(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167580
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電源設備の異常診断装置および異常診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20231116BHJP
H02B 3/00 20060101ALI20231116BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
H02B3/00 M
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078868
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 智
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文章
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 栄也
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD21
2G024BA11
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA01
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】着脱が容易で短い計測時間で電源設備における異常の発生有無を精度よく診断可能な電源設備の異常診断装置、および該異常診断装置を用いた異常診断方法を提供する。
【解決手段】異常診断装置は、筐体と、筐体に所定の固定箇所で固定されて電流を負荷に供給する導体とを備えた電源設備の異常を診断する。異常診断装置は、加振部と計測部とを備える。加振部は、導体に振動を与える。計測部は、加振部が導体に与えた振動の特性を示す値を計測する。加振部および計測部は、固定箇所もしくは当該固定箇所の近傍に配置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、前記筐体に所定の固定箇所で固定されて電流を負荷に供給する導体とを備えた電源設備の異常を診断する異常診断装置であって、
前記導体に振動を与える加振部と、
前記加振部が前記導体に与えた前記振動の特性を示す値を計測する計測部と、を備え、
前記加振部および前記計測部は、前記固定箇所もしくは当該固定箇所の近傍に配置される
異常診断装置。
【請求項2】
前記加振部および前記計測部と、前記固定箇所もしくは前記固定箇所の近傍とは、互いに対する配置部分が磁性体とされ、
前記加振部および前記計測部は、磁石を介して前記固定箇所もしくは前記固定箇所の近傍に着脱自在に配置される
請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記電源設備は、複数の前記導体の各々が前記固定箇所を有し、隣り合う前記導体同士が第1の締結部材で締結された締結箇所で電気的に接続されており、
前記加振部は、前記締結箇所で締結される一方の前記導体の前記固定箇所もしくは当該固定箇所の近傍に配置され、
前記計測部は、前記固定箇所もしくは当該固定箇所の近傍に複数配置され、複数の前記計測部のうちの一つは、前記加振部と同じ前記固定箇所もしくは当該固定箇所の近傍に配置され、複数の前記計測部のうちのそれ以外は、前記一方の前記導体とは前記締結箇所を挟んで反対側に位置する前記導体の前記固定箇所もしくは当該固定箇所の近傍のうちの異なる複数の位置に配置される
請求項1または2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記導体は、前記固定箇所において前記筐体に第2の締結部材で締結され、
前記加振部および前記計測部は、前記第2の締結部材もしくは当該第2の締結部材の近傍に配置される
請求項3に記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記加振部と、前記加振部と同じ前記固定箇所に配置される前記計測部は、一体化された一つの部材として構成される
請求項4に記載の異常診断装置。
【請求項6】
筐体と、前記筐体に配置されて電流を負荷に供給する導体とを備えた電源設備の異常を診断する異常診断方法であって、
前記導体が前記筐体に固定された固定箇所もしくは前記固定箇所の近傍で前記導体に振動を与え、前記振動の特性を計測して前記電源設備の異常を診断する
異常診断方法。
【請求項7】
前記導体に前記振動を与える加振部と、前記加振部が前記導体に与えた前記振動の特性を示す値を計測する複数の計測部とを、前記固定箇所もしくは前記固定箇所の近傍に磁石を介して取り付け、
前記加振部から前記導体に前記振動を与え、
前記振動の前記特性を前記計測部で計測して前記電源設備の異常を診断し、
前記電源設備の異常を診断した後、前記加振部および前記計測部を前記固定箇所もしくは前記固定箇所の近傍から取り外す
