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特開2023-167519免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液及び培養液生成器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167519
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液及び培養液生成器
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/742 20150101AFI20231116BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231116BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20231116BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231116BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
A61K35/742
A61P37/02
C12N1/20 E
C12M1/00 C
C12N15/31 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078776
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】513036734
【氏名又は名称】株式会社ネイチャーサポート
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】久保 賢介
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB02
4B029CC01
4B029DB19
4B065AA15X
4B065AC20
4B065BC04
4B065BC08
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC64
4C087CA10
4C087NA14
4C087ZB07
(57)【要約】
【課題】人間の健康的な免疫形成を促し、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患を治癒させる免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液と、その培養液を簡易に生成することができる培養液生成器を提供する。
【解決手段】150リットルの水に対し300g以上のバシラス発酵粉末を懸濁し、30~45℃の温度に保つとともに、酸素飽和度70%以上の酸素供給を行って発酵させることにより得られることを特徴とする免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液を生成する培養液生成器1。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
150リットルの水に対し300g以上のバシラス発酵粉末を懸濁し、
30~45℃の温度に保つとともに、酸素飽和度70%以上の酸素供給を行って発酵させることにより得られることを特徴とする免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液。
【請求項2】
請求項1に記載の免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液において、
リアルタイムPCRにおいて1×10コピー/ml以上のバクテリア濃度を持ち、
16S rDNAのV3―V4 region 430bpの塩基長のNSG解析で180種以上のバクテリアを含有し、
エクトバチルス・フューニキュラスを優勢菌として含有することを特徴とする免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液を生成するための培養液生成器であって、
前記培養液を加温するためのヒータ部と、
前記培養液を攪拌するための攪拌部と、
前記培養液の温度を前記ヒータ部により加温して任意の温度に保持させる制御部と、
を備えることを特徴とする免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液生成器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の健康的な免疫形成を促し、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患を治癒させる免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液及び培養液生成器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚炎の治療のために、真菰の発酵粉末(例えば、特許文献1参照)を風呂のお湯に懸濁させ長期にわたり浴水を替えずに入浴する民間療法が一部の愛好家で行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8ー131158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような民間療法においては、効果はまちまちで科学的な機序の解明もなされることもなく、効果も不安定で副作用も未知数であるという課題があった。さらに、従来の療法では、培養液の温度や酸素供給の適切な管理が行われておらず、不要な雑菌や嫌気性菌が繁殖して悪臭が発生したり、有効なバクテリアが減少し効果が低減したり、有害な病原性菌が繁殖したりするなど、治療に適切な培養液が生成、維持できないという課題があった。
【0005】
本発明は、こうした課題に鑑みなされたもので、人間の健康的な免疫形成を促し、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患を治癒させる免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液と、その培養液を簡易に生成することができる培養液生成器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。なお、本欄における括弧内の参照符号や補足説明等は、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態との対応を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0007】
