(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167560
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】二次電池の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20231116BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20231116BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/44 P
H02J7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078840
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】松本 恵太
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB01
5G503BB02
5G503CA10
5G503CB11
5G503DA04
5G503EA05
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】組電池の効率をたかめた二次電池の制御方法及び制御装置を提供すること。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の制御方法は、セル電池を複数組み合わせて構成した電池パックにおいて、セル電池の電池温度Tを取得する電池温度取得のステップ(S1)と、セル電池の電池温度Tに基づいて充放電による入出力を制限する入出力制限値Wを算出する入出力制限値算出のステップ(S2)と、設定した第1の温度T
1以下のセル電池であり(S3:YES)、かつ、取得した電池温度Tの最高温度T
maxが、設定した第2の温度T
2以下(S4:YES)である場合に、電池パックの現在の入出力制限値Wを、入出力制限値W
Litに拡大する入出力制限値拡大のステップ(S5)とを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池からなる単位電池を複数組み合わせて構成した組電池において、
前記組電池を構成する複数の単位電池の電池温度T[°C]を取得する電池温度取得のステップと、
前記電池温度取得のステップにおいて取得した前記組電池を構成する複数の単位電池のそれぞれの電池温度T[°C]に基づいて充放電による入出力を制限する入出力制限値W[W]を算出する入出力制限値算出のステップと、
前記電池温度取得のステップにおいて取得した単位電池の電池温度T[°C]の内、設定した第1の温度T1[°C]以下の単位電池があり、
かつ、取得した単位電池の電池温度T[°C]の最高温度Tmax[°C]が、設定した第2の温度T2[°C]以下である場合に、
前記組電池の現在の入出力制限値W[W]を、入出力制限値WLit[W]に拡大する入出力制限値拡大のステップと
を備えたことを特徴とする二次電池の制御方法。
【請求項2】
前記入出力制限値拡大のステップにおいて、前記入出力制限値W[W]は、前記単位電池の最高温度Tmax[°C]と最低温度Tmin[°C]との差が大きいほど拡大すること
を特徴とする請求項1に記載の二次電池の制御方法。
【請求項3】
前記入出力制限値拡大のステップにおいて、前記入出力制限値W[W]は、前記組電池内の前記単位電池の平均温度Tave[°C]と最高温度Tmax[°C]との差が大きいほど拡大すること
を特徴とする請求項1に記載の二次電池の制御方法。
【請求項4】
前記入出力制限値算出のステップは、
最低温度Tmin[°C]の単位電池のSOCが、設定した充放電範囲の最小値未満の場合は、充電側の入出力制限値W[W]の制限値を拡大し、
前記最低温度Tmin[°C]の単位電池のSOCが、設定した充放電範囲の最大値を超えた場合は、放電側の入出力制限値W[W]の制限値を拡大し、
前記最低温度Tmin[°C]の単位電池のSOCが、前記最小値以上、かつ前記最大値以下の場合は、充電側及び放電側の入出力制限値W[W]の双方の制限を拡大すること
を特徴とする請求項1に記載の二次電池の制御方法。
【請求項5】
前記入出力制限値算出のステップは、
前記電池温度T[°C]の取得時間間隔Tint[s]が、最高温度Tmax[°C]の単位電池が上限温度TLit[°C]に達しないように取得時間間隔Tint[s]を決定する適用時間算出のステップを備えたこと
を特徴とする請求項1に記載の二次電池の制御方法。
【請求項6】
前記取得時間間隔Tint[s]は、
単位電池の熱容量をC[Cal]、上限温度をTLit[°C]、最高温度の電池温度をTmax[°C]、入出力電流をI[A]、内部抵抗をR[Ω]としたとき、
Tint=C(TLit-Tmax)/I2R
に基づいて算出すること
を特徴とする請求項5に記載の二次電池の制御方法。
【請求項7】
前記入出力制限値拡大のステップは、
再計算後の入出力制限値をWLit[W]、現在の入出力制限値をW[W]、Tmax[°C]とTmin[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMdiff、Tmax[°C]とTave[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMaveとしたとき
再計算後の入出力制限値をWLit[W]を、
WLit=W×Mdiff×Mave
により算出することを特徴とする請求項1に記載の二次電池の制御方法。
【請求項8】
環境温度をTenv[°C]としたとき、Tmax[°C]としたとき、Tmax[°C]とTenv[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMenvとしたとき
再計算後の入出力制限値をWLit[W]を、
WLit=W×Mdiff×Mave×Menv
により算出することを特徴とする請求項7に記載の二次電池の制御方法。
【請求項9】
コンピュータを備えた二次電池の制御装置であって、
