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特開2023-16755日持ち向上剤、その日持ちを向上する方法、それを用いたキット、および、生鮮農産物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016755
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】日持ち向上剤、その日持ちを向上する方法、それを用いたキット、および、生鮮農産物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/16 20060101AFI20230126BHJP
   A23B 7/157 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A23B7/16
A23B7/157
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115967
(22)【出願日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2021120081
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】江口 美陽
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169AA04
4B169HA11
4B169HA13
4B169HA14
4B169KC16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プラスチック包装を用いなくとも、生鮮農産物の日持ちを向上できる日持ち向上剤、その日持ちを向上する方法、それを用いたキット、および、生鮮農産物の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の日持ち向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物を含有し、生鮮農産物の表面に塗布して、層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成し、生鮮農産物の日持ちを向上させる。本発明の生鮮農産物の日持ちを向上させる方法は、層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤を生鮮農産物の表面に塗布し、層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することを包含する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状ケイ酸塩鉱物を含有し、
生鮮農産物の表面に塗布して、前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成し、前記生鮮農産物の日持ちを向上させる、日持ち向上剤。
【請求項2】
前記層状ケイ酸塩鉱物は、2:1型層構造を有する2:1型層状ケイ酸塩鉱物である、請求項1に記載の日持ち向上剤。
【請求項3】
前記層状ケイ酸塩鉱物は、スメクタイト族の鉱物である、請求項1または2に記載の日持ち向上剤。
【請求項4】
前記スメクタイト族の鉱物は、サポナイトおよび/またはモンモリロナイトである、請求項3に記載の日持ち向上剤。
【請求項5】
前記層状ケイ酸塩鉱物は、10nm以上1500nm以下の範囲の粒径を有する、請求項1~4のいずれかに記載の日持ち向上剤。
【請求項6】
前記層状ケイ酸塩鉱物は、100nm以上1000nm以下の範囲の粒径を有する、請求項5に記載の日持ち向上剤。
【請求項7】
前記層状ケイ酸塩鉱物は、水を含む分散媒に分散されている、請求項1~6のいずれかに記載の日持ち向上剤。
【請求項8】
前記分散媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール、および、ジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群から少なくとも1つ選択される溶媒をさらに含む、請求項7に記載の日持ち向上剤。
【請求項9】
前記分散媒中の前記層状ケイ酸塩鉱物の濃度は、5g/L以上150g/L以下の範囲である、請求項7または8に記載の日持ち向上剤。
【請求項10】
層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤を生鮮農産物の表面に塗布し、前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することを包含する、生鮮農産物の日持ちを向上させる方法。
【請求項11】
前記層状ケイ酸塩鉱物は、水を含む分散媒に分散されており、
前記塗布は、ディップコーティング、刷毛塗りコーティング、カーテンコーティング、および、スプレーコーティングからなる群から選択される方法によって行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記塗布を2回以上繰り返す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記被膜の厚さは、500nm以上500μm以下の範囲である、請求項10~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記被膜の厚さは、1μm以上100μm以下の範囲である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記被膜の厚さは、3μm以上50μm以下の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