[適用例1]
適用例1に記載の発明は、
150リットルの水に対し300g以上のバシラス発酵粉末を懸濁し、
30~45℃の温度に保つとともに、酸素飽和度70%以上の酸素供給を行って発酵させることにより得られることを要旨とする免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液である。
【0008】
150リットルの水に対し300g以上のバシラス発酵粉末を懸濁し、30~45℃の温度に保つことで新たな発酵が生じ、人体の免疫を刺激し、免疫を改善させる多様な細菌を有する培養液となる。同時に、酸素飽和度70%以上の酸素供給を行い、好気性を保つことにより、有効細菌が効率よく培養され、有害菌の発生を抑制することができる。
【0009】
このような培養液を用いた入浴療法(以下、バイオ入浴ケア(Biological Spa Care:BSCと記載する)により、培養液中の多様な細菌により人体の免疫が改善され、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患を抑制することができる。また、基本的な免疫が形成される乳幼児期にBSCを施すことにより、乳幼児の皮膚免疫の発達を促し、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患の発症を予防することができる。
【0010】
さらに、このような培養液を飲用することにより、小児から成人において腸管免疫を活性化させることが期待できるとともに、その免疫改善効果により、癌の治療においても効果を発揮することが期待できる。特に、既存の手術、放射線治療、抗癌剤治療、免疫療法との併用において相乗効果が期待できる。
【0011】
[適用例2]
適用例2に記載の免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液は、
適用例1に記載の免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液において、
リアルタイムPCRにおいて1×10コピー/ml以上のバクテリア濃度を持ち、
16S rDNAのV3―V4 region 430bpの塩基長のNSG解析で180種以上のバクテリアを含有し、
エクトバチルス・フューニキュラスを優勢菌として含有することを要旨とする。
【0012】
このような培養液では、水にバシラス発酵粉末を懸濁し、適切な温度、酸素供給を行い培養させることで、生きた免疫活性の高いバクテリアを多く繁殖させることができ、特に、粉末状態では検出されないエクトバチルス属芽胞菌であるエクトバチルス・フューニキュラスが最優先菌として繁殖している。
【0013】
エクトバチルス・フューニキュラスのようなバシラス綱バクテリアは地表面で植物を分解し表土を作る機能があり、太古から人の皮膚に接触し皮膚免疫の進化に深く関わってきた。芽胞を形成するものも多くグラム陽性の桿菌として皮膚の免疫刺激に深く関わっており、培養液中においてエクトバチルス・フューニキュラスが最優先菌であるのは、この菌が皮膚免疫を効果的に刺激し人体の免疫改善効果が向上し、アトピー性皮膚炎等のアトピー疾患の治療効果を高めている可能性が高い。
【0014】
[適用例3]
適用例3に記載の免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液生成器は、
適用例1又は適用例2に記載の免疫改善、正常免疫形成を促すための培養液を生成するための培養液生成器であって、
前記培養液を加温するためのヒータ部(30)と、
前記培養液を攪拌するための攪拌部(20)と、
前記培養液の温度を前記ヒータ部(30)により加温して任意の温度に保持させる制御部(40)と、
を備えることを要旨とする。
【0015】
バシラス発酵粉末を用いた培養液による免疫改善、正常免疫形成効果は、BSCのような入浴のみならず、皮膚に塗布するローションとして用いても、類似の免疫改善効果が得られることが確認されている。
【0016】
このような培養液生成器(1)は、コンパクトで使いやすく、皮膚の免疫改善、正常免疫形成のための適切な培養条件を簡易に設定することができ、特にローションとして皮膚に塗布するための培養液を、家庭で容易に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る培養液における細菌数を示す図である。
図2】本発明に係る培養液における微生物細菌叢の分類結果を示す図である。
図3】BSCによる治療効果を示す図である。
図4】BSCによる免疫の変化を示す図である。
図5】BSCによる血清サイトカインの変化の計測値を示す図である。
図6】BSCによる血清サイトカインの変化の計測値をグラフ化した図である。
図7】BSCによる治療前後の抹消血中mRNAの計測値を示す図である。
図8】BSCによる治療前後の抹消血中mRNAの計測値をグラフ化した図である。
図9】症例1における治療結果を示す図である。
図10】症例2における治療結果を示す図である。
図11】症例3における治療結果を示す図である。
図12】症例4における治療結果を示す図である。
図13】培養液生成器の概略の外観図である。
図14】制御部の概略の構成を示す構成図である。
図15】培養液生成器における培養液中の真菌に対する加温効果を示す図である。
図16】培養液生成器における攪拌効果を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明が適用された実施形態について説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り様々な形態をとりうる。
【0019】
本発明に係る培養液は、水にバシラス発酵粉末として、真菰発酵粉末を懸濁し、温度管理、酸素供給及び攪拌を行うことで新たな発酵を生じさせる。条件が満たされると嫌気性の腐敗が生じることなく本来のバシラス科細菌の好気的繁殖が生じバシラス発酵粉末内の有機物の代謝分解が行われる。
【0020】
(バシラス発酵粉末の制作)
真菰、葦、茅、稲藁などイネ科の植物や糠、穀類等の植物由来の材料等を用いてバシラス科細菌を多量に含む発酵粉末を作る事が可能である。特に自然状態の水辺の植物(抽水植物)は、バチルス・サブティリス等の有効バシラス科細菌の芽胞が付着しており材料として適している。
【0021】