二次電池からなる単位電池を複数組み合わせて構成した組電池において、前記組電池を構成する複数の単位電池の電池温度T[°C]を取得する電池温度取得手段と、
前記電池温度取得手段において取得した前記組電池を構成する複数の単位電池のそれぞれの電池温度T[°C]に基づいて充放電による入出力を制限する入出力制限値W[W]を算出する入出力制限値算出手段と、
前記電池温度取得手段において取得した単位電池の電池温度T[°C]の内、設定した第1の温度T1[°C]以下の単位電池があり、
かつ、取得した単位電池Tの最高温度Tmax[°C]が、設定した第2の温度T2[°C]以下である場合に、
前記組電池の入出力制限値W[W]を入出力制限値WLit[W]に拡大する入出力制限値拡大手段と
を備えたことを特徴とする二次電池の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の制御方法及び制御装置に係り、詳しくは電池を効率よく使用することができる二次電池の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車などの電源としてリチウムイオン二次電池のような非水電解液二次電池や、ニッケル水素蓄電池のようなアルカリ二次電池が利用されている。このような二次電池の単電池は、電圧・電流が小さいため、多数のセル電池を積層し、直列・並列に接続した二次電池の組電池である電池パックにより、高電圧・高電流を供給するようになっている。
【0003】
二次電池を組電池として使用した場合、例えば、積層された組電池の中央部は、端部より冷却されにくく温度が高くなることが多い。また、個別のセル電池の内部抵抗などの固有の特性のばらつきにより発熱が異なることがある。二次電池は、温度によって性能が変化する。
【0004】
そこで特許文献1に開示された電源システムの発明では、蓄電部間の温度差を考慮して蓄電部の各々で充放電される電力を管理する。そのため、負荷装置からの要求電力値を満足させつつ、蓄電部間に生じる温度を均一化して蓄電部全体を効率的に温度管理可能なものとなっている。
【0005】
また、特許文献2に開示された発明では、車両の走行に用いられ、互いに異なる位置に配置された蓄電装置と、これらの駆動を制御するコントローラと、蓄電装置の温度センサとを有する。コントローラは、蓄電装置の温度制御に用いられる温度範囲に対する各蓄電装置の装置温度の関係と、温度の大小関係とに基づいて、その駆動比率を変更する。
【0006】
これらのような発明であれば、各二次電池の温度差に基づいて制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-154302号公報
【特許文献2】特開2012-200140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、組電池内の温度分布については、考慮されていない。
本発明の二次電池の制御方法及び制御装置が解決しようとする課題は、組電池の効率をたかめることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明の二次電池の制御方法では、二次電池からなる単位電池を複数組み合わせて構成した組電池において、前記組電池を構成する複数の単位電池の電池温度T[°C]を取得する電池温度取得のステップと、前記電池温度取得のステップにおいて取得した前記組電池を構成する複数の単位電池のそれぞれの電池温度T[°C]に基づいて充放電による入出力を制限する入出力制限値W[W]を算出する入出力制限値算出のステップと、前記電池温度取得のステップにおいて取得した単位電池の温度Tの内、設定した第1の温度T1[°C]以下の単位電池があり、かつ、取得した単位電池の温度Tの最高温度Tmax[°C]が、設定した第2の温度T2[°C]以下である場合に、前記組電池の現在の入出力制限値W[W]を、入出力制限値WLit[W]に拡大する入出力制限値拡大のステップとを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記入出力制限値拡大のステップにおいて、前記入出力制限値W[W]は、前記単位電池の最高温度Tmax[°C]と最低温度Tmin[°C]との差が大きいほど拡大するようにしてもよい。
【0011】
前記入出力制限値拡大のステップにおいて、前記入出力制限は、前記組電池内の前記単位電池の平均温度Taveと最高温度Tmaxとの差が大きいほど拡大するようにしてもよい。
【0012】
前記入出力制限値算出のステップは、最低温度Tminの単位電池のSOCが、設定した充放電範囲の最小値未満の場合は、充電側の入出力制限値W[W]の制限値を拡大し、前記最低温度の単位電池のSOCが、設定した充放電範囲の最大値を超えた場合は、放電側の入出力制限値W[W]の制限値を拡大し、前記最低温度の単位電池のSOCが、前記最小値以上、かつ前記最大値以下の場合は、充電側及び放電側の入出力制限値W[W]の双方の制限値を拡大するようにしてもよい。
【0013】
前記入出力制限値算出のステップは、前記電池温度[°C]の取得時間間隔Tint[s]が、最高温度Tmax[°C]の単位電池が上限温度TLit[°C]に達しないように取得時間間隔Tint[s]を決定する適用時間算出のステップを備えてもよい。
【0014】
前記取得時間間隔Tint[s]は、単位電池の熱容量をC[Cal]、上限温度をTLit[°C]、最高温度の電池温度をTmax、入出力電流をI[A]、内部抵抗をR[Ω]としたとき、Tint=C(TLit-T)/I2Rに基づいて算出してもよい。
【0015】
前記入出力制限値拡大のステップは、再計算後の入出力制限値をWLit[W]、現在の入出力制限値をW[W]、Tmax[°C]とTmin[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMdiff、Tmax[°C]とTave[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMaveとしたとき再計算後の入出力制限値をWLit[W]を、WLit=W×Mdiff×Maveにより算出してもよい。
【0016】