生鮮農産物の日持ちを向上するためのキットであって、
層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤と、
前記日持ち向上剤を用いて前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を前記生鮮農産物の表面に形成する情報を伴った技術的指示書と
を備える、日持ち向上キット。
【請求項17】
前記技術的指示書は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体、紙、フィルム、および、布帛からなる群から選択される媒体である、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記技術的指示書は、
前記層状ケイ酸塩鉱物を、水を含む分散媒に分散させることと、
前記層状ケイ酸塩鉱物が分散した分散液を前記生鮮農産物の表面に塗布し、前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成すること
とを包含する、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤を生鮮農産物の表面に塗布し、前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することを包含する、生鮮農産物の製造方法。
【請求項20】
前記生鮮農産物は、収穫されている、請求項19に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮農産物の日持ちを向上させる日持ち向上剤、その日持ちを向上する方法、それを用いたキット、および、生鮮農産物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンゴの鮮度を保つ技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、「合成樹脂フィルムで包装したリンゴの鮮度保持包装体において、袋中の酸素濃度を3~12%、二酸化炭素濃度を8~15%にし、かつリンゴの呼吸量を大気中での呼吸量の30~80%に抑制して鮮度保持することを特徴とするリンゴの鮮度保持包装体。」が記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の包装体は所望の鮮度維持効果を有するものの、合成樹脂製であり、海洋汚染等の原因となるプラスチック包装製品の利用を減らすという点では、改善すべき点があった。
【0004】
一方、粘土を用いたガスバリア膜が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、サポナイトまたはスティブンサイトを主成分とし、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩またはポリアクリル酸ナトリウム塩をバインダに用いたフィルムは、耐熱性を有し、ガスバリア性に優れることを報告する。また、非特許文献1は、このようなガスバリア膜を有機ELデバイスへの適用の可能性を示すが、このような膜は、水にさらすことができないため、湿度の高い環境下での使用は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-4781号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takeo Ebinaら,Adv.Mater.2007,19,2450-2453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の課題は、プラスチック包装を用いなくとも、生鮮農産物の日持ちを向上できる日持ち向上剤、その日持ちを向上する方法、それを用いたキット、および、生鮮農産物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の日持ち向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物を含有し、生鮮農産物の表面に塗布して、前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成し、前記生鮮農産物の日持ちを向上させることができる。
前記層状ケイ酸塩鉱物は、2:1型層構造を有する2:1型層状ケイ酸塩鉱物であってもよい。
前記層状ケイ酸塩鉱物は、スメクタイト族の鉱物であってもよい。
前記スメクタイト族の鉱物は、サポナイトおよび/またはモンモリロナイトであってもよい。
前記層状ケイ酸塩鉱物は、10nm以上1500nm以下の範囲の粒径を有してもよい。
前記層状ケイ酸塩鉱物は、100nm以上1000nm以下の範囲の粒径を有してもよい。
前記層状ケイ酸塩鉱物は、水を含む分散媒に分散されていてもよい。
前記分散媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール、および、ジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群から少なくとも1つ選択される溶媒をさらに含んでもよい。
前記分散媒中の前記層状ケイ酸塩鉱物の濃度は、5g/L以上150g/L以下の範囲であってもよい。
本発明による生鮮農産物の日持ちを向上させる方法は、層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤を生鮮農産物の表面に塗布し、前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記層状ケイ酸塩鉱物は、水を含む分散媒に分散されており、前記塗布は、ディップコーティング、刷毛塗りコーティング、カーテンコーティング、および、スプレーコーティングからなる群から選択される方法によって行ってもよい。