請求項6に記載の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電源設備の異常診断装置および異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受変電設備などの電源設備では、電力の安定供給のため、定期的な保守点検や状態監視などによる予防保全が図られている。電源設備は、初期不良、経年的な劣化や汚損などにより、局部的に過熱することがある。その程度によっては、過熱した部分が焼損などに至るおそれがある。特に、通電する導体同士がボルトなどの締結部材で締結される部分は、締結部材の緩みによって導体間の接触抵抗が増加して過熱する場合がある。
【0003】
このような締結部材の緩みは、締結箇所の機械的な振動特性の変化を捉えることで検知可能である。かかる方法によれば、締結箇所の過熱が顕在化する前に該締結箇所の緩みによる接触不良を検知し、電源設備の異常を診断できる。その一方で、締結箇所の締結状態が正常であるか否かを判定するためには、緩みのない正常な締結状態との振動特性の差異を判定する必要がある。このため、正常な締結状態での締結箇所の振動特性、つまり正常値を予め取得した上で、締結箇所の現在の締結状態を計測することが求められる。これらの計測は、例えば新規物件であれば据付後の現場調整期間、既設物件であれば定期点検時の空き時間などの限られた時間内に行う必要がある。
【0004】
また、電源設備の盤の内部には、遮断器、変成器、分岐母線、電力ケーブルなどが配置されており、加振器や振動検知器などの必要機器を取り付けるスペースに制限があり、必要機器の取り付けが困難な場合も生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5674935号公報
【特許文献2】特許第4377765号公報
【特許文献3】特許第3560830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、着脱が容易で短い計測時間で電源設備における異常の発生有無を精度よく診断可能な電源設備の異常診断装置、および該異常診断装置を用いた異常診断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の異常診断装置は、筐体と、前記筐体に所定の固定箇所で固定されて電流を負荷に供給する導体とを備えた電源設備の異常を診断する。前記異常診断装置は、加振部と計測部とを備える。前記加振部は、前記導体に振動を与える。前記計測部は、前記加振部が前記導体に与えた前記振動の特性を示す値を計測する。前記加振部および前記計測部は、前記固定箇所もしくは当該固定箇所の近傍に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る異常診断装置の概略的な構成を示すブロック図。
【
図2】第1の実施形態に係る電源設備の異常を診断する際における異常診断装置の構成を概略的に示す図。
【
図3】第1の実施形態に係る異常診断装置において、加振部で発生させた振動の加速度の正常時と異常時の時間遷移を示す図。
【
図4】第2の実施形態に係る異常診断装置の概略的な構成を示すブロック図。
【
図5】第2の実施形態に係る電源設備の異常を診断する際における異常診断装置の構成を概略的に示す図。
【
図6】第2の実施形態に係る加振計測部の概略的な構成例を示す模式図。
【
図7】第2の実施形態に係る加振計測部の変形例の概略的な構成例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る電源設備の異常診断装置および電源設備の異常診断方法について、
図1から
図7を参照して説明する。電源設備は、少なくとも一つの盤を備えている。各々の盤は、筐体によって外部から隔てられた空間内に遮断器、断路器、変流器、変圧器、導体などが配置されて構成されている。電源設備は、異常時には遮断器などを作動させて通電を遮断し、例えば電力の配送電系統における電路の保護、電力の制御、設備の監視などを行う。電源設備は、導体を介して負荷に電力を供給する。電力が供給される負荷は、例えば工場設備やビル設備などである。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る異常診断装置1の概略的な構成を示すブロック図である。
図1に示すように、異常診断装置1は、主たる要素として、加振部2、計測部3、通信部4、出力部5、制御部6を備えている。異常診断装置1は、電源設備の診断対象箇所における異常の発生有無を診断する。診断対象箇所は、例えば導体同士がボルトで締結された締結箇所(以下、ボルト締結部という)などである。異常診断装置1は、ボルト締結部における該ボルトの緩みの有無を診断する。
【0011】
加振部2は、電源設備の導体に振動を与える。加振部2は、かかる導体に振動を与えることが可能であればその構成は特に限定されない。本実施形態では一例として、電動アクチュエータを備えた励振器などの自動的に振動を発生させる手段を加振部2に適用する。ただし、加振部2は、ハンマーなどの人手による振動発生手段であってもよい。
【0012】
計測部3は、加振部2が与えた振動の特性を示す値を計測する。振動特性は、加振部2が与えた振動が伝達される際の特性であり、例えば振動の加速度、速度、振幅、振動数、変位などである。本実施形態では一例として、圧電素子やひずみゲージなどの接触型の加速度センサを計測部3に適用する。したがって、計測部3は、加振部2が与えた振動の加速度の値を、振動特性を示す値として計測する。ただし、計測部3は、静電容量や渦電流を計測する非接触型の変位センサなどであってもよい。
【0013】
通信部4は、例えば通信ネットワークを介して外部の通信装置と通信可能に接続するための通信制御装置や通信モジュールなどである。通信部4は、外部の通信機器と有線もしくは無線により通信し、データの送受信を行う。