環境温度をTenv[°C]としたとき、Tmax[°C]とTenv[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMenvとしたとき再計算後の入出力制限値をWLit[W]を、WLit=W×Mdiff×Mave×Menvにより算出してもよい。
【0017】
本発明のコンピュータを備えた二次電池の制御装置であって、二次電池からなる単位電池を複数組み合わせて構成した組電池において、前記組電池を構成する複数の単位電池の電池温度を取得する電池温度取得手段と、前記電池温度取得手段において取得した前記組電池を構成する複数の単位電池のそれぞれの電池温度に基づいて充放電による入出力を制限する入出力制限値W[W]を算出する入出力制限値算出手段と、前記電池温度取得手段において取得した単位電池の温度の内、設定した第1の温度以下の単位電池があり、かつ、取得した単位電池の最高温度が、設定した第2の温度以下である場合に、前記組電池の入出力制限値を拡大する入出力制限値拡大手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二次電池の制御方法及び制御装置は、組電池の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の電池パックを示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の制御対象となるリチウムイオン二次電池のセル電池の外観の斜視図である。
【
図3】本実施形態のリチウムイオン二次電池の電極体の構成を示す模式図である。
【
図4】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電池パックが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。
【
図5】制御装置の監視ユニットの詳細なブロック図である。
【
図6】本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】入出力制限値Wを再算出(S5)のサブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【
図8】電池温度と入出力制限の関係を示すグラフである。
【
図9】電池温度T[°C]と内部抵抗R[Ω]との関係を示すグラフである。
【
図10】電池温度T[°C]が異なる2つセル電池1
Aとセル電池1
Bの電池温度T[°C]をそれぞれT
A、T
B[°C]としたときに、電流I[A]を印加したときの温度変化を示すグラフである。
【
図11】電池温度Tと、最高温度T
max、最低温度T
min、平均温度T
ave、環境温度T
envとの関係を示すグラフである。
【
図12】平均温度T
aveが高い場合の最高温度T
maxとの関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の二次電池の制御方法及び制御装置を、車両用のリチウムイオン二次電池の制御方法及び制御装置の一実施形態を用いて説明する。
(本実施形態の概略)
<本実施形態の原理>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の電池パック4を示す斜視図である。本実施形態の二次電池の制御方法は、対象が、例えば車載の駆動電源として使用される電池パック4に対して行われる。電池パック4は、セル電池1(
図2参照)が複数(
図1では34個)積層されて拘束され電池スタック2を形成する。このような電池スタック2が電池ケース3に収容される。このような電池ケース3に収容された電池スタックが複数(ここでは2つ)収容容器(不図示)に収容され、電気的に接続されるとともに、制御装置やセンサ、冷却装置、外部端子などが装着されて密封される。このようにして形成された電池パック4は、車両の駆動電源として充放電がなされる。このような電池パック4では、車両の走行における駆動や回生電流、内部及び外部充電により充放電が行われる。
【0021】
このような複数のセル電池1を備えた電池パック4では、そのセル電池1が配置された位置の冷却構造や、セル電池1自体の特性や劣化に起因して電池温度T[°C]に格差が生じる場合がある。例えば、
図1に示すセル電池1aは、端部に配置される。また、セル電池1bは、積層方向の中央部に配置される。このような配置の場合、一般的に端部のセル電池1aは、中央部のセル電池1bより冷却されやすいので電池温度T[°C]が低い場合が多い。
【0022】
<電池温度Tと入出力制限値W>
図8は、電池温度T[°C]と入出力制限値W[W]の関係を示すグラフである。
図8において、横軸は電池温度T[°C]を示す。縦軸は、その電池温度T[°C]のときの充放電の能力を電力[W]で示す。横軸より上は充電(+)を示し、横軸より下は放電(-)を示す。リチウムイオン二次電池の特性として、電池温度Tにより、充放電の能力が変化する。
図8に示すように電池温度Tが一定の温度の範囲では、所定の充放電の能力を示すが、高温域若しくは低温域では、入出力の能力が低下するため、電池パック4の制御装置5(
図4参照)により、入出力が制限されている。例えば、第1の温度T
1[°C]以上、第2の温度T
2[°C]以下では、入出力制限値[W]は、充放電共にほぼ一定の入出力制限値[W]の能力を示す。一方、第1の温度T
1[°C]未満では、温度の低下に伴って、充放電共に、入出力制限値[W]の絶対値が小さくなっている。また、第2の温度T
2[°C]を超えると、温度の低下に伴って、充放電共に、入出力制限値W[W]の絶対値が急速に小さくなっている。このため、電池パック4の使用に当たっては、第1の温度T
1[°C]以上、第2の温度T
2[°C]以下の範囲で使用することが好ましいことがわかる。
【0023】
なお、このような入出力制限値[W]の制御は、電池パック4全体で行われる。このため、セル電池1の電池温度T[°C]にばらつきがある場合は、すべてのセル電池1に対して、適切な制御をすることが困難となる。このため基本的には、最も大きな入出力制限をするセル電池1の入出力制限値[W]に合わせることとなり、電池パック4の効率の低化を招いている。