前記塗布を2回以上繰り返してもよい。
前記被膜の厚さは、500nm以上500μm以下の範囲であってもよい。
前記被膜の厚さは、1μm以上100μm以下の範囲であってもよい。
前記被膜の厚さは、3μm以上50μm以下の範囲であってもよい。
本発明による生鮮農産物の日持ちを向上するためのキットは、層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤と、前記日持ち向上剤を用いて前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を前記生鮮農産物の表面に形成する情報を伴った技術的指示書とを備え、これにより上記課題を解決する。
前記技術的指示書は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体、紙、フィルム、および、布帛からなる群から選択される媒体であってもよい。
前記技術的指示書は、前記層状ケイ酸塩鉱物を、水を含む分散媒に分散させることと、前記層状ケイ酸塩鉱物が分散した分散液を前記生鮮農産物の表面に塗布し、前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することとを包含してもよい。
本発明による生鮮農産物の製造方法は、層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤を生鮮農産物の表面に塗布し、前記層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記生鮮農産物は、収穫されていてよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の日持ち向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物を含有する。生鮮農産物の表面に塗布して、層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することにより、生鮮農産物の呼吸、水分量、植物ホルモン等が制御されるので、プラスチック包装を用いることなく、生鮮農産物の鮮度を維持し、日持ちを向上させることができる。また、層状ケイ酸塩鉱物は、体内で消化吸収されず、排出されるため、生鮮農作物に適用しても身体への健康被害等は生じない。
【0010】
本発明によれば、このような日持ち向上剤を用いて生鮮農産物の日持ちを向上する方法を提供できる。また、本発明によれば、このような日持ち向上剤と技術的指示書とを備えた日持ち向上キットを提供できる。また、本発明によれば、日持ちを向上した生鮮農作物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】例1の結果を示す写真
図2】例4の結果を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明の日持ち向上剤およびその製造方法について説明する。
本発明の日持ち向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物を含有し、生鮮農産物の表面に塗布して、層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成、生鮮農産物の日持ちを向上する。
【0013】
本発明を適用できる生鮮農産物は、リンゴ、バナナ、ミカン、桃、梨、サクランボ、マンゴー、ブドウ等の果物、キャベツ、レタス、白菜、サラダ菜、グリーンリーフ、サニーレタス、ホウレン草、ミズナ、小松菜、春菊、玉葱等の葉茎菜、ピーマン、キュウリ、トマト等の果菜、大根、人参、里芋等の根菜等であってよい。
【0014】
本願発明者は、層状ケイ酸塩鉱物を生鮮農産物の表面に塗布し、層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することによって、被膜が、生鮮農産物の呼吸、蒸散および植物ホルモンを適度に制御し、日持ちを向上させることができることが分かった。
【0015】
詳細には、被膜は、実質的に層状ケイ酸塩鉱物からなるが、層状ケイ酸塩鉱物は、Si-O四面体が酸素原子を共有して平面的に連なった緻密なシート状の結晶を単位構造としており、被膜中でもシート状の結晶が面方向に沿って配列し、積層している。
【0016】
このような被膜は、生鮮農産物の呼吸を抑制するため、生鮮農産物中の糖分や有機物が水や二酸化炭素に代謝されるのを防ぐことができる。そのため、生鮮農産物の糖度や栄養分を長期間維持できる。さらに、被膜は、生鮮農作物の呼吸を完全に抑制することはない(生鮮農産物に必要最低限の酸素透過性を維持し得る)ので、アルコールやアセトアルデヒドといった異臭の原因物質が生成されることなく、風味を損なうことはない。
【0017】
さらに、被膜は、それ自身が水分子を取り込むことができるので、生鮮農産物の水分が失われることなく、保湿に優れる。そのため、生鮮農産物がしおれて、商品価値が下がることはない。
【0018】
さらに、被膜は、層状ケイ酸塩鉱物の層間に生鮮農産物が分泌するエチレンガスなどの植物ホルモンを吸着する。これにより、生鮮農産物がエチレンガスに直接触れ続けるのを防ぐことができる。その結果、腐敗が抑制され、日持ちが向上する。
【0019】
次に、本発明の日持ち向上剤が含有する成分について説明する。