【0014】
出力部5は、電源設備における異常の発生有無の診断情報、具体的には導体同士のボルト締結部における該ボルトの緩みの有無などの診断状況や診断結果などを出力する。出力部5としては、例えば表示灯、モニタ、パネル、スピーカ、あるいはこれらの組み合わせなどを適用可能である。これにより、出力部5は、表示灯の点灯(点滅)、通知音や警告音の鳴動、通知メッセージや警告メッセージの再生や表示などを行うことで、ユーザに対して診断結果の周知徹底や注意喚起などを図る。ユーザは、例えば電源設備の据え付け、保守、点検などを行う作業員である。
【0015】
制御部6は、CPU、記憶装置(不揮発メモリ)、メモリ、入出力回路、タイマなどを含み、加振部2、計測部3、通信部4、出力部5の動作を制御し、異常診断装置1において異常診断処理を実行する。制御部6は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、サーバなどの情報処理装置として構成される。制御部6は、加振部2、計測部3、通信部4、出力部5と有線もしくは無線により接続されている。制御部6の記憶装置は、加振部2、計測部3、通信部4、出力部5が行う処理に必要なプログラムや各種情報(データ)を適宜記憶する。例えば、記憶装置には、ボルト締結部において該ボルトが適正な締付トルクで締結されている状態で、加振部2が与えた振動によって生じた導体の振動の特性を示す振動の加速度の計測値、つまり正常値が記憶されている。かかる正常値は、後述する電源設備の異常診断時にパラメータとしてメモリに読み出される。
【0016】
制御部6は、異常診断装置1の起動、停止、稼働制御などを行う。そのため、制御部6は、メモリに読み出されたプログラムやファームウェアを実行するとともに、これらの実行に必要な各種情報(データ)を加振部2、計測部3、通信部4、出力部5から取得する。取得した情報に応じて所定の演算処理(異常診断処理)を実行することで、制御部6は、電源設備における異常の発生有無、具体的には導体同士のボルト締結部における該ボルトの緩みの有無の診断を行う。
【0017】
制御部6は、診断情報生成部61と、診断部62を有する。診断情報生成部61および診断部62は、例えばプログラムとして記憶装置に記憶されており、記憶装置からメモリに読み出されて実行される。
【0018】
診断情報生成部61は、計測部3が計測した振動特性、つまり加振部2が与えた振動によって導体に生じた振動の特性を示す振動加速度の計測値に基づいて診断情報を生成する。診断情報生成部61は、例えば加振部2の近傍と、該近傍から離れた別の箇所でそれぞれ計測された振動加速度などに応じて減衰率(減衰比)を算出する。
【0019】
診断部62は、診断情報生成部61が生成した診断情報に応じて、電源設備における異常の発生有無、具体的には導体同士のボルト締結部における該ボルトの緩みの有無を診断する。診断にあたって、診断部62は、診断情報生成部61が生成した診断情報、一例として振動加速度の減衰率を所定の閾値と比較する。例えば、かかる減衰率が所定の閾値以上である場合、診断部62は、ボルト締結部においてボルトの緩みが発生しており、該ボルトが適正な締付トルクで締め付けられていないと診断できる。したがってこの場合、電源設備に異常が発生していると診断される。これに対し、かかる減衰率が所定の閾値未満である場合、診断部62は、ボルト締結部においてボルトの緩みは発生しておらず、該ボルトが適正な締付トルクで締め付けられていると診断できる。したがってこの場合、電源設備に異常が発生していないと診断される。
【0020】
このような異常診断装置1において、電源設備の異常を診断する際には、加振部2および計測部3がそれぞれ所定箇所に取り付けられる。取り付けられた加振部2および計測部3は、電源設備の異常診断終了後に取り外される。すなわち、加振部2および計測部3は、適宜着脱可能とされている。
【0021】
図2は、電源設備10の異常を診断する際における異常診断装置1の構成を概略的に示す図である。
図2に示すように、電源設備10において、導体11は、筐体12の棚板にボルト13a,13bで固定されている。ボルト13a,13bは、固定部材14a,14bを介して筐体12の棚板に締結されている。固定部材14a,14bは、碍子などの絶縁部材である。固定部材14a,14bは、ボルト13a,13bの軸部134のうち、導体11を突き抜けた部分を覆っている。導体11は、例えば電気の良導体である銅、比抵抗の小さいアルミニウムなどで構成され、所定方向に延びた扁平の形状をなしている。所定方向(導体11が延びる方向)は、例えば水平方向や鉛直方向、あるいはこれらに対して傾いた方向であり、電源設備10が複数の盤を備えている場合には当該盤の配列方向(
図2においては左右方向)などである。
【0022】
図2に示す例では、所定方向に沿って二本の導体11a,11bが配置されている。これらの導体11a,11bは、締結部材で締結されて電気的に接続されている。図示例では、二本の導体11a,11b、つまり所定方向に隣り合う導体11a,11b同士がボルト13cとナット15aによって締結されている。すなわち、各々の導体11a,11bは、固定部材14a,14bを介してボルト13a,13bで筐体12の棚板にそれぞれ固定されるとともに、互いにボルト13cで締結されて電気的に接続されている。ボルト13cとナット15aの間には、ワッシャ16aが介在している。ボルト13a,13b,13cおよびナット15aは締結部材の一例(ボルト13cは第1の締結部材、ボルト13a,13bは第2の締結部材)であり、締結部材はこれらに限定されない。