【0024】
<電池温度Tと内部抵抗R>
図9は、電池温度T[°C]と内部抵抗R[Ω]との関係を示すグラフである。横軸は電池温度T[°C]を示す。縦軸は、その電池温度T[°C]における内部抵抗R[Ω]を示す。内部抵抗R[Ω]は、直流抵抗(DC-IR)である。
【0025】
電池の内部抵抗Rは、アレニウスの式にしたがって電池温度T[°C]に依存して指数関数的に変化することが知られている。
図9に示すようにリチウムイオン二次電池は、電池温度T[°C]が上昇すると、化学反応が活発となり、その結果内部抵抗R[Ω]が低下する。一方、電池温度T[°C]が低下すると急激に内部抵抗R[Ω]が上昇する。
【0026】
<本実施形態が温度の均一化ができる理由>
図10は、電池温度T[°C]が異なる2つセル電池1
Aとセル電池1
Bの電池温度T[°C]をそれぞれT
A、T
B[°C]としたときに、電流I[A]を印加したときの温度変化を示すグラフである。横軸は、時間t[s]の変化を示す。縦軸は、その時間における2つセル電池1
Aとセル電池1
Bの電池温度T
A、T
B[°C]を示す。
【0027】
本実施形態は、電池パック4において、セル電池1の電池温度T[°C]に温度格差がある場合に、これを均質化する発明である。
図10において、比較開始時点で、電池温度T[°C]が異なる2つセル電池1
Aとセル電池1
Bの電池温度T[°C]をそれぞれT
A、T
B[°C]とする。ここでT
A>T
Bである。また、T
A-T
B=T
diff[°C]とする。
【0028】
その後電流I[A]を印加する。このとき、
図9で説明したとおり、電池温度T[°C]が高いほど内部抵抗R[Ω]が小さい。
電流I[A]を印加したときのセル電池1
Aの内部抵抗R
Aと、セル電池1
Bの内部抵抗R
Bを比較する。この場合、セル電池1
Aの電池温度T
Aは、セル電池1
Bの電池温度T
Bは、T
A>T
Bである。したがって、電池温度T[°C]が高いほど内部抵抗R[Ω]が小さいため、内部抵抗[Ω]はR
A<R
Bという関係になる。
【0029】
セル電池1Aと、セル電池1Bの発熱量は、それぞれI2RAΔt、I2RBΔtで表すことができる。ここで、セル電池1Aと、セル電池1Bの電流は共通の回路であるので、I=Iとなる。また、電流Iを印加した時間もΔtで共通している。したがって、セル電池1Aとの発熱量I2RAΔt、セル電池1Bの発熱量I2RBΔtの比、I2RAΔt:I2RBΔt=RA:RBとなる。上述のとおり、内部抵抗[Ω]はRA<RBであるので、セル電池1Aとの発熱量I2RAΔt、セル電池1Bの発熱量I2RBΔtでは、セル電池1Bの発熱量I2RBΔtの方が大きい。
【0030】
すなわち、
図10に示すように、入出力する電流IをΔtだけ印加した場合は、電池パック4内の温度の格差を小さくすることができる。ここで、セル電池1
Aの温度とセル電池1
Bの温度の温度差T’
diff=T’
A-T’
Bで表される。入出力する電流Iを印加する前のT
diff=T
A-T
B[°C]は、T’
diff<T
diffという関係となっている。よって、入出力する電流I[A]をΔt印加することで、電池パック4内の温度の格差を小さくすることができる。
【0031】
(本実施形態の構成)
次に、本実施形態の具体的な構成について簡単に説明する。
<リチウムイオン二次電池の構成>
図2は、本実施形態の制御対象となるリチウムイオン二次電池のセル電池1の外観の斜視図である。
【0032】
まず、本実施形態の前提となるリチウムイオン二次電池の構成を簡単に説明する。
図2に示すようにリチウムイオン二次電池は、セル電池1として構成される。上側に開口部を有する直方体状の例えばアルミニウム合金製の電池ケース11を備える。電池ケース11は、電池ケース11を封止する蓋体12を備える。蓋体12には、蓋体12により密閉された電池ケース11内の圧力が一定の圧力値を超えた場合に、電池ケース11内の気体を排出する排出弁18が設けられている。電池ケース11の内部には電極体10が収容される。電池ケース11内には、蓋体12に設けられた注液口19から非水電解液17が注入され、その後注液口19は封止される。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成され、レーザ溶接などで封止されている。従ってリチウムイオン二次電池は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる負極集電体13、負極外部端子14、正極集電体15、正極外部端子16を備えている。
【0033】
<電極体10>
図3は、リチウムイオン二次電池の電極体10の積層体の一部を展開した構成を示す模式図である。
図3に示すように、リチウムイオン二次電池の電極体10は、負極板100と正極板110とセパレータ120を備える。負極板100は、負極基材101の両面に負極合材層102を備える。正極板110は、正極基材111の両面に正極合材層112を備える。負極板100と、正極板110は、セパレータ120を介して重ねて積層された電極体10が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向Zに捲回され、扁平に整形されてなる電極体10を構成する。
【0034】
負極接続部103は、負極板100の負極合材層102から電気を取り出す集電部として機能する。正極接続部113は、正極板110の正極合材層112から電気を取り出す集電部として機能する。
【0035】
<負極板100>
負極基材101の両面に負極合材層102が形成されて負極板100が構成されている。負極基材101は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極基材101は、負極合材層102の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層102から電気を集電する集電部材の機能を有している。負極板100は、金属製の負極基材101上に負極合材層102が形成される。実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0036】