ここで、バシラス科細菌について説明する。バチラス科細菌は土壌中に広く生息し枯れた植物を分解する従属栄養細菌であり病原性は低い納豆菌もその1つである。バシラス科細菌は、生育環境が悪化すると耐久性のある芽胞を形成し休眠状態となるものも多い。バシラス科細菌は、バチルス・サブティリス(Bacillus subtillis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)のような常に酸素を必要とする偏性好気性細菌とバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)のように、酸素が利用できない環境では嫌気性代謝を行う通性好気性細菌が存在する。
【0022】
酸素、温度管理等の発酵コントロールを行うことで、有効バシラス芽胞を多量(1×10CFU/g以上)に含んだバシラス発酵粉末を作ることができる。粉末の粒子サイズは浮遊粒子を増し底への沈殿を少なくするために直径100μm以下が望ましい。バシラス発酵粉末は発酵が二次発酵以上に進みタンパク等の皮膚に抗原となりうる物質や有害物質、有害微生物を低減させておく必要がある。
【0023】
(培養液の製作)
培養液は、水150Lに300g以上の真菰発酵粉末などのバシラス発酵粉末を懸濁し、30~45℃の温度管理、酸素飽和度70%以上の酸素供給と攪拌を行い、数日間新たな発酵を生じさせる。条件が満たされると嫌気性の腐敗が生じることなく本来のバシラスの好気的繁殖が生じバシラス発酵粉末内の有機物の代謝分解が行われる。条件が整うと培養液は、リアルタイムPCRにおいて1×10コピー/ml以上のバクテリア濃度を有することになる。
【0024】
酸素が少ない静水の底付近では、通性好気性細菌や嫌気性菌による嫌気性代謝が行われ人体に有害で悪臭原因ともなる硫化水素(H2S、メタン(CH4)、メルカプタン低級脂肪酸のプロピオン酸やノルマル酪酸などが形成される。これらの悪臭物質は不快感のみならず人体に有害性があり皮膚炎を悪化させる原因となる。
【0025】
また、細菌は至適発育温度によって、10~20℃:低温性菌、30~40℃:中温性菌、50~60℃:高温性菌の3つのグループに分類される。ここで、病原性菌のほとんどが中温性菌に含まれる。一方、土壌菌であるバシラス科細菌は高温でも増殖が可能で芽胞形成能を持つものが多く、一旦芽胞を形成すると100℃でも不活化できない。
【0026】
そこで、培養液中に活性が高いバシラス菌数を維持し、バシラス発酵粉末や人体から排泄される脂肪やタンパク質の代謝から産生される有害物質を減らすには、好気的な水質条件を維持するための酸素供給、沈殿しやすい懸濁粒子を常に攪拌し、浴槽低層の嫌気条件を改善し有害物質の揮発を促すための攪拌と24時間培養温度を安全に維持できる温度管理が必要となる。図2(A)に浴水中のバシラス網細菌の一週毎の経時的減数を示す。
【0027】
なお、BSCにおいては、この培養液は皮膚炎の入浴者1名に対して専用に使用する。また、この培養液は3週間後頃から皮膚炎の治療効果の低下が生じるため3週から4週の間隔で作り替える。原因は主に菌叢の変化、バシラス綱細菌の経時的減数により臨床効果が低下する事が考えられる。
【0028】
(培養液に含まれる細菌数の確認)
Themal Cycler Dice Real Time System I I I およびTB Green Fast qPCR Mix(Takara Bio社)を使用して、以下の各プライマーセットについて標的領域を含むプラスミドDNAをTakara Bio社に依頼し作成した。
【0029】
次に、この作成されたプラスミドDNAを用いて標準曲線を作成しコピー数を定量した。プライマーは全細菌
Eub338F:ACTCCTACGGGAGGCAGCAG
Eub518R:ATTACCGCGGCTGCTGG、
真菌類
ITS1F:CTTGGTATTTAGAGGAGTAA
ITS4R:TCCTCCGCTTATTGATATGC、
芽胞菌
spoOa655F:GGHGTDCCNGCNCATATHAA
spoOa923R:GCDATGAAYTCDGAGTTNGTNGG
を使用した。
【0030】
ネイチャーサポート(株)製のバシラス発酵粉末100g、200g、300g、400g、500g、600gをそれぞれ150Lの浴水に懸濁し40℃で好気的に培養したと同じ条件をビーカー内で作り5日培養した培養液からDNAを抽出し、リアルタイムPCRにて全細菌数をn=3で測定した。外れ値を除き平均値を出し対数グラフ化した。
【0031】
図1にバシラス発酵粉末量に対する細菌数の計測結果を示す。図1(A)は細菌数の計測結果を、図1(B)は、計測結果を対数グラフ化したものを示す。培養液にはリアルタイムPCRにて1×10~1×1011コピー/mlのバクテリア(全菌数)が認められた。菌数は150Lの浴水に対しバシラス発酵粉末300~400g投与量でほぼ上限値に達する。
【0032】
コストや沈殿物の増加、沈殿物内での嫌気代謝、バイオフィルム増加を考えると入浴剤は300~400gが適切であり、培養液には1×10コピー/ml以上のバクテリアが存在することになる。
【0033】
(本発明に係る培養液中に存在する微生物細菌叢の分類結果)
次に、3つの浴槽において療養効果の高い培養開始1週後、2週後、3週後、4週後の浴水、計12検体の浴水中の微生物細菌叢のメタ16SrRNA遺伝子解析を行った。
【0034】
検査はイルミナ社のNSGであるMiseq Reagent Kit v3(600サイクル)を使用し、プライマー、341f:CCTACGGGAGGCAGCAG R806:GGACTACHVGGGTWTCTAATにて、バクテリアの16SrDNAのV3-V4 region 430bpの塩基長で実施した。クラス(綱)別の分析はデータベースRDPを利用して80%の相同率で行った。種別はテクノスルガラボ社のデータベースDB-BA ver 13.0を利用して97%の相同率で行った。
【0035】
菌種分類では1検体平均約35000リード中40%程度が分類可能で、186~271種、平均233種が分類された。菌綱レベルでは、上位9種で89%を占める結果となった。図2(A)に菌綱レベルでの分類結果を示す。
【0036】
人体・土壌・活性汚泥などのMicrobiomeと比較して特徴的な点はグラム陽性芽胞菌であるバシラス綱バクテリアが多い点であり、培養液中において優勢菌として存在し最大で38%を占めている。
【0037】
バクテリア叢は、浴水の入浴剤粉末を投入後浴水内で培養されることで大きく変化する。属分類では4割、種分類では7~8割が置き換わる。その後も人体からの老廃物も加わり菌叢は変化してゆく。
【0038】
培養液中の芽胞菌の占有率は25~40%程度である。臨床的に皮膚の免疫刺激に深く関わっていると思われるのはバシラス網のグラム陽性芽胞菌だが経過と共に低下する。浴水の治療効果も低下してゆくため3週~4週で浴水を作り替える必要がある。