【0023】
加振部2および計測部3a,3bは、導体11a,11bが筐体12に締結部材であるボルト13a,13bで固定された固定箇所Pa,Pbもしくはその近傍に配置されていればよい。固定箇所Pa,Pbは、ボルト締結部20aを挟んで導体11a,11bが筐体12にボルト13a,13bで固定された各々の箇所である。換言すれば、導体11a,11bは、筐体12に固定された固定箇所Pa,Pbを有している。固定箇所Pa,Pbの近傍は、該固定箇所Pa,Pbから所定距離の範囲内に含まれる領域である。所定距離は、例えば固定箇所Pa,Pb間の間隔(
図2に示す距離D)の10%以内の距離範囲である。この場合、固定箇所Pa,Pb間の距離Dは、導体11a,11bが延びる上述した所定方向におけるボルト13a,13bの軸心間の最短距離である。
【0024】
図2に示す例において、加振部2はボルト13aに配置されている。計測部3aはボルト13aに配置され、計測部3bはボルト13bに配置されている。
図2に示す例では、これらの加振部2および計測部3a,3bにより、導体11aと導体11bのボルト13cによる締結箇所(ボルト締結部)20aの振動特性が計測される。計測部3aは、ボルト締結部20aを挟んで加振部2による加振側(振動の入力側)で振動特性を計測する。計測部3bは、ボルト締結部20aを挟んで加振部2による加振側とは反対側(振動の出力側)で振動特性を計測する。
【0025】
加振部2、計測部3a,3bおよびボルト13a,13bは、少なくとも互いに対する配置部分(互いに接触する部分)が磁性体とされている。磁性体は、磁性を帯び得る物質、端的には磁石と吸着可能な物質である。例えば、加振部2および計測部3a,3bは、ボルト13a,13bと接触する部分が鉄系の素材で形成されていればよい。また、ボルト13a,13bは、全体が鉄系の素材で形成されていてもよいし、全体もしくはボルトヘッドに鉄系の素材でめっきなどの表面加工が施されていてもよい。
【0026】
加振部2は、磁石17aでボルト13aに取り付けられている。計測部3aは、磁石17bでボルト13aに取り付けられている。計測部3bは、磁石17cでボルト13bに取り付けられている。すなわち、加振部2および計測部3a,3bは、導体11a,11bが筐体12にボルト13a,13bで固定された固定箇所Pa,Pbに磁石17a,17b,17cで配置されている。これにより、加振部2および計測部3a,3bの固定箇所Pa,Pb、端的にはボルト13a,13bに対する着脱が容易になる。加振部2と磁石17a、計測部3aと磁石17b、計測部3bと磁石17cは、それぞれ一体的な取り回しが可能となるように、予め一体化されている。これらは、例えば接着剤や両面テープでの接合、あるいはねじによる結合などにより一体化されていればよい。
【0027】
図2に示す例では、加振部2および計測部3a,3bは、固定箇所Pa,Pbに当たるボルト13a,13bに取り付けられているが、ボルト13a,13bの近傍に取り付けられていてもよい。ボルト13a,13bの近傍は、例えば該ボルト13a,13bから距離Dの10%以内の範囲である。加振部2および計測部3a,3bをボルト13a,13bの近傍に磁石17a,17b,17cで取り付ける場合、以下のような対応を取ればよい。例えば、導体11a,11bが鉄などの磁性体である場合、該導体11a,11bのボルト13a,13bの近傍に磁石17a,17b,17cを介して加振部2および計測部3a,3bを取り付ければよい。一方、導体11a,11bが銅やアルミニウムなどの非磁性体である場合、例えば該導体11a,11bのボルト13a,13bの近傍に磁性板を貼り付け、あるいは該近傍に磁性体の被膜を形成し、磁石配置部分(磁石取付部位)を磁性体とすればよい。これにより、導体11a,11bのボルト13a,13bの近傍に加振部2および計測部3a,3bを磁石17a,17b,17cで取り付けることが可能となる。また、
図2に示す例では、加振部2が磁石17aで、計測部3aが磁石17bで、それぞれボルト13aに取り付けられているが、加振部2および計測部3aがまとめて一つの磁石でボルト13aに取り付けられていてもよい。
【0028】
さらに、
図2に示す例では、加振部2および計測部3a,3bは、ボルト13a,13bのボルトヘッド131の端面(
図2においては上面)132に取り付けられているが、取付箇所はこれに限定されない。例えば、加振部2や計測部3a,3bは、ボルト13a,13bのボルトヘッド131の側面133に取り付けられていてもよい。また、例えばボルト13a,13bの軸部134の先端135が固定部材14a,14bから露出されている場合、あるいは固定部材14a,14bが存在しない場合など、軸部134や該軸部134の先端135に加振部2や計測部3a,3bが取り付けられていてもよい。
【0029】
このように加振部2および計測部3a,3bがボルト13a,13bに取り付けられた状態で、加振部2を動作させて導体11a,11bに振動を与え、ボルト締結部20aの前後、つまり振動の入力側と出力側における該振動の振動特性を計測部3a,3bでそれぞれ計測する。そして、計測部3a,3bでの計測値に基づいて、制御部6(診断情報生成部61および診断部62)で電源設備10の異常、具体的にはボルト13cの緩みの有無が診断される。診断後は、加振部2および計測部3a,3bがボルト13a,13bから取り外される。
