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特開2023-167568膜反応器及び逆水性ガスシフト反応システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167568
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】膜反応器及び逆水性ガスシフト反応システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/40 20170101AFI20231116BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20231116BHJP
   B01D 63/06 20060101ALI20231116BHJP
   B01J 8/02 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C01B32/40
B01D53/22
B01D63/06
B01J8/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078850
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清瀧 元
(72)【発明者】
【氏名】梅村 友章
(72)【発明者】
【氏名】福本 康二
【テーマコード(参考)】
4D006
4G070
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA28
4D006JA25A
4D006JA58A
4D006JA70A
4D006KA31
4D006KA72
4D006KB30
4D006KD30
4D006KE12R
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB20
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4D006PB67
4D006PC69
4G070AA01
4G070AB05
4G070BB03
4G070CA06
4G070CA09
4G070CB18
4G070CC11
4G070CC12
4G070DA21
4G146JA01
4G146JB04
4G146JC01
4G146JC22
4G146JC23
(57)【要約】
【課題】膜反応器及びそれを備える逆水性ガスシフト反応システムであって、分子篩作用により生成ガスから水蒸気を分離する水蒸気分離膜を備えるものにおいて、水蒸気分離膜を透過して反応系外へ分離される水素を低減するものを提供する。
【解決手段】膜反応器は、逆水性ガスシフト反応触媒が充填され、二酸化炭素及び水素を含む原料ガスを導入する原料ガス入口、及び、逆水性ガスシフト反応によって原料ガスから生成された一酸化炭素及び水蒸気を含む生成ガスを排出する生成ガス出口を有する反応室と、スイープガス入口及びスイープガス出口を有し、スイープガスが流れるスイープガス流路と、反応室とスイープガス流路とを隔てるように配置され、分子篩作用により水蒸気及び水素の透過を許容する水蒸気分離膜とを備える。スイープガスが、水素又は水素を含むガスである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆水性ガスシフト反応触媒が充填され、二酸化炭素及び水素を含む原料ガスを導入する原料ガス入口、及び、逆水性ガスシフト反応によって前記原料ガスから生成された一酸化炭素及び水蒸気を含む生成ガスを排出する生成ガス出口を有する反応室と、
スイープガスを導入するスイープガス入口、及び、前記スイープガスを排出するスイープガス出口を有し、前記スイープガスが流れるスイープガス流路と、
前記反応室と前記スイープガス流路とを隔てるように配置され、分子篩作用により二酸化炭素及び一酸化炭素の透過を阻止し且つ水蒸気及び水素の透過を許容する水蒸気分離膜とを備え、
前記スイープガスが、水素又は水素を含むガスである、
膜反応器。
【請求項2】
前記スイープガスは、水素を25%以上100%以下の範囲で含み、
前記スイープガス入口における前記スイープガスの全圧は、前記原料ガス入口における前記原料ガスの全圧の0.25倍以上1.0倍以下である、
請求項1に記載の膜反応器。
【請求項3】
前記スイープガスは、水素を25%以上100%以下の範囲で含み、
前記スイープガス入口における前記スイープガスの全圧は、前記原料ガス入口における前記原料ガスの全圧の0.5倍以上1.0倍以下である、