負極板100は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の負極合材を負極基材101に塗布して乾燥することで作製される。
<正極板110>
正極基材111の両面に正極合材層112が形成されて正極板110が構成されている。正極基材111は、実施形態ではAl箔やAl合金箔から構成されている。正極基材111は、正極合材層112の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層112から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0037】
正極板110は、正極基材111の表面に正極合材層112が形成されている。正極合材層112は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を用いることができる。また、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2を任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0038】
また、正極合材層112は、導電材を含む。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0039】
正極板110は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合材を正極基材111に塗布して乾燥することで作製される。
<セパレータ120>
セパレータ120は、負極板100及び正極板110の間に非水電解液17を保持するための多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の不織布である。また、セパレータ120としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。非水電解液17に電極体10に浸漬させるとセパレータ120の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0040】
<非水電解液17>
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)を用いることができる。また、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等を用いることができる。またこれらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0041】
<リチウムイオン二次電池の発熱>
本実施形態のリチウムイオン二次電池のセル電池1では、電極体10で電池の反応が生じて発熱し、その熱が電池ケース11を介して外部に放出される。その熱は、電池パック4の図示しない冷却システムにより外部に放出されるが、セル電池1毎の冷却むらは避けられない。
【0042】
<二次電池が搭載される車両の全体構成>
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池の電池パック4が搭載される車両200について簡単に説明する。
【0043】
図4は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電池パック4が搭載された車両200の全体構成を概略的に示す図である。
図4に例示した車両200は、ハイブリッド車両である。車両200は、リチウムイオン二次電池の制御装置5と、PCU(パワーコントロールユニット:Power Control Unit)30と、モータジェネレータ41,42と、エンジン50と、動力分割装置60と、駆動軸70と、駆動輪80とを備える。
【0044】
リチウムイオン二次電池の制御装置5は、電池パック4のセル電池1ごとのセル電圧BV、電流BI、環境温度BTを監視する監視ユニット20と、監視ユニット20を制御するCPU25、経時データTD・経時データVDを記憶するメモリ26を備えたECU(電子制御装置:Electronic Control Unit)24とを備える。
【0045】
<モータジェネレータ42>
モータジェネレータ42は、主として電動機として動作し、急加速時には電池パック4から供給された大電流で駆動輪80を駆動する。一方、車両の制動時や下り斜面では、モータジェネレータ42は、発電機として動作して大電流の回生発電を行ない、電池パック4に大電流を供給する。
【0046】
このような車載用の電池パック4では、環境温度Tenv[°C]が低温から高温まで変化したり、ハイレートの充放電が行われたり、その充放電の状況から低いセルSOCから高いセルSOCまで変化したり、使用環境により電池温度T[°C]が大きく変化する。
【0047】
<リチウムイオン二次電池の監視ユニット20>
図5は、制御装置5の監視ユニット20の詳細なブロック図である。監視ユニット20は、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23とを含む。電圧センサ21は、セル電池1ごとの電圧VBを個別に検出する。電流センサ22は、セル電池1に入出力される電流IB、すなわち電池パック4に流れる電流I[W]を検出する。温度センサ23は、セル電池1毎の電池温度T[°C]を個別に検出する。また、温度センサ23は、電池パック4の外部の環境温度T
env[°C]も検出している。各センサは、その検出結果を示す信号を電流IB、電圧VB、温度TBとしてECU24に出力する。これらの温度TB、セル電圧VB、電流IBは、これらのセル電池1の状態を示すものとして時間Δt毎に電池温度T[°C]、環境温度T
env[°C]、入出力する電流I[A]、セル電圧V[V]として記憶される。また、入出力する電流I[A]、セル電圧V[V]からは、内部抵抗R[Ω]が算出される。
【0048】
(本実施形態の作用)
このような構成を備えた本実施形態の制御装置5では、以下のような作用を奏する。
<リチウムイオン二次電池の制御方法の手順>