【0030】
加振部2により生じた振動は、ボルト13aから導体11aを伝ってボルト締結部20aを通過し、導体11bを伝ってボルト13bに到達する。かかる振動は、このように導体11a、ボルト締結部20a、導体11bを伝わる過程で徐々に減衰していく。かかる振動の振動特性、例えば加速度は、ボルト13aに配置された計測部3a、およびボルト13bに配置された計測部3bでそれぞれ計測される。例えば、ボルト締結部20aにおいて、ボルト13cが適正な締付トルクで締結されていない状態、つまりボルト13cが緩んでいる状態(異常時)であると、導体11a,11b同士を押し付ける圧力(接触圧力)が低下する。接触圧力が低下すると、導体11aから導体11bへの振動の伝達が阻害される。その結果、異常時において計測部3bで計測される振動の加速度は、ボルト13cが適正な締付トルクで締結されている状態(正常時)と比べてさらに低下する。
【0031】
したがって、計測部3aと計測部3bでの振動の加速度の差分が正常状態の差分(上述した正常値の差分)と比べて所定の閾値よりも大きければ、ボルト13cに緩みが生じていると診断することが可能である。すなわちこの場合、電源設備10に異常が生じているおそれがあると判定可能となる。逆に、計測部3aと計測部3bでの振動の加速度の差分が正常状態の差分と比べて所定の閾値以下であれば、端的には正常状態の差分とほぼ一致していれば、ボルト13cに緩みが生じていないと診断することが可能である。すなわちこの場合、電源設備10に異常が生じているおそれは低い、つまり電源設備10は正常であると判定可能となる。かかる閾値は、正常値とともに制御部6の記憶装置に記憶され、ボルト13cの緩みの有無の診断時にパラメータとして読み出される。ここでの正常値は、例えばボルト締結部20aにおいてボルト13cが適正な締付トルクで締結されている状態で、加振部2が与えた振動によって生じた導体11a,11bの振動の特性を示す振動の加速度の計測値である。
【0032】
図3は、加振部20で発生させた振動の加速度の正常時と異常時の時間遷移を示す図である。
図3における縦軸は振動の加速度、横軸は時間である。
図3において、破線は正常時における振動加速度の時間遷移、実線は異常時における振動加速度の時間遷移をそれぞれ示す。
図3に示すように、矢印A1で示す加振タイミングで入力された振動は、時間経過とともに、ボルト締結部20aを通過する。ボルト13cが緩んでいる異常時には、ボルト13cが適正な締付トルクで締結されている正常時と比べて、振動が該ボルト13cを含むボルト締結部20aを通過する際に減衰し、矢印A2で示すように加速度が低下する。したがって、正常時の振動加速度の値(正常値)に対する振動加速度の計測値の変動を捉えることで、つまり両者の差分を閾値と比較することで、ボルト13cの緩みを検知できる。
【0033】
ここで、一般的なボルトの緩みに起因したボルト締結部における過熱現象の一例について説明する。例えば、二本の導体をボルトで締結した場合、適正な締付トルクでボルトが締結されていれば、該導体の接触抵抗は数μΩ程度で安定する。しかしながら、ボルトの締付不良や振動などによる緩みの発生で、導体間の接触圧力が低下すると、導体間の接触点が減少し、電流が集中することによって発熱が生じる。発熱によって導体の金属表面の酸化が進行すると、両者の接触抵抗が増していく。そして、例えば導体の温度が200℃を超えた辺りから導体金属の軟化による反りも起こり始め、この場合にはさらに導体間の接触抵抗が増大する。導体間の接触抵抗が数百μΩを超えたところで、通電経路が本来の導体間ではなくボルトに集中し、該ボルトが過熱して溶損に至る場合がある。このため、ボルト締結部の過熱を検知することは重要である。
【0034】
本実施形態では、固定部材14a,14bを介して筐体12の棚板に締結されたボルト13a,13bに加振部2および計測部3が配置されている。例えば、かかる締結箇所から離れた導体11の外面などに加振部2や計測部3などが配置された場合、当該配置箇所における振動の加速度や振幅などが大きくなりやすく、構造によって生じ得る計測結果の誤差が大きくなるおそれがある。この場合、計測値の解釈が難しくなり、異常診断の精度が低下しやすい。したがって、本実施形態のように加振部2および計測部3をボルト13a,13b、換言すれば導体11a,11bの筐体12に対する固定箇所Pa,Pbに配置することで、計測値の誤差を最小限に止められる。これにより、計測値の解釈を容易とし、異常診断の精度を高めることが可能となる。
【0035】
ボルト締結部の過熱検知方法としては、例えば、無線通信型温度センサ、臭発生具と臭検知器からなる異常過熱検出装置などを設け、設置箇所の温度が所定値を超えたときに異常が検知される方法などが知られている。これらの方法では、所定の検知装置を電源設備内に予め設置しておかなければならず、手間がかかり作業性が悪いだけでなく、検知装置の設置スペースも確保しなければならない。
【0036】
