測定工程]
本発明の中継溶接方法は、切断面の破断面率を測定する測定工程を有する。破断面率は、観察工程で用いる観察部で観察した像の画像処理などによって測定することができる。この破断面率に基づいて、次の判定工程等を行う。
【0034】
[判定工程]
本発明の中継溶接方法は、破断面率により再切断の要否を判定する判定工程を有する。
【0035】
判定工程は、破断面率が判定閾値を超えた場合、判定工程にて再切断が必要と判定し、切断工程を再度行い、破断面率が判定閾値以下の場合、再切断は不要と判定し、溶接工程の溶接を行うものとすることができる。
【0036】
破断面率は、切断面毎のものをX(%)とすることができる。この破断面率は、撮影画像の画像処理により算出することができる。例えば、以下のような手順で得ることができる。
(1)輪郭検知:輪郭パターンマッチングにて板幅方向の線分(切断面の表裏の線)を検出し切断面として輪郭を検出する。
(2)グレースケール処理:撮像したカラー画像からモノクロ画像(256階調)を生成する。
(3)2値化処理:閾値を以てモノクロ画像(256階調)を白黒画像(2値化)にする。黒はせん断面、白は破断面とする。
(4)比率算出(破断面率):二値化処理して算出した破断面の面積(画素数)/輪郭検知して算出した切断面の輪郭面積(画素数)から、破断面率(X%)を算出する。
【0037】
本発明は、破断面率に基づいて、前記判定工程にて再切断が必要か否かを判定する。なお、破断面率の閾値を「Y1%」として説明する場合がある。鋼板を切断時、シャーが新しい段階では切断面は大半が剪断面となり、大きな凹凸の無い切断面を有する。しかし、シャーを繰り返し使用していると、切れ味の低下とともに切断面において破断面発生および凹凸が増加するようになる。
【0038】
その結果、レーザー溶接に支障をきたすレベルの凹凸が発生し、溶接安定性低下につながることがある。本発明者らは、切断面に占める破断面率が高い程、破断面の有する凹凸が大きくなること、また材質、板厚によってレーザー溶接に許容される凹凸量が異なることを見出し、不良部比率として破断面率を用いて、閾値Y1に基づいて判断することが有効であることを知見した。
【0039】
凹凸量そのものを直接測定する場合、1/100mm単位のような精度を要し、外的要因による測定誤差が生じやすい。一方で、剪断面と破断面とを観察像による光学的手段で分析する手法は、凹凸を直接測定するよりも外的要因の影響を受けづらく、短時間で高い測定精度を得ることができる。この閾値Y1は、溶接不良が発生する破断面率を、例えば鋼板の材質や、板厚に対して、切断や、溶接試験、強度計算、シミュレーションを行うことによって設定できる。破断面と剪断面では、その輝度が異なることから当該部分を撮像し画像処理を行うことによって判別可能である(
図3参照)。
【0040】
閾値Y1は材質や、板厚などに応じて設定することができるが、板厚1~10mm程度の普通鋼板において30%程度とすることができる。閾値Y1のより好ましい値は20%であり、さらに好ましくは10%である。
【0041】
本発明は、切断面を溶接機走行前に観察し、破断面率を測定して、再切断要否を判定する。鋼板の中継溶接では、フィラーワイヤー供給速度や、レーザー出力変更の溶接条件の調整などの溶接条件調整によって対応できない場合がある。本発明によれば、切断面不良や高炭素鋼等の難溶接鋼に対して、溶接開始前に溶接可否の判断、すなわち再切断要否判断を行い、再切断や再溶接が必要な溶接不良を溶接前に抑制し、生産効率低下を抑えることができる。
【0042】
このように本発明は、切断工程で切断された鋼板の板厚方向かつ板幅方向の切断面を溶接機走行前に観察する切断面の観察工程と、切断面の破断面率を測定する破断面率の測定工程を有する。切断面観察はカメラを使用し、先行鋼板の尾端部および後行鋼板の先端部を撮影する。このカメラは撮影視野、解析能力に応じ、複数台を使用したり、可動式のものを用いてもよい。撮影した画像の輝度に基づいて剪断面、破断面を測定し、破断面率を算出する。
【0043】
[シャーの交換工程]
本発明は、破断面率の交換用の管理値を設け、この管理値を超えるとき、切断工程で使用するシャーを交換するものとすることができる。交換用の管理値としては、具体的には、破断面率が閾値Y2(%)を超える発生頻度がZ(%)以上となった場合、切断工程で使用するシャーを交換する交換工程を有するものとすることができる。Y2は、シャーの不良の予兆の管理を目的として設定することができる。Y2は、Y1よりも小さい値を設定することができる。また、Zは、シャー交換の指標として優位性がある数値に設定する。シャーの刃替え直後の実績比率はほぼ0%であり、切断不良起因の溶接破断発生時には、例えば硬質で厚手のものは50%レベルであることを考慮し設定する。
【0044】
図5は、シャーによる切断回数と、切断面の不良率が所定値以上となる発生回数のグラフである。本発明者は、切断面不良に関する検討の中で不良率とシャー切断回数には
図5で示すような法則性、すなわちシャー切断回数が一定回数までは不良率はほぼすべての切断例において小さく、一定回数を超過すると不良率が高くなる例が急増することを知見した。またそれに伴い閾値Y1の超過数も増加することも見出した。
【0045】