図6は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法の手順を示すフローチャートである。この手順の目的は、入出力制限値Wの再設定が必要か否かの判断をすることである。本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法は、制御装置5により実行する。
【0049】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法の手順が開始されると、まず、温度計測(S1)により、各セル電池1の電池温度Tと、環境温度Tenvが温度センサ23により測定され、ECU24のメモリ26に記憶される。この手順が本発明の「電池温度取得のステップ」に相当する。
【0050】
次に、セル電池1ごとの電池温度Tに基づいて入出力制限値Wを算出する(S2)。ここでは、測定したセル電池1ごとの電池温度Tに基づいて、
図8に示す関係に基づいて、セル電池1ごとの入出力制限値Wを算出する。そして、その中で最も入出力制限値Wが厳しくなるものを参照して電池パック4として入出力制限値Wを決定する。このようにしなければ、特定のセル電池1に過大な負担を掛けて、そのセル電池1の劣化が進んでしまうからである。この手順が本発明の「入出力制限値算出のステップ」に相当する。
【0051】
つぎに、制御装置5では、第1の温度T
1未満のセル電池1があるか否かを判断する(S3)。ここで、「第1の温度T
1[°C]」は、セル電池1において、
図8に示すように、その温度未満では入出力の能力が設定した範囲より小さくなる温度である。このため、電池温度T[°C]が、第1の温度T
1[°C]未満となると、電池温度を上げることで入出力の能力が向上し、制御装置5では、入出力制限値W[W]の幅を広くすることが可能となる。したがって、第1の温度T
1未満のセル電池1が無い場合(S2:NO)は、温度を上昇させる必要が無いため、そのまま設定された入出力制限値Wに基づいて制御を行う(S7)。
【0052】
一方、第1の温度T1未満のセル電池1がある場合は(S3:YES)、そのセル電池1を第1の温度T1以上の電池温度T[°C]とすることで、入出力制限値W[W]の幅を広くすることが可能となる。
【0053】
次に、最高温度T
max[°C]が第2の温度T
2[°C]以下か否かを判断する(S4)。ここで最高温度T
max[°C]が第2の温度T
2を超えている場合(S4:NO)は、
図8に示すように第2の温度T
2を超えているセル電池1の電池温度Tをさらに上昇させてしまうと、却って入出力制限値W[W]の幅が小さくなる。そのため、そのセル電池1を原因として、電池パック4として入出力制限値Wを狭めてしまうことになる。一方、最高温度T
max[°C]が第2の温度T
2[°C]以下である場合(S4:YES)は、そのセル電池1の電池温度Tを上昇させることができる余地がある。
【0054】
このように、本実施形態では、電池温度取得のステップ(S1)において取得したセル電池1の電池温度Tの内、設定した第1の温度T1[°C]以下のセル電池1がある。かつ、取得した電池温度Tの最高温度Tmax[°C]が、設定した第2の温度T2[°C]以下である。その場合、入出力制限値拡大のステップ(S5)が実行される。
【0055】
<入出力制限値拡大のステップ(S5)>
入出力制限値拡大のステップ(S5)は、電池パック4の現在の入出力制限値W[W]を、入出力制限値WLit[W]に拡大するために再算出する手順である。S3~S5の手順が本発明の「入出力制限値拡大のステップ」に相当する。
【0056】
図7は、入出力制限値Wを再算出する手順(S5)のサブルーチンの手順を示すフローチャートである。次に、
図7を参照して、入出力制限値Wを再算出の手順(S5)を説明する。
【0057】
入出力制限値Wを再算出(S5)の手順が開始されると、最低温度Tmin[°C]のSOC[%]が閾値ThH以上か否かが判断される(S51)。ここで、「閾値ThH」は、例えば、SOC60%である。これは、車載用の電池パック4であれば、駆動用の放電残量として、SOC60%を上回らない余裕を見込んでいるためである。SOC60%を超える高SOC領域であると、大きな回生電流の利用などができなくなるため、車両の効率が低下する。SOC[%]の値は、例えばセル電圧[V]により判断することができる。
【0058】
最低温度のSOC[%]が閾値ThH以上の場合は(S51:YES)、放電側のみを拡大した入出力制限値W[W]に設定する(S52)。
最低温度Tmin[°C]のSOC[%]が閾値ThH未満の場合は(S51:NO)、充電側の制限値が拡大できると判断し、放電側の制限値が拡大できるか否かを判断する。ここでは、Tmin[°C]のSOC[%]が閾値ThL以下かが判断される(S53)。ここで、「閾値ThL」は、例えば、SOC40%である。これは、車載用の電池パック4であれば、駆動用の放電残量として、SOC40%を下回らない余裕を見込むことが好ましいためである。SOC40%を下回る低SOC領域であると、急な原動機への出力の要求への対応などができなくなるため、車両の効率が低下する。SOC[%]の値は、例えばセル電圧[V]により判断することができる。
【0059】
最低温度Tmin[°C]のSOC[%]が閾値ThL未満の場合は(S53:YES)、充電側のみの制限値を拡大した入出力制限値W[W]に設定する(S54)。
最低温度Tmin[°C]のSOC[%]が閾値ThL以上を超える場合は(S53:NO)、充放電双方を拡大した入出力制限値Wを設定する。
【0060】
<入出力制限値Wの算出>
図11は、電池温度Tと、最高温度T
max、最低温度T
min、平均温度T
ave、環境温度T
envとの関係を示すグラフである。電池温度Tは、各セル電池1ごとに測定した電池の温度である。最高温度T
maxは、これらのうちの最高の温度である。最低温度T
minは、これらのうちで最低の温度である。電池温度Tの温度分布は、一般的に電池スタック2においては、
図1に示す両端のセル電池1aの温度が低く、中央部のセル電池1bが高くなっている。平均温度T