本発明の日持ち向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物を含有する。日持ち向上剤中の層状ケイ酸塩鉱物の含有量としては特に制限されないが、日持ち向上剤の全固形分を100質量%としたとき、0.1質量%以上100質量%以下が好ましい。
【0020】
本発明の日持ち向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を併せて含有してもよい。本発明の日持ち向上剤が2種以上の層状ケイ酸塩鉱物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0021】
層状ケイ酸塩鉱物しては特に制限されず、公知の層状ケイ酸塩鉱物が使用できる。層状ケイ酸塩鉱物としては、天然由来の鉱物であっても、天然由来の鉱物を化学変性したものであっても、合成されたものであってもよい。
【0022】
層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、後述する1:1型の結晶構造を有する蛇紋石-カオリン族、2:1型の結晶構造を有するタルク-パイロフィライト(滑石-葉蝋石)族、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ(雲母)族、脆雲母族、クロライト(緑泥石)族、および、これらの単位構造層が交互に積み重なったもの(例えばレクトライト、および、コレンス石等)が挙げられる。
【0023】
蛇紋石-カオリン族の層状ケイ酸塩鉱物としては、蛇紋石サブ族(亜族)のリザーダイト、バーチェリン、アメサイト、クロンステダイト、ネポーアイト、ケリアイト、フレイポナイト、および、ブリンドリアイト等(3八面体)、カオリンサブ族のカオリナイト、ディ(ッ)カイト、ナクライト、ハロイサイト、および、オーディナイト等(2八面体)が挙げられる。
【0024】
タルク-パイロフィライト(滑石-葉蝋石)族の層状ケイ酸塩鉱物としては、タルクサブ族のタルク、ウィレムサイト、ケロライト、および、ピメライト等(3八面体)、パイロフィライトサブ族のパイロフィライト、および、フェリパイロフィライト(2八面体)等が挙げられる。
【0025】
スメクタイト族の層状ケイ酸塩鉱物としては、3八面体型のサポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト、および、スインホルダイト等、2八面体型のモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、および、ボルコンスコアイト等が挙げられる。
【0026】
バーミキュライト族の層状ケイ酸塩鉱物としては、3八面体型の3八面体型バーミキュライト、および、2八面体型の2八面体型バーミキュライト等が挙げられる。
【0027】
雲母族の層状ケイ酸塩鉱物としては、黒雲母、金雲母、鉄雲母、イーストナイト、シデロフィライト、テトラフェリ鉄雲母、レピドライト、および、ポリリシオナイト(3八面体)等、白雲母、セラドン石、トベライト、イライト、および、パラゴナイト(2八面体)等が挙げられる。
【0028】
脆雲母族の層状ケイ酸塩鉱物としては、クリントナイト、および、ザンソフィライト(3八面体)等、マーガライト(2八面体)等が挙げられる。
【0029】
緑泥石族の層状ケイ酸塩鉱物としては、3八面体型のクリノクロア、シャモサイト、および、ニマイト等、2八面体型のドンバサイト等、並びに、2-3八面体型のクッケアイト、および、スドーアイト等が挙げられる。
【0030】
層状ケイ酸塩鉱物の結晶構造は、一般に四面体シートと八面体シートからなり、「シート」が組み合わさった複合単位が「層」である。四面体シートは、一般にSi4+を4つのO2-が囲んだ四面体のうち、3つを隣の四面体と共有し、残りの1つの頂点は同じ方向を向いて並び、六角形の網状に広がったもので、[Si2-の組成を持ったフィロケイ酸塩(層状シリケート)である。
【0031】
上記八面体シートは、一般にAl3+、Mg2+、Fe2+などの陽イオンを6つの(OH)が囲んだ八面体が稜を共有して2次元的な網状に広がったもので、基本的にはAl(OH)、または、Mg(OH)の組成を持っている。
【0032】
1枚の四面体シートと1枚の八面体シートが組み合わさって複合層を作る場合、これを1:1層といい、1:1層が繰り返して積み重なることによって作られる構造を有する結晶構造を有する層状ケイ酸塩鉱物は、一般にカオリン鉱物と呼ばれ、カオリナイト、および、ハロイサイト等が挙げられる。
【0033】
2枚の四面体シートが1枚の八面体シートを挟み込んだ3層構造から作られる構造を2:1型構造といい、このような層状ケイ酸塩鉱物としては、パイロフィライト、タルク、スメクタイト(ソーコナイト、スティブンサイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、および、サポナイト等)、セピオライト、バーミキュライト、雲母(白雲母、パラゴナイト、イライト、金雲母、および、黒雲母等)、並びに、脆雲母(マーガライト、および、ザンソフィライト等)等が挙げられる。
【0034】
上記のとおり、層状ケイ酸塩鉱物は、層構造として、シリカの四面体シートの上部に、アルミニウムやマグネシウム等を中心金属にした八面体シートを有する2層構造(1:1型)と、シリカの四面体シートが、アルミニウムやマグネシウム等を中心金属にした八面体シートを両側から挟んだ3層構造(2:1型)に大別される。
【0035】
更に、八面体シートの種類、すなわち中心金属がアルミニウム、および、鉄(III)等である2八面体シート(以下、単に「2八面体」ともいう。)と、中心金属がマグネシウム、リチウム、ニッケル、鉄(II)、および、マンガン等である3八面体シート(以下、単に「3八面体」ともいう。)により細分される。
【0036】