これに対し、本実施形態によれば、加振部2および計測部3を磁石17a,17b,17cで簡単にボルト13a,13bに対して着脱可能である。したがって、例えば加振部2および計測部3の接着剤による接合やねじ止めなどの固定作業は不要となる。また、加振部2および計測部3をボルト13a,13bもしくはその近傍に取り付けることで、電源設備内に配置された例えば遮断器、変成器、分岐母線、電力ケーブルなどを避け、加振部2および計測部3を取り付けるためのスペースを確保しやすい。このため、加振部2および計測部3を取り付ける際の作業性を高めることができる。これにより、振動特性を計測するために要する時間を短縮でき、電源設備10における異常発生の有無の診断を効率化できる。
【0037】
上述した第1の実施形態では、振動の入力側において加振部2と計測部3aは互いに独立した別体として構成されている。これらの加振部2と計測部3aは一体化された一つの部材として構成されていてもよい。以下、このように加振部2と計測部3aが一体化された実施形態を第2の実施形態として説明する。
【0038】
(第2の実施形態)
図4および
図5には、第2の実施形態に係る異常診断装置100を示す。
図4は、本実施形態に係る異常診断装置1の概略的な構成を示すブロック図である。
図5は、本実施形態に係る電源設備10の異常を診断する際における異常診断装置100を概略的に示す図である。なお、第2の実施形態において、異常診断装置100の基本的な構成は、
図1および
図2に示す第1の実施形態に係る異常診断装置1と同様である。このため、第2の実施形態において、異常診断装置1と同一もしくは類似する異常診断装置100の各構成要素については、
図1および
図2に示す異常診断装置1の構成要素と同一符号を用いて説明を省略する。
【0039】
図4に示すように、異常診断装置100は、
図1に示す異常診断装置1と同様に、主たる要素として、計測部3、通信部4、出力部5、制御部6を備えている。加えて、異常診断装置100は、加振部2に代えて後述する加振計測部7を備えている。
図5に示すように、電源設備10において、導体11は、筐体12の棚板にボルト13a,13b,13dで固定されている。ボルト13a,13b,13dは、固定部材14a,14b,14cを介して筐体12の棚板に締結されている。固定部材14a,14b,14cは、碍子などの絶縁部材である。
【0040】
図5に示す例においては、二本の導体11a,11b、つまり隣り合う導体11a,11b同士がボルト13cとナット15aによって締結されて電気的に接続されている。さらに、二本の導体11b,11c、つまり隣り合う導体11b,11c同士がボルト13eとナット15bによって締結されて電気的に接続されている。すなわち、三本の導体11a,11b,11cが二本のボルト13c,13eで締結されて一連をなし、電気的に接続されている。換言すれば、各々の導体11a,11b,11cは、ボルト13a,13b,13dで筐体12の棚板にそれぞれ固定されるとともに、互いにボルト13c,13eで締結されて電気的に接続されている。ボルト13cとナット15aの間にはワッシャ16aが介在し、ボルト13eとナット15bの間にはワッシャ16bが介在している。ボルト13a~13eおよびナット15a,15bは締結部材の一例(ボルト13c,3eは第1の締結部材、ボルト13a,13b,13dは第2の締結部材)であり、締結部材はこれらに限定されない。
【0041】
また、
図5に示す例においては、振動の入力側と出力側との間に複数(二つ)のボルト締結部20a,20bが含まれている。ボルト締結部20aは、導体11a,11bのボルト13cによる締結箇所である。ボルト締結部20bは、導体11b,11cのボルト13eによる締結箇所である。異常診断装置100は、これら二つのボルト締結部20a,20bにおける異常の有無、具体的にはボルト13c,13eの緩みの有無を診断する。
【0042】
ボルト締結部20aを挟んで振動の出力側に当たるボルト13bには、計測部3bが配置されている。計測部3bは、ボルト締結部20aにおける振動特性を計測する。また、ボルト締結部20bを挟んで振動の出力側に当たるボルト13dには、計測部3cが配置されている。計測部3cは、ボルト締結部20bにおける振動特性を計測する。計測部3bは、磁石17cでボルト13bに取り付けられている。計測部3cは、磁石17dでボルト13dに取り付けられている。すなわち、計測部3b,3cは、導体11b,11cが筐体12にボルト13b,13cで固定された固定箇所Pb,Pcに磁石17c,17dで配置されている。これにより、計測部3b,3cのボルト13b,13dに対する着脱が容易になる。計測部3bと磁石17c、計測部3cと磁石17dは、それぞれ一体的な取り回しが可能となるように、予め一体化されている。これらは、例えば接着剤や両面テープでの接合、あるいはねじによる結合などにより一体化されていればよい。なお、計測部3b,3cは、ボルト13b,13dの近傍に取り付けられていてもよい。
【0043】
ボルト締結部20a,20bを挟んで振動の入力側に当たるボルト13aには、加振計測部7が配置されている。加振計測部7は、導体11に振動を与える加振器71と、加振器71が与えた振動の特性を示す値を計測する計測器72が一体化された部材である。すなわち、加振計測部7によれば、加振器71と計測器72とを一体的に取り回すことが可能となる。加振器71は、第1の実施形態に係る異常診断装置1の加振部2と同等の機能を果たす要素である。計測器72は、異常診断装置1の計測部3aと同等の機能を果たす要素であり、異常診断装置100における複数の計測部のうちの一つに相当する。
【0044】