【0039】
Spesies分類が可能であった上位10種を図2(B)に示す。上位5種で38.4%、10種で48.9%を占める。培養液中ではエクトバチルス・フューニキュラス(Ectobacillus funiculus)が最優勢菌として存在し18.5%を占めた。
【0040】
NGSによる発酵粉末のマイクロバイオーム検査ではエクトバチルス・フューニキュラスは全く認められないが抽水植物にわずかに付着していたものが水中という環境下で繁殖し最優勢菌になるものと思われる。
【0041】
16S rDNAのV3-V4 region 430bpの塩基長でのエクトバチルス・フューニキュラスの塩基配列は、
「TAGGGAATCTTCGGCAATGGGCGAAAGCCTGACCGAGCAACGCCGCGTGAGCGATGAAGGCCTTCGGGTCGTAAAGCTCTGTTGTTAAGGAAGAACAAGTACGAGAGTAACTGCTCGTACCTTGACGGTACTTAACGAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCGAGCGTTATCCGGAATTATTGGGCGTAAAGCGCGCGCAGGCGGCTTCTTAAGTCTGATGTGAAAGCCCACGGCTCAACCGTGGAGGGTCATTGGAAACTGGGAAGCTTGAGTGCAGAAGAGGAAAGCGGAATTCCACGGGTAGCGGTGAAATGCGTAGAGATGTGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGGCTTTCTGGTCTGTAACTGACGCTGAGGCGCGAAAGCGTGGGGAGCAAACAGGAT」であった。
【0042】
結果として、皮膚免疫を刺激し免疫を正常化させるためには培養液中にはエクトバチルス・フューニキュラス(Ectobacillus funiculus)を最優勢菌としてバチルス・ジェオトガル(Bacillus jeotgali)、バチルス・ミラビリス(Caulobacter mirabilis)、ブレビバチルス・エイディノグルエンシス(Brevibacillus aydinogluensis)、メイオサーマス・テラエ(Meiothermus terrae)が優勢菌として含まれることが必要であると考えられる。
【0043】
グラム陽性菌は主にTh1免疫を誘導しグラム陰性菌はTreg免疫寛容を誘導する可能性がある。マウスでの腸管では、多くの細菌群の中でファーミキューテス門クロストリジウム科グラム陽性、嫌気性、芽胞菌であるセグメント細菌(segment filamentous bacteria)がIgA、Th1、TH17の強い免疫誘導を行う事が広く知られている。
【0044】
多くの症例経験から浴水中のファーミキューテス門のバシラス網細菌の経時的減数により臨床効果が低下する事が認められている。よってバシラス綱の最優勢菌であるエクトバチルス・フューニキュラス(Ectobacillus funiculus)が免疫作用に最も関与しているものと考えられる。
【0045】
(培養液を用いた入浴療法による免疫改善、正常免疫形成効果確認のための研究結果)
BSCによる免疫改善、正常免疫形成効果を確認するために、成人重症アトピー性皮膚炎患者に対する免疫改善効果及び新生児・乳幼児期における基本免疫形成ワクチンとしての効果について研究を実施した。
【0046】
(成人重症アトピー性皮膚炎患者に対する免疫改善効果の確認)
患者を以下の3つのグループに分けて実施した。
【0047】
(1)グループ1
55名の成人重症アトピー性皮膚炎患者に対し、平均76日の入院でのBSC後における治療効果を測定。その内29名においてフローサイトメーターによるTh1/Th2の変化を測定。
(2)グループ2
グループ1とは異なる20名の入院患者でのBSC前後の血中サイトカインの変化を測定。
(3)グループ3
グループ1、グループ2とは異なる20名の入院患者でのBSC前後の白血球のmRNAの発現変化を測定。
【0048】
(グループ1における治療結果)
日本皮膚科学会の診断基準でアトピー性皮膚炎と診断され重症度は体表面の10%以上に強い炎症を伴う皮疹があり、POEM(0―28)の重症度分類においても17以上である、18歳以上の重症患者55人(平均年齢34.7歳、男性24名、女性31名)の患者を対象としている。
【0049】
培養浴水は150Lに対しバシラス発酵粉末として400g程の真菰の発酵粉末を懸濁し、24時間常時作動し温度管理と酸素の供給を行う専用の培養液循環装置を使用し35~42℃の温度で酸素飽和度70%以上の酸素供給と攪拌を行い、浴槽内で3~7日間新たな発酵を生じさせた。
【0050】
全ての患者は専用の浴室を使用し4~20週間(平均75.7日)にわたり、1日2~4時間の入浴を行った。浴水は交換することなく連日使用し3~4週毎あるいは痒みが悪化あるいは改善スピードが低下した場合に交換した。バシラス発酵粉末と専用循環装置はネイチャーサポート社が販売しているものを使用した。
【0051】
入浴剤粉末懸濁から4日程で菌叢の大きな変化が終了する。入浴開始後は人の皮膚の落屑や分泌物を分解する菌叢が発達してくる。また、バクテリアを捕食する原生生物も増加するが2週間程で減少過程になる。菌叢は常に変化し、皮膚免疫は反復的な刺激を受ける事になる。
【0052】
治療効果の判定は患者の自覚症状、血液マーカーを指標とした。自覚症状としては、患者自身が記入する自覚症状のアンケートPOEM:Patient-Oriented Eczema Measument(POEM0-28)を使用した。
【0053】
POEMはEASIと共に国際的に認められたアトピー性皮膚炎重症度のスケールであり、重症度分類では0-2(clear/almost clear);3-7(mild);8-16(moderate);17-24(severe);25-28(very severe)である。観察者の主観の影響の強いEASIに比較し、患者の自覚症状
を重視したPOEMはより客観性が高い。
【0054】
血液マーカーとしては血清TARC、総IgE、%好酸球の3つを採用し客観性を持たせた。正常値はそれぞれ、TARC(450pg/ml以下)、総IgE(170IU/ml以下)、%好酸球(7%以下)である。検査は、臨床検査としてBML.Co.JPにて行った。特にTARC(Thymus and activation―regulated chemokine)は、アトピー性皮膚炎の重症度と相関している事が国際的に認められており、2000以上は中程度、5000以上は、およそ重症を示す。