1:1型層構造を有するものとしては、3八面体のリザーダイト、アメサイト、および、クリソタイル等の蛇紋石系、2八面体のカオリナイト、ディッカイト、および、ハロイサイト等のカオリン系が挙げられる。
【0037】
2:1型層構造を有するもののうち、2八面体としては、パイロフィライトモンモリロナイト、バイデライト、2八面体型バーミキュライト、イライト、白雲母、パラゴナイト、マーガライト、および、ドンバサイト等が挙げられる。
【0038】
2:1型層構造を有するもののうち、3八面体としては、タルク、サポナイト、ヘクトライト、セピオライト、3八面体型バーミキュライト系、金雲母、黒雲母、レピドライト、クリントナイト、クリノクロア、シャモサイト、および、ニマイト等が挙げられる。
【0039】
なかでも、得られる塗膜がより優れた耐久性を有する点で、層状ケイ酸塩鉱物としては2:1型層構造を有することが好ましい。より優れた本発明の効果を有する日持ち向上剤が得られる点で、層状ケイ酸塩鉱物としては、スメクタイト族であることが好ましい。
【0040】
カオリナイト、パイロフィライト、および、タルク等の構造では、1:1型層または2:1型層全体としても、個々のイオンの間でも、電荷は中和してバランスを保っている。しかし、他の2:1型構造の四面体シートではSi4+の代わりに、わずかにイオン半径の大きいAl3+が入ることがある。また、八面体シートではAl3+の代わりに、わずかにイオン半径の大きいMg2+が入ることがある。これらの場合には、結晶構造には大きな変化はないが、電荷の不足を生じる。このような電荷の不足を補うためにアルカリ金属またはアルカリ土類金属が結晶表面あるいは結晶層間に陽イオンとして入ることがあり、このような陽イオンとしては、K、Na、Ca2+、Mg2+、および、H等が挙げられる。
【0041】
このような結晶層間に入っている層間陽イオンと層状ケイ酸塩鉱物の単位層表面の負電荷との結合力は弱いため、他の陽イオンを含む溶液と接触すると層間陽イオンと液中の陽イオンは交換反応をおこし、陽イオン交換反応を生じる。
【0042】
層状ケイ酸塩鉱物としては、陽イオン交換性を有することが好ましく、そのような層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、スメクタイト、バーミキュライト、および、雲母等が挙げられる。
【0043】
また、層間の陽イオンと単位層表面の負電荷との結合力が、層間の陽イオンと水分子の相互作用エネルギーより弱い層状ケイ酸塩鉱物では、層間を引き締める力が弱いので水分子を多量に取り込むことができ、水膨潤性を有する。本発明の日持ち向上剤は、水を含む溶媒に分散されていてよいが、その場合、層状ケイ酸塩鉱物としては水膨潤性を有することが好ましい。
【0044】
水膨潤性を有する層状ケイ酸塩鉱物としては、ハロイサイト、スメクタイト(ソーコナイト、スティブンサイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、および、サポナイト等)、バーミキュライト、膨潤性雲母(膨潤性テニオライト、膨潤性四ケイ素雲母、および、膨潤性合成フッ素雲母等)等が挙げられる。
【0045】
本発明の日持ち向上剤が含有する層状ケイ酸塩鉱物としては、陽イオン交換性、および、水膨潤性を有する観点から、スメクタイト族(ソーコナイト、スティブンサイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、および、サポナイト等)、バーミキュライト族、および、膨潤性雲母(膨潤性テニオライト、膨潤性四ケイ素雲母、および、膨潤性合成フッ素雲母等)の鉱物が好ましく、スメクタイト族がより好ましい。中でも、優れた日持ち向上性を示すことからサポナイトおよび/またはモンモリロナイトが好ましい。
【0046】
層状ケイ酸塩鉱物としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、「クニピア」、「スメクトン」「ポーラゲル」、「ヘクタブライト」、「ラポナイト」「ルーセンタイト」、「ベントン」、「NHT」、および、「ビーガム」等が挙げられる。
【0047】
層状ケイ酸塩鉱物は、好ましくは、10nm以上1500nm以下の範囲の粒径を有する。この範囲であれば、被膜を形成しやすい。層状ケイ酸塩鉱物は、より好ましくは、100nm以上1000nm以下の範囲の粒径を有する。この範囲であれば、優れた日持ち向上性を示す。
【0048】
なお、本願明細書において、層状ケイ酸塩鉱物の粒径は、顕微鏡(例えば、原子間力電子顕微鏡)を用いて撮影された画像から任意に選択した100個の層状ケイ酸塩鉱物の粒子の粒径(円相当径)を測定し、それらを算術平均して求めた値である。なお、円相当径とは、観察時の粒子の投影面積と同じ投影面積をもつ真円を想定したときの円の直径である。
【0049】
本発明の日持ち向上剤は、水を含む分散媒をさらに含有し、層状ケイ酸塩鉱物が水を含む分散媒に分散されていてもよい。これにより、生鮮農産物への塗布が容易となる。
【0050】
本発明の日持ち向上剤における分散媒の含有量としては特に制限されないが、一般に、本発明の日持ち向上剤の固形分が、0.01質量%以上99質量%以下に調整されることが好ましい。
【0051】
本発明の日持ち向上剤は、分散媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を併せて含有してもよい。日持ち向上剤が2種以上の分散媒を含有する場合、上記分散媒の合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0052】