aveはこれらの電池温度Tの算術平均値である。なお環境温度T
envは、電池パック4の周囲の大気の温度であり、電池パック4の冷却に影響を与える要素である。例えば、夏季において、炎天下で内燃機などに負荷をかけた場合などは高い値となり、冬季において放置されていたような場合は低い値となる。
【0061】
ここで、本実施形態の入出力制限値拡大のステップ(S52、S54、S55)は、以下のような手順で、再計算後の入出力制限値をWLit[W]を決定する。
再計算後の入出力制限値をWLit[W]、現在の入出力制限値をW[W]、Tmax[°C]とTmin[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMdiffとする。また、Tmax[°C]とTave[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMaveとする。このとき再計算後の入出力制限値をWLit[W]を、下記の式により算出する。
【0062】
WLit=W×Mdiff×Mave
これらの倍率は、同種の電池による測定に基づいて、当業者により最適化される。
なお、この場合は環境温度をTenv[°C]を考慮していない。環境温度をTenv[°C]をさらに考慮した場合は、以下のとおりである。
【0063】
環境温度をTenv[°C]としたとき、Tmax[°C]とTenv[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)をMenvとしたとき、再計算後の入出力制限値をWLit[W]を下記の式により算出する。
【0064】
WLit=W×Mdiff×Mave×Menv
ここで、調整に当たっては、以下の点に留意することが望まれる。
「Mdiff」において、Tmax[°C]とTmin[°C]の差分が大きいほどTmin[°C]の制限値により性能が無駄になる。そこで、Mdiffを大きくしTmax[°C]とTmin[°C]の差分を低減させることが好ましい。そこで、入出力制限値W[W]は、セル電池1の最高温度Tmax[°C]と最低温度Tmin[°C]との差が大きいほど拡大する。
【0065】
<最高温度Tmax[°C]と平均温度Tave[°C]の関係>
「Mave」において、Tmax[°C]とTave[°C]の差分が大きいほど低温側のセル電池1が多いことになる。そのため、Maveを大きくして、電池パック4内のセル電池1の電池温度Tを全体に上昇させることが好ましい。そこで、入出力制限値W[W]は、電池パック4内のセル電池1の平均温度Taveと最高温度Tmaxとの差が大きいほど拡大する。
【0066】
図12は、平均温度T
aveが高い場合の最高温度T
maxとの関係を説明するグラフである。
図12に示すように平均温度T
aveが高く、最高温度T
maxとの差が小さい場合は、電池温度Tが高い状態であり、各セル電池1の温度の格差が自然に減少する状態である。
【0067】
「Menv」において、Tmax[°C]とTenv[°C]の差分が小さいほどTenvによるセル電池1の電池温度Tの上昇効果が小さいことになる。そのため、Menvを大きくし、入出力制限値W[W]の拡大による発熱で温度のばらつき緩和を狙うことが好ましい。
【0068】
<運用時間算出(S56)>
以上のような手順で、入出力制限値W[W]が決定されると、運用時間算出(S56)を行う。運用時間算出(S56)の手順は、電池温度T[°C]のサンプリングの運用時間が長すぎると、過剰な温度調整となる場合がある。このような過剰な温度調整とならないため、発熱量を予め推定して、運用時間の調整を図るものである。
【0069】
適用時間算出のステップ(S56)では、電池温度T[°C]の取得時間間隔Tint[s]が設定値より長い場合、最高温度Tmax[°C]の単位電池が上限温度TLit[°C]に達しないように取得時間間隔Tint[s]を決定する。
【0070】
取得時間間隔Tint[s]は、セル電池1の熱容量をC[Cal]、上限温度をTLit[°C]、最高温度の電池温度をTmax、入出力電流をI[A]、内部抵抗をR[Ω]としたとき、Tint=C(TLit-Tmax)/I2Rに基づいて算出する。
【0071】
このように設定することで、過剰な温度調整とならないようにすることができる。
以上で入出力制限値拡大のステップ(S5)のサブルーチンであるS51~S56の手順を完了する。
【0072】
ここで、
図6に示すフローチャートに戻り、説明を続ける。入出力制限値を再算出(S5)の手順が完了したら、再計算した入出力制限値W
Lit[W]で入出力(S6)の手順を行う。ここでは、再計算した入出力制限値W
Lit[W]で入出力を行うことで、温度の低いセル電池1の発熱を促進して、セル電池1間の電池温度Tの均一化をはかり、電池パック4の効率化を図ることができる。
【0073】
再計算した入出力制限値WLit[W]で入出力(S6)の手順を実行したら、またS1に戻り本実施形態の制御を行う。
(本実施形態の効果)
以上説明したような本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法及び制御装置では、以下のような効果がある。
【0074】
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法では、電池温度T[°C]を均一化することで効率よく使用することができるという効果がある。
(2)また、入出力制限値WLit[W]により、電池パック4全体の入出力を適切に制御するだけで、温度の格差のあるセル電池1の温度格差を小さくすることができるという効果がある。
【0075】
(3)入出力制限値WLit[W]は、第1の温度T1[°C]以下のセル電池1がある。かつ、取得した単位電池の温度Tの最高温度Tmax[°C]が、設定した第2の温度T2[°C]以下である場合に、拡大される。このため、最も適切な入出力制限値WLit[W]とすることができるという効果がある。
【0076】