【0055】
入院時のベースラインと退院時に得られた数値の比較を標準分布データは、t検定、離散データではノンパラメトリック検定であるウィルコクソン符号付順位和検定を使用して行った。マン・ホイットニ検定は母集団からの選択のテストに使用した。データは平均±標準誤差(SE)で示した。
【0056】
p≦0.05は統計的に有意とみなし、*p≦0.05、**p≦0.01と表記した。
図3に示すように平均POEMスコアは入院時の24.7±0.4から退院時には9.5±0.8(n=55 P<0.001)へ61.8%減少させた。重症度は最重症から中等度に軽減したことになる。
【0057】
図3に入退院時における各指標の計測結果を示す。平均TARCレベルは全員が低下し入院時の11562.5±1701.8pg/mlから退院時には、1197.3±194.3pg/ml(n=55 P<0.001)と89.6%の顕著な減少を示した。TARCは入院後1ヶ月には72.7%改善しており早期からの改善が認められた。
【0058】
%好酸球は18.9±1.2%から10.4±1.0%(n=55 P<0.001)に減少し、総IgEも9046.9±1288.1IU/mlから6863.7±899.0IU/mlに減少した(n=55P<0.001)。
【0059】
全ての患者が、退院時には強い炎症を伴う皮疹は改善され、軽度の炎症や乾燥肌を残すのみ、あるいは正常肌になった。
【0060】
次に、本願発明者は、BSCの明確な効果についてその機序を考察するうえで免疫の変化を調べた。過去多くの研究が示すようにアトピー性皮膚炎患者は健康人に比較して明確に末梢血Tリンパ球サブタイプCD4+/IFNγ+は低く、CD4+/IL-4+が高いことが判明している。それはアトピー性皮膚炎におけるTh1/Th2のアンバランスとしてよく知られている。
【0061】
ここで、Th1、Th2について説明する。免疫には自然免疫(細胞性免疫)と獲得免疫(液性免疫)の2つの免疫の系統がある。獲得免疫のT細胞リンパ球は大きくTh1とTh2の2つの系統に分かれる。Th1は自然免疫(細胞性免疫)と連動して機能し、Th2は獲得免疫(液性免疫)と連動して機能する。よってTh1とTh2の活動性の比率Th1/Th2比が免疫体質を把握する判りやすい指標となる。アレルギーではTh2の活動性が高くTh1/Th2比は低値となる。アトピー性皮膚炎の重症度を示すバイオマーカーであるTARCもTh2免疫に関わるサイトカインの1つである。
【0062】
哺乳類には妊娠中に遺伝子の異なる母子がお互いを免疫的異物として傷害させないように細胞障害性免疫であるTh1免疫を抑制し妊娠を維持させる免疫寛容という仕組みがある。よって出生時、新生児はTh1免疫が抑制されTh2免疫が過剰な状態にある。いわゆるアレルギー体質で生まれてくることになる。
【0063】
本願発明者は便宜的に選択した55名中29名の患者に対して、フローサイトメトリー分析を使用して抹消血中のCD4(IFNγ+/IL4-)(便宜的にTh1と呼ぶ)とCD4(IFNγ-/IL4+)(便宜的にTh2と呼ぶ)を測定した。計測した患者は便宜的に選択したが、POEMスコア,TARC、%好酸球の値はマン・ホィツトニ検定においては母集団と差は認めなかった。
【0064】
図4に基づいて、BSCによる免疫の変化について説明する。
このときのアトピー性皮膚炎患者群では入院時Th1 16.2±1.2%、Th2 3.9±0.4%であり、Th1は健常者平均21.3%と比較して低く、Th2は健常者平均2.7%と比較して高い、Th2優位のアトピー特有の免疫状態を示していた。(健常者数値は、「田中らの53名の健常者の研究:フローサイトメーターを用いた健常成人末梢血におけるヘルパーT細胞サブセット(Th1、Th2)の動態の解析 1998.12臨床病理」による。)
【0065】
しかし、BSC前後でThの不均衡は大きく変化し、
Th1(IFNγ+/IL4-) 入院時 16.2±1.2%、退院時 17.9±1.3%(10.5%の改善)、P<0.05、
Th2(IFNγ-/IL4+) 入院時 3.9 ±0.4%、退院時 2.3±0.2%(40.9%の改善)、P<0.01となり、明確な改善を認めた。
【0066】
(グループ2における治療結果)
次に、アトピー性皮膚炎患者20名(年齢平均38.4歳、男性7名、平均入院日数80日)の入院前後および対照健常者17名(年齢平均35.9歳、男性7名)の血清サイトカイン値をマルチプレックスサスペンションアレイにて計測した。
【0067】
BIO-RAD社Bio-Plex Pro Human Cytokine 17-Plex Panel(F-M50-00031YV)を使用し17のサイトカインIL-1β,IL-2,IL-4,IL-5,IL-6,IL-7,IL-8,IL-10,IL-12(p70),IL-13,IL-17,G-CSF,GM-CSF,IFN-gamma,MCP-1(MCAF),MIP-1β,TNF-α、そして、ELISAにてTGF-β1(R&D) Assay range1.7-15.4pg/mL.TSLPを(Thermo Fisher) Assay range 3.28-800pg/mLにて測定した。検体はn2でスタンダードはn3で測定した。
【0068】
測定値はスタンダードカーブ範囲外の値でもスタンダードカーブの回帰式から算出された数値を含めている。検出限界未満のものは検出最低値の半分の値とした。統計は入院時と退院時の比較はウィルコクソン符号付順位和検定、入院時と健常対照者の比較はマン・ホイットニ検定を用いた。p≦0.05は統計的に有意とみなした。また、TARC、%好酸球については臨床検査としてBML.Co.JPにて行った数値である。
【0069】
図5図6に基づき、BSC前後の血清サイトカインの変化について説明する。図5は、各サイトカインの計測値、図6は、検査19項目中、計測可能であった15項目の計測値をグラフ化したものを示す。検査19項目中、計測可能であった15項目の内10項目IL-13.IL-2.IL-7.IL-17.IL-10.IL-6.IL-8.IFN-γ.TNF-α.MCP-1はBSC前後で統計上有意な低下を示した。POEMは23.7±1.3から9.3±1.1で61%、TARCは20159±5529から2058±413で89.8%、%好酸球は23.5±2.2から8.7±1.0で63.3%の改善だった。
【0070】
重症アトピー性皮膚炎における各種のサイトカイン群Th1(IL2、IFN-γ)Th2(IL5、IL10、IL13)、Th17(IL17)、その他炎症誘発性サイトカイン( the pro-inflammatory cytokines)(IL6、IL7、IL8、TNF-α、MCP-1)など炎症にかかわるTSLP以外の全てのサイトカインの末梢血における過剰分泌が治療により抑制されていた。