シャーの交換工程を設けることで、閾値Y1の超過例が多発する前の適切な時期にシャーを交換することが可能となり、再切断回数の低減し生産性を向上させることができる。この交換工程の、閾値Y2およびZはシャーの劣化速度および閾値Y1超の発生頻度を踏まえ適宜設定する。このように、破断面率の閾値Y2(%)と、その発生頻度Z(%)とにより、シャーの交換を管理すると、再切断の頻度を抑えながら、シャーの交換頻度も過剰管理する必要が無く、総合的な製造効率が向上する。
【0046】
[溶接工程]
判定工程により再切断は不要と判定されたとき、尾端部と先端部とを突合せ溶接する溶接工程とを有する。
【0047】
また、特に硬度が高い鋼板や板厚が厚い鋼板において、溶接破断を防止でき、従来手法と比較して再切断・再溶接による生産性低下が大幅に緩和されると同時に、溶接安定性を大きく向上させることができる。
【0048】
また、切断面の観察部位を最小化することにより生産性を向上させ、切断面の傾向管理により、突発でのシャー刃交換等の不必要なシャー交換を抑制できるため製造コスト増加の回避が可能であり、シャー刃の劣化による溶接破断を防止することもできる。
【0049】
本発明は切断装置、レーザー溶接およびその監視部を含む一般的な薄板冷延めっきラインに適用する事ができる。
【0050】
本発明は、そのラインにおいて中継溶接時に突合せ面となる位置を切断予定位置として、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部とをそれぞれの前記切断予定位置で切断装置により切断する工程を有する。切断装置としてはシャーを用いる事が一般的であり、通板量に応じて定期的に交換する。
【0051】
本発明は、破断面率により再切断の要否を判定する判定工程を行い、再切断不要と判断した鋼板に対し、先行鋼板の尾端部と後行鋼板の先端部とを溶接する溶接を行う。溶接にはレーザー溶接や電子ビーム溶接等を用いることができる。
【実施例0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
本発明に係る構成で、3ヶ月通板および溶接を行い、溶接実施後の不良発生比率を調査した。期間は、シャーの交換周期によって設定し、最低2回は交換が必要な期間として設定した。本発明によれば、不良発生比率は0近くになっている。その上で全幅観察しない発明例でも十分に不良率は低い。
【0054】
・全体ライン
・
図1に示すフローで判断するものとした。
・試験期間の通板材の構成(厚さ、鋼種等)と通板量は、表1に示すものとした。なお、鋼種はJIS規格に対応する以下のものである。
「SPHC」JIS G3131:2018「熱間圧延軟鋼板及び鋼帯」
「S30C~S50C」JIS G4051:2016「機械構造用炭素鋼鋼材」
【0055】
【0056】
[溶接不良の発生率の検証]
・シャー切断の概要図(
図2参照)
・シャーの交換周期…1ヶ月(2回交換)
・切断面の概略図(
図3、4参照)
・観察装置の図(
図2参照)
・観察用カメラの仕様、画像処理方法
カメラは5544(H)×3692(V)程度の画素数のものを用いた。
カメラで撮影した画像の輝度から剪断面、破断面を測定し、破断面率を算出した。
・閾値Y1:30%
・溶接後の良否判断方法:溶接後の圧延工程で破断した板の破断面を観察し、溶接不良原因で破断したかを判定し、その発生率を評価した。(
図3参照)
【0057】
【0058】
切断面観察範囲を10%以上で、溶接不良原因として、板破断が発生した比率が大きく減少した。特に100%としたとき、より板破断発生率が低下するが、10%であっても大きな効果が確認された。
【0059】
切断面観察範囲が狭い場合、観察範囲外の切断不良部に起因する板破断は発生するおそれがある。しかしながら切断不良の主な要因であるシャーの劣化は特定部位のみで進展するケースは稀である。このため、観察範囲が10%でも板破断発生は抑制できる。一方、0%(無し)の場合は、本発明を実施していないため、切断面に破断面が発生しているものが流れてしまい、溶接不良起因の板破断が多発する。特に、シャーの劣化が進展したシャー交換直前の時期に多発する。
【0060】
[シャーの交換]
シャーの交換に関する以下の検討を行った。
・管理閾値Y2:せん断面比率80%(破断面比率20%)とした。すなわち、破断面比率が20%を超えるものは、管理閾値Y2を超えるものが発生していると管理するように設定した。
・発生頻度Z:算出タイミング(1回/日)、発生頻度Zの管理をするための外れ率は下表の設定値とした。Z値を超過した場合、シャーを交換した。
・シャー交換時期については下表3に従う。
【0061】
【0062】
表3に示すように、シャー交換は、試験例(B3)のようにZの設定値が低い程、シャーの交換回数が多くなる。試験例(B1)のようにZ値が高い場合は、シャー交換回数は少なくなり、シャーあたりの再切断対象数も多くなる。
シャーあたりの再切断の対象数が多いと板破断が発生しやすくなり、不良率の観点から生産効率が悪化する。一方で、シャー交換頻度が高すぎると、生産設備のメンテナンス管理の観点から生産効率は悪化する。このバランスは工場の操業状況や生産対象によっても異なるが、そのバランスに応じて交換の管理閾値Y2、発生頻度Zを指標として、この指標を適正に設定する事で、板破断発生を抑制した上で、定量的なシャー交換時期を設定することができる。