分散媒としては、水であればよいが、水に加えて水と混和性のある有機溶媒を用いてもよい。これにより、被膜の形成を促進できる。このよう有機溶媒には、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール、および、ジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群から少なくとも1つ選択される溶媒がある。
【0053】
本発明の日持ち向上剤がより優れた成膜性を有する点で、分散媒中の層状ケイ酸塩の濃度は、5g/L以上150g/L以下の範囲が好ましい。分散媒中の層状ケイ酸塩の濃度は、より好ましくは、10g/L以上50g/L以下の範囲を満たす。これにより、塗布性に優れ、均一な被膜が得られる。
【0054】
本発明の日持ち向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物、必要に応じて水を含有する分散媒を含有すれば、本発明の効果を奏する範囲内においてその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、保存料、緩衝化剤、バインダ、及び、界面活性剤等が挙げられる。
【0055】
本発明の日持ち向上剤の製造方法としては特に制限されないが、層状ケイ酸塩鉱物と、必要に応じて分散媒とを混合すれよい。混合の方法としては特に制限されず、公知の混合方法が適用できる。また、各成分の混合の順序としても特に制限されず、任意の順序で混合すればよい。例えば、溶媒が水を含有する場合、層状ケイ酸塩鉱物に水を加えて膨潤させ、その後、残りの溶媒を加える方法であってもよい。
【0056】
次に、本発明の日持ち向上剤を用いた生鮮農産物の日持ちを向上させる方法について説明する。
【0057】
本発明の方法は、上述した層状ケイ酸塩を含有する日持ち向上剤を生鮮農産物の表面に塗布し、層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することを包含する。塗布する観点から、層状ケイ酸塩鉱物が水を含む分散媒に分散されていることが好ましい。分散媒としては上述の分散媒を適用できる。
【0058】
生鮮農産物の表面への塗布方法としては、特に制限されず、公知の方法が使用される。塗布は、好ましくは、ディップコーティング、刷毛塗りコーティング、カーテンコーティング、および、スプレーコーティングからなる群から選択される方法によって行われる。生鮮農産物が、果物、果菜、根菜等であれば、ディップコーティング、刷毛塗りコーティング、カーテンコーティングによって一度に大量の塗布を可能にする。生鮮農産物が葉茎菜等であれば、スプレーコーティングによって葉や茎を痛めることなく塗布できる。
【0059】
被膜の厚さは、特に制限はないが、好ましくは、500nm以上500μm以下の範囲である。この範囲であれば、日持ち向上性を示す。被膜の厚さは、より好ましくは、1μm以上100μm以下の範囲である。この範囲であれば、優れた日持ち向上性を示す。被膜の厚さは、なおさらに好ましくは、3μm以上50μm以下の範囲である。この範囲であれば、なおさらに優れた日持ち向上性を示す。被膜の厚さは、なおさらに好ましくは、20μm以上50μm以下の範囲である。
【0060】
被膜の厚さが上記範囲となるよう塗布を2回以上繰り返してもよい。また、塗布後、風乾を行い乾燥させてもよい。
【0061】
なお、層状ケイ酸塩鉱物であるため、被膜が塗布された生鮮農産物をそのまま食しても健康被害はないが、特に葉茎菜に対しては、洗浄後に食することが好ましく、果物や根菜等は、皮を剥いて食することが好ましい。
【0062】
以上説明してきたように、上述の層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜が表面に形成された生鮮農産物は、日持ち向上の効果を有し、このような生鮮農産物も本発明の範囲内である。被膜の厚さは上記範囲を適用できる。
【0063】
次に、本発明の日持ち向上剤を用いた生鮮農産物を製造する方法について説明する。
本発明の生鮮農産物を製造する方法は、上述した層状ケイ酸塩を含有する日持ち向上剤を生鮮農産物の表面に塗布し、層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を形成することを包含する。塗布する観点から、層状ケイ酸塩鉱物が水を含む分散媒に分散されていることが好ましい。分散媒としては上述の分散媒を適用できる。また分散媒中の日持ち向上剤の濃度としても、上述の濃度範囲を適用できる。生鮮農産物は収穫されていてよい。
【0064】
塗布方法としては、上述の方法が適宜採用されてよいが、収穫前の生鮮農産物に塗布する場合には、刷毛塗りコーティング、スプレーコーティン等が好ましく、収穫後の生鮮農産物に塗布する場合には、ディップコーティング、カーテンコーティング、刷毛塗りコーティング等が好ましい。被膜の厚さが上記範囲となるよう塗布を2回以上繰り返してもよい。また、塗布後、風乾を行い乾燥させてもよい。
【0065】
次に、本発明の日持ち向上剤を用いた生鮮農産物の日持ち向上キットについて説明する。
本発明の生鮮農産物の日持ち向上キットは、上述した層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤と、その日持ち向上剤を用いて層状ケイ酸塩鉱物からなる被膜を生鮮農産物の表面に形成するための情報を伴った技術的指示書とを備える。
【0066】
本発明のキットによれば、日持ち向上剤を生鮮農産物に塗布し、被膜を形成するための情報が記録された技術的指示書を備えるため、ユーザは、この技術的指示書を参照することで、生鮮農産物の日持ちを向上することができる。日持ち向上剤については上述したとおりであるため説明を省略する。被膜を形成するための情報については、上述した日持ち向上剤を用いた生鮮農産物の日持ちを向上させる方法が適用される。
【0067】