【0071】
Th1/Th2比としてIFN-γ/IL13を指標とすると、BSCにより24.6倍(P=0.0001)、IL2/IL13では22.2倍(P=0.0002)に上昇した。
【0072】
このことから培養液中に含まれる多種多量の免疫刺激物質が皮膚免疫に作用しアレルギーという免疫異常を是正しているものと考えられる。
【0073】
アトピー性皮膚炎の最近の知見では、急性期のTh2サイトカイン主体の炎症に慢性期のTh17やTh1サイトカインが加わった複雑なサイトカインストーム状態であると考えられているが、BSCによる免疫刺激はTh1/Th2バランスを改善させながら複雑なアレルギー炎症をコントロールしていた。特に典型的なTh2系サイトカインIL13の低下率は98.7%と非常に高く特徴的であった。
【0074】
IL4、IL13レセプターの阻害モノクロール抗体製剤であるデュピルマブの登場により、Th2サイトカインのアトピー性皮膚炎での影響力の大きさが再認識されIL13中和抗体であるTralokinumab(トラロキヌマブ)も効果を示している。IL13は特に皮膚組織での炎症やバリア機能の障害に深く関与していることが示されていることからも、IL13の著明な低下はサイトカインレベルでもBSCの効果を実証している。
【0075】
以上より、BSCによるバクテリア群の皮膚への免疫刺激が何らかの機序でIL13を中心とする様々な炎症性サイトカインの分泌を制御し、Th2.Th17サイトカインを中心とする急性期のアトピー性皮膚炎そしてTh1サイトカインも加わった慢性期のアトピー性皮膚炎を抑制させていると考えられる。
【0076】
(グループ3における治療結果)
BSCを行った患者の内検体採取ができた20名(男性12名、平均年齢32歳、平均入院日数81日)の末梢血白血球中mRNAの発現をTaqMan Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を用いてn3にて検査し、健常者20名(男性11名、平均年齢29.6歳)の検体と比較した。
【0077】
検体はPAXgene Blood RNA Tubes(BD社)にて全血を採取し-20℃にて凍結保存し、PAXgene Blood RNA Kit(Qiagen社)に示された手技で全血細胞からRNAを分離精製し逆転写試薬(Thermo Fisher)を用いてcDNAを合成した。
【0078】
検査項目はIFNG.IL2.TBX21.IL4.IL13.IL10.GATA3.RORC.FOXP3.IL13RA1.IL13RA2である。
【0079】
TARC、IgE、%好酸球は臨床検査としてBML.Co.JPにて行い、数値を掲載した。検出率はほぼ100%であったが、検出限界未満のものは検出最低値の半分の値とした。統計は入院時と退院時の比較はウィルコクソン符号付順位和検定、入院時と健常対照者の比較はマン・ホイットニ検定を用いた。
【0080】
図7図8に基づき、治療前後の抹消血中mRNAの発現について説明する。図7は、各mRNAの計測値、図8は、計測値をグラフ化したものを示す。治療前の患者は健常者と比較しTh1系サイトカインであるIFNG.IL2のmRNAの発現は低く、Th1転写因子であるTBX21は有意(P=0.000)に低下していた。
【0081】
逆にTh2系サイトカインであるIL4,IL10,IL13のmRNA発現は高値であった。特にIL13は150%(P=0.009)有意に上昇していた。いわゆるTh2優位の典型的なアレルギーパターンを示していた。
【0082】
BSCにより、健常者より低かったTh1サイトカインのmRNAは有意に上昇した。IFNG 16.3%(P=0.008)、IL2 70.0%(P=0.003)。それとは対照的に健常者に比較し高値であったTh2サイトカインのIL4、IL10、IL13は全てが有意ではないが低下した。
【0083】
BSCによるTh1/Th2の上昇が有意に確認され、IFNG/IL4の治療後上昇は1.08倍(P=0.044)、IFNG/IL13は1.72倍(P=0.004)、IL2/1L13は2.65倍(P=0.001)であった。Th1、Th2、Th17、Tregの転写因子であるTBX21は62.4%(P=0.000)、GATA3は57.2%(P=0.001)、RORCは91.5%(P=0.000)、FOXP3は36.6%(0.015)と、全てが明確な有意差を持って上昇した。
【0084】
このTh17転写因子RORCの上昇率91.5%(P=0.000)、Th2転写因子TBX21の上昇率は70%(P=0.000)と共に高く、浴水中のバクテリア群に反応したものと考えられ、血清サイトカインの分泌低下とは逆に転写因子はいずれもが上昇しアトピー性皮膚炎の抑制に関与している可能性がある。
【0085】
グループ2において血清IL13の値が98.7%低下したにも関わらず末梢血のIL13mRNAの低下は25.2%(P=0.211)にとどまり乖離があった。またTh17転写因子RORCのmRNA発現は91.5%上昇したにも関わらず血清IL17値は逆に64.2%低下しており乖離していた。これは、mRNAと実際のサイトカイン等の蛋白の生成は緩やかな相関はあるが一致する訳ではないことによるものと考えられる。
【0086】
以上より、BSCによる皮膚の免疫刺激は全身を流れる末梢血リンパ球の遺伝子発現に明確な影響を与えていると考えられる。
【0087】
(成人重症アトピー性皮膚炎患者に対する免疫改善効果の確認試験のまとめ)
BSCによるTARCの低下率はグループ1 89.6%、グループ2 89.8%、グループ3 86.6%でいずれも明確な改善を示した。この低下率はアトピー性皮膚炎の治療薬として世界的に有効性が認められているデュピルマブ(300mgを2週毎に12週間、皮下注射を行い、TARC低下率は約82.9%)と同等の効果を示している。BSCでは、血清IL13を98.7%低下させたが、デュピルマブがIL13、IL4に対するブロック抗体である事を考えると同等の効果であることがこの事実からも示唆される。
【0088】
アトピー性皮膚炎はTh1/Th2のアンバランスを基軸とするものの自然免疫及び獲得免疫 Th1、Th2、Th17、Treg、ILC2等が複雑に絡まった病態であると考えられている。
【0089】
BSCはバクテリア群による皮膚の免疫刺激を通して全身の免疫のTh1/Th2バランスを是正しながらほとんど全ての炎症性サイトカインを低下させる抑制機能を果たしていると考えられる。
【0090】