請求項1に記載の膜反応器。
【請求項4】
前記スイープガス入口における前記スイープガスの水素分圧は、前記原料ガス入口における前記原料ガスの水素分圧の0.1倍以上1.0倍以下である、
請求項1に記載の膜反応器。
【請求項5】
前記スイープガス入口における前記スイープガスの水素分圧は、前記原料ガス入口における前記原料ガスの水素分圧の0.5倍以上1.0倍以下である、
請求項1に記載の膜反応器。
【請求項6】
前記スイープガス入口における前記スイープガスの水素分圧は、前記原料ガス入口における前記原料ガスの水素分圧と実質的に同一である、
請求項1に記載の膜反応器。
【請求項7】
請求項1に記載の膜反応器と、
前記原料ガス入口と接続されて、前記反応室へ前記原料ガスを供給する原料ガスラインと、
前記生成ガス出口と接続されて、前記反応室から排出された前記生成ガスが流れる生成ガスラインと、
前記スイープガス入口と接続されて、前記スイープガス流路へ前記スイープガスを供給するスイープガス供給ラインと、
前記スイープガス出口と接続されて、前記スイープガス流路から排出されたスイープ排ガスが流れるスイープガス排出ラインとを、備える、
逆水性ガスシフト反応システム。
【請求項8】
前記スイープガス排出ラインは前記スイープ排ガスに含まれる水蒸気を冷却して分離するコールドトラップを有し、前記コールドトラップで水蒸気が分離された前記スイープ排ガスを前記スイープガス供給ラインへ送るリサイクルラインを、更に備える、
請求項7に記載の逆水性ガスシフト反応システム。
【請求項9】
前記スイープガス排出ラインは前記スイープ排ガスに含まれる水蒸気を冷却して分離するコールドトラップを有し、前記コールドトラップで水蒸気が分離された前記スイープ排ガスを前記原料ガスラインへ送るリターンラインを、更に備える、
請求項7に記載の逆水性ガスシフト反応システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、逆水性ガスシフト反応システム及びそれが備える膜反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスの一種である二酸化炭素(CO)を炭素資源と捉えて回収し再利用しようという、カーボンリサイクルが提案されている。その中の一つに、二酸化炭素を一酸化炭素(CO)に還元して利用しようとする動きがある。
【0003】
二酸化炭素を一酸化炭素にする方法の一つに逆水性ガスシフト反応が知られている。逆水性ガスシフト反応は、二酸化炭素に水素(H)を加えることで一酸化炭素と水(HO)を生成させる手法である。数1は、逆水性ガスシフト反応の反応式を示す。
【0004】
【化1】
【0005】
逆水性ガスシフト反応は、可逆反応であることが知られている。従って、逆水性ガスシフト反応の順反応を促進させるため、即ち、化1の反応式において反応を右へ進めるためには、生成物である一酸化炭素又は水を反応系から分離して平衡を崩すことが望ましい。
【0006】
そこで、特許文献1では、ケーシングの内部に分離膜エレメントと触媒とを配置し、触媒で合成反応を進行させながら、合成により生成された水蒸気を分離膜エレメントで選択的に分離することにより、合成反応を促進するように構成された膜反応器(メンブレンリアクター)が提案されている。この合成反応の例としては、エステル化反応、メタノール合成反応、ジメチルエーテル合成反応等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-50129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の膜反応器に逆水性ガスシフト反応を適用した場合、水蒸気分離膜を含む分離膜エレメントにより反応系から水蒸気が分離されることにより順反応の反応速度が高まる。特許文献1の水蒸気分離膜は無機多孔体であり、当該無機多孔体の有する細孔の分子篩作用により水蒸気の透過が許容される。このような水蒸気分離膜は、性質上、水蒸気と分子サイズの近い水素の透過も許容する。逆水性ガスシフト反応において反応物である水素が水蒸気分離膜を透過して反応系から分離されると、反応系内から原料ガスの水素を損失してしまい、逆反応の反応速度が高まる。よって、逆水性ガスシフト反応の順方向の反応速度のみを高めるためには、反応系の水素の水蒸気分離膜の透過を防ぐことが望ましい。
【0009】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、逆水性ガスシフト反応システム及びそれが備える膜反応器であって、分子篩作用により生成ガスから水蒸気を分離する水蒸気分離膜を備えるものにおいて、水蒸気分離膜を透過して反応系外へ分離される水素を低減するものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る膜反応器は、