技術的指示書は、日持ち向上剤が層状ケイ酸塩鉱物のみからなる場合には、層状ケイ酸塩に適宜分散媒を加えて塗布しやすいようにする情報を含んでもよい。このような分散媒の種類、層状ケイ酸塩鉱物と分散媒との混合比率についての情報が含まれてもよい。種類や混合比率については上述したとおりであるため説明を省略する。
【0068】
本明細書において、上述情報が記録された技術的指示書は、磁気記録媒体、光記録媒体、および、半導体メモリ等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体、及び、紙、フイルム、および、布帛等の媒体であってよい。
【0069】
技術的指示書への記録の形態としては特に制限されず、ヒト、および/又は、コンピュータが直接読み取り可能なように記録されていてもよいし、インターネット等の通信回線を通して読み取り可能となるような手段(例えば、上記日持ち向上剤を塗布する方法が記載された文書のURL、および、上記URLが記載された(2次元)バーコード等)が記録されていてもよい。本明細書において記録とは、紙媒体に印刷されて記載されたもの等も含まれるものとする。
【0070】
特に制限されないが、典型的な日持ち向上キットとしては、例えば、容器と、容器に収容された層状ケイ酸塩鉱物を含有する日持ち向上剤と、上記容器に貼付されたラベルシールとを有し、上記ラベルシールは、日持ち向上剤を生鮮農産物に塗布する方法が記載されたラベルシールである形態が挙げられる。ラベルシールに記載された「日持ち向上剤を塗布する方法」としては、例えば、生鮮農産物の種類に対する好ましい塗布方法、被膜の厚さ、層状ケイ酸塩鉱物と分散媒との混合比率等が挙げられる。
【0071】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0072】
[例1]
例1では、層状ケイ酸塩鉱物としてサポナイトを含有する日持ち向上剤の効果を調べた。
【0073】
Na型サポナイト理論化学式Na0.33Mg(Al0.33Si3.67)O10(OH)に基づき、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、水ガラス、水酸化ナトリウムを混合し、モル比率がSi:Mg:Al=3.67:3:0.33となるよう反応させ、金属酸化物水和ゲルを調製した。これを250℃、4MPaで焼成し、生成物をボールミルで粉砕し、サポナイトを得た。このようにして得られたサポナイトの粒径は、20nm以上50nm以下の範囲であった。
【0074】
サポナイト粒子を水に分散させ、日持ち向上剤を得た。このときの分散媒中のサポナイトの濃度は、50g/Lであった。日持ち向上剤を刷毛で4本のバナナ全体に塗布と乾燥とを繰り返し、異なる厚さの被膜を得た。被膜の厚さは次のようにして算出した。バナナを楕円体に見立て、バナナの長さ((弧の外側+内側)÷2)と断面の直径から、その表面積を算出した。また、層状ケイ酸塩の重量当たりの表面積および一層当たりの厚みから、塗布した層状ケイ酸塩が乾燥時に形成する膜の厚みを算出した。
【0075】
バナナの日持ち試験を次のようにして実施した。日持ち試験は、温度23℃、湿度60%下、で保管し、直径2mm以上のシュガースポットを10個以上確認するに要する日数を調べた。なお、後述する例2および例3についても、例1と同時に試験を行った。結果を表1および図1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1には、コントロールとして、サポナイトを塗布しないバナナの同一条件下おける日持ち試験の結果、ならびに、サポナイトの塗布に替えてプラスチックフイルムで被覆したバナナの同一条件下における日持ち試験の結果も示す。
図1は、例1の結果を示す写真である。
【0078】
図1の左側のバナナは、サポナイトを厚さ12μm塗布し、7日経過後のバナナの様子であり、右側のバナナは、サポナイトを塗布せず、7日経過後のバナナの様子である。図1および表1に示すように、サポナイトを塗布することにより、バナナの日持ちが向上することが分かった。このことから、層状ケイ酸塩鉱物はバナナの日持ち向上剤として機能することが示された。
【0079】
表1によれば、サポナイトの被膜の厚さが厚いほど、日持ち向上の効果が高いことを示唆する。また、プラスチックフイルムを用いた場合、シュガースポットの確認に7日を要したが、10日経過後にはバナナにカビの発生が確認された。サポナイトを被膜したバナナには、10日経過後にもカビの発生は確認されなかった。これは、プラスチックフイルムで被覆したことにより、バナナの水分量が多くなるとともに、呼吸が制限されたことによると考える。このことから、サポナイトの被膜は、バナナの呼吸、水分量を適度に制御でき、プラスチックフイルムよりも日持ち向上の効果に優れるといえる。
【0080】
なお、図示しないが、サポナイトの濃度が10g/Lである分散液を用いて、同様にバナナに塗布し、日持ち試験を実施したところ、日持ち向上が確認された。
【0081】
[例2]
例2では、層状ケイ酸塩鉱物としてモンモリロナイトを含有する日持ち向上剤の効果を調べた。モンモリロナイト((Li0.33(Al1.67Mg0.33)Si10(OH)))として、クニミネ工業株式会社製、商品名「クニピアF」を使用した。購入したモンモリロナイトの粒径は、100nm以上1000nm以下の範囲であった。
【0082】
モンモリロナイト粒子を水に分散させ、日持ち向上剤を得た。このときの分散媒中のモンモリロナイトの濃度は、50g/Lであった。日持ち向上剤を刷毛で6本のバナナ全体に塗布と乾燥とを繰り返し、異なる厚さの被膜を得た。
【0083】
バナナの日持ち試験を実施した。日持ち試験は、例1と同一条件下で保管し、直径2mm以上のシュガースポットを10個以上確認するに要する日数を調べた。結果を表2に示す。コントロール実験については、表1の結果を参照されたい。