(乳幼児期における基礎免疫形成ワクチンとしての効果の確認)
次に、本発明に係る培養液の免疫形成ワクチンとしての効果を確認した治療結果について説明する。乳幼児期における基本的な免疫形成は、新生児期からおよそ2歳までの乳幼児期の限られた短い期間に終了し、乳幼児期に形成された免疫が生涯続く基本免疫になるとされている。
【0091】
そこで、本発明に係る培養液を用いることで、乳幼児の本来の健康的な免疫形成を促すことが期待できる。以下の症例では、皮膚の基本的免疫形成が行われているであろうと考えられる1歳以前の乳幼児にBSCによる免疫刺激を与えた。
【0092】
(症例1)
生後10ヶ月男児。生後4ヶ月から全身性の中等度アトピー性皮膚炎。食物アレルギーもあり特に卵白に強く反応した。
【0093】
図9に基づき、治療結果を説明する。
男児は、40日の入院期間中、1日30分BSCを行った。退院後は自宅でBSCを15分程継続した。BSC開始後2か月でTARCは半分以下に低下、その後もTARC、%好酸球、IgEは順調に低下し、1年後には皮膚の湿疹は消失し全くの普通肌になった。
【0094】
それと並行して小麦、グルテン、卵白などの食物アレルギーも改善し、食物アレルギー抗体値も大幅に低下、特に卵アレルギーが強く、加熱した卵白(オボムコイド)でも湿疹が生じていたが、オボムコイド抗体も急速に低下し1年後には生卵摂取も可能となった。
【0095】
免疫成長を示すIgG値がIgE値を追い越して高くなり、正常な免疫成長が促されている。アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状もなく、感冒などのウイルス感染症もほとんどなく、罹患しても速やかに回復する健康的な免疫状態になっている。
【0096】
(症例2)
TARC上昇を伴うアトピー性皮膚炎を持つ女児。生後3か月から全身性にアトピー性皮膚炎が生じている。図10に基づき、治療結果を説明する。
【0097】
浴液をタオルで湿らす程度から始め徐々に入浴時間を増加し、入浴時間増加後、4か月後にはTARCは、1/3に低下し皮膚炎はほぼ改善し、8か月でTARCは正常化。その後も正常皮膚が持続、TARCの軽度の上昇は見られるもののIgEの上昇はなくIgA及びIgG抗体は上昇してきており免疫形成は進んでいるものと思われる。
【0098】
(症例3)
図11に基づき治療結果を説明する。
この症例では母はIgE71797、TARC39812の慢性の最重症アトピー患者であり、6歳でBSCを開始した兄もIgE11611、TARC26555の最重症タイプのアトピー性皮膚炎であった。
【0099】
しかし、兄と同時に生後8ヶ月でBSCを開始した妹(症例)は、当初は卵白アレルギーがあり乳児湿疹が生じていたが、開始3ヶ月でほぼ消失した。母や兄と全く違う点は3年後の時点でIgE13、TARC100以下でアレルギー体質が全く見られず普通肌で感冒などの感染症にもほとんど罹患しない健康体となっている点である。
【0100】
アトピー性皮膚炎は家族内発症が多い疾患としても知られており、遺伝的要素と家庭内環境や食事が近似している事が影響すると考えられる。
また、一般的にアトピー性皮膚炎は1歳までに発症した乳児湿疹から始まり次第に重症化してゆく経過をたどるので、2歳までの免疫形成期にBSCによる皮膚免疫刺激を加えることが如何に必要かわかる。もしBSCによる治療を行っていなければ兄と同じ経過をたどった可能性が高い。
【0101】
(症例4)
生後1か月で両頬に乳児湿疹が生じた。この患者にはBSCではなく、培養液をローションとして皮膚に塗布した。ローション塗布開始2か月でステロイドなしでも頬の湿疹は全く出なくなった。この症例はアレルギー体質は軽く、IgE、TARCは正常だが食物アレルギーから始まる小児のアレルギー性乳児湿疹を呈していた。
【0102】
ローションによる免疫刺激は皮膚炎を治癒させ、IgE抗体上昇を抑制し、卵白へのアレルギー反応を低下させる一方、正常な免疫形成を示すIgG、IgA抗体の上昇を促している。
この免疫発達促進の機序は、初期の乳児湿疹をアトピー性皮膚炎に移行させないために非常に重要である。図12に各種指標の計測結果を示す。
【0103】
(乳幼児期における基礎免疫形成ワクチンとしての効果の確認試験まとめ)
以上、1歳未満の乳幼児に対するBSCを適用した3症例及びローション使用例1例を提示したが、アトピー性皮膚炎ではアレルギーを示す血液マーカーTARC及び%好酸球が速やかに正常範囲に低下している。
【0104】
生後1年以内にBSCを開始し、1年以上継続した3例の他の成人型ADと全く違う特徴は、全く皮膚炎が存在せず保湿剤すら必要のない普通肌であること。また、アトピー性皮膚炎以外のアレルギー性鼻炎、食物アレルギー等のアレルギー反応もほとんどみられない事。他のインフルエンザ感染なども生じないか非常に軽微で終わる事。など免疫が正常に形成されたと考えられる体質を獲得している。
【0105】
以上から、小児においては、重度のアトピー性皮膚炎等に対しては、BSCが適切であり、アレルギー反応が低い正常皮膚や乳児湿疹例では培養液をローションとして皮膚に塗布することにより免疫形成を促す事が望まれる。また妊婦がBSCやローションを使用する事により胎児の段階から免疫形成を行うとが可能になる。
【0106】
(BSCのその他の期待される効果)
近年、分子標的治療薬のニボルマブ(Nivolumab)に代表されるがん免疫逃避機構の1つを阻害するPD-1 PD-L1免疫チェックポイント阻害剤の臨床効果が認められている。効果として癌による免疫的な抑制を是正しTh1/Th2バランスを大きく改善させ抗腫瘍効果を発揮することが判っている。
【0107】
これまでの治療結果より、BSCは免疫チェックポイント阻害剤とは別の機序によりTh1/Th2バランスを是正していると考えられることから、BSCの免疫改善作用は癌の治療においても効果を発揮する可能性は非常に高い。特に、既存の手術、放射線、抗がん剤、免疫療法と併用することで相乗効果が期待できる。
【0108】
(本発明に係る培養液を飲用することにより期待される効果)
本発明に係る培養液を健康飲料として飲用することにより、主に学童期以降の腸管免疫の刺激による免疫改善が期待される。また、妊婦が飲用することで、胎児の段階から免疫の発達を促すことが期待される。さらに、人以外の哺乳類での使用も可能であり近年増加しているペットのアトピー性皮膚炎の抑制効果が期待される。
【0109】
[培養液生成器1の構成]
BSCを適切に実施するためには、浴槽と特殊な循環機能を有するシステムが必要であり、一般家庭では、費用の面からなかなか準備することができず、BSCを受けるためには、このような設備が整った場所までいかなければならず、費用と時間がかかってしまう。