逆水性ガスシフト反応触媒が充填され、二酸化炭素及び水素を含む原料ガスを導入する原料ガス入口、及び、逆水性ガスシフト反応によって前記原料ガスから生成された一酸化炭素及び水蒸気を含む生成ガスを排出する生成ガス出口を有する反応室と、
スイープガスを導入するスイープガス入口、及び、前記スイープガスを排出するスイープガス出口を有し、前記スイープガスが流れるスイープガス流路と、
前記反応室と前記スイープガス流路とを隔てるように配置され、分子篩作用により二酸化炭素及び一酸化炭素の透過を阻止し且つ水蒸気及び水素の透過を許容する水蒸気分離膜とを備え、
前記スイープガスが、水素又は水素を含むガスであることを特徴としている。
【0011】
また、本開示の一態様に係る逆水性ガスシフト反応システムは、
上記の膜反応器と、
前記原料ガス入口と接続されて、前記反応室へ前記原料ガスを供給する原料ガスラインと、
前記生成ガス出口と接続されて、前記反応室から排出された前記生成ガスが流れる生成ガスラインと、
前記スイープガス入口と接続されて、前記スイープガス流路へ前記スイープガスを供給するスイープガス供給ラインと、
前記スイープガス出口と接続されて、前記スイープガス流路から排出されたスイープ排ガスが流れるスイープガス排出ラインとを、備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記した本開示の一態様によれば、逆水性ガスシフト反応システム及びそれが備える膜反応器であって、分子篩作用により生成ガスから水蒸気を分離する水蒸気分離膜を備えるものにおいて、水蒸気分離膜を透過して反応系外へ分離される水素を低減するものを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示の一態様に係る逆水性ガスシフト反応器の概略構成を示す図である。
図2図2は、変形例1に係る逆水性ガスシフト反応器の概略構成を示す図である。
図3図3は、変形例2に係る逆水性ガスシフト反応器の概略構成を示す図である。
図4図4は、ガス流量比ごとの圧力比prと評価値との関係を示す図表である。
図5図5は、ガス流量比ごとの圧力比prと評価値との関係を示す図表である。
図6図6は、ガス流量比ごとの圧力比prと評価値との関係を示す図表である。
図7図7は、ガス流量比ごとの圧力比prと評価値との関係を示す図表である。
図8図8は、ガス流量比ごとの圧力比prと評価値との関係を示す図表である。
図9図9は、ガス流量比ごとの圧力比prと評価値との関係を示す図表である。
図10図10は、解析モデルを説明する図である。
図11図11は、解析結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して本開示の実施の形態を説明する。図1は本開示の一態様に係る逆水性ガスシフト反応システム1の概略構成を示す図である。同図において、膜反応器2は断面図で示されている。逆水性ガスシフト反応システム1は、二酸化炭素と水素から成る原料ガスから、逆水性ガスシフト反応により、一酸化炭素と水蒸気からなる生成ガスを生成するものであり、一酸化炭素の製造に利用される。
【0015】
図1に示すように、逆水性ガスシフト反応システム1は、膜反応器2と、原料ガスライン21と、生成ガスライン22と、スイープガス供給ライン25と、スイープガス排出ライン26とを備える。膜反応器2では、反応系において反応と生成ガスの分離が同時に行われることによって、反応温度での平衡転化率を超える転化率を得ることができる。
【0016】
膜反応器2は、逆水性ガスシフト反応が行われる反応室17とスイープガスが流れるスイープガス流路18とを有する。反応室17とスイープガス流路18は、分離膜エレメント14によって隔てられている。
【0017】
本実施形態に係る膜反応器2の容器本体10は、任意の軸方向Aに延びる両端閉塞の円筒形状を有する。容器本体10の第1端部には反応室17への入口である原料ガス入口11が配置され、容器本体10の第1端部と反対側の第2端部には反応室17からの出口である生成ガス出口12が配置されている。原料ガス入口11と生成ガス出口12は軸方向Aに離れている。原料ガス入口11には原料ガスライン21が接続されている。原料ガスライン21から原料ガス入口11を通じて反応室17へ原料ガスが供給される。原料ガスは、二酸化炭素及び水素を含む。原料ガスの水素と二酸化炭素の混合比は、体積比で約3:1である。原料ガスの温度は、触媒13に対応した反応に好適な温度である。生成ガス出口12には生成ガスライン22が接続されている。生成ガス出口12を通じて、反応室17から生成ガスが排出される。但し、生成ガス出口12を通じて反応系外へ排出されるガスには、生成ガスの他、未反応の原料ガスが含まれる。