【0084】
【表2】
【0085】
表2および表1のコントロールの結果によれば、モンモリロナイトを塗布することにより、バナナの日持ちが向上することが分かった。このことから、モンモリロナイトは日持ち向上剤として機能することが示された。特に、被膜の厚さが20μm以上の場合、10日以上経過後もシュガースポットは未確認であり、2週間程度の日持ち向上が確認された。このことから、モンモリロナイトの被膜の厚さが厚いほど、日持ち向上の効果が高いことを示唆する。
【0086】
なお、図示しないが、モンモリロナイトの濃度が10g/Lである分散液を用いて、スプレーによるバナナに塗布し、日持ち試験を実施したところ、日持ち向上が確認された。
【0087】
[例3]
例3では、層状ケイ酸塩鉱物としてモンモリロナイトを含有する日持ち向上剤の別の効果を調べた。
【0088】
例2で使用したモンモリロナイトが水に分散した分散液(濃度50g/L)をバナナのクラウンおよびフィンガーティップのみに塗布し、例1と同一条件下で保存し、直径2mm以上のシュガースポットを10個以上確認するに要する日数を調べた。このとき、被膜の厚さは、20μmであった。コントロール実験については、表1の結果を参照されたい。
【0089】
クラウンおよびフィンガーティップのみに日持ち向上剤を塗布した場合、直径2mm以上のシュガースポットを10個以上確認するに要した日数は、5日程度であった。一方、表1に示されるように、日持ち向上剤を塗布しない場合には、直径2mm以上のシュガースポットを10個以上確認するに要した日数は、3日であった。このことから、層状ケイ酸塩からなる被膜を生鮮農産物の少なくとも一部に形成すれば、日持ち向上の効果が期待されることが示された。
【0090】
また、例2および例3の結果から、優れた日持ち向上性の観点からは、生鮮農産物全体に層状ケイ酸塩からなる被膜を形成することが好ましいことが示された。
【0091】
[例4]
例4では、層状ケイ酸塩鉱物としてサポナイトを含有する日持ち向上剤の別の効果を調べた。
【0092】
例1で使用したサポナイトが水に分散した分散液(濃度50g/L)を刷毛で2個のリンゴ全体に塗布と乾燥とを繰り返し、異なる厚さの被膜を得た。被膜の厚さは、リンゴを球体と見立てた以外は、例1と同様にして算出した。
【0093】
リンゴの日持ち試験を次のようにして実施した。日持ち試験は、温度23℃、湿度60%下、で保管し、色の変化および果肉の変化を確認するに要する日数を調べた。結果を表3および図2に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3には、コントロールとして、サポナイトを塗布しないリンゴの同一条件下おける日持ち試験の結果、ならびに、サポナイトの塗布に替えてプラスチックフイルムで被覆したリンゴの同一条件下における日持ち試験の結果も示す。
図2は、例4の結果を示す写真である。
【0096】
図2の上側のリンゴは、サポナイトを塗布せず、110日経過後のリンゴの様子であり、下側のリンゴは、サポナイトを厚さ17μm塗布し、110日経過後のリンゴの様子である。図2および表3に示すように、サポナイトを塗布することにより、リンゴの日持ちが向上することが分かった。このことから、層状ケイ酸塩鉱物はリンゴ日持ち向上剤として機能することが示された。
【0097】
特に、被膜の厚さが40μm以上の場合、125日以上経過後も色の変化も果肉の変化も未確認であり、4か月以上の日持ち向上が確認された。このことから、サポナイトの被膜の厚さが厚いほど、日持ち向上の効果が高いことを示唆する。
【0098】
また、プラスチックフイルムを用いた場合、90日経過後にはリンゴの軟化が、98日経過後にはカビの発生が確認された。サポナイトを被膜したリンゴには、125日経過後にもリンゴの軟化やカビの発生は確認されなかった。これは、プラスチックフイルムで被覆したことにより、リンゴの水分量が多くなるとともに、呼吸が制限されたことによると考える。このことから、サポナイトの被膜は、リンゴの呼吸、水分量を適度に制御でき、プラスチックフイルムよりも日持ち向上の効果に優れるといえる。
【0099】
[例5]
例5では、層状ケイ酸塩鉱物としてモンモリロナイトを含有する日持ち向上剤の別の効果を調べた。
【0100】
例2で使用したモンモリロナイトが水に分散した分散液(濃度50g/L)を刷毛で3個のミカン全体に塗布と乾燥とを繰り返し、異なる厚さの被膜を得た。被膜の厚さは、ミカンを球体と見立てた以外は、例1と同様にして算出した。
【0101】
ミカンの日持ち試験を次のようにして実施した。日持ち試験は、温度23℃、湿度60%下で保管し、表面にカビを確認するに要する日数を調べた。結果を表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
表4には、コントロールとして、モンモリロナイトを塗布しないミカンの同一条件下おける日持ち試験の結果も示す。
【0104】
表4に示すように、モンモリロナイトを塗布することにより、ミカンの日持ちが向上することが分かった。このことから、層状ケイ酸塩鉱物はミカンの日持ち向上剤として機能することが示された。
【0105】
特に、被膜の厚さが20μm以上の場合、28日以上経過後もカビの発生は確認されず、1か月以上の日持ち向上が確認された。このことから、モンモリロナイトの被膜の厚さが厚いほど、日持ち向上の効果が高いことを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明による日持ち向上剤は、果物、野菜、生花等の生鮮農産物の日持ちを向上させることができるので、生鮮農産物を利用する分野に適用される。
図1
図2