加振計測部7は、加振器71および計測器72に加えて、磁石73を有している。加振計測部7は、磁石73でボルト13aに取り付けられている。すなわち、加振計測部7は、導体11aが筐体12にボルト13aで固定された固定箇所Paに磁石73で配置されている。これにより、加振計測部7のボルト13aに対する着脱が容易になる。なお、加振計測部7は、ボルト13aの近傍に取り付けられていてもよい。
【0045】
このように、加振器71は、ボルト締結部20aで締結される一方の導体11aの固定箇所Paにおけるボルト13aもしくはボルト13aの近傍に配置される。計測器72は、加振器71と同じ固定箇所Paにおけるボルト13aもしくはボルト13aの近傍に配置される。計測部3b,3cは、導体11aとはボルト締結部20aを挟んで反対側に位置する導体11b,11cの固定箇所Pb,Pcにおけるボルト13b,13dもしくはボルト13b,13dの近傍に配置される。
【0046】
図6は、加振計測部7の概略的な構成例を示す模式図である。
図6に示すように、加振計測部7は、主たる要素として、加振器71と、計測器72と、磁石73と、ストッパ74と、筐体75とを備えて構成されている。加振器71、計測器72、磁石73、およびストッパ74は、筐体75に収容されている。
【0047】
加振器71は、例えばスピーカ機構により振動を発生させる要素であり、スピーカ固定部71a、スピーカ可動部71b、および振動板71cを有している。
スピーカ固定部71aは、加振器71において筐体75に固定される部分、換言すれば筐体75に対する静止部分である。スピーカ固定部71aは、例えば内部にボイスコイルや磁石など(図示省略)を有している。スピーカ可動部71bは、加振器71において可動自在な部分であり、スピーカ固定部71aに結合されて該スピーカ固定部71aに対して振動する。振動板71cは、スピーカ可動部71bと連動する板材であり、スピーカ可動部71bと同期して振動する。これにより、振動板71cを介して導体11に対して振動が入力可能とされている。振動板71cは、平板状をなしており、主たる面のうちの一面(以下、第1面という)71dがスピーカ可動部71bと固着している。
【0048】
計測器72は、例えば圧電素子やひずみゲージなどの接触型の加速度センサであり、振動板71cに配置される。
図6に示す例では、計測器72は、振動板71cの第1面71dに固定されている。これにより、計測器72は、振動板71cに生じた振動の特性、換言すれば加振器71が導体11に与えた振動の特性を示す値を計測する。
【0049】
磁石73は、加振計測部7を例えばボルト13aに取り付け可能な磁力を有しており、振動板71cの第2面71eに固定されている。第2面71eは、振動板71cの第1面71dと反対側を向く面部であり、ボルト13aに対する加振計測部7の取付側を向く面部に当たる。振動板71cの第2面71eに固定された状態において、磁石73の一部は、筐体75から露出され、ボルト13aのボルトヘッド131の端面132に着脱される。
【0050】
ストッパ74は、異常診断装置100でのボルト締結部20a,20bの異常の有無、具体的にはボルト13c,13eの緩みの有無の診断が終了時、加振計測部7をボルト13aから取り外す際に振動板71cの動きを規制する。加振計測部7をボルト13aから取り外す際には、筐体75が把持されて加振計測部7の全体が引き上げられる。この場合、スピーカ固定部71aは、筐体75に固定されているため、筐体75とともに引き上げられる。一方、振動板71cは、磁石73によってボルト13aに取り付けられているため、そのままの状態を維持しようとする。このため、振動板71cとスピーカ可動部71bとの固着に抗して両者を離間させる方向の力が磁石73の磁力によって生じ、振動板71cやスピーカ可動部71bを損傷させるおそれがある。
【0051】
ストッパ74は、筐体75が把持されて加振計測部7の全体がボルト13aに対して引き上げられる際、筐体75とともにその位置が上方へずれ、振動板71cと接触する。このため、振動板71cもスピーカ固定部71aおよび筐体75とともに引き上げられる。その結果、振動板71cとスピーカ可動部71bとの固着に抗して両者を離間させる方向の力の発生が抑止される。したがって、ストッパ74を備えることで、振動板71cやスピーカ可動部71bの損傷を抑え、これらを保護できる。
【0052】
このように加振器71、計測器72、および磁石73を一体化させて加振計測部7を構成することで、加振器71および計測器72をまとめて磁石73でボルト13aもしくはその近傍に取り付けることができる。したがって、その際の作業性をさらに高めることができる。
【0053】
なお、
図7に示す加振計測部7a(加振計測部7の変形例)のように、
図6に示す加振計測部7における筐体75およびストッパ74を省略することも可能である。加振計測部7aは、加振計測部7と同様に、筐体75およびストッパ74以外の加振器71、計測器72、磁石73を備えて構成されている。
【0054】
上述したように、
図5に示す例においては、振動の入力側と出力側との間に二つのボルト締結部20a,20bが含まれている。そして、加振計測部7、計測部3b,3cが上述のように取り付けられた状態で加振計測部7の加振器71を動作させて振動を生じさせ、ボルト締結部20a,20bの前後、つまり振動の入力側と出力側における該振動の振動特性を計測器72、計測部3b,3cでそれぞれ計測する。
【0055】