【0018】
本実施形態に係る分離膜エレメント14は、容器本体10に挿通されており、容器本体10と略同軸に配置された中空の円筒形状を有する。分離膜エレメント14の中空部分は、反応室17から分離膜エレメント14を透過した透過ガス及びスイープガスが通過するスイープガス流路18となる。
【0019】
分離膜エレメント14は、分子篩作用により二酸化炭素及び一酸化炭素の通過を阻止し、水蒸気及び水素の透過を許容する水蒸気分離膜14a、いわゆる、脱水膜を含む。但し、分離膜エレメント14は、厳密に二酸化炭素及び一酸化炭素の透過を阻止するのではなく、水蒸気に対し僅かな(例えば、数十分の一程度)の二酸化炭素及び一酸化炭素の透過を許容するものであってよい。分離膜エレメント14は、多孔質支持基材に水蒸気分離膜14aが担持されたものである。水蒸気分離膜14aは、上記の分子篩作用を有するものであれば特に限定されないが、ナノ多孔質ゼオライト分離膜が例示される。ナノ多孔質ゼオライト分離膜を含む分離膜エレメント14は、セラミックス質、アルミナ質、炭素質、SiC質、SiO2質、又は金属質からなる多孔質支持基材の表面にナノ多孔質ゼオライト分離膜が担持されたものである。
【0020】
分離膜エレメント14の外壁は膜反応器2内に露出している。膜反応器2の内壁と分離膜エレメント14の外壁との間は逆水性ガスシフト反応が生じる反応室17となっており、当該反応室17には水性ガスシフト反応触媒(以下、単に「触媒13」と称する)が充填されている。触媒13は、逆水性ガスシフト反応に活性を示すものであれば特に限定されない。このような触媒13として、Ni,Co,Fe等のVIII族触媒、Mo等のVI族触媒、Cu系触媒などの金属錯体触媒が知られている。
【0021】
分離膜エレメント14の第1端部には、スイープガス流路18の入口であるスイープガス入口15が配置されている。分離膜エレメント14の第1端部と反対側の第2端部には、スイープガス流路18の出口であるスイープガス出口16が配置されている。スイープガス入口15とスイープガス出口16は軸方向Aに離間している。スイープガス入口15にはスイープガス供給ライン25が接続されている。スイープガス供給ライン25を通じてスイープガス入口15へスイープガスが供給される。スイープガス入口15へ供給されたスイープガスは、スイープガス流路18を通過し、分離膜エレメント14を透過してきた透過ガスを同伴して、スイープガス出口16から排出される。スイープガス出口16にはスイープガス排出ライン26が接続されている。
【0022】
原料ガス入口11及びスイープガス入口15は、逆水性ガスシフト反応システム1において軸方向Aの同一側に配置されており、反応室17の気体の流れとスイープガスの流れとは略平行となる。但し、膜反応器2は、反応室17の気体の流れとスイープガスの流れが対向するように構成されていてもよい。
【0023】
スイープガスは、水素又は水素を含むガスである。一般に、スイープガスは原料ガス及び原料ガスと反応しない気体が採用され、例えば、逆水性ガスシフト反応ではスイープガスとして窒素が採用されてきた。これに対し、本開示では、反応室17の水素の分離膜エレメント14の透過を抑制するために、スイープガスとして水素が用いられている。
【0024】
上記構成の逆水性ガスシフト反応システム1を用いた一酸化炭素製造方法について説明する。膜反応器2の原料ガス入口11から反応室17へ原料ガスである二酸化炭素及び水素が供給されると、触媒13の作用によって逆水性ガスシフト反応が生じ、生成ガスである一酸化炭素及び水蒸気が生じる。
【0025】
生成ガスの大部分は、生成ガス出口12を通じて反応室17から排出され、製品として回収される。反応室17の水蒸気の一部は、分離膜エレメント14を透過してスイープガス流路18へ移動し、反応室17(即ち、反応系)から分離される。反応室17の水素は、分離膜エレメント14を透過可能ではあるが、スイープガスに含まれる水素によって分離膜エレメント14の透過が抑制される。このように、原料ガスである水素は反応室17に留まり、生成ガスである水蒸気が水蒸気分離膜14aを含む分離膜エレメント14を透過して反応室17から分離される。これにより、逆水性ガスシフト反応の順反応の反応速度が向上する、換言すれば、順反応が促進される。
【0026】