(3)入出力制限値算出のステップ(S5)は、最低温度Tmin[°C]のセル電池1のSOCが、設定した充放電範囲の最小値(例えばSOC40[%])未満の場合は、充電側の入出力制限値W[W]の制限値を拡大する。また、最低温度Tmin[°C]のセル電池1のSOCが、設定した充放電範囲の最大値(例えば60[%])を超えた場合は、放電側の入出力制限値W[W]の制限値を拡大する。そして、最低温度Tmin[°C]のセル電池1のSOCが、前記最小値以上、かつ前記最大値以下の場合は、充電側及び放電側の入出力制限値W[W]の双方の制限値を拡大する。このため、低SOC領域で放電したり、高SOC領域で充電するような制御を回避できるという効果がある。
【0077】
(4)運用時間算出(S56)の手順により、電池温度T[°C]のサンプリングの運用時間が長すぎることで、過剰な温度調整となることを回避することができる。このような過剰な温度調整とならないようにするため、運用時間算出(S56)の手順では発熱量を予め推定して、運用時間の調整を図るため、適切な温度管理ができるという効果がある。
【0078】
(5)再計算後の入出力制限値WLit[W]を、WLit=W×Mdiff×Maveにより算出する。このため、最適な入出力制限値WLit[W]を決定することができるという効果がある。
【0079】
(6)さらに、環境温度をTenv[°C]考慮し、入出力制限値をWLit[W]を、WLit=W×Mdiff×Mave×Menvにより算出するため、さらに適切な入出力制限値WLit[W]を決定することができるという効果がある。
【0080】
(別例)
本発明は、上記実施形態に限定されず、例えば以下のように実施することができる。
○本実施形態の二次電池は、組電池として車載用のリチウムイオン二次電池の電池パック4を、単位電池として電池パック4を構成するセル電池1を例に説明した。本発明は、この例示に限定されない。例えば、単位電池としては、単一のリチウムイオン二次電池のセル電池1に替えて、複数のセル電池1をまとめて単位電池とすることができる。また、電池の種類は、リチウムイオン二次電池に限らず、非水電解液二次電池、アルカリ二次電池、全固体電池などであってもよい。また、ニッケル水素蓄電池のような電池では、複数の単電池を含む電池モジュールを単位電池とすることができる。さらに、複数の電池スタック2を含む電池パック4では、電池スタック4自体を単位電池とすることもできる。
【0081】
○また、本実施形態では、組電池に含まれるすべての電池を単位電池として温度を測定したが、例えば、端部と中央部の電池のみの温度を測定して実施することもできる。
○組電池としては、複数のセル電池1や電池モジュールを含む電池スタック、さらに複数の電池スタックを含む電池パック4のようなものが挙げられる。
【0082】
○また、二次電池の形状は、板状のものに限定されず、円柱形のものでもよく、組電池は、必ずしも電池スタック2である必要はない。
○本実施形態では、
図2、
図3に示すような捲回型の電極体10を例に説明したが、捲回型の電極体10に限定されず、積層型の電極体においても適用することができる。
【0083】
○また、セル電池1の電池ケース11は、材質は問わず、アルミニウム合金製や、他のステンレススチール等他の金属、樹脂でも適用できる。
○本実施形態において記載された数値、数値範囲などは、一実施例の説明のための例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。これらは対象となる二次電池などの構成に対応して当業者により最適化されて実施することができる。
【0084】
○図面、グラフは、本実施形態の説明のためのものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、図示されたリチウムイオン二次電池の電極体10等の形状や寸法、バランス、積層枚数などは、模式的に簡略化したり、誇張したりしたものであり、他の図面、グラフも本発明を限定するものではない。
【0085】
○
図6、
図7に示すフローチャートは例示であり、その手順を付加し、削除し、変更し、順序を変えて実施できる。
○その他、本発明は特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、当業者によりその構成を付加し削除し若しくは変更して実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0086】
1…セル電池(単位電池)
2…電池スタック
3…電池ケース
4…電池パック(組電池)
5…制御装置
10…電極体
11…電池ケース
12…蓋体
13…負極集電体
14…負極外部端子
15…正極集電体
16…正極外部端子
17…電解液
18…排出弁
19…注液口
100…負極板
101…負極基材
102…負極合材層
103…負極接続部
110…正極板
111…正極基材
112…正極合材層
113…正極接続部
120…セパレータ
200…車両
20…監視ユニット
21…電圧センサ
22…電流センサ
23…温度センサ
24…ECU(電子制御装置:Electronic Control Unit)
25…CPU
26…メモリ
30…PCU(パワーコントロールユニット:Power Control Unit)
41,42…モータジェネレータ
50…エンジン
60…動力分割装置
70…駆動軸
80…駆動輪
TB…温度
VB…セル電圧
IB…電流
T[°C]…電池温度
T1[°C]…第1の温度
T2[°C]…第2の温度
Tmax[°C]…最高温度
Tmin[°C]…最低温度
Tave[°C]…平均温度
Tenv[°C]…環境温度
Th…設定した閾値
W[W]…現在の入出力制限値
WLit[W]…再計算後の入出力制限値
Tint[s]…取得時間間隔
Δt…時間
C[Cal]…単位電池の熱容量
TLit[°C]…上限温度
I[A]…入出力電流
R[Ω]…内部抵抗
Mdiff…Tmax[°C]とTmin[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)
Mave…Tmax[°C]とTave[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)
Menv…Tmax[°C]とTenv[°C]の差分から決定する倍率(1.0倍以上)