加振器71により生じた振動は、ボルト13aから導体11aを伝ってボルト締結部20aを通過し、導体11bを伝ってボルト13bに到達する。さらに、かかる振動は、ボルト13bから導体11bを伝ってボルト締結部20bを通過し、導体11cを伝ってボルト13dに到達する。かかる振動は、このように導体11a、ボルト締結部20a、導体11b、ボルト締結部20b、導体11cを伝わる過程で徐々に減衰していく。かかる振動の振動特性、例えば加速度は、ボルト13aに配置された計測器72、ボルト13bに配置された計測部3b、およびボルト13dに配置された計測部3cでそれぞれ計測される。すなわち、計測部3bではボルト締結部20aにおけるボルト13cの締結状態(換言すれば緩み状態)が計測される。これに対し、計測部3cではボルト締結部20aにおけるボルト13cの締結状態に加えて、ボルト締結部20bにおけるボルト13eの締結状態(換言すれば緩み状態)が計測される。
【0056】
したがって、例えばボルト締結部20a,20bにおいてボルト13c,13eがいずれも適正な締付トルクで締結された状態(正常時)である場合、計測器72と計測部3b,3cでの振動の加速度の差分はいずれも、正常状態の差分とほぼ一致する。
【0057】
しかしながら、例えばボルト締結部20aにおいて、ボルト13cが適正な締付トルクで締結されていない状態、つまりボルト13cが緩んでいる状態(異常時)である場合、計測器72と計測部3bでの振動の加速度の差分が正常状態の差分と比べて所定の閾値よりも大きくなる。またこの場合、ボルト締結部20bにおいて、ボルト13eが適正な締付トルクで締結されている状態、つまりボルト13eが緩んでいない状態(正常時)であれば、計測器72と計測部3cでの振動の加速度の差分が正常状態の差分と比べて所定の閾値よりも大きくなる。
【0058】
これに対し、例えばボルト締結部20aにおいてボルト13cが適正な締付トルクで締結された状態(正常時)であり、ボルト締結部20bにおいてボルト13eが適正な締付トルクで締結されていない状態、つまりボルト13eが緩んでいる状態(異常時)である場合、計測器72と計測部3cでの振動の加速度の差分のみが正常状態の差分と比べて所定の閾値よりも大きくなる。
【0059】
以上を踏まえれば、各々のボルト締結部20a,20bに対応して計測部3b,3cをそれぞれ適宜配置することで、これらのボルト締結部20a,20bのいずれのボルト13c,13eに緩みが生じているのかを特定することが可能となる。すなわち、複数のボルト締結部が存在していた場合であっても、計測部を順次ずらして配置することで、いずれのボルト締結部のボルトに緩みが生じているのかを特定可能となる。
【0060】
その際、加振計測部7(加振器71、計測器72)、および計測部3b,3cを磁石73,17c,17dで簡単にボルト13a,13b,13dに着脱可能である。このため、加振計測部7(加振器71、計測器72)、および計測部3b,3cをボルト13a,13b,13dもしくはその近傍に取り付ける際の作業性を高めることができる。その結果、第1の実施形態と同様に、振動特性を計測するために要する時間を短縮でき、電源設備10における異常発生の有無の診断の効率化を図ることができる。
【0061】
一般的に、電源設備においては、例えば接続される機器の種類、電源容量、運用条件などの制約によって設計が異なることから、導体の構成や構造についても多岐にわたることが多い。したがって、異常診断の対象となる電源設備ごとに正常状態での振動特性を予め計測して取得する必要がある。電源設備は、通常複数の盤から構成されており、導体の盤への固定、盤間での接続、各種機器への接続などのため、ボルトによる導体の締結部(ボルト締結部)が複数個所存在している。これらのボルトの締結状態を確認把握する上では、複数のボルト締結部におけるボルトの締結状態をそれぞれ計測する必要がある。このため、ボルト締結部、つまり振動の計測箇所が増えるほど、その計測時間は長くなりやすい。
【0062】
この点、本実施形態によれば、加振計測部7(加振器71、計測器72)および計測部3b,3cを磁石73,17c,17dで簡単にボルト13a,13b,13dに着脱可能である。すなわち、ボルト締結部が複数存在している場合であっても、加振計測部7および計測部3b,3cを容易に取り付けることができ、異常が生じているボルト締結部、つまり緩みの生じているボルトを特定しやすい。結果として、電源設備の異常診断の作業時間を短縮できる。
【0063】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、上述した各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1,100…異常診断装置、2…加振部、3,3a,3b,3c…計測部、4…通信部、5…出力部、6…制御部、7,7a…加振計測部、10…電源設備、11,11a,11b,11c…導体、12…筐体、13a,13b,13c,13d,13e…ボルト、14a,14b,14c…固定部材、15a,15b…ナット、16a,16b…ワッシャ、17a,17b,17c,17d…磁石、20a,20b…ボルト締結部、61…診断情報生成部、62…診断部、71…加振器、71a…スピーカ固定部、71b…スピーカ可動部、71c…振動板、72…計測器、73…磁石、73a…露出部分、74…ストッパ、75…筐体、131…ボルトヘッド、132…ボルトヘッドの端面、133…ボルトヘッドの側面、134…ボルトの軸部、135…ボルトの軸部の先端、D…固定箇所間の距離、Pa,Pb,Pc…固定箇所。