スイープガス流路18へ移動した水蒸気は、スイープガスに同伴してスイープガス出口16を通じてスイープガス流路18から排出される。従って、スイープガス流路18から排出されたスイープ排ガスには、水素及び水蒸気が含まれる。スイープガス出口16に接続されたスイープガス排出ライン26には、コールドトラップ31が設けられている。コールドトラップ31は、スイープ排ガスに含まれる水蒸気を冷却して液体(即ち、水)の形で除去する。
【0027】
コールドトラップ31は、リサイクルライン32によってスイープガス供給ライン25と接続されている。コールドトラップ31で水蒸気が分離されたスイープ排ガスは、リサイクルライン32を通じてスイープガス供給ライン25へ送られ、スイープガスとして再利用される。なお、リサイクルライン32は、スイープガス供給ライン25を介さずにスイープガス入口15と直接に接続されていてもよい。この場合、コールドトラップ31で水蒸気が分離されたスイープ排ガスは、リサイクルライン32を通じてスイープガス入口15へ送られ、スイープガスとして再利用される。
【0028】
スイープ排ガスには、水素及び水蒸気の他に、微量の一酸化炭素及び二酸化炭素が含まれることがある。そこで、図2に示すように、コールドトラップ31はリターンライン33によって原料ガスライン21と接続されていてもよい。コールドトラップ31で水蒸気が分離されたスイープ排ガスは、リターンライン33を通じて原料ガスライン21へ送られ、原料ガスの一部として利用される。なお、リターンライン33は原料ガスライン21を介さずに原料ガス入口11と直接に接続されていてもよい。この場合、コールドトラップ31で水蒸気が分離されたスイープ排ガスは、リターンライン33を通じて原料ガス入口11へ送られ、原料ガスの一部として利用される。
【0029】
また、逆水性ガスシフト反応システム1は、リサイクルライン32及びリターンライン33の両方を備えていてもよい。この場合、図3に示すように、コールドトラップ31はリターンライン33介して原料ガスライン21(又は、原料ガス入口11)と接続されているとともに、コールドトラップ31はリサイクルライン32を介してスイープガス供給ライン25(又はスイープガス入口15)と接続されている。コールドトラップ31で水蒸気が分離されたスイープ排ガスは、原則としてスイープガスとして再利用される。そして、循環するスイープガス中に含まれる微量の一酸化炭素及び二酸化炭素を除去する目的で、定期的にスイープ排ガスが原料ガスの一部として膜反応器2へ戻されてもよい。
【0030】
〔数値解析及びその結果〕
ここで、スイープガスによる水蒸気分離膜14aを含む分離膜エレメント14の水素透過抑制効果を検証するために行われた数値解析及びその解析結果について説明する。
【0031】
〔数値解析例1〕
先ず、数値解析例1から説明する。数値解析例1では、スイープ全圧/原料ガス全圧の圧力比prの好適な範囲を探索する。次の[数1]に示す式1乃至式3は、数値解析のための基礎方程式である。この基礎方程式の(式1)では、原料ガス中の成分iの流量をFi(成分iの原料ガス流量[mol/s])とし、単位長さあたりのFiの変化量dFi/dzを求める。(式3)は、(式1)中のRを求める式である。また、この基礎方程式の(式2)では、スイープガス中の成分iの流量をQi(成分iのスイープガス流量[mol/s])とし、分離膜エレメント14の単位長さあたりのQiの変化量dQi/dzを求める。[表1]では、式1乃至式3で使用される記号を説明している。
【0032】
【数1】
【0033】
【表1】
【0034】
次の[数2]は、[数1]に示した基礎方程式を無次元化したものである。無次元化された基礎方程式の(式4)では、原料ガス中の成分iの流量が無次元化されたものをfi(無次元化した成分iの原料ガス流量)とし、単位無次元化長さ当たりのfiの変化量dfi/dζを求める。無次元化された基礎方程式の(式5)では、スイープガス中の成分iの流量が無次元化されたものをqi(無次元化した成分iのスイープガス流量)とし、単位無次元化長さ当たりのqiの変化量qi/dζを求める。無次元化された基礎方程式の(式6)乃至(式13)は、(式4)及び(式5)の各要素を求める式である。[表1]及び[表2]では、式4乃至式13で使用される記号を説明している。
【0035】
【数2】
【0036】
【表2】
【0037】
数値解析では、無次元化された基礎方程式が用いられた。無次元化された基礎方程式のパラメータは、Da、θ、Pr、及び、入口のガス流量比(スイープガス/原料ガス)である。Daは相対的な反応速度の速さを表し、θは相対的な膜透過速度を表す。パラメータのうちDa、θ、及び、流量比は実プロセスを想定した十分に大きな値と仮定され、Prは1以下の変数とした。また、原料ガスの組成比、スイープガスの組成、及び、分離膜エレメント14の選択性の解析条件は実プロセスを想定して設定された。具体的な解析条件は次の通りである。