【0110】
そこで家庭において簡易に、本発明に係る培養液を生成することができる培養液生成器1について説明する。このような培養液生成器1を用いて生成された培養液を用いて、特にローションとして皮膚に塗布したり、飲用したりすることで、BSCと類似した効果を得ることができる。
【0111】
図13に基づき、培養液生成器1の構成について説明する。図13は、培養液生成器1の概略の外観図である。図8に示すように、培養液生成器1は、培養タンク部10、攪拌部20、ヒータ部30、制御部40を備える。
【0112】
培養タンク部10は、水とバシラス発酵粉末を懸濁、培養させる部分であり、ステンレス製で円筒形状に形成されており、一方の端部が、同じくステンレス製の平板で塞がれている。
【0113】
攪拌部20としては、マグネティックスターラーを用いており、攪拌部本体21と図示しない攪拌子を備えている。攪拌子は、棒磁石をフッ素樹脂などで封止させたもので、繭状または八角棒状等に形成されており、培養タンク部10内部に設置される。マグネティックスターラーを使用することにより、撹拌子を培養タンク部10から容易に取り外すことができるので、培養タンク部10内の洗浄、殺菌が容易となり、培養タンク部10内において、レジオネラ等の病原菌が繁殖しやすいバイオフィルムを簡単に除去することが可能となる。
【0114】
攪拌部本体21は、セラミクス製やプラスティック製の天板22を備えており、その天板22の上に、培養タンク部10が設置される。また、攪拌部本体21は、図示しないモーターと磁石を備えており、モーターで磁石を回転させ、発生する磁力により、培養タンク部10内部に設置された攪拌子を回転させる。なお、攪拌部本体21のモーターの作動は、攪拌部本体21に設けられた電源スイッチにより制御される。
【0115】
ヒータ部30は、面状で、培養タンク部10の外周を巻くように設置されている。
【0116】
制御部40は、培養タンク部10と同程度の径を有する円柱形状の外形を有し、培養タンク部10の上に設置される。図14に示すように、操作ボタン及び表示画面を備え、その内部にCPU41、ROM42,RAM43、I/O44を備えており、このI/O44を介して操作ボタン、表示画面、攪拌部本体21及びヒータ部30と接続されており、操作ボタンによる操作指令を受け、ヒータ部30による加温温度、加温時間及び攪拌部本体21のモーター駆動を制御する。
【0117】
制御部40は、以下の(ア)~(エ)の機能を有している。
(ア)制御部40の電源入切
(イ)加温温度設定
(ウ)加温時間設定
(エ)設定された温度、時間に基づくヒータ部30の制御
【0118】
[培養液生成器1の特徴]
このような培養液生成器1を用いることで、バシラス発酵粉末を水に懸濁し、30~45℃の温度で常時管理、飽和度70%以上の酸素を供給させることができ、皮膚の免疫を改善する培養液を簡易に生成することができる。
【0119】
酸素飽和度70%を維持するために、マグネティックスターラーにより培養液を常時攪拌させている。これにより、専用のポンプやチューブ等が必要な酸素供給装置を必要せず、容易に培養液中に適切な酸素供給を行うことができる。
【0120】
また、培養液生成器1により培養する培養液は、培養液生成器内部で、バイオフィルム内にレジオネラ等の病原性菌が繁殖しないように、65℃以上の加温減菌が可能であると同時に、1週ごとに作り替えバイオフィルムを長期に残存させないようにする。また、ステンレス製で凹凸のない円筒形状とすることにより、培養液の作り替えの際に、洗浄や次亜塩素酸、モノクラミン、二酸化塩素などの殺菌剤処理を容易に実施することができる。
【0121】
(培養液生成器1における真菌の除去能力)
培養液をフラスコ内で30~40℃で攪拌培養し、40℃培養の1つは1日10時間45℃に加熱し真正細菌、芽胞菌類、真菌類の数の変化を確認した。真菌はアトピー性皮膚炎患者では皮膚の真菌であるマラセチアやカンジダに強いアレルギー反応を起こすため、培養液中から消失させる必要がある。
【0122】
リアルタイムPCRによる1μL当たりのコピー数を図15に示す。図15は、培養液を加温することによる真菌の数の変化を計測した結果を示す。培養液中には真菌類が混入しているがバクテリア総数に比較すると100分の1程度の含有率である。1日10時間45℃まで温度を上げると3日目には真菌類をほぼ消失させることができる。なお、この操作によって細菌数、芽胞菌数の低下は生じない。
【0123】
(マグネティックスターラーによる酸素供給能力)
直径9センチ円筒形ガラス容器内の500mlの水に3gのバシラス発酵粉末を懸濁し40℃で、長さ2.5cmの攪拌子を使用し攪拌培養し、攪拌しない培養液との酸素飽和度を比較した。
【0124】
図16に酸素飽和度の計測結果を示す。マグネティックスターラーによる培養液の攪拌により好気培養に充分な飽和度70%以上の酸素を培養液に供給することができる。
【0125】
[その他の実施形態]
(1)上記実施形態では,培養液を所定温度に加温するために、ヒータ部30として面状ヒータを培養タンク部10外周に巻いているが、攪拌部本体21の天板22としてホットプレート等を用いて、培養タンク部10の下部から培養液を加温させても良い。
【0126】
(2)上記実施形態では、培養液の攪拌、酸素供給にマグネティックスターラーを使用しているが、マグネティックスターラーの替わりに洗浄消毒が容易な形状を持つ小型のエアーポンプや循環ポンプを使用して、培養液の攪拌、酸素供給を行っても良い。しかし、レジオネラ等の病原菌が繁殖しやすいバイオフィルムの抑制と除去に配慮する必要がある。
【0127】
(3)上記実施形態では、培養タンク部10の材質として、ステンレスを用いているが、セラミクス、耐熱・薬品耐性プラスティック等を用いても良い。
【0128】
(4)上記実施形態では、攪拌部20として、モーターにより磁石を回転させて、その発生する磁場を利用して培養タンク部10内の攪拌子を回転させ、培養液を攪拌させているが、モーターの替わりに、コイルに電気を流すことで発生する磁場を利用して攪拌子を回転させても良い。
【0129】
(5)上記実施形態では、攪拌部20の作動入切を攪拌部本体21に設けられた電源スイッチにより行っているが、攪拌部の作動入切制御を制御部40において実施させても良い。
【符号の説明】
【0130】
1…培養液生成器、10…培養タンク部、20…攪拌部、21…攪拌部本体、22…天板、30…ヒータ部、40…制御部、41…CPU、42…ROM、43…RAM、44…I/O
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16