・入口のガス流量比(スイープガス/原料ガス)は、(a)1、(b)3、(c)5、(d)7.5、(e)10、で変化させる。
・Da=1。
・θ=10。
・原料ガス入口における原料ガス中のHとCOの組成比(体積比)は、(a)1:1、(b)3:1、で変化させる。
・スイープガス入口におけるスイープガスの組成は、(a)100%H、(b)75%H-25%N、(c)50%H-50%N、(d)100%N、で変化させる。
・HO/Hの選択性αHは2。
・HO/Xの選択性αXは50(X=CO,CO,N)。
※選択性は、ガスαとガスβの透過度の比であり、[ガスαの透過度/ガスβの透過度]がガスβに対するガスαの選択性を表す。
【0038】
数値解析では、上記の解析条件の下、スイープガス入口におけるスイープガスの組成が100%Hの場合と、100%Nの場合との両方において、スイープガス全圧/原料ガス全圧の圧力比prを(0.05、0.1、0.25、0.5、0.75、1)で変化させて、CO反応率を求めた。CO反応率は、[生成ガス出口12から排出されたガス中のCO/原料ガス入口11に供給された原料ガス中のCO(体積比)]で表される。
【0039】
解析結果は、表3-8、並びに、図5乃至図9の図表に示されている。表3-8では、列が入口のガス流量比(スイープガス/原料ガス)を表し、行が圧力比prを表し、ガス流量比及び圧力比prを変化させたときの、評価値を表している。同様に、図5乃至図9では、横軸は圧力比pr(=入口のスイープガス全圧/原料ガス全圧)を表し、縦軸が評価値を表している。評価値は、各圧力比prにおける[スイープガスが所定組成の場合のCO反応率/スイープガスが100%Nの場合のCO反応率]である。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
【表8】
【0046】
解析結果から、スイープガスが25%以上の水素を含む場合は、評価値は全て1より大きな値となったことから、スイープガスが100%Nである場合と比較して、高いCO反応率が得られることが明らかとなった。ここで、評価値が1.30を超える場合に逆水性ガスシフト反応を良好に促進できていると評価し、評価値が1.50を超える場合に逆水性ガスシフト反応を著しく促進できていると評価する。圧力比prが0.25以上では原料ガスの組成やスイープガスの組成に関わらず1.30以上の評価値が得られている、即ち、スイープガスの組成が100%Nの場合と比較して1.3倍以上のCO反応率が得られていることから、圧力比prが0.25以上の範囲では、水素ガスがスイープガスとして用いられることによって、反応室17からスイープガス流路18への水素ガスの透過が効果的に抑えられているといえる。また、圧力比prが0.5以上では原料ガスの組成やスイープガスの組成に関わらず1.50以上の評価値が得られている、即ち、スイープガスの組成が100%Nの場合と比較して1.5倍以上のCO反応率が得られていることから、圧力比prが0.5以上の範囲では、水素ガスがスイープガスとして用いられることによって、反応室17からスイープガス流路18への水素ガスの透過が著しく効果的に抑えられているといえる。
【0047】
〔数値解析例2〕
続いて、数値解析例2について説明する。数値解析2では、原料ガス入口における原料ガスの水素分圧に対する、スイープガス入口におけるスイープガスの水素分圧を探索する。
【0048】
図10は、逆水性ガスシフト反応システム1の解析モデルであり、解析条件は次の通りである。
<解析モデルの膜反応器2>
・軸方向Aの長さLは100mm。
・内径Dは25.4mm。
<解析モデルの分離膜エレメント14>
・水蒸気分離膜14aはナノ多孔質ゼオライト分離膜。
・直径dは10mm。
・HOの透過度は5000GPU。
※透過度は、単位面積、単位分圧差あたりのガスの透過流量を表す物性値である。ガスの透過流量は、膜面積×ガスの透過度×ガスの分圧差で決定される。
・HO/Hの選択性は2。
・HO/Xの選択性は50(X=CO,CO,N)。
※選択性は、ガスαとガスβの透過度の比であり、[ガスαの透過度/ガスβの透過度]がガスβに対するガスαの選択性を表す。
<原料ガス>
・原料ガス入口11におけるHとCOの組成比は3:1(体積比)。
・流量は1.0×10-3Nm/min。
・原料ガス入口11における全圧は1MPaA(即ち、水素分圧は0.75MPaA)。
<スイープガス>
・スイープガス入口15における組成は100%H又は100%N
・スイープガス入口15における全圧はパラメータ。
・流量はパラメータ(1.0×10-3,3.0×10-3,5.0×10-3,7.0×10-3,10.0×10-3[単位はNm/min])。
【0049】
次の表1に示すように、実施例1~3及び比較例1~3では、各々にスイープガスの全圧を与え、スイープガスの流量を変化させた。また、比較例4では、解析モデルの分離膜エレメント14の全ガスの透過度をゼロとして分離膜エレメント14及びスイープガス流路18が無いものと見做し、分離膜エレメント14及びスイープガスの影響を除外した。
【0050】
【表9】
【0051】
解析では、上記解析モデル及び解析条件の下、CO反応率を求めた。CO反応率は、[生成ガス出口12から排出されたガス中のCO/原料ガス入口11に供給された原料ガス中のCO(体積比)]で表される。解析結果は、図11の図表に示されている。この図表の縦軸はCO反応率を表し、横軸はスイープガス流量を表す。
【0052】
図11に示されるように、逆水性ガスシフト反応システム1では、分離膜エレメント14を備えない場合(比較例4)、及び、スイープガスがNである場合(比較例1~3)と比較して、スイープガスがHである場合(実施例1~3)のCO反応率は高い。CO反応率が高いことは、逆水性ガスシフト反応の順反応が促進されたことを意味する。
【0053】
また、実施例1~3の解析結果から、スイープガスの水素分圧と原料ガスの水素分圧との差が小さいほどCO反応率が高いことが明らかである。
【0054】
実施例1~3の解析結果に基けば、スイープガス入口15におけるスイープガスの水素分圧は、原料ガス入口11における原料ガスの水素分圧の0.1倍以上1.0倍以下であることが望ましく、原料ガス入口11における原料ガスの水素分圧の0.5倍以上1.0倍以下であることが更に望ましく、原料ガス入口11における原料ガスの水素分圧と略同一であることが殊更に望ましい。なお、反応室17内の水素分圧は原料ガス入口11から生成ガス出口12へ向けて減少すると想定されることから、原料ガス入口11における原料ガスの水素分圧を基準としているが、反応室17内の原料ガス入口11近傍の所定位置の水素分圧を基準としてもよい。
【0055】
スイープガスの水素分圧が原料ガスの水素分圧よりも高いと、スイープガス中の水素が分離膜エレメント14を透過して反応室17へ移動する。スイープガス中の水素が反応室17へ移動すると、反応室17の水素が増えて逆水性ガスシフト反応の順反応が促進される。このことから、スイープガスの水素分圧が原料ガスの水素分圧よりも高くてもよく、例えば、スイープガス入口15におけるスイープガスの水素分圧は原料ガス入口11における原料ガスの水素分圧の1.3倍以下であってもよい。但し、スイープガスの全圧力が高くなるにつれて反応室17の水蒸気の分離膜エレメント14の透過が阻害されることから、スイープガス全圧力は原料ガス入口11における原料ガスの全圧力よりも低いことが条件となる。
【0056】
また、実施例1~3の解析結果から、スイープガスの流量が多いほどCO反応率が高いことが明らかである。但し、スイープガスの流量が増えてもCO反応率は或る値に収束することが推測されることから、CO反応率と経済性とのバランスを考慮してスイープガスの流量が決定されることが望ましい。
【0057】
〔総括〕
以上に説明した通り、本開示の第1の項目に係る膜反応器2は、
逆水性ガスシフト反応触媒13が充填され、二酸化炭素及び水素を含む原料ガスを導入する原料ガス入口11、及び、逆水性ガスシフト反応によって原料ガスから生成された一酸化炭素及び水蒸気を含む生成ガスを排出する生成ガス出口12を有する反応室17と、
スイープガスを導入するスイープガス入口15、及び、スイープガスを排出するスイープガス出口16を有し、スイープガスが流れるスイープガス流路18と、
反応室17とスイープガス流路18とを隔てるように配置され、分子篩作用により二酸化炭素及び一酸化炭素の透過を阻止し且つ水蒸気及び水素の透過を許容する水蒸気分離膜14aとを備え、
スイープガスが、水素又は水素を含むガスであることを特徴としている。ここで、水蒸気分離膜14aは、多孔質支持基材に担持された状態で膜反応器2に備えられていてよい。
【0058】
本開示の第2の項目に係る膜反応器2は、第1の項目に係る膜反応器2において、スイープガスは、水素を25%以上100%以下の範囲で含み、スイープガス入口15におけるスイープガスの全圧は、原料ガス入口11における原料ガスの全圧の0.25倍以上1.0倍以下であるものである。
【0059】
本開示の第3の項目に係る膜反応器2は、第1の項目に係る膜反応器2において、スイープガスは、水素を25%以上100%以下の範囲で含み、スイープガス入口15におけるスイープガスの全圧は、原料ガス入口11における原料ガスの全圧の0.5倍以上1.0倍以下であるものである。
【0060】
上記構成の膜反応器2では、スイープガス流路18にスイープガスとして流れる水素によって、反応室17の水素が水蒸気分離膜14aを透過してスイープガス流路18へ移動することが抑制される。このようにして水蒸気分離膜14aの水蒸気選択性が高まり、原料ガスである水素は反応室17に留まり、生成ガスである水蒸気が水蒸気分離膜14aを透過して反応室17から分離される。これにより、膜反応器2における逆水性ガスシフト反応の順反応の反応速度が向上する、換言すれば、順反応が促進される。
【0061】
本開示の第4の項目に係る膜反応器2は、第1の項目に係る膜反応器2において、スイープガス流路18のスイープガス入口15におけるスイープガスの水素分圧は、反応室17の原料ガス入口11における原料ガスの水素分圧の0.1倍以上1.0倍以下であるものである。
【0062】
本開示の第5の項目に係る膜反応器2は、第1の項目に係る膜反応器2において、スイープガス流路18のスイープガス入口15におけるスイープガスの水素分圧は、反応室17の原料ガス入口11における原料ガスの水素分圧の0.5倍以上1.0倍以下であるものである。
【0063】
本開示の第6の項目に係る膜反応器2は、第1の項目に係る膜反応器2において、スイープガス流路18のスイープガス入口15におけるスイープガスの水素分圧は、反応室17の原料ガス入口11における原料ガスの水素分圧と実質的に同一であるものである。
【0064】
また、本開示の第7の項目に係る逆水性ガスシフト反応システム1は、
第1~6のいずれかの項目に係る膜反応器2と、
原料ガス入口11と接続されて、反応室17へ原料ガスを供給する原料ガスライン21と、
生成ガス出口12と接続されて、反応室17から排出された生成ガスが流れる生成ガスライン22と、
スイープガス入口15と接続されて、スイープガス流路18へスイープガスを供給するスイープガス供給ライン25と、
スイープガス出口16と接続されて、スイープガス流路18から排出されたスイープ排ガスが流れるスイープガス排出ライン26とを、備えるものである。
【0065】
本開示の第8の項目に係る膜反応器2は、第7の項目に係る逆水性ガスシフト反応システム1において、スイープガス排出ライン26はスイープガス流路18から排出されるスイープ排ガスに含まれる水蒸気を冷却して分離するコールドトラップ31を有し、水蒸気が分離されたスイープ排ガスをスイープガス供給ライン25へ送るリサイクルライン32を更に備えたものである。
【0066】
上記構成の逆水性ガスシフト反応システム1によれば、スイープガスを循環利用することができ、経済的である。
【0067】
本開示の第9の項目に係る膜反応器2は、第7の項目に係る逆水性ガスシフト反応システム1において、スイープガス排出ライン26はスイープガス流路18から排出されるスイープ排ガスに含まれる水蒸気を冷却して分離するコールドトラップ31を有し、コールドトラップ31で水蒸気が分離されたスイープ排ガスを原料ガスライン21へ送るリターンライン33を更に備えたものである。
【0068】
上記構成の逆水性ガスシフト反応システム1によれば、スイープ排ガスに含まれる水素及び二酸化炭素を原料ガスの一部として利用することができ、原料ガスを有効に利用することができる。
【0069】
以上に本開示の好適な実施の形態(及び変形例)を説明したが、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0070】
例えば、上記実施形態に係る逆水性ガスシフト反応システム1の膜反応器2及び分離膜エレメント14は何れも円筒形であるが、これらの形状は円筒形に限定されない。膜反応器2は、反応室17と、反応室17と分離膜エレメント14で隔てられたスイープガス流路18とを有するものであればよい。
【符号の説明】
【0071】
1 :逆水性ガスシフト反応システム
2 :膜反応器
10 :容器本体
11 :原料ガス入口
12 :生成ガス出口
13 :逆水性ガスシフト反応触媒
13 :触媒
14 :分離膜エレメント
14a :水蒸気分離膜
15 :スイープガス入口
16 :スイープガス出口
17 :反応室
18 :スイープガス流路
21 :原料ガスライン
22 :生成ガスライン
25 :スイープガス供給ライン
26 :スイープガス排出ライン
31 :コールドトラップ
32 :リサイクルライン
33 :リターンライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11